2015年7月12日

2015年7月12日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • ノボ、ドイツでトレシーバの販売を中止へ
  • ノボ、週一回型GLP-1作用剤の第三相が成功
  • FDA諮問委員会、イーライリリーの抗癌剤に好意的な評価
  • ノバルティスの心不全治療薬が米国で承認
  • 大塚/ルンドベックの向精神薬が米国で承認
  • Imbruvica、EUでワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症に承認

  • 【今週の話題】


    ノボ、ドイツでトレシーバの販売を中止へ
    (2015年7月1日発表)

    ノボ ノルディスクはドイツでのTresiba(insulin degludec、和名トレシーバ)の販売を9月で中止すると発表した。ドイツの健康保険基金連合会、GKV-Spitzenverbandとの価格折衝が不調に終わり、希望する価格で販売できないため。Tresibaを使用している4万人の患者は他の製品にスイッチすることになる。トレシーバは日本でも薬価収載が3ヶ月遅れた。

    ドイツは医薬品の価格統制に熱心に取り組んでおり、既存の薬に対する臨床的な優位性が確立していない新薬にプレミアムを払うのを拒否することがある。インスリンではNovo Rapidのような速効性インスリンも、TresibaやLantusのような持効性インスリンも、洗礼を浴びた。エビデンスがあるはずだから論文でも社内文書でも提出すればよいのではないかと思われるが、未だにこのような事件が起きているところを見ると、難しいのだろう。

    欧州では英国が逸早く費用対効果を検討する組織、NICEを設立し、限られた公的医療予算を有効に配分する手段を探っている。印象的なのは、末期癌の余命を数ヶ月延ばすだけの薬に厳しい評価を行っていることだ。確かに、生活品質を数年に亘って改善する薬と比べれば優先順位は低いだろう。一方で、命という個人にとって一番重要なものを軽視するのもどうかと感じられる。NICEは軌道修正も行われているので、紆余曲折を経ながら落ち着くべきところに落ち着くのだろう。

    メーカー間の競争を上手く利用しているのはフランスだ。報道によると、ホスピーラ(NYSE:HSP)がRemicade(infliximab)のバイオシミラーをRemicadeより45%低い価格で供給することに同意した。バイオシミラーは小分子薬のジェネリックより参入障壁が高いため、価格差は20~30%程度が多く、日本でも33%に留まっている。おそらく、ホスピーラはシェアを確保して今後の他社の参入に備える意図なのだろう。

    TresibaはLantusのme-too drugなのだから、Lantusより安い程度の価格で双方が妥協する手もあったのではないかと感じられる。

    リンク: ノボのプレスリリース

    【新薬開発】


    ノボ、週一回型GLP-1作用剤の第三相が成功
    (2015年7月10日発表)

    ノボ ノルディスクは、NN9535(semaglutide)の最初の第三相試験が成功したと発表した。残りの5本の結果を待って16年に承認申請に向かうのではないか。semaglutideは週一回皮注型のGLP-1作用剤で二型糖尿病の治療に用いる。週一回型はアストラゼネカのBydureon(exenatide ER)、GSKのTanzeum(albiglutide)、イーライリリーのTrulicity(dulaglutide)に次ぐ4剤目となる。

    今回の試験は、二型糖尿病で薬物療法を受けていない患者を偽薬、0.5mg、1mgの三群に割付けて30週間治療したもの。HbA1c(ベースライン値8.1%)が各群0%、1.5%、1.8%低下し、二用量とも有意な差が見られた。体重は各群1.0kg、3.8kg、4.6kg減少した。

    心血管アウトカム試験も進行中。ここで問題が生じなければ17年には発売にたどり着くだろう。ノボはGLP-1作用剤のベストセラー、Victoza(liraglutide)を持っているが、semaglutideをラインアップすれば市場が週一回型にシフトしてもプレゼンスを維持できるだろう。liraglutideと同様に体重管理薬として開発することもできそうだ。

    リンク: ノボのプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    FDA諮問委員会、イーライリリーの抗癌剤に好意的な評価
    (2015年7月9日発表)

    FDA腫瘍学薬諮問委員会がIMC-11F8(necitumumab)に好意的な評価を寄せた。票決は行われなかったので他に何か懸念材料があるのかもしれないが、順調なら、承認されることになりそうだ。効果は決して高くなく、適応である扁平上皮非小細胞性肺癌は抗PD-1抗体が有効であることが明らかになったので、承認されても出番は限られるだろう。

    necitumumabはイーライリリーがイムクローン社を買収して入手した抗EGFR抗体。Erbitux(cetuximab)がキメラ抗体であるのに対して、Dyax社のファージディスプレイ法を用いた完全ヒト化抗体であることが特徴。

    第三相試験は二本実施され、扁平上皮以外の非小細胞性肺癌を組入れたpemetrexed・cisplatin併用一次治療試験は血栓症のリスクが理由で中止されたが、扁平上皮型だけを組入れたgemcitabine・cisplatin併用一次治療試験でメジアン生存期間が11.5ヶ月と、この二剤だけを投与した対照群の9.9ヶ月を1.6ヶ月上回った。ハザードレシオは0.84、p値は0.012で、それほど良い数値ではない。

    安全性面では低マグネシウム血症やラッシュ、深刻な血栓塞栓症が増加。突然死の比率が2.2%と対照群の0.5%を上回っており、電解質異常との関連が疑われるところだ。薬物関連死亡率も3%対2%で増加した。

    イムクローン由来の抗癌剤ではCyramza(ramucirumab、和名サイラムザ)も、肺癌の二次治療でメジアン生存期間10.5ヶ月、対照群比1.4ヶ月延びるだけ、ハザードレシオ0.857、p=0.0235というパッとしないデータに基づいて米国で昨年、承認された。2ヶ月足らずでは十分とは言えないが、肺癌は選択肢が限られるので贅沢を言っていられないのだろう。

    しかし、今回は一次治療である。安全性にも懸念がある。価格も抗PD-1ほどではないにしても安くはないだろう。ASCOが抗癌剤の費用対効果を判定するツールを開発するなど、新薬なら高くて当たり前という考え方は通用しなくなっている。これらを考えると、承認されても一部の患者にしか使われないだろう。

    リンク: イーライリリーのプレスリリース

    【承認】


    ノバルティスの心不全治療薬が米国で承認
    (2015年7月7日発表)

    FDAはノバルティスのEntresto(sacubitril/valsartan)を承認したと発表した。NYHAクラスII~IVの慢性心不全で駆出率低下を伴う患者に用いる。8,442人を組入れたPARADIGM-HF試験では、心不全による入院や心血管死がACE阻害剤のenalaprilを投与した群と比べて20%少なかった(ハザードレシオ0.80、p<0.001)。二次的評価項目である全死亡もハザードレシオ0.84、p<0.001だった。

    sacubitrilは新開発のネプリライシン阻害剤でBNPやANPなどのナトリウム利尿ホルモンの代謝を阻害する。valsartanは降圧剤Diovanの活性成分で、ARBを阻害する。Entrestoはこの二つの成分を結晶化したもので、新しいタイプの合剤と考えることができる。97/103mg(治療開始時は半量)を一日二回、経口投与する。主な副作用は低血圧、高カリウム血症、腎障害など。アフリカ系は血管浮腫のリスクが高まるので要注意。

    様々な領域で新薬開発競争が激化しているが心不全治療薬は新薬もパイプラインも少なく、Entrestoの独壇場になりそうだ。米国では200万人程度が適応になり、標準価格は12.5ドル/日とのことなので、値引き控除前の市場規模は90億ドルとなる。EUでも承認審査中。

    リンク: FDAのリリース
    リンク: ノバルティスのプレスリリース

    大塚/ルンドベックの向精神薬が米国で承認
    (2015年7月11日発表)

    大塚薬品とルンドベックは、FDAがRexulti(brexpiprazole)を承認したと発表した。統合失調症の治療や鬱病のアジャンクト療法に用いる。大塚がBMSと提携して販売している超大型薬で先般GE薬化したAbilify(aripoprazole、和名エビリファイ)の類縁体で、D2受容体部分作動活性と比べて5-HT1A部分作動・5-HT2A阻害活性が高い。

    6週間の統合失調症急性期治療試験の一本では2mgを一日一回経口投与した群のPANSSトータルスコアが20.73低下、4mg群も19.65低下し偽薬群の12.01低下を有意に上回った。もう一本でも2mg群と4mg群で有意な差が見られた。1mg群は有意差なし。1mgで開始し、最大4mgまで滴定する。

    6週間の鬱病アジャンクト試験では抗鬱剤だけでは十分に症状を管理できない患者に追加投与したところ、2mgをテストした試験ではMADRSトータルスコアが偽薬比3.21、3mgをテストした試験では同1.95低下した。0.25mgや1mgでは有意差なし。0.5mgまたは1mgで開始して2mgまで滴定する。

    主な有害事象は統合失調症では体重増加や傾眠、鬱病ではアカシジアや体重増。

    リンク: 両社のプレスリリース

    Imbruvica、EUでワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症に承認
    (2015年7月10日発表)

    アッヴィ(NYSE:ABBV)は、EUがImbruvica(ibrutinib)をワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症の治療に用いる適応拡大を承認したと発表した。非ホジキン型リンパ腫の一種で異常なBセルや免疫グロブリンMが大量に生産され疲労や頭痛、易出血性、視覚・神経異常など様々な症状を齎す。新患年1000人程度の希少疾患で、60歳以上が多いとされる。二次治療にモノセラピーで用いるが、化学療法不適患者には一次治療も可。

    420mgを一日一回、経口投与した第二相試験では総合反応率が91%だった。主な有害事象は骨髄抑制、下痢、悪心、ラッシュ、筋痙攣、疲労など。米国でも1月に適応拡大が認められている。

    アッヴィが買収したファーマサイクリクスの開発品で、ジョンソン・エンド・ジョンソンと共同開発・販売している。

    リンク: アッヴィのプレスリリース



    今週は以上です。

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