2015年12月13日

2015年12月13日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • 早期乳癌の手術は早いほうが良い 
  • ASH:イムブルビカのマントル細胞腫試験成功 
  • ASH:ノバルティス、FLT阻害剤の第三相が成功 
  • アッヴィ、bcl阻害剤を承認申請 
  • ノボ、食後インスリンを承認申請 
  • ファイザー、Ibranceを用法追加申請 
  • ファイザー、ザーコリの適応拡大を申請 
  • FDA諮問委員会、テバの抗IL-5抗体を支持 
  • アレセンサ、米国でも承認 
  • アレクシオン、Kanumaが承認 
  • バクスアルタの遺伝子組換え型vWFも承認 
  • サノフィ、デング熱ワクチンがメキシコで初承認 


【今週の話題】



早期乳癌の手術は早いほうが良い
(2015年12月10日発表)

医師にも生活があるし人気の施設ほど込み合うので時には処置が遅れることもある。一例は休診時の急性心筋梗塞だろう。医師を呼び出すのがベストなのだろうが、薬物療法だけで月曜まで待つことも広く行われているようだ。勿論、患者の利益を無視しているわけではない。米国ではキチンと臨床研究を行って、直ぐに手術しても月曜まで待っても予後は大差ないことを確認している。

早期乳癌の切除手術は何ヶ月も順番待ちすることで有名だ。医療施設や医師の数に比べて患者が多いのでやむをえないのだろうが、患者に害はないのか?検証した米国の疫学研究がJAMA Oncology誌に刊行された。

Fox Chase Cancer CenterのBleicherらがSEER-Medicare Data BaseとNational Cancer Data Base(NCDB)を用いて分析したもので、前者は早期乳癌と診断された65歳以上の94544人、後者は18歳以上の新患115790人を対象に、30日以内に手術を受けた患者とそれ以降の患者の死亡リスクを比較した。

SEER-Medicareの分析では、手術が30日遅れる度に死亡リスクが高まった(ハザードレシオ1.09、95%信頼区間1.06~1.13)。診断時にステージIであった患者(ハザードレシオ1.13)も、ステージII(1.06)も、有意に高まった。乳癌関連死は、60日遅れる毎に増加した(ハザードレシオ1.26倍)。NCDBの分析でも、手術が30日遅れる度に死亡リスクが高まった(ハザードレシオ1.10、95%信頼区間1.07~1.13)。

不都合な真実だが、どちらのデータベースでも7割前後の患者は30日以内に手術を受けているので、手術が遅れたせいで早死にした患者は一部だけのはずだ。ハザードレシオは1.1なので遅れても被害はそれほど大きくない。更に、遅れた原因も医療施設の都合だけとは限らない。患者がセカンド・オピニオンを求めたり、仕事で忙しく後回しにしたのかもしれない。

それでも、医療が進むべき方向を指し示した研究であることに間違いは無い。手術待ちの行列を短くするために医療施設や行政に何ができるのか、検討すべきである。

リンク: Bleicherらの研究論文(JAMA Oncology、オープンアクセス)


【新薬開発】



ASH:イムブルビカのマントル細胞腫試験成功
(2015年12月7日発表)

迅速承認制度は有望な新薬を一刻も早く患者に届ける上で大きな貢献をしているが、薬効や安全性のエビデンスを十分に蓄積する前に市販することになるので、市販後も検証し続けることが重要だ。

アッヴィ(NYSE:ABBV)のBtk阻害剤Imbruvica(ibrutinib、和名イムブルビカ)は第二相試験のデータに基づいて米国で13年にマントル細胞腫に、14年には慢性リンパ性白血病にも、承認されたが、並行して第三相試験も実施された。ASH(米国血液学会)で多くの治験データが発表されたが、今回はマントル細胞腫の第三相試験に注目したい。直接比較試験で優れた効果を示した。

このRAY試験は、再発性難治性の患者に560mgを経口投与する群と、ファイザーのmTOR阻害剤であるTorisel(temsirolimus、和名トーリセル)を投与する群のPFS(無進行生存期間)を比較した。結果は、ハザードレシオ0.43、メジアン値は14.6ヶ月対6.2ヶ月と有意に優れていた。完全反応率は各26%と1%。有害事象による治験離脱は7%と26%だった。

承認審査機関に本承認・用法追加申請することになるだろう。慢性リンパ性白血病の第三相も成功し、承認審査中。

Imbruvicaはアッヴィが買収したファーマサイクリクスの開発品。買収前にジョンソン・エンド・ジョンソンが共同開発販売権を取得、米国外では主導権を持っている。

リンク: アッヴィのプレスリリース

ASH:ノバルティス、FLT阻害剤の第三相が成功
(2015年12月6日発表)

ノバルティスはPKC412(midostaurin)の第三相試験の結果をASHで発表した。変異型FLTを持つ急性骨髄性白血病(AML)がFLT阻害剤に応答することは以前から知られていたが、臨床試験は中々成功しなかったので、快挙と言えるだろう。

この試験は、60歳以下の初めて治療を受けるAML患者のうち、FLT3にTKD(チロシンキナーゼドメイン)変異あるいはITD(インターナルタンデムデュプリケーション)変異を持つ患者を組入れて、cytarabineとdaunorubicinを用いる導入・地固め療法と、更にPKC412を用いる療法を比較したもの。

結果は、全生存のハザードレシオが0.77となり死亡リスクが有意に減少した。メジアン生存期間は25ヶ月から74ヶ月に延長、5年生存率は43%から50%に上昇した。治療関連有害事象による死亡は2.5%で二剤だけの群の3.1%と大差なかった。

白血病は6種類に分類されるが、今後、研究が進めば更に細分化され、夫々に適した治療法が登場してくるだろう。FLT3変異はAMLの35%に見られるので、大きな小分類になりうる。ノバルティスは2016年に承認申請する予定。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


【承認申請】



アッヴィ、bcl阻害剤を承認申請
(2015年12月6日発表)

アッヴィ(NYSE:ABBV)は、ASHの学会発表に合わせて、ABT-199(venetoclax)を欧米で承認申請したことを明らかにした。ジェネンテック/ロシュと共同開発したbcl-2阻害剤で、今回の承認申請は17番染色体短腕(17p)欠損型の再発性難治性慢性リンパ性白血病(CLL)の治療に当てるもの。

申請の根拠となった第二相単群試験では、107人中85人が反応した(ORR79%)。死亡例のうち、7例は病気の進行、4例は有害事象によるもので内容は脳卒中、敗血症、心肺不全、肝障害となっている。

bcl-2はリンパ球などのアポトーシス抵抗性に係わる蛋白で、CLLでは過剰発現が見られる。ジェンタ社がサノフィと提携してbcl-2阻害剤の第三相試験を実施したことがあるが、惜しくも有意水準に届かなかった。FLT阻害剤と同様に、今回の成功は快挙と言えるだろう。

注意点は、ABT-199は腫瘍壊死症候群(TLS)のリスクがあり、注意深く少しずつ増量する必要があること。具体的には、一日20mgで開始して週一回増量、5週後に維持用量の400mgまで持っていく。経口剤だが、一定期間、入院が必要かもしれない。

17p欠損は、診断されたばかりの患者には少ないが再発性難治性の患者では30~50%を占めると言われている。高リスクだが有効な薬は少なく、ABT-199は重要な選択肢になるだろう。

リンク: アッヴィのプレスリリース

ノボ、食後インスリンを承認申請
(2015年12月9日発表)

ノボ ノルディスクは、より速効性のインスリンを米国で承認申請した。同社のNovoRapid(insulin aspart)はミールタイム・インスリンと呼ばれ、従来のインスリンより遅いタイミングで注射しても間に合うが、今回のインスリンは食後でも間に合うというもの。ビタミンやアミノ酸を用いてinsulin aspartの初期の吸収を向上し作用のオンセットを早めたとのことだ。

リンク: ノボのプレスリリース

ファイザー、Ibranceを用法追加申請
(2015年12月10日発表)

ファイザーはIbrance(palbociclib)の用法追加申請を米国で行い、受理されたと発表した。優先審査を受ける。審査期限は来年4月。

IbranceはCKD4/6阻害剤で細胞分裂時の細胞周期進行を阻害、アポトーシスを誘導する。米国では今年2月に承認された。適応は、閉経後転移性乳癌のうちエストロゲン受容体陽性、her2陰性(全体の6割程度)の患者の一次治療。ノバルティスのアロマターゼ阻害剤、Femara(letrozole)と併用する。

今回の用法はプロゲスチン受容体陽性、her2陰性の患者にエストロゲン受容体零落剤fulvestrantと併用するもの。閉経前後を問わず、また、一次治療/二次治療の両方をカバーする。申請の根拠となったPALOMA-3試験では、PFS(無進行生存期間)がメジアン9.2ヶ月とfulvestrant単剤投与群の3.8ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.42、統計的に有意だった。EUでも5月に承認申請が受理されている。

リンク: ファイザーのプレスリリース

ファイザー、ザーコリの適応拡大を申請
(2015年12月8日発表)

ファイザーはXalkori(crizotinib、和名ザーコリ)をROS1陽性非小細胞性肺癌に用いる適応拡大申請を米国で行い、受理されたと発表した。優先審査を受ける。審査期限は来年4月。

Xalkoriは11年に米国でALK変異陽性非小細胞性肺癌に承認された。日本の研究者がALK変異型肺癌の発見をNatureで発表したのは07年のことであり、ベンチとベッドを4年という超速で結びつけた快挙だった。

その後、ノバルティスや中外製薬/ロシュがXalkoriに反応しなくなった癌にも有効なALK阻害剤を発売。今後は一次治療でも競合が激化するだろう。ALK変異陽性は非小細胞性肺癌の5%程度と小さいのでパイの取り合いになる。ROS1陽性は非小細胞性肺癌の1%程度。ALK変異と重複しない模様なので承認されれば対象患者数が2割程度増えることになり、売上面では重要な適応拡大だろう。

臨床試験では、50人中3人が完全反応、33人が部分反応で、総合反応率は72%。メジアン反応持続期間は17.6ヶ月だった。

リンク: ファイザーのプレスリリース


【承認審査・委員会】



FDA諮問委員会、テバの抗IL-5抗体を支持
(2015年12月10日発表)

FDAの肺アレルギー薬諮問委員会は、テバ(NYSE:TEVA)が好酸球性喘息症用薬として承認申請した抗IL-5ヒト化抗体、reslizumabを討議し、18歳以上の患者に関しては14人の委員中11人が承認を支持したが、12~17歳については(症例数がごく少ないため)全員一致で反対した。審査期限は来年3月。

承認が支持されたのはポジティブだが、11月に承認されたグラクソ・スミスクラインの抗IL-5ヒト化抗体、Nucala(mepolizumab)は12~17歳も使うことが可能で、また、reslizumabのような命に係わるアナフィラキシーやクレアチンホスホキナーゼ上昇が見られないので、競争力に疑問が残る。

reslizumabは11年に買収したセファロンの開発品。

リンク: テバのプレスリリース


【承認】



アレセンサ、米国でも承認
(2015年12月11日発表)

FDAはジェネンテックのAlecensa(alectinib、和名アレセンサ)をALK陽性の局所進行性・転移性非小細胞性肺癌でファイザーのXalkori(crizotinib)を既に使った患者の二次治療薬として承認した。二本の第二相試験の反応率データに基づく承認で、一本は客観的反応率38%、メジアン反応持続期間7.5ヶ月、もう一本では44%と11.2ヶ月だった。

Alecensaは米国では第三のALK阻害剤。中外製薬が創製し、ジェネンテックやロシュにライセンスした。特徴は中枢神経移行性が高く排出されにくいこと。上記の治験では脳転移のある患者の61%が縮小・消失した。FDAはプレスリリースの中で、医師が理解すべき重要な作用と特筆している。

リンク: FDAのリリース
リンク: ジェネンテックのプレスリリース

アレクシオン、Kanumaが承認
(2015年12月8日発表)

FDAは、アレクシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)のKanuma(sebelipase alfa)をリソソーム酸リパーゼ(LAL)欠乏症の初めての治療薬として承認した。

LAL欠乏症は脂肪が肝臓や血管壁に蓄積する。生後直ぐに発症するWolman疾患と比較的遅いコレステロールエステル蓄積疾患の二種類あり、前者は6ヶ月以内に死亡することが多い。有病率は前者が100万出生に2人、後者は25人でどちらも希少疾患。

Kanumaは遺伝子組換え型LAL。急速進行型の乳幼児9人を組入れた試験では、6人が12ヶ月以上生存した。

ユニークなのは生産方法で、鶏の卵管細胞にLALの遺伝子を導入し卵白に分泌させる。導入される遺伝子は、米国の法体系では動物薬として扱われるため、FDAの動物薬担当部署が別途、鶏に悪影響を与えないことを確認した。また、環境に大きな影響を与えないことも確認した。

アレクシオンは超希少疾患用薬の開発販売会社。Kanumaは11年にSynageva BioPharmaを84億ドルで買収して入手した。

リンク: FDAのリリース

バクスアルタの遺伝子組換え型vWFも承認
(2015年12月8日発表)

FDAはバクスアルタ(NYSE:BXLT)のVonvendi(開発コードBAX111)をフォン・ヴィレブランド病の出血治療・管理薬として承認した。常染色体性遺伝子疾患で、罹患率は1~2%と思ったより高いが、病状は区々である模様だ。Vonvendiは遺伝子組換え型フォン・ヴィレブランド因子。第8因子を殆ど含んでいないため、不必要な量を同時供給しなくて済む。

リンク: バクスアルタのプレスリリース

サノフィ、デング熱ワクチンがメキシコで初承認
(2015年12月9日発表)

サノフィは、デング熱ワクチンのDengvaxiaがメキシコで承認されたと発表した。WHOの重点分野の一つでありながらワクチンの開発は難航、今回が嬉しい初承認となった。

残念なのは対象年齢で、9~45歳に限定された。アジアで実施された第三相試験は2~14歳を組入れたがラテンアメリカの試験は9~16歳だったので、当然といえば当然なのかもしれないが、9歳未満の犠牲者も多いはずである。

Dengvaxiaは弱毒化黄熱病ウイルスにデングウイルスの抗原遺伝子を導入したもので、4種類のセロタイプに対応している。08年にAcambisを5億ドルで買収して入手したもの。

リンク: サノフィのプレスリリース



今週は以上です。

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