2017年12月24日

2017年12月24日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • タシグナのレーベルに止め時が記載 
  • エーザイ/バイオジェン、中間解析は何もなし 
  • セルジーン、レブラミドのリンパ腫試験がフェール 
  • 新種の分子標的抗癌剤が承認申請 
  • AlnylamもhATTRアミロイドーシス治療薬を欧州申請 
  • ノバルティス、braf阻害剤とMEK阻害剤を黒色腫アジュバント用に適応拡大申請 
  • 参天のブドウ膜炎治療薬は審査完了に 
  • FDAがSpark社の遺伝子療法を承認 
  • FDA、アンジオテンシンIIを承認 
  • 新作用機序の緑内障用薬が米国で承認 
  • またまたSGLT2阻害剤が承認 
  • オプジーボ、黒色腫切除後アジュバント療法に適応拡大 
  • パージェタ、高リスク限定で乳癌切除後アジュバントに適応拡大 
  • ボシュリフ、一次治療に適応拡大承認 
  • アレセンサ、欧州でも一次治療承認 
  • ICSにLABAを併用しても支障はない 


【今週の話題】


タシグナのレーベルに止め時が記載
(2017年12月22日発表)

医薬品は使い方によって毒にも薬にもなるので何時、どのような患者にどのように投与するか、使い方に関する情報が極めて重要だ。もう一つ、治癒する疾患以外は止め時も重要なはずだが、教えてくれる人はいない。製薬会社にとっては患者が服用し続けるほうが都合がよいからだろう。

患者が少なく大きな需要は期待できなくても価格を高くすれば開発費を回収できる。腫瘍学でこの命題を証明したのがノバルティスの慢性骨髄性白血病(CML)薬、Gleevec(imatinib、和名グリベック)だ。ノバルティスによると、当時のCEOで妹を白血病で失ったDaniel Vasellaが開発部門の反対を押し切って開発を進めた。発売当時は私も大きな期待はしていなかったが、米国でCMLによる死亡者が減少するなど大きな成果を上げ、年商も超大型化した。

問題は、高価な薬をいつまで飲み続けなければならないのか、分からないことだ。研究者主導で様々な研究が行われたが、遂に、ノバルティスがGleevecの次に発売したTasigna(nilotinib、和名タシグナ)で、止め方に関する情報が米国のレーベルに記載された。

慢性期CMLで3年間治療を続け、所定の成果を上げた患者は服用を止めることができる。但し、定期的に検査を受ける必要がある。臨床試験では、止めた患者の1年無再発率は5割前後だった。

答えが自分に都合が良かろうが悪かろうが、情報があること自体が重要だが、それはそれとして、半々となると悩ましい。再発リスクと金銭や副作用面の負担を天秤にかけて当否を判断することになるのだろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ノバルティスのプレスリリース

【新薬開発】


エーザイ/バイオジェン、中間解析は何もなし
(2017年12月21日発表)

エーザイとバイオジェンは、BAN2401の後期第二相早期アルツハイマー病試験の中間解析が行われが成功認定基準は満たされなかったと発表した。最終解析結果は来年後半にまとまる見込み。アルツハイマー病試験は成功確率が低いので、失望的だが意外感は小さい。

BAN2401はプロトフィブリルを標的とするヒト化モノクローナル抗体。脳細胞に悪影響を与えるのはアミロイドベータモノマーではなく可溶性アミロイドベータプロトフィブリルだという研究成果に立脚する。スエーデンのバイオアークティック・ニューロサイエンス社からエーザイが開発販売権を取得。バイオジェンはエーザイと複数のアルツハイマー病パイプラインを共同開発している。

今回の試験は、アルツハイマー性軽度認知障害または軽度アルツハイマー病の患者856人をBAN2401の5種類の用量用法に割付けて症状改善効果を検討するもの。アダプティブ・デザインが採用されており、途中で成績をチェックして良い群の割付けを増やしていく。二重盲検を維持しなければならないので、評価・割付けはスポンサーや医療従事者には知らせないはずである。

中間解析はADCOMSという新しい評価スケールを用いてベイジアン解析を行った。ADCOMSは、アルツハイマー病の代表的な病状評価スケールであるADAS-cog、CDR-SB、MMSEの構成項目の中から、感受性の高いものを過去の治験データに基づいて発掘し組み合わせたもの。後ろ向き研究なので、今回の前向き試験で仮説の妥当性を検証することになるだろう。アダプティブ・デザインやADCOMSの採用で、臨床試験に必要な症例数や期間を2~3割削減する狙いがあるようだ。

ベイジアン解析は、AとBを単純に比較するのではなく、違いが一定以上であるという仮説を検証する。通常の解析は、治療効果が小さくてもサンプル数を多くすれば統計的に有意という結論を導くことができる。治験論文の読者は、統計的には有意だが臨床的には無意と呟くことしかできない。ベイジアン解析なら、臨床的に意味のあるハードルを設定することができる。今回の試験では12ヶ月間のADCOMSの悪化が偽薬比25%以上小さいという仮説が真であるベイズ確率が80%以上なら成功、とされた。

最終解析はADCOMSやCDR-SBなどの18ヶ月間の変化を評価する。

アミロイド仮説に基づくコンパウンドの臨床試験は、ほとんど壊滅状態と言って良い状態だ。物事が上手く行かない時は勝負する戦域以外ではリスクを取らないのが賢明だ。局面を複雑にすると失敗した時に敗因が明確にならないからだ。今回の試験も、オーソドックスなデザインを採用すべきではなかったか、というのが私の感想だ。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: 201試験の治験登録
リンク: ADCOMSに関する論文(Wangら、J Neurol Neurosurg Psychiatry、オープンアクセス)

セルジーン、レブラミドのリンパ腫試験がフェール
(2017年12月21日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)のRevlimid(lenalidomide、和名レブラミド)を濾胞性リンパ腫の一次治療併用療法に用いる第三相試験、RELEVANCEがフェールしたことが発表された。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の維持療法試験もフェールしており、どうも芳しくない。偽薬対照試験も行われているので結果が注目される。

今回の試験は、Rituxan(rituximab)と併用する効果をR-CHOPなどの標準療法と比較したもの。共同主評価項目である寛解率(CR/CRu)も進行抑制延命効果(PFS)もフェールした。但し、少なくとも、標準療法より有意に劣ってはいなかった。

Revlimidはサリドマイドと同様にIMiDs(免疫調停薬)と呼ばれる抗癌剤で、多発骨髄腫や骨髄異形成症候群、マントル細胞リンパ腫に承認されている。

リンク: セルジーンのプレスリリース

【承認申請】


新種の分子標的抗癌剤が承認申請
(2017年12月20日発表)

Loxo Oncology(Nasdaq:LOXO)は、米国でLOXO-101(larotrectinib)のローリング承認申請を開始した。ニューロンの制御などに係るTRK(tropomyosin receptor kinase)を阻害する経口剤で、適応は、レガンドの刺激なしで活性化するNTRK融合蛋白陽性の成人・小児がん。米国の癌の0.5~1%、1500~5000人が該当するとのことだ。

発生部位は特定されていないが、臨床試験では唾液腺癌、幼児線維肉腫、甲状腺腫、結腸癌、肺癌、黒色腫、紡錘細胞肉腫、胆管癌、筋周皮腫などの患者が比較的多かった。NTRK融合蛋白陽性率が比較的高いのは唾液腺癌や分泌乳癌。

臨床試験ではORR(客観的反応率)が76%、うち完全反応12%、部分反応64%だった。小児試験ではORRが93%。有害事象は神経認知性副作用や好中球減少症、悪心、肝機能検査値異常など。

Loxoは先月、バイエルとの提携を発表した。頭金4億ドル、承認に係る達成報奨金が6.5億ドル、米国外の売上高に係る達成報奨金が5億ドル、開発費は折半という大きなもので、バイエルは米国で共同販促、海外は単独販売する。

リンク: Loxoのプレスリリース

AlnylamもhATTRアミロイドーシス治療薬を欧州申請
(2017年12月18日発表)

Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)とサノフィ子会社であるジェンザイムは、ALN-TTR02(patisiran)を遺伝性トランスサイレチン調停アミロイドーシス(hATTR)の治療薬として欧州で承認申請したと発表した。加速審査を受けることが既に決まっている。米国でも今月、ローリング承認申請が完了。日本でもジェンザイムが申請準備中。

hATTRはトランスサイレチンの遺伝子に変異があり組織に沈着して神経細胞などにダメージを与える。罹患者は世界に5万人と推測されている。ALN-TTR02はトランスサイレチン遺伝子のmRNAを標的とするsiRNA(RNA介入)薬で、発現を妨げる。第三相試験では神経症状評価スコアやQOLが改善し、偽薬群の悪化と対称的な結果になった。

リンク: 両社のプレスリリース

ノバルティス、braf阻害剤とMEK阻害剤を黒色腫アジュバント用に適応拡大申請
(2017年12月22日発表)

ノバルティスは、Tafinlar(dabrafenib)とMekinist(trametinib)の二剤を併用で黒色腫の切除後アジュバント療法に用いる適応拡大を米国で承認申請し、受理されたと発表した。優先審査を受ける。審査期限は公表されていない。

夫々braf阻害剤とMEK1/2阻害剤で、転移性黒色腫などに併用することが承認されている。適応拡大の根拠となる第三相試験では、BRAF V600変異を持つステージIIIの黒色腫を完全切除した患者を組入れて再発予防効果を検討したところ、再発または死亡のハザードレシオが0.47と偽薬群より有意にリスクを削減した。全生存期間のハザードレシオも0.57、p=0.0006と、アルファの配布が小さく有意水準には達しなかったものの、数値的には良好な結果になった。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

【承認審査・委員会】


参天のブドウ膜炎治療薬は審査完了に
(2017年12月21日発表)

参天製薬はDE-109(sirolimus)を非感染性後眼部ブドウ膜炎治療薬として欧米で承認申請していたが、FDAから審査完了通知を受領した。有効性の裏付けが不十分と判定された模様だ。欧州も昨年5月に否定的評価を受け、申請撤回となった。当時のCHMPのリリースによると、単群試験で示された薬効が不明確であり、また、生産工程における減菌方法に懸念がある。

リンク: 参天のプレスリリース(pdfファイル)

【承認】


FDAがSpark社の遺伝子療法を承認
(2017年12月19日発表)

FDAは、Spark Therapeutics(Nasdaq:ONCE)のLuxturna(voretigene neparvovec-rzyl)を両アレル性のRPE65変異関連網膜ジストロフィーの治療薬として承認した。患者に直接投与する遺伝子療法としては初。米国の一部の医療施設で来年、治療が開始される予定。欧州でも承認審査中。難病で治療やケアの費用が嵩むことから、100万ドルと著しく高い価格が付けられる見込み。

両アレルRPE65変異関連網膜ジストロフィーは、光を電気信号に変える過程に係るRPE65蛋白に変異があり、視力が弱い。米国の推定患者数は1000~2000人。Luxturnaは増殖能を持たないアデノ随伴ウイルスにRPE65の遺伝子を組入れた遺伝子療法で、1.5x10の11乗vg(ベクターゲノム)を片目ずつ、網膜下注射する。

臨床試験では、暗い部屋で矢印などに従って歩行する能力が偽薬比有意に改善した。評価方法が新しく治療効果は1.6点程度であったため諮問委員会が招集されたが、委員は臨床的に重要な差と判定した。

Sparkは希少小児疾患優先審査バウチャーを獲得する。患者が少ないため大きな売上を見込み難い希少小児疾患用薬の開発を促進するための制度で、次回承認申請する時に優先審査を受けることができる。転売も可能で、3.5億ドルの値が付いたこともあるが、最近は1.3億ドル程度が相場のように見える。

同社はフィラデルフィア小児病院(CHOP)の遺伝子治療研究を商業化するため2013年に設立された会社。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Sparkのプレスリリース

FDA、アンジオテンシンIIを承認
(2017年12月21日発表)

FDAは、La Jolla Pharmaceutical Company(Nasdaq:LJPC)のGiapreza(angiotensin II)を敗血症などの血液分布異常性ショックの治療薬として承認した。エピネフィリンやカテコラミンに十分に反応しない患者の三次治療に用いる。

La Jollaによると、米国では血液分布異常性ショックが年80万件発生し、うち30万件が三次治療の対象になるとのこと。審査期限が来年2月末であったためか、発売は来年3月の予定。

La Jollaは2000年代に全身性エリテマトーデス腎症用薬の開発がフェールし、会社清算に向けて株主総会を招集したり、逆合併を画策したりしたこともあったが、何とか立ち直ることが出来そうだ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: La Jollaのプレスリリース

新作用機序の緑内障用薬が米国で承認
(2017年12月18日発表)

Aerie Pharmaceuticals(Nasdaq:AERI)は、FDAがRhopressa(netarsdil mesylate)を緑内障治療薬として承認したと発表した。点眼用Rhoキナーゼ阻害剤で、小柱網による眼房水排出を促進する。臨床試験では一日二回投与もテストしたが忍容性があまり良くなかったため一日一回だけが実用化された。眼圧が26mmHg以上の患者は、代表的な緑内障降圧剤であるtimololを一日二回投与するのと比べて効果が不十分になる。

latanoprost配合剤のRoclatanも開発中で米国では18年に承認申請する計画。

リンク: Aerieのプレスリリース

またまたSGLT2阻害剤が承認
(2017年12月22日発表)

MSDとファイザーは、FDAがSteglatro(ertugliflozin)を二型糖尿病治療薬として承認したと発表した。SGLT2阻害剤で血液中のグルコースを尿とともに排出させる。metformin配合剤やMSDのDPP4阻害剤であるsitagliptin配合剤も同時に承認された。

同じ作用機序の製品が既に数多く存在し今更の感があるが、MSDはsitagliptinの販売チャネルを生かせる強みがある。SGLT2阻害剤とDPP4阻害剤の合剤は米国で初。元々はファイザーのパイプラインだが、MSDが利益の6割を得る形で開発販売提携(日本は除く)を結んだ。

リンク: MSDのプレスリリース

オプジーボ、黒色腫切除後アジュバント療法に適応拡大
(2017年12月20日発表)

BMSのOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)を黒色腫完全切除後のアジュバント(再発予防)に用いる適応拡大が米国で承認された。リンパ節転移が適応になる。238試験のエビデンスに基づくもので、18ヶ月後のRFS(無再発生存率)が66.4%と、既承認薬であるYervoy(ipilimumab)の52.7%を有意に上回リ、ハザードレシオは0.65(95%信頼区間0.53-0.80)だった。

リンク: BMSのプレスリリース

パージェタ、高リスク限定で乳癌切除後アジュバントに適応拡大
(2017年12月21日発表)

ロシュは、FDAがPerjeta(pertuzumab、和名パージェタ)をher2陽性早期乳癌の切除後アジュバント療法として化学療法やHerceptin(trastuzumab)と併用する適応拡大を承認したと発表した。リンパ節転移やホルモン受容体陰性などの高リスク患者が適応になる。

エビデンスであるAPHINITY試験では、侵襲的乳癌再発・死亡のハザードレシオが0.81(95%信頼区間0.66-1.00)、p=0.045とギリギリ有意だった。3年無再発生存率は94.1%対93.2%と1ポイント改善するだけで物足りない。サブグループ分析ではリンパ節転移ありのハザードレシオが0.77、なしは1.13、ホルモン受容体陰性は0.76、陽性は0.86だったため、高リスク患者限定となった。

リンク: ロシュのプレスリリース

ボシュリフ、一次治療に適応拡大
(2017年12月19日発表)

ファイザーは、Bosulif(bosutinib、和名ボシュリフ)を慢性骨髄性白血病の一次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。臨床試験で12ヶ月時点のMMR(分子遺伝学的大寛解)達成率が47.2%と、同じsrc/abl阻害剤で一次治療薬として承認されているimatinibの36.9%を有意に上回った。再発治療は500mgを一日一回、経口投与するが、一次治療は400mg一日一回。

Bosulifはファイザーが買収したワイスの開発品。一次治療適応拡大は臨床試験の資金拠出や実施も含めてAvillion社にアウトソースしており、承認に伴い達成報奨金を支払う。

リンク: ファイザーのプレスリリース

アレセンサ、欧州でも一次治療承認
(2017年12月21日発表)

ロシュは、Alecensa(alectinib、和名アレセンサ)をALK陽性局所進行性・転移性非小細胞性肺癌の一次治療に用いる適応拡大がEUに承認されたと発表した。中外製薬が創製したALK阻害剤で、ファースト・イン・クラスであるファイザーのXalkori(crizotinib)の次に使う薬としてデビューしたが、日本で実施された一次治療直接比較試験が成功、今回の承認につながった。米国では11月に適応拡大承認。

リンク: ロシュのプレスリリース

【医薬品の安全性】


ICSにLABAを併用しても支障はない
(2017年12月20日発表)

FDAは、喘息症の代表的な発作予防法である吸入ステロイド(ICS)と長期作用性ベータ2作用剤(LABA)の併用療法に関して、喘息関連死リスクに関する枠付き警告を解除すると発表した。ICSだけより発作予防効果が高いものの、いざ発生したら症状が重く死亡リスクも高まるのではないかという懸念があったが、メーカーが実施した大規模試験により、懸念が払拭された。

具体的には、4本の試験合計35000人規模のメタアナリシスで、深刻な喘息関連イベント(死亡、気管挿管、入院)の発生数が併用群は116例、ICS単剤群は105例、ハザードレシオ1.10(95%信頼区間0.85-1.44)で、数値上は上回りリスクが1.43倍である可能性は否定されていないものの、有意に上回ってはいなかった。個々のイベントでは、入院が115例対105例、死亡が2例対ゼロ、気管挿管が1例対2例だった。

ICS/LABA併用が喘息のステップアップセラピーの一つとして普及する中、あたかも都市伝説であるかのように忘れ去られつつあった長年の懸案事項が解決した。いつものことながら、FDAの粘り強さには敬服する。

リンク: FDAの安全性情報







今週は以上です。

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2017年12月17日

2017年12月17日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • シャイアー、ロシュの血友病薬を特許侵害で提訴 
  • ASH:bcl-2阻害剤併用がCLLに好成績 
  • ASH:ロシュのCD79b標的ADCがリンパ腫に好成績 
  • ロシュ、テセントリクとアバスチンの腎癌試験成功 
  • キイトルーダ、胃癌実薬対照試験がフェール 
  • イーライリリー、片頭痛予防薬を承認申請 
  • リジェネロンも抗PD-1抗体の承認申請を開始 
  • BMS、腎癌のオプジーボ・ヤーボイ併用療法を承認申請 
  • MSD、キイトルーダをPMBCLに適応拡大申請 
  • CHMP、武田や協和発酵などの新薬に肯定的意見 
  • ヌーカラ、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症に適応拡大 
  • ゼルヤンツ、乾癬性関節炎に適応拡大 


【今週の話題】


シャイアー、ロシュの血友病薬を特許侵害で提訴
(2017年12月14日発表)

英国のシャイアー社は、11月に米国でA型血友病の出血予防薬として承認されたHemlibra(emicizumab)がシャイアーの'590特許を侵害するとしてジェネンテックと中外製薬を提訴するとともに、販売を禁じる予備的差止め命令の申立てを行った。

薬は命や健康に係るのでもし特許侵害が認められてもロイヤルティ支払いなど金銭的賠償で和解するのが通例だが、可能性としてはジェネンテックが販売できなくなる事態も考えられる。このため、シャイアーは患者に対する影響を熟慮した上での決断と釈明している。

シャイアーは、裁判所の決定が出るのは来年夏ごろと予想しているようだ。同社が指摘するように、それまでは直接的な影響はないが、混乱を避けるためにHemlibraを使うのを先送りするようなことは十分に考えられる。

リンク: シャイアーのプレスリリース

【新薬開発】


ASH:bcl-2阻害剤併用がCLLに好成績
(2017年12月12日発表)

ロシュは、Venclexta(venetoclax、欧州名Venclyxto)の第三相CLL(慢性リンパ性白血病)試験の結果をASH(米国血液学会)で発表した。良好な内容で、ロシュは適応追加申請する予定。

2~4次治療を受ける患者を組入れて標準治療の一つであるRituxan(rituximab)とbendamustineの併用群とRituxanとVenclextaの併用群のPFS(無進行生存期間)を比較したところ、ハザードレシオが0.17(95%信頼区間0.11-0.25)と大きく改善した。メジアン値は標準療法群が17.0ヶ月、試験薬群は未達。

全生存期間の解析は未成熟で有意性は持たない模様だが、ハザードレシオ0.48(95%信頼区間0.25-0.90)なので問題はない。G3/4有害事象は白血球減少症が増加したが熱性のものは二剤併用より少なかった。

Venclextaはジェネンテックとアッヴィが共同開発した選択的bcl-2阻害剤。16年に欧米で再発難治性CLLのモノセラピーとして承認された。米国は二社が共同で、海外はアッヴィが販売する。

リンク: ロシュのプレスリリース

ASH:ロシュのCD79b標的ADCがリンパ腫に好成績
(2017年12月10日発表)

ロシュは、RG7596/DCDS4501A(polatuzumab vedotin)の第二相試験の結果もASHで発表した。再発難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫で造血幹細胞移植に適さない患者を組入れて、標準療法の一つであるRituxanとbendamustineの併用と、更にRG7596も使うトリプルセラピーを比較したところ、完全反応率が各15%と40%、p=0.012となった。

全生存期間の探索的解析も、ハザードレシオ0.35(95%信頼区間0.19-0.67)、メジアンは各4.7ヶ月と11.8ヶ月と順調なもの。G3/4の有害事象は熱性白血球減少症など骨髄抑制が増加した。

B細胞性リンパ腫に特異的に発現するCD79bに結合するADC(抗体薬物複合体)で、B細胞受容体と共にインターナライズして細胞内でMMAE細胞毒を放出する。シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)の技術を用いて開発したもの。上記の用途・用法で米国ではブレークスルー・セラピー指定、EUでもPRIME指定を受けている。

11月に第三相入りした。CD20陽性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の一次治療を受ける患者を組入れて、標準的な5剤併用療法であるR-CHOPと、R-CHOPのvincristineに代えてRG7596を併用するレジメンのPFSを比較する。2021年にデータベースロックの見込み。

リンク: ロシュのプレスリリース

ロシュ、テセントリクとアバスチンの腎癌試験成功
(2017年12月11日発表)

ロシュは、局所進行性転移性腎細胞腫の一次治療第三相試験であるIMmotion151試験のPFS解析が成功したと発表した。データは今後、学会発表の予定。適応拡大申請に向かうのではないか。

抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)と抗VEGF抗体Avastin(bevacizumab、和名アバスチン)の併用を標準療法であるファイザーのSutent(sunitinib)と比較したところ、主評価項目の一つであるPD-L1陽性サブグループのPFSが有意に延長した由。もう一つの主評価項目である全ユニバースの全生存期間はデータが未成熟とのこと。

Avastinはインターフェロン・アルファと併用で腎癌一次治療に承認されている。メジアンPFSは10.2ヶ月とインターフェロン・アルファだけの群の5.4ヶ月を上回り、ORR(客観的反応率)も30%対12%で上回った。後述のようにBMSのOpdivoを使うレジメンもSutentを大きく上回った。151試験のデータが発表された段階で見比べることになる。

リンク: ロシュのプレスリリース

キイトルーダ、胃癌実薬対照試験がフェール
(2017年12月14日発表)

MSDは、抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)の第三相061試験がフェールしたことを発表した。PD-L1陽性胃癌の二次治療における延命効果をpaclitaxelと比較したが、全生存ハザードレシオは0.82(95%信頼区間0.66-1.03)と惜しくも届かなかった。共同主評価項目であるPFSもフェールした由。

Keytrudaは9月に米国でPD-L1陽性胃癌の三次治療薬として承認されたが、薬効のエビデンスは第二相試験のORR(客観的反応率)なので頑強ではない。061試験が補強的裏付けになることが期待されたが駄目だった。一次治療試験も進行中なのでこちらに期待することになる。

抗PD-1/PD-L1抗体は様々な癌の臨床試験が行われているが、球数が増えれば当りだけでなく外れも増える。百発百中の特効薬ならともかく、効く効かないの境界線はあやふやなので、ちょっとの違いでボールがアウトと判定されてしまう。Keytrudaは頭頚部癌でも薬効確認試験の一つがフェール。Tecentriqは最初の適応である膀胱癌の薬効確認試験がフェールした。BMSのOpdivoの肺癌試験がフェールしたことも大変意外だった。これからも七転び八起きで進んで行くのだろう。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認申請】


イーライリリー、片頭痛予防薬を承認申請
(2017年12月11日発表)

イーライリリーは、LY2951742(galcanezumab)を片頭痛予防薬として米国で承認申請し受理されたと発表した。CGRP(calcitonin gene-related peptide)を中和する抗体医薬で、月一回皮注。第三相試験では、月間の片頭痛日数が偽薬比2日前後、少なかった。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

リジェネロンも抗PD-1抗体の承認申請を開始
(2017年12月13日発表)

リジェネロン(Nasdaq:REGN)とサノフィは、米国でREGN2810(cemiplimab)のローリング承認申請を開始した。抗PD-1抗体で、適応は局所進行性転移性皮膚扁平上皮腫。承認されている薬はなく、ブレークスルー・セラピー指定を受けている。薬効のエビデンスは第二相試験で、独立委員会査読による客観的反応率(ORR)が46.3%だった。

リンク: サノフィのプレスリリース

BMS、腎癌のオプジーボ・ヤーボイ併用療法を承認申請
(2017年12月13日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)とYervoy(ipilimumab、和名ヤーボイ)を併用で局所進行性転移性腎細胞腫の一次治療に用いる適応拡大を承認申請し受理されたと発表した。審査期限は来年4月16日。

214試験に基づくもので、ORRが41.6%と標準療法であるSutent(sunitinib)を投与した群の26.5%を有意に上回り、反応持続期間も上回った。一方、共同主評価項目であるPFSの解析はメジアン11.6ヶ月対8.4ヶ月、ハザードレシオ0.82(95%信頼区間0.64-1.05)で、有意ではなかった。

この試験は中間全生存解析データに基づいてデータ監視委員会が成功認定した。中重度リスク・サブグループのハザードレシオは0.63、全ユニバースでも0.68となっており、PFSと整合性に欠けるものの、もしどちらも正しいのだとしたら、重視すべきは全生存期間だろう。

リンク: BMSのプレスリリース

MSD、キイトルーダをPMBCLに適応拡大申請
(2017年12月11日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab)を再発難治性PMBCL(原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫)に用いる適応拡大をFDAに申請し、受理されたと発表した。審査期限は来年4月3日。

薬効のエビデンスは同種幹細胞移植歴を持つ、あるいは不適な患者29人を組入れた小規模な第二相試験。第三者委員会査読によるORRが41%(完全反応24%)で、ブレークスルー・セラピー指定された。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認審査・委員会】


CHMP、武田や協和発酵などの新薬に肯定的意見
(2017年12月15日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、12月の会議で、以下の新薬に肯定的意見をまとめた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認される見込み。

リンク: EMAのプレスリリース

Alofisel(darvadstrocel、開発コードCx601)はベルギーのTiGenix(Euronext Brussels:TIG)が開発した脂肪由来の幹細胞療法。幹細胞療法として初承認となる見込み。非・軽度活性期管腔クローン病の成人の、複雑肛囲瘻の二次治療に用いる。第三相試験では寛解率が50%と、偽薬群の34%を有意に上回った。作用機序はリンパ球の増殖や炎症促進的サイトカインの放出の抑制と考えられている。主な有害事象は膿瘍、瘻孔、肛門周囲痛、処置痛など。

欧州など米国外のこの用途での開発販売権は武田薬品が保有している。米国での承認申請は、今年ロンチされた別の第三相試験の結果を待って行う考え。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: 両社のプレスリリース(pdfファイル)

Crysvita(burosumab、開発コードKRN23)は協和発酵キリンがUltragenyx Ph'cal(Nasdaq:RARE)と共同開発した抗FGF23完全ヒト化モノクローナル抗体。X染色体遺伝性低リン血症で、骨疾患の放射線学的裏付けのある筋骨格成長期の1歳以上の青少年に用いる。成人の第三相も行われたはずだが、承認された適応は限定的だ。

条件付き承認で、薬効や安全性を確認するため3本の追加試験を実施して2020年までにEMAに提出する。

リンク: EMAのプレスリリース

ノボ ノルディスクのOzempic(semaglutide)は週一回投与型GLP-1作用剤。二型糖尿病の血糖治療に用いる。体重も低下する。心血管アウトカム試験で良い成績を上げた。経口剤も開発中。米国では今月、承認された。日本は今月の第一部会に上程されたが継続審議となった。

リンク: ノボのプレスリリース

英国のDiurnal Group(AIM:DNL)のAlkindi(hydrocortisone)は幼小児や青年の原発性副腎機能不全の治療に用いる。活性成分は50年前から成人青年患者の治療に用いられている。幼児には錠剤を破砕して投与するが、用量が不安定で苦みが出るため飲み残しの心配もある。Alkindiは顆粒でカプセルを開けて量を調整することもできるため便利。

特別に小児用に開発された、特許保護を受けられない医薬品を対象とするPUMAという制度が適用され、10年間の独占権が与えられる。来年下期に発売される見込み。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Diurnal社のプレスリリース

適応拡大では、イーライリリーの中重度乾癬治療薬、Taltz(ixekizumab)を乾癬性関節炎の治療に用いることが支持された。DMARDs(疾病装飾的抗リウマチ薬)に十分に反応しない、あるいは不耐の活性期患者に用いる。

リンク: EMAのプレスリリース


【承認】


ヌーカラ、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症に適応拡大
(2017年12月12日発表)

FDAはグラクソ・スミスクラインのNucala(mepolizumab、和名ヌーカラ)を難治性EGPA(好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、旧称チャーグ・ストラウス症候群)の治療に用いる適応拡大を承認した。EGPAはしばしば成人になってから好酸球増多型喘息症を発症するので既存の適応である好酸球増多型の喘息症と似ている。臨床試験では24週寛解率が28%と偽薬群の3%を上回った。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: GSKのプレスリリース

ゼルヤンツ、乾癬性関節炎に適応拡大
(2017年12月14日発表)

ファイザーは、FDAがXeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)を中重度乾癬性関節炎に適応拡大したと発表した。DMARDs(疾病装飾的抗リウマチ薬)に十分反応しない活性期患者に用いる。リウマチ性関節炎に承認されているJAK阻害剤で、インターロイキンの受容体の細胞内シグナル伝達を阻害、免疫反応を抑制する。経口剤で、一日二回服用のオリジナルの製剤と一日一回のXRがある。

並行して潰瘍性大腸炎にも適応拡大申請されているが、ファイザーが追加データを提出したため、審査期限が来年3月から6月に延期された。

免疫抑制剤は癌や感染症に対する免疫も弱めるので長期的な安全性を十分に検討して、適応毎に便益と比較する必要がある。

リンク: ファイザーのプレスリリース
リンク: 同(潰瘍性大腸炎の審査期間延長。12/12付け)






今週は以上です。

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2017年12月10日

2017年12月10日


【ニュース・ヘッドライン】

  • ESMO IO:テセントリクの肺癌化学療法併用試験が成功 
  • ロシュ、Hemlibraは月一回投与でも足りる 
  • SABCS:ファイザーのPARP阻害剤も乳癌試験成功 
  • SABCS:ノバルティス、CDK4/6阻害剤の閉経前乳癌試験が成功 
  • イムブルビカ、ワルデンストレームマクログロブリン血症のリツキサン併用試験が成功 
  • サイラムザ、胃癌一次治療は承認申請見送り 
  • サノフィ、クロストリジウム・ディフィシル・ワクチンの開発を中止 
  • Clovis、PARP阻害剤を適応拡大申請 
  • ノボ、週一回型GLP-1作動剤が承認 
  • 大日本住友、米国でネブライザ用LAMAが承認 
  • アバスチンが神経膠腫に本承認 
  • 抗PD-1/PD-L1抗体とiMiDの併用問題について(フォローアップ) 
  • フィリピンがデング熱ワクチンのリコールを要求 


【新薬開発】


ESMO IO:テセントリクの肺癌化学療法併用試験が成功
(2017年12月7日発表)

ロシュの抗PD-L1抗体、Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)のIMpower150試験の結果がESMO IO(欧州臨床腫瘍学会免疫腫瘍学)会議で発表された。非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療化学療法併用試験で、類薬ではMSDのKeytruda(pembrolizumab)が同様な患者を対象とした第1/2相試験で良い結果を出し米国で適応拡大が認められたが、キチンとした第三相試験で延命効果を確認したのは今回が初めて。ロシュは適応拡大申請する考え。

内容は如何にもロシュで、対照群(C群)はcarboplatinとpaclitaxelだけでなくAvastin(bevacizumab)も使う三剤併用。試験薬群(B群)は更にTecentriqも使う四剤併用で、この二群の比較がメインになっている。但し、非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療におけるAvastin採用率は欧米で20~30%、日本でも50%以下に留まっていることを考慮したのか、Avastin以外の三剤を併用する群(A群)も設定された。

もう一つのロシュらしさは、抗PD-1/PD-L1抗体の応答予測因子としてよく用いられるPD-L1発現だけではなく、イフェクターT細胞の活動性を示唆するCXCL9やインターフェロン・ガンマのmRNA発現度合いも評価するTeff指標を用いたプリスクリーニングの有効性を検討したこと。主解析は4種類あり、評価項目がPFS(無進行生存期間、担当医評価)と全生存期間の二種類、ユニバースが被験者のうちALK/EGFR変異のない患者(ITT-WT)と、そのうちTeffが平均以上の患者(高Teff-WT)の二種類のマトリクスとなっている。

ESMO IO会議ではPFSの解析結果が発表された。ITT-WTはハザードレシオ0.62(95%信頼区間0.52-0.74)、p<0.0001。メジアン値は四剤併用群が8.3ヶ月、三剤併用が6.8ヶ月なので大差ないが、免疫療法によくあるパターンで、時間が経過するにつれて違いが大きくなっていく。ロシュも心得ていて、7~8ヶ月時点ではなく1年経過時点の無進行生存率が37%対18%とダブルスコアであったことをプレスリリースで主張している。

高Teff-WTの解析も成功した。ハザードレシオ0.505、メジアン11.3ヶ月対6.8ヶ月なのでこのタイプの方がよく効くように見えるが、低Teff-WTの解析でも95%上限が1を下回っており、プリスクリーニングに使えるようには見えない。PD-L1発現も手掛かりになりそうには見えない。更に、ALK/EGFR変異型もPFSが延長した。結局、この試験のデータを見る限りでは、プリスクリーニングする必要はなく万人に何らかの便益があるということになる。

全生存期間の解析は未成熟だがITT-WTのハザードレシオは0.775、95%上限は0.970、p=0.0262、メジアン生存期間は19.2ヶ月対14.4ヶ月となっており、今のところ良好。このまま行けば18年上期に予定されている中間解析で有意差が出ても不思議はない。

上記のKeytrudaの021試験では、PFSのハザードレシオが0.53、メジアンは13.0ヶ月対8.9ヶ月で、Tecentriqより良い数字だが、標準療法群(Avastinは使わない)の数値がIMpower150試験より良いので、被験者の背景に違いがあるかもしれない。全生存期間のハザードレシオは0.59でここでも良い数字が出ているが、サンプル数が少ないせいか、有意差は出ていない。

米国はこの試験の反応率のデータなどに基づき適応拡大を承認したが、EUは懐疑的で申請撤回となった。数値は良いがエビデンスとしての頑強性に難がある、と言えるだろう。

さて、IMpower150試験で意外だったのは、Tecentriqとcarboplatin、paclitaxelのA群のデータだ。C群(Avastin、carboplatin、paclitaxel)と比べてPFSハザードレシオが0.936で大差なし、ORR(客観的反応率)も各49%と48%で大差なし、全生存もハザードレシオ0.884、メジアン17.9ヶ月で大差なかった。試みに四剤併用群と見比べるとメジアン生存期間の差は1ヶ月余に過ぎず、四剤併用ではなくTecentriq、carboplatin、paclitaxelの三剤で足りるのではないかと思わざるを得ない。

四剤併用は有害事象による治験離脱率が33%とC群の25%、A群の14%より高く、治療関連深刻有害事象発生率も各25%、19%、19%となっており、忍容性が見劣りする。更に、薬剤費も大きく膨らむ。副作用や財務面のコストに見合う便益があるのか、評価が難しい。

この試験でTeffによるスクリーニングを重視したのは、おそらく、過去の第二相、第三相でPFSに有意差が出なかったからだろう。全生存期間の解析は二本とも成功したが、結果が出るまで時間がかかるし、他社の類薬と差別化するには斬新な切り口が欲しいところだ。だが、Teffも、TC/ICも、OAK試験と異なり有効ではなかった。もし有効なら、費用対効果がもっと良くなっていたかもしれないが、残念なことだ。

Tecentriqは尿路上皮細胞腫や非小細胞性肺癌の再発治療に単剤投与する用途で欧米で承認されている。日本でも非小細胞性肺癌(PD-L1発現は不問)に承認申請され、第二部会を通過したところ。

リンク: ロシュのプレスリリース

ロシュ、Hemlibraは月一回投与でも足りる
(2017年12月7日発表)

中外製薬が開発した血液凝固第IX因子と第X因子を架橋する二重特異性抗体、Hemlibra(emicizumab-kxwh)はインヒビターを持つA型血友病の出血予防薬として11月に米国で承認されたところだが、インヒビターを持たない患者を組入れた試験に続いて、今回、両方を組入れて皮注頻度を週一回ではなく4週間に一回に減らしたHAVEN 4試験が成功したことを海外のライセンスを持つ親会社のロシュが発表した。

A型血友病で頻繁に出血する患者は第X因子をルーチン投与して予防する。持効性製剤が続々と発売されたが、皮注で、しかも月一回で足りるなら大きなセールスポイントになりそうだ。

NEJM誌にSpark TherapeuticsがPfizerと共同開発している遺伝子療法の治験論文が刊行された。血友病の治療は着々と進歩しているようだ。

リンク: ロシュのプレスリリース

SABCS:ファイザーのPARP阻害剤も乳癌試験成功
(2017年12月8日発表)

ファイザーの経口PARP阻害剤、talazoparibの第三相局所進行性・転移性乳癌試験が成功したことがSABCS(サン・アントニオ乳癌シンポジウム)で発表された。

生殖細胞系BRCA1/2変異を持つ、ホルモン受容体陽性且つher2陰性、あるいはトリプルネガティブの乳癌に対する効果を実薬(capecitabine、eribulin、gemcitabine、vinorelbineの中から担当医が選択)と比較したところ、PFS(無進行生存期間)のハザードレシオが0.54(95%信頼区間0.41-0.71)、p<0.0001と、有意に優れていた。

効果はホルモン受容体陽性、陰性を問わず、トリプルネガティブに対しても良好な結果だった。前治療の数にも影響されなかったとのこと。深刻な有害事象の発生率は31.8%対29.4%と若干増えたが、有害事象による治験離脱率は7.7%対9.5%で若干少なかった。ファイザーは、承認審査機関と相談する考え。

talazoparibaは、16年に140億ドルで買収したメディベーション社のパイプラインで、元々はバイオマリン社から資産買収したもの。

リンク: ファイザーのプレスリリース

SABCS:ノバルティス、CDK4/6阻害剤の閉経前乳癌試験が成功
(2017年12月6日発表)

ノバルティスのCDK4/6阻害剤、Kisqali(ribociclib)の第三相閉経前乳癌試験、MONALEESA-7の成功がSABCSで発表された。ホルモン受容体陽性、her2陰性の患者を組入れて、卵胞ホルモン抑制剤goserelinとエストロゲンブロッカー(tamoxifenまたはアロマターゼ阻害剤)を併用する対照群と、更にKisqaliも投与する群を比較したところ、PFSのハザードレシオが0.553(95%信頼区間0.44-0.69)、メジアン値は対照群の13.0ヶ月に対して23.8ヶ月と、有意に改善した。

有害事象による試験離脱は各3.0%と3.6%で大差なかった。

類薬は複数あるが、tamoxifen併用で有意なPFS改善効果が確認されたのは初めて。適応拡大申請に向かうのではないか。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

イムブルビカ、ワルデンストレームマクログロブリン血症のリツキサン併用試験が成功
(2017年12月5日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、Imbruvica(ibrutinib、和名イムブルビカ)の第三相ワルデンストレームマクログロブリン血症試験が成功したと発表した。再発性難治性で初めて治療を受ける患者にRituxan(rituximab)と併用する効果を検討したもの。独立データ監視委員会が中間薬効解析に基づいて盲検解除を勧告した。

盲検解除されたデータを承認審査機関に報告し相談する考え。単剤投与は米国では15年に承認されている。

リンク: ジョンソン・エンド・ジョンソンのヤンセン子会社のプレスリリース

サイラムザ、胃癌一次治療は承認申請見送り
(2017年12月8日発表)

イーライリリーは、Cyramza(ramucirumab、和名サイラムザ)の第三相胃癌一次治療試験、RAINFALLの結果を公表した。5-FUまたはcapecitabineをcisplatinと併用するレジメンに追加する効果を検討したところ、主評価項目であるPFSの解析は成功したものの、二次的評価項目だが臨床的には最も重要な全生存期間の解析がフェール。承認申請を見送ることを決めた。

CyramzaはVEGFR2/KDRを標的とする抗体医薬で、胃癌や非小細胞性肺癌の二次治療に承認されている。同じ胃癌でありながら事実上、フェールしたのは不思議だ。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

サノフィ、クロストリジウム・ディフィシル・ワクチンの開発を中止
(2017年12月1日発表)

サノフィは、クロストリジウム・ディフィシル関連下痢を予防するワクチン、ACAM-Cdiffの大規模な第三相試験を実施していたが、中間解析で独立データ監視委員会が無益性認定したことを明らかにした。臨床開発を中止する。

デング熱ワクチンDengvaxiaと同様に、08年にAcambis社を買収して入手したパイプラインが暗礁に乗り上げた。

リンク: サノフィのプレスリリース

【承認申請】


Clovis、PARP阻害剤を適応拡大申請
(2017年12月5日発表)

Clovis Oncology(Nasdaq:CLVS)は、米国でRubraca(rucaparib)の適応拡大承認を申請し受理されたと発表した。審査期限は来年4月6日。欧州は来年、承認申請の予定。

遺伝子複製ミスの修復に係るポリ(ADPリボーゼ)ポリメラーゼを阻害する経口剤で、昨年12月に米国でBRCA変異型末期卵巣癌の三次治療薬として承認された。コンパニオン・ダイアグノスティックとして同時に承認されたのがロシュ・グループのFoundation Medicine(Nasdaq:FMI)の次世代シーケンシング検査だ。

今回の適応拡大申請は、白金感受性卵巣癌の二次治療以降として白金薬による治療を受け反応した患者を組入れた維持療法試験、ARIEL3に基づくもの。PFS(第三者委員会査読後)はメジアンが13.7ヶ月と偽薬群の5.4ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオ0.35、統計的に有意だった。

主評価項目のうち最初の解析であるBRCA変異サブグループの数値はもっと良かったが、シーケンシャルに実施された上記の全ユニバースの解析も成功。主評価項目ではなく探索的解析だが、BRCA変異のないサブグループも良好な結果になった。このため、ClovisはBRCA不問で承認することを求めている。

治療関連有害事象による治験離脱率は14%と偽薬群の2.6%を上回った。骨髄異形成症候群/急性骨髄性白血病の治療時発現は372例中3例、偽薬群はゼロだった。

リンク: Clovisのプレスリリース

【承認】


ノボ、週一回型GLP-1作動剤が承認
(2017年12月5日発表)

ノボ ノルディスクは、Ozempic(semaglutide)がFDAに二型糖尿病薬として承認されたと発表した。同社のVictoza(liraglutide)と同じ皮注用ヒトGLP-1誘導体だが、一日一回ではなく週一回投与で足りる。また、Emisphere TechnologiesのEligen技術を用いて開発した経口剤が第三相段階であり、成功すれば市場性が飛躍的に高まるだろう。

Victozaは週一回型GLP-1作用剤であるイーライリリーのTrulicity(dulaglutide)にシェアを食われているが、OzempicはTrulicity対照試験でHbA1cや体重の低下が有意に上回った。巻き返しが始まるだろう。

10月に開催されたFDA内分泌代謝学薬諮問委員会は心血管アウトカム試験の評価と網膜症性合併症のリスクを重点的に検討した。SUSTAIN試験ではMACE(主要有害心血管イベント)のハザードレシオが対照群比0.74となり非劣性解析が成功。優越性解析も成功したがポストホック分析なので頑強性は万全ではない。

この試験では失明が5例と対照群の1例を上回り、硝子体出血や網膜症治療なども含めた網膜症性合併症の発生率は3.0%(対照群は1.8%)、ハザードレシオ1.76、p=0.02だった。血糖治療の合併症予防効果を立証したランドマーク的試験であるDCCT試験でも最初の二年間は増加し三年目から減少したので、血糖治療を開始・強化する場合は小血管性合併症が増加しないか注意する必要があるのだろう。

日本でも承認審査中。先日、薬食審・医薬品第一部会で審議されたが、継続審議となった。理由は不明だが、網膜症リスクと推測されている。

リンク: ノボ ノルディスクのプレスリリース

大日本住友、米国でネブライザ用LAMAが承認
(2017年12月6日発表)

大日本住友製薬の米国子会社であるサノビオンは、FDAがLonhala MagnairをCOPD治療薬として承認したと発表した。長期作用性ムスカリン受容体拮抗剤(LAMA)であるグリコピロニウム臭化物の新製剤で、Pari GmbHの電子ネブライザ、eFLOWで一日二回、吸入する。5年前に企業買収で入手したコンパウンド。

LAMAはCOPDの代表的な維持療法で、ベーリンガー・インゲルハイムのSpiriva(tiotropium)が高いシェアを持つ。長期作用性ベータ2作用剤やコルチコステロイドはネブライザ用が存在するが、LAMAはなかった。少数派だがネブライザを好む患者には朗報。競合は、テラバンスが11月にTD-4208(revefenacin)を承認申請した。米国ではマイランが販売する。

リンク: 大日本住友製薬のプレスリリース(pdfファイル)

アバスチンが神経膠腫に本承認
(2017年12月5日発表)

ロシュ・グループのジェネンテックは、Avastin(bevacizumab)を神経膠腫の二次治療に用いることがFDAに正式承認されたと発表した。加速承認は09年なので、効能が確認されるまで8年も費やしたことになる。

時間がかかったのは、承認後薬効確認試験で全生存期間の解析がフェールしたため。放射線化学療法をベースにAvastinを使う群と使わない群のPFSを比較したところ、ハザードレシオ0.64、メジアン値は10.6ヶ月対6.2ヶ月と、有意に改善したが、共同主評価項目である全生存のハザードレシオは0.88、メジアン16.8ヶ月対16.7ヶ月と失望的な結果になった。

一次治療試験もPFSは改善したが全生存期間は延びなかった。PFSは客観性を担保するためにCT/MRI画像に基づいて評価するのが一般的だが、Avastinのような血管新生阻害剤は、血管の浸透性が低下し造影剤の漏出が減少するので、癌の大きさが変わらなくても画像上は退縮したように見える。従って、全生存期間のほうを重視すべきである。それでも本承認されたのは、症状など総合的な評価に基づくものだろう。

リンク: ジェネンテックのプレスリリース


【医薬品の安全性】


抗PD-1/PD-L1抗体とiMiDの併用問題について(フォローアップ)
(2017年12月5日発表)

多発骨髄腫の治療にはセルジーン社のRevlimid(lenalidomide)やThalomid(thalidomide)などiMiD(免疫調停的薬)と呼ばれる薬が広く用いられている。破竹の勢いで様々な癌に適応を広げている抗PD-1/PD-L1抗体もiMiD併用試験が多数、進行していたが、MSDのKeytruda(pembrolizumab)の第三相試験で死亡者が対照群の1.6倍と大きな群間の偏りが発生したため、FDAが7月にクリニカルホールド(治験停止)を命じた。

今回、BMSとロシュが、一部の治験の部分停止解除を発表した。何れも第一相、第二相試験で、BMSのくすぶり型の第三相試験、CheckMate-602は解除されていないので、嫌疑が晴れた訳ではなさそうだ。それでも、グレイがオフホワイトに変わったような印象だ。

リンク: BMSのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース

フィリピンがデング熱ワクチンのリコールを要求
(2017年12月4日発表)

複数の報道によると、フィリピン政府はサノフィにデング熱ワクチンのDengvaxiaをリコールするよう求めている。年20万人が感染とリスクが高く、それ故に無料キャンペーンを行って70万人以上が接種する実績を挙げただけに、裏切られた思いなのだろう。導入したのは前政権なので非難しやすいという側面もありそうだ。

12月3日号で書いたように、サノフィは、デング熱ワクチンのDengvaxiaについて接種対象の選別を求めるレーベル変更を行う予定であることを発表した。デングウイルス感染歴を持つ人は予防効果を享受できるが、未経験者が接種すると、いざ感染した時に重症になりやすいことが判明したため。接種前に感染歴を確認するよう努め、病気のリスクとワクチンのリスクを検討した上で、接種の是非を判断するよう求める。

デングは一回目の感染は軽く済むが二回目は重くなることがしばしばある模様だ。原因は明確ではない。一般的な株が4種類あるが、最初に感染した株と違う株だと体が過敏反応してしまうとか、一回目の感染でできた抗体が一定の力価範囲内だとリスクが高まるとか諸説ある。

一回目の自然感染が軽くなりがちだとしたら、本人に自覚がなく未感染と申告して接種対象から外れてしまうような事態も考えられるので、選別がワークするとは限らない。

また、デングウイルス感染が二回目のほうが深刻だとしたら、武田が開発しているワクチンでも同様な現象が起きないか、精査する必要があるだろう。

リンク: CNNの報道(CNNを応援したいと思っているのは私だけでしょうか?)







今週は以上です。

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2017年12月3日

2017年12月3日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • バベンチオ、胃癌試験はフェール 
  • ポテリジオ、米国で承認申請 
  • オプジーボとヤーボイの併用療法をEUで腎細胞腫一次治療に承認申請 
  • 遺伝子一斉検査が承認 
  • 月一回皮注用ブプレノルフィンが承認 
  • レパーサのMACE抑制効果が承認 
  • トルツ、乾癬性関節炎も承認 
  • ゾーフィゴとザイティガの併用試験が早期中止に 
  • デング熱ワクチンは却って危険? 


【新薬開発】


バベンチオ、胃癌試験はフェール
(2017年11月28日発表)

ドイツのメルクとファイザーは、Bavencio(avelumab、和名バベンチオ)の第三相末期胃癌三次治療試験がフェールしたことを明らかにした。paclitaxelなど医師が選んだ薬を投与した対照群と比べて全生存期間を有意に延長することができなかった。

胃癌の第三相試験は一次治療でFOLFOXを施行した後の維持療法試験も進行中。免疫力を強化するメカニズムなので化学療法で免疫力が低下する前の患者のほうが上手く行くかもしれない。

BavencioはPD-L1を標的とする抗体医薬だが、受容体であるPD-1を標的とするOpdivo(nivolumab)は日本中心に実施された試験が成功した。尤も、メジアン生存期間は偽薬群の4ヶ月が5ヶ月に伸びただけだった。海外の試験の結果が注目される。

リンク: 両社のプレスリリース


【承認申請】


ポテリジオ、米国で承認申請
(2017年11月28日発表)

協和発酵キリンは、mogamulizumabを全身治療歴を有するCTCL(皮膚T細胞リンパ腫)の薬として米国で承認申請し受理された。優先審査指定され、来年6月4日までに結果が判明する予定。

日本で12年にCCR4陽性成人T細胞白血病用薬ポテリジオとして承認された抗CCR4ヒト化ポテリジェント抗体で、14年にはCCR4陽性CTCL/PTCL(末梢T細胞リンパ腫)に用いることも承認された。

米国の新薬承認申請は第三相実薬対照試験の結果に基づくものである由。日本でも同試験に基づき、CCR4陽性や投与回数の限定を解除すべく承認事項一部変更申請が行われた。

リンク: 協和発酵のプレスリリース(pdfファイル)

オプジーボとヤーボイの併用療法をEUで腎細胞腫一次治療に承認申請
(2017年11月28日発表)

BMSは、抗PD-1抗体のOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)と抗CTLA-4抗体のYervoy(ipilimumab、和名ヤーボイ)の併用を様々な癌に開発しているが、今回、腎細胞腫の一次治療レジメンとしてEUに承認申請し、受理された。中等度以上のリスクを持つ患者が対象。根拠となる214試験では、ORR(客観的反応率)と全生存期間が標準的治療薬であるファイザーのSutent(sunitinib)を有意に上回った。PFS(無進行生存期間)では有意差が出なかったが、ハザードレシオは0.82なので悪くはない。

この併用レジメンの難点は忍容性で、被験者の22%が有害事象により治験を離脱した。対照群は12%だった。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認】


遺伝子一斉検査が承認
(2017年11月30日発表)

抗癌剤は遺伝子分析に基づくセグメンテーションが進み、同じ肺癌でもEGFR活性化変異型にはEGFR阻害剤、ALK融合蛋白陽性型ならALK阻害剤、BRAF活性化変異型にBRAF阻害剤と使い分けるようになった。ALKやROSの変異型のように該当確率が著しく低いものがあるので、コストや手間を考えれば、一度に全部検査できれば好都合だ。お誂え向きの検査がFDAに承認された。米国ケンブリッジのFoundation Medicine(Nasdaq:FMI)のFoundationOne CDx(F1CDx)だ。

NGS(次世代シーケンシング)技術に基づく体外診断で、324の遺伝子の変異を探索できる。薬物療法の選択に係るものでは、EGFR、ALK、BRAF、her2、KRAS、BRCA、マイクロサテライト不安定性など。個々の遺伝子変異の検査アッセイと評価を照らし合わせたところ、正診率が94.6%だった。

ラボで開発された検査なのでFDAの承認を取る必要はないが、今回はメーカーが自発的に承認申請した。ブレークスルー・デバイス指定を受けている。FDAとCMS(メディケア・メディケイド・センター)が並行して審査する制度が適用された結果、承認と共に保険適用が決まった。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Foundation Medicine社のプレスリリース

月一回皮注用ブプレノルフィンが承認
(2017年11月30日発表)

FDAは、Indivior(LSE:INDV)のSublocade(buprenorphine)をオピオイド使用障害の治療薬として承認した。皮注用デポ製剤で月一回投与で足りる。口腔粘膜吸収製剤による治療を受けている、用量が安定した患者がスイッチすることができる。

米国はオピオイドの消費が異常に多く、副作用による死者も多いため乱用や薬物依存が社会問題になっている。カウンセリングや心理社会的療法など総合的な治療の補助薬がブプレノルフィンで、オピオイド受容体をブロックしてオピオイドの効果を妨げる。静注は致死的であるため、枠付き警告とともに、REMS(リスク評価管理戦略)が導入された。

Indiviorは、Reckitt Benckiserから2014年にからスピンアウトされた、ブプレノルフィン関連製品の大手企業。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Indiviorのプレスリリース

レパーサのMACE抑制効果が承認
(2017年12月1日発表)

アムジェンは、FDAがRepatha(evolocumab、和名レパーサ)の効能としてMACE(主要有害心血管イベント)抑制を承認したと発表した。

Repathaは肝臓のLDL-C受容体の零落に係るサブチリシン/ケキシン9型に結合する抗体医薬で、LDL-C値を半減することができる。FOURIER心血管アウトカム試験では、主評価項目であるMACE(心血管死、心筋梗塞、脳卒中)、不安定狭心症入院、または冠再建術のリスクが偽薬群比15%小さかった。副次的評価項目であるMACEだけの解析では20%小さかった。メジアン2.2年間の追跡でMACE発生率は試験薬群が5.9%、偽薬群は7.4%だったので、Number Needed to Treatは約67となる。

スタチンと比べても高価な薬であるため、アムジェンは米国の医療保険機関に返金保証を提案している。Repathaで治療中に心筋梗塞などを発症した場合は薬剤費を返金するというもので、英国の公的医療保険がしばしば要求するやり方と似ている。CAR-Tなど超高額な医療でも成果報酬方式が散見され、個人的には抜本的な解決にならないと思うが、注目すべき動きだ。

リンク: アムジェンのプレスリリース

トルツ、乾癬性関節炎も承認
(2017年12月1日発表)

イーライリリーは、Taltz(ixekizumab、和名トルツ)を活性期乾癬性関節炎の治療に用いる適応拡大をFDAが承認したと発表した。DMARDに追加、または単剤投与する。

16年に中重度乾癬治療薬として承認された抗IL-17Aヒト化抗体で、乾癬性関節炎の第三相試験二本では、ACR20奏効率が一本は58%(偽薬群は30%)、もう一本は53%(同20%)だった。

リンク: イーライリリーのプレスリリース


【医薬品の安全性】


ゾーフィゴとザイティガの併用試験が盲検解除に
(2017年11月30日発表)

バイエルは、ERA223試験のデータ監視委員会が盲検を繰り上げ解除するよう勧告したことを明らかにした。この試験は、去勢抵抗性前立腺癌で無/軽症状、化学療法未経験の806人を組入れて、ジョンソンエンドジョンソンのZytiga(abiraterone acetate、和名ザイティガ)とステロイドを併用する標準的療法と、更にXofigo(radium-223 dichloride、和名ゾーフィゴ)も用いるレジメンのSSE-FS(無症候性筋骨格イベント生存期間)を比較した。

ところが、中間解析で三剤併用群の骨折や死亡が標準療法群より多いことが判明。今回の勧告に至った。

同じレジメンを採用した他の試験では同様な現象は見られなかった由。Xofigoは骨に分布してアルファ線を放出、周辺の癌細胞を攻撃する。化学療法不応不適の症候性去勢抵抗性前立腺癌の骨転移を治療する用途で承認されているが、骨に問題が生じていない患者には却って有害なのかもしれない。

リンク: バイエルのプレスリリース

デング熱ワクチンは却って危険?
(2017年11月29日発表)

サノフィは、デング熱ワクチンのDengvaxiaについて接種対象の選別を求めるレーベル変更を行う予定であることを発表した。デングウイルス感染歴を持つ人なら予防効果を享受できるが、未経験者が接種すると、いざ感染した時に重症になりやすいことが判明。接種前に感染歴を確認するよう努め、病気のリスクとワクチンのリスクを検討した上で、接種の是非を判断するよう推奨する。

デングは一回目の感染は軽く済むが二回目は重くなることがしばしばある模様だ。原因は明確ではない。一般的な株が4種類あるが、最初に感染した株と違う株だと体が過敏反応してしまうとか、一回目の感染でできた抗体が一定の力価範囲内だとリスクが高まるとか、言われている。感染経験のない人がDengvaxiaを接種すると一回目の感染と同じことになってしまう可能性があるようだ。

Dengvaxiaは15年12月のメキシコを皮切りに中南米やアジアなどで承認されたが、4種類の株のうち1種類にはあまり効かないことや、16年に未感染者に対するリスクを問題提起する論文がScience誌で刊行されたことなどが原因で、売上高が伸び悩んでいる。今回のレーベル変更で更に減少しそうだ。

原因不詳なので何とも言えないが、もし問題がワクチンではなくデング感染自体にあるとしたら、武田薬品が開発しているワクチンにも同様なリスクがないかどうか、十分に検討すべきだろう。

リンク: サノフィのプレスリリース
リンク: Fergusonらの論文(Science誌)





今週は以上です。

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