2017年6月4日

2017年6月4日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ASCO:LoxoのTRK阻害剤は反応率76% 
  • ASCO:リリーのCDK4/6阻害剤は先行品と大差なさそう 
  • ASCO:ザイティガはホルモンナイーブにも有効 
  • テバの抗CGRP抗体も第三相が成功 
  • ムコ多糖症VII型の治療薬が欧米で承認申請 
  • GSKとViiV、二剤だけの抗HIV療法を欧米で承認申請 
  • スーテント、アジュバントに適応拡大申請 
  • ノボの第IX因子、米国はルーチン予防を承認せず 
  • EUで脊髄性筋萎縮症用薬が承認 
  • CLN2治療薬もEUで承認 
  • ファイザーのB群髄膜炎菌ワクチンがEUで承認 
  • EU、オプジーボを膀胱癌に承認 



【新薬開発】


ASCO:LoxoのTRK阻害剤は反応率76%
(2017年6月3日発表)

米国コネチカット州の医薬品開発企業、Loxo Oncology(Nasdaq:LOXO)は、ASCO(米国臨床腫瘍学会)で、LOXO-101(larotrectinib)の第一相、第二相試験合計50人の成績を発表した。TRK融合蛋白型の腫瘍に対する効能を調べた試験で、ORR(客観的反応率)は76%、このうち完全反応率12%、部分反応率64%と、中々良いものだった。

今回の試験はTRK融合蛋白陽性なら癌の発生部位は不問で、17種類の癌が組み入れられたが、比較的多かったのは唾液腺腫、幼児線維肉腫、甲状腺、結腸、肺、黒色腫、紡錘細胞肉腫、胆管癌、筋周皮腫。

NTRKはtropomyosin receptor kinase(TRK)をコードする遺伝子だが、癌のごく一部(0.5~1%)では他の遺伝子との融合により受容体結合ドメインが欠落、レガンドの刺激がなくても活性化してしまう。このような癌を標的とすべくArray BioPharma(Nasdaq:ARRY)がLoxo社の支援を受けて創製したのが高度選択的TRK阻害剤LOXO-101とバックアップだ。一日二回、経口投与する。

TRKはニューロンの制御に関与しているため、神経認知学的副作用が独自の副作用。全125症例の有害事象分析では、G3の眩暈が2%で発生。有害事象による減量が13%で発生し、その殆どは神経認知性有害事象だった。

Loxoは第三者によるORRの査読を行ったうえで来年初めまでに承認申請する考え。NTRK融合蛋白の判定を行うコンパニオン・ダイアグノスティックもVentana社と開発中。

リンク: Loxo社のプレスリリース

ASCO:リリーのCDK4/6阻害剤は先行品と大差なさそう
(2017年6月3日発表)

イーライリリーのCDK4/6阻害剤、LY2835219(abemaciclib)の第三相試験結果もASCOで初発表された。PFS(無進行生存期間)のハザードレシオは0.553で、先行するCDK4/6阻害剤であるファイザーのIbrance(palbociclib)やノバルティスのKisqali(ribociclib)のデータと大差なかった。直接比較試験ではないので誤差範囲を多めに想定すべきであり、結論としては、三剤の薬効は大差ないと考えるべきだろう。

この試験は、ホルモン受容体陽性、her2陰性の閉経後乳癌で切除術後の補助療法や転移癌の一次治療でホルモン療法を既に受けた女性を組入れて、fulvestrantと併用する効果を偽薬と比較した。メジアンPFSは16.4ヶ月(偽薬群は9.3ヶ月)、ORRは48.1%(同21.3%)だった。主なG3以上の有害事象の発生率は下痢が13%(同0%)、好中球減少症が23%(同1%)で発生した。

LY2835219は今回のデータと第二相のデータに基づいて今年4~6月期に承認申請。一次治療試験も成功しており、7-9月期に承認申請予定。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

ASCO:ザイティガはホルモン・ナイーブにも有効
(2017年6月3日発表)

ASCOではジョンソン・エンド・ジョンソンのZytiga(abiraterone acetate、和名ザイティガ)の適応拡大試験の結果も発表された。転移性前立腺癌用薬で、2011年の初承認時の適応はホルモン療法に反応しなくなり癌の症状が悪化して化学療法を受けたが再発/無効だった患者、翌年の適応拡大はその一歩前の段階であるホルモン療法抵抗性無/軽度症候性患者だったが、今回は更に手前の試験が成功、日本も含めて、適応拡大申請した。対象患者数が再び大きく増加することになる。

このLATITUDE試験は、転移性前立腺癌で初めてホルモン療法を受ける(ナイーブ)患者のうち、Gleason scoreや骨転移、内臓転移の状況などから高リスクと判定された患者を組入れて、ADT(アンドロゲン除去療法薬)群とZytigaとprednisoneを併用する三剤併用群の全生存期間を比較した。結果は、ハザードレシオが0.62、p値は0.0001未満、メジアン値は標準療法群が34.7ヶ月、三剤併用群は未到達と大変良い結果になった。主なG3以上の有害事象は高血圧や低カリウム血症。

前立腺癌は進行の遅いものが少なくないため副作用のきつい化学療法は癌が進行して骨転移痛などの症状が強くなるまで待つことが多い。今回のデータは便益と危険のバランスが取れているように見えるので、再考の契機になるのではないか。適応拡大なので今週のトピックスの3番目に置いたが、臨床的な重要性は一番かもしれない。

リンク: ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

テバの抗CGRP抗体も第三相が成功
(2017年5月31日発表)

テバ・ファーマスーティカルズ(NYSE:TEVA)はTEV-48125(fremanezumab)の第三相慢性片頭痛予防試験が成功したと発表した。発生日数の減少は偽薬群が2.5日、試験薬を四半期毎に皮注した群は4.3日、月一回皮注群は4.6日となり、どちらの投与頻度も偽薬比有意な差があった。反復性片頭痛の第三相も結果がまもなく判明する見込み。年内承認申請を予定。

元々は2001年にジェネンテックからスピンアウトしたRinat社がRN-307として開発したもの。06年にRinatを買収したファイザーが12年にアウトライセンスした先の会社を14年にテバが2億ドルと後発債務6.25億ドル相当で買収、という経緯だ。

リンク: テバのプレスリリース

【承認申請】


ムコ多糖症VII型の治療薬が欧米で承認申請
(2017年5月23日発表)

Ultragenyx Pharmaceutical(Nasdaq:RARE)は、UX003をムコ多糖症VII型の治療薬として欧米で承認申請し受理されたと発表した。ベータ・グルクロニダーゼの欠乏を補充する、遺伝子組換え型酵素補充療法。5~35歳の12人を組入れた試験では、4mg/kgを二週間に一回、投与したところ、尿中のグリコサミノグリカン・デルマタン硫酸が64%減少した。

EUはこの評価方法を代理マーカーとして受け入れたが、FDAは認めず、各患者のデータを総合的に評価する考え。米国の審査期限は11月16日。

リンク: Ultragenyxのプレスリリース

GSKとViiV、二剤だけの抗HIV療法を欧米で承認申請
(2017年6月1日発表)

グラクソ・スミスクラインとViiVヘルスケアは、dolutegravirとrilpivirineの合剤をHIV/AIDSの維持療法として欧米で承認申請した。

HIV/AIDSの治療は二種類の核酸系逆転写阻害剤とそれ以外の作用機序を持つ薬を併用するHAART(highly aggressive antiretroviral therapy)が一般的だが、今回の合剤は、ウイルス抑制に成功した患者の維持療法としてインテグラーゼ阻害剤とジョンソン・エンド・ジョンソンの非核酸系逆転写阻害剤の二剤だけを用いるもので、画期的。

米国はバウチャーを使用、優先審査を受ける。1.3億ドルの費用はGSKの2017年第2四半期決算で計上する由。この金額が総額なのか、GSKの分担額なのかは不明だが、SareptaがGileadに売却した時の価格は1.5憶ドルと報じられているので、総額またはそれに近いのだろう。

優先審査バウチャーは感染症や小児希少疾患などの新薬を開発した会社に褒美として供与する米国特有の制度で、別の薬を承認申請する時に優先審査を受けることができる。転売も可能で、当初は3~6憶ドルの値段が付いたが、供与例が増えて需給が緩んだのだろう。

リンク: GSKとViiVヘルスケアのプレスリリース

スーテント、アジュバントに適応拡大申請
(2017年5月31日発表)

ファイザーは、Sutent(sunitinib、和名スーテント)を難治性腎細胞腫の摘出術後附随療法(アジュバント)に用いることを欧米で承認申請し受理されたと発表した。米国の審査期限は来年1月。現在は末期腎細胞腫などに承認されている。

アジュバント試験は二本実施され、北米で実施された一本目はSutentも同じVEGFR阻害剤であるバイエルのNexavar(soratinib)もフェールしたが、欧米アジアで実施されたS-TRAC試験が成功。第三者査読のDFS(無病生存期間)のハザードレシオは0.761、メジアン値は6.8年、偽薬群は5.6年だった。高リスクサブグループではメジアン6.2年、偽薬群は4.0年と差が広がった。

リンク: ファイザーのプレスリリース

【承認】


ノボの第IX因子、米国はルーチン予防を承認せず
(2017年5月31日発表)

ノボ ノルディスクはFDAがRebinyn(nonacog beta pegol)をB型血友病治療薬として承認したと発表した。18年第1四半期に発売予定。遺伝子組換え型第IX因子で、IX因子活性化ペプチドにポリエチレングリコールを結合する手法で半減期を5倍に伸ばしたもの。頻繁に出血する患者は予防目的で血液凝固因子をルーチン投与することがあるが、Rebinynは週一回投与で足りるので利便性が高い。

欧州では3月にCHMPがRefixia名で肯定的意見を出しているが、まだ承認はされていないようだ。用途は12歳以上のB型血友病患者の出血治療、手術時の出血管理、そして頻繁に出血する高リスク患者に予防目的でルーチン投与の三種類。一方、米国はB型血友病の成人、青少年の出血治療と手術中出血管理だけで、レーベルにはルーチン予防は未承認であることが明記されている。米国はオフレーベル使用が比較的容易だが、レーベルで明示的に否定されてしまったのは、商業的に重要な用途だけに、痛い。

リンク: ノボのプレスリリース

EUで脊髄性筋萎縮症用薬が承認
(2017年6月1日発表)

先週は3月と4月のCHMPで肯定的意見を受けた新薬や適応拡大が続々と承認された。

バイオジェンがIonis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)からライセンスして開発したアンチセンス薬、Spinraza(nusinersen)は脊髄性筋萎縮症の治療薬としてEUで承認。

希少疾患で、日米欧の患者数は3~3.5万人と推定されている。殆どの患者がSurvival Motor Neuron(SMN)の遺伝子であるSMN1に変異を持ち、十分に機能するSMNを産生できない。幼小児発症型と成人発症型があるが、EUは幼小児発症型に多い第5染色体に変異を持つタイプを適応とした。

これまでのアンチセンス薬は特定の蛋白の発現を阻害するメカニズムだったが、Spinrazaは、短いSurvival Motor Neuron(SMN)しか作れないSMN2遺伝子のスプライシングを変えることによって、SMN1遺伝子の代わりに正常なSMNを作らせる、正の作用を利用していることがユニークだ。I型(幼児発症型)試験では、反応率が51%と文献データの0%を大きく上回った。人工呼吸器が恒久的に必要になったり死亡したりするリスクも半減した。II型試験では筋肉機能評価スコアが用量依存的に改善した。

髄腔内投与で最初は2ヶ月間に4回投与、その後は4ヶ月に一回投与する。米国では昨年12月に承認された。日本も臨床試験に参加しており、昨年12月に承認申請された。

リンク: バイオジェンのプレスリリース

CLN2治療薬もEUで承認
(2017年6月1日発表)

バイオマリン・ファーマスーティカルズ(Nasdaq:BMRN)のBrineura(cerliponase alfa)もEUで承認された。同社が得意とする超希少疾患用の酵素補充療法で、適応症はCLN2(神経セロイドリポフスチン症2型)。TPP1/CLN2遺伝子の変異が原因でトリペプチジルペプチダーゼを作ることができず、この酵素で分解されるべき蛋白が蓄積してしまう。2~4歳で発症、6歳までに歩行・会話能力を失い、8~12歳で死亡することが多い、深刻な疾患だ。罹患率は20万人に一人とされる。

Brineuraは遺伝子組換え型のヒトTPP1で、二週間に一回、脳室内に点滴投与する。臨床試験では運動機能や言語機能の悪化が文献データ比8割少なかった。米国では4月に承認され、年49万ドル程度の価格(正味薬価ベース)で発売された。

リンク: バイオマリンのプレスリリース

ファイザーのB群髄膜炎菌ワクチンがEUで承認
(2017年5月30日発表)

ワクチンでは、ファイザーのB群髄膜炎菌ワクチン、TrumenbaがEUで承認された。B群は様々な株があるが、TrumenbaはサブファミリーAとBのfHbp(H因子結合蛋白)を抗原としており、1800種類以上に対応している。

米国では14年に承認されたが、流行が限定的であるせいか、ACIPワクチン委員会は接種の当否をケースバイケースで判定するよう推奨するに留めた。欧州はACWY群のワクチンが普及しこれらの感染例が減少するとともにB群の比率が上昇しており、もっと普及する可能性がありそうだ。13年に欧州で承認されたGSKのBexseroがライバルになる。

リンク: ファイザーのプレスリリース

EU、オプジーボを膀胱癌に承認
(2017年6月2日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)を切除不能な局所進行性・転移性尿路上皮細胞腫に用いる適応拡大がEUで承認されたと発表した。白金薬による治療がフェールした患者が適応になる。第二相試験では持続的反応率が20%、メジアン反応持続期間は6ヶ月超。被験者の46%を占めるPD-L1陽性型では持続的反応率25%、それ以外では16%だった。

Yervoy併用試験が活発に実施され学会発表も盛んであるためか、4月にCHMPが肯定的意見を出した時のEMAのプレスリリースには、黒色腫以外はモノセラピーしか承認されていないことが明記されていた。

リンク: BMSのプレスリリース






今週は以上です。

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