2016年10月30日

2016年10月30日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • 抗PD-L1抗体が治験許可部分停止に 
  • GSK、帯状疱疹ワクチンを米国で承認申請 
  • 脊髄性筋萎縮症用薬が欧州でも承認申請 
  • PortolaもXa阻害剤を承認申請 
  • Tesaro、PARP阻害剤をEUで承認申請 
  • アクテムラのライバルは審査完了に 
  • キイトルーダ、肺癌一次治療に承認 


【新薬開発】


抗PD-L1抗体が治験許可部分停止に
(2016年10月27日発表)

アストラゼネカは、MEDI4736(durvalumab)の頭頸部扁平上皮腫試験がパーシャル・クリニカル・ホールドになったことを公表した。第三相試験二本で出血リスクの増加が見られたため、FDAが治験許可を部分的に停止、この用途の試験は単剤投与も併用も、新規患者組入れを禁じた。

MEDI4736はロシュのTecentriq(atezolizumab)と同様にPD-L1を標的とする抗体医薬。頭頸部癌のほかに非小細胞性肺癌などでも第三相試験中で、ファイザーからライセンスした抗CTLA4抗体のCP-675,206(tremelimumab)との併用も試験している。血液癌ではセルジーン(Nasdaq:CELG)が開発権を取得、セルジーンの薬との併用などを検討する。先行品に追い付くために併用法を重視しているのだろう。

昨年も間質性肺疾患の有害事象が原因で非小細胞性肺癌試験が中断されたことがあったが、EGFR阻害剤Tagrisso(osimertinib、和名タグリッソ)と併用しており、Tagrissoは単剤でも間質性肺疾患のリスクがあるので、MEDI4736が悪い訳ではないかもしれない。今回の第三相頭頸部癌試験は単剤投与群とtremelimumab併用群が設けられているが、どちらの群でリスクが高まったのかは明らかでない。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

【承認申請】


GSK、帯状疱疹ワクチンを米国で承認申請
(2016年10月24日発表)

グラクソ・スミスクラインはShingrixをFDAに承認申請した。帯状疱疹ウイルスの糖タンパクEを抗原、AS01-Bをアジュバントとする遺伝子組換え型帯状疱疹予防用ワクチンで、50歳以上が対象。2~6ヶ月おいて2回、筋注する。第三相試験では帯状疱疹リスクが90%以上、削減された。ヘルペス後神経痛も90%前後、削減された。

同社はワクチン領域で世界三大企業の一つ。低所得国における感染症対策やワクチンの普及に熱心に取り組んでいる。

リンク: GSKのプレスリリース

脊髄性筋萎縮症用薬が欧州でも承認申請
(2016年10月28日発表)

バイオジェンは、nusinersenを脊髄性筋萎縮症用薬としてEUに承認申請し、受理されたと発表した。加速審査を受ける。米国でも9月にローリング承認申請が完了、受理された。優先審査を受けるが、審査期限は公表されていない。製品名はSpinrazaとなる見込み。

Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)からライセンスしたアンチセンス・オリゴヌクレオチド。脊髄性筋萎縮症は神経筋の成長や機能に係るSurvival Motor Neuronの遺伝子、SMN1の欠損が関与していて、両親から継承すると発症する。nusinersenはSMN1と似ているSMN2遺伝子のスプライシングを変えて、Survival Motor Neuronを発現できるようにする。

髄腔内投与。幼児発症型の患者122人を組み入れた第三相試験(日本の施設も参加)では中間解析で奏効率がシャム群を有意に上回った。

リンク: バイオジェンのプレスリリース

PortolaもXa阻害剤を承認申請
(2016年10月25日発表)

Portola Pharmaceuticals(Nasdaq:PTLA)は、PRT054021(betrixaban)を急性疾患入院患者の静脈血栓塞栓予防薬として米国で承認申請した。リスクとベネフィットのバランスが難しい分野であり、第三相試験のデザインも結果も万全とは思えないので、全てのデータを踏まえて総合的な判断が必要だだろう。

第三相のAPEX試験では、心不全や脳卒中、感染症、肺疾患などで入院した静脈血栓塞栓のリスク因子(75歳以上、D-ダイマーが通常上限の2倍以上など)を持つ患者7513人を組入れて、標準的薬物療法(enoxaprin 40mgを一日一回、6~14日間に亘って皮注)とbetrixaban(80mgを一日一回、35~47日間経口投与)の発生状況を比較した。主評価項目は三つ、シーケンシャルに行った。

最初のD-ダイマー上昇コフォート(全集団の62%を占めた)の解析は、相対リスク0.806、p=0.054でフェール。次に、D-ダイマー上昇または75歳以上のコフォート(91%)は0.800、p=0.029。最後に、全集団の解析は0.76、p=0.006となった。大出血や致死的出血のリスクは大差なかった。頭蓋内出血は増加したが有意ではない。

この試験の問題は、第一に、解析計画。最初の解析に全てのアルファ(0.05)を付与しているので、二番目以降の解析のp値が幾つであったとしても統計学的には意味がなく、仮説検証試験としてはフェール以外の何物でもない。このような解釈を受け入れるつもりがないなら、三つの解析全てにアルファを配分すべきだった。

次に、便益の大きさ。症候性深静脈血栓・肺塞栓・深静脈血栓による死亡の発生率の群間差は0.6ポイント程度で決して大きくない。enoxaparin投与期間中の差はもっと小さく、予防効果の差の一部は投与期間の違いが寄与しているのだろう。

betrixabanはXa阻害剤。既存のXa阻害剤との違いは、半減期が19~25時間と長く一日一回服用に適していること。迅速な解毒が必要な時は同社のAndexXa(andexanet alfa)を使えばよい。また、代謝されずに主として便と一緒に排出されるため、腎機能やCYP相互作用の制約が小さい。上記の試験では重度腎障害やP糖タンパク強阻害剤を併用する患者は半量を投与した。

リンク: Portolaのプレスリリース


Tesaro、PARP阻害剤をEUで承認申請
(2016年10月27日発表)

Tesaro(Nasdaq:TSRO)は、欧州薬品庁(EMA)がniraparibの承認申請を受理したと発表した。白金薬感受性の難治性卵巣癌で白金薬ベースの化学療法に反応した患者の維持療法に用いる。米国でもローリング承認申請中。

遺伝子修復に関与するPoly (ADP-ribose) ポリメラーゼを阻害する、PARP 1/2阻害剤。同様な作用機序を持ち14年に欧米で卵巣癌の四次治療薬として承認されたアストラゼネカのLynparza(olaparib)や、Clovis Oncology(Nasdaq:CLVS)がファイザーからライセンスして開発し8月に米国で承認申請したCO-338/PF-01367338(rucaparib)との違いは、第三相試験で生殖細胞性BRCA変異のない患者にも有効であったこと。

変異のある患者ではPFS(無進行生存期間)のメジアン値が21.0ヶ月で偽薬群の5.5ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオは0.27、p<0.0001。ない患者では9.3ヶ月対3.9ヶ月、ハザードレシオ0.45、p<0.0001だった。

niraparibはMSDのMK-4827をライセンスしたもの。

リンク: Tesaroのプレスリリース

【承認審査・委員会】


アクテムラのライバルは審査完了に
(2016年10月28日発表)

リジェネロン・ファーマスーティカルズ(Nasdaq:REGN)とサノフィはREGN88/SAR153191(sarilumab)を中重度活性期リウマチ性関節炎の治療薬として欧米で承認申請していたが、米国はFDAから審査完了通知を受領した。承認を得るためにはサノフィの充填製剤工場におけるcGMPに係る欠陥の是正が必要で、サノフィは是正計画を提出済み。

sariumabは中外/ロシュのActemra(tocilizumab、和名アクテムラ)と同様にIL-6受容体を標的とする抗体医薬。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認】


キイトルーダ、米国で肺癌一次治療に承認
(2016年10月24日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)をPD-L1強陽性の非小細胞性肺癌の一次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。コンパニオン診断キットであるDAKO社のPD-L1 IHC 22C3 pharmDXで腫瘍標本を検査して、PD-L1発現腫瘍比率スコア(TPS)が50%以上であった場合に適応になる。

二次治療では体重1kg当り2mg、75kgの患者なら150mgを三週間に一回投与するが、一次治療は体重に関わらず200mgを三週間に一回。第三相試験ではPFS(無進行生存期間)がメジアン10.3ヶ月と白金ベースの併用療法を施行した群の6.0ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.50、95%信頼区間0.37~0.68となり、全死亡リスクも有意に低かった。

抗PD-1抗体は免疫を強化するため免疫調停的有害事象のリスクも高まる。化学療法薬では見慣れない副作用なので注意が必要だ。深刻な有害事象は肺炎、結腸炎、肝炎、内分泌疾患、腎炎など。命に係る点滴反応のリスクもある。

日本では9月に悪性黒色腫に承認され、非小細胞性肺癌も審査中。日本肺癌学会などが今回の用途で早期承認の要望を行った。

リンク: MSDのプレスリリース




今週は以上です。

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2016年10月23日

2016年10月23日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • GSK、米国でサーバリックスの販売を中止 
  • PTCの筋ジストロフィー用薬の審査状況 
  • MSD、CMV予防薬の第三相が成功 
  • ギリアドがまたまたHCVの新コンビ薬 
  • MSD、キイトルーダの膀胱癌試験が成功 
  • fostamatinibの二本目の第三相はフェール 
  • リジェネロンは抗NGF抗体の開発を続ける計画 
  • MSD、CDI再発予防薬が米国で承認 
  • イーライリリー、新規抗癌剤が承認 
  • ロシュ、抗PD-L1抗体の適応拡大承認 


【今週の話題】


GSK、米国でサーバリックスの販売を中止
(2016年10月21日報道)

グラクソ・スミスクラインがCervarix(和名サーバリックス)の米国での販売を8月に中止していたことが判明した。FiercePharmaの報道によるもので、下記のページにGSKが8月に発出した販売中止通知のリンクもある。安全性や薬効面で問題が浮上した訳ではなく、純粋に商業上の理由、つまり、売れなくて採算が取れないからのようだ。

Cervarixは子宮頸癌の原因になりうるヒトパピローマウイルスのうち16型と18型の遺伝子組換え型抗原を配合した、子宮頸癌予防用ワクチン。既に持続感染している人に対する効果が明確でないため感染リスクの小さい9~10歳前後の時に接種するのがベストだが、キャッチアップ需要もあるため、他の年代の人が接種することも認められている。テイラーメイド・メディスンの観点からは事前に感染検査したほうが良いのではないかと思われるが、義務付けられていない。費用や手間、感染と診断された時の心理的ダメージに配慮したのだろう。

MSDのGardasilは遺伝子型のカバレッジが広いという重要な長所を持つが、上記の弱点・事情は同じだ。この二薬は06年以降、各国で逐次、承認・発売されてきたが普及率は国によってかなり異なる。健康保険のカバレッジ、医師の取り組み、国民の教育水準、副作用問題に対する当局や学会、報道機関の対処などの違いが影響したのだろう。欧州の一部の国では接種回数を三回から二回に減らすことで手間やコストを引き下げた。米国もGardasilの二回接種を認める方向のようだ。しかし、普及を促進するためにはこれだけでは不十分だろう。

一昔前だったら、米国の大統領選や予備選挙の時期になるとどの候補が製薬業界に一番有利か、話題になった。今日では、製薬業界に好意的な候補は直ぐ選挙戦から脱落するので、問題は、誰が大統領になったら一番不利かだ。子宮頸癌ワクチンのような一般大衆が自己の判断で接種する製品を普及させるためには、製薬会社のイメージをもっと向上する必要があるのではないだろうか。

リンク: FiercePharmaの記事

PTCの筋ジストロフィー用薬の審査状況
(2016年10月17日発表)

米国のPTCセラピューティクス(Nasdaq:PTCT)は、ナンセンス変異型デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)用薬Translarna(ataluren)の承認審査状況についてアップデートした。米国は承認されなかったことに対する不服申立てが認められなかった。次の再検討請求手続きに向かう考え。

不服申立て中にSarepta Therapeutics(Nasdaq: SRPT)のExondys 51(eteplirsen)が承認された。審査チームの評価は否定的だったが、FDAの小分子薬評価研究センターのヘッドが鶴の一声を発した。財務面で厳しい状態にあるPTCにとっては天から降りてきた蜘蛛の糸に見えるだろう。

だが、見通しが明るくなったわけではないだろう。FDAはExondys 51を前例としない考えだからだ。先日、FDAのホームページにExondys 51の臨床成績を説明する新設のページを発見した。審査チームのモチベーションはまだ下がっていないのだろう。

一方、14年に承認されたEUでは、年次更新手続き中。条件付き承認なので第三相試験などを行って薬効や安全性を確認する必要があり、PTCは第三相のACT試験を行ったが15年にフェールしてしまった。このため、EUはもう一度試験を行うことを条件に販売許可を更新するか、承認を取り消すか、どちらかを選ぶことになるだろう。PTCは前者を期待しているようだ。

日米欧の何れも条件付き承認制度を導入しているが、欧米は承認後に行われる第三相試験で薬効や安全性が確認されなかった場合、承認を取り消すことができる。患者が欲しているのは新薬ではなく自分に効果があってそこそこ安全な薬であることを考えれば、当然の措置だが、今回のように欧州と米国で判断が異なる場合もあるので運用は難しい。結果論でいえば、EUはFDAと同様に第三相試験の結果が出るまで承認するべきではなかったのだが、効くと効かないは紙一重なので話は単純ではない。。

リンク: PTCのプレスリリース

【新薬開発】


MSD、CMV予防薬の第三相が成功
(2016年10月19日発表)

MSDは、MK-8228(letermovir)の第三相試験成功を発表した。成人同種造血幹細胞移植を受けるサイトメガロウイルス(CMV)抗体陽性の患者を組入れて、CMVの再活性化を予防する効果を検討したもの。データは今後の学会で発表される予定。

MK-8228は、バイエルが感染症用薬部門をスピンアウトして設立したドイツのAiCuris HmbHから12年に権利を取得したもの。quinazolinesという新しいクラスの抗ウイルス剤で、既存のCMV治療・予防薬と異なり、terminase複合体を阻害する。この試験では、移植後約14週間に亘って一日一回、静注または錠剤で投与して、臨床的に重要なCMV感染症の発生を24週間、追跡した。

ClinicalTrials.govによると第3相はこの試験だけ。おそらく、第二相試験のデータと合わせて承認申請に向かうのではないか。

リンク: MSDのプレスリリース

ギリアドがまたまたHCVの新コンビ薬
(2016年10月20日発表)

ギリアド・サイエンス(Nasdaq:GILD)はHIVやHCVの抗ウイルス薬分野で次々と新薬と新コンビ薬を開発・投入している。今回は、プロテアーゼ阻害剤の新薬をポリメラーゼ阻害剤及び複製複合体阻害剤と組み合わせた慢性C型肝炎治療用コンビ薬の第三相試験結果を発表した。既存の自社製品と直接比較した試験もあり、臨床上の位置付けが分かり易い。遺伝子型一型(GT1)は既存薬で十分なので、難治性患者や他の遺伝子型に用いることになるのだろう。また、遺伝子型検査が普及していない国にはこちらのほうが向いているだろう。

この新コンビ薬は、Epclusaの配合成分であるsofosbuvir(NS5Bポリメラーゼ阻害剤、単剤でもSovaldiとして販売)とvelpatasvir(汎遺伝子型NS5A複製複合体阻害剤)に更にvoxilaprevir(汎遺伝子型NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤)を加えたトリプルコンビ。第三相試験はGT1からGT6までの6遺伝子型を対象に、一次治療、NS5A阻害剤経験者の二次治療、それ以外の二次治療などに分けて実施された。

結果は、まず二次治療試験二本では12週間の治療で奏効率(SVR12:投与完了後12週経った段階でウイルス不検出)が96~97%。NS5A阻害剤経験者試験の対照群は偽薬で奏効率は0%、それ以外の二次治療試験は対照群がEpclusaで90%だった。この二本の被験者は4割が肝硬変合併。

直接的抗ウイルス剤(DAA)による治療を初めて受ける患者の一次治療試験は、8週間の治療で奏効率95%。Epclusaを12週間投与した群は98%で、主評価項目である非劣性解析がフェールした。フェールはこの試験だけ。GT3感染で肝硬変を合併する患者を組入れた試験では8週間の治療で96%、Epclusa群は12週間投与で96%となり、非劣性解析が成功した。

二次治療は治療期間が3ヶ月から2ヶ月に短縮するのは良いが薬が二剤から三剤に増えるので副作用も増えるだろう。効果が大差ないならどちらも良し悪しで、値段次第だろう。一方、一次治療は期間が短く、効果が若干高いので、価格が著しく高くない限り、良さそうだ。

リンク: ギリアドのプレスリリース

MSD、キイトルーダの膀胱癌試験が成功
(2016年10月21日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab)の尿路上皮腫瘍の第三相試験、KEYNOTE-045が成功したと発表した。二次治療、三次治療を受ける患者を組入れて、3週間毎に200mgを投与する群と、paclitaxelなど三剤の中から担当医が選んだ薬を投与する群の延命効果を比較した試験で、独立データ監視委員会が中間解析結果に基づいて成功認定したもの。

データは未発表。主評価項目は全生存期間とPFS(無進行生存期間)の二つだが、今回は中間解析であるためか全生存期間の解析が成功したことしか記されていない。

リンク: MSDのプレスリリース

fostamatinibの二本目の第三相はフェール
(2016年10月20日発表)

Rigel Pharmaceuticals(Nasdaq:RIGL)は、R788(fostamatinib disodium)の二本目の第三相慢性/持続性免疫性血小板減少症(ITP)試験がフェールしたと発表した。当局と今後を相談する考え。

R788はマスト細胞やマクロファージ、B細胞などのIgG受容体の細胞内シグナル伝達に係わるSYK(spleen tyrosine kinase)を阻害する経口剤。リウマチ性関節炎などの自己免疫疾患をターゲットに開発され、6年前にアストラゼネカがライセンスしたが返還。RigelがITP用途の開発を進めてきた。

第三相試験では100mgを一日二回投与する群の安定的血小板反応率(最後の6回の検査のうち4回以上で血小板数が5万個/uL以上であった患者の比率)を偽薬と比較した。9月に結果が出た一本目は18%対0%で、著効という感じはないが、p=0.026で統計学的には有意だった。今回の二本目は18%対4%でp=0.152とフェールした。

実数を見ると、R788群は一本目が51人中9人反応、二本目は50人中9人反応で、大差ない。偽薬群は25人中ゼロと24人中一人で、反応者数の違いは倍率では無限大だが差はたった一人だ。臨床試験成績の有意性を議論する時にしばしば用いられる、もし奏功者が一人多かったり少なかったりしたらどうなるか、というテスト方法の例題そのものである。

結局、効くにせよ効かないにせよボーダーライン上、と受け止めるのが妥当だろう。

リンク: Rigelのプレスリリース

リジェネロンは抗NGF抗体の開発を続ける計画
(2016年10月17日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)と開発パートナーのテバ・ファーマシューティカル(NYSE:TEVA)は、REGN475(fasinumab)の後期第二相慢性腰痛試験を中止したことを明らかにした。高用量で関節毒性が見られたことから、FDAがクリニカルホールド(治験許可停止)を告げた。

REGN475はNGFを標的とする完全ヒト化抗体。NGFは神経成長因子で、ジェネンテックが発見しALSなどの神経性疾患での用途を探索したが、疼痛感受性が高まる副作用が発覚。一転して、抗NGF抗体を鎮痛剤として開発することになった。その後、スピンアウトされた中枢神経系部門を買収したファイザーがtanezumabの第三相変形性関節炎試験を行ったが、病状の急速な悪化や無腐性骨壊死などのリスクが表面化、2010年に複数の会社の開発品が治験停止となった。

その後は行ったり来たりで、FDAが2012年に招集した諮問委員会では21人全員が開発続行を支持。しかし、某社が行った前臨床毒性試験で末梢神経性有害事象が見られたため末期癌患者の疼痛緩和など一部の用途を除いて再び治験停止に。その後、毒性確認試験が良い結果になったのか、15年3月に解除され、ファイザーがイーライリリーとリスク・シェアリングして開発を再開。リジェネロンは15年に田辺三菱製薬に日本周辺の開発販売権を、16年9月にテバにそれ以外の地域の権利を供与して開発をステップアップした。

一方、ジョンソン・エンド・ジョンソンと武田薬品は、夫々が地域別に保有するAMG 403(fulranumab)の開発販売権をアムジェンに返還しており、抗NGF抗体に対する評価は分かれているように感じられる。

副作用の原因は明らかではないが、痛みを感じなくなると前より活発に動くようになりがちだから、関節損傷が進んでも不思議はない。神経成長因子をブロックすることが骨の新陳代謝に悪影響を与える可能性も考えられるだろう。

副作用リスクがあるのは明らかなので、開発の成否は用量を減らすことでどれだけ緩和できるかだろう。REGN475の変形性関節炎試験では、偽薬、1mg、3mg、6mg、9mgを4週間に一回、皮注したが、各群の関節症発生率は1%、2%、5%、7%、12%だった。慢性病の薬なので、リスクが投与年数と相関しないかどうかも確認すべきだろう。

リジェネロンとテバは、低用量で第三相試験に向かう考え。腰痛用途では変形性関節炎を併発する患者は除外する考え。変形性関節炎試験も行うのだから変な話だが、もしもこちらの用途がダメだった場合でも慢性腰痛で承認が取れるように、ヘッジを掛けるのだろう。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認】


MSD、CDI再発予防薬が米国で承認
(2016年10月21日発表)

MSDは、FDAがZinplava(bezlotoxumab)をクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症の再発リスクを削減する薬として承認したと発表した。

重い下痢などの症状を起こす細菌で、抗生物質乱用の弊害なのか、深刻な院内感染が年々、増加している。Zinplavaはこの細菌が産生するB毒素の中和抗体で、治療は抗菌剤で行う。再発リスクの高い患者を組入れた二本の第三相試験では、偽薬群の12週再発率が25~27%であったのに対して、Zinplavaを一回点滴投与した群は15~17%だった。尚、A毒素の中和抗体を単剤投与と併用する二群も設けられたが、効果がなかった。

投与後4週間の深刻有害事象は偽薬群と大差なかったが、心不全歴を持つ患者では深刻な心不全増悪が12%で発生(偽薬群は4%)、死亡率も19%と高かった(偽薬群12%)。

この抗体医薬はマサチューセッツ医科大学の研究者がメダレックス(後にBMSが買収)と共同開発、09年にMSDに世界開発販売権を供与したもの。MSDは来春までに発売する計画。EUでも承認審査中。

リンク: MSDのプレスリリース

イーライリリー、新規抗癌剤が承認
(2016年10月19日発表)

イーライリリーが08年に65億ドルで買収したイムクローン・システムズは、抗EGFR抗体Erbitux(cetuximab)の後も多くの抗体医薬を生み出した。創業者がインサイダー取引事件で逮捕されなければ買収されることもなかっただろうし、ジェネンテックとは言わないまでも、抗体医薬系新興医薬品開発企業の代表格の一つになっていただろう。

今回、FDAが承認したLartruvo(olaratumab)もイムクローンがIMC-3G3として開発した抗PDGFRアルファ完全ヒト化抗体。適応はPDGFRアルファが高発現・過活動している軟組織肉腫で、治癒的放射線療法・切除術に適さない進行癌のうち、アントラサイクリン系の抗癌剤が適切と判定された場合に、doxorubicinと併用する。

第二相試験では、PFS(無進行生存期間)がメジアン6.6ヶ月とdoxorubicinだけの群の4.1ヶ月より長く、ハザードレシオ0.672、p=0.0615なので一般的な解釈では有意ではない。全生存期間の中間解析は26.5ヶ月対14.7ヶ月、ハザードレシオ0.463で統計的に有意だった。G3以上の有害事象は好中球減少症、感染症、点滴反応など。

加速承認で、第三相試験が別途進行中。

リンク: FDAのリリース
リンク: イーライリリーのプレスリリース

ロシュ、抗PD-L1抗体の適応拡大承認
(2016年10月19日発表)

ロシュは、抗PD-L1ヒト化抗体のTecentriq(atezolizumab)の適応拡大がFDAに承認されたと発表した。非小細胞性肺癌の二次治療(EGFR活性化変異又はALK変異を持つ癌の場合はそれぞれの分子標的薬を用いた後)に用いる。第三相試験では全生存期間がdocetaxelを有意に上回った。扁平上皮腫でも、それ以外でも、PD-L1陽性でも陰性でも、docetaxelを上回った。

抗PD-1抗体の非小細胞性肺癌適応拡大レースでは、MSDのKeytrudaがPD-L1高度発現型だけだが二次治療に承認、一次治療試験も成功と先行している。一方、BMS/小野のOpdivoは二次治療にPD-L1不問で承認され悪性黒色腫だけでなく非小細胞性肺癌でもトップシェアとなったが、一次治療試験がフェールしたため、MSDやロシュにも逆転の可能性が出てきた。

リンク: ロシュのプレスリリース



今週は以上です。

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2016年10月16日

2016年10月16日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ESMO:MSDの抗PD-L抗体は肺癌一次治療試験成功 
  • ESMO:オプジーボの一次治療試験はフェール 
  • ESMO:ロシュの抗PD-L1抗体は二次治療試験成功 
  • ESMO:Cabometyxがスーテントに勝つ 
  • ESMO:スーテントのアジュバント試験成功 
  • ESMO:custirsenの第三相はフェール 
  • Alnylam、patisiranの第三相は続行 
  • サノビオン、ネブライザー用LAMAを米国で申請 
  • CHMP、Ocalivaなどに肯定的意見 


【新薬開発】


ESMO:MSDの抗PD-L抗体は肺癌一次治療試験成功
(2016年10月9日発表)

PD-L/PD-L1標的薬はこれまで様々な腫瘍の臨床試験で似たような成果を上げてきたが、どういう訳か非小細胞性肺癌はメーカーの開発方針も、治験結果も、食い違いが見られる。ESMO(欧州臨床腫瘍学会)で発表された三剤のデータを順に見てみよう。

まず、MSDの抗PD-L抗体、Keytruda(pembrolizumab)。非小細胞性肺癌では二次治療に使うことが米国で承認されているが、PD-L1陽性癌である点がBMSのOpdivo(nivolumab)との違いだ。ESMOでは第三相一次治療試験の結果が発表されたが、このKEYNOTE-024試験もPD-L1高発現(Tumor Proportion Scoreが50%以上)だけが対象。

200mgを三週間に一回、点滴静注する群とプラチナ薬ベースの標準療法群のPFS(無進行生存期間)を比較したところ、メジアン値は各10.3ヶ月と6.0ヶ月、ハザードレシオ0.50、95%CI0.37~0.68と大変良い結果が出た。全生存期間はどちらもメジアンに到達していないがハザードレシオ0.60、統計的に有意だった。

MSDは欧米で一次治療の適応拡大申請中。米国の審査期限は12月24日。Keytrudaの売上高はBMS/小野薬品のOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)に差を付けられているが、非小細胞性肺癌の一次治療では逆転するだろう。

リンク: MSDのプレスリリース

ESMO:オプジーボの一次治療試験はフェール
(2016年10月9日発表)

Opdivoも非小細胞性肺癌二次治療で承認されているが、Keytrudaとの違いは、投与頻度が二週間に一回であることと、PD-L1陰性でもある程度の効果が見られたためステータス不問、検査不要であること。Keytrudaが陰性癌に効かないというよりは両社の開発方針違いが反映されている。

Opdivoの一次治療試験であるCheckMate-026試験ではPD-L1陽性癌(1%以上)だけを組入れて、白金薬ベースの標準療法と施行する群とPFSを比較した。主評価項目はPD-L1発現5%以上のサブグループのみの解析。BMSも一次治療に関してはPD-L1発現度が反応予測因子になると考えているのだろう。

8月7日号で報告したように、この試験はフェールした。ESMOで詳細が発表されたが、メジアン4.2ヶ月と標準療法群の5.9ヶ月を下回り、ハザードレシオは1.15だった。主観バイアスのない客観的な指標である全生存期間のハザードレシオも1.02だった。二次的評価項目である全患者のPFSのハザードレシオも1.17で駄目。驚いたことにPD-L1高発現(50%以上)の症例だけの解析でも1.07と1を上回った。

高発現癌にも効果がないというのはKEYNOTE-024試験と大きく食い違うが、合理的に説明するのは難しそうだ。偶々フェールしたのかもしれない。いずれにせよ、別の試験が成功するまでは、非小細胞性肺癌の一次治療にOpdivoを使うのは困難になった。

MSDとBMSのPD-L1検査アッセイはメーカーは同じだが用いている抗体が異なるので、検査結果が食い違う可能性があるのではないか?誰かに検証してもらいたいものだ。

リンク: BMSのプレスリリース

ESMO:ロシュの抗PD-L1抗体は二次治療試験成功
(2016年10月9日発表)

ロシュのTecentriq(atezolizumab)はPD-1のレガンドであるPD-L1を標的としている点がKeytrudaやOpdivoとの違い。ロシュといえば分子標的薬の標的分子の発現状況を調べるコンパニオン・ダイアグノスティックスの大手でもあるが、Tecentriqの臨床試験で用いられているPD-L1検査アッセイも独自開発で、腫瘍細胞(TC)だけでなく腫瘍浸透細胞(IC)の発現度も調べている。

ESMOで発表された非小細胞性肺癌二次/三次治療試験は、PD-L1ステータス不問で組み入れたが発現度毎の解析も行われた。主評価項目の全生存期間はメジアン13.8ヶ月でdocetaxelを投与した対照群の9.6ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.73、95%信頼区間0.62~0.87と有意差が確認された。扁平上皮腫でもそれ以外でも0.73だった。

PD-L1発現度との相関性では、TCもICも1%未満(TC0/IC0)であった379例ではメジアン生存期間が各12.6ヶ月と8.9ヶ月、ハザードレシオ0.75で95%CI0.59~0.96。どちらかが1以上(TCまたはICが1/2/3の何れか)の463例では各15.7ヶ月、10.3ヶ月、ハザードレシオ0.74、95%CI0.58~0.93となっており、結局、大差ない。

尤も、評価最高値であるTC3/IC3の症例では20.5ヶ月対8.9ヶ月、ハザードレシオ0.41であったようなので、やはり、一番反応するのは高発現型なのだろう。

Tecentriqは再発性難治性尿路上皮癌向けに米国で承認。非小細胞性肺癌は二次治療向けに米国で申請済みで、審査期限は10月19日。申請の根拠となった第二相試験はPD-L1陽性患者が対象だったが、陰性患者も承認される可能性があるのではないか。

リンク: ロシュのプレスリリース

ESMO:Cabometyxがスーテントに勝つ
(2016年10月10日発表)

Exelixis(Nasdaq:EXEL)のVEGF受容体拮抗剤、Cabometyx(cabozantinib)が切除不能末期腎細胞腫の一次治療試験でファイザーのSutent(sunitinib、和名スーテント)より高い効果を示したことがESMOで発表された。数あるVEGF受容体拮抗剤の中で一次治療薬として抜群の評価を得ているSutentを負かしたのだから、実力を見直さなければならないだろう。

このCABOSUN試験は同社とNCI(米国立がん研究所)の開発提携に基づいて実施された第2相試験で、中度・高度リスクの患者157人を組み入れたもの。成功したことは5月に発表済みだが今回、詳細が明らかになった。PFSはメジアン8.2ヶ月とSutentの5.6ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.69、95%CIは0.48~0.99。ORR(客観的反応率)も46%対18%で上回った。

全生存期間の解析は未成熟だがメジアン30.3ヶ月対21.8ヶ月、ハザードレシオ0.80、信頼区間は1を跨いでいるが、正しい方向を向いている。

cabozantinibは12年に米国でCometriqカプセルの活性成分として甲状腺髄様癌向けに承認。他の用途の開発は難航したが、腎細胞腫二次治療試験が成功、Cabometyx錠として今年4月に承認された。今回のデータを用いて一次治療に適応拡大申請される見込み。VEGF受容体拮抗剤の本命用途である腎細胞腫が後回しになったのは、既に多くの薬が承認されていて出番が少ないからだが、今回の結果を見ると、もっと早く取り組むべきだったのかもしれない。

リンク: Exelixisのプレスリリース

ESMO:スーテントのアジュバント試験成功
(2016年10月10日発表)

そのSutentは、腎細胞腫切除術後アジュバント試験の成功がESMOで発表された。再発リスクが高い615人を組入れて50mgを一日一回、4週間連続服用して2週間休む末期腎細胞腫と同じ用法で1年投与したところ、DFS(再発・二次性腫瘍・死亡の何れかが発生するまでの期間)がメジアン6.8年と偽薬群の5.6年を上回り、ハザードレシオ0.761、95%信頼区間0.594~0.975だった。適応拡大申請に向かうのではないか。

リンク: ファイザーのプレスリリース

ESMO:custirsenの第三相はフェール
(2016年10月13日発表)

OncoGenex Pharmaceuticals(Nasdaq:OGXI)は、custirsenの第三相非小細胞性肺癌二次治療試験がフェールしたと発表した。細胞のサバイバルに係るclusterinの発現を阻害するアンチセンス薬でdocetaxelのキモセンシタイザーとしての効果を期待したが、併用群のメジアン生存期間は9ヶ月とdocetaxelだけの群の7.9ヶ月と大差なく、ハザードレシオ0.915、有意差はなかった。

効果がこの程度でも大規模な試験なら有意差が出せるはずだが、先に開始した前立腺癌試験がフェールし運転資金が心許なくなったため、プロトコルを見直して前倒しで答えを出さざるをえなかった。

かって共同開発パートナーであったIonys Pharmaceuticalsもテバも去っていった。OncoGenexは代替戦略、即ち身売りを検討している模様だ。

リンク: OncoGenexのプレスリリース

Alnylam、patisiranの第三相は続行
(2016年10月10日発表)

Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)は、ALN-TTR02(patisiran)の第三相遺伝性TTR調停アミロイドーシス性ポリニューロパシー試験のデータ監視委員会が治験続行を推奨したことを発表した。

10月9日号で書いたように、同社のrevusiranは第三相試験で死亡数に群間の偏りがあったことから開発中止となった。patisiranも作用機序が類似しているため、Alnylamがデータ監視委員会を招集、検討を依頼したという経緯。

リンク: Alnylamのプレスリリース

【承認申請】


サノビオン、ネブライザー用LAMAを米国で申請
(2016年10月14日発表)

大日本住友製薬の米国子会社であるサノビオンは、SUN-101/eFlowを中重度COPDの維持療法薬としてFDAに承認申請し受理されたと発表した。審査期限は来年5月29日。12年に買収したElevation社の開発品で、長期作用性ムスカリン阻害剤(LAMA)のglycopyrrolateをドイツのPari GmbHのeFlowという電子制御ネブライザーで吸入するもの。ネブライザー用のLAMAは初。

リンク: 大日本住友製薬のプレスリリース(和文、pdfファイル)

【承認審査・委員会】


CHMP、Ocalivaなどに肯定的意見
(2016年10月14日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、10月の会合でインターセプト社の胆汁性肝硬変治療薬やアッヴィの抗癌剤などの新薬と、BMSのオプジーボなどの適応拡大に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

インターセプト・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ICPT)のOcaliva(obeticholic acid)は原発性胆汁性胆管炎(PBC)の治療薬。ウルソデオキシコール酸(UDCA)だけでは足りない患者に追加で、あるいは不耐患者に単剤で投与する。胆汁酸誘導体で、FXR(ファルネソイドX受容体)アゴニストとしての力価がUDCAより高い。非アルコール性脂肪性肝炎でもフェーズIII段階。

PBCは主として40~60代の女性が発症する自己免疫疾患で、胆管が徐々に破壊され肝臓内に胆汁が滞留、肝障害を合併する。UDCAの奏効率は5割とされる。Ocalivaの第三相試験では、46%の患者がアルカリフォスファターゼ値正常化に成功した。偽薬群の成功率は10%だった。主な有害事象は掻痒や疲労、肝機能検査値異常など。稀に非代償性肝障害のリスクが見られたが、第三相の用量である一日10mgを超えて投与した症例が主だった。

代理マーカーを改善する効果に基づく条件付き承認なので、インターセプトは別途、臨床試験を行って臨床的な効用や安全性を確立する必要があり、結果次第では承認取消となる。

米国でも5月に同様な条件で加速承認され、患者一人当たり年6~7万ドルの価格で発売された。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: インターセプトのプレスリリース

アッヴィとジェネンテックは07年にbcl-2阻害剤やVEGF受容体拮抗剤分野で共同開発提携を開始した。その最初の成果がbcl-2阻害剤のvenetoclaxで、今年4月に米国でVenclexta名で承認、EUでも今回、Venclyxto名でCHMPが肯定的意見を出した。第二相試験の反応率データに基づく条件付き承認の予定。

慢性リンパ性白血病用薬で、Bセル受容体パスウェイ阻害剤と化学免疫療法による治療がフェールした患者に用いる。17p欠損型やTP53変異型の患者は、化学免疫療法があまり有効ではないため、Bセル受容体パスウェイ阻害剤不応不適だけで使用できる。

主な深刻有害事象は肺炎、熱性好中球減少症、自己免疫性溶血性貧血、腫瘍壊死症候群など。少なくとも初回の投与は入院させて副作用を監視する必要がある。

米国は共同販売だが米国外はアッヴィが単独販売する。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: アッヴィのプレスリリース

Cystadrops(mercaptamine)も肯定的意見を獲得した。Orphan Europeという、イタリアのRecordatiグループの希少疾患用薬会社が承認申請した、シスチン症の治療に用いる点眼薬。角膜に蓄積したシスチン結晶をシステインなどに変換する。主な副作用は目の痛み、充血、痒み、霞み。

リンク: EMAのプレスリリース

診断薬で肯定的意見を得たのがSomaKit TOC(edotreotide)。GEP-NET(膵消化管神経内分泌腫瘍)の診断に用いるPET造影剤で、放射性核種で標識して投与するとソマトスタチン受容体に結合し、この受容体が過剰発現する腫瘍を浮き彫りにする。フランスのAdvanced Accelerator Applications社が承認申請したもの。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、BMSのOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)を再発性古典的ホジキンリンパ腫(ホジキンリンパ腫の95%を占める)に用いることが支持された。自家造血幹細胞移植とAdcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)を施行後に進行・再発した患者に用いる。臨床初期中期試験ではORR(客観的反応率)が65%、完全反応率は7%、反応持続期間はメジアン8.7ヶ月だった。米国では5月に加速承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース

さて、新薬ではないがmetforminの禁忌を緩和することも決まった。二型糖尿病治療薬として長い歴史を持つが、腎機能低下患者は深刻な副作用であるラクティック・アシドーシスのリスクが高まるので注意が必要だ。EUでは中度以上(GFRが59 ml/分以下)が禁忌となっているが、科学的文献や臨床データ、疫学試験、学会などの治療ガイドラインを改めて検討した結果、重度(GFRが30 ml/分未満)だけに絞り込んだ。

リンク: EMAのプレスリリース

10月2日号で報じたように、アストラゼネカはRecentin(cediranib maleate)の承認申請を撤回したが、EMA側も経過を公表した。不当に不利益を与えたわけではないことを明確にすることによって行政手続きの透明性を担保する手段であり、FDAやPMDAも見習う余地があるのではないか。本稿の主題とは何の関係もないが、日本将棋連盟も倣うべきである。

EMAは薬効や安全性のエビデンスが不十分と考えているようだ。再発性プラチナ薬感受性卵巣癌を組み入れたICON6試験の結果に基づいてEUで承認申請されたのだが、第一に、医療施設の立ち入り調査で、GCPが十分に遵守されていない疑いが生じた。第二に、PFS(無進行生存期間)の延長効果が限定的。第三に、疲労や下痢による投与中止が多く、忍容性に疑問がある。アストラゼネカは、当面、承認は取れないと判断して撤回したのだろう。

米国では承認申請されていない模様。

cediranibはVEGF受容体拮抗剤。結腸直腸癌や非小細胞性肺癌など様々な用途で第三相が実施されたが、なぜか良い結果が出ていない。尚、製品名はRecentinではなくZemfirzaとして承認申請されていたことが判明した。

リンク: EMAのプレスリリース




今週は以上です。

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2016年10月9日

2016年10月9日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ESMO:ノバルティスのCDK4/6阻害剤も第三相が成功 
  • ESMO:PARP1/2阻害剤がBRCA変異のない卵巣癌にも有効 
  • ESMO:Clovis、PARP阻害剤のP2データを発表 
  • ESMO:キイトルーダの膀胱がんデータ発表 
  • Alnylam、RNAiの一つの開発を中止 
  • ブリリンタ、もう一つの適応拡大試験もフェール 
  • 点滴用カルバマゼピンが米国で承認 
  • C型肝炎治療薬がB型肝炎ウイルスを活性化するリスク 


【新薬開発】


ESMO:ノバルティスのCDK4/6阻害剤も第三相が成功
(2016年10月8日発表)

ノバルティスのCDK4/6阻害剤、LEE011(ribociclib)の第三相試験結果がESMO(欧州臨床腫瘍学会)とNew England Journal of Medicine誌で発表された。閉経後のHR陽性her2陰性末期・転移性乳癌の一次治療薬としてletrozoleと併用投与したもので、今年5月に中間解析で目的を達成したことが公表された。

主評価項目であるPFS(無進行生存期間)はletrozole単剤投与群に対するハザードレシオが0.556、p=0.000003。中間解析で成功認定するための基準はハザードレシオが0.56以下、pは0.0000129未満なので、ギリギリでクリアしたことになる。PFSのメジアン値は未達、letrozole群は14.7ヶ月。

PFSハザードレシオは先輩格であるファイザーのCDK4/6阻害剤、Ibrance(palbociclib)と大差ない。有害事象による治験離脱(7.5%、letrozole単剤投与群は2.1%)はIbranceより若干多いが、直接比較試験ではないので小さい差を重視すべきではない。経口剤で一日一回、21日服用して7日休む用法はどちらも同じ。全体的に大差ないことを考えると、米国では昨年2月に承認されEUでも年内承認が見込まれるIbranceのほうが先行者利益があるそうだ。

LEE011はAstex Pharmaceuticals(現在は大塚製薬の子会社)との細胞周期制御分野における共同研究の成果で、細胞周期進行に関わるキナーゼを阻害する。因みにIbranceもファイザーが敵対的に買収したワーナー・ランバートとアムジェンの子会社になったOnyxの共同研究の成果である。

CDK4/6阻害剤ではイーライリリーもLY2835219(abemaciclib)の第三相試験を実施中。忍容性に優れ休薬期を設ける必要がないため効果の高さが期待されているが、fulvestrant併用二次治療試験の中間解析はハードルをクリアできず、17年上期に予想される最終解析の結果待ちだ。

リンク: ノバルティスのプレスリリース
リンク: Hortobagyiらの治験論文(NEJM誌、オープンアクセス)

ESMO:PARP1/2阻害剤がBRCA変異のない卵巣癌にも有効
(2016年10月8日発表)

TESARO(Nasdaq:TSRO)がMSDからライセンスして開発しているPARP1/2阻害剤、MK-4827(niraparib)の第三相卵巣癌試験の結果がESMOとNEJM誌で発表された。類薬ではアストラゼネカのLynparza(olaparib)が14年に欧米で承認されているが、 今回の試験は生殖細胞系BRCA(gBRCA)変異のない患者にも有効であることを示唆している点が画期的だ。

BRCAとPARPは夫々、別々の遺伝子変異修復メカニズムに関与している。両親から受け継いだBRCA遺伝子が共に変異している人は卵巣癌や乳癌のリスクが比較的高いが、発症した時にPARPも阻害してやると、癌細胞で発生しがちな遺伝子複製ミスの修復を妨げ、アポトーシスを誘導できる可能性がある。

今回のENGOT-OVA16/NOVA試験は、難治性卵巣癌で白金薬による治療に反応した患者をniraparibを一日一回経口投与する群と偽薬群に2対1割付けしてPFS(無進行生存期間)を比較したもの。PFSは第三者が査読した。主評価項目の解析対象はgBRCA変異を持つ201人のコフォートと変異はないが類似したフェノタイプであるHRD型(相同組換え不全)コフォートで、後者が成功した場合はHRD型以外も含めたgBRCA非変異型345人全員のシーケンシャル解析を行うプロトコル。

結果は、gBRCA変異コフォートのハザードレシオが0.27、メジアンPFSは21.0ヶ月で偽薬群は5.5ヶ月。HRD型コフォートは各0.38、12.9ヶ月、3.8ヶ月。非変異コフォート全体では0.45、9.3ヶ月、3.9ヶ月となり、何れも統計的に有意だった。サブグループ分析でも偏りは見られなかった。G3以上の有害事象は骨髄抑制が増加した。

リンク: TESAROのプレスリリース
リンク: Mirzaらの治験論文(NEJM誌)

ESMO:Clovis、PARP阻害剤のP2データを発表
(2016年10月7日発表)

米国コロラド州の新興薬品開発会社であるClovis Oncology(Nasdaq:CLVS)は、ESMOでCO-338(rucaparib)の二本の第二相試験のプール分析データを発表した。何れもBRCA変異型卵巣癌の三次治療試験で、600mgを一日二回、経口投与した症例106例をプール分析したもの。RECIST基準のORR(客観的反応率)は54%で、完全反応が9例、部分反応が48例。メジアン反応持続期間は9.2ヶ月間だった。

G3以上の治療時発現有害事象発生率は61%。8%の患者が有害事象により治験を離脱、理由は疲労、小腸閉塞、悪心など。2%の患者が有害事象により死亡した。

ファイザーがAG-014699/PF-01367338などのコードで開発していた小分子薬で、PARP-1、PARP-2、PARP-3を阻害する。Clovisはこれらのデータに基づいて米国で今年6月に承認申請した。優先審査で、PDUFAは来年2月23日。

二本目の試験のデータは今回が初お披露目だったが、株式市場の反応は厳しかった。アストラゼネカのLynparza(olaparib)と比べて特によいデータではなかったことや、新薬のニーズが高い白金薬抵抗性患者に対するORRがゼロであったことが嫌気されたようだ(後者は症例数がたった7例なのであてにならないが)。

リンク: Clovisのプレスリリース

ESMO:キイトルーダの膀胱がんデータ発表
(2016年10月8日発表)

MSDは抗PD-1モノクローナル抗体であるKeytruda(pembrolizumab)の第二相切除不能・転移性尿路上皮腫瘍一次治療試験の中間データをESMOで発表した。cisplatinに適さない患者を組入れて、体重に関わらず200mgを3週間に一回投与した試験で、目標症例数350人中100人のデータが出そろった段階でPD-L1の閾値を決定する目的で中間解析を行ったもの。

結果は、ORR(客観的反応率)が24%、完全反応率6%。ORRはPD-L1発現が1%未満のサブグループでは18%、1%以上10%未満では15%、10%以上では37%だった。

PD-1やPD-L1を標的とする抗体医薬はPD-L1高発現癌のほうが効果が高いように感じられるが、低発現でも効かないわけではなさそうだ。難しいのは、効くと効かないの境界線が曖昧で、そもそも、どの程度効けば合格なのかという基準もあまり客観的とは言えないこと。有効な薬がなければORR10%でも良いが、30%の薬が増えれば10%では物足りなくなる。

尿路上皮腫瘍では、この用途で最初に承認されたTecentriq(atezolizumab)は二次治療試験でPD-L1高発現癌のほうがORRが高かったが低発現に使うことも承認されており、検査不要だ。欧州で適応拡大承認審査中であるBMSのOpdivo(nivolumab)も二次治療試験のORRが発現度1%未満グループで16%、5%以上は28%となっている。

非小細胞性肺癌では二次治療と一次治療で結論が異なる可能性が浮上したが、今回のデータを見ると、尿路上皮腫瘍に関しては二次治療でも一次治療でもPD-L1不問ということになりそうだ。

リンク: MSDのプレスリリース

Alnylam、RNAiの一つを開発中止
(2016年10月5日発表)

Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)は、ALN-TTRsc(revusiran)の開発を中止すると発表した。

同社はRNAi(RNA介入)技術を元にアミロイドーシスやRSVなどの治療薬を開発している。revusiranはTTR調停家族性心臓アミロイドーシスを治療する第三相試験が進行していたが、第二相で末梢神経症の発症や悪化が発見されたことからデータ監視委員会が盲検解除されたデータを精査、末梢神経症については問題なかったが、死亡者数に群間の偏りがあったため、中止を勧告した。

新しい技術だけに、深刻な懸念が浮上すると、その技術や作用機序に付随するクラス・イフェクトではないのかという疑惑も浮上する。Alnylamは否定的に考えている模様。他の開発品は新しい技術を用いているため用量や曝露が小さくて済むことが根拠だ。

それでも、もし著高量で深刻な副作用が発生する懸念があるならば、セイフティマージンを確保できているか十分に検討しなければならないだろう。

リンク: Alnylamのプレスリリース

ブリリンタ、もう一つの適応拡大試験もフェール
(2016年10月4日発表)

アストラゼネカは、ADP受容体拮抗剤Brilinta(ticagrelor)の適応拡大試験、EUCLIDがフェールしたと発表した。症候性末梢動脈疾患の患者13885人を組み入れて心血管アウトカムをclopidogrelと比較したもの。データは11月のAHA科学部会で発表される予定。

3月には急性脳卒中/TIAに対するモノセラピー、アスピリン対照試験もフェールしている。特許切れまでは超大型薬であったPlavix(clopidogrel)に代わる大型薬候補として期待された抗血小板薬だが、この分野でも、もうそろそろ、限界収穫逓減減少が見られるようになった。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

【承認】


点滴用カルバマゼピンが米国で承認
(2016年10月8日発表)

ルンドベックは、Carnexiv(carbamazepine)がFDAに承認されたと発表した。特定のタイプの癲癇の患者が、一時的な理由で経口剤を使えない時に、最長7日間まで使うことができる。

活性成分の経口剤はノバルティスのTegretolとして長い市販歴を持ち既に特許切れしたが、点滴静注用は今回が初。経口剤の7割の量を一日4回に分けて6時間毎に30分点滴する。

09年に買収したOvation Pharmaceuticalsの開発品。

リンク: ルンドベックのプレスリリース

【医薬品の安全性】


C型肝炎治療薬がB型肝炎ウイルスを活性化するリスク
(2016年10月4日発表)

C型肝炎の治療は、DAA(直接作用性抗ウイルス剤)の登場で様変わりした。C型肝炎ウイルスの遺伝子に含まれる再生産に必要な酵素を阻害する薬で、奏効率や治療期間、忍容性を大きく改善した。ところが、不思議なことに、DAA治療を受ける患者の一部でB型肝炎の再燃が報告されるようになった。FDAによると、今年7月までの31ヶ月間に24例がFDAや文献に報告され、うち2例は死亡、1例は肝臓移植が施行された。このため、FDAは警告を発出すると共に、レーベルで枠付き警告することを決めた。

医療従事者は、治療開始前にB型肝炎検査を行う。感染歴のある患者は医師に伝える。治療中に肝炎の症状兆候が現れたら直ぐに医療従事者に伝える。服用中の患者は医師に相談せずに勝手に止めてはいけない。

対象は、販売されているDAAの全て。MSDのVictrelis(boceprevir)とバーテックスのIncivek(telaprevir)は米国では商業上の理由で販売が中止されたためリストに収載されていないが、この二剤はインターフェロンやribavirinと併用するレジメンなので、もし販売されていたとしても例外扱いされたかもしれない。

再燃増悪の原因は不明。臨床試験では発生していない。B型肝炎ウイルス感染経験は除外条件なので、発生しなくて当たり前である。

リンク: FDAの安全性警告



今週は以上です。

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2016年10月2日

2016年10月2日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • Kite、CAR-Tの承認申請をFDAと相談へ 
  • アムジェン、抗CGRP受容体抗体の片頭痛予防試験が成功 
  • 抗IL-23p19抗体が第三相でヒュミラに勝った 
  • 経口カンナビジオールの第三相がまた成功 
  • 第三のMEK阻害剤・BRAF阻害剤併用法が浮上 
  • カイプロリス、今度はベルケイドに勝てず 
  • バイオジェン、脊髄性筋萎縮症用薬を承認申請 
  • リジェネロンとサノフィがまた新薬承認申請 
  • JNJ、イムブルビカを辺縁帯リンパ腫に適応拡大申請 
  • アストラゼネカ、Recentinの欧州申請を撤回 
  • ステラーラをクローン病に用いることが承認 


【新薬開発】


Kite、CAR-Tの承認申請をFDAと相談へ
(2016年9月26日発表)

Kite Pharma(Nasdaq:KITE)は、KTE-C19の第2相リンパ腫試験の事前に計画されていた中間解析が良好な結果になったことを明らかにした。承認申請に向けてFDAと相談する考え。

KTE-C19はCD19に結合する抗体の可変領域と膜貫通ドメイン、そしてT細胞に活性化刺激を送るCDゼータとCD28をリンカーで繋げたもの。B細胞リンパ腫のようなCD19発現腫瘍に対するT細胞の攻撃を強化する。

今回の中間解析は第1/2相ZUMA-1試験のフェーズIIポーションが対象。コフォートが二つあり、一つは化学療法難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、もう一つは転換濾胞性リンパ腫(TFL)と原発性縦隔大細胞型B細胞性リンパ腫(PMBCL)で、この三種類に承認申請する意図だ。

DLBCLコフォート51人ではORR(客観的反応率)76%、完全寛解率47%だった。3ヶ月経過時点では各39%と33%となっており、こちらの方が適切な数値かもしれない。TFLとPMBCLのコフォート11人ではORR91%、完全寛解率73%、3ヶ月経過時点の評価はどちらも64%。

両コフォートの合計でグレード3以上の有害事象は好中球減少症(熱性を含む)、貧血、血小板減少症、脳症、サイトカイン放出症候群、神経学的毒性など。有害事象による死亡は2例で、血球貪食性リンパ組織球症と心停止だった。

リンク: Kiteのプレスリリース

アムジェン、抗CGRP受容体抗体の片頭痛予防試験が成功
(2016年9月28日発表)

アムジェンは、AMG 334(erenumab)の第三相片頭痛予防試験、ARISEが成功したと発表した。70mg皮注を4週間毎に12週間に亘って投与したところ、片頭痛発生日数(最後の4週間の集計、ベースライン値は8日)が2.9日減少し、偽薬群の1.8日減少より有意に優れていた。

AMG 334は、片頭痛発作時に増加し鎮静化すると減少する、calcitonin gene-related peptideの受容体を標的とする完全ヒト化抗体。中枢神経領域におけるノバルティスとの共同開発提携の対象で、ノバルティスは北米・日本以外の販売権を持っている。

リンク: アムジェンのプレスリリース

抗IL-23p19抗体が第三相でヒュミラに勝った
(2016年10月1日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、ウイーンで開催されたEuropean Academy of Dermatology and Venereologyで、CNTO 1959(guselkumab)の第三相中重度プラク乾癬試験の結果を発表した。偽薬群だけでなく、実薬であるアッヴィのHumira(adalimumab)と比べても有意に優れていた。

CNTO 1959は、ドイツのMorphoSys社がHuCALヒト・コンビナトリアル抗体ライブラリーを用いて発見した、IL-23のp19サブユニットを標的とするHuCAL抗体。今回のVOYAGE 1試験では、100mgを8週間毎(但し2回目は4週間後)に皮注したところ、主評価項目である16週間後のIGA有効率が85.1%と偽薬群の6.9%を上回り、共同主評価項目であるPASI90達成率も73.3%対2.9%でどちらも有意に優れていた。

二次的評価項目としてHumira群との比較が行われた。IGA有効率65.9%、PASI90は49.7%に留まり、CNTO 1959が有意に優れていた。

深刻な有害事象の発生率は2.4%で、偽薬群の1.7%、Humira群の1.8%より少し高い。試験薬とHumiraは最長48週間投与したが、心筋梗塞は両群1例、癌はCNTO 1959群で2例発生した。この試験だけでは何とも言えないが、後期第二相でも主要有害心血管事故が3例、癌が1例発生しており、全対照試験のプール分析結果が注目される。

リンク: ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

経口カンナビジオールの第三相がまた成功
(2016年9月26日発表)

英国のGW Pharmaceuticals(Nasdaq:GWPH)は、Epidiolexの第三相レノックス・ガストー症候群試験の成功を発表した。既にもう一本の試験とDravet症候群試験も成功しており、来年上期に米国で承認申請する予定。

Epidiolexは大麻の成分の一つであるカンナビジオール(CBD)を経口剤化したもの。今回の試験では、平均で3種類の抗癲癇薬を併用しても発作を十分に防げないでいる患者225人を偽薬、一日10mg/kg、同20mg/kgの三群に割付けて14週間治療したところ、失立発作頻度(4週間当り、ベースライン値はメジアン85回)が各群17%、37%、42%減少し、両用量とも偽薬比有意に優れていた。

有害事象による治験離脱は各群1人、1人、6人。深刻な有害事象は8人、13人、13人で発生し、治療関連と判定されたのは0、2人、5人。高用量は忍容性が悪化するように見える。

リンク: GW社のプレスリリース

第三のMEK阻害剤・BRAF阻害剤併用法が浮上
(2016年9月26日発表)

米国コロラド州のArray BioPharma(Nasdaq:ARRY)とフランスのPierre Fabreは、BRAF阻害剤LGX818(encorafenib)とMEK阻害剤MEK162(binimetinib)の第三相併用試験が成功したと発表した。

BRAF-V600変異陽性の末期切除不能・転移性黒色腫に対するPFS(無進行生存期間)延長効果を検討したもので、LGX818(450mg一日一回)とMEK162(45mgを一日二回)を経口投与した群はメジアン14.9ヶ月、活性対照薬であるロシュのZelboraf(vemurafenib)を投与した群は7.3ヶ月で、ハザードレシオは0.54(95%信頼区間0.41-0.71)となり有意に上回った。一方、LGX818モノセラピー(300mg一日一回)は9.6ヶ月となり、この比較では併用しても効果が有意に高まらなかった。

MEK162は今年6月にモノセラピーで承認申請済み。LGX818は、300mgとMEK162の併用試験の結果が出てから承認申請することになるのではないか。今回のデータを見る限りでは有効ではあるがそれほど有望には見えない。BRAF-V600変異陽性悪性黒色腫にBRAF阻害剤とMEK阻害剤を併用する手法は既にロシュとノバルティスが実用化しており、併用で単剤に勝つだけではアピールが弱い。

Array社は元々、ノバルティスと共同開発していたが、ノバルティスがグラクソ・スミスクラインとアセットスワップを行ってBRAF阻害剤やMEK阻害剤などの腫瘍学ポートフォリオを取得したため、反トラスト局の命令により権利を返還した。

リンク: Array社のプレスリリース

カイプロリス、今度はベルケイドに勝てず
(2016年9月27日発表)

アムジェンは、Kyprolis(carfilzomib、和名カイプロリス)の第三相一次治療試験がフェールしたと発表した。実薬対照優越性試験がフェールしたという話なので有効性が否定された訳ではないが、開発段階で期待されたほどの薬ではないというエビデンスがまた積み重ねられた。今回の併用レジメンは忍容性があまりよくない可能性がありそうだ。

この試験は、造血幹細胞移植に不適な多発骨髄腫の一次治療としてKyprolis、melphalan、prednisoneを併用するKMPレジメンを、先輩格の類薬である武田薬品/ジョンソン・エンド・ジョンソンのVelcade(bortezomib)を用いる代表的なVMPレジメンと比較したもの。Kyprolisはレジメンによって様々な用量、増量ペース、投与サイクルが採用されているが、KMPではdexamethasoneを併用するKdレジメンより低量を用いている。

結果は、PFS(無進行生存期間)が22.3ヶ月、VMPは22.1ヶ月でハザードレシオは0.91(95%CI:0.75-1.10)となり、大差なかった。全生存期間の解析はイベント数がまだ所定に達しておらず未成熟だが、ハザードレシオ1.21(95%CI:0.90-1.64)で成功しそうな感じはない。有害事象データを見ると、致死的な治療時発現有害事象の発生率が6.5%とVMPの4.3%を上回っている。

優越性試験で有意差が出ないことは非劣性試験で有意差が出ないのとは意味が違うので、この試験だけに基づいて適応拡大申請しても承認されないだろう。幸い、臨床腫瘍学ではオフレーベル使用が盛んであり権威のあるコンペンディアやガイドラインに収載されていれば医療保険の対象になることが多い。KMPの人気は低下するだろうが、多発骨髄腫は次々と新薬、新レジメンが登場しており、VMP自体が米国では減ってきている様子だ。

従って、忍容性に関してこれ以上ネガティブな話が出ない限り、需要に与える影響は限定的だろう。

リンク: アムジェンのプレスリリース

【承認申請】


バイオジェン、脊髄性筋萎縮症用薬を承認申請
(2016年9月26日発表)

バイオジェン(Nasdaq:BIIB)とIonis(Nasdaq:IONS)は、 脊髄性筋萎縮症(SMA)用薬IONIS-SMN Rx(nusinersen)のローリング承認申請が完了したと発表した。FDAには優先審査も求めた。EUでも承認申請の予定で、既に加速審査が決まっている。

SMAは神経筋の成長・機能に係るSurvival Motor Neuronの遺伝子、SMN1の欠損が関与している。キャリアは50人に一人と多いが、ホモ接合型が発症する。nusinersenは、SMN2遺伝子のエクソン7をスキップさせスプライシングを変えることによって、本来は作れないはずのSurvival Motor Neuronを作らせるもの。月齢7ヶ月未満の幼児発症型を対象とした第三相試験(日本の施設も参加)が中間解析で成功、今回の承認申請に至った。

Ionis(ISISから社名変更)が創製、バイオジェンが今年8月にオプト・イン・オプションを行使してライセンスした。

リンク: 両社のプレスリリース

リジェネロンとサノフィがまた新薬承認申請
(2016年9月26日発表)

抗体医薬に係る基礎技術を持つ会社の強みは、多くのパイプラインを創製できることだ。バイオ薬の特許は製法に係るものが多く、全く異なる方法で作る技術があれば、他社と同じような薬を開発できる。

リジェネロン(Nasdaq:REGN)はそのような会社の一つで、08年に抗IL-1受容体抗体Arcalyst(rilonacept)が初承認された後も、11年にVEGF受容体融合蛋白Eylea(aflibercept)が承認、12年に同じ活性成分が抗癌剤Zaltrap(ziv-aflibercept)として承認、15年に抗PCSK9抗体Praluent(alirocumab)が承認。

今年に入って抗IL-6受容体アルファ・サブユニット抗体REGN88(sarilumab)を承認申請し、更に今回、抗IL-4受容体アルファ・サブユニット抗体のDupixent(dupilumab、開発コードREGN668/SAR231893)をアトピー性皮膚炎の治療薬として米国で承認申請し受理されたことを発表した。審査期限は来年3月29日。

管理不良中重度アトピー性皮膚炎の第三相試験の論文もNew England Journal of Medicine誌に刊行された。二本の試験で奏効率が36~38%と偽薬群の8~10%を大きく上回った。有害事象は注射箇所反応や結膜炎。感染症は増えなかった。皮注用で負荷用量600mg、維持用量は300mg。投与頻度は週一回と二週に一回の二つがテストされたが、効果は大差なさそうだ。

リンク: 両社ののプレスリリース
リンク: E. Simpsonらの治験論文(New England Journal of Medicine、フリーアクセス)

JNJ、イムブルビカを辺縁帯リンパ腫に適応拡大申請
(2016年9月26日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンはImbruvica(ibrutinib、和名イムブルビカ)を辺縁帯(マージナル・ゾーン)リンパ腫の二次治療薬として米国で適応拡大申請した。第二相試験に基づくもので、データは今後、学会発表される見込み。辺縁帯リンパ腫はリンパ節や唾液腺、肺などの辺縁帯に発生するもので、非ホジキンリンパ腫の12%を占める由。

リンク: JNJのプレスリリース

【承認審査・委員会】


アストラゼネカ、Recentinの欧州申請を撤回
(2016年9月21日発表)

アストラゼネカはVEGFR阻害剤Recentin(cediranib)を再発性白金薬感受性卵巣癌向けにEUで承認申請していたが、撤回したことを公表した。申請はICON6試験に基づくもので、Lancetに治験論文も刊行されているのだが、忍容性に問題があったのかもしれない。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

【承認】


ステラーラをクローン病に用いることが承認
(2016年9月26日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンはFDAが抗IL-12/23p40抗体Stelara(ustekinumab、和名ステラーラ)の適応拡大を承認したと発表した。中重度クローン病で免疫調停剤やステロイドに不応不耐の患者に用いる。臨床試験はTNF阻害剤経験者や未経験者の34~56%が奏功した。奏功者に対する維持療法も有効だった。導入は点滴静注、維持療法は皮注が可能。

乾癬や感染性関節炎で承認されている。クローン病用途はEUでも9月にCHMPが肯定的意見を出した。日本でも3月に承認申請。

MedarexがUltiMab技術を用いて創製したもの。BMSが買収したためあまり表面に出てこなくなったが、Regeneronに負けずに多くの抗体医薬を世に出している。

リンク: JNJのプレスリリース





今週は以上です。

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