2016年8月28日

2016年8月28日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • リジェネロン、MERS治療用抗体医薬を開発へ
  • ノバルティス、BAF312の二次進行型多発性硬化症試験が成功
  • クロビス、PARP阻害剤の承認申請をFDAが受理
  • アムジェン、Parsabivが審査完了に
  • ファイザー、乱用されにくい鎮痛剤が承認
  • ギリアド、ツルバダを予防に用いることをEUが承認



【今週の話題】


リジェネロン、MERS治療用抗体医薬を開発へ
(2016年8月22日発表)

リジェネロン・ファーマスーティカルズ(Nasdaq:REGN)は、HHS(米国連邦保健福祉省)傘下のBARDA(生物医学先端研究開発局)とMERS(中近東呼吸器症候群)の予防や治療に有効な可能性のある二種類の抗体療法の生産・研究について合意したと発表した。抗体医薬の充填包装、治験許可申請、そしてNIH(米国立医療研究所)が主導する臨床試験を支援するために、HHSが最大で890万ドルの資金を提供する。

リジェネロンは新進気鋭のバイオ企業で、ヒトVEGF受容体融合蛋白のZaltrap(ziv-aflibercept)とEylea(aflibercept)、そして抗PCSK9完全ヒト化抗体であるPraluent(alirocumab、和名プラルエント)と、次々と新薬を発売している。基盤となるのはトランスジェニックマウスにヒト抗体を発現させる技術だが、特徴的なのは、固定領域はいじらずに可変領域だけをヒト由来のアミノ酸配列に置換すること。ヒト由来の抗原に対する反応を減衰させないためだ。

パイプラインも豊富だが、この技術を用いてエボラやジカなど、様々なウイルス感染症の治療薬も開発しており、昨年9月には、エボラウイルス疾患の治療薬の研究開発でもBARDAと抵抗している。

ファイザーが140億ドルで買収を決めたメディベーション(Nasdaq:MDVN)は、自社ではドラッグ・ディスカバリーを行わず他社のパイプラインをライセンスして臨床開発を行うビジネスモデル。目利きが上手く行けば前立腺癌用薬Xtandi(enzalutamide)のように大型薬に育つが、アルツハイマー病用薬候補だったDimebon(latrepirdine)のように空振りに終わることもある。

インライセンスも競争が激しいので、大手製薬会社と違う道に踏み込む勇気が必要だが、この長所は大手に吸収されると失われるだろう。買収対象としては、即戦力の超大型薬を持つ会社よりもリジェネロンのようにパイプラインが豊富な会社のほうが好ましいように思うが、どうだろうか。

リンク: リジェネロンのプレスリリース(pdfファイル)

【新薬開発】


ノバルティス、BAF312の二次進行型多発性硬化症試験が成功
(2016年8月25日発表)

ノバルティスは、BAF312(siponimod)の第三相EXPAND試験が成功したと発表した。二次進行型多発性硬化症の患者を2mg一日一回服用群と偽薬群に2対1割付してEDSS疾病評価スコアが悪化するリスクを比較したところ、BAF312群が有意に優れていた。データは9月17日にECTRIMS学会で発表される予定。

作用機序はノバルティスが吉富製薬(当時、現在は田辺三菱製薬)からライセンスして開発したGilenya(fingolimod)と同じで、スフィンゴシン1燐酸受容体アゴニスト。アイソタイプのうちS1P1とS1P5受容体に選択的で、S1P3作用が小さいので、心血管副作用が小さい可能性がある。また、Gilenyaは再発型の多発性硬化症向けだが、BAF312は病気が進行して寛解を挟まずに悪化し続ける二次進行型がリードインディケーションであることが特徴。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

【承認申請】


クロビス、PARP阻害剤の承認申請をFDAが受理
(2016年8月23日発表)

クロビス・オンコロジー(Nasdaq:CLVS)は、CO-338(rucaparib)の承認申請がFDAに受理されたと発表した。PDUFA審査期限は来年2月23日。PARP-1とPARP-2を阻害する経口剤で、生殖細胞系あるいは体細胞性のBRCA変異を持つ卵巣癌の三次治療に用いる。EUでも16年中に承認申請する予定。

承認申請の根拠となった第二相試験では、プラチナ感受性患者42人に対するORR(客観的反応率)が60%、プラチナ抵抗性64人では50%だった。G3以上の有害事象は貧血・ヘモグロビン減少、疲労、ALT/AST異常上昇(但し殆どの症例は総ビリルビン上昇を伴わなかった)。

リンク: クロビスのプレスリリース

【承認審査・委員会】


アムジェン、Parsabivが審査完了に
(2016年8月24日発表)

アムジェンはParsabiv(etelcalcetide)を透析患者の二次性副甲状腺機能亢進症の治療薬としてFDAに承認申請していたが、審査完了通知を受領した。委細不明。今後の開発方針を当局と相談する考え。

Parsabivは12年に3億ドルで買収したKAI Pharmaceuticalsの開発品。カルシウム感受受容体を作動して副甲状腺の亢進を抑制する。日本は小野薬品が権利を保有、今年1月に承認申請した。

リンク: アムジェンのプレスリリース

【承認】


ファイザー、乱用されにくい鎮痛剤が承認
(2016年8月19日発表)

ファイザーは、FDAがTroxyca ERを承認したと発表した。オピオイドの常用を必要とするほど重度の疼痛で、他の治療法では効果が不十分な患者に用いる。naltrexoneを内側に、oxycodoneを外側に配置したペレット・カプセル。徐放製剤なので娯楽目的で服用しても直ぐには効果が表れず、破砕すると二つの活性成分が作用を相殺してしまうので、乱用抑制的。11年にKing Pharmacceuticalsを36億ドルで買収して入手した乱用抑制型オピオイド製剤の一つ。

リンク: ファイザーのプレスリリース

ギリアド、ツルバダを予防に用いることをEUが承認
(2016年8月22日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は、EUがTruvada(和名ツルバダ)をHIV/AIDSの曝露前予防に用いることを承認したと発表した。臨床試験では、感染者の性的パートナーの感染リスクを75%削減、高リスクグループ(男性同士、多数のセックスパートナー、売春婦)でも42%削減した。米国では12年に承認されている。

Truvadaは二種類の逆転写阻害剤、tenofovir DFとemtricitabineの合剤。元々はHIV/AIDSの治療薬として04年に米国で、05年にEUや日本でも発売され、多剤併用療法の基盤として広く用いられるようになった。患者シェアがあまりに高いため耐性ウイルスが心配になるが、少なくとも今のところは、深刻な脅威にはなっていない。予防用途はそれ以上に心配だが、耐性ウイルスの治療手段がインテグラーゼ阻害剤などの登場で増えた今日では、感染を広げないことの方が重要、という考え方なのだろう。

リンク: ギリアドのプレスリリース




今週は以上です。

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