2015年11月1日

2015年11月1日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • グラクソ、帯状疱疹ワクチンの第三相が成功
  • シャイア、ドライアイ用薬を再承認申請へ
  • Keytruda、肺癌二次治療試験が成功
  • GSK、p38MAPキナーゼ阻害剤の第三相を中止
  • ギリアド、HCV新薬を承認申請
  • アムジェンのウイルス療法が承認
  • Yervoy、アジュバントに承認
  • エンタカポンに心血管リスクは無い


【新薬開発】


グラクソ、帯状疱疹ワクチンの第三相が成功
(2015年10月27日発表)

グラクソ・スミスクラインは、帯状疱疹ワクチンShingrix(開発コードGSK1437173A、通称HZ/su)の二本目の第三相試験が成功したと発表した。16年下期に米欧日で承認申請する予定。

帯状疱疹は潜伏していた水痘/帯状疱疹ウイルスが活性化して炎症・神経痛を引き起こす。加齢により免疫力が低下するとリスクが高まる。米国人の9割が感染、うち25~50%が50歳過ぎにヘルペス感染後神経痛を発症すると推定されている。欧米では06年にMSDの弱毒化生ワクチンZostavaxが承認。年間売上高は7.6億ドルに達している。

Shingrixは生ワクチンではなくウイルスのgE蛋白を抗原に用いてAS01-Bアジュバントで免疫原性を高めた。ワクチン効率はZostavaxより高そうだ。50歳以上を対象にした一本目の試験では帯状疱疹が偽薬群比で97%少なかった。70歳以上に限定した二本目の試験でも90%少なかった。この二本のプール分析では、ヘルペス後神経痛の予防効果が50歳以上で91%、70歳以上に限定しても89%と高かった。

リンク: GSKのプレスリリース

シャイア、ドライアイ用薬を再承認申請へ
(2015年10月27日発表)

シャイアはlifitegrastをドライアイ治療薬として米国で承認申請したが10月に審査完了通知を受領した。幸い、三本目の試験が成功したため、年明けに改めて承認申請する予定。

LFA-1阻害剤で一日二回、点眼する。第三相試験では画像評価と症状評価を共同主評価項目としたが、一本は前者だけ、もう一本は後者だけしか有意差が出なかった。従って、承認申請はダメ元だったのだろう。三本目の試験では、二本目で採用した患者自身による症状判定スコアを主評価項目とし、84日間治療したところ、偽薬比7ポイントの有意な差があった由。このEye Dryness ScoreはGoogleしても余りヒットせず、7ポイントの差が臨床的に有意義なのかどうかは分からなかった。

リンク: シャイアのプレスリリース

Keytruda、肺癌二次治療試験が成功
(2015年10月26日発表)

MSDの抗PD-1ヒト化抗体Keytruda(pembrolizumab)は10月に米国で非小細胞性肺癌の二次治療薬として適応拡大されたが、根拠となったのは後期第1相試験の反応率データだった。BMSのOpdivo(nivolumab)と異なり延命効果の裏付けはなかったのだが、今回、第二/三相試験の成功が発表された。

PD-L1発現率が1%以上の癌だけを組入れて2mg/kg、10mg/kg、docetaxelの何れかの群に無作為化割付けした試験で、全症例と50%以上発現例の二つのユニバースで全生存期間とPFS(無進行生存期間)を比較した。全生存期間はどちらのユニバースでもKeytrudaがdocetaxel群を有意に上回り、用量間の差は小さかった。PFSは50%以上のユニバースのみ、何れの用量とも有意に上回った。

具体的な数値が公表された段階でOpdivoのデータと比較されることになるだろう。用量反応相関が小さいのは過去の抗PD-1抗体の試験と同じで違和感はない。PD-L1問題は相変わらず謎だが、検査手法の違いなど細かい情報が明らかになるにつれてコンセンサスが出来上がっていくだろう。

リンク: MSDのプレスリリース

GSK、p38MAPキナーゼ阻害剤の第三相を中止
(2015年10月27日発表)

グラクソ・スミスクラインは、GSK856553(losmapimod)の第三相心血管アウトカム試験を中止すると発表した。パートAの解析でパートBに進んでも勝算は無いと判定された。

p38MAPキナーゼ阻害剤はリウマチや乾癬のような自己免疫疾患や心筋梗塞、うつ病などの治療薬になることが期待され、多くの製薬会社が開発していたが、急性冠症候群を治療する心血管アウトカム試験に進んだのはlosmapimodが初めて。おそらく、第三相に進んだのも初めてではないか。

GSKやファイザーのようなビッグファーマの最大の武器は潤沢な予算だ。日本の最大手でも単独では踏み切れないハイリスク・ハイリターン・プロジェクトにも投資することができる。逆に、チャレンジを恐れるようではビッグファーマの存在価値が無い。だが、CETP阻害剤、アルツハイマー病薬、Lp-PLA2阻害剤、そして今回のp38MAPキナーゼ阻害剤と、定義上当然とはいえ手痛い失敗が続いている。

リンク: GSKのプレスリリース

【承認申請】


ギリアド、HCV新薬を承認申請
(2015年10月28日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)はGS-7977(sofosbuvir)とGS-5816(velpatasvir)の合剤を慢性C型肝炎治療薬として米国で承認申請した。前者はNS5Bポリメラーゼ阻害剤Sovaldi(和名ソバルディ)の活性成分で、NS5A複製複合体阻害剤ledopasvirと合剤でHarvoni(和名ハーボニー)としても販売されている。後者は新開発のNS5A複製複合体阻害剤。

Harvoniとの違いは遺伝子型1型だけでなく2~6型の全てに有効であること。非代償性肝硬変を合併する患者はribavirin併用の12週間コースでSVR(持続的ウイルス学的反応率)94%、それ以外はこの配合剤だけの12週間コースで97~100%だった。

遺伝子型の分布は国によって異なるので特定の型にしか効かない薬は使用前に検査が必要だが、財政が豊かな国ばかりではない。この配合剤ならウイルス遺伝子検査が普及していない国や地域の無駄打ちを減らすことができるだろう。

リンク: ギリアドのプレスリリース

【承認】


アムジェンのウイルス療法が承認
(2015年10月27日発表)

FDAは、アムジェンのImlygic(talimogene laherparepvec)を切除不能悪性黒色腫用薬として承認した。GM-CSFの遺伝子を組入れた単純ヘルペス1型ウイルスで、腫瘍細胞に直接注射するとウイルスが増殖して破壊する。腫瘍抗原による免疫刺激をウイルスとGM-CSFが強化、他の腫瘍細胞も攻撃させる。

ステージIIIB以降の患者を組入れた第三相試験では、持続的反応率が16.3%とGM-CSFを皮下注射した群の2.1%を有意に上回った。全生存の解析では有意差が出なかった。主な有害事象は疲労やインフルエンザ用疾患、注射箇所反応など。グレード3以上の有害事象は蜂巣炎など。

投与スケジュールは、第1週、第4週、その後は2週間に一回の頻度で半年以上続ける。患者によって投与回数・費用が異なるが、アムジェンは65000ドルを上限にする考え。

リンク: FDAのリリース
リンク: アムジェンのプレスリリース

Yervoy、アジュバントに承認
(2015年月日発表)

FDAはBMSのYervoy(ipilimumab)を黒色腫の術後補助療法に用いる適応拡大を承認した。ステージIIIの黒色腫で完全切除に成功したものの再発リスクが高い場合に適応になり、米国では新患の5%、年3100人程度が該当する。臨床試験ではメジアン無再発生存期間が26ヶ月と偽薬群の17ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.75、統計的に有意だった。3年無病生存率は46%対34%だった。全生存の解析は未だ行われていない。

Yervoyは11年に切除不能悪性黒色腫用薬として承認済みだが、アジュバントの用量は3mg/kgではなく10mg/kgを最初は3週間に一回、5回目からは3ヶ月に一回、点滴静注するので、有害事象や請求書に注意が必要。重度から致死的な免疫調停的有害事象は小腸結腸炎(16%)、肝炎(11%)、内分泌障害(8%)、下垂体機能低下(7%)など。52%の患者が有害事象で治験を離脱した。費用はフルコースで1~2億円と推測されるが、BMSは患者支援プログラムを用意するとのこと。

リンク: FDAのリリース
リンク: BMSのプレスリリース

【医薬品の安全性】


エンタカポンに心血管リスクは無い
(2015年10月26日発表)

FDAは、entacaponeには心血管疾患リスクはないと発表した。5年を経て疑いが晴れたことになる。

entacaponeはフィンランドのOrion Pharmaが開発したCOMT阻害剤でパーキンソン病の治療に用いる。主要国ではノバルティスがComtan(和名コムタン)として、あるいは、レボドパ・カルビドパ配合剤Stalevo(同スタレボ)として上市したが既にGE化した。

レボドパの効果が長続きしなくなった患者に用いる薬だが、早期治療の効能を検討したSTRIDE-PD試験で心血管疾患リスクが浮上。過去の試験のメタアナリシスを行ったが、他の試験では心血管疾患が少なかったため、明確な結論が出なかった。

そこで、FDAの要請に基づいてノバルティスが疫学的研究を実施したところ、非致死的心筋梗塞のリスクは他のパーキンソン病薬を服用した患者と有意な差が無かった。グラハム博士らが行ったメディケアの疫学研究でもリスクは増加していなかった。

この手の話を聞いていつも感じるのは、科学者の執念だ。市販後に副作用懸念が浮上すると、その話をすること自体がタブーになってしまう。リスクを確認するために症例報告を求めると、疑っているのか、被害者のせいだと言いたいのかと反発されるので、結局、賠償や救済の話ばかりになる。だが、それでは科学が進歩しない。何年かしてほとぼりが冷めた後に同じ失敗を繰り返すことになりかねない。日本のMMRワクチンやヒト・パピローマ・ワクチンが良い例だ。5年かかっても、10年、20年でも真実を突き止めようとする姿勢を学ぶべきである。

リンク: FDAのリリース



今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

0 件のコメント:

コメントを投稿