2016年2月28日

2016年2月28日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • 米国でも妊婦がジカ・ウイルスに感染 
  • 抗Sclerostin抗体の第三相が成功 
  • CHMPがB型血友病薬などに肯定的意見 
  • PTC、筋ジストロフィー薬の承認申請が却下 

【今週の話題】


米国でも妊婦がジカ・ウイルスに感染
(2016年2月26日発表)

米国のCDC(疾病管理予防センター)はMMWR(Morbidity and Mortality Weekly Report)の早期リリース版として、ジカ・ウイルス疾患に関する二つの重要なアナウンスメントを行った。

まず、昨年8月から今年2月までの間に、米国からの渡航者で9人の妊婦感染例が発生したこと。入院例や死亡例はないが、流産2例、中絶2例。出産3例のうち外見上健常が2例、重度小頭症が1例となっている。残りの2人は妊娠18週と34週で特に合併症は発生していない。

CDCは、これまで、ジカ・ウイルス流行地域に渡航しジカ・ウイルス感染症の症状を発症した妊婦は検査を受けるよう推奨していたが、2月5日付で、症状がなくても検査するよう変更した。

もう一つは、性的感染の確認例・可能例が6例あること。先日は輸血による感染のリスクも表面化している。感染しても5人中4人は発症しないので、CDCは、流行地渡航者は症状の有無を問わず献血をしないよう呼びかけている。

米国では累計で147例の感染が報告されており、うち107例は渡航に関連していた。地域で一番多いのはプエルトリコで117例。CDCはプエルトリコや米サモア、米バージン諸島で感染が広がるのを防ぐためにジカ予防キットを開発した。啓蒙資料と虫よけ、コンドーム、体温計、蚊が孵化しないように淀んだ水に入れる錠剤が入っている。米国本土でも帰国者のパートナーは注意が必要だ。

7年前にメキシコで新型インフルエンザ様疾患の局地的流行が報じられた時、日本とメキシコの渡航者数を調べて、もしパンデミック・インフルエンザであったとしても直ぐには入ってこないと推測した。しかし、メキシコ・アメリカ間とアメリカ・日本間は渡航者が多くアメリカ経由で伝播する可能性が高いことは見落とした。今回のブラジルも、私が渡航した時は米国経由だった。オリンピックがあるので日本人渡航者も増えるだろうが、時期的には日米旅行も活発化する時期なので、気を付けなければならない。

TV報道を見ていて気になったのは、取材クルーを通じた感染のリスクだ。現地に住む日本人妊婦にも取材していたが、流行地や病院、感染者に取材した後ではないことを確認したい。エボラウイルス疾患を発症した米国人の一人はTV局の取材で現地を訪問中に感染したという事実を、日本のジャーナリストも肝に銘じるべきである。

リンク: MMWRのサイト

【新薬開発】


抗Sclerostin抗体の第三相が成功
(2016年2月21日発表)

UCBと開発パートナーのアムジェンは、AMG785(romosozumab)の第三相骨粗鬆症予防試験のトップライン・データを発表した。主評価項目である新規椎体骨折で偽薬比有意な差があった。脊椎以外の骨折は駄目だった。両社は16年内の承認申請を目指して当局と相談する考え。

このFRAME試験は、骨塩密度が低い閉経後女性7,180人をromosozumab(210 mgを月一回皮注)群と偽薬群に無作為化割付して1年間治療し骨折リスクを比較。その後、両群ともアムジェンの骨粗鬆症治療薬Prolia(denosumab、和名プラリア)に切り替えてさらに1年間治療し、2年通算の骨折リスクも比較した。

romosozumabは造骨細胞の抑制をもたらすSclerostinを標的とするヒト化抗体。造骨促進、破骨抑制作用を持つ。投与を1年で止めるのは、おそらく、発癌リスクを警戒したのだろう。イーライリリーのForteo(teriparatide、和名フォルテオ)も造骨促進作用を持つが、大量投与した癌原性試験で骨肉腫リスクが見られたためか、臨床試験は最長2年までしか行われず、長期投与は不可である。

骨粗鬆症の代表的な治療薬であるビスフォスフォン酸は破骨細胞を抑制する。作用期序がかなり異なるので使い分けできればよかったのだが、成就しなかった。

FRAME試験に戻ると、主評価項目の一つである1年目の新規椎体骨折は偽薬比73%少なく、もう一つの2年間椎体骨折は75%少なく、どちらも有意だった。椎体骨折は日常生活に影響しないことも珍しくないのでこれだけでは迫力がない。そこで二次的評価項目を見ると、1年目の臨床的骨折(症候性の椎体骨折と、椎体以外の骨折)は36%少なかった。一方、椎体以外の骨折は有意差なし。

偽薬対照期間の有害事象で発生率10%以上は、両群とも、関節痛、鼻咽頭炎、背痛。サブスタディで難聴やひざ変形性関節炎のリスクも観察したが各群差がなかった。顎骨壊死は査読で確認された症例が2例、非定型性大腿骨骨折の査読例は1例で、少数過ぎて薬との関連性は曖昧だが、骨粗鬆症治療薬に付き物のリスクと私は疑っている。椎体骨折発生率は未公表だが、おそらく、決して高くないだろう。今回の被験者のようにリスクが著高でない患者は、治療の便益とリスクを慎重に吟味して適否を決めるべきだろう。

両社は16年中の承認申請に向けて当局と話し合う予定。今回発表された情報を見る限りでは承認の障壁はなさそうだ。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPがB型血友病薬などに肯定的意見
(2016年2月26日発表)

EUの薬品審査機関EMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPが、2月の会議でB型血友病薬などの承認とオプジーボなどの適応拡大に肯定的意見をまとめた。順調なら2~3ヵ月内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

血友病治療薬は頻繁に出血する患者に定期的に投与するルーチン予防法が普及したため、投与頻度が少なくて済む持効性製品の開発が活発化、次々と実用化されている。今回のCHMPでも二種類の長期作用性血液凝固第IX因子がルーチン予防と治療で肯定的意見を得た。

まず、バイオジェンがSwedish Orphan Biovitrumと共同開発したAlprolix(eftrenonacog alfa)。抗体の固定領域との遺伝子組換え型融合蛋白で、7~10日に一回、投与する。米国と日本では14年に承認済み。EUは成人だけでなく青少年の適応も最初から申請するよう求めており、その分、初承認が遅くなる。

リンク: バイオジェンのプレスリリース

次に、CSLベーリングのIdelvion(albutrepenonacog alfa)。アルブミンの遺伝子組換え型融合淡白。日米でも承認審査中。

リンク: EMAのプレスリリース

大鵬薬品のロンサーフ配合錠(trifluridineとtipiracil、外国名Lonsurf)はセルビエによって承認申請され、CHMPの支持を得た。末期転移性結腸直腸癌のサルベージ療法(承認されている薬のうち使える薬を全て使い終わった患者の最後の手段)として用いる。海外の第三相試験では、メジアン生存期間が7.2ヶ月と最良支持療法だけの群の5.2ヶ月を上回り、1年生存率は各27%と17%だった。主な有害事象は骨髄抑制や疲労。セルビエは北米やメキシコ、アジア以外での開発販売権を保有している。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: セルビエのプレスリリース

イーライリリーのTaltz(ixekizumab) は中重度乾癬の治療薬。ノバルティスのCosentyx(secukinumab、和名コセンティクス)と同様にIL-17Aを標的とするヒト化抗体で、角化細胞の増殖活性化を阻害する。臨床試験でアムジェン/ファイザーのEnbrel(etanercept)より効果が高かったことがEMAのプレスリリースに明記されている。日米でも承認審査中。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: イーライリリーのプレスリリース

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のDescovy(emtricitabineとtenofovir alafenamide fumarate、略称F/TAF)はHIV/AIDSの治療薬。TAFは15年の市販歴を持つ逆転写酵素阻害剤tenofovir disoproxil fumarate(略称TDF)の類薬で、どちらもプロドラッグだが、TAFのほうが局所的に作用するため腎臓や骨塩密度に対する副作用が小さい。

TAFは昨年、Genvoyaという4剤合剤の配合成分の一つとして欧米で承認されている。

リンク: ギリアドのプレスリリース

適応拡大では、BMS/小野薬品のOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)を扁平上皮以外の非小細胞性肺癌や腎細胞腫の二次治療に用いることが支持された。前者は臨床試験でメジアン生存期間が12.2ヶ月と、代表的な二次治療薬であるdocetaxelを投与した群の9.4ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.73だった。現在は扁平上皮の非小細胞性肺癌に限定されており、対象人口が倍以上に増えることになる。

2%以上の患者で発生した深刻な有害事象は肺炎、肺塞栓、呼吸困難、胸水、呼吸不全。

腎細胞腫ではメジアン生存期間が25ヶ月とeverolimus(ノバルティスのmTOR阻害剤Afinitor)を投与した群の19.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.73だった。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース

ベーリンガー・インゲルハイムのEGFR・her2阻害剤Giotrif(afatinib)を扁平上皮非小細胞性肺癌の二次治療に単剤投与することも支持された。現在はEGFR活性化変異を持つ非小細胞性肺癌の一次治療単剤療法として承認されている。

EGFR阻害剤は活性化変異型にしか効かないような気もするが、第一世代品が開発承認された頃はまだ認知されておらず、限定なしで承認されTarceva(erlotinib、和名タルセバ)は今でも承認されている。GiotrifはTarceva対照試験で延命効果が有意に上回った。もしTarcevaのこのセッティングでの効果が偽薬並みであったとしても、効果があることは否定できない。尤も、もし使えるならOpdivoの方が有望だろう。

リンク: EMAのプレスリリース

PTC、筋ジストロフィー薬の承認申請が却下
(2016年2月23日発表)

PTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)はTranslarna(ataluren)をナンセンス変異によるデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療薬として開発し、EUでは14年7月に条件付き承認を獲得。米国でも1月にローリング承認申請を完了したが、FDAから却下(Refuse to File)通知を受領したと発表した。

EUもCHMPの当初の結論は、否定的意見だった。臨床試験がフェールしたこと、日常活動の改善効果が小さい、作用機序が曖昧、用量反応相関の検討が不十分、などが理由だったが、再審査請求を受けて再検討、結論を覆した。米国でも14年12月にローリング承認申請を開始したが、昨年10月に第三相試験がフェールしたことが明らかにされた。

難病の場合は、効果が曖昧でも、臨床症状がある程度軽快し深刻な副作用リスクがないようならば、承認される可能性がある。RTFは書類の不備や誤植が理由であることもあるので何とも言えないが、臨床試験が何度もフェールしているのだから承認されなくても文句は言えないだろう。

リンク: PTCのプレスリリース



今週は以上です。

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