2015年9月27日

2015年9月27日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • MSD、クロストリジウム・ディフィシレ治療薬を承認申請へ
  • オプジーボは腎細胞腫の二次治療に有効
  • ギリアドの新NS5A阻害剤も第三相が成功
  • BMS、オプジーボとヤーボイの併用一次治療を再び申請
  • CHMPが19剤に肯定的意見
  • 大鵬、遂に米国で承認取得
  • ノボ、トレシーバが米国でも承認


【新薬開発】


MSD、クロストリジウム・ディフィシレ治療薬を承認申請へ
(2015年9月20日発表)

MSDはクロストリジウム・ディフィシレのトキシンAとBを夫々標的とする二種類の抗体医薬の第三相試験を実施していたが、トキシンB中和抗体が再発予防に成功したと発表した。年内に欧州や北米で承認申請する予定。

この二つの抗体はMassachusetts Biologic Laboratories(MBL)とメダレックス社が共同で開発し、09年にMSDにライセンスしたもの。トキシンB中和抗体の一般名はbezlotoxumab、開発コードはMSDがMK-6072、メダレックスはMDX-1388、MBLはMBL-CDB1。トキシンA中和抗体は、各、actoxumab、MK-3415、MDX-066、MBL-CDA1。

第三相試験では二本合計で2600人超の患者を組入れて、偽薬、bezlotoxumab、actoxumab、あるいは両剤を一回投与する四群に割付け、その後12週間の再発予防効果を検討した。actoxumab単剤は効果がなく途中で打ち切られたが、bezlotoxumabを単剤投与した群と二剤を投与した群は再発率が15~17%と偽薬群の25~27%を下回った。副作用は、悪心や下痢、発熱などが若干増加したが深刻なものは少ないようだ。

クロストリジウム・ディフィシレは重度の下痢などを引き起こす細菌で、近年、抗生物質耐性を持つ毒性の強いタイプによる院内感染が増加している。米国では年30万人が発症、20~25%が再発、2%が死亡と推定されている。それだけに、再発リスクの高い患者に有効な薬が現れたことはポジティブ。

メダレックスはトランスジェニック・マウスにヒトの抗体を発現させる技術を持ち、これまでに、ジョンソン・エンド・ジョンソンのSimponi(golimumab)やBMSのYervoy(ipilimumab)、Opdivo(nivolumab)などを創製した。09年にBMSが24億ドルで子会社化したのは慧眼だった。

リンク: MSDのプレスリリース

オプジーボは腎細胞腫の二次治療に有効
(2015年9月25日発表)

BMSはECC欧州癌学会やNew England Journal of Medicine誌でOpdivo(nivolumab)の第三相腎細胞腫試験の結果を発表した。Sutent(sunitinib)などの血管新生阻害剤に不応・不耐・再発した患者を組入れて全生存期間をAfinitor(everolimus、和名アフィニトール)群と比較したもので、中間解析が成功したことを7月に発表済み。

メジアン生存期間が25ヶ月とAfinitor群の19.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.73。p値は0.002で、中間解析に割り当てられたアルファの0.0148を下回った。承認申請に向かう予定。Opdivoは一次治療でもYervoy併用で有望そうなデータを出しており、第三相試験中。

リンク: BMSのプレスリリース
リンク: NEJMの治験論文(オープンアクセス)

ギリアドの新NS5A阻害剤も第三相が成功
(2015年9月21日発表)

ギリアド(Nasdaq:GILD)はHIVやHCVなどウイルス感染症の治療薬を数多く実用化すると共に、合剤の開発にも積極的に取り組んでいる。患者はピルバーデンが緩和し、ギリアドは自社のベストセラー製品と抱き合わせで販売することが可能になる。今回は、新規NS5A複製複合体阻害剤を配合した合剤の第三相C型肝炎治療試験が成功したことを発表した。

NS5B阻害剤Sovaldi(sofosbuvir、和名ソバルディ)とNS5A複製複合体阻害剤GS-5816(velpatasvir)の合剤で、一日一回経口投与する。第三相は様々な遺伝子型のC型肝炎ウイルスに感染している患者を組入れて、非代償性肝硬変を合併している患者には12週間コース、24週間コース、12週間でribavirin併用コースの三種類の用法を試験し、それ以外は12週間コースだけを施行した。

結果は、非代償性肝硬変を合併していない患者はこの合剤を12週間服用するだけで持続的ウイルス学的奏効率が97~100%と、大変高い成果が上がった。非代償性肝硬変では、ribavirin併用12週間コースが一番良さそうだ。

sofosbuvirとNS5A複製複合体阻害剤ledipasvirの合剤であるHarvoni(和名ハーボニー)も遺伝子型I型には同様に優れた成績を上げており、しかも、半分程度の患者は8週間の治療で足りることが明らかになっている。実薬に勝つのは容易ではないので、Harvoniの臨床試験があまり行われていない分野でどの程度の成果を上げるかが販促上、重要なテーマになりそうだ。

リンク: ギリアドのプレスリリース

【承認申請】


BMS、オプジーボとヤーボイの併用一次治療を再び申請
(2015年9月25日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)を悪性黒色腫の一次治療に併用する用法追加をFDAに承認申請し、受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は来年1月23日。

同社は6月にも同様な趣旨の発表を行っているが、審査期限は9月30日だった。前回は第二相試験、今回は第三相試験に基づく承認申請で、用途用法が同じなのだから本来なら一つの承認申請に統合されるべきものと思われるが、一刻も早く承認を取るべく、最初の申請とは別モノ扱いしたのではないか。

リンク: BMSのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPが19剤に肯定的意見
(2015年9月25日発表)

EUの医薬品科学的評価委員会であるCHMPは9月の会議で新薬19品について肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認されることになる。

リンク: CHMPのプレスリリース

まず、ベーリンガー・インゲルハイムのPraxbind(idarucizumab)は、経口トロンビン阻害剤Pradaxa(dabigatran、和名プラザキサ)及びその代謝物に結合する完全ヒト化抗体フラグメントで、Pradaxaの抗血栓作用を5分でオフセットする。脳梗塞などのリスクを削減する目的でPradaxaを服用している患者が、緊急手術を受けたり大出血事故が起きた時に用いる。

PradaxaやXa阻害剤は解毒剤のないことがボトルネックであったが、PradaxaはPraxbind、Xa阻害剤はPortola(Nasdaq:PTLA)のandexanet alfaの開発が進捗している。

リンク: ベーリンガーのプレスリリース

ノバルティスのEntresto(sacubitril/valsartan)はネプリリシン阻害剤sacubitrilとアンジオテンシンII受容体阻害剤valsartanを一つの分子に纏めた、新しいタイプの合剤。症候性慢性心不全で駆出率低下を伴う患者の心不全増悪や心血管疾患死のリスクを抑制する。心不全の薬物療法では久々の超大型薬候補だ。米国では9月に承認。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

アムジェンは二品あり、Kyprolis(carfilzomib)は武田/ジョンソン・エンド・ジョンソンのVelcade(bortezomib)と同じプロテアソーム阻害剤。多発骨髄腫の二次治療にRevlimid(lenalidomide)及びdexamethasoneと併用する。Velcadeは一次治療にも使われているので、今後、一歩一歩、用途用法を充実させていくことになりそうだ。

米国では2012年に承認。EUは多発骨髄腫用薬の承認のハードルが高く、単群試験で反応率を調べるだけでは駄目、というスタンスであるため遅くなった。日本は小野薬品が8月に承認申請したところ。

もう一つは、Blincyto(blinatumomab)。再発・難治性でフィラデルフィア染色体陰性の成人急性リンパ芽球性白血病向けに条件付き承認することが支持された。第二相試験で6週サイクルで4週間連続点滴静注したところ、3割が完全寛解した。メジアン生存期間は6.1ヶ月に過ぎず、25%の患者で熱性好中球減少症が発生するなど、効果も忍容性も十分ではないが、数少ない治療法の一つになりそうだ。尚、フィラデルフィア染色体を持つタイプにはGleevec(imatinib)のようなbcr-abl阻害剤も選択肢になる。

アムジェンは買収を通じて小分子薬や抗体医薬を拡充してきた。Kyprolisはアムジェンが13年に104億ドルで買収したOnyx社が09年に8億ドルで買収したProteolix社の開発品。一方、Blincytoは12年に11億ドルで買収したMicrometの開発品で、抗CD3抗体フラグメントと抗CD19抗体フラグメントを結合したもの。最近流行りのキメラ抗原受容体療法と似た発想だ。日本はアステラスと共同開発中。

リンク: アムジェンのプレスリリース

ロシュのCotellic(cobimetinib)はMEK阻害剤で、BRAF-V600変異陽性の悪性黒色腫に同社のZelboraf(vemurafenib)と併用する。ジェネンテックが06年にエグゼリキシス(Nasdaq:EXEL)からライセンスしたもの。

リンク: ロシュのプレスリリース

グラクソ・スミスクラインのNucala(mepolizumab)は抗IL-5ヒト化抗体。好酸球数が多い、好酸球性喘息症で吸入ステロイドなどだけでは発作を十分に管理できない患者に用いる。スミスクラインがグラクソと合併する前から注目されていたパイプラインで、何故か開発に時間が掛かった分、他社の開発品が直ぐ後ろに迫っている。

リンク: GSKのプレスリリース

ヴァーテックス(Nasdaq:VRTX)のOrkambi(lumacaftorとivacaftorの合剤)は、嚢胞性線維症でCFTR遺伝子にホモ接合型F508欠損を持つ12歳以上の患者に用いる。ivacaftorはCFTRポテンシエイターで、Kalydyco名で違ったタイプの嚢胞性線維症の治療薬として承認されている。lumacaftorはCFTRコレクターと呼ばれ、CFTRが細胞の表面に移行するのを手助けする。米国では7月に承認され、年25万ドルという高価格で発売された。

リンク: ヴァーテックスのプレスリリース

バイオジェンのEloctate(efmoroctocog alfa)は遺伝子組換え型長期作用性第VIII因子で、A型血友病の治療や出血予防に用いる。後者は重度出血を頻発する患者にルーチンに投与するので投与頻度が少なくて済む長期作用性製剤が求められている。日米では14年に承認されたが、EUは成人と小児を同時に申請することを求めているため、一年遅れになっている。

リンク: バイオジェンのプレスリリース

Horizon Pharma(Nasdaq:HZNP)のRavicti(glycerol phenylbutyrate)経口液は尿素サイクル異常症(UCD)の補助療法。米国では13年に承認された。UCDは尿素合成サイクルに先天的な異常があり、アンモニアが代謝されずに血中に蓄積し、脳などに重度障害をもたらすリスクがある。Ravictiはアンモニアの窒素が別の経路を通じて排泄されるのを促す。

リンク: Horizon社のプレスリリース

ギリアド(Nasdaq:GILD)のGenvoyaは4種類の成分を配合した合剤でHIV/AIDSの治療に用いる。日本たばこからライセンスしたインテグラーゼ阻害剤elvitegravir、その代謝を遅らせ効果を長続きさせる3A4阻害剤のcobicistat、核酸系逆転写阻害剤emtricitabine、そして新開発のヌクレオチド系逆転写阻害剤tenofovir alafenamide fumarate(TAF)を配合している。

別の言い方をすると、Stribild(和名スタリビルド)の活性成分のうちtenofovir disoproxil fumarate(TDF)をTAFに替えたもの。TAFは腎毒性や骨塩密度低下副作用がTDFより小さい長所がある。ギリアドにとっては、TDFの特許切れ対策という面もある。

リンク: ギリアドのプレスリリース

インパックス(Nasdaq:IPXL)のNumientはレボドパとカルビドパの合剤でパーキンソン病の治療に用いる。一日三回服用。米国では1月にRytary名で承認された。

リンク: インパックスのプレスリリース

メディスンズ・カンパニーのIONSYSは、フェンタニル鎮痛剤を電流に乗せて経皮的に供給するクレジットカードサイズの機器。術後疼痛の治療に用いる。従来の静注型システムと異なり針による事故が起きにくく、セットアップも楽。ジョンソン・エンド・ジョンソンが06年に欧米で承認を取得したが誤作動による過剰投与リスクが判明し09年に販売中止。開発権を取得した会社をメディスンズが12年に買収した。

リンク: メディスン・カンパニ-のプレスリリース

BMSのOpdivo(nivolumab)を扁平上皮非小細胞性肺癌の二次治療薬として用いることも支持された。既にNivolumab BMSという製品名で5月にCHMP支持、7月に承認されているので紛らわしい。扁平上皮腫以外の非小細胞性肺癌でも承認審査中。

【承認】


大鵬、遂に米国で承認取得
(2015年9月22日発表)

5-FU系の経口剤といえば大鵬薬品の一連の製品とロシュの日本拠点が創製したXeloda(capecitabine、和名ゼローダ)が代表的だが、薬物動態が人種により異なるようで、ティーエスワンは欧州では承認されたが米国は未承認。Xelodaは米国人に使う時は量を減らすべきという意見がある。

そんな中、遂に大鵬のロンサーフ配合錠が米国で承認された。転移性結腸直腸癌のサルベージ療法で、第三相試験ではメジアン生存期間が7.1ヶ月と、偽薬群の5.3ヶ月を2ヶ月弱、上回った。

リンク: FDAのリリース
リンク: 大鵬薬品のプレスリリース(9/24付、和文)

ノボ、トレシーバが米国でも承認
(2015年9月25日発表)

FDAはノボ ノルディスクの管理放出性インスリンTresiba(insulin degludec、和名トレシーバ)と短期作用性インスリンとのプリミックスであるRyzodeg(insulin degludec、insulin aspart)を糖尿病治療薬として承認した。2012年に日本で初承認、13年にはEUでも承認されたが、FDAは、Lantus対照試験で心血管疾患リスクが高まる可能性が浮上したため、心血管アウトカム試験で無垢を証明することを要求。ノボは中間解析データを提出し、今回の承認に至った。

トレシーバは日本で価格が折り合わず薬価収載が遅れた。ドイツでも健康保険基金連合会との価格交渉が不調に終わり、今月で販売中止になる。インスリンは三社が寡占しているせいか強気だ。

ノボは、TresibaとVictoza(liraglutide、和名ビクトーザ)の合剤であるXultophyを米国で承認申請したことも発表した。EUでは9月に承認されている。

リンク: FDAのリリース
リンク: ノボのプレスリリース


今週は以上です。

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2015年9月20日

2015年9月20日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • EASD:SGLT阻害剤のサバイバル・ベネフィット 
  • イムブルビカ、高齢CLLの一次治療に適応拡大申請 
  • FDA、新規向精神薬を承認 

【今週の話題】


EASD:SGLT阻害剤のサバイバル・ベネフィット
(2015年9月17日発表)

EASD欧州糖尿病研究学会とNEJM誌で発表されたJardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス)の心血管アウトカム試験のデータは、驚くべきものだった。心筋梗塞や脳卒中を防ぐ効果は限定的で後者は数値上はむしろ増加したが、何故か心血管疾患による死亡や全死亡が有意に減少した。

過去のエビデンスと照らし合わせると、血糖値を正常水準まで矯正した強化療法は心筋梗塞のような大血管疾患を有意に防ぐことはできず、却って寿命を縮めてしまう懸念も浮上した。今回のEMPA-REG試験はHbA1cの群間差が小さいので、猶更、血糖値強化療法が延命に寄与したとは思えない。但し、同様に群間差が小さかったADVANCE試験は、心筋梗塞や脳卒中は余り減らず心血管死・全死亡だけ減少と似たような結果になった。闇雲に7%を目指すと患者が早死するが無理のない範囲なら有効、ということを示唆しているのかもしれない。

血糖値だけでなく血圧やコレステロールなどを多面的に治療する集学的療法が有効であることを考えれば、JardianceのようなSGLT2阻害剤が持つ利尿作用が寄与したのかもしれない。しかし、血圧や体重に与える効果は決して高くないし、もし降圧の寄与なら心筋梗塞や脳卒中がもっと減少しそうなものである。

心不全による入院が有意に減少したのは利尿作用の寄与なのだろうが、それだけで延命効果を全て説明するのは難しいのではないか。

優越性解析のp値は決して高くないので、偶然の可能性を否定することはできない。しかし、二次的評価項目である心血管死や全死亡は大変良いp値が出ている。心血管死は主評価項目の構成要素なので誤診・誤報告のリスクは小さいだろう。全死亡も同じだ。結局、メカニズムは分からないが何らかの延命効果があると考えざるを得ない。

このようなデータを見る度に頭の中で鳴り響くのが、Puff the magic drug onのメロディーだ。本当なのか、それともただの都市伝説なのか?真実が判明する日が来るのか、来ないのか?それまでの間は、思い切って吸い始めるべきなのか、歌うだけに留めるべきなのか?

素直に受け取れないのは、アウトカム試験が大成功したのに、その後に不正の疑いや頑強性に関する懸念が浮上して、結局有耶無耶になったケースは少なくないからだ。査読誌と言っても権限には限度があり、況してや今回のような学会発表と同時刊行の場合は、解析結果を著者や査読者が十分に吟味検討する時間があったのか疑問に思う。EMPA-REG試験の解析はベーリンガー・インゲルハイムが行ったが、アカデミアが別途、検証を行ったので、例えば日本のvalsartan三試験よりは信用できそうだ。

EMPA-REG試験はグローバル試験なので、FDAが頼りになるだろう。もし米国で効能追加申請が行われるならば、治験実施施設を査察したり、個々の症例報告の妥当性をチェックしたり、様々な感受性分析を行ったりして、解析の頑強性を精査してくれるだろう。諮問委員会が招集されるだろうから、審査官や諮問委員の意見も知ることができるだろう。

もう一つ注目されるのは、他のSGLT2阻害剤の心血管アウトカム試験。結果が出るのは数年後からだが、もし複数の試験で裏打ちされれば頑強性が高まる。もし異なった結果なら、クラス・イフェクトではない可能性も含めて、再検討すればよい。一昔前なら、SGLT2阻害剤の延命効果が明確になったのに偽薬を投じる可能性のある試験を続行するのは倫理に反するので中止すべき、という議論が起きたかもしれないが、今日の研究者は、結論を急ぐのは却って危険であることを知っているだろう。

Jardianceは血糖降下作用を超える長寿作用を持つ魔法の薬なのか?3~4年経てば真実にもう少し近づくことができるだろう。

既に大きく報じられているので後回しにしたが、EMPA-REG試験の概要は以下の通り。
  • 無作為化割付二重盲検試験。対象は、冠動脈疾患を持つ、または高リスクの二型糖尿病患者7000人超。8割の患者が冠動脈疾患歴。過半が糖尿病歴10年以上。ベースライン時点のHbA1cは8%強、血糖治療薬はmetformin、インスリン(5割弱が使用)、SU剤などを使用。また、7~8割の患者がACE阻害剤又はARBの何れか、そしてスタチンを服用していた。
  • 介入方法は、偽薬、10mg、25mgの何れかを一日一回、経口投与。メジアン3.1年間治療。偽薬群のHbA1cは治験期間中、安定的に推移。試験薬群は低下したため、0.4~0.5%の群間差が生じた。期中の増量・追加投与状況は不明。他のリスク因子の期中の治療方法も不明。スタチンは成分・用量によって心筋梗塞抑制効果が異なるはずだが、他の試験と同様に一絡げにしている。
  • 主評価項目は心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中(3P)の複合評価項目。Jardianceの二群合計と偽薬群を比較する。非劣性解析だが対象はper protocolではなくintent-to-treat。主要二次的評価項目は上記三項目に不安定狭心症による入院を加えた(4P)もの。
  • 多重性を回避するために、最初に主評価項目(3P)の非劣性解析、それが成功したら4Pの非劣性解析、次いで3Pの優越性解析、そして4Pの優越性解析という序列が付けられた。
  • 結果は、非劣性解析はどちらも成功。優越性解析は成功だがp値はボーダーライン上だった。具体的には、3Pの発生率が10.5%と偽薬群の12.1%を下回り、ハザードレシオ0.86、95.02%信頼区間0.74-0.99だった。項目別では心血管死が3.7%対5.9%、HR0.62(95%CI0.49-0.77)と大変良く、一方、心筋梗塞は有意差に届かず。脳卒中も有意差なしだが数値上は増加した。
  • このほかに、全死亡が5.7%対8.3%、HR0.68(0.57-0.82)、心不全による入院2.7%対4.1%、HR0.65(0.50-0.85)だった。深刻な有害事象の発生率は38%対42%、有害事象による治験離脱は17%対19%でどちらも偽薬群を下回った。性器感染症は増加した。急性腎不全や腎障害は両群大差ないが絶対数が少ないので明確ではない。

リンク: ベーリンガー・インゲルハイムのプレスリリース
リンク: Zinmanらの治験論文(NEJM誌、オ-プンアクセス)

【承認申請】


イムブルビカ、高齢CLLの一次治療に適応拡大申請
(2015年9月14日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、Imbruvica(ibrutinib)の適応拡大申請をFDAに行った。CLL(慢性リンパ性白血病)やSLL(小リンパ球性リンパ腫)、マントルセルリンパ腫の二次治療薬として承認されているが、新たに65歳以上のCLL/SLLの一次治療薬としての承認を求めた。

Imbruvicaはファーマサイクリクスからライセンスしたbtk阻害剤。このファーマサイクリクスをアッヴイが210億ドルで買収したのは、Imbruvicaのピーク年商が100億ドルを超えるという期待に基づくようだ。

リンク: JNJのプレスリリース

【承認】


FDA、新規向精神薬を承認
(2015年9月17日発表)

FDAは、フォレスト社のVraylar(cariprazine)を統合失調症や双極障害の躁症状や混合症状の治療薬として承認した。非定型向精神薬は神経伝達物質や受容体に対する作用が様々で、効果や副作用の出方も異なる。VraylarはドーパミンのD3とD2受容体及びセロトニンの5-HT1Aを部分作動し、5-HT2Aや2B受容体を拮抗する。

ハンガリーのGedeon Richterからフォレストが北米の権利を取得したもの。フォレストはその後、アクタヴィス、そしてアラガンの傘下に入った。日本周辺は田辺三菱製薬が導入。

リンク: FDAのリリース
リンク: アラガンのプレスリリース

今週は以上です。

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2015年9月13日

2015年9月13日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • 強化降圧治療試験が成功 
  • COPDの併用療法は死亡リスクを有意に削減しない 
  • 肺癌はYervoyではなくOpdivoが主役 
  • アストラゼネカ、EGFR-T790M阻害剤を承認申請 
  • ロシュ、アレセンサを米国でも承認申請 
  • daratumabがEUでも承認申請 
  • FDA、カナグルの骨損壊リスクを警告 

【今週の話題】


強化降圧治療試験が成功
(2015年9月11日発表)

米国国立医療研究所(NIH)は、SPRINT試験が中間解析で主目的を達成したと発表した。強化降圧療法の臨床的転帰を標準療法比較した試験で、心筋梗塞や全死亡のリスクを削減できることが明らかになった。数値は一部しか公表されておらず、論文刊行・学会発表が待たれる。

SPRINT試験は、高血圧で50歳以上、且つ一つ以上のリスク因子(心血管疾患、慢性腎疾患、フラミングハム・リスク・スコアによる評価で10年間心血管疾患リスクが15%以上、または75歳以上)を持つ患者9361人を組入れて米国の施設で実施された無作為化割付PROBE法試験。主評価項目は心筋梗塞、急性冠症候群、卒中、心不全、心血管死の複合評価項目。

強化降圧群は収縮期血圧を120mm Hg未満に、標準療法群は140mm Hgに、管理した。薬剤の選択肢は広くアルファブロッカーも可。強化降圧群は平均三種類、標準療法群は二種類の降圧剤を併用した。

結果は、NIHのプレスリリースによると、心血管疾患が33%減少、全死亡は25%減少した。

降圧治療は収縮時血圧目標値が5mm Hg違うと心血管リスクに差が出ると考えられているので20mm Hgなら差が出て当然だが、一方で、Jカーブ効果が疑われており、実際、高齢者を組入れた試験では積極的降圧が却ってリスクを高めてしまう可能性が示唆された。SPRINT試験は75歳以上の患者も多く組入れた模様なので、詳細が発表された後に、様々なエビデンスを総合的に検討する必要がありそうだ。とかく評判の悪い米国の血圧治療ガイドラインを見直す材料にもなるだろう。

リンク: NIHのプレスリリース
リンク: SPRINT試験の治験登録(ClinicalTrials.gov)

COPDの併用療法は死亡リスクを有意に削減しない
(2015年9月8日発表)

グラクソ・スミスクラインと、COPD領域における共同開発パートナーであるセラバンス社(Nasdaq:THRX)は、Breo(fluticasone furoateとvilanterolの合剤、和名レルベア)のSUMMIT試験の結果を発表した。COPDで心血管疾患のリスクが高い患者を組入れて死亡リスクを削減する効果を偽薬と比較したが、有意な差はなかった。残念な結果だが、常識が覆った訳ではなく、また、リスクが高まったわけでもない。

この試験は16500人を吸入コルチコイドとベータ2作用剤の合剤であるBreo、各配合成分、偽薬の4群に割付けて、合剤と偽薬の死亡リスクを比較したもの。効果不十分の場合はSpiriva(tiotropium)を追加した。結果は、リスクが22.2%小さかったが、p=0.137と有意水準に達しなかった。

Advair(fluticasone fluticasoneとsalmeterol xinafoateの合剤、和名アドエア)のTORCH試験でもリスクが17.5%低下したがp=0.052と有意ではなかった。死亡リスクが高い患者をもっと沢山組入れて検出力を高めれば有意差が出るのではないかと期待されたが、駄目だった。

どちらもステロイドを配合しており、COPDは高齢者が多いので、肺炎や骨損壊のリスクが高まることに注意する必要がある。

リンク: 両社のプレスリリース

【新薬開発】


肺癌はYervoyではなくOpdivoが主役
(2015年9月7日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)とYervoy(ipilimumab)を併用した非小細胞性肺癌一次治療後期第一相試験のトップラインデータを発表した。併用療法は副作用も増強されるので場合によってはどちらかを減量する必要が生じる。この二剤の場合はOpdivoではなくYervoyの用量を減らす方が良さそうだ。

このCheckMate-012試験では、当初はYervoyを3mg/kgとOpdivoを1mg/kg、または各1mg/kgと3mg/kgを三週間に一回投与する用法をテストしたが、半分近い患者でグレード3以上の治療時発現有害事象が起き、その7割は治験を離脱、3名(全体の6%)が死亡した。1mg/kgずつ投与したりYervoyの投与間隔を伸ばしたりする群を追加して更に至適用法を探索した結果が今回のデータだ。

cORR(確認客観的反応率:反応が一定期間持続したものだけをカウント)は1mg/kgずつ併用した二群が13~25%、Yervoyは1mg/kg、Opdivoは3mg/kgを投与した二群は31~39%。グレード3以上の治療時発現有害事象の発生率は各29~35%と28~29%で大差なく、グレード5(死亡例)は無かった。一群30~40名の試験なのであまり明確ではないが、Yervoyは1mg/kgを12週間に一回、Opdivoは3mg/kgを2週間に一回、投与するスケジュールが良さそうに見える。

PD-L1発現状況(閾値は1%)と反応率の関連性も分析された。7割を占めた陽性患者では、1mg/kgずつの2群は8~24%、1mg/kgと3mg/kgを組み合わせた2群はどちらも48%だった。陰性では、それぞれ、14~15%と0~22%だった。陰性に効かない訳ではないが、この程度なら他の併用レジメンと大きくは変わらない。やはり、肺癌の場合はPD-L1陽性癌が至適なのだろう。

リンク: BMSのプレスリリース

【承認申請】


アストラゼネカ、EGFR-T790M阻害剤を承認申請
(2015年9月8日発表)

アストラゼネカは、世界肺癌会議(WCLC)でのデータ発表に合わせて、AZD9291(osimertinib)を米国で承認申請し受理されたことを発表した。優先審査を受ける。

T790M変異型のEGFRに選択的に作用する小分子薬で、同社のEGFR阻害剤Iressa(gefitinib)などとは異なり、野生EGFRに対する活性を持たない。既存のEGFR阻害剤は活性化変異型のEGFRを発現する非小細胞性肺癌に有効だが、抵抗性変異を誘導するリスクがあり、その代表的なものがT790M変異だ。AZD9291はEGFR阻害剤による治療経験を持つT790M変異型に用いる。

承認申請の根拠となった第二相試験では、6~7割という高い反応率を示した。グレード3以上の有害事象は間質性肺疾患、QT延長、高血糖などが治験により0~3%の患者で発生した。

AZD9291は日本でも肺癌学会が7月に早期承認の要望を行った。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース(Business Wireのサイト)

ロシュ、アレセンサを米国でも承認申請
(2015年9月9日発表)

ロシュは、中外製薬からライセンスしたAlecensa(alectinib、和名アレセンサ)を米国で承認申請し受理されたと発表した。優先審査で、審査期限は16年3月4日。ALK阻害剤で、ALK阻害剤の第一号であるファイザーのXalkori(crizotinib)に不応不耐のALK陽性局所進行性・転移性非小細胞性肺癌に用いる。

申請の根拠となった第二相試験2本では、第三者放射線学的委員会の査読に基づく客観的反応率が47~50%、メジアン反応持続期間は一本が7.5ヶ月、もう一本は11.2ヶ月と長いが未成熟(まだイベント発生例が少なく統計学的な検出力が低い)である模様だ。特徴的なのは脳転移にも有効であること。脳血管から排出されにくいとのことだ。

日本では昨年7月に承認された。

リンク: ロシュのプレスリリース

daratumabがEUでも承認申請
(2015年9月9日発表)

デンマークのジェンマブ(OMX:GEN)は、同社が創製した抗CD38完全ヒト化抗体、daratumabがライセンシーであるジョンソン・エンド・ジョンソンによってEUで承認申請されたと発表した。多発骨髄腫の4次治療薬として用いる(代表的な薬剤であるプロテアソーム阻害剤と免疫調停剤の両方に難治性だった患者は3次治療も可)。第二相試験の結果に基づくもので、米国でも7月にローリング承認申請を完了している。

リンク: ジェンマブのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDA、カナグルの骨損壊リスクを警告
(2015年9月10日発表)

FDAは、Invokana(canagliflozin、和名カナグル)の骨折リスクを警告した。治療開始前に患者の骨損壊リスク因子を検討すると共に、患者に注意を促すべき。患者に対しては、医師に相談せずに勝手に服用を止めるなと呼びかけた。

Invokanaはジョンソン・エンド・ジョンソンが田辺三菱製薬と共同開発したSGLT2阻害剤で、二型糖尿病の血糖治療薬。臨床試験でBMDの穏やかな低下が見られたため、13年に米国で承認された後に55~80歳の患者を組入れてBMD影響確認試験が実施された。2年後のBMD低下が部位により0.0~1.2%、偽薬より大きかった。また、これまでに実施された臨床試験では、100人年当り発生率が100mg群は1.4、300mg群は1.5と、偽薬・対照薬群の1.1を上回った。転倒時や、上肢の骨損壊が多いようだ。

米国では過去1年間に110万人が薬局でInvokanaの交付を受けている。年率0.3%の差とすると3000人程度が骨折する計算になるので、稀とはいえ影響は大きい。BMD低下はそれほど大きいようには感じられないが、股関節骨折という臨床的に重要なリスクに関連する全股関節BMDが偽薬比1%前後低下することは気に掛かる。

このリスクがInvokanaに固有なのか、クラス・イフェクトなのか、FDAが検討中。血糖治療薬ではActos(pioglitazone)のようなPPAR作動剤も骨損壊のリスクが高まることが明らかになっている。

SGLT阻害剤はJardiance(empagliflozin)の心血管アウトカム試験が成功し、注目を集めている。データは9月17日にEASDで公表される見込み。7000人規模の大きな試験なので骨損壊リスクについても何らかの手掛かりが掴めるかもしれない。

リンク: FDAのリリース


今週は以上です。

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2015年9月6日

2015年9月6日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • 米国初のバイオシミラーが発売
  • バイエル、心不全・腎不全治療の第三相へ
  • 抗Sclerostin抗体が骨粗鬆症試験でフォルテオに勝つ
  • 抗SLAMF7抗体の承認申請が米国でも受理
  • オプジーボ、非扁平上皮肺癌の承認申請受理
  • パーキンソン病の精神症状を治療する薬が承認申請
  • アムジェン、カルシウム感受受容体作動剤を欧州でも承認申請
  • アストラゼネカ、複合セファロスポリンをEUで承認申請
  • 遺伝性オロト酸尿症治療薬が米国で承認
  • NK-1受容体拮抗剤が米国で承認
  • アストラゼネカ、Brilintaの適応拡大が米国で承認
  • ノバルティス、新規抗癌剤などがEUで承認
  • アレクシオン、EUで二剤が承認

【今週の話題】


米国初のバイオシミラーが発売
(2015年9月3日発表)

ノバルティスのジェネリック薬部門であるサンドは、米国でZarxio(filgrastim-sndz)を発売した。アムジェンのrhG-CSF、Neupogen(filgrastim、和名グラン)のバイオシミラーで、米国でバイオシミラーが発売されるのは初。同等性確認試験が実施されていない適応症も含めて、Neupogenの五つの適応症全てで承認された。

バイオ薬は組成が複雑で評価方法も十分に確立していないため、化学合成薬のように活性成分が同じなら薬効・副作用も同じとは言えない。rhG-CSFはテバが12年に米国でGranix(tbo-filgrastim)の承認を獲得したが、法体系上はバイオシミラーではない。Zarxioはバイオシミラーだが、互換性は認められていないので、自動代替の対象にはならない(化学合成薬なら処方箋に先発品が記されていても薬剤師が後発品を出すことが可能)。

報道によると、価格は先発品より15%安いだけである模様。アムジェンが値引きで対抗する可能性もあり、Zarxioの普及スピードはrhG-CSFが先に発売された欧州や日本より穏やかなものになりそうだ。Neupogenの米国年商は8億ドルと長期作用性のNeulasta(pegfilgrastim、和名ジーラスタ)より小さく、主戦場はNeulastaのシミラーだろう。

バイオシミラーは先発品と似ているが同じではない。副作用報告などを分析する際に区別する必要があるため、FDAはバイオ薬の一般名の表記を「活性成分名-xxxx」とする考えだ。Zarxioの一般名の末尾にはサンドを示すsndzが付加された。先発品の表記も変更される模様。

一般名といえば米国ではUSANだが、FDAは違う名称を付与することがこれまでにもあった。ジェネンテックのKadcyla(和名カドサイラ)の一般名はUSANではtrastuzumab emtansineだが、FDAは、Herceptin(trastuzumab、和名ハーセプチン)との取り違え事故を防ぐために、ado-trastuzumab emtansineという呼称を使うよう医療従事者に推奨している。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

【新薬開発】


バイエル、心不全・腎不全治療の第三相へ
(2015年8月31日発表)

バイエルは、BAY 94-8862(finerenone)の第三相試験を年内に開始すると発表した。ミネラルコルチコイド受容体拮抗剤(MRA)で、既存のspironolactoneやInspra(eplerenone)より選択性が高く腎臓分布が心臓と比べ高くないため、臓器保護作用が高く副作用が小さい可能性がある。

第三相試験は糖尿病性腎症が高アルブミン尿と顕性アルブミン尿で各一本。駆出率低下を伴う心不全悪化で入院した二型糖尿病や慢性腎疾患患者を対象とするものが一本。欧米日中などの施設が参加する予定。

心不全用途は後期第二相試験の結果がESC(欧州心臓学会)で発表された。対象疾患は上記の第三相と同じで、被験者の平均年齢は71歳。開始用量2.5~15mg(カリウム値が一定以上に上昇した患者以外は30日後に倍に増量)の5群とeplerenone群に割付けて90日間治療し、バイオマーカー(NT-proBNP)改善効果を比較したところ、eplerenoneと大差なかった。

興味深いのは、探索的複合評価項目である全死亡・心血管入院・心不全悪化が少なかったこと。特に、10mg群は、ハザードレシオ0.56、名目p値0.0157と、心臓保護効果の兆候が見られた。治療時発現有害事象はeplerenoneと大差なかった。カリウム値上昇発生率も大差ないので、不整脈などが起きないか、第三相でよく確認する必要がありそうだ。

慢性腎疾患の後期第二相は3月に学会発表され、今回、Journal of American Medical Association誌に論文刊行された。7.5mg以上の群でアルブミン・クレアチニン比が偽薬比有意に改善した。カリウム値や腎機能に悪影響はなかったとのことだが、カリウム値上昇で治験を離脱した患者の比率が用量により0~3.2%と、偽薬群のゼロより増加している。

第三相は規模が大きいので結果が出るのは数年後になりそうだ。

リンク: バイエルのプレスリリース

抗Sclerostin抗体が骨粗鬆症試験でフォルテオに勝つ
(2015年9月1日発表)

アムジェンは、AMG785(romosozumab)が第三相骨粗鬆症治療試験でForteo(teriparatide、和名フォルテオ)より有意に高い効果を示したと発表した。データは今後の学会で発表される予定。

AMG785は造骨細胞抑制・破骨細胞活性化に関わるsclerostinを標的とするヒト化抗体で、UCBが買収した英国のセルテックが創製したもの。日本はアムジェンとアステラス製薬の共同開発提携の対象の一つとなっている。月一回、皮注する。Forteoは遺伝子組換え型ヒト副甲状腺ホルモンで、骨粗鬆症治療薬としては珍しく造骨増強作用を持つ。一日一回、皮注する。

投与方法が大きく異なることやForteoを長期間投与すると癌のリスクが高まる懸念があることから、1年間のオープンレーベル試験として実施された。被験者はビスフォスフォン酸による治療を受けながら骨損壊を経験した患者で、謂わば、二次治療試験だ。主評価項目は大腿骨のDXA-BMD。このサロゲート・マーカーは臨床的に重要な転帰である股関節骨折のリスクとリンクしているように感じられるので重要だ。

このほかに、Fosamax(alendronate、和名フォサマック)対照試験や偽薬対照試験も進行中。主評価項目は何れも骨損壊。AMG765の投与は最初の1年だけで2年目は既存薬にスイッチする用法になっており、長期的曝露に懸念があるのかもしれない。過去の臨床試験では深刻な有害事象として乳癌やCOPD、非心因性胸痛、手首骨損壊、良性腎オンコサイトーマなどが報告されている。

この二本の試験の結果は16年第1四半期以降に判明する見込み。

リンク: アムジェンのプレスリリース

【承認申請】


抗SLAMF7抗体の承認申請が米国でも受理
(2015年9月1日発表)

BMSは、Empliciti(elotuzumab)を米国で承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受ける。EUでも7月に受理されている。骨髄腫やNKセルに発現する表面分子であるSLAMF7を標的とする免疫刺激的ヒト化抗体で、PDL(後に新薬開発事業をアッヴィが買収)が創製しBMSに開発販売権を供与したもの。

多発骨髄腫の二次治療薬として、代表的なレジメンであるdexamethasoneとRevlimid(lenalidomide、和名レブラミド)またはVelcade(bortezomib、和名ベルケイド)と三剤併用する。Revlimid併用第三相試験ではメジアンPFS(無進行生存期間)が19.4ヶ月と既存二剤だけの群の14.9ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.70で統計的に有意だった。Velcade併用第二相でもPFSハザードレシオが0.72だった。

多発骨髄腫は三剤併用試験が活発に行われるようになり、四剤併用試験も良さそうな結果を出している。もうそろそろ、どの三剤併用が最も優れるのか、直接比較試験を行っても良いころだろう。

リンク: BMSのプレスリリース

オプジーボ、非扁平上皮肺癌の承認申請受理
(2015年9月2日発表)

BMSは、小野薬品と共同開発した抗PD-1抗体、Opdivo(nivolumab)を非扁平上皮非小細胞性肺癌の二次治療に用いる適応拡大申請がFDAに受理されたと発表した。優先審査で、審査期限は16年1月2日。3月に承認された扁平上皮非小細胞性肺癌と合わせて全ての非小細胞性肺癌で使えるようになる可能性が出てきたが、効果がPD-L1発現状況によって左右されるように見えるので、高発現癌に限定される可能性もありそうだ。

リンク: BMSのプレスリリース

パーキンソン病の精神症状を治療する薬が承認申請
(2015年9月3日発表)

ACADIA Pharmaceuticals(Nasdaq:ACAD)は、Nuplazid(pimavanserin tartrate)を米国で承認申請したと発表した。5-HT2Aのインバース・アゴニストで、パーキンソン病の急性精神症状(幻覚や妄想)を治療する。最初の第三相試験がフェールし二本目も中断、バイオベイルとの提携も解消されたが、偽薬効果を抑制するために標準療法が充実している国だけに仕切り直した三本目が成功。FDAとの相談を踏まえて承認申請を決定した。

当初は14年末までに申請する予定だったが、15年第1四半期に遅延、そして更に半年遅延と、あまり順調ではない。薬効のエビデンスも万全ではないので、無事承認されるかどうか、不確かな面がある。

リンク: ACADIAのプレスリリース

アムジェン、カルシウム感受受容体作動剤を欧州でも承認申請
(2015年9月2日発表)

アムジェンは、AMG 416(etelcalcetide)をEUに承認申請したと発表した。米国でも8月に申請。カルシウム類縁体でカルシウム感受受容体を作動し、副甲状腺ホルモンの分泌を抑制する。透析期慢性腎疾患の二次性副甲状腺機能亢進症の治療に用いる。

12年に3億ドルで買収したKAI社のパイプラインで、日本は小野薬品がONO-5163として第三相試験中。

リンク: アムジェンのプレスリリース

アストラゼネカ、複合セファロスポリンをEUで承認申請
(2015年9月2日発表)

アストラゼネカは、第三世代セフェム系抗生物質のceftazidime(和名モダシン)と新開発のベータラクタマーゼ阻害剤avibactamの合剤をテストした第三相複雑尿道感染症治療実薬対照試験が二本とも成功したと発表した。Dorivax(doripenem、和名フェニバックス)と比べて効果が非劣性、優越性の解析も成功した由。

米国ではAllergan(NYSE:AGN)がAvycaz名で2月に承認を得ている。EUはceftazidimeの文献データによる申請を認めなかった模様で、北米や日本以外の権利を持つアストラゼネカは第三相試験を実施してEUに承認申請、5月に受理されたことを今回、明らかにした。適応症は明記されていないので、米国で承認された複雑腹腔内感染症も含まれているのか不明だ。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

【承認】


遺伝性オロト酸尿症治療薬が米国で承認
(2015年9月4日発表)

FDAは、Xuriden(uridine triacetate)を遺伝性オロト酸尿症の治療薬として承認したと発表した。世界の患者数20人という超希少疾患で、ウリジン1リン酸合成酵素の機能低下によりウリジンが欠乏し、貧血や尿結石、腎障害などを合併する。正式に承認された薬は初。ウリジンのプロドラッグで、生物学的利用率がウリジンの数倍高い。顆粒状なので食物や飲料に混ぜることも可能。

承認申請したのはメリーランドの未上場企業、Wellstat Therapeuticsで、希少小児疾患優先審査バウチャーを取得する。uridine triacetateは抗癌剤の5-FUの解毒剤として欧米で特例的に使用することが認められている。

リンク: FDAのリリース

NK-1受容体拮抗剤が米国で承認
(2015年9月2日発表)

FDAは、Varubi(rolapitant)を抗癌剤による悪心嘔吐の予防薬として承認したと発表した。NK-1受容体拮抗剤で、抗癌剤の投与から24~120時間後に発生する遅発性悪心嘔吐を抑制する。類薬ではMSDがEmend(aprepitant、和名イメンド)を03年に発売しているが、肝臓酵素相互作用が異なり、Emendは3A4や2C9、Varubiは2D6を阻害するので、同時使用薬に応じて用量を調整したり薬を替えたりすることになる。

元々はMSDが買収したシェリング・プラウの開発品で、Opko Health(AMEX:OPX)が資産を取得、Tesaro(Nasdaq:TSRO)に独占開発販売権を供与したもの。Tesaroはエーザイが買収したMGIファーマで制吐剤Aloxi(palonosetron)を商業化したメンバーがマサチューセッツ州で設立した会社。

リンク: FDAのリリース
リンク: Tesaroのプレスリリース

アストラゼネカ、Brilintaの適応拡大が米国で承認
(2015年9月3日発表)

アストラゼネカは、P2Y12拮抗剤Brilinta(ticagrelor)の適応拡大をFDAが承認したと発表した。ST上昇型心筋梗塞や非ST上昇型急性冠症候群の治療薬として11年に発売された抗血小板薬だが、今回、心筋梗塞から1年以上経った患者に用いることも認められた。

最初の承認はPLATO実薬対照試験、適応拡大はPEGASUS TIMI 54偽薬対照試験のデータに基づくもので、被験者は同じ人たちではない筈だが、レーベル上は一体になっている。即ち、急性冠症候群または心筋梗塞歴を持つ患者が対象で、前者の負荷用量は180mg、維持用量は最初の一年が90mgを一日二回。一年経過後は60mg一日二回。60mg一日二回は心筋梗塞から1年以上経った患者を組入れたPEGASUS試験で90mg一日二回群と大差なかったことを急性冠症候群直後からずっと服用する患者にも当て嵌めたのだろう。

アストラゼネカは60mg錠を9月中に発売する予定。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ノバルティス、新規抗癌剤などがEUで承認
(2015年9月1日、4日発表)

ノバルティスは悪性黒色腫用薬二剤の併用と、新規多発骨髄腫治療薬がEUで承認されたと発表した。

前者はグラクソ・スミスクラインとのアセットスワップにより取得した二種類の抗がん剤、Tafinlar(dabrafenib)とMekinist(trametinib)の併用療法。braf阻害剤とMEK1/2阻害剤を併用することで効果を増強し、皮膚有害事象を緩和する。臨床試験ではtafinlar単剤やロシュのbraf阻害剤よりも進行抑制効果や延命効果が大きかった。

リンク: ノバルティスのプレスリリース(併用療法、9/1付)

新薬は、Farydak(panobinostat、和名ファリーダック)。欧州では初のヒストン脱アセチル化酵素阻害剤で、多発骨髄腫の三次治療(Velcadeと免疫調停薬の後)に用いる。偽薬対照試験のサブグループ分析で、このサブグループのメジアン生存期間が12.5ヶ月と偽薬群の4.7ヶ月より長かった。

催不整脈性を持ち、臨床試験でも心房細動などの心臓有害事象が17%の患者で、失神が6%で発生。治療中に多発骨髄腫以外の理由で死亡した患者の比率は6.8%と偽薬群の3.2%を上回った。そのせいか、このサブグループにしか承認されなかった。2月に承認された米国も同じ。7月承認の日本も再発・難治性患者が対象になっている。

リンク: 同(Farydak、9/4付)

アレクシオン、EUで二剤が承認
(2015年9月1日発表)

カナダの希少疾患用薬開発販売会社、アレクシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)は、二種類の新薬がEUで承認されたと発表した。

一つは遺伝子組換え型ヒトリソソーム酸リパーゼ、Kanuma(sebelipase alfa)。ヒトリソソーム酸リパーゼ欠乏症の初の治療薬。雌鶏の卵管細胞に生産させ卵白から回収する薬も初。米国でも間もなく承認されるはずだったが、FDAの要請に基づきCMC(化学、生産、管理)に関するデータを追加提出したため、審査期限が12月に延期された。日本でも承認審査中。

6月にSynageva BioPharmaを84億ドル(純額)で買収して入手したパイプライン。

リンク: アレクシオンのプレスリリース(Kanuma)
リンク: 同(米国審査期限延期について、9/4付)

もう一つは、遺伝子組換え型アスホターゼアルファ、Strensiq(asfotase alfa、和名ストレンジック)。小児発症型の低ホスファターゼ血症で骨合併症を持つ患者向けに例外的環境条項に基づいて承認された。これも初の治療薬。米国でも優先審査中でもうそろそろ承認されるのではないか。日本は7月に承認された。

12年にEnobia Pharmaを達成報奨金を含めて10.8億ドルで買収して入手したパイプライン。

リンク: 同(Strensiq)


今週は以上です。

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