2016年3月6日

2016年3月6日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ビクトーザも心血管リスクを削減した
  • バイオマリン、CLN2病治療薬を承認申請へ
  • ロシュ、抗IL-13抗体の第三相は一勝一敗
  • アディノベイトをEUでも承認申請
  • ロシュ、Gazyvaがリンパ腫に適応拡大
  • ギリアド、TAFの三剤合剤をFDAが承認
  • FDAが長期作用性B型血友病用薬を承認
  • イムブルビカ、CLL一次治療が承認

【今週の話題】


ビクトーザも心血管リスクを削減した
(2016年3月4日発表)

二型糖尿病の血糖治療薬は心血管疾患を防ぐのか、それとも、リスクを高めるのか?薬物療法の普及に大きな貢献をしたランドマーク的試験、UKPDSでは、インスリンに対する懸念が後退し、metforminがリスクを削減するかもしれないという希望が浮上した。

ところが、血糖値を正常値近くに矯正する強化療法を検討したACCORD試験ではリスクが高まった。PPAR作動剤の試験では、心筋梗塞が減少したが心不全が増加した。FDAは血糖治療薬を開発する企業に心血管アウトカム試験の実施を要請。承認申請用の試験でハザードレシオの95%上限が一定の範囲内だったら承認後に、超過の場合は承認前に、実施しなければならない。

これまでの成績は区々で、殆どの新薬は良くも悪くもなかったが、ベーリンガー・インゲルハイムがイーライリリーと共同販売しているJardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス)のEMPA-REG試験が大成功、主目的である非劣性解析だけでなく優越性の解析も成功した。標準治療に加えて偽薬を追加した群と比べて、Jardianceを追加した群は心血管死・心筋梗塞・脳卒中リスクが14%小さかった。

そして今回、ノボ ノルディスクがGLP-1作用剤Victoza(liraglutide、和名ビクトーザ)のLEADER試験の成功を発表した。二型糖尿病で心血管疾患歴・高リスクの9340人をVictoza群と偽薬群に割り付けて心血管死・心筋梗塞・脳卒中の発生状況を追跡したもので、主評価項目は何れか一つが発生するリスク(複合評価項目)だが、個々のイベントも低下傾向にあった模様だ。データは6月のADA米国糖尿病学会で発表される予定。投資家向け電話会議が開催されたが、具体的な内容は開示されなかった。

Jardianceは、少なくとも現時点では、SGLT2阻害剤の中で心血管リスク削減効果が実証された唯一の製品。同様に、Victozaも、GLP-1作用剤の中で唯一。同種の薬の中でシェアを更に増やす可能性が高まった。liraglutideは肥満症治療薬Saxendaとしても販売されており、こちらの普及にも追い風になるだろう。

臨床試験にはノウハウがあり、積極的に取り組む企業や国は経験から多くを学ぶことができる。例えば、PPAR作動剤は発売当初、効果が弱いというイメージがあった。当時の典型的な治験手法であった3ヶ月の試験でHbA1cがSU剤やmetforminほど下がらなかったからである。ところが、その後、効果がフルに発揮されるまで4ヶ月程度かかることが判明。一方、SU剤の効果は1年経つと低下することが明らかになった。この結果、SU剤と直接比較試験を行う場合は1~2年追跡する、という必勝法が編み出された。

インスリン三社は糖尿病試験を知悉しているので他社の製品と違う結果が出ても直ぐには受け容れ難いところがある。LEADER試験の結果は今年後半に医薬品審査機関に提出される予定。FDAが心血管リスク削減効果を認めるかどうか、注目される。

リンク: ノボ ノルディスクのプレスリリース

【新薬開発】


バイオマリン、CLN2病治療薬を承認申請へ
(2016年3月2日発表)

バイオマリン(Nasdaq:BMRN)は、cerliponase alfaの第1/2相ピボタル試験が良好な結果になり、年央までに欧米でCLN2病治療薬として承認申請する考えであることを発表した。

CLN2病はライソゾーム疾患の一つで、遺伝子変異が原因でトリペプチジルペプチダーゼ1が機能しない。有病率は20万人に一人で、急速に進行する致死的神経変性疾患とされる。cerliponase alfaは遺伝子組換え型ヒト・トリペプチジルペプチダーゼ1で、脳室内に二週間に一回、点滴投与する。

今回の試験では24人の患者に一回300mgを48週間に亘って投与したところ、病状スケール(最良が6、最悪はゼロ)の悪化が0.43単位と、自然歴データの2.1単位と比べて小さかった。治験完了者23人中15人で病状が安定した。治療薬関連深刻有害事象は過敏反応と点滴反応。

同剤は欧米で希少病薬指定を受けており、米国ではブレークスルー・セラピー指定されている。深刻な疾患なので、症例数が少なく対照試験でないという難点はある程度は容認されるだろう。問題は過敏反応・点滴反応。ドロップアウトが1例と少ないので、深刻といってもなんとかできるものではないのかもしれないが、もし命にかかわるなら、承認の妨げになるかもしれない。

リンク: バイオマリンのプレスリリース

ロシュ、抗IL-13抗体の第三相は一勝一敗
(2016年2月29日発表)

ロシュは抗IL-13ヒト化抗体RG3637(lebrikizumab)の第三相重度喘息症試験が一勝一敗となったことを発表した。後期第二相試験のバイオマーカー分析結果に基づいてスクリーニングし、二種類の用量を52週間に亘りテストしたが、成功した方の試験でも後期第二相の成績より見劣りした由。

この試験は、二種類の管理薬を併用しても病状を十分に管理できず、血清中ペリオスチン濃度または血中好酸球数が高い喘息症患者を対象に、喘息増悪抑制効果やFEV1改善効果を検討したもの。一本はどちらも有意に優れていたが、もう一本は増悪が大差なかった。

抗IL-13抗体はアストラゼネカもCAT-354(tralokinumab)も喘息症の第三相が進行中で、来年に開票する見込み。

リンク: ロシュのプレスリリース

【承認申請】


アディノベイトをEUでも承認申請
(2016年3月2日発表)

バクスアルタ(NYSE:BXLT)はAdynoviをEUでも承認申請したと発表した。12歳以上のA型血友病患者の出血治療やルーチン予防に用いる。同社の全長血液凝固第VIII因子、Advateにポリエチレン・グリコールを結合して半減期を1.4~1.5倍に長期化したもので、ルーチン予防に用いる時の投与頻度を週3~4回から2回に減らすことができる。

米国ではAdynovate名で昨年11月に承認、日本でもアディノベイト名で先月、第二部会を通過した。EUは成人と青少年向けを同時に申請するよう求めているためスケジュールが遅くなっている。

リンク: バクスアルタのプレスリリース

【承認】


ロシュ、Gazyvaがリンパ腫に適応拡大
(2016年2月29日発表)

ロシュは、FDAがGazyva(obinutuzumab)の適応拡大を承認したと発表した。13年に慢性リンパ性白血病(CLL)の一次治療薬として承認されているが、新たに、濾胞性リンパ腫の二次治療が認められた。

Gazyvaは同社のRituxan(rituximab)と同じCD20を標的とする抗体医薬で、違いは、可変領域の一部をヒト由来のアミノ酸に替えたヒト化抗体であること、そして、フコースが無くADCC活性が高いこと。翻訳後装飾でフコースが付与されるのを回避する技術としては協和発酵のポテリジェント技術が有名でロシュの子会社であるジェネンテックも導入したことがあるが、Gazyvaはロシュが05年に買収したGlycArt社のGlycoMAb技術を用いている。

抗体関連技術のうちマウスやバクテリオファージにヒトの抗体を発現させる完全ヒト化抗体技術は当初考えられたほど凄くはなく、臨床的な薬効や安全性はヒト化抗体と大差ないように感じられる。フコース欠如抗体はGazyvaが最初の試金石であったが、CLL一次治療試験でRituxanを有意に上回り、プルーフ・オブ・テクノロジーに成功した。

今回の承認はRituxan代替ではなく、一次治療でRituxanを用いて進行・再発した患者の二次治療。Treanda(bendamustine、和名トレアキシン)併用で6サイクル施行し、その後は単剤で2ヶ月毎に最長2年間、維持療法を行う。第三相試験ではTreandaだけの群と比べてPFS(無進行生存期間)のハザードレシオが0.48だった。この試験は低悪性度非ホジキン型リンパ腫を対象としたが、被験者の8割が濾胞性リンパ腫であったためか、このタイプだけに承認された。

リンク: ロシュのプレスリリース

ギリアド、TAFの三剤合剤をFDAが承認
(2016年3月1日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)はFDAがOdefseyを承認したと発表した。核酸系逆転写阻害剤tenofovirの新しいプロドラッグであるtenofovir alafenamide fumarate(略称TAF)を配合した一連の新薬・合剤の一つで、同社のもう一つの核酸系逆転写阻害剤emtricitabineとジョンソン・エンド・ジョンソンの非核酸系逆転写阻害剤rilpivirine(単剤の製品名Edurant、和名エジュラント)を配合。

12歳以上のHIV/AIDSでウイルス量が10万コピー/mL以下の患者の一次治療や、治療成績が良好な患者のスイッチに使うことができる。一日一回一錠服用するだけでHAARTと呼ばれる多剤併用療法が可能。乳酸アシドーシスや肝脂肪を伴う重度肝腫大、B型肝炎の劇性増悪が枠付き警告されている。

Knight Therapeutics社から1.25億ドルで購入した優先審査バウチャーを用いて、申請の8ヶ月後に承認を取得した。

リンク: ギリアドのプレスリリース

FDAが長期作用性B型血友病用薬を承認
(2016年3月4日発表)

FDAは、CSLベーリングのIdelvionを成人と小児のB型血友病用薬として承認した。血液凝固第IX因子にアルブミンを結合して作用を長期化したもので、米国の長期作用性製剤としては第2号。出血治療、予防、術後出血管理、そしてルーチン予防に用いる。CSLによると、12歳以上のルーチン予防に用いる場合は14日に一回で足りる可能性がある。

リンク: FDAのリリース
リンク: CSLベーリングのプレスリリース

イムブルビカ、CLL一次治療が承認
(2016年3月4日発表)

アッヴィ(NYSE:ABBV)はFDAがImbruvica(ibrutinib)を慢性リンパ性白血病(CLL)や小リンパ球性リンパ腫(SLL)の一次治療で承認したと発表した。これまでは17p欠損など一部の難治性を除いて二次治療だけだった。CLL/SLL以外ではマントル細胞リンパ腫の二次治療にも承認されている。

適応拡大のエビデンスとなった第三相試験では、65歳以上の初めて治療を受ける患者269名をchlorambucil群とImbruvica群に無作為化割付けしてPFS(無進行生存期間)を比較したところ、ハザードレシオ0.16という大変良い数値が出た(メジアン値は18.9ヶ月と未到達)。ORR(反応率)は各35.3%と82.4%でこれも統計的に有意だった。

ImbruvicaはBruton's tyrosine kinase(Btk)を阻害する経口剤。ファーマサイクリクスがジョンソン・エンド・ジョンソンと11年に提携し共同開発販売しているが、このファーマサイクリクスを15年にアッヴィが210億ドルで買収した。

リンク: アッヴィのプレスリリース



今週は以上です。

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