2017年9月10日

2017年9月10日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ESMO:タグリッソ、一次治療試験でタルセバやイレッサに勝つ 
  • ESCO:Imfinziの肺癌維持療法試験成功 
  • オプジーボとヤーボイの腎細胞腫併用試験成功 
  • アッヴィのJAK1阻害剤はアトピーにも有効 
  • 血友病のRNA介入薬が治験許可停止に 
  • アッヴィ、子宮内膜症用薬を米国で承認申請 
  • 大日本住友、ADHD用薬を米国で承認申請 
  • キイトルーダ、EUで膀胱癌に適応拡大 
  • 抗PD-1/PD-L1抗体の多発骨髄腫試験が治験停止に 


【新薬開発】


ESMO:タグリッソ、一次治療試験でタルセバやイレッサに勝つ
(2017年9月8日発表)

ESMO(欧州臨床腫瘍学会)でアストラゼネカのTagrisso(osimertinib、和名タグリッソ)の直接比較試験の結果が発表された。EGFR活性化変異を持つ局所進行性転移性非小細胞性肺癌の一次治療におけるPFS(無進行生存期間)をTarceva(erlotinib)またはIressa(gefitinib)を用いる標準療法群と比較したところ、メジアンPFSが18.9ヶ月と標準療法群の10.2ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.46、統計的に有意な差があった。

全生存期間のハザードレシオは0.63、p=0.0068となったが、まだイベント数が少なく有意性を判定するための閾値が保守的に設定されているため、有意水準には達していない。忍容性面ではG3以上の有害事象の発生率は33.7%対44.8%、有害事象による治験離脱は13.3%対18.1%で何れも低かった。

EGFRチロシンキナーゼ阻害剤のうち、TagrissoはTarcevaやIressaに抵抗性を持つT790M変異型にも有効で、15年に米国で、16年には日欧でも、承認された。米国はEGFR阻害剤による治療歴があるT790M変異型だけが適応なので対象が狭い。一次治療試験の成功を受けて適応拡大申請が行われる見込み。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ESCO:Imfinziの肺癌維持療法試験成功
(2017年9月8日発表)

アストラゼネカの抗PD-L1抗体、Imfinzi(durvalumab)の肺癌維持療法試験の結果がESMOやNew England Journal of Medicine誌で発表された。ステージIII切除不能非小細胞性肺癌で白金薬と放射線療法による一次治療を受けて癌が進行しなかった患者を、Imfinzi群と偽薬群に無作為化割付してPFSを比較したところ、中間解析でハザードレシオ0.52となり、統計的に有意な差が見られた。PD-L1発現の高低を問わず効果があった。

共同主評価項目である全生存の解析はまだ結果が出ていない。

抗PD-1/PD-L1抗体は様々な癌に有効で市場性が大きいため、BMS/小野薬品やMSDを追いかけて多くの製薬会社が臨床試験を進めている。先行会社と同じことをやっても差別化できないので、今回のように独自の用途用法を開拓することが重要だ。アストラゼネカは適応拡大申請に向けて審査機関と相談する考え。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース
リンク: Antoniaらの治験論文(NEJM誌)

オプジーボとヤーボイの腎細胞腫併用試験成功
(2017年9月7日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)とYervoy(ipilimumab、和名ヤーボイ)の末期腎細胞腫一次治療試験が成功したと発表した。夫々3mg/kgと1mg/kgを三週間に一回、合計4回投与して、その後はOpdivoだけを同じ用量で2週間に一回投与するレジメンと、ファイザーのSutent(sunitinib)を投与する群と反応率やPFS、全生存期間を比較したもの。主解析対象は全体の75%を占める中重度リスク因子を持つ患者。

主評価項目のうちORR(客観的奏効率)は41.6%対26.5%で有意に上回ったが、PFSに関してはハザードレシオが0.8と数値は良さそうだが解析の多重性を排除するために閾値が低く設定されていたことから、有意差は出なかった。今回は新たに全生存の解析で有意差が出たことが発表された。データはESMOでアップデートされる予定。

リンク: BMSのプレスリリース

アッヴィのJAK1阻害剤はアトピーにも有効
(2017年9月7日発表)

アッヴィ(NYSE:ABBV)は、ABT-494(upadacitinib)の後期第二相中重度アトピー性皮膚炎試験が成功したことを発表した。局所性治療薬だけでは十分に管理できない患者を一群当り40名程度組入れて、7.5mg、15mg、30mg(一日一回経口投与)の症状改善効果を偽薬群と比較したところ、各群のEASIが39%、62%、74%減少し、偽薬群の23%減を有意に上回った。EASI75奏効率は29%、52%、69%となり、偽薬群の10%を上回った。

深刻有害事象は各群ゼロ、一人、二人となり、偽薬群の一人と大差なかった。症例数が少ないので先に第三相入りした関節リウマチなどのデータを見たほうがよいだろう。

リンク: アッヴィのプレスリリース

血友病のRNA介入薬が治験許可停止に
(2017年9月7日発表)

Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)と開発パートナーのサノフィは、FDAがALN-AT3/SAR439774(fitusiran)の治験許可を停止したと発表した。致死的血栓イベントが一例、発生したため。第三相試験入りしたところなので遅れは痛いが、副作用自体はありがちなものなので、数が増えない限り大きな問題にはならないのではないか。

fitusiranはRNA介入と呼ばれるタイプの核酸医薬で、肝臓選択的に抗トロンビンを抑制する。A型やB型の血友病の出血治療やルーチン予防薬として7月に第三相試験が始まったところ。月一回皮注という用法なので頻繁に出血する患者にルーチンに投与する用途に向いている。

治験許可停止(クリニカルホールド)は、第二相のオープンレーベル延長試験でインヒビターを持たない患者の一人が脳静脈洞血栓症を発症、死去したことが原因。血栓ができない患者をできる患者に変える薬なので血栓塞栓性有害事象が発生するのは止むを得ないところがある。

リンク: 両社のプレスリリース


【承認申請】


アッヴィ、子宮内膜症用薬を米国で承認申請
(2017年9月6日発表)

アッヴィ(NYSE:ABBV)とライセンス元であるNeurocrine Biosciences(Nasdaq:NBIX)は、NBI-56418(elagolix)を子宮内膜症用薬として米国で承認申請した。経口ゴナドトロピン放出ホルモン阻害薬で、子宮内膜症による疼痛を改善する。

リンク: アッヴィのプレスリリース

大日本住友、ADHD用薬を米国で承認申請
(2017年9月1日発表)

大日本住友製薬は、米国子会社のサノビオンがdasotralineを成人と青少年のADHD治療薬としてFDAに承認申請したことを発表した。サノビオンの前身で09年に買収したSepracorがSEP-225289という開発コードでADHDや鬱病に開発していた、ドパミンとノルエピネフィリンの再取込を阻害する小分子薬。半減期が長いため一日一回投与で足りる。

リンク: 大日本住友のプレスリリース


【承認】


キイトルーダ、EUで膀胱癌に適応拡大
(2017年9月5日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab)を末期尿路上皮癌に用いる適応拡大を承認したと発表した。白金薬歴を持つ患者の再発治療、またはcisplatin不適患者の一次治療に用いる。米国では5月に承認取得済み。

リンク: MSDのプレスリリース

【医薬品の安全性】


抗PD-1/PD-L1抗体の多発骨髄腫試験が治験停止に
(2017年9月6日発表)

BMSとアストラゼネカは、夫々、FDAが抗PD-1/PD-L1抗体の多発骨髄腫臨床試験の治験許可を停止したことを発表した。

9月3日号で書いたように、MSDのKeytruda(pembrolizumab)の183試験と185試験は、死亡に群間の偏りが発生したためフルクリニカルホールドとなった。FDAは、他社の抗PD-1/PD-L1抗体に関しても、多発骨髄腫に単剤またはpomalidomideやlenalidomideのような免疫調停剤と併用する用法や、他の血液癌に免疫調停剤と併用する用法は、リスクが便益を上回る可能性があると判断した模様だ。

BMSのOpdivo(nivolumab)は再発難治性多発骨髄腫四剤併用第三相試験など3本が部分停止となった。アストラゼネカのImfinzi(durvalumab)は多発骨髄腫新患の第二相がフルに、他の5本は部分的に、治験停止となった。

抗癌剤はオフレーベル使用が少なくなく、臨床試験も活発に行われているので、FDAのプロアクティブな対応は評価できるだろう。

リンク: BMSのプレスリリース(9/6付け)
リンク: アストラゼネカのプレスリリース(9/7付け)





今週は以上です。

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