2017年10月29日

2017年10月29日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • アッヴィの抗IL-23p19抗体も第三相試験成功 
  • アムジェン、CETP阻害剤の自社開発を断念 
  • ロシュ、アバスチンの卵巣癌一次治療適応拡大を申請 
  • atalurenはやっぱり承認されず 
  • GSKの帯状疱疹ワクチンが米国で承認 
  • ソリリス、重症筋無力症に承認 
  • EU、Zinbryta(daclizumab)の規制を強化へ 


【新薬開発】


アッヴィの抗IL-23p19抗体も第三相試験成功
(2017年10月26日発表)

アッヴィはABBV-066/BI 655066(risankizumab)の第三相中重度乾癬治療試験が成功したことを明らかにした。偽薬や実薬とPASI90奏効率を比較したもので、ジョンソン・エンド・ジョンソンのStelara(ustekinumab、和名ステラーラ)を投与する群が設定された二本は何れも75%となり偽薬群(一本は2%、もう一本は5%)やStelara群(42%と48%)を上回った。Humira(adalimumab)対照試験では72%対47%で有意に上回った。

IL-23はTh17細胞が誘導する免疫に関与するサイトカインで、活性化した抗原提示細胞が発現し、T細胞をTh17細胞に分化させる。StelaraはIL-23とIL-12のサブユニットであるp40に結合するがrisankizumabはIL-23だけに関わるp19サブユニットに結合するヒト化抗体で、IL-12阻害に伴う有害事象を誘導しにくい可能性がある。

16年にベーリンガー・インゲルハイムから共同開発商業化権を取得したもの。Humiraで皮膚科チャネルに実績を持つアッヴィが販売、ベーリンガーは喘息症領域でコプロモするオプションを留保している。抗IL-23p19抗体は7月にジョンソン・エンド・ジョンソンのTremfya(guselkumab)が米国で承認、MSDのMK-3222(tildrakizumab)が欧米で承認審査中と、開発競争が活発化している。

リンク: アッヴィのプレスリリース

アムジェン、CETP阻害剤の自社開発を断念
(2017年10月25日発表)

アムジェンは、17/12期第3四半期決算発表リリースの中で、AMG 899の開発を断念し導出する考えであることも明らかにした。13年に田辺三菱製薬がオランダのデジマファーマに導出したCETP阻害剤で、アムジェンは15年にデジマを買収したばかりだが、MSDのanacetrapibの心血管アウトカム試験がフェールしたため見切りを付けた。

リンク: アムジェンのプレスリリース


【承認申請】


ロシュ、アバスチンの卵巣癌一次治療適応拡大を申請
(2017年10月26日発表)

ロシュは、Avastin(bevacizumab)を末期卵巣癌の一次治療に用いる適応拡大申請を米国で行い、受理されたと発表した。審査期限は来年6月25日。carboplatinとpaclitaxelのコースに併用し、終了後はAvastinだけの維持療法を続ける。GOG-0218試験ではPFS(無進行生存期間)がメジアン18.2ヶ月間とcarboplatin・paxlitaxelだけのコースの12.0ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.64で統計的に有意な差があった。

欧州や日本では既に承認されているが、米国はAvastinのPFS延長効果が必ずしも延命効果につながらないことからFDAが慎重なスタンスを取っており、適応拡大が遅れている。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認審査・委員会】


atalurenはやっぱり承認されず
(2017年10月25日発表)

PTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)はTranslarna(ataluren)をナンセンス変異を持つデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療薬として開発、EUでは14年に条件付き承認を取得したが、米国はFDAから審査完了通知を取得したことが発表された。第三相試験がフェールしたこと、承認申請を断行したがFDAに受理されず不服申立て手続きに訴えたこと、諮問委員会で11人の委員中10人が薬効確認不十分と判定したことを考えれば、意外感はない。

デュシェンヌ型筋ジストロフィーの多くはジストロフィン遺伝子に機能喪失変異を持つ。Translarnaは、変異により生まれた翻訳終了箇所を示す塩基配列を「読み過ごす」よう仕向ける作用を持つと考えられているが、デュシェンヌ型筋ジストロフィーや嚢胞性線維症の臨床試験がフェールしたため、疑義も生じている。

リンク: PTCのプレスリリース

【承認】


GSKの帯状疱疹ワクチンが米国で承認
(2017年10月23日発表)

グラクソ・スミスクラインはShingrixが米国で承認されたと発表した。遺伝子組換え型帯状疱疹ワクチンで、MSDのZostavaxのような生ワクチンではなく、AS01Bアジュバントで免疫原性を強化している。Zostavaxは60歳以上が対象だがShingrixは50代に対する効果も確立しており、また、70歳以上でも効果が落ちない。二回接種で、合わせて280ドルで販売される模様。

ACIPワクチン委員会も50歳以上に接種を勧奨した。Zostavaxとどちらを選好すべきかも採決になり、15人の委員のうち8人がShingrixを選んだ。

Shingrixは昨年11月にEUで、今年4月には日本でも、承認申請された。

リンク: GSKのプレスリリース(10/23付)
リンク: 同(ACIP勧奨について、10/25付)

ソリリス、重症筋無力症に承認
(2017年10月23日発表)

カナダのアレクシオン・ファーマスーティカルズ(Nasdaq:ALXN)は、Soliris(eculizumab、和名ソリリス)を難治性全身性重症筋無力症の治療に用いる適応拡大をFDAが承認したと発表した。神経筋接合部のアセチルコリン受容体を攻撃する自己免疫抗体を持つ患者が適応になる。米国の全身性重症筋無力症患者6~8万人のうち5~10%が対象になる模様。

EUでは今年8月に承認。日本でも3月に効能追加申請されたところ。

リンク: アレクシオンのプレスリリース

【医薬品の安全性】


EU、Zinbryta(daclizumab)の規制を強化へ
(2017年10月27日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの薬物監視・リスク評価委員会、PRACは、Zinbryta(daclizumab)の適応や肝機能監視を厳格化することを勧告した。医薬品科学的評価委員会であるCHMPの検討を経て実施される見込み。

ZinbrytaはIL-2の受容体のアルファチェーン、CD25に結合するヒト化抗体で、再発寛解型多発性硬化症の治療に用いる。規制強化の原因は自己免疫性肝障害のリスク。臨床試験では1.7%の患者で深刻な肝反応が発生、致死例もあった。自己免疫性なので予測は困難、投与を止めた後も6ヶ月間は発症の可能性がある。

PRACは、適応を二種類の疾病緩和的薬を試みても十分に反応せず他に適当な薬がない患者に限定し、治療開始前から終了の6ヶ月後まで少なくとも月一回の肝機能検査を行うことを勧奨した。

内容的にはEUと前後して承認した米国の適応・検査頻度を踏襲した格好だ。

Zinbrytaはアッヴィとバイオジェンが共同開発販売。活性成分はロシュが臓器移植時の免疫抑制剤として発売したことがあるが、商業上の理由で打ち切られた。

リンク: EMAのプレスリリース





今週は以上です。

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2017年10月22日

2017年10月22日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • JNJ、抗IL-6抗体と抗CD123抗体でセットバック 
  • セルジーン、クローン病用薬の第三相を中間解析で打ち切り 
  • テバも抗CGRP抗体を承認申請 
  • BMS、オプジーボの黒色腫再発予防を適応拡大申請 
  • アストラゼネカ、抗PD-L1抗体を肺癌維持療法に適応拡大申請 
  • アストラゼネカ、PARP阻害剤を転移性乳癌に適応拡大申請 
  • VEGFR阻害剤が腎細胞腫一次治療に適応拡大申請 
  • FDA諮問委員会がsemaglutideの承認を支持 
  • FDAが第二のCAR-Tを承認 



【新薬開発】


JNJ、抗IL-6抗体と抗CD123抗体でセットバック
(2017年10月17日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは抗IL-6完全ヒト化抗体のCNTO 136(sirukumab)を中重度リウマチ性関節炎の治療薬として日米欧で承認申請していたが、断念することを決めた。2017年第3四半期決算に関するプレスリリースの中で公表したもの。

8月に開催されたFDA関節炎諮問委員会では13人の委員のうち12人が承認に反対した。臨床試験で100人年当りの死亡率が50mg群(4週毎皮注)で0.5、100mg群(2週毎皮注)で0.8と、偽薬群の0.2を大きく上回ったため。類薬が既に存在することもあり、FDAは安全性の確認が不十分と判定、審査完了通知を送付した。

CNTO 136はグラクソ・スミスクラインが共同開発していたが、今年7月に、パイプラインの選択と集中戦略に基づいて権利を返還した。

IL-6や受容体を標的とする抗体医薬は中外/ロシュのActemra(tocilizumab)が代表格で、リジェネロン/サノフィのKevzara(sarilumab)も今年、欧米で承認された。JNJも抗IL-6キメラ抗体のSylvant(siltuximab)が多発骨髄腫用薬として欧米で14年に承認されている。

JNJは、JNJ-56022473/CSL362(talacotuzumab)の臨床試験中止も発表した。オーストラリアのCSLがXencor(Nasdaq:XNCR)の固定領域改変技術を用いて創製しヤンセンにライセンスした抗CD123抗体で、急性骨髄性白血病のP2/3段階だった。理由は開示されていないが、CD3とCD123に結合するバイスペシフィック抗体のJNJ-63709178は、昨年、クリニカルホールドになった。

CD123を標的とする抗体医薬では、協和発酵キリンのポテリジェント抗体、KHK2823も第一相段階。

リンク: JNJのプレスリリース

セルジーン、クローン病の第三相を中間解析で打ち切り
(2017年10月19日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)はGED-0301(mongersen)の第三相クローン病試験を中止すると発表した。データ監視委員会が中間無益性評価に基づき勧告したもの。安全性に関しては群間の大きな偏りは見られなかったとのこと。二本目の第三相試験の開始は見送りになった。セルジーンは第二相潰瘍性大腸炎試験の全分析結果を待って次の方策を決定する考え。

GED-0301は、免疫抑制的サイトカインであるTGF-ベータ1の細胞内シグナル伝達を阻害するSMAD7を標的とする、核酸アンチセンス薬。アイルランドのNogra Pharmaから頭金7.1億ドルと開発販売目標達成金最大18.65億ドルで世界独占開発販売権を取得したもの。NEJMに論文刊行された第二相試験は良さそうな結果だったが、意外な転帰になった。

リンク: セルジーンのプレスリリース


【承認申請】


テバも抗CGRP抗体を承認申請
(2017年10月17日発表)

テバ(NYSE:TEVA)は米国でTEV-48125(fremanezumab)を片頭痛予防薬として承認申請したことを発表した。アムジェンを皮切りに各社が続々と承認申請する見込みの抗CGRP抗体の一つで、偏頭痛発作時に増加し鎮静化すると減少する、片頭痛に関与している可能性のあるcalcitonin gene-related peptideを標的としている。

ジェネンテックの中枢神経系スピンアウトであるRinatがRN-307として開発していたもので、Rinatを買収したファイザーが導出した企業をテバが14年に頭金2億ドルと後発債務6.25憶ドルで買収し入手した。

リンク: テバのプレスリリース

BMS、オプジーボの黒色腫再発予防を適応拡大申請
(2017年10月16日発表)

BMSはOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)の適応拡大をFDAに申請し、受理されたことを明らかにした。ステージIIIbからIVまでの黒色腫の完全切除後に、高リスク患者の再発予防に用いる。エビデンスとなるCheckMate-238試験は中間解析で目的を達成。対照薬であるYervoyと比べて、無再発生存のハザードレシオが0.65と有意に優れていた。有害事象による治験離脱率は9.7%とYervoy群の42.6%を下回り、症例数906人のうち、治療関連の死亡はゼロだった(Yervoy群は2人)。

優先審査を受ける。審査期限は公表されていない。

リンク: BMSのプレスリリース

アストラゼネカ、抗PD-L1抗体を肺癌維持療法に適応拡大申請
(2017年10月17日発表)

アストラゼネカはImfinzi(durvalumab)を切除不能非小細胞性肺癌で化学放射線療法後の維持療法に用いる適応拡大を米国で承認申請し受理された。優先審査を受ける。審査期限は公表されていない。

承認申請の根拠となった第三相試験(日本の施設も参加)は、ステージIIIの非扁平上皮非小細胞性肺癌で白金薬レジメンによる一次治療と放射線療法を受けて疾病安定化あるいは部分・完全反応だった患者をImfinzi群と偽薬群に無作為化割付した。PD-L1発現は不問。結果は、Imfinzi群のPFS(無進行生存期間)がメジアン16.8ヶ月、偽薬群は5.6ヶ月となり、ハザードレシオは0.52、統計的に有意だった。共同主評価項目である全生存の解析は今後、行われる。

この用途で承認されればPD-L1/PD-1を標的とする抗体医薬では初めて。既に腫瘍学領域の代表的なガイドラインであるNCCNガイドラインには9月に採用されたとのこと。MSDのKeytruda(pembrolizumab)は一次治療に承認されているが適応はPD-L1高発現だけ。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

アストラゼネカ、PARP阻害剤を転移性乳癌に適応拡大申請
(2017年10月18日発表)

アストラゼネカは、Lynparza(olaparib)を転移性乳癌に用いる適応拡大申請をFDAに行い、受理された。優先審査を受ける。審査期限は来年第1四半期。切除後再発予防または転移後にアンスラサイクリン系とタクサン系の薬による前治療歴を持ち(ホルモン陽性癌の場合はホルモン療法も)、生殖細胞系BRCA1/2変異がありher2陰性の転移性乳癌が適応になる。

第三相試験(日本も参加)では第三者査読後のメジアンPFS(無進行生存期間)が7.0ヶ月と化学療法群(capecitabine、vinorelbineまたはeribulin)の4.2ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.58、統計的に有意だった。全生存の解析は元々検出力不足で、ハザードレシオ0.90、95%信頼区間0.63-1.29となっている。有害事象による治験離脱は4.9%対7.7%でやや下回り、G3以上の有害事象の発生率も36.6%対50.5%で低かった。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

VEGFR阻害剤が腎細胞腫一次治療に適応拡大申請
(2017年10月16日発表)

Exelixis(Nasdaq:EXEL)はCabometyx(cabozantinib)を腎細胞腫一次治療に用いる適応拡大をFDAに承認申請し受理された。優先審査を受け、審査期限は来年2月15日。

承認申請の根拠となった中高度リスクの転移性腎細胞腫を組入れた第二相試験では、メジアンPFS(無進行生存期間)が8.2ヶ月と一次治療の標準療法であるファイザーのSutent(sunitinib)の5.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.69、統計的に有意だった。全生存期間の解析は未成熟だがメジアン30.3ヶ月対21.8ヶ月、ハザードレシオ0.80、95%信頼区間0.50~1.26だった。

リンク: Exelixisのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がsemaglutideの承認を支持
(2017年10月18日発表)

FDA内分泌学代謝学薬諮問委員会は、ノボ ノルディスクが二型糖尿病治療薬として承認申請したNN9535(semaglutide)の臨床成績を検討し、17人の委員のうち16人が便益がリスクを上回ると判定した。一人は棄権したが、網膜安全性をもっと検討すべきという見解のようだ。

NN9535は週一回投与型のGLP-1作用剤で、血糖値だけでなく体重も減少する。3297人を組入れた心血管アウトカム試験では、MACE(主要有害心血管イベント)の発生率が6.6%と対照群(8.9%)比で非劣性だった。ポストホック分析だが優越性解析も成功。主として非致死的脳卒中と非致死的心筋梗塞が少なかった。

意外なのは糖尿病性合併症(硝子体出血、失明、治療など)の発生率が3.0%と対照群の1.8%を上回ったこと。特に、治験開始前から糖尿病性網膜症だった患者の発生率が8.2%対5.2%と増加した。

FDAの分析によると血糖値が短期間に上昇あるいは低下すると網膜に悪影響が出る。糖尿病の代表的なアウトカム試験の一つであるDCCTでも、血糖値の強化治療(今日の標準療法)を行った群は当時の標準療法群よりも網膜症が多く発生したが、3年目以降は逆転したとのことだ。網膜合併症の判定方法が必ずしも厳格でなかったこともあり、FDAは重要視していないようだ。他の新薬の心血管アウトカム試験では見られなかった現象なので釈然としないが、一般的に、FDAの判断は信憑性が高い。

ノボはEmisphere TechnologiesのEligen技術を用いてsemaglutideを錠剤化、第三相試験を実施している。GLP-1作用剤の経口剤は初めてなので注目される。

リンク: ノボのプレスリリース


【承認】


FDAが第二のCAR-Tを承認
(2017年10月18日発表)

FDAはYescarta(axicabtagene ciloleucel)を大細胞型B細胞リンパ腫の三次治療薬として承認した。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、転換濾胞性リンパ腫(TFL)、そして原発性縦隔大細胞型B細胞性リンパ腫(PMBCL)が適応になる。

ギリアド・サイエンシズが8月に119億ドルで買収したKite Pharmaが承認申請したCAR-T(キメラ抗原受容体-T細胞)療法で、患者からアフェレーシスで採取したT細胞に、B細胞リンパ腫で発現するCD19とT細胞活性化副刺激因子であるCD3ゼータやCD28などを繋げた遺伝子を導入し、患者の体内に戻すと、B細胞を攻撃する。8月に急性リンパ性白血病に承認されたノバルティスのKymriah(tisagenlecleucel)に次ぐCAR-Tの第二号。

報道によると価格は37.3万ドルで、企業買収プレミアム(市場価格に対する上乗せ)を転嫁したのか、想定より高い。Kymriahは47.5万ドルだが白血球アフェレーシスの費用を含んでいて、また、治療に反応しなかったら無料という成果報酬制を医療保険などに提案している。

第二相試験では完全寛解率が51%と、既存のサルベージ療法が5%に留まるのと比べて良い成果を上げた。深刻な有害事象はサイトカイン放出症候群や神経学的毒性。第二相では治療時発現有害事象による死亡が3例あったが、早期に発見して中外/ロシュのActemra(tocilizumab)や抗癲癇薬levetiracetam(UCBのイーケプラの活性成分)で治療するプロトコルを導入した後は改善した模様だ。

日本は今年1月に第一三共が製造開発販売権を取得している。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ギリアドのプレスリリース







今週は以上です。

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2017年10月15日

2017年10月15日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • JNJ、『第二のイクスタンジ』を承認申請 
  • イーライリリー、Verzenioの一次治療適応拡大申請と肺癌適応拡大フェール 
  • 今月のCHMPは新薬なし 
  • 米国初の遺伝子療法が諮問委員会を通過 
  • Rhoキナーゼ阻害剤も諮問委員会を通過 


【承認申請】


JNJ、『第二のイクスタンジ』を承認申請
(2017年10月11日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンはARN-509(apalutamide)を非転移性去勢抵抗性前立腺癌用薬として米国で承認申請した。この用途で正式に承認されれば初。

ファーザー/アステラス製薬のXtandi(enzalutamide、和名イクスタンジ)と同じ学者が創製した高力価アンドロゲン・シグナル・インヒビターで、JNJは13年に開発会社を一時金6.5億ドル、達成報奨金最大3.5億ドルで買収した。

第三相試験は、前立腺癌のアンドロゲン枯渇療法を施行中にPSA値が急上昇し始めた、しかしまだ転移はしていない患者1200人を組入れて、240mgを一日一回経口投与する群と偽薬群の無転移生存期間を比較した。データは今後、学会発表される予定。

前立腺癌の治療は進行段階に応じて細分化されており、XtandiもJNJのZytiga(abiraterone)も一つ一つ、適応を増やしてきた。ARN-509も今後は他剤とバッティングする用途で開発を進めることになる。Zytigaとの併用がどの程度上手く行くかが注目点の一つになりそうだ。

リンク: JNJのプレスリリース

イーライリリー、Verzenioの一次治療適応拡大申請と肺癌適応拡大フェール
(2017年10月12日発表)

イーライリリーのCDK4/6阻害剤、Verzenio(abemaciclib)は9月に米国でホルモン受容体陽性her2陰性乳癌に承認されたところ。内分泌療法歴を持つ患者にFaslodex(fulvestrant、和名フェソロデックス)と、または、内分泌療法と化学療法歴を持つ患者のサルベージに単剤で、用いる。CDK4/6阻害剤の開発・販売はファイザーやノバルティスが先行しているので適応拡大が急務だが、先週は、一次治療適応拡大申請と肺癌の第三相試験フェールが発表された。

一次治療はアロマターゼ阻害剤併用で、PFS(無進行生存期間)がメジアン16.4ヶ月とアロマターゼ阻害剤だけの群の9.3ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.55、統計的に有意だった。治療時発現有害事象は好中球減少症や下痢が対照群より多かった。下痢の発生率は他社のCDK4/6阻害剤と見比べてもやや高い。米国で承認申請が受理され、優先審査指定された。

また、欧州や日本で9月に承認申請したことも明らかにされた。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

一方、肺癌適応拡大試験は、変異krasを持つ非小細胞性肺癌の二次・三次治療における効用をロシュのEGFR阻害剤、Tarceva(erlotinib)と比較したが、全生存期間を有意に延長することはできなかった。Tarceva群の成績が過去の治験より良かったとのことだ。データは今後、学会発表される予定。

PFS(無進行生存期間)やORR(客観的反応率)では活性が見られた由だが、盲検ではないので、主観的評価より全生存のような客観性の高いデータのほうを信じるべきだろう。

リンク: イーライリリーのプレスリリース(10/10付け)


【承認審査・委員会】


今月のCHMPは新薬なし
(2017年10月13日発表)

欧州の薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、10月の会議で以下の適応拡大に肯定的意見をまとめた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認されることになる。尚、今月はロシュが多発硬化症用薬として申請した抗CD20ヒト化抗体、Ocrevus(ocrelizumab)の結論が期待されたが意見がまとまらなかったようで、画期的新薬に関する肯定的意見はゼロだった。

リンク: EMAのプレスリリース

まず、ジョンソン・エンド・ジョンソンのテストステロン合成阻害剤、Zytiga(abiraterone)。転移性ホルモン感受性前立腺癌で高リスクの新患にアンドロゲン枯渇療法(ADT)と併用することが支持された。癌の進行の早い段階で用いることができるようになり、対象患者数が広がる。日米でも適応拡大承認審査中。

現在の適応は、ADTがフェールしたが症状は未だない、あるいは軽いため化学療法が適応にならない患者と、ADTも化学療法(docetaxel)も受けたが進行した患者。

リンク: EMAのプレスリリース

次に、中外製薬が創製し海外ではロシュが販売するAlecensa(alectinib)。現在は、同じALK阻害剤であるファイザーのXalkori(crizotinib)がフェールしたALK陽性非小細胞性肺癌に承認されているが、二次治療限定を解除することが支持された。日本で実施されたJ-ALEX試験がエビデンス。

リンク: EMAのプレスリリース

アストラゼネカがBMSから買収したGLP-1作用剤、Bydureon(exenatide、和名ビデュリオン)は二型糖尿病治療薬として承認されているが、基礎インスリンに併用することも支持された。Byetta(exenatideの即放製剤)の開発段階で実施された試験の成績が悪く、インスリンを減らしてGLP-1作用剤で補うのは難しい印象があったが、用量に注意すれば不可能ではないのだろう。

リンク: EMAのプレスリリース

米国初の遺伝子療法が諮問委員会を通過
(2017年10月12日発表)

FDAのCTGT(細胞、組織、遺伝子療法)諮問委員会は、Spark Therapeutics(Nasdaq:ONCE)が承認申請したLuxturna(voretigene neparvovec)の臨床成績を検討し、16人の諮問委員全員が便益がリスクを上回ると判定した。承認審査期限は来年1月12日。Spark社はフィラデルフィア小児病院(CHOP)の遺伝子治療研究を商業化するために設立された会社。遺伝子療法が承認されれば米国初。

適応・効能は、両アレルRPE65調停性遺伝性網膜疾患による視力低下の改善。RPE65は光を感じるのに必要なレチナールのリサイクルに係る遺伝子で、変異があると視力が次第に低下する。患者数は欧州5ヶ国と米国で合わせて3500人と推定されている。Luxturnaはアデノ随伴ウイルスをベクターとしてRPE65遺伝子を網膜下に導入する。臨床試験では一回だけ投与した。

第三相試験ではMLMTという新しい検査方法を用いて薬効を評価した。暗い部屋の中で矢印などに従ってドアまで歩行する能力を様々な光量の下でテストするもので、試験薬群は偽薬群を1.6点上回り、統計的に有意な差があった。偽薬対照試験終了後に偽薬群からクロスオーバーした患者も含めると29人中27人で改善が見られた。視力は偽薬比9文字改善したが統計的に有意ではなかった。臨床試験全体で深刻な有害事象は施術関連中心窩間伐による視力低下と細菌性眼内炎の二例。軽中度の副作用も、専ら、注射に伴うものだった。

FDAは、MLMTで1.6点という治療効果が臨床的に重要であるかどうか、そして、深刻副作用に配慮して対象を限定すべきかどうか(年齢制限や、効果が小さいので進行した患者を除外するなど)を諮問したが、諮問委員の評価は概ね良好だった。

リンク: Sparkのプレスリリース

Rhoキナーゼ阻害剤も諮問委員会を通過
(2017年10月13日発表)

FDA皮膚科眼科用薬諮問委員会は、Aerie Pharmaceuticals(Nasdaq:AERI)が承認申請したRhopressa(netarsudil mesylate)を検討し、薬効に関しては10人全員が、便益がリスクを上回るかどうかは9人が、支持した。大きな問題はなさそうなので来年2月28日の審査期限までに承認されるのではないか。

緑内障の治療に用いるRhoキナーゼ阻害剤の点眼液で、一日一回投与で足りることが特徴。効果は完璧ではなく、第三相試験の一本目は降圧作用がtimolol比非劣性ではなかった。サブセグメント分析で眼圧が26mmHg以上の患者(緑内障の新患の2割が該当)の成績が見劣りしたため、二本目の試験の解析対象を20~25mmHgの患者だけに変更したところ、非劣性解析に成功した。従って、26mmHg以上は適応外とされるだろう。

効果がやや弱い場合は増量を考えることになるが、Rhopressaは一日二回投与試験のドロップアウトが多かったので、無理そうだ。18年に米国で承認申請する予定のlatanoprost配合剤は、眼圧が各活性成分だけより2~3mmHg大きく低下するので、高眼圧患者の代替的選択肢になりそうだ。

リンク: Aeria社のプレスリリース





今週は以上です。

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2017年10月8日

2017年10月8日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • aTTP治療薬の第三相が成功 
  • iclaprim、10年を経て再承認申請へ 
  • イグザレルト、ESUS試験はフェール 


【新薬開発】


aTTP治療薬の第三相が成功
(2017年10月2日発表)

ベルギーのAblynx(Euronext Brussels:ABLX)は、ALX-0081(caplacizumab)の第三相試験が成功したと発表した。後天性血栓性血小板減少性紫斑症(aTTP)の急性期治療効果を検討したもので、主評価項目である血小板数正常化までの期間が偽薬比有意に短かった。数値は未発表。

臨床的効能を検証する副次的評価項目は、四項目のうち二項目が成功。aTTP関連死亡・再発・主要血栓塞栓イベントの複合評価項目が偽薬比74%減(主として再発が少なかった)。投与中止後28日間のフォローアップ期間も含めて試験期間中のaTTP再発が67%減少した。

一方、出血性有害事象の発生率は66%と偽薬群の49%を上回ったが、多くは軽中度だった。

aTTPは、フォン・ヴィレブランド(vW)因子を切断するADAMTS13という酵素の機能不全が原因でvW因子の塊ができて毛細血管が狭隘化、赤血球が通過できず破壊される。急性期治療は血漿交換が有効だが、それでも死亡率15%と言われている。

ALX-0081はvW因子を標的とする抗体医薬で、特徴は軽鎖を持たないこと。同社がナノバディと呼ぶ技術で、通常の抗体と比べて分子量が12~15kDaとやや小さく、親和性が高く安定的で、投与方法がフレキシブルとのこと。第三相では、毎日血漿交換療法を行い、免疫抑制剤も使った上で、偽薬またはALX-0081を、初回は10mgをボーラス静注、その後は同量を一日一回、皮注した。

Ablynxは18年に米国で承認申請する計画。EUは今年2月に第二相試験のデータ(血小板数正常化まで3日、偽薬群は4.9日)に基づいて承認申請済み。

リンク: Ablynxのプレスリリース

iclaprim、10年を経て再承認申請へ
(2017年10月4日発表)

Motif Bio(Nasdaq:MTFB)は、MTF-100(iclaprim)の二本目の第三相試験成功を発表した。急性細菌性皮膚皮膚構造感染症(ABSSSI)の治療効果をvancomycinと比較したもので、一本目と同様に、奏効率が米国基準でもEU基準でも非劣性だった。18年第1四半期に欧米で承認申請する計画。

iclaprimはMRSA作用性広スペクトラム抗生剤でグラム陽性菌による感染症の治療に用いる。ロシュが創製、抗生剤分野のスピンアウトであるArpidaが開発して08年に複雑皮膚皮膚構造感染症の治療薬として承認申請したが、FDAも諮問委員会も、EUのCHMPも、承認を認めなかった。

難点は二つあり、一つは非劣性解析の方法。第三相試験は二本とも奏効率がlinezolid比非劣性と判定されたが、非劣性マージン(奏効率の差の95%下限)が12.5%とやや甘く、FDAの基準である10%を用いるとフェールする。第二はQT延長リスク。linezolid群は1~2ミリ秒延びる程度だったが、iclaprim群は6~8ミリ秒延びた。QT延長は必ずしも不整脈につながるとは限りないが、稀だが突然死のリスクを高める可能性があり、回避できるなら回避したほうが良いし、甘受するなら便益を明確にしたい。

Arpidaは開発を断念。その後、iclaprimの開発販売権は転々としたが、最終的にMotif Bioが入手、FDAや諮問委員会の意見に則したデザインで再挑戦。今回の成功につながった。

FDAからABSSSI及びHAP(院内感染肺炎・・・別途、第三相試験中)用途でQIPD(認定感染症治療薬指定)を得ており、承認時には一定期間の市場独占権や換金可能な優先審査バウチャーを獲得できる。大手製薬会社が抗生物質の開発に熱意を喪失したことに危機感を感じて米国議会が導入した制度がよくワークしており、もしインセンティブが無かったらiclaprimはお蔵入りしていたかもしれない。

それはそれとして、承認されるかどうか、売れるかどうかは未だ不透明なところが残っている。最初の第三相と対照薬を変えたのは、FDA諮問委員会の助言も得ているので、おそらく問題はないだろうが、他に何か弱点が見つかった時に減点材料になりかねない。安全性はQT延長リスクが減点だが、腎毒性が小さく腎臓疾患を持つ患者に使いやすいのは加点材料。抗生物質は承認審査の過程で稀だが深刻なリスクが表面化することがしばしばあり、油断を自戒しなければならない。

尚、治療時出現有害事象は、それによる治験離脱は一本はvancomycin群と同程度、もう一本は少ない。深刻例も一本は同程度、もう一本は少なく、死亡例は二本とも試験薬群がゼロ、vancomycin群一例だった。

リンク: Motifのプレスリリース

イグザレルト、ESUS試験はフェール
(2017年10月5日発表)

バイエルとジョンソン・エンド・ジョンソンは、経口Xa阻害剤、Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)のNAVIGATE ESUS試験がフェールしたことを明らかにした。発症後間もない、塞栓源を特定できない塞栓性脳卒中(ESUS)の患者7214人を31ヶ国の施設で組入れて、Xarelto(15mgを一日一回)とアスピリン(100mg一日一回)の二次予防効果を比較したが、独立データ監視委員会が中間解析で無益性を認定した。

効果の面ではアスピリンを有意に上回る確率は極めて低いと判定された。安全性主評価項目である大出血(ISTH基準)は両群とも少なかったが、Xarelto群のほうが多かった。

Xareltoは様々な血栓塞栓性疾患に承認されていて、脳梗塞では心原性脳卒中予防に用いられている。心房細動患者は心臓の血流が滞って血栓ができることがあり、流れて脳血管で詰まると心原性脳梗塞になる。一方、ESUSは検査をしても血栓ができた原因が分からない。虚血性脳卒中の25%が該当すると言われる。塞栓ならXa阻害剤が有効であっても不思議はなかったが、残念な結果になった。

リンク: 両社のプレスリリース





今週は以上です。

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2017年10月1日

2017年10月1日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • フェンフルラミンのドラベ症候群試験が成功 
  • 5HT6アンタゴニストのアルツハイマー病試験がまたフェール 
  • ロシュ、パージェタのアジュバント適応拡大を申請 
  • FDA諮問委員会はPTCの筋ジストロフィー用薬を支持せず 
  • イーライリリーのCDK4/6阻害剤が早くも承認 
  • ノボ、アスパルトの新製剤が米国でも承認 
  • DupixentがEUでも承認 


【新薬開発】


フェンフルラミンのドラベ症候群試験が成功
(2017年9月29日発表)

米国カリフォルニア州の希少疾患用薬開発会社、Zogenix(Nasdaq:ZGNX)は、ZX008(fenfluramine hydrochloride)の第三相ドラベ症候群試験が成功したと発表した。もう一本進行中で、結果を見て18年下期に欧米で承認申請する計画。

ドラベ症候群は乳幼児期から痙攣発作を起こす。多くはナトリウムチャネル遺伝子の機能低下変異を持つ。fenfluramineは1990年代にダイエット薬としてブームになったが、心臓弁膜症や肺高血圧症のリスクが表面化、メーカーは数兆円のPL訴訟和解金を拠出した。当時の用量は一日60~120mg。ZX008は経口液で用量は小さい。今回の試験では一日0.8mg/kgと0.2mg/kgをテストしたところ、痙攣発作頻度が治療前(平均で40回/月)と比べて各72%と33%減少、両群とも偽薬群の17%減を有意に上回った。

二次的評価項目の多くも有意差があった由だ。深刻有害事象は各群12.5%、10.3%、10.0%。有害事象による治験離脱は各群39~40人のうち5人、ゼロ、ゼロとなっており、高用量は効果も高いが忍容性も若干悪化するようだ。尚、この試験は滴定を導入している。

上記のデータは、北米試験と欧豪試験の事前に計画された統合解析とのこと。治験登録によれば目標症例数はどちらも120人だが、統合解析対象は119人なので、患者組入れが進まず途中でプロトコルを変更したのかもしれない。

もう一本の第三相は、ドラベ症候群の標準的治療法であるstiripentol、valproate、そしてclobazamの三剤併用している患者に追加する効果を検討しており、こちらの方がハードルは高そうだ。薬物相互作用がある模様で、第1コフォートで薬物動態などを探索、モノセラピー時の0.8mg/kgに相当する0.5mg/kgを選択し、第2コフォートで偽薬対照試験を実施している。組入れは各群40例。

リンク: Zogenixのプレスリリース

5HT6アンタゴニストのアルツハイマー病試験がまたフェール
(2017年9月26日発表)

Axovant Sciences(Nasdaq:AXON)は、intepirdineの第三相軽中度アルツハイマー病試験がフェールしたと発表した。認知機能評価スコアであるADAS-Cogも、日常生活機能スコアであるADCS-ADLも偽薬群比有意な差が無かった。

intepirdineはスミスクライン・ビーチャムがSB742457として開発した5HT6アンタゴニスト。後期第二相試験がフェールし開発中止となったが、14年にAxovantの親会社であるRoivant Neurosciencesが開発販売権を取得、第三相を断行した。5HT6アンタゴニストはルンドベックのLu AE58054(idalopirdine)も第三相試験二本がフェールした。

intepirdineはレヴィ―小体性認知症の後期第二相試験も進行中で、年内に開票する見込み。アルツハイマー試験で用いた35mgに加えて、5-HT2A作用が増強される70mgもテストしている。

リンク: Axovantのプレスリリース


【承認申請】


ロシュ、パージェタのアジュバント適応拡大を申請
(2017年9月29日発表)

ロシュはPerjeta(pertuzumab、和名パージェタ)をher2陽性早期乳癌の切除術後アジュバント療法に用いる適応拡大申請を米国で行い、受理された。優先審査で、期限は来年1月28日。

Perjetaはher2のHercetptin(trastuzumab)とは異なった箇所に結合する抗2C4ヒト化抗体で、her2がher1やher3とヘテロダイマーを形成するのを妨げる。これまでにher2陽性転移性乳癌の一次治療とher2陽性早期乳癌のネオアジュバント(切除前に腫瘍を小さくしておく)療法に承認されている。今回も含めて、Herceptin及び化学療法薬と併用するので費用が嵩む。

アジュバントにおける効用はAPHINITY試験で明らかにされた。浸潤性乳癌の再発・死亡のハザードレシオは0.81(95%信頼区間0.66~1.00)、p=0.045。3年浸潤性乳癌無再発生存率は94.1%と偽薬群の93.2%を上回った。統計的に有意だがギリギリセーフなので強いエビデンスとは言えず、治療効果自体もそれほど大きくない。薬にも限界効用逓減則が当てはまることを思い出させる。

全生存期間の解析は未成熟で、ハザードレシオ0.89、95%信頼区間は0.66~1.21となっている。方向性は悪くないが、乳癌の薬は心毒性を持つものが少なくなく、HerceptinもPerjetaも心臓有害事象が若干増加するので、リスクを明確に上回る便益が欲しいところだ。くどいようだが、費用が嵩むし。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会はPTCの筋ジストロフィー用薬を支持せず
(2017年9月28日発表)

FDAの末梢中枢神経系薬諮問委員会は、PTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)がデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)用薬として承認申請したTranslarna(ataluren)を検討し、11人の委員のうち10人が薬効の確認が不十分と判定した。審査期限は10月24日。大方の予想通り、承認されないだろう。

DMDの多くはジストロフィンの遺伝子に欠損があり機能喪失・低下している。ストップコドンという翻訳中止箇所を示す塩基配列が出来てしまったタイプにアミノグリコシドを投与すると変異箇所をリードスルー(読み過ごす)、という発見を受けて長期投与できる物質を探索した結果、生まれたのがatalurenだ。話は似ているが、昨年米国で承認されたSarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)のExondys 51(eteplirsen)のような、核酸医薬ではない。

臨床成績は失望的で、第二相試験がフェール。それでも事後的サブグループ分析に基づいてEUに承認申請し、一旦は否定的意見を受けたものの、不服申し立てが奏功し、ジストロフィン遺伝子にナンセンス変異を持つ、5歳以上で歩行可能な患者に限定して条件付き承認を得ることができた。

米国はFDAが承認申請を認めなかったため第三相試験を開始してからローリング承認申請を開始したが、治験がフェールした。しかし、EU承認で強気になったのか、再び申請し、一旦は受理拒否となったものの、不服申し立てが奏功して受理させることができた。

もう一つ、PTCを勇気付けたであろうことはExondys 51の承認だ。FDAの承認審査担当部署は承認に反対したが、鶴の一声で逆転した。その後、担当部署のヘッドはFDAを去り、鶴女史は健在、米国大統領とFDA長官は規制緩和論者に交代した。エビデンスの弱い薬の承認を取ろうと思ったら、チャンスだ。

尤も、Exondys 51がジストロフィンを増やすことは確認されており、論点は、測定方法の妥当性と、臨床的な意義(筋力増強に結び付くかどうか)だった。atalurenはナンセンス型嚢胞性線維症の第三相試験もフェールしており、作用機序が疑わしくなっている。それだけに、神風が吹かない限り、承認されないだろう。


【承認】


イーライリリーのCDK4/6阻害剤が早くも承認
(2017年9月28日発表)

イーライリリーがホルモン受容体陽性her2陰性転移性乳癌用薬として申請したVerzenio(abemaciclib)がFDAに承認された。適応・用法は、ノバルティスのFemara(letrozole)のような内分泌療法の治療歴を持ち化学療法は未経験の患者にfulvestrant(アストラゼネカのFaslodex)と併用、または、内分泌療法及び化学療法を経験済みの患者にモノセラピーで用いる。承認申請が受理されたのは7月なのでスピード承認だ。

細胞周期進行に関わるCDK(サイクリン依存キナーゼ)4と6を阻害する経口剤で、前者の用途では150mgを、後者は200mgを、一日二回服用する。CDK4/6阻害剤は15年に米国で承認されたファイザーのIbrance(palbociclib)、今年3月承認のノバルティスのKisqali(ribociclib)に次ぐ三剤目。

CDK4/6阻害剤はin vitroでエストロゲンブロッカーとシナジーが見られ開発が活発化したがモノセラピー試験の成績は今一つで、好成績を上げて承認されたのはVerzenioが初。同じCDK4/6阻害剤でも力価が他の薬より4寄りであるため、好中球減少症のリスクが比較的小さく、休薬期なしに連続投与できることが寄与しているのかもしれない。

三剤の併用効果を比べると、まず、一次治療letrozole併用。Verzenioは未承認だが試験は既に成功しており早晩、承認申請されるだろう。PFS(無進行生存期間)をletrozole単剤群と比べたハザードレシオは、Ibranceが0.57、Kisqaliは0.55、Verzenioは0.54で大差なく、95%信頼区間はかなり重なっている。主戦場になりそうな一次治療に関しては三剤大差ないと考えておけば良さそうだ。

尚、Verzenioの試験はletrozoleの代わりにanastrozoleを用いることも可能だったが、単剤投与群のメジアンPFSは三試験とも14ヶ月余で同程度。

二次治療はIbranceがハザードレシオ0.46、Kisqaliは未承認、Verzenioは0.55。信頼区間はかなり重なっているが点推定値は結構違う。fulvestrant単剤投与群のメジアンPFSが各4.6ヶ月と9.3ヶ月で大きな差があり、この二本の試験を単純比較しないほうが良いかもしれない。

個性が出るのが副作用だ。Verzenio以外はG3以上の好中球減少症が高頻度で発生する。一方、Verzenioは他の二剤と異なりG3下痢の発生率が20%と高くG3血小板減少症が4%程度で発生する一方で、静脈血栓塞栓も観察されている。一次治療試験では有害事象による死亡が2.4%と対照群の1.2%を上回ったが、死因は肺感染症3例、塞栓2例、脳虚血1例などだった。

三剤とも、骨髄抑制をモニターするために治療開始前と治療中は全血球計算を行う。KisqaliとVerzenioは肝機能検査も必要。KisqaliはQT延長が見られるためECGも行う。

こうしてみると、最初に発売され適応患者数が一番多いIbranceの優位は、モノセラピー用途を除いて、揺るがないだろう。ノバルティスがFemaraを同梱したパッケージを割安な価格で発売したような、マーケティング面の工夫が必要だろう。

リンク: FDAのプレスリリース

ノボ、アスパルトの新製剤が米国でも承認
(2017年9月29日発表)

ノボ ノルディスクのFiaspがFDAに承認された。糖尿病の治療に用いるミールタイム・インスリンで、同社のインスリン・アスパルトにビタミンとアミノ酸を添加して薬力学・動態を食後のインスリン分泌に近づけた。EUでは今年1月に承認。

リンク: ノボのプレスリリース

AAAのGEP-NET用薬がEUで承認
(2017年9月29日発表)

フランスのAdvanced Accelerator Applications(Nasdaq:AAAP)のLutatheraがEUで承認された。ソマトスタチン様ペプチドにLu-177放射性核種を結合したもので、胃腸膵神経内分泌腫瘍(GEP-NET)のうち、ソマトスタチン受容体陽性で、切除不能、転移性、進行性、G1/G2分化腫瘍の成人に用いる。

米国でも審査中で審査期限は来年1月26日。日本は富士フィルムRIファーマが権利を取得し、今月、ブリッジング試験を開始したところ。

AAAと言えば、GEP-NET用薬を複数ラインアップしているノバルティスがAAA社の買収を狙っていると一部で報道されている。

リンク: AAAのプレスリリース

DupixentがEUでも承認
(2017年9月28日発表)

リジェネロン(Nasdaq:REGN)がサノフィと共同開発した抗IL-4受容体アルファサブユニット抗体、Dupixent(dupilumab)がEUで承認された。中重度のアトピー性皮膚炎で全身性治療の対象者が適応になる。300mg(初回は600mg)を二週間に一回、皮注する。米国では今年3月に承認。日本は2月に承認申請された。 喘息症でも開発中。

米国では薬剤費が年間2~3万ドル前後の高価な薬だが、医薬品の費用対効果を査定するInstitute for Clinical and Economic Researchは年3万ドル相当と踏んでおり、効果や代替的治療法の少なさを考えると、贅沢は言えないのだろう。

リンク: 両社のプレスリリース






今週は以上です。

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