2016年7月3日

2016年7月3日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • GW、カンバビノールの二本目の癲癇試験も成功 
  • PKC412の肥満細胞腫試験論文 
  • ESMO:スチバーガも肝細胞腫に有効 
  • ロシュ、多発性硬化症用抗CD20抗体を承認申請 
  • 汎erbB阻害剤が欧州で承認申請 
  • solithromycinがEUで承認申請 
  • ジャディアンスの心血管保護作用は意見が分かれた 
  • FDA、ギリアドの汎HCV治療薬を承認 
  • アストラゼネカ、複合抗生剤がEUで承認 


【新薬開発】


GW、カンバビノールの二本目の癲癇試験も成功
(2016年6月27日発表)

英国のGW Pharmaceuticals(Nasdaq:GWPH)は、Epidiolexの第三相Lennox-Gastaut症候群(LGS)試験の成功を発表した。3月にはDravet症候群試験も成功しており、小児の難治性癲癇に対する有効性が明らかになってきた。もう一本のLennox-Gastaut症候群試験の結果が第3四半期に出るのを待って、17年上期に米国で承認申請する予定。この二つの適応で希少疾患用薬指定されている。

同社は大麻の成分(カンナビノイド)を医薬品として開発しており、植物由来のカンナビノイドを世界で初めて、多発性硬化症患者の痙攣治療薬Sativexとして、実用化した。Epidiolexもカンナビノイドの一つであるカンナビジオールを精製・経口製剤化したもの。

Dravet症候群試験では、一日に体重1kg当り20mgを投与したところ、痙攣発作頻度(ベースライン値は月13回)が39%減少し、偽薬群の13%減を有意に上回った。今回のLGS試験では、転倒発作頻度(ベー スライン値は月74回)が44%減と、偽薬群の22%減を有意に上回った。被験者の平均年齢は前者が10歳、後者は15歳。どちらも複数の抗癲癇薬を服用している難治性患者に追加投与した(アジャンクト試験)。

主な有害事象は下痢や傾眠、食欲低下、発熱、嘔吐など。深刻な有害事象が25%の患者で発生した。偽薬群は5%。試験薬群で1名死亡したが、治療関連とはみなされなかった。二本目のLGS試験では10mg/kg群も設定しており至適用量が見直される可能性もある。

リンク: GW社のプレスリリース

PKC412の肥満細胞腫試験論文
(2016年6月30日発表)

ノバルティスは、PKC412(midostaurin)を末期全身性肥満細胞腫に用いる第二相試験の論文がNew England Journal of Medicine誌に刊行されたことを発表した。未承認薬だが、命に係る難病にある程度の効果が示されたため、世界的な人道的使用プログラム(CUP)を開始した。

末期全身性肥満細胞腫には、侵襲性全身性肥満細胞腫や肥満細胞白血病、肥満細胞肉腫などの病態がある。肥満細胞が骨髄や肝臓、脾臓で蓄積し、臓器障害を合併する。多くの症例でKITのD816V置換による活性化変異が見られるとのこと。

PKC412は様々な酵素を阻害する小分子薬で、元々は名前の通り、PKCやVEGFRを阻害する活性が注目されたが、第3相にステージアップしたのはFLT3活性化変異型急性骨髄性白血病、つまり、FLT3阻害効果に期待するものだった。完全寛解率は既存療法だけの群と大差なかったが、全生存期間はPKC412併用群のほうが有意に優れていたので、もうそろそろ承認申請されたのではないか。

今回の試験では総合反応率60%、メジアン反応持続期間は24.1ヶ月だった。主な有害事象は好中球減少症、貧血、血小板減少症、疲労、下痢など。56%の患者が有害事象で投与量を減らした。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

ESMO:スチバーガも肝細胞腫に有効
(2016年6月28日発表)

Stivarga(regorafenib、和名スチバーガ)の第三相肝細胞腫試験結果がESMO欧州臨床腫瘍学会で発表された。バイエルは適応拡大申請に向かう予定。

StivargaはVEGFRやrafを阻害する小分子薬で、結腸直腸癌やGIST(消化管間質腫瘍)に承認されている。Nexavar(sorafenib、和名ネクサバール)と同様にバイエルとオニクス社(後にアムジェンが買収)の共同研究の成果。

今回の肝細胞腫試験は、一次治療でNexavarを用いたが不応・再発の患者を組み入れて、28日サイクルで最初の21日だけ160mgを毎日投与した。メジアン生存期間は10.6ヶ月と偽薬群の7.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.62だった。G3以上の有害事象は高血圧、手足症候群、疲労、下痢など。

リンク: バイエルのプレスリリース

【承認申請】


ロシュ、多発性硬化症用抗CD20抗体を承認申請
(2016年6月28日発表)

ロシュは、Ocrevus(ocrelizumab)を再発型と一次進行型の多発性硬化症の治療薬として欧米で承認申請し受理されたと発表した。米国の審査期限は12月27日。多発性硬化症は増悪と軽快を繰り返す再発寛解型が多い。病気が進行するにつれて寛解期間が短くなり、やがて寛解のない二次進行型に変わる。一方、一次進行型は初めから寛解期間が見られない。再発型に承認されている、ベータインターフェロンなど多くの薬で適応拡大試験が実施されたが、成功したのはocrelizumabが初めてだろう。

ロシュの抗CD20抗体というとキメラ抗体のRituxan(rituximab)が非ホジキン型リンパ腫(NHL)、慢性リンパ性白血病(CLL)そして関節リウマチに、フコース欠如ヒト化抗体のGazyv(obinutuzumab)がNHLとCLLに、承認されていいる。Ocrevusはプレーンなヒト化抗体で、自己免疫疾患用薬として開発されたが、関節リウマチ試験に参加した日本などアジアの施設で日和見感染症などの増加が見られたため、多発性硬化症以外は開発中止となった。

このような経緯を考えると、日本で使う場合は感染症リスクを十分に検討する必要がありそうだ。

リンク: ロシュのプレスリリース

汎erbB阻害剤が欧州で承認申請
(2016年6月27日発表)

プーマ・バイオテクノロジー(NYSE:PBYI)は、PB272(neratinib)を早期乳癌の延長アジュバント療法薬としてEUで承認申請したと発表した。Herceptin(trastuzumab)の1年コースを終えた患者に更に1年間、240mgを一日一回経口投与したところ、2年後に浸潤性乳癌を再発しなかった生存患者の比率(DFS)が93.9%と偽薬群の91.6%を上回り、ハザードレシオ0.67、p=0.0046となった。G3以上の主な有害事象は下痢。

PB272はワイスがファイザーに買収される前にHKI-272として開発していたが、最初の第三相試験がフェールしたこともあり、11年にプーマにライセンスアウトした。様々なタイプの乳癌における様々な分子標的薬の効果を検討するI-SPY試験の最初の卒業生としても知られている。

リンク: プーマのプレスリリース

solithromycinがEUで承認申請
(2016年6月28日発表)

米国ノース・カロライナ州のCempra(Nasdaq:CEMP)は、CEM-101(solithromycin)を地域感染細菌性肺炎の治療薬としてEUで承認申請したと発表した。米国でも5月に申請済み。フルオロケトライドという新しいクラスの抗菌剤で、マクロライド系の派生だがリボソームの三ヶ所に作用するためマクロライド耐性株にも活性が期待される。点滴用と経口剤の二種類用意されている。日本は富山化学が導入。

リンク: Cempraのプレスリリース

【承認審査・委員会】


ジャディアンスの心血管保護作用は意見が分かれた
(2016年6月28日発表)

FDAは内分泌代謝学薬諮問委員会を招集し、ベーリンガー・インゲルハイム/イーライリリーのSGLT2阻害剤、Jardiance(empagliflozin。和名ジャディアンス)の心血管アウトカム試験、EMPA-REG OUTCOME試験について検討した。心血管疾患による死亡を減らす効果が見られたが、効能を正式に認めることに賛成したのは12人、反対は11人となり、賛否が分かれた。

反対派は、釈然としない点もあるので再現性を確認したいという趣旨のようだ。Jardianceでもう一本実施するのは現実的ではないので、他のSGLT2阻害剤等のの心血管アウトカム試験で代用することになるのではないか。

FDAは糖尿病治療薬を開発する企業に対して、二段階方式で心血管安全性を確認するよう求めている。まず、第二相や第三相試験のプール分析を行って、リスクが大きく高まる可能性が小さいことを確認する。確認されたら承認・発売後に、できなかったら承認前に、もっと大規模な心血管安全性確認試験を行ってリスクが1.3倍以上に高まらない(ハザードレシオの95%上限が1.3未満)ことを確認する。

JardianceはEMPA-REG試験の中間解析で第一段階をクリアして14年に米国で承認された。昨年9月には、EASD欧州糖尿病学会とNEJM誌で最終解析結果が発表され、非劣性だけでなく優越性解析も成功したことが明らかになった。糖尿病治療薬で初めて、MACE(主要有害心血管イベント)を減らす効果が示されたのである。

快挙であるが、狐につままれたような印象も持った。素直に受け入れにくい理由は、第一に、他の血糖治療薬の心血管アウトカム試験は全て、非劣性に留まっており、なぜJardiaceが成功したのか、違いの分かる男になれない。SGLT2阻害剤は利尿を通じた降圧作用を持つが、血圧降下剤の心血管アウトカム試験のデータを見ると、この程度の降圧では十分な心血管保護作用を発揮できないはずである。

第二に、イベント毎の解析を見ると心血管疾患による死亡は有意に減少したが非致死的な心筋梗塞は有意差がなく、非致死的な脳卒中は増加した(但し有意ではない)。心血管保護作用があるなら、スタチンのように、非致死的な心筋梗塞が減りそうなものである。降圧作用が寄与しているのなら、降圧剤と同様に、脳卒中が減りそうなものだ。

第三は、有意と言ってもボーダーライン近辺である。この試験の主評価項目はMACEの非劣性解析だ。中間解析にアルファの一部を割り当てたため、最終解析は95%ではなく95.02%上限が用いられ、0.99であったため成功、シーケンシャル法で第二の解析である不安定狭心症による入院を加えたMACE-4の非劣性解析に進み、成功した。次がMACEの優越性解析で、p=0.04となり成功。第四はMACE-4の優越性解析で、p=0.08となりフェール。

MACEとMACE-4で明暗が分かれたが、p値は大きく異なる訳ではなく、MACEの95.02%上限は0.99なのでリスクが1%しか下がらない可能性も残っている。

p値の閾値が0.05というのは決めごとに過ぎず、現実的な判断が必要だ。確率的には20回に1回の偶然である可能性があり、今日のように数多くの大規模試験が行われれば、偶然に有意差が出てしまう試験がたくさんあっても不思議はない。FDAは、通常、二本の独立した試験でp値が0.05未満であることを求める。このようなことが偶然発生する確率は0.05 x 0.05= 0.0025、400回に一回であり、通常より厳しい閾値を用いていることになる。

EMPA-REG試験の結果は医療メディア等を通じて喧伝されているので、効能が正式に承認されてもされなくても、営業面では大差ないかもしれない。真実探求の上では、これ以上の議論・探求はおそらく困難であり、他の血糖治療薬のエビデンスの検討にシフトすることになるだろう。ノボ ノルディスクのVictoza(liraglutide)も心血管アウトカム試験が成功したので次に俎上に上がることになる。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

【承認】


FDA、ギリアドの汎HCV治療薬を承認
(2016年月日発表)

FDAは、ギリアド・サイエンス(Nasdaq:GILD)のEpclusaを慢性C型肝炎の治療薬として承認した。

同社のHarvoni(和名ハーボニー)と同様なコンビ薬で、NS5Bポリメラーゼ阻害剤はどちらもsofosbuvirだが、NS5A複製複合体阻害剤はledipasvirではなく様々な遺伝子型に活性を持つ新開発のvelpatasvirを配合している。このため、Epclusaは2型や3型も含めて1~6の全ての遺伝子型で90%以上の高い持続的奏効率を示す。治療期間は12週間。非代謝性肝硬変を合併する患者にはribavirinを併用する。

FDAによると、米国の慢性C型肝炎の75%は1型、20~25%が2型または3型で、4~6型は少ない。2型、3型はHarvoniのエビデンスが少ないのでEpclusaが普及しそうだ。。1型は様々な用法が探求されている分、Harvoniが有利だが、将来は流動的だろう。

Harvoniやsofosbuvir単剤を配合するSovaldiは高いので有名だが、報道によると、Epclusaの問屋取得価格は12週間分が74760ドルと、SovaldiやHarvoniより1~2割安く設定されるとのこと。実勢価格は別なのだろうが、MSDの参入などで競争が激化していることに配慮したのだろう。

リンク: FDAのリリース
リンク: ギリアドのプレスリリース

アストラゼネカ、複合抗生剤がEUで承認
(2016年6月28日発表)

アストラゼネカは、Zavicefta(ceftazidimeとavibactamの合剤)がEUで承認されたと発表した。適応はグラム陰性菌による複雑性腹腔内感染症、複雑性尿道感染症(腎盂腎炎を含む)、院内感染肺炎(呼吸器関連肺炎を含む)、そして好気性グラム陰性菌感染症で他の治療手段が限られている場合。

avibactamはベータラクタムと異なった構造を持つベータラクタマーゼ阻害剤で、多剤耐性緑膿菌やカルバペネム耐性グラム陰性菌にも活性を持つ。北米と日本はアラガンが、他の地域はアストラゼネカが権利を持っている。米国では昨年2月に承認済み。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース



今週は以上です。

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