2015年12月6日

2015年12月6日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • イーライリリー、PEGリスプロの開発を中止
  • JNJ、ステラーラをクローン病に適応拡大申請
  • アムジェン、KyprolisをEUでも適応拡大申請
  • ギリアド、SOF/VEL配合剤を欧州でも承認申請
  • gepironeは粘り勝ちできそうにない
  • FDA、BMSの多発骨髄腫用薬を承認


【新薬開発】


イーライリリー、PEGリスプロの開発を中止
(2015年12月4日発表)

イーライリリーはLY2605541(peglispro)の開発中止を発表した。短期作用性インスリンHumalog(insulin lispro、和名ヒューマログ)をPEG化して作用を長期化するとともに、肝臓指向性を高めて末梢作用に付随する体重増加の抑制を図ったもので、サノフィのランタスやノボのトレシーバと競う基礎インスリンとなるはずだった。しかし、第三相試験で肝機能検査値異常や肝脂肪蓄積が見られ、安全性確認に時間や費用が掛かることから、ドロップした。

イーライリリーはランタスのバイオシミラーを開発しており、基礎インスリンのラインアップは維持することができる。糖尿病領域で提携しているベーリンガー・インゲルハイムは2年前にLY2605541に関する権利を返還したがランタス・シミラーの協業は継続している。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

【承認申請】


JNJ、ステラーラをクローン病に適応拡大申請
(2015年11月30日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは抗IL-12/23完全ヒト化抗体Stelara(ustekinumab、和名ステラーラ)を中重度活性期クローン病の治療に用いる適応拡大申請を米国とEUで行った。第三相治療試験二本のうち一本では、伝統的な治療に反応しない患者を偽薬、130mg、体重に応じて260~520mgの三群に無作為化割付して一回点滴静注したところ、6週時点のCDAI100反応率が各群29%、52%、56%となり、試験薬二群とも偽薬群を有意に上回った。

リンク: JNJのプレスリリース

アムジェン、KyprolisをEUでも適応拡大申請
(2015年12月5日発表)

アムジェンはEUでプロテアソーム阻害剤Kyprolis(carfilzomib)の適応拡大申請を行った。欧州では多発骨髄腫の二次治療にRevlimid及びdexamethasoneと三剤併用することが11月に承認されたばかり。今回は、同じく二次治療にdexamethasoneと二剤併用するもので、米国では7月に承認申請済み。

申請の根拠となったENDEAVOR試験では、同じ作用機序を持つ大先輩である、武田薬品/ジョンソン・エンド・ジョンソンのVelcade(bortezomib)と直接比較した。結果は、メジアンPFS(無進行生存期間)が18.7ヶ月とVelcadeの9.4ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.53、95%信頼区間0.44~0.65だった。

過半の患者がVelcadeによる前治療歴を持っていてVelcadeには不利な試験なのだが、それでも良い成績だ。但し、承認用法より投与量が多いせいか、心不全や急性腎不全の発生率がVelcade群よりやや高かった。一方、神経障害の発生率はVelcadeより低かった。

リンク: アムジェンのプレスリリース

ギリアド、SOF/VEL配合剤を欧州でも承認申請
(2015年12月4日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は、GS-7977(sofosbuvir、略称SOF)とGS-5816(velpatasvir、略称VEL)の合剤をEUで承認申請し受理された。米国でも10月に承認申請済み。遺伝子型1~6型の慢性C型肝炎の治療に用いる。

前者はNS5Bポリメラーゼ阻害剤で、Sovaldi(和名ソバルディ)という名称で発売され、効果の高さと早さ、そして値段の高さで名を馳せた。後者はNS5A複製複合体阻害剤で様々な遺伝子型のウイルスに活性を持つことが特徴。非代償性肝硬変を合併していない患者ならこの合剤を一日一回、12週間服用するだけで殆どの患者がウイルス検出不能になる(SVR12)。合併患者はribavirin併用12週間コースが最も奏効率が高い。

遺伝子型一型に対する効果はSOFとNS5A複製複合体阻害剤ledipasvirの合剤であるHarvoni(和名ハーボニー)と大差なさそうなので、出番はそれ以外になりそうだ。遺伝子型検査を割愛できる可能性があるので、医療リソースが不十分な国に適しているかもしれない。

リンク: ギリアドのプレスリリース

【承認審査・委員会】


gepironeは粘り勝ちできそうにない
(2015年12月1日発表)

FDAは精神学薬諮問委員会を招集し、ヒューストンのFabre-Kramer Pharmaceuticalsが抗鬱剤として承認申請したgepironeについて意見を聞いた。審査担当者は薬効に懐疑的、13人の委員のうち9人も同意したので、おそらく、承認されないだろう。

この5HT1A作用剤はBMSが20年以上前に開発を断念、Fabre社に導出した。オルガノン(当時はアクゾ・ノーベルの子会社)がインライセンスして99年に承認申請したが受理されず、01年に申請受理されたが結果は非承認可能通知を受領。03年に修正申請したが再び非承認可能通知を受領。オルガノンから権利返還を受けたFabreが今度はグラクソ・スミスクラインと開発販売提携して07年に修正申請したが、また、非承認可能通知を受領した。

審査難航の原因は、第一に、多くの臨床試験がフェールしたこと。第二に、抗鬱剤の臨床試験は承認されている薬でもしばしばフェールするため試験フェール=薬効不十分とは断定できないこと。効果があまり高くないという側面と、薬効評価スケールの感度が不十分という側面がありそうだが、そもそも、患者によって効く薬が違うのかもしれない。

偶々、効く患者が多く集まればよい数字が出て、少なければフェールするのかもしれないのだ。現実の医療では、一つの薬に反応しないなら別の種類の薬にスイッチすることで対応できるので、向き不向きは試行錯誤で克服できる。そして、試行錯誤するためには、例え一部の患者にしか効かなくても、異なった作用機序の薬が多種存在する方が好ましいかもしれないのである。

これらのことから、鬱病や統合失調症の薬の臨床試験のデザインはこの10年ほどで大きく変わった。例えば、承認されている薬を投与する群を設けて、もし試験薬がフェールした場合に、もし実薬群もフェールなら試験がフェール、そうでないなら試験薬がフェールと判定する。あるいは、偽薬効果を抑制するために被験者を入院患者のような特に病態が重く症状の変化を観察しやすい集団に絞り込む。最後の手段としては、被験者全てに試験薬を投与し反応した患者を偽薬群と継続投与群に無作為化割付する離脱試験方式で薬効を証明する、などだ。

第三相試験は通常、二本実施されるが、抗鬱剤では三本、四本行うことが珍しくない。一本や二本フェールすることは初めから覚悟しているのだ。承認審査機関も寛容で、二本成功すれば、他の二本がフェールでもおそらく承認されるだろう。

話をgepironeに戻すと、最大の難問は、12本の試験のうち成功したといえるのは2本だけであることだ。残りのうち3本は実薬投与群がないため何とも言えなず、3本は試験がフェールと判定できるが、4本は実薬群が偽薬比有意、またはトレンドが見られた。これでは諮問委員会の支持を得られなくても当然だろう。本来ならもう一度薬効確認試験を行うべきなのだが、粘ってFDAの評価を覆すことに注力しているのは、成功する自信が無いからと思われてもしょうがないだろう。

幸い、gepironeが4度目の非承認可能通知を受領する可能性は低い。FDAは承認可能通知と非承認可能通知の使い分けを止め、審査完了通知に統一したからである。

【承認】


FDA、BMSの多発骨髄腫用薬を承認
(2015年11月30日発表)

FDAはBMSのEmpliciti(elotuzumab)を承認した。多発骨髄腫の二次治療薬としてRevlimid(lenalidomide)及びdexamethasoneと三剤併用する。9月に承認申請が受理されたばかりなのでスピード承認だ。

Emplicitiは骨髄腫細胞やNK細胞の表面に特異的に発現するSLAMF7を標的とする抗体医薬。NK細胞を活性化するとともに、骨髄腫細胞に対する抗体依存的細胞毒性を誘導する。第三相試験では、メジアンPFS(無進行生存期間)が19.4ヶ月とRevlimid・dexamethasoneの二剤だけの群の14.9ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.70、統計的に有意だった。主な有害事象は疲労、下痢、発熱など。

08年にPDLからライセンスしたもの。PDLは後にアッヴィに買収されたため、プレスリリースは両社の連名となっている。

リンク: FDAのリリース
リンク: BMSのプレスリリース



今週は以上です。

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