2016年9月4日

2016年9月4日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • ロシュのTecentriqはPD-L1発現を問わず肺癌に有効 
  • MSD、カテプシンK阻害剤の開発をついに断念 
  • VMAT2阻害剤が承認申請 
  • MEK阻害剤の承認申請が受理 
  • またまたALK阻害剤が承認申請 
  • アーゼラのFC併用が米国で承認 
  • ザーコリ、EUでもROS1再編成型に承認 
  • FDA:オピオイドとベンゾジアゼピンの併用は要注意



【新薬開発】


ロシュのTecentriqはPD-L1発現を問わず肺癌に有効
(2016年9月1日発表)

ロシュは、Tecentriq(atezolizumab)の非小細胞性肺癌二次治療試験が成功したことを発表した。延命効果をdocetaxelと比較した実薬対照試験で、共同主評価項目であるintent-to-treatベースの解析とPD-L1陽性例だけを対象とした解析の両方とも有意に優れていた模様だ。データは学会で発表される予定。

TecentriqはPD-1のレガンドであるPD-L1を標的とするヒト化抗体で、PD-1標的抗体であるMSDのKeytruda(pembrolizumab)やBMS/小野薬品のOpdivo(nivolumab)と類似している。Keytrudaは今回と同じ非小細胞性肺癌の二次治療向けに承認されていて一次治療の第三相も成功したが、どちらも、対象はPD-L1高発現型だけ。

Opdivoも二次治療に承認されているが、Keytrudaとの違いは事前にPD-L1検査を行う必要がないこと。但し、陰性に対する有効性が確立しているわけではなく、無効性が確立していないので除外されていないだけである。PD-L1不問で実施された第三相一次治療試験がフェールしたことを考えれば、PD-L1陰性癌の第一選択にするのは無理がある。

このような流れであったため、今回の治験結果は驚きだ。ロシュが使っているPD-L1検査アッセイはMSDやBMSが使っているDAKO社製とは異なり、腫瘍細胞だけでなく腫瘍に浸透する免疫細胞も検査しているので、おそらく、陰性例はDAKOより減るだろう。それでも有効なのだとしたら、説得力が高い。

とは言え、抗癌剤の効く効かないは紙一重なのでグレーゾーンがあっても不思議はない。ハザードレシオや信頼区間、p値がどの程度なのか、データを見てから考えても遅くはないだろう。

リンク: ロシュのプレスリリース

MSD、カテプシンK阻害剤の開発をついに断念
(2016年9月2日発表)

MSDは、MK-822(odanacatib)の開発を打ち切ることを発表した。コラーゲンやゼラチンを分解する酵素、カテプシンKを阻害する経口剤で、閉経後骨粗鬆症の第三相試験が成功、承認申請に向かうはずだったが、脳卒中懸念が浮上、追加調査・第三者査読でも疑念が払しょくされず、開発中止に至った。

骨粗鬆症の治療目的は股関節などにおける骨粗鬆症性骨折のリスクを抑制することだ。治療を受ける人の多くは、今現在は深刻な状態ではないので、通常の薬より高い安全性が求められる。米国で一時期、ブームになったエストロゲン補充療法は、大規模な試験で稀だが深刻な有害事象のリスクが確認されたため、処方箋が激減した。

MK-822の第三相試験は2012年に中間解析で成功認定されたが、安全性懸念が浮上したため延長試験が行われた。MACE(主要有害心血管イベント)のハザードレシオが偽薬比1.12倍、卒中リスク1.28倍、死亡リスク1.13倍となっており、懸念するには十分だが、何れも統計的に有意ではないため、諦めるにも不十分だった。結局、中止決定まで4年を費やしたことになる。

臨床試験は患者の善意が頼りであるため、不必要な不利益を与えないように、失敗経験を共有する必要がある。MSDは今月のASBMR学会でデータを発表する予定。

リンク: MSDのプレスリリース

【承認申請】


VMAT2阻害剤が承認申請
(2016年8.月29日発表)

ニューロクライン・バイオサイエンス(Nasdaq:NBIX)はNBI-98854(valbenazine)を遅発性ジスキネジアの治療薬として米国で承認申請したと発表した。神経終末のVMAT2(小胞モノアミントランスポータータイプ2)を阻害する薬で、不随意運動に関与するドパミン神経系の機能異常を緩和する。

第三相試験では、神経弛緩薬誘導性遅発性ジスキネジアを合併する統合失調症、統合失調性感情障害、気分障害の患者を偽薬、40mg、80mgの3群に割付けて6週間治療したところ、AIMS(異常不随意運動スケール、ベースライン値10.1)が各群0.1、1.9、3.2ポイント改善し、80mg群は偽薬比統計的に有意だった。

日本とアジアは田辺三菱製薬が独占開発販売権を持っている。

リンク: ニューロクラインのプレスリリース

MEK阻害剤の承認申請が受理
(2016年9月1日発表)

Array BioPharma(Nasdaq:ARRY)は、binimetinibの承認申請がFDAに受理されたことを公表した。審査期限は来年6月30日。MEK阻害剤で、黒色腫の15~20%を占めるNRAS変異陽性型に用いる。臨床試験ではPFS(無進行生存期間)がメジアン2.8ヶ月とdacarbazineの1.5ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.62だった。全生存の解析はトレンドに留まった。

ノバルティスが2010年にインライセンスしたがグラクソ・スミスクラインの腫瘍学事業を取得したことに伴い返還。代わりにPierre Fabreが欧州や南米、アジアの権利を取得した。漿液性卵巣癌の第三相が実施されたがフェールしている。

リンク: Arrayのプレスリリース

またまたALK阻害剤が承認申請
(2016年8月30日発表)

Ariad Pharmaceuticals(Nasdaq:ARIA)は米国でAP26113(brigatinib)のローリング承認申請を完了したと発表した。ALK活性化変異陽性の非小細胞性肺癌で、同じALK阻害剤であるXalkori(crizotinib)による治療を既に受けた患者に用いる。第二相試験では、cORR(確認客観的反応率)が54%だった。欧州は来年、承認申請予定。

リンク: Ariadのプレスリリース

【承認】


アーゼラのFC併用が米国で承認
(2016年8月31日発表)

デンマークのジェンマブ(Nasdaq Copenhagen:GEN)は、Arzerra(ofatumumab、和名アーゼラ)の用法追加が米国で承認されたと発表した。再発性慢性リンパ性白血病にfludarabine及びcyclophosphamideと併用するもので、第三相試験ではPFSがメジアン28.9ヶ月と、FC二剤だけを投与した群の18.8ヶ月を大きく上回りハザードレシオは0.67だった。全生存期間のハザードレシオも0.78。

ArzerraはRituxan(rituximab、和名リツキサン)と同様にCD20を標的とする抗体医薬だが、キメラではなくトランスジェニックマウス法による完全ヒト化抗体。ジェンマブが開発し、グラクソ・スミスクラインにライセンスしたが、GSKがアセットスワップを行い今日ではノバルティスが販売している。

リンク: ジェンマブのプレスリリース

ザーコリ、EUでもROS1再編成型に承認
(2016年8月31日発表)

ファイザーは、Xalkori(crizotinib、和名ザーコリ)をROS1再編成陽性の非小細胞性肺癌に用いる適応拡大がEUで承認されたと発表した。症例50人の第一相試験で部分反応率66%、メジアン反応持続期間18.3ヶ月だった。米国では今年3月に承認。日本は先月、適応追加申請されたところ。

非小細胞性肺癌では、特定の遺伝子変異を持つタイプだけに有効な分子標的薬が多数承認されている。Xalkoriの最初の適応であるALK活性化転座、EGFR阻害剤が有効なEGFR活性化変異、抗EGFR抗体が有効な野生krasなどだが、これからはROS1再編成の有無も検査することになる。該当率はALK活性化転座が5~10%、ROS1再編成は1%程度とのことなので、一度に複数のバイオマーカーをチェックできれば効率的なのだが...

リンク: ファイザーのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDA:オピオイドとベンゾジアゼピンの併用は要注意
(2016年8月31日発表)

FDAは、オピオイド系の鎮痛剤や鎮咳薬とベンゾジアゼピンの同時使用は深刻で致死的なリスクがあると警告した。添付文書を改定して枠付き警告する予定。先般、日本企業の米国人取締役の事例が大きく報道されたように、米国ではオピオイドが急速に普及(乱用?)しているため、併用リスクも高まっている。ベンゾジアゼピンは不眠症など様々な疾患に用いられるので、別の医師が知らないで処方するリスクもありそうだ。

患者に対しては、通常と異なるめまいや極度の眠気、呼吸困難、無反応などの症状が出たら医療従事者に報告するよう促している。

リンク: FDAの安全性警告



今週は以上です。

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