2015年2月22日

海外医薬ニュース2015年2月22日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • 武田、motesanibの第三相がフェール
  • 米国でアドセトリスの適応拡大申請
  • ファイザー、シロリムスを米国でLAMに適応拡大申請
  • ベンダムスチン新製剤が米国で承認申請
  • filbanserin、三度目の承認申請
  • レブラミド、欧米で一次治療承認
  • EUが幹細胞療法を初承認


【新薬開発】


武田、motesanibの第三相がフェール

(2015年2月17日発表)

武田薬品は、アムジェンからライセンスしたVEGF受容体阻害剤、motesanibの第三相非扁平上皮非小細胞性肺癌試験がフェールしたことを発表した。

VEGFを阻害する薬ではロシュのAvastin(bevacizumab)の第三相が成功して以降、多くの会社がチロシンキナーゼを阻害する小分子薬で第三相を行ったが、悉く失敗した。小分子薬は他の腫瘍関連遺伝子も様々なパターンで阻害するので一括りには扱えないが、それにしても、なぜ失敗経験が共有されないのか残念に思う。被験者や開発予算、研究者というリソースを徒にすべきではないだろう。

この試験は、paclitaxelとcarboplatinを併用する標準療法の一つと更にmotesanibを併用する三剤併用のPFS(無進行生存期間)を比較した。グローバルで実施された同様な第三相試験であるMONET1はフェールしたが、アジア人のサブグループ分析で良さそうな結果が出たため、武田が共同開発提携を単独開発販売契約に切り替えて日本、香港、韓国、台湾の施設で実施したのが今回のMONET-A試験だ。

MONET1のアジア人サブグループ分析は事前に計画されていた由であり、データマイニングで見つけた訳ではない。解析対象も227例なので少なくはない。全生存解析のp値は0.02なので有意性は高くないし、そもそも主評価項目がフェールしたのだから副次的分析の信頼性は統計学的には低いのだが、抗癌剤のサブグループ分析は当てにならないことを改めて痛感させられる。

リンク:武田のプレスリリース(和文)

リンク:MONET1試験のアジア人サブグループ分析論文(Annals of Oncology、オープンアクセス)

【承認申請】


米国でアドセトリスの適応拡大申請

(2015年2月18日発表)

シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)は、米国でAdcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)の適応拡大申請を行ったと発表した。ホジキン型リンパ腫患者にASCT(自家幹細胞移植)を施行した後に、再発リスクが高い場合はAdcetrisを用いて地固め療法を行うというもの。

薬効のエビデンスとなるAETHERA試験では、3週間に一度の頻度で1年間投与したところ、PFSが43ヶ月と偽薬を投与した群の24ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオは0.57、p値は0.001だった。主な有害事象は末梢知覚神経症や好中球減少症など。

Adcetrisは抗CD30抗体に細胞毒を結合した抗体薬品結合体(ADC)。CD30に結合しインターナライズすると内部の蛋白質分解酵素によりリンカーが零落し、細胞毒が腫瘍細胞選択的に作用する。2011年に米国で再発性難治性ホジキン型リンパ腫と全身性異形成大細胞リンパ腫に承認された。ADC技術を持つシアトル・ジェネティクスが創製、北米以外の権利は武田薬品がライセンスし日本でも発売した。

リンク:シアトル・ジェネティクスのプレスリリース

ファイザー、シロリムスを米国でLAMに適応拡大申請

(2015年2月20日発表)

ファイザーは、米国でRapamune(sirolimus)をリンパ脈管筋腫症(LAM)に適応拡大申請し受理されたと発表した。順調なら6月までに承認されることになる由。

LAMは再生産年齢期の女性が稀に発症する進行性疾患で、致死的なことも少なくない。肺の平滑筋様細胞が異常増殖、組織を破壊する。Rapamuneは欧米で臓器移植後の拒絶反応抑制薬として承認されているmTOR阻害剤で、LAMの病理にmTORが関与していることから用途拡大が進められ、昨年7月に日本でLAM治療薬として世界で初めて承認された(ノーベルファーマのラパリムス)。

リンク:ファイザーのプレスリリース

ベンダムスチン新製剤が米国で承認申請

(2015年2月17日発表)

イーグル・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:EGRX)は、EP-3102(bendamustine hydrochloride)を米国で承認申請したと発表した。旧藤沢薬品が買収したドイツの会社が開発し、北米ではテバ(NYSE:TEVA)が、日本ではシンバイオ製薬が開発しエーザイが販売するTreanda(和名トレアキシン)の新製剤。Treandaは慢性リンパ性白血病に用いる場合は30分以上、非ホジキン型リンパ腫の場合は60分以上掛けて点滴するが、EP-3102は10分で足りる由。

テバと特許紛争になっていたが和解。テバは米国の販売権を取得し、また、Treandaの希少疾患用薬排他権を放棄することで早期の承認・発売を可能にする。

Treandaはアルキル化剤で、承認されている二つの用途では標準治療薬の一つになっている。EP-3102の承認申請は生物学的同等性試験に基づく模様だが、抗癌剤は様々な副作用があるので、小規模な試験だけで足りるのか疑問を感じる。

リンク:イーグルのプレスリリース

filbanserin、三度目の承認申請

(2015年2月17日発表)

Sprout Pharmaceuticalsは、flibanserinを女性のHSDD(性的欲望低下障害)の治療薬として承認申請したと発表した。患者団体や医師を応援団として今度こそ承認を獲得できるかどうか、注目される。

この5-HT1A作動・5-HT2A拮抗剤はベーリンガー・インゲルハイムが数千人規模の第三相試験を実施して米国で承認申請したが、2010年に開催された諮問委員会が承認に反対、審査完了となり開発中止になった。薬効が穏やかで、便益と比べてリスクが大きいと判定された。Sproutは11年に権利を取得、13年に再申請したが再び審査完了。その後、FDAから要請のあった薬物相互作用試験や運転シミュレータ試験(傾眠リスクを評価)を行い、今回の再々申請に至った。

リンク:Sproutのプレスリリース

【承認】


レブラミド、欧米で一次治療承認

(2015年2月19日、20日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)は、Revlimid(lenalidomide、和名レブラミド)が欧米で多発骨髄腫の一次治療薬として承認されたことを発表した。低量dexamethasoneを併用する。EUは幹細胞移植不適患者に限定したが、米国はしてない。

米国は正式に承認されていない用途・用法であってもコンペンディアなどの権威のある文献が便益を認めていれば保険還付の対象になりうる。Revlimidのような経口剤はややハードルが高いが、この二剤を併用するRdレジメンは既に標準療法の一つになっている。このため、EU承認の方が重要なマイルストーンになりそうだ。

承認の根拠となったMM-020試験では、Rd長期コースのメジアンPFSが25.5ヶ月と、MPT三剤併用レジメンの21.2ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.72だった。全生存期間は中間解析段階だが各58.9ヶ月と48.5ヶ月だった。G3以上の主な有害事象は好中球減少症、貧血、血小板減少症、肺炎など。

リンク:セルジーンのプレスリリース(米国承認、2/19付)

リンク:同(EU承認、2/20付)

EUが幹細胞療法を初承認

(2015年2月20日発表)

イタリアのChiesi Farmaceuticiは、EUがHoloclarを中重度角膜輪部幹細胞欠乏症(LSCD)の治療法として条件付き承認したと発表した。幹細胞療法がEUで承認されたのは初。

LSCDは火傷や化学物質による外傷で角膜と結膜の境界にある輪部の幹細胞が減り、角膜の新陳代謝ができなくなり代わりに結膜に覆われるようになる。Holoclarは患者の輪部を1-2平方ミリ採取して培養し、上皮として移植する。Chiesiとモデナ・レッジョ・エミリア大学の産学連携の成果とのことだ。

リンク:Chiesiのプレスリリース(アドレスに禁則文字が含まれるためニュース一覧ページを記載)

今週は以上です。

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2015年2月15日

海外医薬ニュース2015年2月15日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • 武田、経口プロテアソーム阻害剤の第三相が成功
  • ノバルティス、慢性心不全治療薬の承認申請が受理された
  • ファイザー、乱用抑止オピオイド製剤の承認申請が受理
  • エーザイのVEGFR阻害剤が米国で承認


【新薬開発】


武田、経口プロテアソーム阻害剤の第三相が成功

(2015年2月10日発表)

武田薬品は、MLN9708(ixazomib cirate)の第三相多発骨髄腫試験が成功したと発表した。最初の中間解析で独立データ監視委員会が成功認定した。データは未発表。承認申請に向かうことになりそうだ。

MLN9708は同社が08年に88億ドルで買収した米国のミレニアム社のVelcade(bortezomib)と同じプロテアソーム阻害剤で、経口投与できることが特徴。今回の第三相は1~3レジメンの前治療歴を持つ患者を組入れて、Revlimid(lenalidomide、和名レブラミド)と低量dexamethasoneを併用するRdレジメンと、更にMLN9708を併用する三剤併用法のPFS(無進行生存期間)を比較した。MLN9708は40mgを週一回、三週連続投与して一週間休む28日サイクル。

MLN9708は新患や維持療法の第三相も進行中。また、全身性軽鎖アミロイドーシス(免疫グロブリン性アミロイドーシス)でも第三相中。VelcadeもRd併用で良い成績を上げており、将来的には自社競合も発生しそうだ。

リンク:武田のプレスリリース(和文、pdfファイル)

【承認申請】


ノバルティス、慢性心不全治療薬の承認申請が受理された

(2015年2月13日発表)

ノバルティスはLCZ696の承認申請がFDAに受理されたと発表した。駆出力が低下した慢性心不全患者の治療薬で、承認されればこの分野では久方ぶりの新薬になる。

LCZ696はアンジオテンシンII受容体を拮抗するvalsartan(Diovanの活性成分)と、ANPやBNPを代謝する中性エンドペプチダーゼであるネプリライシンを阻害するsacubitrilを一つの分子にしたもの。体内で分離して夫々の活性を発揮する。新しいタイプのコンビ薬だ。

第三相のPARADIGM HF試験はNYHA心機能分類II~IVで駆出力が35%以下(治験開始当初は40%以下だったが途中で変更)で、BNP値上昇、そしてACE阻害剤又はARBを服用している患者8000人以上を組入れて、200mgを一日二回経口投与する群とACE阻害剤enalapril(10mg)を一日二回経口投与する群の臨床的転帰を比較した。主評価項目は心血管死または心不全による入院だが、心血管死を15%削減する効果を立証できる検出力を持っている。

昨年3月に三回目の中間解析が成功したことが明らかにされた。主評価項目も、心血管死も、ハザードレシオが0.80で、LCZ696群の方が有意に少なかった。

米国の承認審査では、北米施設の組入れが全体の7%と少ないことが論点になりそうだ。地域が違えば典型的な患者や治療法が異なるからだ。例えば、この試験ではペースメーカー使用患者が少ない。

また、アフリカ系患者の症例も少ない。中性エンドペプチターゼを阻害する薬では過去にBMSがomapatrilatのアウトカム試験を成功させたことがあるが、血管浮腫のリスクが見られたためFDAは承認しなかった。PARADIGN HF試験ではLCZ696群で19例、enalapril群10例、p=0.13で有意差はなかったが、もし組入れ数が1.5倍で発生率が同じだったら有意になっただろう。

アフリカ系患者は心不全も血管浮腫もリスクが比較的高いので、米国で承認を取るためにはもっと組入れて安全性を明確にすべきだったかもしれない。

この試験の組入れ/除外条件は上記の他にも色々あり、適応になる患者はごく一部という意見もあるようだ。対象患者をどの程度限定/拡張するかも重要な論点になりそうだ。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

ファイザー、乱用抑止オピオイド製剤の承認申請が受理

(2015年2月13日発表)

ファイザーはALO-02の承認申請がFDAに受理されたと発表した。oxycodoneの中にnaltrexoneを包み込んだ徐放性カプセル製剤で、オピオイドを必要とする慢性疼痛患者に用いる。米国はオピオイド経口剤を破砕して注射・吸引する乱用と、それに伴う死亡者の増加が問題になっている。ALO-02は破砕するとnaltrexoneのオピオイド受容体拮抗作用がoxycodoneの作動作用を相殺してしまうので、乱用に適さない。

リンク:ファイザーのプレスリリース

【承認】


エーザイのVEGFR阻害剤が米国で承認

(2015年2月13日発表)

FDAは、エーザイのLenvima(lenvatinib)を進行性放射性ヨウ素抵抗性分化甲状腺癌用薬として承認した。審査期限より2ヶ月早い、スピード承認。エーザイは専門薬ファーマシー二社を通じて発売する予定。

VEGFR1~3とFGFR、RET、c-kitなどを阻害する小分子薬で、24mgを一日一回、経口投与する。VEGF標的薬経験者も組入れた第三相試験では、PFS(無進行生存期間)がメジアン18.3ヶ月と偽薬群の3.6ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.21だった。深刻な有害事象は心不全、動脈血栓塞栓、出血、胃腸穿孔、瘻、低カルシウム血症、肝腎障害、QT延長などで、VEGF阻害剤に共通のものと、それ以外のものがある。

ロシュのAvastin(bevacizumab)の第三相試験が成功した時に『類薬を開発している企業や研究者にとっても朗報』と書いた。十数年が経ち、血管新生に関わるVEGFと受容体を阻害する薬は今や一大カテゴリーとなった。受容体チロシンキナーゼを阻害する小分子薬だけでも、米国で05年に承認されたバイエルのNexavar(sorafenib)を皮切りに、ファイザーのSutent(sunitinib)とInlyta(axitinib)、GSKのVotrient(pazopanib)、アストラゼネカのCaprelsa(vandetanib)、バイエルのStivarga(regorafenib)、エグゼリキシスのCometriq(cabozatinib)、ベーリンガー・インゲルハイムのVargatef(nintedanib)と、既に8種類の製品が存在する。

最初の適応症は腎癌系、甲状腺癌系など区々で、また、VEGFRのアイソトープや他の腫瘍関連遺伝子の阻害プロファイルも異なっているが、最終的に同じような癌を狙っている点では大差ない。Lenvimaの最初の適応症は甲状腺がんの一種である点では髄様腫用薬であるCaprelsaやCometriqと類似しており、適応拡大試験中の肝癌ではNexavarが若干異なった用途だが承認されている。

不思議なのは、これだけ多くの類薬が存在するのに価格競争が起きないこと。ARBやSSRIなどでは後発企業が定価を7掛けに抑えてシェアを取りに行く戦略を取った。最近でも抗HCV薬で値引き競争が激化している。VEGFR阻害剤は各社が適応症を若干ずらすことによって上手く回避していると言えるだろう。

リンク:FDAのリリース

リンク:エーザイの米国子会社のプレスリリース

今週は以上です。

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2015年2月8日

海外医薬ニュース2015年2月8日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • ファイザーがホスピーラを買収へ
  • ロシュのGazyva、非ホジキンリンパ腫試験も成功
  • JNJ、Yondelisを米国で再承認申請
  • 二次性性腺機能低下症用薬が承認申請
  • ファイザー、ゼルヤンツを乾癬に適応拡大申請
  • ファイザーの抗癌剤が米国で承認


【今週の話題】


ファイザーがホスピーラを買収へ

(2015年2月5日発表)

ファイザーはホスピーラ(NYSE:HSP)を170億ドル(純負債調整後)で買収することで合意した。ホスピーラは04年にアボットからスピンアウトした会社で、年商はファイザーの1割足らずだが、注射用ジェネリック薬で世界最大手、バイオシミラーの実績でも三本の指に入る。今回の買収で、GE薬の中でも価格競争がそれほど激しくない分野を強化することができる。

ホスピーラはバイオシミラー/類似薬では欧州で08年にepoetin zeta、10年にアムジェンのNeupogenのシミラー、13年にはジョンソン・エンド・ジョンソンのRemicadeのシミラーの承認を取得。承認審査制度の整備が遅れていた米国でも先月、アムジェンのEpogenのシミラーを承認申請した。シミラー/類似薬の年商は03年に1億ドルを超え、ノバルティスのサンド部門やテバと共に三強を構成している。

売上規模からみても分かるようにシミラーの普及率は未だ低い。名前が表わしているように、オリジナルの薬と同じという保証が無いからだ。米国では処方箋にオリジナルの製品名が記されていても薬局がGE品を渡すことができる。このため、GE薬メーカーは医療施設に情報伝達・販促活動を行う必要はない。しかし、バイオシミラーは現状では自動代替の対象にはならないので特許性新薬と同様なディテーリング活動が必要だ。新薬開発型製薬会社の事業構造に適した形態と言えるだろう。

今後、注目されるのは、ホスピーラが韓国のCelltrion社からライセンスした抗体医薬シミラーだ。上記のRemicadeシミラー以外に多くの開発品を持っているが、ファイザーもロシュのRituxanやAvastinのシミラーを臨床開発しているので、反トラスト規制機関が権利譲渡を求める可能性がある。ファイザーにとっても、自社開発品があるならライセンス品は要らないだろう。

バイオシミラーはMSD、イーライリリー、バイオジェン・アイデックなども積極的に取り組んでおり、今後、他の大手も参入するだろう。その手段としてCelltrion開発品を狙っている会社は多いだろう。

リンク:ファイザーのプレスリリース

アビガンがエボラ試験で良績

(2015年2月4日発表)

富山化学のAvigan(favipiravir、和名アビガン)がエボラの臨床試験で良好な結果を出しているとNew York TimesやBoston Globeなどが報じている。ギニアで行われている単群試験の中間解析(69例)に基づくもので、高ウイルス量患者では死亡率が30%だったが低ウイルス量症例では15%だった。

ギニアでは2628人の感染が確認され、1608人が死亡した(2月3日時点)。死亡率61%なので、確かにこの試験の死亡率は低い。但し、臨床試験は選ばれた医療施設で選ばれた医師が選りすぐられた患者を対象に行うので、現実の医療よりも良い成績が出るのが一般的である。偽薬対照二重盲検試験を行えばこのバイアスを回避できるのだが、エボラは致死的な疾患なので偽薬群を設けるのは倫理に反する可能性があり、採用されていない。結局、今回の報道内容では効くのかどうか分からない。

現地では、このデータを公表するリスクを懸念する声もあるようだ。上記の理由で薬効が確立したとは言えないのだが、これ以上の治験は止めて全ての患者に提供せよという圧力が高まる可能性があるからだ。

尤も、これは初めから予想されていた事態である。安全性面で問題が無い限り、全員に提供する方向に動かざるを得ないだろう。

リンク:New York Timesの記事

【新薬開発】


ロシュのGazyva、非ホジキンリンパ腫試験も成功

(2015年2月4日発表)

ロシュは、Gazyva(obinutuzumab)の第三相非ホジキンリンパ腫試験が中間解析で成功認定されたと発表した。適応拡大申請に向かう予定。

GazyvaはRituxan(rituximab、和名リツキサン)と同様にBセルの表面分子であるCD20を標的とする抗体で、違いはマウス由来のアミノ酸が少ないヒト化抗体であることと、フコースを除去することによって抗体依存性細胞傷害活性を高めていること。慢性リンパ性白血病の一次治療薬として13年に米国で、14年には欧州でも承認された。chlorambucilと併用した試験では、PFS(無進行生存期間)がRituxanを併用した群より有意に優れていた。

今回の試験は、潜行性(indolent)非ホジキンリンパ腫でRituxanに不応・進行した患者を組入れて、Treanda(bendamustine、和名トレアキシン)と併用で6サイクル治療し、更にGazyvaだけを最長2年間投与する手法をTreandaだけの治療と比較した。データは今後、発表される予定。

潜行性は完治し難いが進行が緩徐なので長期間の臨床試験が必要になる。RituxanよりGazyvaの方が効果が高いことを立証するには時間が必要だ。今回は直接比較ではないが、将来は、非ホジキンリンパ腫の一次治療でもGazyvaが優先使用薬になるだろう。

リンク:ロシュのプレスリリース

【承認申請】


JNJ、Yondelisを米国で再承認申請

(2015年2月3日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンはYondelis(trabectedin)を再発性末期軟組織肉腫用薬として米国で承認申請し、優先審査指定を受けたことを発表した。

海洋生物由来のアルキル化剤で、スペインのPharmaMarから欧州以外の権利を取得したもの。欧州では07年に軟組織肉腫に、09年には卵巣癌に、承認されている。JNJは08年に米国で卵巣癌に承認申請したが、治験の薬効評価基準が曖昧で査読者の評価が食い違うことや、心肝毒性に対する懸念から、諮問委員会もFDAも立証不十分と判定した。

今回の申請は末期脂肪肉腫と平滑筋肉腫の二次・三次治療薬としての効果をdacarbazineと比較した試験に基づくもの。データは未発表。

リンク:JNJのプレスリリース

二次性性腺機能低下症用薬が承認申請

(2015年2月2日発表)

米国テキサス州の医薬品開発会社であるRepros Therapeutics(Nasdaq:RPRX)は、Androxal(enclomiphene citrate)を二次性性腺機能低下症用薬として米国で承認申請したと発表した。プレスリリースでは、太り過ぎの二次性性腺機能低下症で正常な精巣機能の回復を望む男性、と記されているので、対象患者が限られているのかもしれない。

Androxalは50年前から排卵促進剤として用いられている選択的エストロゲン受容体調節剤、clomiphene citrateのtrans異性体。

リンク:Repros社のプレスリリース

ファイザー、ゼルヤンツを乾癬に適応拡大申請

(2015年2月4日発表)

ファイザーは、Xeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)を中重度尋常性乾癬の治療薬として米国で適応拡大申請し、受理されたことを発表した。審査期限は10月とのこと。

XeljanzはJanus kinase(JAK)阻害剤。インターロイキンやインターフェロンの受容体の細胞内シグナル伝達に関与する酵素を阻害し、免疫抑制する。臓器移植後の拒絶反応防止効果を検討した霊長類試験でカルシニューリン阻害剤並みの強力な効果を示し注目されたが、免疫抑制に伴う副作用も強く、結局この用途の開発は進まなかった。代わりに低用量で抗リウマチ薬として開発・承認申請され、米国では12年に、日本は13年に承認されたが、欧州は感染症、癌、胃腸穿孔などの懸念から未承認となっている。

尋常性乾癬ではEnbrel(etanercept)対照試験も実施され、10mgを一日二回、経口投与した群は効果が非劣性だったが、5mg群はフェールした。そのせいか、5mgだけでなく10mgも申請されたが、リウマチでは5mgしか承認されなかった。痛みを伴うリウマチでも承認されなかったのだから、安全性のハードルが高い乾癬ではもっと難しいのではないか。5mgだけ承認された場合、Enbrelより効果が弱いので、経口剤でなければ駄目という患者以外にはあまり出番がないだろう。

リンク:ファイザーのプレスリリース

【承認】


ファイザーの抗癌剤が米国で承認

(2015年2月3日発表)

FDAは、Ibrance(palbociclib)を承認したと発表した。審査期限より2ヶ月早いスピード承認。適応は、閉経後女性の末期・転移性、エストロゲン受容体陽性、her2陰性の乳癌の一次治療。アロマターゼ阻害剤Femara(letrozole)と併用する。

第一/二相試験のデータに基づく加速承認。125mgを一日一回、21日連続で経口投与した後7日間休薬するスケジュールで施行したところ、PFSがメジアン20.2ヶ月とFemaraだけの群の10.2ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオ0.488と有意に優れていた。

作用機序は細胞周期進行を調停するCDK4/6を阻害する。エストロゲン受容体の細胞内シグナル伝達にも関わるのでエストロゲン受容体を零落するアロマターゼ阻害剤とin vitroでシナジーがあった。

主な副作用は、好中球などの白血球や赤血球の減少とそれに伴う感染症や貧血、血小板減少や鼻血、疲労、悪心嘔吐、下痢、食欲不振、口内炎、脱毛、末梢神経症など。治療開始時やサイクル毎の全血球計算が推奨されている。

リンク:FDAのリリース

リンク:ファイザーのプレスリリース

今週は以上です。

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2015年2月1日

15年2月1日号

(リンク先は殆どが英文です。改行で切れてしまう場合があります。リンク先の安全性や内容は保証できません。)

【ニュース・ヘッドライン】

  • Chimerix、エボラの治験を中止
  • リジェネロン/サノフィ、欧米で抗PCSK9抗体を承認申請
  • アムジェン、Kyprolisを適応拡大/新薬承認申請
  • ワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症の薬が初めて承認
  • Vyvanseがむちゃ食い障害治療薬として承認
  • 3A4阻害剤配合の抗HIV薬二剤が承認

【今週の話題】

Chimerix、エボラの治験を中止
(2015年1月30日発表)

Chimerix(Nasdaq:CMRX)はCMX001(brincidofovir)のエボラウイルス疾患に対する臨床試験を中止すると発表した。リベリアでオックスフォード大学などが国境なき医師団の協力を得て開始したが、新患が減少し少数しか組入れられない状態になったため。サイトメガロウイルス(CMV)予防試験など他の用途は続行する。

流行の鎮静化は朗報だが、喉元過ぎればという懸念もある。アフリカでは数年毎に流行しており、次に備えて研究を続けてほしいものだ。

リンク: Chimerixのプレスリリース

【承認申請】

リジェネロン/サノフィ、欧米で抗PCSK9抗体を承認申請
(2015年1月26日発表)

リジェネロン(Nasdaq:REGN)と開発パートナーのサノフィは、Praluent(alirocumab)を欧米で承認申請し受理されたと発表した。抗PCSK9完全ヒト化抗体で、高脂血症の治療に用いる。

米国ではバイオマリンから6750万ドルで購入した優先審査バウチャーを利用、優先審査を受ける。PDUFA(承認審査期限)は7月24日。アムジェンの抗PCSK9完全ヒト化抗体、AMG145(evolocumab)は8月27日なので、申請は4ヶ月遅れたが承認では1ヶ月先行する可能性が出てきた。

欧州は申請が4ヶ月遅かった分、承認・発売も遅れるだろうが、フランスなどでは薬価交渉もあるので先陣競争は未だ続く。バイオ薬なので値段は高いだろうが、コレステロール治療薬で一番重要な心血管疾患リスク削減効果が確認されていない。コスト・パフォーマンスをどう評価するか、難しい問題だ。

リンク: リジェネロン/サノフィのプレスリリース

アムジェン、Kyprolisを適応拡大/新薬承認申請
(2015年1月27日発表)

アムジェンはKyprolis(carfilzomib)を多発骨髄腫の二次治療に用いる適応拡大申請を米国で行ったと発表した。12年に三次治療薬として加速承認を受けており、今回の申請で本承認切替も求めることになる。

EUで承認申請し、加速審査を受けることも発表した。欧州は多発骨髄腫用薬の承認に際して反応率に基づく評価では不十分と考えており、Kyprolisは未承認。

承認申請の根拠になった第三相試験は、セルジーンのRevlimid(lenalidomide)及び低量dexamethasoneと三剤併用した。中間解析でPFS(無進行生存期間)がメジアン26.3ヶ月とRevlimid・dexamethasoneだけの群の17.6ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.69、log-rank検定によるp値は0.0001未満となり、成功認定された。全生存解析は未だ機が熟していないが、ハザードレシオ0.79で良いトレンドが見られた。有害事象による治験離脱は両群同程度だった。

Kyprolisは武田/ジョンソン・エンド・ジョンソンのVelcade(bortezomib)と同じプロテアソーム阻害剤。プロテアソームは細胞の不要になった蛋白をスクラップするメカニズムに関与するが、腫瘍細胞ではアポトーシスや腫瘍抑制に関わる蛋白の分解などにも関与している模様。Velcadeの初承認は03年、Kyprolisは12年で9年遅れたため、適応・用法の幅広さの差を一つ一つ埋めていく必要がある。

リンク: アムジェンのプレスリリース

【承認】

ワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症の薬が初めて承認
(2015年1月29日発表)

FDAは、Imbruvica(ibrutinib)をワルデンシュトレーム型マクログロブリン血(WM)症の治療に当てる適応拡大を承認したと発表した。希少疾患用薬指定、ブレークスルーセラピー指定、優先審査指定を受けており、審査期限を3ヶ月余してスピード承認。

WMは非ホジキン型リンパ腫の一種で、異常なBセルが増殖し免疫グロブリンMを大量生産、易出血性や視覚、神経障害を招くことがある。年に1000~1500人が診断される由。

ImbruvicaはBruton' tyrosine kinase(Btk)というBセルの生存機構を調停するキナーゼを阻害する経口剤。ファーマサイクリクス(Nasdaq:PCYC)がジョンソン・エンド・ジョンソンと提携して開発販売。これまでに、非ホジキン型リンパ腫の一種であるマントルセルリンパ腫や慢性リンパ性白血病に承認されている。

WM症の試験では62%の患者が反応した。有害事象は血栓性血小板減少症、好中球減少症、貧血、下痢など。有害事象による治験離脱が6%の患者で、減量は11%の患者で発生した。心房細動や二次性原発性腫瘍などに気を付ける必要がある。

リンク: FDAのリリース
リンク: 両社のプレスリリース

Vyvanseがむちゃ食い障害治療薬として承認
(2015年1月30日発表)

FDAは、シャイアー社のVyvanse(lisdexamfetamine dimesylate)を成人のむちゃ食い障害の治療薬として適応拡大承認したと発表した。アンフェタミンのプロドラッグで、07年にADHD治療薬として承認されている。

むちゃ食い障害は、強迫感に基づく過剰な摂食が週一回以上の頻度で3ヶ月以上、続く。体重増や肥満に伴う疾患のリスクが高まる。Vyvanseの試験では過食頻度や強迫性過食行動が偽薬比有意に減少した。

アンフェタミンなので精神性有害事象や心血管疾患リスクを持つ。また、薬物依存リスクがあるため麻薬取締法上のスケジュールIIに指定され、処方・流通規制を受けている。

リンク: FDAのプレスリリース

3A4阻害剤配合の抗HIV薬二剤が承認
(2015年1月29日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンとBMSは、夫々、プロテアーゼ阻害剤と3A4阻害剤cobicistatの合剤が米国で承認されたと発表した。

JNJの新薬はPrezcobix。Prezista(darunavir、和名プリジスタ)の活性成分と組み合わせた。BMSはEvotazで、Reyataz(atazanavir、和名レイヤターズ)の活性成分を配合。HIV/AIDSの治療に他の薬と併用する。

プロテアーゼ阻害剤は生物学的利用率が低いため初期の製品は一日に沢山のピルを2~3回服用する必要があったが、同じプロテアーゼ阻害剤であるアッヴィのritonavirを少量併用することで半減期を延ばす、ritonavirブーストという手法が普及、ピルバーデンが緩和した。3A4阻害による薬物相互作用を逆手に取ったのである。ritonavirは隠れたベストセラーになり、また、アッヴィはlopinavir合剤であるKaletraもラインアップした。

PrezistaもReyatazもritonavir併用で一日一回服用を実現したが、ritonavirはアッヴィの特許が未だ失効していないため、他のプロテアーゼ阻害剤も含めて合剤は無かった。

そこに目を付けたのがギリアド(Nasdaq:GILD)で、3A4阻害剤cobicistatを薬物動態強化剤として開発、三種類の抗HIV薬と組み合わせたStribildや単剤のTybostとして商品化すると共に、JNJ、BMSの両社に合剤用としてライセンスしたのである。

折しも、FDAが合剤の承認に関するガイドラインを見直し、cobicistatのようなそれ自体には薬効を持たない成分の開発や、Stribildのような未承認薬同士の平行開発を容易にした。医師や患者も、ピルバーデンを緩和するために企業の壁を乗り越えて合剤を実用化することを要望した。

これらの新薬は、当局や製薬会社、医療組織・患者支援団体が患者のために何ができるかを示している。

リンク: JNJのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース


今週は以上です。

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