2018年2月18日

2018年2月18日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • バベンチオも肺癌試験がフェール 
  • MSD、BACE1阻害剤のアルツハイマー病試験がまたフェール 
  • バイオジェン、アルツハイマー病試験の組入れ拡大を発表 
  • Agios、FDAがIDH1阻害剤のNDAを受理 
  • アミカス社、FDAがmigalastatのNDAを受理 
  • ファイザー、新規ALK阻害剤を承認申請 
  • リツキサン、尋常性天疱瘡に適応拡大申請 
  • ヴァーテックス、嚢胞性線維症の新薬が米国で承認 
  • FDAが第二世代アンドロゲン受容体阻害剤を承認 
  • FDA、アストラゼネカの抗PD-L1抗体の適応を追加 


【新薬開発】


バベンチオも肺癌試験がフェール
(2018年2月15日発表)

ドイツのメルクとファイザーは、両社が共同開発販売している抗PD-L1完全ヒト化抗体、Bavencio(avelumab、和名バベンチオ)の第三相末期非小細胞性肺癌試験がフェールしたと発表した。PD-L1陽性サブグループの全生存期間をdocetaxel群と比較したが、ハザードレシオは0.90、p=0.1627に留まった。

抗PD-1/PD-L1抗体の臨床試験の注目点の一つは効果とPD-L1発現の関連性だ。本試験では、中高度発現(50%以上で発現、被験者の約4割)サブグループのハザードレシオは0.67、p=0.0052、著高発現(80%以上)サブグループではハザードレシオ0.59だった。主評価項目がフェールしたのでこれらは探索的解析に過ぎず、また、他の抗PD-1/PD-L1抗体のデータは一筋縄ではいかなかったため即断は危険だが、更に探求する余地はありそうだ。

尚、標準療法と同程度なのだから悪くないと思う人もいるかもしれないが、この試験はあくまで優越性検証試験であり、同程度であることを証明するためにはもっと大規模で厳格な試験が必要だ。

対照群は癌が進行した後にBavencioのようなチェックポイント阻害剤による治療を受けた患者の比率が26.4%と、Bavencio群の5.7%や過去のdocetaxelの臨床試験より高く、三次治療の違いが結果に影響した可能性がある。

このJAVELIN Lung 200試験は盲検ではないので、BMS/小野薬品のOpdivo(nivolumab)などが承認されている国では、docetaxel群に割り付けられた患者が早めに進行認定を受けてOpdivoにスイッチするようなことがあったかもしれない。被験者は命が懸かっているのだから。二次治療の施行期間は決して長くないので三次治療でも効果は大差ないかもしれない。

Bavencioは非小細胞性肺癌の一次治療試験も進行中。当初の計画ではPFS(無進行生存期間)を主評価項目として17年にもデータベース・ロックの予定だったが、Opdivoの類似した試験のフェールが発表された後に全生存期間を共同主評価項目とする変更を行い、目標症例数が増えたため、開票が2019年に遅れることとなった。薬の効果は一次治療試験のほうがハッキリと出るだろうが、後治療でチェックポイント阻害剤を使うノイズが再び撹乱要因になるかもしれない。

リンク: 両社のプレスリリース

MSD、BACE1阻害剤のアルツハイマー病試験がまたフェール
(2018年2月13日発表)

MSDは、MK-8931(verubecestat)の第三相前駆アルツハイマー病試験を中止すると発表した。データ監視委員会が中間解析で無益性を認定したため。

MK-8931は09年に買収したシェリング・プラウがライガンド・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:LGND)との共同研究を通じて創製したBACE1阻害剤。一年前には軽中度アルツハイマー病の第2/3相試験が無益性で打ち切りになった。今回の試験は、PET検査でアミロイド蓄積が確認された患者だけを組入れてCDR-SBを主評価項目とする、最近の試験の典型的なデザインを採用している。

周到な臨床開発を行うことで定評のあるMSDが、過去に第三相がフェールした他社の開発品よりプロファイルの良いBACE阻害剤として満を持して第三相入りさせたコンパウンドなので、BACE阻害剤全体の評価に影響がありそうだ。

リンク: MSDのプレスリリース

バイオジェン、アルツハイマー病試験の組入れ拡大を発表
(2018年2月15日発表)

バイオジェンは、投資銀行主催のヘルスケア・カンファレンスで、BIIB037(aducanumab)の第三相試験の目標症例数を二本合計で510人追加することを明らかにした。MK-8931のフェールが発表された直後であることや、元々懐疑的な意見が珍しくなかったことなどから、株価が7%急落したが、悪材料と呼ぶほどではないように感じられる。

BIIB037はアミロイドベータの立体配座エピトープを標的とするIgG1型完全ヒト化抗体で、07年にスイスのNeurimmune社からインライセンスした。エーザイ提携の対象で、日本でも先駆け審査指定されている。

第三相は早期アルツハイマー病(アルツハイマー性軽度認知障害や軽度アルツハイマー病)の患者二本合計2700人を組入れて78週間治療し、CDR-SBの変化を偽薬群と比較するもの。事前に計画された検出力再評価の結果、データのばらつきが前提より大きいことが判明。検出力を90%に維持するためには症例数を増やす必要が生じた。

第三相のような仮説検証試験は、前提に誤りがあると検出力不足だけの理由でフェールしてしまうリスクがある。この誤りは臨床的に重要である場合も、誰も気にしない程度の違いに過ぎない場合もありうる。従って、今回の発表を悪材料と呼ぶのは不適切だろう。

私自身は、BIIB037でも、他のコンパウンドでも、アルツハイマー病試験が成功するといいな...でも多分フェールするんだろうな...と思っている。

リンク: Bloombergの報道


【承認申請】


Agios、FDAがIDH1阻害剤のNDAを受理
(2018年2月15日発表)

Agios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)は、FDAがAG-120(ivosidenib)の承認申請を受理し、優先審査指定したと発表した。審査期限は8月21日。IDH1(イソクエン酸脱水素酵素1)を阻害する経口剤で、IDH1変異を持つ再発性難治性AML(急性骨髄性白血病)の治療に用いる。エビデンスとなる第一相試験では、CR(完全反応)率が21.6%、CRh(血液学的反応が部分的であること以外は完全反応)を含めると30.4%だった。

Agiosは2010年以来、セルジーン(Nasdaq:CELG)と癌代謝領域で戦略的協業を行っており、最初の成果であるIDH2阻害剤、Idhifa(enasidenib)は昨年8月にIDH2変異型再発性難治性AMLの治療薬としてFDAに承認された。一方、AG-120はセルジーン提携の対象ではない。

IDH2型はAMLの8~19%、IDH1型は6~10%を占めるとのこと。AMLは様々なタイプの寄せ集めで、今後も特定のサブタイプに適した治療手段が開発されていくだろう。新薬が高価であることは人類の不幸だが、希少疾患に関しては、もし高い値段で売ることができなかったら製薬会社は開発を諦めざるを得ないだろう。私たちとしては、Idhifaのような薬が続々と誕生することを望むばかりである。

リンク: Agiosのプレスリリース

アミカス社、FDAがmigalastatのNDAを受理
(2018年2月12日発表)

アミカス・セラピュティクス(Nasdaq:FOLD)は、FDAがmigalastatの承認申請を受理し優先審査指定したことを発表した。審査期限は8月13日。欧州では16年5月に承認。日本でも昨年6月に承認申請され、3月1日に薬食審・医薬品第一部会で審議される予定。

「がんばれ!!小さき命(いのち)たちよ」と言えば神奈川県立こども医療センターの新生児科部長、豊島先生のブログだが、「小さな命が呼ぶとき」という映画のモデルになったのが、アミカス社のCEOであるJohn Crowleyだ。ポンぺ病の娘さんのためにBMSを退職し、有望なアイディアを持つ研究者を発見し、臨床開発に必要な巨額の資金を集め、遂にMyozyme(alglucosidase alfa)の実用化に成功した。

Myozymeは酵素補充療法なので点滴静注が必要だが、05年にCEOに就任したアミカスは、ファーマスーティカル・シャペロンという不思議な現象を利用した経口治療薬を開発している。遺伝子変異が原因で翻訳後装飾時の折り畳みが上手く行かず、立体構造が違うせいで本来の機能が果たせないタンパクを、小分子薬で補正するもので、最初に第三相に進んだのがmigalastatだ。

ファブリー病の治療薬で、アルファ・ガラクトシダーゼAのGLA遺伝子変異のうち、amenable mutationと呼ばれる269種類に効果がある。患者の35~50%が該当するようだ。

開発は順調ではなかった。07年に共同開発提携したシャイアも、10年提携のGSKも、去った。欧州はバイオマーカーに基づいて薬効を認定したが、FDAは認めず、胃腸症状改善効果を検討する第三相を実施中だ。

流れが変わったように感じられたのがトランプ大統領の登場だ。昨年2月の施政方針演説でCrowley父娘と面談したことに言及し、患者が有望な新薬を早く使えるようFDA改革を行うと宣言した。16年にSarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)のExondys 51(eteplirsen)がデュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬として承認された頃から顕在化した、臨床的な効用が曖昧でもバイオマーカーが改善するなら承認する事例が、昨年は増加したように感じられる。

アミカスの場合も、FDAが承認申請に前向きな姿勢を示したのは昨年7月なので、やはり、トランプ効果なのだろう。

リンク: アミカスのプレスリリース

ファイザー、新規ALK阻害剤を承認申請
(2018年2月12日発表)

ファイザーは、PF-06463922(lorlatinib)を承認申請しFDAに受理されたと発表した。優先審査で、審査期限は今年8月とだけ公表された。前後して日本や欧州でも承認申請済み。

ALK/ROS1チロシンキナーゼ阻害剤で、ALK活性化変異を持つ非小細胞性肺癌で他のALK阻害剤による治療歴を持つ患者に用いる。第二相試験では、同社のXalkori(crizotinib、和名ザーコリ)歴を持つ患者の7割弱が反応した。第三相は、変異ALK陽性非小細胞性肺癌の一次治療Xalkori対照試験が進行中。Xalkoriはファースト・イン・クラスだったが今日では競合が増えたため、PF-06463922も差別化が課題だろう。

リンク: ファイザーのプレスリリース

リツキサン、尋常性天疱瘡に適応拡大申請
(2018年2月14日発表)

ロシュは、Rituxan(rituximab、欧州名MabThera、和名リツキサン)を尋常性天疱瘡の一次治療に用いる適応拡大を米国で申請し、受理されたと発表した。10万人に3人の希少疾患で、希少疾患用薬指定とブレークスルー・セラピー指定を受けており、今回、優先審査指定された。

承認申請の根拠となるPEMPHIX試験では、24ヶ月の治療で46人中89%が完全緩解した。prednisoneだけによる治療を行った群は34%に留まった。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認】


ヴァーテックス、嚢胞性線維症の新薬が米国で承認
(2018年2月13日発表)

米国でヴァーテックス・ファーマスーティカルズ(Nasdaq:VRTX)のSymdekoが嚢胞性線維症治療薬として承認された。病理に係るCFTR遺伝子変異のうち、F508欠乏のホモ接合型や、ヘテロでももう一つの遺伝子の変異がSymdekoに応答するタイプ(27種類)である場合に、適応になる。

CFTR蛋白チャネルの開口時間を長期化するCFTRポテンシエイターで12年に商品化されたKalydeco(ivacaftor)の活性成分と、CFTR蛋白が細胞表面に移行するのを助ける新開発のCFTRコレクター、tezacaftorの合剤で、朝はこの合剤、夕方はivacaftorだけを経口投与する。

第三相試験では、ホモ接合型では予測一秒量が絶対値で偽薬比4ポイント程度改善した。ヘテロは変異型によりかなり異なる。報道によると、WAC(問屋取得価格)は年29万ドル程度とのこと。

同社は患者支援団体とともに治療薬の開発を進め、変異型毎に様々な単剤、合剤を商品化することに成功した。まだ全ての患者には対応できていないが、VX-561とCTP-656の併用などパイプラインは豊富なので、マス目が着々と埋まっていくだろう。

リンク: ヴァーテックスのプレスリリース

FDAが第二世代アンドロゲン受容体阻害剤を承認
(2018年2月14日発表)

ジョンソンエンドジョンソンのErleada(apalutamide)が米国で承認された。審査期限は4月なので2ヶ月早かった。FDAによると二つの初がある。まず、適応症。前立腺癌でアンドロゲン枯渇療法を受けている患者のうち、まだ転移はしていないがPSA値が急上昇し始めた段階の、「非転移性去勢抵抗性」前立腺癌に用いる薬が承認されたのは初。

次に、薬効のエビデンス。第三相試験の主評価項目は無転移生存期間で、メジアン40.5ヶ月、偽薬群は16.2ヶ月、ハザードレシオは0.28だった。副次的評価項目である全生存期間の解析はまだ中間解析に留まっている。無転移生存期間に基づく承認は前立腺癌では初。

ファイザー/アステラスのXtandi(enzalutamide、和名イクスタンジ)を創製した医学者が第二世代品としてリリースしたアンドロゲン受容体阻害剤で、bicalutamideと異なり、状況によってはアゴニストとして作用してしまうことがない。240mgのカプセルを一日一回、服用する。

Xtandiも同様な内容の試験で同様な成績を上げている。この用途での承認はErleadaが先行したが、前立腺癌用薬としての発売は6年遅れなので、競争条件は決して良くないだろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: JNJのプレスリリース(pdfファイル)

FDA、アストラゼネカの抗PD-L1抗体の適応を追加
(2018年2月16日発表)

FDAは、アストラゼネカのImfinzi(durvalumab)を切除不能非小細胞性肺癌の一次治療後維持療法として承認した。ステージIIIで、白金ベースの化学療法と放射線療法に反応・疾病安定化した患者に用いる。PD-L1発現は不問。日米欧などで実施された第三相試験では、中間解析でメジアンPFSが16.8ヶ月と偽薬群の5.6ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.52、統計的に有意だった。

Imfinziは抗PD-L1完全ヒト化抗体。17年に局所進行性/転移性尿路上皮細胞腫の二次治療薬として米国で承認された。肺癌は抗CTLA-4ヒト化抗体(BMSのYervoyと類似)併用試験のPFS解析がフェール。まだ全生存の解析が残っているが前途に雲が掛かっていた。ステージIII切除不能は非小細胞性肺癌の1~2割を占め、対象患者数が多く、維持療法の承認は初なので、朗報だ。抗PD-1/PD-L1抗体は数が多いので独自の適応を持つことは重要。

リンク: FDAのプレスリリース




今週は以上です。

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