2016年2月21日

2016年2月21日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ピオグリタゾンの脳梗塞再発予防試験が成功 
  • 膀胱癌用薬の承認申請をFDAが受理 
  • FDA、ゼチーアの心血管リスク削減効果を認めず 
  • FDAがUCBの抗癲癇薬を承認 
  • ファイザー、CDK4/6阻害剤の適応拡大が承認 
  • アストラゼネカ、URAT1阻害剤がEUでも承認 
  • アストラゼネカ、抗血小板薬の長期コースがEUで承認 

【今週の話題】


ピオグリタゾンの脳梗塞再発予防試験が成功
(2016年2月17日発表)

PPAR作動剤は二型糖尿病治療薬として承認・販売されているが、PPARという核内受容体は様々な遺伝子の転写を促すため、作用も副作用も多彩と考えられている。肝毒性や心毒性が問題になる前は様々な用途が探索されたし、膀胱癌リスクが顕在化する一方で、制癌性が注目された時期もあった。安全性懸念により殆どのコンパウンドが販売・開発中止になったが、生き残ったActos(pioglitazone)はアルツハイマー病予防など斬新な用途の臨床試験が進行している。

その一つであるIRIS試験の成功がISC(国際卒中会議)とNEJM誌で発表された。NIH傘下の国立神経学的障害卒中研究所の支援による研究者主導試験で、脳梗塞・TIA(一過性脳虚血発作)歴を持ち、糖尿病ではないがインスリン抵抗性(HOMA-IRが3.0超)の患者3876人を偽薬群とpioglitazone群に無作為化割付して、脳卒中と心筋梗塞のリスクを比較した。pioglitazoneは15mg/日で開始し、二型糖尿病における最大承認用量である45mg/日まで漸増した。

結果は、脳卒中・心筋梗塞の発症率がpioglitazone群は9.0%、偽薬群は11.8%となり、ハザードレシオ0.76、統計的に有意なリスク削減効果が確認された。卒中だけ、心筋梗塞だけを見ても、有意ではないが少なかった。

全死亡は7.0%対7.5%、ハザードレシオ0.93、95%信頼区間は0.73から1.17で、有意差はなかった。信頼区間がそれほど広くないので、検出力不足という印象はあまりしない。致死的卒中も、致死的心筋梗塞も数値上は少なかったので、救命効果の兆しはあるがそれほどパワフルではないのだろう。

二型糖尿病発症者も少なかったが、当然のことだろう。pioglitazoneは血糖値を下げるのでもし発症したとしても発覚しない。世間で広く使われている簡便法、即ち、血糖治療薬服用の有無で判定すれば、pioglitazone群の患者は試験が始まった時点で全員が糖尿病になったことになる。

副作用では、手術や入院を必要とする骨折の発生率が5.1%対3.2%、体重が4.5kg以上増加した患者の比率が52%対33%、浮腫も35%対24%で、何れも有意に多かった。心不全による入院は51人対42人、膀胱癌は12人対8人で、有意差は無かったが、検出力不足だったのだろう。

100人に5年弱投与すると二人を脳卒中・心筋梗塞から救うことが出来るが二人を骨折させることになる。肥満や浮腫だけならまだしも、骨折はQOLに影響するので、どちらを選ぶか、悩ましいところだ。

リンク: Kernanらの治験論文(NEJM、オープンアクセス)

【承認申請】


膀胱癌用薬の承認申請をFDAが受理
(2016年2月19日発表)

スペクトラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:SPPI)は、EOquin(apaziquone)を承認申請しFDAに受理されたと発表した。審査期限は12月11日とのことなので優先審査ではない。承認されるかどうか、不透明だろう。

EOquinはプロドラックで膀胱内に注入するとがん細胞が発現する還元酵素によりアルキル化活性を獲得する。非浸潤性膀胱癌の切除術を受けた患者を組み入れた偽薬対照試験が二本実施され、フェールした。しかし、二本のプール分析では2年再発率のp値が0.0174となったため、FDAと相談し、承認申請に踏み切った。受理されたのだから希望は残っているが、マイナスのカードを二枚集めてもプラスにはならないので、楽観できないだろう。

オランダのNDDO Research Foundationからライセンス、アラガンにアジア以外の販売権を供与したが13年にライセンス返還となった。

リンク: スペクトラムのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA、ゼチーアの心血管リスク削減効果を認めず
(2016年2月15日発表)

MSDはZetia(ezetimibe、和名ゼチーア)の心血管リスク削減効果をレーベルに記載すべくFDAに承認申請したが、審査完了通知を受領した。もうすぐ特許が切れるので、これ以上の開発は行われないだろう。

Zetiaはシェリング・プラウが創製したオルターナティブ系のコレステロール治療薬。巧みなマーケティング手法に支えられ、simvastatin配合剤のVytorinと共に超大型薬に育った。その一方で、なぜか日本では殆ど報じられていないが、心血管アウトカム試験の裏付けがないまま強力な販促が行われていることを厳しく批判する声も強く、ACC米国心臓学会でパネリストが用途を限定すべきと断じたこともあった。

承認の12年後にIMPROVE IT試験が成功し、遂に心血管疾患リスク削減効果のエビデンスが出来たが、残念なことに、ハザードレシオ0.936と治療効果が小さかった。臨床の視点からは、非致死的な心筋梗塞のような、必ずしも臨床的に重要とは言えないイベントが減少しただけという意見があった。統計学上は、サブグループ分析で二型糖尿病患者や75歳以上の患者以外には効果が見られなかったことや、長期試験なので追跡打切り例が少なくなく、この人たちの転帰次第では結論が変わってしまう可能性があることが難点となった。

このため、昨年12月の諮問委員会でもダブルスコアで反対の意見が上回った。FDAが承認しなかったのはサプライズではない。

Zetiaは、第一選択薬であるスタチンに不耐不応の患者に対する代替的治療法、あるいは、スタチンだけではコレステロールを十分に管理できない患者に追加する薬としては有益と考えられている。しかし、心血管疾患を防ぐ十分なパワーがないならば、服用の意義が疑わしい。スタチンを試さずに、最初からZetiaを服用してきた患者にとっては尚更だ。処方した医師に文句を言いたくなる気持ちも分かるが、こういうことがあるから薬理学的な仮説を妄信せずに臨床的なエビデンスを確認することが重要なのである。

リンク: MSDのプレスリリース

【承認】


FDAがUCBの抗癲癇薬を承認
(2016年2月19日発表)

FDAはUCBのBriviact(brivaracetam)を承認した。薬物療法を受けても部分発作を十分に防げない癲癇患者に追加投与する。EUでは1月に承認済み。同社のKeppra(levetiracetam、和名イーケプラ)と同じSVP(Synaptic Vesicle Protein)2A作動剤だが、選択性や力価が高い。

UCBによると、麻薬取締法の管理物質指定を受ける。Keppraは指定されていないので意外だ。Briviactは薬物依存性が高いのか、それとも、Keppraが承認された17年前の科学では検出できなかっただけなのだろうか?

リンク: FDAのリリース
リンク: UCBのプレスリリース

ファイザー、CDK4/6阻害剤の適応拡大が承認
(2016年2月19日発表)

ファイザーはFDAがIbrance(palbociclib)の適応拡大を承認したと発表した。昨年の初承認時と同様に、ホルモン受容体陽性でher2陰性の末期・転移性乳癌が対象だが、閉経後女性の一次治療としてletrozole(アロマターゼ阻害剤)と併用する用途用法に加えて、内分泌療法の後の二次治療としてfulvestrant(エストロゲン受容体ダウンレギュレーター)と併用することも可能になった。

第三相試験では、PFS(無進行生存期間)がメジアン9.5ヶ月とletrozoleだけの群の4.6ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.46だった。主な有害事象は骨髄抑制(好中球、白血球、血小板などの減少症)、感染症、貧血、疲労、悪心嘔吐など。

リンク: ファイザーのプレスリリース

アストラゼネカ、URAT1阻害剤がEUでも承認
(2016年2月19日発表)

アストラゼネカは、Zurampic(lesinurad)がEUで高尿酸血症治療薬として承認されたと発表した。キサンチン酸化酵素阻害剤だけでは尿酸値を十分に管理できない患者に追加投与する。

キサンチン酸化酵素阻害剤が尿酸の合成を阻害するのに対して、ZurampicはURAT1というトランスポータを阻害して尿酸の排泄を促進する。痛風のリスク要因である高尿酸血症には合成過多と排泄過少の二つのタイプがあるといわれているので、使い分けることが出来れば理想だろうが、残念なことに、使い分けの有効性を支持するエビデンスは存在しない。

200mgを一日一回投与する。400mgを投与した試験で腎・心血管リスクの懸念が浮上したため、市販後に200mgの調査・試験を行って安全性を確認する。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

アストラゼネカ、抗血小板薬の長期コースがEUで承認
(2016年2月19日発表)

アストラゼネカの抗血小板薬Brilique(ticagrelor、米国名Brilinta)は急性心筋梗塞・冠症候群の治療薬として欧米で承認されている。アスピリン併用で1年投与しその後はアスピリンだけ続けるのが典型的だが、今回、1年経った後も続ける用法と、1~3年前に心筋梗塞を経験した患者が新たに開始する用法がEUで承認された。米国でも昨年9月に承認済み。

二種類の抗血小板薬を併用するDual Anti-Platelet Therapy(DAT)は虚血性心血管疾患を防ぐ効果が高いが出血リスクも高いので、患者毎に適否を検討する必要がある。今回の承認でBriliqueのDATも可能になったが、マストではない。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース



今週は以上です。

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