2016年12月25日

2016年12月25日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • 中外、A型血友病薬の第三相が成功 
  • Ionis、高TG血症治療薬の第三相が成功 
  • 二剤だけのHIV治療レジメン 
  • アッヴィ、汎遺伝子型抗HCV薬を米国申請 
  • Sarepta、筋ジストロフィー用薬をEUでも承認申請 
  • FDAが脊髄性筋萎縮症用薬を承認 
  • 第2のPARP阻害剤が米国で承認 



【新薬開発】


中外、A型血友病薬の第三相が成功
(2016年12月22日発表)

中外製薬とロシュは、ACE910/RG6013(emicizumab)の最初の第三相試験が成功したと発表した。第VIII因子インヒビターを持つA型血友病の患者109人を組入れて、それまでバイパス製剤によるルーチン予防を受けていた患者はACE910によるルーチン予防群に、受けていなかった患者はACE910によるルーチン予防を受ける群と受けない群に2対1割付けして、後二群の出血頻度を比較したもの。

有害事象では、血栓塞栓イベントが2例、血栓性微小血管症も2例、発生した。何れもルーチン予防群で、出血治療として活性化プロトロンビン複合体を投与した症例とのことなので、ACE910の副作用ではないかもしれない。転帰は悪くなさそうで、2例は投与を再開した。

どの程予防できたのかは未公表。インヒビターを持つ患者は第VIII因子が使えないので効果が小さくても意味はあるが、今後開票するインヒビターのない患者を対象とした試験は、長期作用性第VIII因子のルーチン予防試験と同程度の成績を上げないと、需要に響く。

血液凝固カスケードでは様々な凝固因子が連鎖反応的に活性化していって最後にフィブリンが形成される。その一つである第VIII因子が欠乏しているのがA型血友病で、出血時には遺伝子組換え型第VIII因子などを補充して止血する。頻繁に出血する患者は2~4日に一回、定期的に投与するルーチン予防療法を受ける。

補充療法を行ううちに第VIII因子に対する抗体(インヒビター)ができてしまうことがあり、その場合は、様々な凝固因子等の混合物であるバイパス製剤や活性化第VII因子を用いて治療する。

ACE910は活性化第IX因子と第X因子の両方に結合する二重特異性ヒト化抗体で、前者と後者をバイパスすることによって、第VIII因子がなくても第X因子を活性化できるようにする。週一回の皮注用薬なので投与も簡便。もう一本の第三相では二週間に一回投与もテストしている。中外製薬がロシュと共同開発している。

リンク: ロシュのプレスリリース

Ionis、高TG血症治療薬の第三相が成功
(2016年12月19日発表)

Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)はアンチセンス薬の老舗で、最初の製品であるVitravene(fomivirsen)はあまり売れず販売中止になったが、 13年に高脂血症治療薬Kynamro(mipomersen sodium)が承認され、先週は後述の脊髄性筋萎縮症用薬が承認された。前後して、次のパイプラインであるISIS-APOCIIIRx(volanesorsen)の第三相高トリグリセライド(TG)血症試験成功が発表された。

血漿TGのクリアランスを制御する肝臓の蛋白、ApoC-IIIの生産を抑制するアンチセンス薬で、TGが減少しHDL-Cが増加する一方でLDL-Cは増加しないという特徴を持つ。

今回の第三相試験COMPASSは、TGが880mg/dLを超える重度高TG血症の患者114人を偽薬群と300mgを週一回皮注する群に無作為化割付して13週間治療したもの。偽薬群はTGが0.9%しか減らなかったが、試験薬群は71.2%減少し、有意に上回った。

有害事象による治験離脱は20%でその6割弱は注射箇所反応が原因。症状や不快感を伴わない疾患なので、コンプライアンスがあまり良くないようだ。

リンク: Ionisのプレスリリース

二剤だけのHIV治療レジメン
(2016年12月19日発表)

HIV/AIDSの治療は3種類以上の薬を併用するHAART(Highly Active Antiretroviral therapy)が一般的だ。ウイルスが一つの薬に耐性を獲得しても他の薬が攻撃するので耐性ウイルスの増殖を招きにくい。治療に成功しウイルスが検出不能になった後も副作用の多いHAARTを続けなければならないのか?どうもそのようだ。薬物療法を一定の期間休止するドラッグ・ホリディ手法を検討した試験の成績が芳しくないからである。

次の検討材料が、ジョンソン・エンド・ジョンソンとグラクソ・スミスクラインが共同開発している二剤併用による維持療法だ。前者の非核酸系逆転写阻害剤rilpivirineと後者のインテグラーゼ阻害剤dolutegravirを用いる。三剤併用でウイルス抑制に成功した患者を組入れた、第三相スイッチ試験を二本実施していたが、両方成功し、ウイルス抑制成功率が3~4剤併用を続行した群と比べて非劣性であったことが発表された。両社はコンビ薬として承認申請する予定。

更に、長期作用性インテグラーゼ阻害剤cabotegravirとrilpivirineの筋注用ナノサスペンション製剤を併用する、4週間または8週間に一回の投与で足りるレジメンも開発中で、HIV感染予防用途で第三相入りした。

リンク: JNJのプレスリリース

【承認申請】


アッヴィ、汎遺伝子型抗HCV薬を米国申請
(2016年12月19日発表)

アッヴィ(NYSE:ABBV)は、ABT-493(glecaprevir)とABT-530(pibrentasvir)の二剤併用レジメンを遺伝子型1~6型のC型肝炎ウイルス感染症の治療法として米国で承認申請した。前者はNS3/4Aプロテアーゼ阻害剤、後者はNS5A複製複合体阻害剤。臨床試験でのSVR12(治療終了の12週間後における持続的ウイルス学的奏効率)は、肝硬変を伴わない患者の一次治療試験が8週間の投与で97.5%。重度慢性腎疾患を伴う患者を組入れた試験では12週間の治療で98%だった。

DAA(直接作用性抗ウイルス剤:プロテアーゼ阻害剤、NS5A複製複合体阻害剤、NS5Bポリメラーゼ阻害剤)による治療歴を持つ遺伝子型一型の治療法としてFDAがブレークスルー・セラピー指定している。ABT-493はEnanta Pharmaceuticalsから共同開発提携に基づきライセンスしたもの。

リンク: アッヴィのプレスリリース

Sarepta、筋ジストロフィー用薬をEUでも承認申請
(2016年12月19日発表)

Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)は、Exondys 51(eteplirsen)をデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬としてEUで承認申請したことを発表した。米国では様々な議論を経て今年9月に承認されている。

DMDの多くは遺伝子変異が原因でジストロフィンが欠乏している。患者の13%程度は、遺伝子の51番目のエクソンに問題があり、そこで翻訳が終わるなどしてしまう。Exondys 51はこのエクソン51が翻訳されないように仕向けるエクソン・スキッピング薬。臨床的な効用は明確ではなく、投与症例数も十分とは言えないため、FDAは承認の条件として薬効確認試験の実施を求めた。

リンク: Sareptaのプレスリリース

【承認】


FDAが脊髄性筋萎縮症用薬を承認
(2016年12月23日発表)

FDAはSpinraza(nusinersen)を脊髄性筋萎縮腫(SMA)用薬として承認した。Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)が創製しBiogen(Nasdaq:BIIB)と共同開発したアンチセンス・オリゴヌクレオチドで、髄腔内投与する。神経系組織での半減期が長く、当初の3回は2週間毎投与だが、4回目は30日後、その後は4ヶ月に一回で足りる。希少小児疾患用薬優先審査バウチャーが交付される。

SMAはSMN1遺伝子の欠損が関与していて、I型(生後6ヶ月までに発症)やII型(小児発症)では95%に欠失が見られる。キャリアは50人に一人と多いが、両親から引き継ぐと発症する。日米欧の患者数は3~3.5万人と推定されている。

SMN1と類似した遺伝子であるSMN2はエクソン7に問題がありそこで翻訳が止まるためSurvival Motor Neuronを生成できない。このSMN2のエクソン7をスキッピングさせるのがSpinrazaで、アンチセンス変異をアンチセンスすることでマイナスの札をプラスに変える、アンチセンス薬としても珍しい薬だ。

主としてI型患者を組入れた試験では中間解析で運動機能奏効率が40%となり、シャム(髄腔内投与は危険なので偽薬は使わず針で刺すだけ)群の0%を有意に上回った。死亡率は23%でシャム群の43%を下回った。尚、中間解析を行うよう要請したのはFDAであることが今回のリリースで明らかにされた。

深刻な有害事象では無気肺が見られた。血小板減少や腎毒性も警告されている。

この試験には日本の施設も参加しており、日本でも今月、承認申請された。

リンク: FDAのリリース
リンク: バイオジェンのプレスリリース

第2のPARP阻害剤が米国で承認
(2016年12月19日発表)

FDAは、Clovis Oncology(Nasdaq:CLVS)のRubraca(rucaparib)を卵巣癌用薬として承認した。審査期限は来年2月なので2ヶ月前倒しとなった。損傷や翻訳複製ミスによる遺伝子変異を修復する二つのメカニズムの一つに係る、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)を阻害する小分子薬で、300mgを一日二回、経口投与する。

適応となるのはBRCA遺伝子に有害変異を持つ末期卵巣癌の三次治療。BRCAはもう一つの修復メカニズムに関与しており、有害変異があると癌のリスクが高まる。癌細胞は活発に遺伝子翻訳・複製しているため複製ミスが発生しやすいが、PARPを阻害してやると修復できなくなる。変異は生殖細胞系(卵巣癌患者の18%を占める)でも癌細胞における体細胞性変異(7%を占める)でもよい。同時に承認されたFoundation Medicine(Nasdaq;FMI)のFoundationFocus CDx-BRCAコンパニオン・ダイアグノスティックで事前に検査する。

第二相試験では反応率が54%、反応持続期間はメジアン9.2ヶ月だった。G3以上の治療時発現有害事象は61%、有害事象による治験離脱は8%だった。

Clovisが11年にファイザーからライセンスしたコンパウンド。

PARP阻害剤はアストラゼネカのLynparza(olaparib)が欧米でBRCA変異陽性卵巣癌に承認されているので、Rubracaは第2号となる。第3号になりそうなのはTesaro(Nasdaq:TSRO)がMSDからライセンスしたMK-4827(niraparib)で、10月に米国で承認申請された。白金薬感受性卵巣癌の維持療法試験では、BRCA変異が陽性ではない癌にも有効だったことが注目される。

リンク: FDAのリリース
リンク: Clovisのプレスリリース
リンク: Foundation Medicineのプレスリリース





今週は以上です。

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2016年12月18日

2016年12月18日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • アミノグリコシド系新薬の第三相が成功 
  • CHMPが抗リウマチ薬などに肯定的意見 
  • アトピーの新薬が承認 
  • MACIが遂に承認 
  • OcalivaがEUでも承認 
  • FDAが三つの課題に結論



【新薬開発】


アミノグリコシド系新薬の第三相が成功
(2016年12月12日発表)

Achaogen(Nasdaq:AKAO)はACHN-490(plazomicin)の第三相試験成功を発表した。17年に米国で、18年に欧州でも、承認申請する予定。

複雑性尿道感染症の患者609人をplazomicin群とmeropenem群に無作為化割付して治療効果を比較したもの。plazomicinは15mg/kgを一日一回、30分点滴静注した。両群とも、所定の条件を満たした患者はlevofloxacinの経口投与にステップダウン可。

FDAとEMAは抗生物質の薬効評価方法に関する見解が異なるため、この試験でも複数の解析が行われた。FDA向け主評価項目は、細菌学的修正intent-to-treat集団を対象とした、臨床的治癒且つ細菌学的駆除の奏効率。第5日時点では88.0%となり、meropenem群の91.4%を3.4%下回ったが、95%信頼区間下限が-10%とFDAと事前に合意した非劣性マージンである-15%を上回ったため、非劣性と認定された。

テスト・オブ・キュア時点の奏効率は81.7%対70.1%となり、差の95%下限は2.7%であったため、優越性認定された。EMA向けの主評価項目では優越性認定された。

plazomicinはアミノグリコシド系であるため腎機能や聴力に対する副作用が懸念される。腎治療時発現有害事象は3.6%対1.3%で上回った。蝸牛や前庭機能は各群1例のみだった。

カルバペネム耐性腸内菌による菌血症・院内感染細菌性肺炎・人工呼吸器関連細菌性肺炎の試験の結果も発表された。meropenemまたはtigecycline併用で28日死亡・重度合併症発生率をcolistinと比較したもので、360例の組入れが順調に進まずに途中打ち切りとなったため検出力が弱いのだが、23.5%対50.0%、28日死亡率11.8%対40.0%と数値上は良い結果になった。

リンク: Achaogenのプレスリリース(pdfファイル)

【承認審査・委員会】


CHMPが抗リウマチ薬などに肯定的意見
(2016年12月16日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、12月の会議で、イーライリリーの抗リウマチ薬、ロシュの抗癌剤、MSDのクロストリジウム・ディフィシル感染症薬などの新薬に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

イーライリリーのOlumiant(baricitinib) は、中重度活性期リウマチ性関節炎で疾病装飾的抗リウマチ薬に十分に反応しない又は不耐の成人の治療に、単剤投与またはMTXと併用する。ノバルティスの骨髄線維症治療薬であるJakafi(ruxolitinib、和名ジャカビ)と同じJAK1/2阻害剤で、何れもインサイト社からライセンスしたもの。欧州でリウマチ用JAK阻害剤が承認されれば初。米国でも承認審査中。

単剤投与試験ではMTXやHumira(adalimumab)より高い効果を示した。有害事象は高脂血症、悪心、上部気道感染症など。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: イーライリリーのプレスリリース

中外製薬が創製し海外ではロシュが開発販売するAlecensa(alectinib、和名アレセンサ)は、ALK融合遺伝子陽性の切除不能非小細胞性肺癌でXalkori(crizotinib)による治療を既に受けた患者に用いる。Xalkoriと同じALK阻害剤で、染色体転座などにより自己リン酸化してしまうALKを阻害することによって、腫瘍細胞のALK依存的増殖を阻害する。条件付き承認となる見込み。14年に日本で、15年には米国でも、承認済み。

重篤有害事象は間質性肺疾患/肺炎、肝毒性、重度筋痛、CPK上昇、徐脈など。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース

タイミングがずれたが11月22日付で肯定的意見が出たのがMSDのZinplava(bezlotoxumab)。クロストリジウム・ディフィシルのB毒素を中和する抗体医薬で、感染症治療効果はないが、再発を抑制し、持続的臨床的奏効率を向上する。心不全歴を持つ患者では深刻な心不全の発生率や死亡率が偽薬群を上回った。米国では10月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

アクテリオン(SIX: ATLN)と言えばジョンソン・エンド・ジョンソンが買収を断念し次はサノフィかと世間を賑わせているが、CHMPではLedaga(chlormethine)が菌状息肉腫型皮膚T細胞リンパ腫(MF-CTCL)用薬として肯定的意見を得た。活性成分自体は70年の歴史を持つがゲル製剤は初めて。薬局調剤品が存在する模様であり、発売は早くて17年末になるようだ。

リンク: アクテリオンのプレスリリース

適応拡大では、MSDのKeytruda(pembrolizumab)を非小細胞性肺癌の一次治療に用いることを支持した。切除不能の末期癌で、TPS(PD-L1腫瘍比率スコア)が50以上なら適応になる。200mgを3週間に一回、点滴静注する。臨床試験ではPFS(無進行生存期間)や全生存期間が白金レジメンを上回った。米国では10月に承認。

リンク: MSDのプレスリリース

ノバルティスの抗IL-1ベータ抗体、Ilaris(canakinumab、和名イラリス)は周期熱症候群のうちマックル-ウェルス症候群MWSと家族性寒冷自己炎症性症候群の治療薬として承認されているが、家族性地中海熱、高IgD症候群/メバロン酸キナーゼ欠損症、そしてTNF受容体関連周期性症候群に用いることも支持された。米国では9月に承認、日本でも11月に第二部会通過。Ilarisはこのほかに、全身性小児特発性関節炎や活性期Still病などでも承認・承認申請されている。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

ノバルティスのmTOR阻害剤everolimusは様々な用途で承認されているが、その一つである結節性硬化症(TSC)では様々な合併症に対する効果も認められている。上衣下巨細胞性星細胞腫(SEGA)、腎血管筋脂肪腫に続いて、CHMPは難治性癲癇発作の治療用途に肯定的意見を出した。臨床試験では発作頻度を30~40%抑制した。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

アムジェンの抗PCSK9抗体、Repatha(evolocumab)は高いLDL-C低下作用を持つが、難点の一つは皮注用薬であること。140mgを2週間に一回、または月に一回140mgを3回投与するが、新たに420mg製剤が肯定的意見を得た。競合薬であるリジェネロン/サノフィのPraluent(alirocumab、和名プラルエント)は月一回投与が承認されていないので、420mgが承認されれば差を広げることができる。

リンク: アムジェンのプレスリリース

【承認】


アトピーの新薬が承認
(2016年12月14日発表)

FDAはファイザーのEucrisa(crisaborole)を2歳以上の軽中度アトピー性皮膚炎の治療薬として承認した。軟膏で一日二回塗布する。臨床試験では奏効率が31~32%となり偽薬群の18~25%を有意に上回った。プール分析では紅斑 、滲出 、擦過傷 、硬結、苔癬化などが改善した。有害事象による治験離脱は両群とも1.2%だった。深刻な有害事象は過敏反応。

今年6月に52億ドルで買収したAnacor PhamaceuticalsのPDE-4阻害剤。効果の面ではリジェネロン/サノフィの抗体医薬であるDupixent(dupilumab)のほうが良い数字が出ているが、塗り薬であることや忍容性、そしておそらく価格の面でも普及のハードルが低そうだ。

リンク: FDAのリリース
リンク: ファイザーのプレスリリース

MACIが遂に承認
(2016年12月14日発表)

Vericel Corporation(Nasdaq:VCEL)はMACIがFDAに承認されたと発表した。症候性の膝関節軟骨全層欠損の治療に用いる。第3世代の軟骨細胞療法で、患者から採取した軟骨細胞を培養し
ブタI/III型コラーゲン膜に播種、損傷場所に移植して再生を図る。欧州で実施された2年間の臨床試験では、マイクロフラクチャー術(微小な穴をあけて天然の再生プロセスをトリガーする)より奏効率が高かった(87.5%対68.1%)。

元々はVerigenの製品で98年に欧州の一部地域で発売されたが、規制変更や経営陣交代、販売不振などを経て販売中止となった。05年にジェンザイムがVerigenを買収、そのジェンザイムを買収したサノフィが14年に細胞療法・再生医療事業をVericeに譲渡。Vericelは米国なら売れると判断して開発を続行、18年ぶりに治療法として再生した。

リンク: Vericelのプレスリリース

OcalivaがEUでも承認
(2016年12月14日発表)

Intercept Pharmaceuticals(Nasdaq:ICPT)はOcaliva(obeticholic acid)がEUで原発性胆汁性肝硬変の治療薬として承認されたと発表した。既存薬であるウルソデオキシコール酸の類縁体でファルネソイドX受容体(FXR)を作動する力価が著しく高い。アルカリフォスファターゼや総ビリルビンを改善する、代理マーカーに基づく条件付き承認であるため、改めて臨床的効用を確認しないと承認が取り消される可能性がある。

リンク: Interceptのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDAが三つの課題に結論
(2016年12月12日発表)

米国は大統領が代わると行政組織の上層部も大きく入れ替わる。だからということでもないのだろうが、FDAは、長年の検討課題であった三つの問題に結論を出した。Actos(pioglitazone)と膀胱癌の関連性、乳幼児や胎児の麻酔リスク、そして禁煙補助薬の精神学的副作用問題だ。

PPAR作動剤は90年代に承認される前から癌原性懸念があったが、三製品のうち二品は他の副作用が理由で一つは販売中止、一つは売上激減した。唯一の生き残りである武田薬品の二型糖尿病薬Actosは心不全のリスクを持つが、大規模アウトカム試験や疫学的試験で膀胱癌懸念が浮上、医療保険組織のデータベースを使った10年間の前向き疫学的試験が実施された。

この試験の5年中間解析ではハザードレシオが1.2倍とActosを服用しない患者より発症率が高かったが、95%信頼区間は1を跨いでおり、有意ではなかった。しかし、用量や服用期間との関連性が疑われた。その後、最終解析の結果が出たが、ハザードレシオは1.06、95%信頼区間0.89~1.26と、有意な関連性がないことが確認された。服用期間が長いとリスクが高まるトレンドが見られたが、有意性はなかった。PROACTIVE試験の観察的追跡試験では、ハザードレシオが1.00に低下した。

一方、英国の医療データベースを用いたTuccoriらの研究ではリスクが有意に増加した。これらを踏まえて、FDAは、pioglitazoneは膀胱癌のリスク上昇と関連している可能性があると判断した。

リンク: FDAの安全性通知(12/12付け)

乳幼児や妊娠後期の胎児に全身麻酔を行うと脳細胞に悪影響を及ぼすリスクがあることを示唆する前臨床試験や疫学的試験の論文は以前から存在しているが、FDAは、今回、麻酔薬や鎮静剤のレーベルに警告追加するよう製薬会社に要求した。リスクと便益を慎重に検討して、長時間の使用や複数回の施行に気を付けるよう促している。FDAも指摘しているように、麻酔のリスクより治療を行わないリスクの方が切迫しているかもしれないので、難しい問題だ。

リンク: FDAの安全性通知(12/14付け)

ファイザーの禁煙補助薬、Chantix(varenicline、和名チャンピックス)は米国のメディアが異常行動問題を大きく取り上げたことが発端で米国売上がピークアウトした。あまり報道されていない日本などでは引き続き伸びたが、米国はPL訴訟も盛んなので白黒決着が付くかどうかは経済的にも大きな問題だ。

FDAの要請でファイザーが行った市販後監視試験ではリスクが高まらなかった。9月に開催された諮問委員会は枠付き警告解除を支持した。FDAの最終判断が注目されたが、結局、従来疑われていたほどリスクは高くないと判断。今回、枠付き警告を止めて、気分、行動、思考に関する副作用警告箇所にこの試験の結果を掲載することを決めた。グラクソ・スミスクラインのZyban(bupropion)のレーベルにも同じ変更を行う。

リンク: FDAの安全性通知(12/16付け)




今週は以上です。

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2016年12月11日

2016年12月11日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ASH:ロシュのGazyvaが一次治療でもリツキサンに勝つ 
  • WCLC:アストラゼネカ、タグリッソの直接比較試験が成功 
  • WCLC:ノバルティスのジカディアも直接比較試験が成功 
  • CTAD:イーライリリーの抗アミロイドベータ抗体は効果が限定的 
  • アストラゼネカ、抗PD-L1抗体を米国で承認申請 
  • Kite、CAR-Tのローリング承認申請を開始 
  • ギリアドが新たなC型肝炎治療薬を承認申請 
  • アトピー治療薬が欧州でも承認申請 
  • ロシュ、アバスチンがまた適応拡大 
  • アッヴィ、bcl-2阻害剤がEUでも承認 



【新薬開発】


ASH:ロシュのGazyvaが一次治療でもリツキサンに勝つ
(2016年12月5日発表)

ロシュは、ASH(米国血液学会)での学会発表に合わせてGazyva(obinutuzumab)の直接比較試験、GALLIUM試験の結果を公表した。CD20を標的とするフコース欠如ヒト化抗体であるGazyvaは、CD20を標的とする先輩格のキメラ抗体、Rituxan(rituximab、和名リツキサン)より優れた効果を過去の再発治療試験で示してきたが、今回、濾胞性非ホジキン型リンパ腫の一次治療薬としても上回ることが明らかになった。

この試験は、緩慢性非ホジキン型リンパ腫で初めて薬物治療を受ける1401人を組入れて、CHOP、CVP、またはbendamustineとRituxanを併用する標準療法と、Rituxanの代わりにGazyvaを用いる併用法のPFS(無進行生存期間)を比較したもの。主評価項目は被験者の8割を占める濾胞性非ホジキン型リンパ腫サブグループの治験医評価PFS。結果は、ハザードレシオ0.66、95%信頼区間0.51-0.85、3年PFS率80.0%対73.3%と、有意な差があった。

二次的評価項目の一つである第三者査読によるPFSもハザードレシオ0.71で有意差があった。全生存期間のハザードレシオは0.75だが未だ有意差は出ていない。G3以上の有害事象の発生率は74.6%対67.8%で上回り、骨髄抑制や点滴関連反応などが増加した。二次性新生物(4.7%対2.7%)や致死的有害事象(4.0%対3.4%)も増加した。

一次治療はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫のRituxan対照CHOP併用試験が実施されたが、フェールしており、今回が初の成功となった。

リンク: ロシュのプレスリリース

WCLC:アストラゼネカ、タグリッソの直接比較試験が成功
(2016年12月6日発表)

アストラゼネカのTagrisso(osimertinib、和名タグリッソ)の第三相AURA3試験の結果がWCLC(世界肺癌会議)とNew England Journal of Medicine誌で発表された。EGFR活性化変異を持つ非小細胞性肺癌はEGFR阻害剤によく反応するが、T790M変異が発生して抵抗性を取得することがしばしば見られる。Tagrissoはこのような癌にも有効で、第二相試験の結果に基づいて15年に米国で、今年はEUや日本でも、承認された。

今回の第三相試験は、EGFR阻害剤治療歴を持つEGFR活性化変異陽性かつT790M陽性の非小細胞性肺癌患者をTagrisso群と白金薬ベースの二剤併用群に無作為化割付して治験医評価に基づくPFSを比較した。結果は、メジアン値が10.1ヶ月と白金レジメン群の4.4ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.30、pは0.001を下回った。脳転移を持つ患者でも好成績。グレード3以上の薬物関連有害事象発生率は6%対34%で少なかった。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

WCLC:ノバルティスのジカディアも直接比較試験が成功
(2016年12月6日発表)

非小細胞性肺癌では腫瘍の特徴に応じて最適な治療法を選択する手法が次々と登場している。ノバルティスのZykadia(ceritinib、和名ジカディア)もその一つで、数パーセントの患者で見られるALK遺伝子が別の遺伝子と融合してしまうALK再編成陽性の癌の二次治療薬として日米欧で承認されている。今回、一次治療試験の結果がWLCで発表された。

治験医評価PFSがメジアン16.6ヶ月と、Alimta(pemetrexed)と白金薬を併用した群の8.1ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオ0.55、p値は0.001を下回った。脳転移のある患者でも好成績。全生存期間の解析は未だ成熟していないが良いトレンドが見られた由。

ALK阻害剤の第一号であるファイザーのXalkori(crizotinib、和名ザーコリ)もALK再編成陽性非扁平上皮性非小細胞性肺癌の直接比較試験でAlimta・白金薬併用群に対してハザードレシオ0.45という良い成績を上げている。今回の試験で、このタイプにはALK阻害剤が第一選択であることが再確認された。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

CTAD:イーライリリーの抗アミロイドベータ抗体は効果が限定的
(2016年12月8日発表)

イーライリリーの抗アミロイドベータ抗体、LY2062430(solanezumab)は12年に二本の第三相軽中度アルツハイマー病試験がフェールした。軽度患者には良さそうなデータが出たため、軽度アルツハイマー病でアミロイドベータ蓄積のある患者だけを対象に再挑戦したが、フェールした。今回、CTAD(アルツハイマー病臨床試験)学会とプレスリリースでデータが公表された。

主評価項目のADAS-cog14の悪化は偽薬群より11%小さかったが、p=0.095で有意ではなかった。前回の第三相試験のプール分析では34%小さかったが、期待外れの結果になった。二次的評価項目ではMMSE(悪化が13%小さい)やCDR-SB(15%小さい)、ADCS-iADL(14%小さい)などでp値が0.05を下回ったが、主評価項目がフェールしているので統計的に有意とは言えない。MMSEは医療現場では広く用いられているが、治療効果を測定する手段としては適切ではない。

そもそも、この試験は例えばAricept(donepezil)の第三相と比べて大規模・長期間なので検出力が高く、小さな差でも有意差が出てしまう。Ariceptの第三相軽中度アルツハイマー病試験の薬効評価項目の一つであったADAS-cogは偽薬群では半年で2ポイント悪化したがAricept群は1ポイント改善した。solanezumabのデータを無理やり当てはめると1.8ポイント悪化になるので、周りの人には、効いているのかいないのか差が分からないだろう。

アミロイドベータを標的とする抗体には様々な種類がある。solanezumabは可溶性モノマーを標的としており、この試験でも可溶性モノマーは減少したが、アミロイドベータのプラクは改善しなかった。プラクを攻撃すると血管原性浮腫のリスクが高まるので善し悪しだが、アミロイド仮説には未だ希望が少し残っていることになる。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

【承認申請】


アストラゼネカ、抗PD-L1抗体を米国で承認申請
(2016年12月9日発表)

アストラゼネカは、MEDI4736(durvalumab)を米国で承認申請し受理されたと発表した。局所進行性/転移性の尿路上皮細胞腫で白金薬による治療歴を持つ患者の二次治療に用いる。優先審査を受け来年第2四半期に結論が出る見込み。

薬効のエビデンスは第1/2相の1108試験。10mg/kgを二週間に一回投与したところ、ORR(客観的反応率)は31%、PD-L1高発現型では46%だった。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

Kite、CAR-Tのローリング承認申請を開始
(2016年12月4日発表)

Kite Pharma(Nasdaq:KITE)は、KTE-C19(axicabtagene ciloleucel)のローリング承認申請を開始した。CD19に結合する抗体短鎖フラグメントをT細胞の活性化を刺激する分子と結合したCAR-T(キメラ抗原受容体T細胞)療法で、再発性難治性のアグレッシブなB細胞性非ホジキン型リンパ腫で自家幹細胞移植が適応にならない患者に用いる。

CAR-T療法はノバルティスやJuno Therapeutics(Nasdaq:JUNO)/セルジーンなども開発しているが、承認申請は今回が初めて。来年にはノバルティスがCTL019を承認申請する見込みだ。

薬効のエビデンスはZUMA-1試験の第二相ポーションの中間解析で、化学療法難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫51人のORR(客観的反応率)は76%だった。但し、3ヶ月後の評価は39%に低下した模様であり、一般的な指標である確認ORRは39%と考えたほうがよさそうだ。

グレード3以上の有害事象発生率は、サイトカイン放出症候群が13%、神経学的毒性29%、その他に好中球減少症、貧血、血小板減少症、脳症など。治療時発現有害事象による死亡は3例だった。

リンク: Kiteのプレスリリース

ギリアドが新たなC型肝炎治療薬を承認申請
(2016年12月8日発表)

ギリアド・サイエンス(Nasdaq:GILD)は抗ウイルス薬の新薬と合剤を次々と開発・発売している。今回はトリプルコンビ薬を米国で慢性C型肝炎の二次治療薬として承認申請した。直接作用性抗ウイルス薬(DAA)による治療歴を持つ、遺伝子型1型から6型までの患者が対象。

一次治療薬として今年欧米で承認されたEpclusaの配合成分であるNS5Bポリメラーゼ阻害剤のsofosbuvirと汎遺伝子型NS5A複製複合体阻害剤のvelpatasvirに、更に汎遺伝子型NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤のvoxilaprevirを加えたもの。第三相試験では、12週間の治療で奏効率(SVR12)が97%だった。

リンク: ギリアドのプレスリリース

アトピー治療薬が欧州でも承認申請
(2016年12月8日発表)

リジェネロン(Nadaq:REGN)とサノフィは、Dupixent(dupilumab)をEUに承認申請し受理されたと発表した。IL-4受容体のアルファ・サブユニットを標的とするトランスジェニックマウス抗体で、軽中度アトピー性皮膚炎の治療に用いる。米国では9月に申請受理されている。

二本の第三相試験では、グローバル評価(5段階)が0または1に改善した患者の比率が36~38%と偽薬群の8~10%を大きく上回った。有害事象は注射箇所反応や結膜炎など。皮注薬で、臨床試験では週一回と二週間に一回の投与頻度をテストしたが二週毎で十分のようだ。

サノフィの工場でcGMP問題が発生しており、承認が遅れる可能性もありそうだ。

リンク: サノフィのプレスリリース

【承認】


ロシュ、アバスチンがまた適応拡大
(2016年12月7日発表)

ロシュは、FDAがAvastin(bevacizumab)の適応拡大を承認したと発表した。これで6種類の癌に9種類の用法が認められたことになる。適応拡大は久しぶりだが、実際は、米国だけ遅れていた用途がやっと承認された。

難治性の白金薬感受性卵巣癌に、carboplatinとpaclitaxelまたはgemcitabineと三剤併用する。第三相は二本実施され、どちらもPFSが二剤併用と比べて有意に増加したが、全生存の解析は一本がフェール。もう一本は階層化の方法次第で有意差があったともなかったとも言える。結局、延命効果が確立しているとは言い難い。

リンク: ロシュのプレスリリース

アッヴィ、bcl-2阻害剤がEUでも承認
(2016年12月8日発表)

アッヴィは、Venclyxto(venetoclax、米国の製品名はVenclexta)がEUで承認されたと発表した。再発性難治性慢性リンパ性白血病の治療薬で、化学療法とB細胞受容体パスウェイ阻害剤(Rituxanなど)による治療歴を持つ患者が対象。但し、化学療法が効き難い17番染色体短腕(17p)欠損型やTP53変異型の場合はB細胞受容体パスウェイ阻害剤不応・不適だけで足りる。

第二相試験に基づく承認で、17p欠損型107人を組入れた試験ではORRが79%だった。

アッヴィとジェネンテックの共同研究の成果で、米国は両社で共同販売、生産と米国外はアッヴィが担当する。

リンク: アッヴィのプレスリリース




今週は以上です。

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2016年12月4日

2016年12月4日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ASH:抗Pセレクチン抗体が鎌状赤血球症の疼痛クリーゼを抑制 
  • ASH:ペン大がCAR-TのALLデータ発表 
  • メルク/ファイザーの抗PD-L1抗体が優先審査に 
  • MSD、キイトルーダで二つの適応拡大申請 
  • GSK、COPDのトリプルコンビを欧州でも承認申請 
  • FDAがジャディアンスの心血管死抑制効果を認定 



【新薬開発】


ASH:抗Pセレクチン抗体が鎌状赤血球症の疼痛クリーゼを抑制
(2016年12月3日発表)

ノバルティスの抗Pセレクチン抗体、SEG101(crizanlizumab)の第二相試験結果がASH(米国血液学会)とNew England Journal of Medicine誌で発表された。鎌状赤血球症患者の血管閉塞性疼痛クリーゼ(危機)のリスクを偽薬比45%削減した。

鎌状赤血球症はヘモグロビン遺伝子変異による遺伝性疾患で、赤血球の酸素運搬能力が低い。アフリカに多いとされる。慢性的溶血や血管閉塞性疼痛、多臓器不全などを合併する。

SEG101は抗Pセレクチン・ヒト化抗体で、内皮細胞のPセレクチンに結合して鎌状赤血球が接着するのを妨げる。ノバルティスが先月、買収オプションを行使したSelexys Pharmaceuticalsの開発品。

今回の第二相試験は、過去12ヶ月間に血管閉塞性疼痛クリーゼを2~10回経験した患者198人を偽薬、5mg/kg、2.5mg/kgの三群に割付けて発生頻度を観察した。結果は、主評価項目である5mg/kg群の年率発生回数が1.63、偽薬群は2.98となり、リスクが45.3%低下、p=0.010だった。2.5mg/kg群も2.01対3.00と少なかったがp=0.180。

既存薬ではヒドロキシウレアが用いられているが、それほど普及していない模様である。患者がアフリカに多いとなると、価格が高く冷凍保存が必要な遺伝子組換え薬は必ずしも適していないのではないかと思われるが、有望な新薬が現れなかったらそんな心配もできない。

リンク: ノバルティスのプレスリリース
リンク: Atagaらの治験論文(NEJM、オープンリリース)

ASH:ペン大がCAR-TのALLデータ発表
(2016年12月4日発表)

ノバルティスは、キメラ抗原受容体-T細胞療法(CAR-T)であるCTL019の第二相青少年B細胞性急性リンパ芽球性白血病(ALL)試験の結果を発表した。ライセンス元であるペンシルバニア大学の研究者がASHのプレスブリーフィングで公表したもの。

CTL019は、B細胞特異的に発現するCD19に結合する抗体の単鎖可変領域の遺伝子をTCR共刺激伝達領域である4-1BB及びCD3ゼータ鎖の遺伝子そしてスペーサーで繋いだものを、患者から採取したT細胞に導入し、培養・活性化する。fludarabineやcyclophosphamideでプリトリートして患者のリンパ球を枯渇した後に投与すると、抗原提示がなくてもB細胞を攻撃する。

今回のELIANA試験は欧米や日本などの施設で3~25歳の再発性難治性患者50人に投与したところ、客観的反応率(血球数の回復が不十分だが完全寛解の症例も含む)が82%となった。CAR-Tの泣き所であるグレード3、4のサイトカイン放出症候群が48%の患者で発生し、人工心肺や透析を必要とする低血圧も発生したが、死亡例はなかった。グレード3の神経学的イベント・精神学的イベント(脳症やせん妄など)の発生率は15%だった。

ノバルティスは17年初めに米国で、欧州でも同年中に、承認申請する考え。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

【承認申請】


メルク/ファイザーの抗PD-L1抗体が優先審査に
(2016年11月29日発表)

ドイツのメルクと共同開発パートナーであるファイザーは、抗PD-L1完全ヒト化抗体であるMSB0010718C(avelumab)を米国で転移性メルケル細胞腫用薬として承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受ける。PDUFA審査期限は不明。承認されれば抗PD-L1ではロシュのTecentriq(atezolizumab)に次ぐ第二の新薬、抗PD-1も含めればBMS/小野薬品のOpdivo(nivolumab)などに次ぎ4番目となる。

メルケル細胞腫は皮膚がんの一種で進行が速い。米国で年2500人が発症、10月に承認申請されたEUでも同数の、希少疾患だ。

開発競争の激しい分野ではリード・インディケーションの選択が重要だ。選択の余地が大きい腫瘍学では、承認までの開発リードタイムを少しでも短縮し承認審査機関から加速審査や優先審査を受けるために色々な工夫がなされている。抗PD-1/PD-L1ではBMS/小野とMSDが様々な癌でつばぜり合いしているが、ロシュは膀胱癌を、MSD/ファイザーは希少疾患を最初の適応症に選んだ。勿論、将来は肺癌のような大市場で全面対決する覚悟だろう。

一方、アストラゼネカの抗PD-L1であるMEDI4736(durvalumab)は、肺癌や頭頸部癌でサロゲートマーカーに基づく加速承認申請する作戦だったが、治験結果が出る前に他社が適応拡大してしまったため、中々申請できないでいる。彼我の距離やスピード、夫々の適応症の得失を正しく測定評価する能力が問われている。

リンク: 両社のプレスリリース

MSD、キイトルーダで二つの適応拡大申請
(2016年11月28日発表)

抗PD-1抗体の開発販売で激突しているBMS/小野(Opdivo)とMSD(Keytruda)の両陣営は、適応拡大の手綱も緩めていない。先週はMSDが米国で二つの適応拡大申請を相次いで行った。一つは古典的ホジキン型リンパ腫で、Opdivoが既に承認されているので意外感はないが、優先審査指定され審査期限が来年3月15日と早いのが驚き。四次治療または難治性の患者を対象にしていてOpdivoより遅い段階での、いわゆるサルベージセラピーとしての用途であることが理由だろう。

もう一つの用途は末期マイクロサテライト高不安定性(MSI-H)腫瘍の再発治療。MSI検査は、同じ塩基配列が続いていて複製エラーが起きやすい遺伝子部位を調べることによって、ミスマッチを修復するメカニズムがどの程度機能しているかを調べるもの。リンチ症候群の患者が発症する遺伝性結腸直腸癌はミスマッチ修復遺伝子の先天的な変異と後天的な変異が重なってMSI-Hになることが多いようだが、結腸直腸癌以外では後天的な変異だけのケースもあるようだ。

着眼の経緯はNew England Journal of Medicine誌の治験論文に記されている。バイオマーカーに基づいて応答性を予測する手法がまた一つ、増えそうだ。

リンク: MSDのプレスリリース(cHL、12/1付け)
リンク: 同(MSI-H腫瘍、11/28付け)
リンク: Leらの治験論文(NEJM)

GSK、COPDのトリプルコンビを欧州でも承認申請
(2016年12月2日発表)

グラクソ・スミスクラインは三種類の活性成分を配合したClosed Triple CombinationをCOPD治療薬として欧州で承認申請した。米国でも11月に申請済み。

COPDの増悪予防は患者の反応を見ながら薬を増量・追加していく。今回のトリプルコンビ薬は、コルチコイドのfluticasone furoate、長期作用性ムスカリン受容体拮抗剤のumeclidinium、そして長期作用性ベータ2作用剤のvilanterolを配合したもので、Ellipta吸入器で一日一回、吸入する。夫々の成分や二剤配合薬は既に実用化されているので併用可能だが、1個で済めば手間が省ける。

Innoviva(Nasdaq:INVA)との共同開発プロジェクトの対象で、GSKは売上の6.5~10%をロイヤルティとして支払い、Innovivaはその85%を14年にスピンアウトしたTheravance Biopharma(Nasdaq:TBPH)に支払う。

リンク: GSKのプレスリリース

【承認】


FDAがジャディアンスの心血管死抑制効果を認定
(2016年12月2日発表)

FDAは、ベーリンガー・インゲルハイムがイーライリリーと共同開発販売しているSGLT2阻害剤、Jardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス)の新しい適応・効能を承認した。二型糖尿病且つ心血管疾患の成人患者が心血管疾患で死亡するリスクを削減する、というもの。

CDC(米国疾病管理予防センター)によると、糖尿病成人は心血管疾患で死亡するリスクが1.7倍高いので、血糖治療薬が心血管疾患リスクを高めるのか下げるのかは重要な問題だ。米国は未承認用途・効能に関する情報提供の規制が厳しいので、正式承認の意義は大きい。

Jardianceは腎臓細管のグルコース・トランスポーターであるSGLT-2を阻害して、グルコースが血中に戻るのを防ぐ。利尿を促進する面もあり、血圧低下の便益がある一方で低血圧やケトアシドーシスのリスクがある。独特の副作用は尿道や性器の感染症。尿道に付着するグルコースが栄養になるようだ。

今回の承認のエビデンスとなったEMPA-REG OUTCOME試験では、心血管死/非致死的心筋梗塞/非致死的卒中の複合評価項目の偽薬比ハザードレシオが0.86、95.02%信頼区間0.74~0.99となり、非劣性解析だけでなく優越性解析も成功した。心血管死はハザードレシオ0.62、95%信頼区間0.49~0.77。1000人に1年間投与すると心血管疾患で死亡する人を7.7人減らすことができる計算だ。

長期大規模試験とは言え一件だけで効能を認めるのは妥当か?心臓腎臓薬諮問委員会が招集されたが、YESが12人、NOが11人と票が分かれた。僅差でも、大統領選と同じで、勝者は全てを獲得する。

リンク: FDAのリリース
リンク: EMPA-REG OUTCOME Investigatorsの治験論文(NEJM誌オープンアクセス)




今週は以上です。

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