2016年3月27日

2016年3月27日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • 抗Sclerostin抗体の男性骨粗鬆症試験が成功
  • バイオマリン、フェニルケトン尿症治療薬の第三相が成功
  • Xa阻害剤の入院患者VTE予防試験がフェール
  • シムジアはヒュミラに勝てず
  • 統合失調症性認知障害治療試験がフェール
  • テバの抗IL-5も米国で承認
  • イーライリリーの抗IL-17Aも米国で承認
  • 肺炭疽の新薬が米国で承認


【新薬開発】


抗Sclerostin抗体の男性骨粗鬆症試験が成功
(2016年3月21日発表)

UCBと共同開発者のアムジェン、そして日本市場の共同開発者であるアステラス製薬は、抗Sclerostinヒト化抗体CDP7851/AMG785(romosozumab)の第三相男性骨粗鬆症試験が成功したと発表した。
閉経後女性の試験も既に二本成功しており、年内に承認申請されるのではないか。

この試験は、Tスコアが-2.50以下(骨粗鬆症)、あるいは-1.50以下で骨粗鬆症性骨折歴を持つ、55歳以上の男性245人をromosozumab群と偽薬群に2対1無作為化割付けして12ヶ月間治療し、腰椎の骨密度の低下を比較した。romosozumabは210mgを月一回、皮注した。数値は発表されていないが、有意な差があった。

忍容性面では、深刻な有害事象の発生率は両群、同程度。注射箇所反応は5.5%と偽薬群の3.7%を上回り、心血管深刻有害事象(第三者査読)は各4.9%と2.5%だった。

SclerostinはWntや骨形態形成蛋白のパスウェイを阻害して造骨細胞の活動を阻害する。アフリカ人の一部はSclerostinの遺伝子に機能喪失変異を持ち、骨密度が異常に高い。romosozumabはSclerostinを阻害して造骨を促進する。この点では遺伝子組換え型副甲状腺ホルモンForteo(teriparatide)と似ており、従って、発がん性をじっくりと調べる必要があるだろう。過去の試験では乳がんや良性腎オンコサイトーマを発症した患者がいた。

また、心血管安全性も重要なポイントだ。第三者による査読が行われたということは、リスクを疑う何らかの根拠があることを示している。

リンク: UCBのプレスリリース
リンク: アステラス製薬のプレスリリース

バイオマリン、フェニルケトン尿症治療薬の第三相が成功
(2016年3月21日発表)

バイオマリン(Nasdaq:BMRN)は、BMN 165(pegvaliase、通称PEGPAL)の第三相フェニルケトン尿症試験の成功を発表した。離脱試験で、事前に全員に試験薬を投与し、フェニルアラニン値が一定以上低下したレスポンダーだけを継続投与する群と偽薬にスイッチする群に無作為化割付け、数値の変化を比較した。BMN 165は20mgまたは40mgを一日一回、皮注。

結果は、継続投与群のフェニルアラニン値がベースライン平均値503.9umol/L、8週間後527.2umol/Lと同程度で推移したのに対して、偽薬スイッチ群は536.0umol/Lが1385.7umol/Lにリバウンドした。

本試験では二次的評価項目として注意不足や気分の改善度合いを検討したが、有意差はなかった。主な有害事象の発生率は過敏反応が39%と偽薬群の14%を上回った。

フェニルケトン尿症はフェニルアラニン水酸化酵素(PAH)の欠乏で精神障害などを合併する。治療法はフェニルアラニン制限食。BMN 165は遺伝子組換え型PEG化フェニルアラニン・アンモニア・リアーゼで、PAHの代替品として機能する。フェニルアラニン食事制限を緩和できる可能性があり、この試験では、健常者に推奨される一日蛋白量の75%を摂取できたと推測されるとのことだ。

この試験の結果判明は14年の見込みだったが、途中でデザインを変更したため長期化した。免疫原性が原因で効かない患者や増量が必要な患者が予想以上に多かった模様で、上記のように、レスポンダーだけを組み入れることにした。このようなケースではランイン期間中のレスポンダー率やドロップアウト率のチェックが必須だが、まだ発表されていない。

リンク: バイオマリンのプレスリリース

Xa阻害剤の入院患者VTE予防試験がフェール
(2016年3月24日発表)

Portola Pharmaceuticals(Nasdaq:PTLA)は、PRT054021(betrixaban、別名MLN-1021)の第三相試験の結果を発表した。心不全など重い疾患で入院し、安静が必要であるために静脈血栓塞栓を発症するリスクが高い患者7513人を組入れて、betrixabanの長期コース(35~47日)と標準的な薬物療法(低分子量ヘパリンのenoxaparinを6~14日間、皮注)の予防効果を比較した。

American Heart Journal誌に刊行されたデザインペーパーには明記されていないが、主評価項目は三種類のユニバースにおける静脈血栓塞栓をシーケンシャルに解析する。最初の解析はベースライン時点のD-Dimerが高値の患者が対象で、母集団の62%が該当した。結果は、相対リスク0.806、p値は0.054で、有意な差はなかった(この試験は中間無益性解析が行われたが、最終解析のアルファは0.05とされた)。

二番目の解析であるD-Dimer高値または75歳以上(母集団の91%)のユニバースでは、相対リスク0.800、p=0.029だった。三番目である母集団全体の解析は0.760、0.006となった。どちらも0.05を下回っているが、第一の解析がフェールしたらその後の解析は全てフェールになる。

サイコロを6回振れば1が1回以上出る確率は100%だ。一度で止めて多重性を回避しないと、素人は騙せてもプロにはインチキがばれてしまう。前期第二相試験のような仮説検証的試験ならともかく、第三相の薬効確認試験は厳格にやらないといけない。もし結論が間違っていた場合、将来の患者も含めて極めて沢山の人たちに誤った治療を行うリスクがあるからだ。

大出血や致死的出血は両群大差なかった。Portolaは承認審査機関と相談する考え。標準療法より有意に優れていなくても同程度なら承認に値するが、この試験は非劣性検定ではないのでエビデンスとしては万全ではない。もし承認されても、enoxaparinより長期間投与しなければならないので使い難い。

そもそも、このような患者には薬物療法でなくても予防法は色々ある。薬物療法がマイノリティにとどまっているのは出血リスクがあるからであり、従って、新薬は予防効果か、出血リスクか、どちらかで優れていることが望まれる。

残念なことに、バイエル/ジョンソン・エンド・ジョンソンのXa阻害剤、Xarelto(rivaroxaban)のenoxaparin対照試験では予防効果が優れていたが出血事故が増加した。BMS/ファイザーのElquis(apixaban)は効果が同程度、出血は増加。今回の試験はD-Dimer値に基づいて高リスク患者をスクリーニングすることでリスクとベネフィットのバランスを向上しようとしたが、上手く行かなかった。

Portolaは武田薬品がミレニアムを買収した時にスピンアウトした会社で、Xa阻害剤の中和剤であるandexanet alfaが承認審査中。Xa阻害剤は既に類薬が沢山あり、大規模な試験が必要で開発コストが高い。先行品が挫折した入院患者が突破口になれば良かったが、フェールしたことで、難しい状況になった。

リンク: Portolaのプレスリリース
リンク: Cohenらのデザインペーパー(American Heart Journal誌、オープンアクセス)

シムジアはヒュミラに勝てず
(2016年3月24日発表)

UCBはCimzia(certolizumab pegol、和名シムジア)の抗リウマチ効果をアッヴィのHumira(adalimumab、和名ヒュミラ)と直接比較した試験の結果を発表した。12週間後ACR20はそれぞれ69.2%と71.4%、2年後低疾病活動(LDA)達成率は35.5%と33.5%となり、有意な差はなくフェールした。深刻な有害事象や同じく感染症の発生率は大差なかった。

CimziaはTNFアルファに結合するモノクローナル抗体のフラグメント、HumiraもTNFアルファに結合するモノクローナル抗体で、メカニズム的には同工異曲であり、効果に大差なくても不思議はない。しかし、Humiraは二週間に一回の投与では反応率が低く不十分な患者は週一回にスイッチしたほうが良いと考えられており、Humiraの底力を思い知らされた。

リンク: UCBのプレスリリース

統合失調症性認知障害治療試験がフェール
(2016年3月24日発表)

米国のフォーラム・ファーマシューティカルズは、EVP-6124/MT-4666(encenicline hydrochloride)の第三相試験がフェールしたと発表した。リストラを行う予定。

バイエルから中枢神経系領域での権利を取得したアルファ7ニコチン性アセチルコリン受容体アゴニストで、今回の試験では統合失調症患者の認知障害を治療する効果を検討したが、駄目だった。

日本では田辺三菱製薬が独占開発販売権を持っていて日本の施設もこの試験に参加していた。

リンク: フォーラムのプレスリリース

【承認】


テバの抗IL-5も米国で承認
(2016年3月23日発表)

FDAは、テバ(NYSE:TEVA)の抗IL-5ヒト化抗体、Cinqair(reslizumab)を重度好酸球性喘息症の維持療法用薬として承認した。16歳以上の患者の喘息発作を防ぐために4週間に一回、点滴静注する。深刻な有害事象は命に係る過敏反応。副作用で多いのはアナフィラキシー、腫瘍、筋痛。

腫瘍はビックリするが、治験での発生率は0.6%と偽薬群の0.3%より高いものの、部位は様々なので薬との因果関係は曖昧。多くは半年以内の発現と早いので、癌を発生させる効果を疑う理由は少なく、あるとしたら癌の成長を促進する効果だろう。

類薬ではグラクソ・スミスクラインの抗IL-5抗体、Nucala(mepolizumab)が、昨年11月に、適応症は同じだが12歳以上の患者に承認されている。

リンク: FDAのリリース
リンク: テバのプレスリリース

イーライリリーの抗IL-17Aも米国で承認
(2016年3月22日発表)

FDAはイーライリリーの抗IL-17Aヒト化抗体、Taltz(ixekizumab)を中重度プラク乾癬の治療薬として承認した。角化細胞の増殖活性化に関与するIL-17Aを中和する。臨床試験では、バイオ薬の代表的な治療薬であったアムジェン/ファイザーのEnbrel(etanercept)より効果が高かった(プール分析でPASI75が各87%と41%)。

抗IL-17Aではノバルティスの(secukinumab)も昨年、承認されている。

リンク: FDAのリリース
リンク: イーライリリーのリリース(PR Newswireのサイト)

肺炭疽の新薬が米国で承認
(2016年3月21日発表)

FDAは肺炭疽の治療や暴露後予防、予防に用いる薬を承認した。ニュージャージーの未上場企業、Elusys社のAnthim(obiltoxaximab)で、炭疽菌の毒素に結合するモノクローナル抗体。静注だけでなく筋注も可能なので医療資源が限定的な地域や環境でも使える。抗菌作用はないので抗生剤と併用する。

米国は生物兵器対策として肺炭疽用薬の開発を後押ししており、グラクソ・スミスクラインが買収したヒューマン・ジノム・サイエンシーズのABthraxも12年に承認されている。Anthimの開発も2億ドル以上の補助金を受けており、需要も戦略的国家備蓄に限定されるだろう。

肺炭疽は症例数がごく少数で、致死率が高いため偽薬対照試験を実施するのは困難である。このため、臨床試験では忍容性だけを確認し、薬効は軍の研究施設でサルに薬と炭疽菌を投与する試験を行う。

リンク: FDAのリリース
リンク: Elusysのプレスリリース




今週は以上です。

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