2017年6月18日

2017年6月18日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ADA:カナグルの心血管アウトカム試験の意義 
  • ADA:トレシーバの心血管リスクはランタス比非劣性 
  • キイトルーダの三剤併用試験で死亡リスク懸念 


【新薬開発】


ADA:カナグルの心血管アウトカム試験の意義
(2017年6月12日発表)

ADA米国糖尿病学会やNew England Journal of Medicine誌でInvokana(canagliflozin、和名カナグル)の心血管アウトカム試験の結果が発表された。心筋梗塞などのリスクを削減する効能が示された一方で、下肢切断や骨粗鬆症のリスクが表面化。この二つのリスクは他のSGLT2阻害剤では観察されておらず、この薬独自の問題なのか、臨床試験実施方法の細部が違うのか、今後の探索課題になるだろう。この臨床試験を行った医療関係者や製薬会社は称賛されるべきである。

思えば、米国でFDAや高名な医学者が血糖治療薬の心血管アウトカム試験を要求した時、日本では、糖尿病患者の死因として最も多いのは癌であって心血管疾患ではないという屁理屈を盾に、必要なしと結論した。こういうのを曲学阿世と呼ぶのだろうか。

血糖治療薬は生存にとって重要なエネルギー代謝システムに影響するせいか様々な副作用を持つ。糖尿病の患者は何十年もの間、薬を飲み続けなければならないのだから、3ヶ月や半年の試験だけでは全ての功罪を洗い出すことはできない。患者数が多いので、1万人年に一人の副作用でも世界では年数千人、数万人が被害を受けることになるから軽視できない。長期、大規模な心血管アウトカム試験を行えば、様々な副作用に関して統計学的にある程度価値のある情報を収集することができる。

今回の試験は、医学研究において謙虚な姿勢がいかに重要か、真実に対する謙虚さを失った権威が如何に有害であるかを示した。

発表されたデータはCANVAS試験とCANVAS-R試験の統合分析結果で、通常と異なるので最初に経緯を説明しよう。ジョンソン・エンド・ジョンソンは、当初、CANVAS試験の中間解析で心血管リスクが大きく増えないことを確認した上で販売承認を取得し、最終解析でFDAの要求基準(リスクが1.3倍以上高まらない)を満たす考えであった。しかし、中間解析の結果がアンブラインドされたために、試験医や患者に先入観を与えて盲検が機能しなくなる可能性が生じた。そこで、新たにCANVAS-R試験をロンチした。

その後、ベーリンガー・インゲルハイム/イーライリリーのJardiance(empagliflozin)の心血管アウトカム試験が成功、主目的である非劣性解析だけでなく、リスク削減効果を検討した優越性解析も成功し、他の血糖治療薬との違いを明らかにした。刺激されて、Invokanaも二本の試験のプール分析で優越性解析を行うことを決めたのである。

対象は二型糖尿病で心血管疾患リスクが高い患者。CANVAS試験は約4300人をメジアン5.7年間追跡。CANVAS-Rは約5800人を2.1年間追跡した。どちらも日本の医療施設は参加していない。CANVAS試験は偽薬、100mg、300mgの三群、CANVAS-Rは100mgで開始し必要なら300mgに増量すると偽薬の二群。統合分析では用量不問で試験薬群とした。

他の血糖治療薬や心血管疾患用薬の使用は夫々の地域の治療ガイドラインに則って行われた。従って、本来なら血糖値の群間差は小さいはずだが、他の試験と同様にCANVAS試験でも偽薬群のA1cは8%超のまま推移し、試験薬群と0.58%の差が生じた。時間の経過とともに試験薬群の値が上昇し群間差が縮小したことも合わせて考えると、国際的な心血管アウトカム試験に参加するような医療施設でも血糖値を良好に管理することはしない/できないことが見て取れる。

主評価項目の心血管疾患死/非致死的心筋梗塞/非致死的脳卒中(MACE)はハザードレシオが0.86(95%信頼区間0.75~0.97)となり、95%上限が1.3を下回ったため、非劣性解析が成功。プロトコルに則ってシーケンシャルに実施された全死亡の優越性解析がフェールしたため、その後に予定された解析は有意性を失った。

MACEの優越性解析は、p値が0.02となったため、成功認定された。但し、この解析が上記のシーケンスの中に納まっているのか、それとも多重性のリスクが内包されているのかは明らかではない。カプランマイヤー・カーブを見ると、1年半経った辺りから二本の曲線が乖離している。

MACEの1000人年当り発生率は偽薬群31.5、Invokana群26.9なので、number needed to treatは結構大きい。一方、深刻な有害事象の1000人年当り発生率は各120.0対104.3なので、Number needed to harmのほうが小さい。問題の下肢切断は1000人年当り6.3対3.4でハザードレシオ1.97(95%信頼区間1.41~2.75)。

骨損壊は同じく15.4対11.9、ハザードレシオ1.26(1.04~1.52)。CANVAS-R試験では増加しなかったが、追跡期間がかなり異なることが原因かもしれない。

JardianceのEMPA-REG OUTCOME試験はハザードレシオが0.86(95%信頼区間0.74~0.99)、優越性解析のp値は0.04なので全体的に大差ない。偽薬群の主評価項目発生率は100人年当り4.39とやや高いので、EMPA-REG OUTCOME試験のほうが高リスクの患者を組入れたことになる。

心不全入院の減少はどちらも同じ。EMPA-REG OUTCOME試験では骨折が増えなかった。下肢切断は、この試験でもJardianceの全臨床試験のプール解析でも増えなかったことが今年のADAで発表された。尤も、メジアン追跡期間が3.1年とCANVAS試験より短いので、長期的な転帰は不透明なところがある。

下肢切断リスクに関する欧米の当局の判断は分かれており、EUはSGLT2阻害剤のクラス・イフェクトと判断したがFDAはInvokanaについてだけ警告した。難しいところだが、現時点では、Invokanaを使わなければならない理由はないように感じられる。

リンク: ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース(pdfファイル)
リンク: Nealらの治験論文(NEJM)
リンク: ベーリンガーらのADA発表に関するプレスリリース(6/13付)

ADA:トレシーバの心血管リスクはランタス比非劣性
(2017年6月12日発表)

ADAではノボ ノルディスクの持効性インスリン、Tresiba(insulin degludec、和名トレシーバ)の心血管アウトカム試験であるDEVOTE試験の結果も発表された。二型糖尿病で心血管リスクの高い約7600人をTresiba群とサノフィの持効性インスリンのベストセラー、Lantus(insulin glargine、和名ランタス)群に無作為化割付して心血管死/非致死的心筋梗塞/非致死的脳卒中の複合評価項目の発生リスクを比較したもの。

結果は、ハザードレシオが0.91(95%信頼区間0.78~1.06)となり、95%上限が1.3を下回ったため、非劣性であることが確認された。イベント発生率は各群8.5%と9.3%、死亡率は5.3%と5.8%だった。Tresibaの長所はインスリンの血中濃度が安定的に推移するため低血糖リスクが小さいこと。本試験でも、重度低血糖のオッズレシオは0.79(95%信頼区間0.60~0.89)と、有意に小さかった。ノボは今回のデータをEUで承認申請した。他の地域でも申請予定。

リンク: ノボのプレスリリース

【医薬品の安全性】


キイトルーダの三剤併用試験で死亡リスク懸念
(2017年6月12日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)の臨床試験のうち二本の新規組入れを中断すると発表した。死亡者数に群間の偏りが見られたため、データ監視委員会が勧告しMSDが受け入れた。既組入れ患者に対する投与は続行する。勿論、被験者に今回の情報を伝えて同意書を撤回するかどうか確認することが最優先だろう。

何れも多発骨髄腫の第三相三剤併用試験で、KEYNOTE-183試験は再発性難治性で三次治療を受ける患者にpomalidomide(セルジーンのPomalyst/Imnovid)と低量dexamethasoneを併用する標準療法と三剤併用、KEYNOTE-185試験は初めて治療を受ける自家造血幹細胞移植不適患者にlenalidomide(セルジーンのRevlimid)と低量dexamethasoneのRd療法と三剤併用を、夫々、比較するもの。

抗PD-1/PD-L1抗体も深刻な有害事象が発生することがあり、多剤併用の組み合わせによっては副作用が許容範囲を超えることもあるだろう。メーカー各社は併用法の開発をアグレッシブに進めているが、危険な兆候が生じた時は、今回のMSDのように、一旦立ち止まって足元を確かめることが肝要だ。

BMS/小野のOpdivo(nivolumab)もRd療法と併用でくすぶり型多発骨髄腫に第二相試験を実施している。この状況も気になるところだ。

リンク: MSDのプレスリリース







今週は以上です。

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