2015年12月20日

2015年12月20日号

 

【ニュース・ヘッドライン】


  • Xa阻害剤の拮抗剤が承認申請 
  • FDA諮問委員会、エゼチミブの心血管リスク削減効果を認めず 
  • CHMP、アストラゼネカなどの新薬の承認を支持 
  • ブリディオン、遂に米国で承認 
  • Keytruda、末期黒色腫一次治療に承認 
  • ガーダシル9、対象年齢が拡大 
  • アムジェン、EUでウイルス療法が承認 
  • CHMPがジレニアの副作用リスクをアップデート 


【承認申請】


Xa阻害剤の拮抗剤が承認申請
(2015年12月18日発表)

サウス・サンフランシスコの新興製薬会社であるPortola Pharmaceuticals(Nasdaq:PTLA)は、PRT4445(andexanet alfa)を米国で承認申請したと発表した。遺伝子組換え型血液凝固第Xa因子で、Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)などのXa阻害剤を服用している患者が出血事故に会ったり緊急手術を受ける時に抗凝固作用をオフセットする目的で用いる。

PortolaはCor Therapeuticsで抗血小板薬Integrilin(eptifibatide)を開発したメンバーが02年にミレニアム・ファーマシューティカルズに企業買収された時に創設した会社。自社でも経口Xa阻害剤PRT054021(betrixaban)やP2Y12阻害剤PRT060128(elinogrel)を開発しているが、何れも類薬が存在するので、andexanet alfaが最大の出世作になりそうだ。

リンク: Portolaのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、エゼチミブの心血管リスク削減効果を認めず
(2015年12月14日発表)

FDAは内分泌代謝学薬諮問委員会を招集し、MSDのコレステロール治療薬、Zetia(ezetimibe、和名ゼチーア)やVytorin(simvastatinとezetimibeの合剤)の心血管リスク削減効果について検討した。IMPROVE-ITという長期大規模試験のエビデンスが存在するにも係わらず、効能追加に反対する委員が10名と賛成の5名を上回った。そこまで酷評しなくても、という意外な結果だが、何れにせよ小さな効果しかないので、大勢には影響ないかもしれない。

IMPROVE-IT試験は、急性冠症候群を発症して10日以内の患者を組入れて、同社のsimvastatinとVytorinの心血管疾患予防効果を比較した二重盲検試験。ezetimibeはLDL-C値を穏やかに引き下げる効果を持つが、心血管疾患を防ぐ効果は未だ確認されていない。各群の平均LDL-C値はベースライン時点の100mg/dLが1年後に69.9mg/dLと53.2mg/dLに低下しており、70mg/dLより更に引き下げる超強化治療に関する初のエビデンスという意義もある。

当初の解析計画では1万人を2年間追跡してリスクを9.375%削減する効果を検出する予定だったが、途中で目標症例数と追跡期間が拡大され、結局、1.8万人をメジアン6年間追跡した。このため、開票が3~4年遅れることになった。ezetimibeと言えばENHANCE試験の結果が中々公表されずデータ隠しの疑いが浮上したり、SHARP試験で癌の疑いが生じたりしたため、色々な意味で注目されていた。

結果は昨年のAHA米国心臓協会科学会議で発表された。ハザードレシオ0.936、95%信頼区間は0.89~0.99、p=0.016で高度ではないが有意な再発予防効果が示された。各群の発生率は7年時点のカプラン・マイヤー推定で34.7%と32.7%だった。非致死的心筋梗塞と非致死的虚血性脳卒中が有意に減少した一方で、死亡リスク削減効果は見られなかった。癌の発生率は各群10%で大差なかった。

諮問委員会に際して、FDAはエビデンスの頑強性に係わる弱点を三点、指摘した。第一は、6%というリスク削減率が臨床的に十分な意義を持つかどうか。通常は20%以上、欲しい所である。そもそも、95%上限は0.99なので、真の上乗せ効果は殆ど無い可能性が残っている。他に適当な選択肢がないのなら止むを得ないが、atorvastatinの80mgとかrosuvastatinの40mgが使えるかもしれない。

第二は、サブグループ分析。75歳以上(全症例の15%を占めた)には効果があったがそれ以外は有意差がなかった。また、糖尿病(27%)には効果があったがそれ以外には無かった。この二つは交互作用p値が0.05を下回っており、軽視できない。

第三は、フォローアップ率が不十分な可能性があること。全症例の11%が追跡不能となり打切り例として扱われた。7年時点の主評価項目発生率の差は2%に過ぎず、もし打ち切り例に大きな群間差が発生していたとしたら、結論がひっくり返ってしまうかもしれない。

上記の脆弱性の根源は、効果が小さいことだ。コレステロール治療薬の心血管疾患予防効果はLDL-C低下と相関するので、ezetimibeの効果が小さいであろうことは予見できた。そこで、アウトカム試験の検出力を決めるイベント発生数を増やすために組入れ数と観察期間を大きく取ったのだが、この方法にはリスクがある。

上記の第一番と第二番は、感度が高まりすぎた結果、仮説に置いた小さな効果より更に小さくても有意差が出てしまったり、ノイズを拾ってしまうリスクが顕在化したもの。第三番は、0.1mmの精度しかない機器であることを忘れて0.001mmの差を議論するのに似ている。

IMPROVE-IT試験は、小さな差を検出するために大規模な試験を行なう時の注意点を教えてくれた。

リンク: MSDのプレスリリース

CHMP、アストラゼネカなどの新薬の承認を支持
(2015年12月18日発表)

EUの薬品承認機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、12月の会議でアストラゼネカの抗癌剤などの承認に肯定的意見をまとめた。順調なら2~3ヶ月のうちにEU全域で承認されることになるだろう。

2015年一年間に肯定的意見を出した新薬は、ジェネリック品を含めて、93製品となった。

リンク: CHMPのプレスリリース

アストラゼネカのTagrisso(osimertinib)は、非小細胞性肺癌のうち、Tarceva(erlotinib)などのEGFR阻害剤による治療を既に受けた、EGFRにT790M変異を持つ患者に用いる。第二相試験の反応率データに基づく条件付き承認で、今後の試験で延命効果を確認する必要がある。

T790M変異は第一世代のEGFR阻害剤に反応しなくなった患者でしばしば見られる抵抗性変異。TagrissoはEGFR阻害剤だがこのタイプにも有効で、第二相単群試験二本の合計で反応率が66%だった。主な有害事象は下痢や皮膚毒性、深刻なものは肺の炎症が心臓障害、胎児毒性など。

米国では今年11月に承認。日本でも今年8月に承認申請された。

リンク: CHMPのプレスリリース
リンク:
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

アストラゼネカのZurampic(lesinurad)は高尿酸血症の治療薬。キサンチン酸化酵素阻害剤だけでは十分に管理できない患者に追加投与する。URAT1阻害剤で、腎臓近位管のトランスポータを阻害して尿酸の再吸収を妨げる。第三相試験で、承認申請された用量の倍を投与した群では腎臓や心血管有害事象が増加した。

米国でも承認審査中。諮問委員会は安全性に疑義を持つ委員が7名、問題ないとする委員が6名、棄権1名と意見が分かれたが、承認については賛成10人、反対4人と賛成が上回った。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

イーライリリーのPortrazza(necitumumab)はEGFRを標的とする完全ヒト化抗体で、局所進行性・転移性でEGFR陽性の扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療に三剤併用する。第三相試験では、gemcitabineとcisplatinの二剤を投与した群のメジアン生存期間が9.9ヶ月であったのに対して、Portrazzaと三剤併用した群は11.5ヶ月と1ヶ月超の延命効果があった。

抗EGFRキメラ抗体のErbitux(cetuximab)を開発したイムクローン社がDyax社のファージディスプレイ技術を用いて創製したもの。イーライリリーは08年にイムクローンを65億ドルで買収した。

バイエルのKovaltry/Iblias(octocog alfa)は遺伝子組換え型血液凝固第VIII因子。A型血友病の出血治療や予防に用いる。培養生産過程でヒトや動物由来のタンパクを使用していないこと、第VIII因子の全長を用いていることが特徴。

リンク: バイエルのプレスリリース

適応拡大・効能追加では、アストラゼネカの抗血小板薬Brilique(ticagrelor)の長期投与が支持された。現在は急性冠症候群の患者にアスピリン併用で90mgを一日二回投与することが承認されているが、一年経過後も高リスク患者については60mgを一日二回、継続投与する。PEGASUS TIMI-54試験では、3年間の心筋梗塞・脳卒中・心血管死発生率が7.77%と偽薬群の9.04%より低かった。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

イーライリリーのCyramza(ramucirumab、和名サイラムザ)を非小細胞性肺癌や結腸直腸癌の二次治療に用いることも支持された。前者はdocetaxelと併用。後者はFOLFIRI(irinotecan、5-FU、folinic acidの併用レジメン)と併用する。現在は胃癌の二次治療に承認されている。

VEGFR-2を標的とする完全ヒト化抗体で、上記のPortrazzaと同様に、イムクローンがファージディスプレイ技術で創製したもの。

さて、最近の話題はヘッジファンド出身の新興製薬会社社長の逮捕と、バイエル/ジョンソン・エンド・ジョンソンのXa阻害剤の試験に纏わる懸念である。CHMPが言及したので記しておこう。

Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)はROCKET-AF試験で心房細動患者の脳卒中を予防する効果がワーファリンと非劣性であることが確認され、欧米は11年に、日本でも12年に、この用途で承認された。ところが、この試験でワーファリン群の用量調整に用いられたPT-INR検査に欠陥が判明、米国でリコールされる事態になったのである。

ワーファリンはセラプティック・ウインドウが狭く、効きすぎると出血リスクが高まり、効かなさすぎると脳梗塞予防効果が低下する。同じ量を服用していても効果が変動するため、定期的に検査を行って用量を調整する必要がある。この検査が不適切であったならば、ワーファリンの効果がフルに発揮されなかった可能性があり、それと非劣性ならば、Xareltoの効果がワーファリンと非劣性ということは出来ないことになる。

この試験を主導したDuke Clinical Research Instituteがバイエルなどと連携して検証している模様。CHMPは16年の第1四半期に結論を出す考え。

リンク: バイエルのプレスリリース(ドイツ誌の報道に対するもの、12/9付け)

【承認】


ブリディオン、遂に米国で承認
(2015年12月17日発表)

MSDはBridion(sugammadex、和名ブリディオン)がFDAに承認されたと発表した。rocuroniumやneostigmineなどの筋弛緩剤に結合、患者が全身麻酔から覚めるのを早める。07年に日米欧で承認申請、EUは08年、日本は10年に承認されたが、米国は過敏反応の懸念や治験実施施設の立入り調査などで遅延、専ら日本で使われていた。

リンク: MSDのプレスリリース

Keytruda、末期黒色腫一次治療に承認
(2015年12月18日発表)

MSDは、抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab)を悪性黒色腫の一次治療に用いることがFDAに承認されたと発表した。braf阻害剤が適応になるbraf-V600変異型にも承認された点でライバルのOpdivo(nivolumab)を半歩リードしたが、向こうも早晩、承認されるだろう。

BMSのYervoy(ipilimumab)と直接比較した第三相試験では、10mg/kgを二週間に一回投与した群の全生存ハザードレシオ(対Yervoy)が0.63、三週間に一回投与した群は0.69だった。尚、この試験で採用された用法は承認されず、2mg/kgを三週間に一回投与と従来と同じになった。抗PD-1抗体は用量反応相関があまり見られず、一方、免疫刺激による副作用は用量相関するため、OpdivoもKeytrudaも第三相試験の用法が至適でないことがある。

リンク: MSDのプレスリリース

ガーダシル9、対象年齢が拡大
(2015年12月15日発表)

MSDは、子宮頸がん予防ワクチンのGardasil 9の対象年齢拡大申請がFDAに承認されたと発表した。これまでは9~26歳の女性と9~15歳の男性に承認されていたが、新たに16~26歳の男性も適応となった。

子宮頸がんなどの原因であるヒトパピローマウイルスは性的感染するので、感染を根絶するには女性だけでなく男性も接種するのが理想的だ。米国ではワクチン委員会のACIPが、11~12歳の男女と、未接種なら20代の男女にも、接種を推奨している。

リンク: MSDのプレスリリース

アムジェン、EUでウイルス療法が承認
(2015年12月17日発表)

アムジェンは、Imlygic(talimogene laherparepvec)がEUで承認されたと発表した。ステージIIIB、IIIC、IVM1aの悪性黒色腫で内臓などに転移していない患者に用いる。

GM-CSFを組入れた遺伝子組換え型単純ヘルペスウイルスで、腫瘍細胞内で増殖するよう改変してある。腫瘍細胞に直接注射するとウイルスが増殖して腫瘍を破壊。暴露したウイルスとGM-CSFが刺激になって腫瘍抗原に対する免疫を誘導、他の腫瘍細胞を攻撃させる。第三相試験では、持続的反応率25%、総合反応率40%だった。延命効果は確認されていない。

リンク: アムジェンのプレスリリース

【医薬品の安全性】


CHMPがジレニアの副作用リスクをアップデート
(2015年12月18日発表)

CHMPはノバルティス/田辺三菱製薬のGilenya(fingolimod、和名ジレニア又はイムセラ)の副作用についてアップデートした。まず、進行性多病巣性白質脳症(PML)のリスク。同じ多発性硬化症の治療薬であるバイオジェンのTysabri(natalizumab)で有名になった免疫抑制剤の副作用で、Gilenya服用者のPML症例のうちTysabri経験者の疑い例が17例あるが、未経験者の確認例も3例あった。こうなると、Gilenya自体にリスクがあると考えざるを得ないだろう。

もう一つは基底細胞腫で151例が報告されている。Gilenyaのこれまでの服用状況は21.9万人年とのことなので、一年間服用すると1450人に一人が、10年だと145人に一人が発症する計算になる。癌の中では予後が比較的良い、治療できる癌だが、患者は注意が必要だろう。

リンク: CHMPのプレスリリース



今週は以上です。

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2 件のコメント:

  1. 基底細胞腫の報告例数は151例では

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    1. ご指摘ありがとうございます。とんでもないタイプミスを修正いたしました。

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