2015年6月28日

海外医薬ニュース2015年6月28日


【ニュース・ヘッドライン】


  • オルプロリクス、EUでも承認申請受理
  • 経口ファブリー病薬がEUで承認申請受理
  • Relistorの経口剤を米国で承認申請
  • CHMPがアレクシオンやノバルティスの新薬の承認を支持
  • 米国のワクチン委員会がB群髄膜炎菌ワクチンを限定的に推奨
  • cangrelorが米国でも承認
  • エーザイのFycompaが強直間代発作に承認


  • 【承認申請】


    オルプロリクス、EUでも承認申請受理
    (2015年6月26日発表)

    バイオジェン(Nasdaq:BIIB)とSwedish Orphan Biovitrum(STO:SOBI)は、Alprolix(eftrenonacog、和名オルプロリクス)をEUで承認申請し受理されたと発表した。用途はB型血友病患者の出血治療・予防。血液凝固第IX因子と免疫グロブリンの定常領域を融合したもの。予防用途では既存の薬剤が週2~3回投与するのに対して1回あるいはそれ以下で足りることが長所。

    米国では昨年3月、日本でも7月に承認されたが、EUは成人だけでなく小児の適応も同時に申請するよう求めているため後になった。

    リンク: 両社のプレスリリース

    経口ファブリー病薬がEUで承認申請受理
    (2015年6月25日発表)

    アミカス・セラピュティクス(Nasdaq:FOLD)は、EUがAT1001(migalastat)の承認申請を受理したと発表した。承認されればファブリー病の経口剤としては初になる。米国でも今年後半に承認申請する考え。

    ファブリー病はアルファ・ガラクトシダーゼAという酵素の遺伝子異常が原因でグロボトリアオシルセラミド(GL-3)が分解されず臓器に蓄積、機能障害を齎す希少疾患。治療薬はジェンザイムの酵素補充療法、Fabrazyme(agalsidase beta)が2001~2004年に欧米日で承認された。二週間に一回点滴静注する。

    アミカスは、ファーマシューティカル・シャペロンの研究で有名な希少疾患用薬開発会社。折り畳み異常の蛋白に結合してその蛋白が働くべき場所(アルファ・ガラクトシダーゼAの場合はライソゾーム)に移行するのを助ける、経口投与できることが長所で、migalastatは150mgを一日二回服用する。

    ファブリー病の遺伝子変異は様々なタイプがありmigalastatに反応する患者としない患者があるようだ。第三相試験では事前にヒト胎児由来腎臓細胞アッセイを用いて薬物応答性を調べ、一定以上の改善を示した患者だけを組入れた。治験中にGLP(医薬品試験実施基準)に対応したアッセイが開発されたため途中で切り替えた。ファブリー病患者の3~5割が応答するようである。

    EUのガイダンスに基づいて実施した実薬対照試験では二種類の方法で腎濾過率を測定・推測したが、どちらもFabrazymeのような酵素補充療法群と大差なかった。一方、FDAとの相談に基づいて実施した偽薬対照試験では腎臓間質性毛細血管におけるGL-3蓄積量の変化を観察したが、主評価項目の半減達成率も二次的評価項目のメジアン減少率も有意ではなかった。観察期間が6ヶ月では足りなかったのか延長試験は良好な結果になったが、途中でアッセイを変えたことが影響している可能性もあり良く分からない。

    migalstatの開発を巡っては07年にシャイアと提携したが権利返還、10年にはグラクソ・スミスクラインと提携したがまた返還と、紆余曲折している。ファーマシューティカル・シャペロンの臨床開発品第一号であったisofagamineはゴーシェ病試験がフェールし開発中止になった。第二号の首尾はどうなるか、エビデンスが盤石ではないので不透明なところがある。

    リンク: アミカスのプレスリリース

    Relistorの経口剤を米国で承認申請
    (2015年6月23日発表)

    カナダのヴァレアント・ファーマシューティカルズ(NYSE:VRX)と米国のプロジェニクス・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:PGNX)は、Relistor錠(methylnaltrexone bromide)を米国で承認申請したと発表した。オピオイド系鎮痛剤の副作用である慢性便秘の治療薬で、皮注用製剤は08年に米国で承認された。

    Relistorは脳血管関門を通過しない末梢選択的なミュー・オピオイド受容体拮抗剤で、オピオイドが腸の受容体を作動するのを妨げる。米国はオピオイドを常用する患者が1.2億人、うち慢性便秘を被る人は数百万人と推定されている。潜在的な市場規模は大きいはずだが、売上高は失望的。販売権を持っていたワイス(現ファイザー)は権利返還、サリックス(後にヴァレアントと合併)が承継した。日本の権利を持っていた小野薬品も提携解消した。

    リンク: 両社のプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    CHMPがアレクシオンやノバルティスの新薬の承認を支持
    (2015年6月26日発表)

    EUの薬品承認審査機関であるEMAの医薬品専門家委員会、CHMPは、6月の会議でアレクシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)の超希少疾患用薬二剤と、ノバルティスの抗癌剤二剤の承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認されることになる。

    リンク: CHMPのプレスリリース

    アレクシオンのKanuma(sebelipase alfa)はリソソーム酸リパーゼ(LAL)欠乏症の治療薬。リソソーム貯蔵疾患の一つで脂肪が肝臓や血管壁に蓄積、吸収不良や成長不全、肝臓合併症などを齎す。乳児発症型はWolman疾患とも呼ばれ、寿命は6か月未満と言われる。罹患率は50万出生に一人と推定されている。

    Kanumaはトランスジェニック雌鶏の卵管細胞にヒトLALを分泌させ卵白から回収したもの。LAL欠乏症の治療薬もトランスジェニック雌鶏が作る薬も初めて。日米欧で希少疾患用薬指定されている。臨床試験では肝機能検査値異常が改善し、肝臓脂肪や血中LDL-Cが低下。乳児試験では67%が1歳の誕生日を迎えることができた。深刻な有害事象は過敏反応で、発生率は3%、幼児試験ではもっと高かったようだ。米国でも昨年12月にローリング承認申請を完了したので、年内に承認されるのではないか。

    アレクシオンはカナダの超希少疾患用薬開発会社で、発作性夜間血色素尿症治療薬Soliris(eculizumab、和名ソリーアリス)の開発で知られる。Kanumaは今月、Synageva BioPharmaを84億ドルで買収して入手したもの。

    リンク: CHMPのプレスリリース
    リンク: アレクシオンのプレスリリース

    同じくアレクシオンのStrensiq(asfotase alfa、和名ストレンジック)は低ホスファターゼ血症の治療に用いる酵素補充療法。10万出生に一人(カナダのマニトバ州では2500人に一人と言われている)の遺伝子性疾患で、カルシウムやリンの代謝異常による筋骨格の形成異常や臓器障害を合併、小児発症型は1年生存率5割と言われている。開発が先行した小児発症型で骨合併症のある患者向けに例外的環境条項に基づいて承認することが支持された。成人性患者はデータ待ち状態のようだ。

    米国でも1月にローリング承認申請を完了、日本でも今月、第一部会を通過した。アレクシオンは11年にEnobia Pharmaを6.1億ドル及び達成報奨金最大4.7億ドルで買収して入手した。、

    リンク: CHMPのプレスリリース

    次に、ノバルティスのFarydak(panobinostat、和名ファリーダック)は汎ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤。多発骨髄腫でVelcade(bortezomib)及び免疫調停剤(サリドマイドやRevlimid)を既に使ってしまった患者にVelcade、dexamethasoneと三剤併用で施行する。HDAC阻害剤が承認されればEUでは初。米国では今年2月に承認された。

    臨床試験では二次治療の患者も組入れたが、深刻な有害事象が見られたため、EUでも米国でも上記のサブグループに限定された。このサブグループ分析ではVelcadeとdexamethasoneだけを投与した群よりメジアンPFS(無進行生存期間)が4.8ヶ月長かったが、ノバルティスのプレスリリースには7.8ヶ月向上したと記されているのが不思議なところ。米国のレーベルにも三剤併用群10.6ヶ月、二剤+偽薬群5.8ヶ月と記されているのでノバルティスの説明と食い違う。

    主な有害事象は下痢、悪心嘔吐、疲労、QT延長、骨髄抑制など。心房細動などの心臓イベントの発生率が17.6%と対照群の9.8%を上回り、失神も6.0%対2.4%で多かった。有害事象による治験離脱の発生率は36.2%。

    リンク: CHMPのプレスリリース
    リンク: ノバルティスのプレスリリース

    同じくノバルティスのOdomzo(sonidegib)は、摘出術・放射線療法不応の局所進行性基底細胞腫に用いる。12年に米国で、13年にはEUでも承認されたロシュのErivedge(vismodegib)と同じSMO阻害剤で、胎児期を除けば基底細胞腫など一部にしか関与しないヘッジホック・パスウェイを阻害する。臨床試験では反応率が54%だった。米国でも昨年第3四半期に承認申請。基底細胞腫のうちこれらの薬の対象になるのは1%程度と少ない。

    リンク: CHMPのプレスリリース

    適応拡大では、ロシュのPerjeta(pertuzumab、和名パージェタ)を乳癌の切除術前化学療法に併用することが支持された。米国は13年に適応拡大承認。

    Herceptin(trastuzumab)と同様にher2に結合するが、エピトープが異なり、her2がher3やher1(EGFR)とヘテロダイマーを形成するのをブロックする。12~13年に日米欧で承認された転移性乳癌用途でも、今回のネオアジュバントでも、her2陽性癌にHerceptinと併用する。高価な遺伝子組換え薬の併用なので、ネオアジュバントでも米国の価格で3~5万ドル掛かる。

    執念の成果と呼べるのがスイスのサンセラ(SIX:SANN)が承認申請したRaxone(idebenone)だ。レーバー遺伝性視神経萎縮症(LHON)に用いることが支持された。イタリアで血管性疾患・変性疾患による認知行動障害の治療薬Mnesisとして承認されているためか、適応拡大という位置付け。日本で1986年に脳梗塞脳出血治療薬アバンとして承認されたが98年に取り消された。海外のアルツハイマー病試験も打ち切りとなったが、今でもイタリアの他にフランスでも処方薬として用いられているようだ。

    07年にミトコンドリア疾患であるフリードライヒ失調症の治療薬として欧州で承認申請されたが、治験がフェールだったため承認されなかった。同じくミトコンドリア疾患であるLHONに関しても効果は穏やかで、CHMPは13年に否定的意見を出したが、今回、例外的環境条項に基づく承認が支持された。14年にはデュシェンヌ型筋ジストロフィーの試験でも呼吸能力低下を抑制したことが発表されている。

    リンク: CHMPのプレスリリース
    リンク: サンセラのプレスリリース

    最後に、アッヴィのHumira(adalimumab、和名ヒュミラ)。中重度活性期化膿性汗腺炎(HS)で既存の全身的治療法に十分に反応しない成人患者に用いることが支持された。炎症によりアポクリン腺が詰まることが引き金になり細菌感染で増悪する病気で、軽度なものを含めれば有病率は1%とのこと。

    抗TNFモノクローナル抗体医薬は発売から15年以上経ち、今日では単にTNF阻害剤と呼ばれるほど定着した。適応症は、製品によって違いはあるものの、リウマチ性関節炎、若年性特発性関節炎、軸性脊椎関節炎(強直性関節炎など)、乾癬と乾癬性関節炎、クローン病、潰瘍性大腸炎など多岐に亘る。Humiraは非感染性ぶどう膜炎の第三相も成功しており、早晩承認されるだろう。

    リンク: CHMPのプレスリリース
    リンク: アッヴィのプレスリリース

    米国のワクチン委員会がB群髄膜炎菌ワクチンを限定的に推奨
    (2015年6月24日発表)

    米国でFDAが予防用ワクチンを承認すると、CDC(疾病管理予防センター)が接種をどのような人に推奨するか、ACIPワクチン諮問委員会に諮問する。昨年から今年にかけてB群髄膜炎菌性髄膜炎の予防用ワクチンが二種類承認され、ACIPが二回、推奨を纏めたが、今回も限定的だった。医師が必要と認めれば保険還元の対象になるので、接種を望む青年には妨げにならないだろう。

    髄膜炎菌性髄膜炎はA群、C群、W-135群、Y群の混合ワクチンが普及し被害が減少したが、新たにB群の流行が見られるようになった。昨年はプリンストン大学で流行し、ノバルティスのBexseroを治験として用いる許可をFDAから取得する事態になった。その後、ファイザーのTrumenbaが14年、Bexseroも15年に正式に承認された(その後、ノバルティスはワクチン事業をグラクソ・スミスクラインに譲渡)。

    ACIPは今年2月の会合で、10~25歳の高リスク層に用いることを推奨したが、今回は、16~23歳(望ましいのは16~18歳)が個々の判断に応じて接種することを認めた。小児用ワクチンのようなユニバーサルリコメンデーションを採用しなかったのは、おそらく、B群は株が多くワクチンのカバレッジが十分ではないことや、感染確率があまり高くないためワクチン効率を確認する試験が行われなかったことなどが理由だろう。

    BexseroはEUで13年に承認されたが、保険還元・公的補助の対象にはなっていないようだ。米国が例外という訳ではなく、むしろ、保険が効くだけマシと言えるだろう。米国での価格は一人300~400ドルである模様。

    リンク: ファイザーのプレスリリース
    リンク: グラクソ・スミスクラインのプレスリリース

    【承認】


    cangrelorが米国でも承認
    (2015年6月22日発表)

    メディスンズ・カンパニー(Nasdaq:MDCO)は、Kengreal(cangrelor、欧州名Kengrexal)がPCIの補助療法としてFDAに承認されたと発表した。Plavix(clopidogrel)やEfient(prasugrel)などのP2Y12阻害剤でプリトリートされていない、そして施術中にGPIIa/IIIb阻害剤を用いる予定のない患者の周術期心筋梗塞を抑制する。

    アストラゼネカからライセンスした静注点滴用ATP類縁体で、血小板のADP受容体に結合して活性化を阻害する。急性冠症候群・不安定狭心症の急患には取り敢えずPlavixを投与してから血管造影を行い、必要ならPCIを行うのが一般的だが、もし冠動脈バイパス術が適応になった場合はPlavixが体から抜けるまで数日間、待たないといけない。多少の差はあるものの、Efientも同じである。このため、米国ではPlavixでプリトリートしない医療施設もあるようだ。

    cangrelorは作用のオンセットが15分と早く、60分で消えるため、救急医療に適している。臨床試験ではNNTが偽薬比で156だった。156人に投与すれば心筋梗塞やステント血栓、血管再貫通術を一例減らすことができ、残りの155人は投与してもしなくても結果は同じ(投与しても心血管イベントが発生、または、投与しなくても発生しない)、ということになる。

    一方で、抗血小板薬なので出血リスクが高まり、GUSTO基準に基づく中重度出血のNNHは461。NNTとNNHの比率は3倍程度なので、リスクとベネフィットのバランスはそれほど良いとは言えない。諮問委員会で二回、検討されたが、14年は7対2で承認反対が上回り、今年4月の委員会でも12人中2人が反対、一人は棄権した。

    結局、上記の条件を満たす患者だけに使われることになりそうだ。EUでも今年3月に承認された。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: メディスンズ・カンパニーのプレスリリース

    エーザイのFycompaが強直間代発作に承認
    (2015年6月22日発表)

    エーザイは、Fycompa(perampanel)を強直間代発作の治療薬として用いる適応拡大が米国と欧州で承認されたと発表した。2012年に部分癲癇のアジャンクト(既存薬に追加投与)用薬として承認されたAMPA阻害剤で、グルタミン酸による過剰刺激を緩和する。

    癲癇は薬で発作を予防することができるが、複数の薬を併用しても十分に予防できない患者にはFycompaのような異なった作用機序の薬が必要だ。強直発作/間代発作は中でも大きな発作。臨床試験では発作頻度50%削減成功率が64%と偽薬群の39%を有意に上回った。

    リンク: エーザイのプレスリリース(米国承認、和文)
    リンク: エーザイのプレスリリース(EU承認、6/25付、和文)



    今週は以上です。

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    2015年6月21日

    海外医薬ニュース2015年6月21日号


    【ニュース・ヘッドライン】


    • バイオマリン、軟骨無形成症の第二相試験が成功
    • Tekmira、エボラ治療試験がフェール
    • テバ、抗IL-5抗体の承認申請が受理された
    • オプジーボ、EUで承認

    【今週の話題】


    LancetがMERSの特集
    (2015年6月3日オンライン刊行)

    Lancet誌がMERSセミナーの内容をホームページで刊行した。発生状況や原因ウイルス、診断、治療、予防について総説している。

    治療方法は存在せず支持療法が中心、と書いているが、現場の医療従事者はそうも言っていられないので、便益がリスクを上回る可能性のある方法をエビデンス(試験論文)と合わせて紹介している。

    まず、中和抗体。エボラウイルス性疾患でも出てきたが、感染から回復した患者の血漿などだ。次に、インターフェロンのアルファやベータ。MERSのコロナウイルスはSARSよりインターフェロン感受性が高いようだ。ribavirinも収載された。インターフェロンとribavirinの併用試験では14日生存率が改善したが28日生存率はしなかった。進行した患者が対象だったことが敗因かもしれないようだ。

    in vitroで活性が見られたのは、プロテアーゼ阻害剤のlopinavirやnelfinavir(抗HIV薬として承認)、cyclophilin阻害作用を持つciclosporin(免疫抑制剤)やalisporivir(C型肝炎治療薬として開発)、chloroquine(抗マラリア薬)、mycophenolic acid(免疫抑制剤)、nitazoxanide(抗寄生虫薬)。免疫抑制剤は有害かもしれないので、臨床研究が待たれるところだ。

    リンク: Middle East respiratory syndrome(Lancet、オープンアクセス)

    【新薬開発】


    バイオマリン、軟骨無形成症の第二相試験が成功
    (2015年6月17日発表)

    希少疾患用薬メーカーのバイオマリン(Nasdaq:BMRN)は、BMN 111(vasoritide)の第二相軟骨無形成症試験が良好な結果になったことを発表した。最高用量群で成長速度が正常に近い数値まで改善した。承認審査機関と相談の上で承認申請用試験を開始する考え。

    軟骨無形成症は軟骨の成長を抑制するFGFR3(線維芽細胞増殖因子受容体3)の遺伝子変異が原因で、四肢短縮型低身長になる。多くの場合、親の遺伝ではない。頻度は1.5~4万出生に一人と推定されている。BMN 111は、FGFR3と逆に軟骨の成長を促すC型ナトリウム利尿ペプチドを修飾して安定性を高めたもの。欧米で希少疾患用薬指定を受けている。

    第二相試験では5~14歳の患者26人を、体重1kg当り2.5mcg、7.5mcg、または15mcgを毎朝投与する3群に割付けたところ、15mcg/kg群は6ヶ月成長速度が平均で年率6.1cmと、ベースライン時点の4.0cmを50%上回った(p=0.01)。7.5mcg/kg群は年率4.2cmに45%増加(p=0.04)、2.5mcg/kgは無効だった(3.4cmとベースライン値の3.8cmから殆ど変らず)。深刻な有害事象は発生しなかった。

    バイオマリンは、15mcg/kgで承認申請用試験を行うと共に、年齢の進んだ患者に対するキャッチアップ用として30mcg/kgを開発する考えだ。同社が事業を行っている地域には96000人の患者がいて、うち18歳以下の24000人が治療対象と推定している。

    リンク: バイオマリンのプレスリリース

    Tekmira、エボラ治療試験がフェール
    (2015年6月19日発表)

    Tekmira Pharmaceuticals(Nasdaq:TKMR)は、シエラレオネで行われていたエボラウイルス疾患試験の組入れが中止されたと発表した。同社が開発したsiRNA薬、TKM-Ebola-Guineaの効果や安全性を検討していたが、中間解析で無益性が認定された。小規模な試験なのでサブグループ解析を行えば例えば発症後の期間が短いサブグループに偶然に良い結果が出る可能性もあるが、常識的に考えれば、同じような話を1年間に2度も3度も聞く可能性は低いだろう。

    リンク: Tekmiraのプレスリリース

    【承認申請】


    テバ、抗IL-5抗体の承認申請が受理された
    (2015年6月15日発表)

    テバ製薬(NYSE:TEVA)は、FDAがreslizumabの承認申請を受理したと発表した。抗IL-5ヒト化抗体で、難治性好酸球性喘息症の治療に用いる。グラクソ・スミスクラインも昨年、抗IL-5ヒト化抗体Nucala(mepolizumab)を承認申請、6月の諮問委員会で支持された。欧州や日本でも承認審査中。また、アストラゼネカも協和発酵キリンのポテリジェント技術を用いた抗IL-5受容体アルファ鎖ヒト化抗体、MEDI-563(benralizumab)の第三相試験を行っており、競争が激化している。

    テバは世界最大のGE薬メーカーだが、特許性新薬でも実績がある。イスラエルの研究所との繋がりを生かしたものが多く、フラッグシップは日本でも昨年、武田薬品が承認申請した再発寛解型多発性硬化症用薬、Copaxone(glatiramer acetate)だ。

    2011年には中枢神経系薬に強いセファロンを68億ドルで買収、医療用の覚醒剤や麻薬をラインアップした。reslizumabはシェリング・プラウ(MSDが買収)がセルテック(UCBが買収)と共同開発していたが02年に中止、開発権を取得したCeption社を2010年にセファロンが買収という経緯。

    リンク: テバのプレスリリース

    【承認】


    オプジーボ、EUで承認
    (2015年6月19日発表)

    BMSは、小野薬品と共同開発したOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)がEUで悪性黒色腫用薬として承認されたと発表した。米国より半年遅れたが適応は広く、一次治療と再発治療が認められ、braf阻害剤が適応になるbrafV600変異型に一次治療で単剤投与することも可。

    一次治療dacarbazine対照試験では1年生存率が73%対42%と上回り、二次治療試験の中間解析では客観的反応率(ORR)が31.7%と化学療法群(dacarbazine又はcarboplatin・paclitaxel併用)の10.6%を上回った。

    リンク: BMSのプレスリリース


    今週は以上です。

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    2015年6月14日

    海外医薬ニュース2015年6月14日号


    【ニュース・ヘッドライン】


    • MERSは院内感染が中心
    • ADA:ジャニュビアは心血管疾患リスクを高めない
    • ADA:リキスミアは心血管疾患リスクを高めない
    • アーゼラの三剤併用CLL試験が成功
    • Pristiqの小児鬱病試験がフェール
    • 筋ジストロフィー薬がEUでも承認申請
    • FDA諮問委員会が抗PCSK9抗体の承認を支持
    • FDA諮問委員会が抗IL-5抗体の承認を支持

    【今週の話題】


    MERSは院内感染が中心
    (2015年6月10日報道)

    報道によると、韓国で開催されたWorld Conference of Science Journalistsで、Asan Medical CenterのSung-Han Kim教授がMERSの感染状況について報告した。新規症例はほぼ全てが院内感染。医療施設では患者一人につき平均6.7人に感染したが、院外では0.7人と少ない。SARSは感染者の20%が地域感染で、院外患者一人につき平均2~3人が感染した。前回書いたように、伝染力という点ではSARSほどではなさそうだ。

    こうなると、身近に疑わしい患者がいる場合は早く専門施設に連絡を取り診断・治療を受けさせることが重要になる。自分で介護するのはリスクが高い。また、感染者が立ち寄った医療施設に不必要に近寄らないことも重要だろう。感染した可能性のある人は隔離された模様なのでリスクは小さいだろうが、念のため、新患なら別の施設に行き、見舞いなども避けた方が良いのではないか。特に、重い合併症のリスクを持つ慢性呼吸器疾患、糖尿病などの患者は自重が必要だろう。

    一方で、普通に生活している分にはリスクが低いのだから、過度な心配は不要だろう。

    韓国ではマスクをする人が増えたようだが、Kim教授は否定的なようだ。但し、呼吸器症状のある患者はそれがMERSだろうが只の風邪であろうがしたほうが良い、と推奨した由。新型インフルエンザの時に書いたように、ウイルスは小さいのでマスクの隙間から出てしまう。空気穴が小さいマスクもあるが、時間が経つと水蒸気が詰まり息ができなくなるので、一日に数回、交換しなければならない。

    リンク: Scientific Americanの記事
    リンク: MedPageTodayの記事(要登録)


    【新薬開発】


    ADA:ジャニュビアは心血管疾患リスクを高めない
    (2015年6月8日発表)

    MSDのDPP-4阻害剤、Januvia(sitagliptin、和名ジュニュビア)は二型糖尿病患者の心血管疾患リスクを高めないことが大規模なアウトカム試験、TECOS試験によって確認された。成功したこと自体はMSDが発表済みだが、具体的な内容がADA(米国糖尿病学会)とNew England Journal Of Medicine誌で発表されたもの。

    TECOSは心血管疾患を合併する50歳以上の二型糖尿病患者約14000人をJanuviaを使う群と偽薬群に無作為化割付して、心血管疾患死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、不安定狭心症による入院の何れかが発生するリスクを比較したもの。デューク大学とオックスフォード大学の研究者がMSDの援助を受けて主導し、世界38ヶ国の673施設でメジアン3年間、実施した。

    狙いは、Januviaの心血管リスクが偽薬群、つまりJanuvia以外の血糖治療薬と比べて著しく高くないことを確認すること。FDAなどの要求に応えるものだ。

    結果は、ハザードレシオが0.98、95%信頼区間は0.88~1.09となり、リスクが1.3倍以上という仮説が棄却された。非劣性検定なのでper-protocolだが、intent-to-treatによる優越性解析でも同様な数値になっている。

    他社のDPP-4阻害剤のアウトカム試験で心不全による入院が増加する可能性が浮上したが、TECOSではハザードレシオ1.00、100人年当り発生率はJanuvia群が1.07、非Januvia群が1.09となり、リスクは見られなかった。理論的にはクラスイフェクトと考える余地があったが、少なくともJanuviaに関しては心配する必要はなさそうだ。全死亡も群間差はなかった。

    この試験の結果を受けて、これ以上、二型糖尿病薬の心血管アウトカム試験をやっても無駄という意見も出ているが、誤解だろう。第一に、この試験は血糖強化治療の有効性を検討したものではない。むしろ、血糖値の群間差が発生しないよう配慮しており、結果も、HbA1cで0.3%程度の差しかなかった(Januvia群のほうが低かった)。あくまて、Januviaと他の血糖治療薬の比較試験なのである。

    また、様々な背景を持つ患者を組入れたので、例えば鬱血性心不全歴を持つ患者でも心血管疾患リスクは高まらないとかサブグループの情報も豊富だ。更に、稀だが深刻な有害事象についてもある程度のデータを得ることができた。DPP-4阻害剤や類似した作用機序を持つGLP-1作用剤は急性膵炎のリスクを高める懸念がある。TECOS試験ではJanuvia群で23例(0.3%)、偽薬群では12例(0.2%)発生した。p値が0.05を超えるので有意差はなかったが、数値上は倍近いのだから、リスクが無いとは言えないだろう。

    それでも、筆者の計算ではNNHは2000人年に一人(2000人に1年間投与すると一人が被害を受け、それ以外の患者は投与しても発症しない、または、投与しなくても発症する)なので、リスクは決して高くない(勿論、油断せずに兆候に注意すべきである)。

    新薬承認前に行われる無作為化対照試験は昔は3ヶ月、今日でも6ヶ月で足りる。1年、2年の直接比較試験も行われているが目的は販売促進または医学者や医療保険の要求に応えることで、義務ではない。しかし、患者は何十年も服用するのだから長期試験のエビデンスは長ければ長い方が良い。日本のように、二型糖尿病患者の死因として癌が多い国では癌のリスクが高まらないことを確認する必要があるが、そのためにはTECOS試験でも期間が短すぎるくらいである。血糖治療薬に限らず、慢性疾患用薬には長期大規模試験のエビデンスが不可欠だ。

    リンク: MSDのプレスリリース
    リンク: Greenらの治験論文(NEJM、オープンアクセス)

    ADA:リキスミアは心血管疾患リスクを高めない
    (2015年6月8日発表)

    ADAではサノフィのGLP-1作用剤、Lyxumia(lixisenatide、和名リキスミア)の心血管アウトカム試験であるELIXA試験の結果も発表された。二型糖尿病で急性冠症候群を発症してから70日以内(recent ACS)の患者約6000人をLyxumia群と偽薬群に無作為化割付してMACE(主要有害心血管事象・・・構成項目はTECOS試験と同じ)のリスクを比較したもので、主評価項目である非劣性解析が成功した。ハザードレシオは1.017(95%信頼区間0.886~1.168)だった。

    心不全による入院はハザードレシオ0.96(95%CI0.75~1.23)。膵炎の発生率は0.2%と偽薬群の0.3%と大差なかった。この試験は症例数がTESCOの半分以下なので、稀な有害事象の検出力は弱いと考えた方が良いだろう。

    FDAが血糖治療薬の心血管アウトカム試験を求めるようになったのは、rosiglitazoneの心筋梗塞リスク懸念が表面化したことが切っ掛けだ。薬効確認試験のメタアナリシスを行ってリスクがすごく高い可能性を検討し、もし疑いが残るなら承認前に、ある程度安心できるなら承認・発売後に心血管アウトカム試験を行って、最終的に、リスクが1.3倍以上である可能性を払拭する。Januviaは規制強化の前に承認されたので、時間が掛かっても長期大規模な試験を行うことができた。

    一方、LyxumiaはFDAが承認前に実施するよう求めた。EUや日本では13年に承認されたが、審査文書を見るとハザードレシオ1.25(95%CI0.67~2.35)となっており、FDAの最初のハードルをクリアしていない。信頼区間が広いことから想像すると、発症例が少なすぎたのだろう。Recent ACSを対象にしたのは、元々の心血管リスクが高く必要症例数や実施期間が少なくて済むからだろう。

    理屈の上ではどちらに転んでも不思議は無かったので、非劣性解析が成功したのはポジティブニュースだ。一番喜んでいるのはEUや日本で使っている患者や医師だろう。サノフィは7~9月期にFDAにデータを提出し承認を求める予定。

    それにしても、何時まで経っても分からないのがActos(pioglitazone)のPROACTIVE試験だ。この試験も治療ガイドラインに則した治療が行われたのだが、Actos群の方がHbA1cが低かった。当時は血糖強化治療で心血管リスクを削減することが可能と考えられていたので特に違和感が無かったが、その後、幾つかの試験では強化治療が却って有害である可能性が浮上。振出しに戻って、Actos自体に特別な作用があると考えざるを得なくなった。

    通常は他の患者サブグループや同じ作用機序を持つ他の薬の試験が行われてエビデンスを補強することができるのだが、PPAR作動剤は心不全リスクや膀胱癌の懸念からActos以外、開発・販売中止になった。このため、Actosの特別な作用がリアルなのかフェイクなのか、真相は闇のままだ。

    リンク: サノフィのプレスリリース

    アーゼラの三剤併用CLL試験が成功
    (2015年6月12日発表)

    ノバルティスのArzerra(ofatumumab、和名アーゼラ)の第三相再発性CLL(慢性リンパ性白血病)三剤併用試験の結果がEHA欧州血液学学会で発表された。fludarabineとcyclophosphamideを併用するレジメンに更にArzerraを追加する効用を検討したオープンレーベル試験で、PFS(無進行生存期間)がメジアン28.9ヶ月と二剤だけの群の18.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.67、統計的に有意だった。

    全生存の解析もメジアン56.4ヶ月対45.8ヶ月、ハザードレシオ0.78となったが、95%信頼区間で見てもログランクp値で見ても有意ではなかった。検出力が足りないのかもしれないが、オープンレーベル試験なので主観の入らない全生存解析を軽視することはできない。

    グレード3以上の有害事象の発生率は74%対69%で、好中球減少症や注射箇所反応が増加した。

    Arzerraはジェンマブが創製した抗CD20完全ヒト化抗体で、米国では09年にCLLのサルベージ療法としてモノセラピーで承認された。同じ抗CD20抗体であるロシュのRituxan(rituximab)やGazyva(obinutuzumab)が各種CLLに有効であることを考えれば今回の成功は意外ではない。元々はグラクソ・スミスクラインが開発販売していたが、アセットスワップによりノバルティスが抗癌剤事業全体を取得した。

    リンク: ノバルティスのプレスリリース


    Pristiqの小児鬱病試験がフェール
    (2015年6月11日発表)

    ファイザーは、抗鬱剤として欧米で承認されているPristiq(desvenlafaxine)の第三相鬱病青少年試験がフェールしたと発表した。fluoxetineを投与した群も偽薬比有意な差が見られかったので、薬ではなく試験がフェールしたと考えるべきだろう。抗鬱剤や向精神薬の試験がフェールすることは珍しくなく、第三相試験は三本、四本実施するのがルーチンである。Pristiqの小児試験も四本あるようなので、全てが開票するまで答えは出ないだろう。

    リンク: ファイザーのプレスリリース

    【承認申請】


    筋ジストロフィー薬がEUでも承認申請
    (2015年6月8日発表)

    バイオマリン(Nasdaq:BMRN)はdrisapersenをデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬としてEUに承認申請したと発表した。米国でも4月にローリング承認申請を完了しており、早ければ年内にも承認される可能性がある。

    drisapersenはジストロフィン遺伝子のエクソン51が翻訳されるのを妨げるエクソン51スキッピング薬。正常なジストロフィンより短いがある程度機能する蛋白が作られるようになる。EUの23000人のDMD患者のうち3000人程度に有効と考えられている。

    第二相試験で6分歩行テストが偽薬比35メートル改善したが、第三相では10メートルに留まりフェールした。開発者であるProsensaはグラクソ・スミスクラインが開発販売提携を解消した後もFDAやEUと粘り強く交渉を続けると共に、昨年、バイオマリンに身売りして開発販売体制を強化した。

    同種の薬はSarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)もエクソン51スキッピング薬eteplirsenを米国で5月にローリング承認申請開始。日本でも日本新薬などがエクソン53スキッピング薬を開発中。

    リンク: バイオマリンのプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    FDA諮問委員会が抗PCSK9抗体の承認を支持
    (2015年6月9日発表)

    FDAは6月9日と10日に内分泌代謝学薬諮問委員会を招集し、二種類の抗PCSK9完全ヒト化抗体について意見を聞いた。どちらも大多数の委員の支持を受けたが、対象を制限すべきという意見が意外に多かった。17年に心血管アウトカム試験の結果が出るまで第一選択薬と認めるべきではないという意見で、筆者も賛成だ。

    高脂血症・混合異脂血症ではスタチンの数々の心血管アウトカム試験が成功。当初は家族性高脂血症の治療薬という位置付けだったが、今日では心筋梗塞の再発予防、初発予防目的で数千万人が服用する超大型薬に育った。平行して、LDL-C低下薬=心筋梗塞予防薬という公式が認知されるようになりFDAもLDL-Cが下がればそれで良しというスタンスを取るようになったが、CETP阻害剤やナイアシン、フィブレートといったLDL-C低下作用も持つ薬のアウトカム試験が続々とフェールしたため、振出しに戻って再考する必要が生じた。

    抗PCSK9抗体は肝細胞のLDL-C受容体を零落させる酵素に結合・阻害し、血液中のLDL-Cの取込を促す。臨床試験ではLDL-Cが60~70%低下。著しく高値のホモ接合型家族性高脂血症(HoFH)でも30%程度低下した(HoFHはLDL-C受容体の機能が低下していることが多いので、効果が減弱するのは作用機序的に止むを得ない)。9日はリジェネロンがサノフィと共同開発しているPraluent(alirocumab)、10日はアムジェンのRepatha(evolocumab)を検討した。

    申請された適応・用法は原発性高脂血症と混合異脂血症の患者にモノセラピーとスタチンなどとの併用。投与頻度と用量は若干異なり、Praluentは75mgまたは150mgを二週間に一回、皮下注。Repathaは140mgを二週間に一回、または420mg(140mgを3回)を月一回、皮下注で、HoFHには420mgを二週間に一回という用法も申請された。Praluentは低量で開始して滴定が可能だが、月一回投与はできず、また、著高量を必要とする患者には足りないことになる。

    今回の諮問委員会に特徴的な議題は、抗PCSK9抗体をスタチンの代わりに用いることを認めるべきか、という点だ。心血管アウトカム試験のエビデンスのない薬を第一選択薬として認めるにはLDL-C低下=心筋梗塞予防の公式が成立する必要があるが、上記のように、疑わしくなった。

    スタチン不耐患者なら代替品になりうるが、ここで問題なったのが定義だ。Praluentのスタチン不耐患者を対象にした試験では、Lipitorに割付けられた患者の多くが途中で離脱しなかった。これは、スタチン不耐と分類される患者が本当はそうではないことを示唆している。リジェネロン/サノフィはスタチン不耐患者に、アムジェンは臨床的にスタチンが不適当な患者に用いることができるという文言を要求しているので、この問題に目を瞑ることはできない。

    諮問委員会の採決は、Praluentは16人中13人が承認を支持した。しかし、賛成者のうち6人は家族性高脂血症に限定すべきとの考えを示した。更に、全ての委員が、心血管アウトカム試験の結果が出るまでは全ての混合異脂血症患者に認めるべきではない、と判定した。

    Repathaは15人中11人が承認を支持したが、HoFHに関しては全員が支持した。ここでも、スタチンと同様な幅広い適応は認めるべきではないという意見が目立った。また、LDL-Cが下がり過ぎた時に減量できず、スタチンの減量で対処してしまうリスクを懸念する声があった。

    Repathaは何故、低量規格が無いのか?70mgを二週間に一回投与した試験ではLDL-Cが40~50%低下と140mgより20ポイント程度小さく、Praluentの75mgと同じようなものだ。滴定のニーズを考えれば70mgも商品化した方が良かったのではないか。

    さて、諮問委員会は適応を幅広くすることに慎重な意見が目立ったが、FDAが制限なしに承認する可能性は残っているだろう。結局のところ、様々な選択肢から目の前の患者に最適な治療法を選ぶのは医療従事者の仕事である。抗PCSK9抗体はバイオ薬なので価格が高いだろうから、誰でも気軽に使えるわけではなく、乱用のリスクは小さいだろう。

    薬の値段が高いのは物質ではなく正しい使い方や効能、リスクに関する情報に価値があるから、というのが筆者の考えであり、抗PCSK9抗体はこの点で物足りない。アウトカム試験の結果が出るまでは価格に値しないと考える人も多いのではないか。

    リンク: リジェネロン/サノフィのプレスリリース

    FDA諮問委員会が抗IL-5抗体の承認を支持
    (2015年6月11日発表)

    グラクソ・スミスクラインは、FDAの肺・アレルギー用薬諮問委員会がNucala(mepolizumab)を重度好酸球性喘息症の成人の維持療法薬として承認することを全員一致で支持したと発表した。一方、12~17歳の青少年に関しては賛成4人、反対10人で反対が上回った。治験の投与実績が16例と少ないことが理由のようだ。

    Nucalaは抗IL-5完全ヒト化抗体で、好酸球の活性化、生存、肺移行に関わるIL-5をブロックする。2000年代に好酸球増多症候群の治療薬として欧州で承認申請されたが撤回となった。好酸球増多を伴う喘息症に対する期待は当時からあったが、呼吸能力改善が小さく大規模な試験を行って増悪予防効果を検討する必要があったためか、中々第三相入りしなかった。

    適応は、吸入ステロイドなどを用いても喘息発作を十分に管理できない重度喘息症で、好酸球数が150セル/mcL超、または、過去1年間に300セル/mcL超だった患者。4週間に一回、皮下注射する。

    アストラゼネカも協和発酵キリンからライセンスした抗IL-5ポテリジェント抗体、benralizumabの第三相試験を実施中。

    リンク: GSKのプレスリリース


    今週は以上です。

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    2015年6月7日

    海外医薬ニュース2015年6月7日号

    【ニュース・ヘッドライン】


    • MERSについて
    • ASCO:オプジーボとYervoyの併用データ
    • ASCO:ノバルティスのCAR-Tがリンパ腫に良績
    • Imbruvicaの一次治療試験が成功
    • JNJ、抗CD38抗体の承認申請に着手
    • Keytrudaの適応拡大申請が受理
    • FDA諮問委員会が女性の性的不全治療薬を支持

    【今週の話題】


    MERSについて
    (2015年6月7日)

    MERS(中東呼吸器症候群)は2012年にサウジアラビアで発見された感染症。当時は2002~3年に流行したSARSの再来かと心配したが、幸い、同国を中心とした小規模・散発的な発生に留まっている。

    この二つはどちらもコロナウイルスによる感染症だが、違いは、MERSは容易には感染しないこと。リスクが高いのは濃厚接触者で、患者の家族や医療従事者の感染例が多い。もう一つの特徴は死亡率の高さ。SARSは約8000人が感染しその1割が死亡した。MERSはこれまでに1190人の感染が確認され、少なくとも444人が死亡した(WHOの6月5日付け報告による)。SARSと異なり遠く離れた国の病気と油断していたが、犠牲者の数ではそれほど変わらないのである。

    SARSと同様に、抗ウイルス薬もワクチンも存在しない。数年の流行で終わってしまう感染症は有望な薬を見つけて大規模な臨床試験を行う頃には終息してしまい、また、開発資金も集めにくいことがボトルネックだ。SARS流行時はインターフェロン(アルファやベータ)やribavirinを用いるケースもあったが、小規模な臨床試験では特別な効果は見られなかったようだ。

    結局、WHOの資料にもあるように、水分補給や解熱剤、鎮痛剤、呼吸補助、重複感染なら抗生物質と、患者の症状に合わせた支持療法を行うくらいしか治療法はない。

    それでも、in vitroの研究で活性を示したものはある。第一は、代謝拮抗剤。Chanらの試験ではミコフェノール酸(ロシュ/中外のセルセプトやノバルティスのMyfortic)やインターフェロンベータ1b、ribavirinが活性を示した。セルセプトは免疫抑制剤として承認されている薬なので本当に効くのか分からないが、承認用量の数十分の一で足りる可能性があるので希望が残っているのではないか。第二は、抗体。TangらとJiangらが夫々にスクリーニングを行い複数の候補を発見したようだ。

    MERSやエボラは生物兵器として用いられる可能性があるので薬やワクチンを開発する大義名分がある。第一相まで進めておいて、次に流行した時に第二相、三相を行うという方法もあるだろう。メキシコで発生した新型インフルエンザ様疾患が1~2ヶ月で日本に上陸したように、国際交流が活発な今日では対岸の火事と傍観していられない。素早く決断し実行することが重要だ。

    リンク: ファクトシート:MERSコロナウイルス(WHO)
    リンク: Chanらの論文(Journal of Infecttion、PubMed抄録)
    リンク: Tangらの論文(PNAS誌)
    リンク: Jiangらの論文(Science Translational Medicine、PubMedの抄録)

    【新薬開発】


    ASCO:オプジーボとYervoyの併用データ
    (2015年6月1日発表)

    BMSは、切除不能悪性黒色腫用薬Yervoy(ipilimumab)とOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)の併用一次治療試験の結果をASCO米国臨床腫瘍学会で発表した。

    併用群とOpdivo単剤投与群のPFS(無進行生存期間)をYervoy単剤投与群と比較したCheckMate-067試験で、各群のメジアン値は11.5ヶ月、6.9ヶ月、2.9ヶ月、ハザードレシオは併用が0.42(99.5%信頼区間0.31-0.57)、Opdivo単剤が0.57(同0.43-0.76)となり、どちらも有意だった。

    この治験の共同主評価項目は上記の二種類の解析と未発表の全生存解析だが、探索的に行われた併用とOpdivo単剤の比較もハザードレシオ0.74(95%信頼区間0.60-0.92)だった。主評価項目ではないので統計学的に有意とは言えないが、良い数字である。ところが、PD-L1発現状況に基づくサブグループ分析で最も大きな便益を示したのは低/無発現癌だった。

    この二薬の併用は極めて高価であり、グレード3/4の薬物関連有害事象の発生率も各群55.0%、16.3%、27.3%と高まる。もしPD-L1が応答性予測因子になるのならば、事前に検査してから適否を検討すべきだろう。

    BMSは、この併用一次治療をFDAに適応拡大申請し、受理されたことも発表した。FDAが優先審査して9月30日までに回答する予定。第二相試験のORR(客観的反応率)データに基づくものだが、今回の試験も審査対象になるのではないか。

    Opdivoの効果とPD-L1発現の関連が示唆されたのは非扁平上皮非小細胞性肺癌に続く二回目だ。MSDやロシュの抗PD-1/抗PD-L1抗体に関してはこれまでも指摘されていたことだが、なぜOpdivoは今まで分からなかったのだろうか?PD-L1発現を検査するアッセイはものによって結果が異なると言われており、これが原因かもしれない。

    リンク: BMSのプレスリリース
    リンク: 同、適応拡大申請受理

    ASCO:ノバルティスのCAR-Tがリンパ腫に良績
    (2015年6月1日発表)

    ノバルティスは2012年にCAR-T(キメラ抗原受容体-Tセル療法)の老舗であるペンシルベニア大学の研究者と共同研究開発提携を結び、CD19を標的とするCART-19/CTL019の臨床開発を進めている。小児急性リンパ芽球性白血病で第二相試験に進んだが、ASCOでは再発性難治性リンパ腫の第二相試験のデータも公表された。

    びまん性大細胞型Bセルリンパ腫と濾胞性リンパ腫の成人患者を組入れた試験で、19人中11人が完全反応、2人が部分反応だった。びまん性大細胞型Bセルリンパ腫はORR(客観的反応率)が50%、濾胞性リンパ腫は100%だった。CAR-Tに付き物のグレード3以上のサイトカイン放出症候群は2人で発生した。

    CAR-Tは腫瘍特異的抗原に結合する抗体フラグメントとTセル受容体の共刺激伝達領域刺激因子を繋げたものを作り出す遺伝子を患者から採取したTセルに導入し、培養したもの。CTL019は再発難治性小児急性リンパ芽球性白血病でFDAからブレークスルー・セラピー指定を受けている。

    リンク: ノバルティスのプレスリリース

    Imbruvicaの一次治療試験が成功
    (2015年6月4日発表)

    アッヴィ(NYSE:ABBV)が先月、210億ドルで買収したファーマサイクリクスは、Imbruvica(ibrutinib)の第三相慢性リンパ性白血病/小リンパ性白血病一次治療試験が成功したと発表した。65歳以上の患者269人をImbruvica群とchlorambucil群に無作為化割付してPFS(無進行生存期間)を比較したオープンレーベル試験で、主評価項目も、全生存期間や反応率でも、Imbruvicaが優れていた由。データは今後発表される予定。

    ImbruvicaはBセルのサバイバルに関わるbtkという酵素を阻害する経口剤。13年にマントルセルリンパ腫の二次治療薬として、14年には慢性リンパ性白血病/小リンパ性白血病の二次治療薬(特定の遺伝子変異を持つ癌には一次治療可)として、承認された。今回の試験成功を受けて、高齢者の一次治療に適応拡大申請することになりそうだ。

    Imbruvicaはジョンソン・エンド・ジョンソンと共同開発・販売している。

    リンク: ファーマサイクリクスのプレスリリース(PR Newswire)

    【承認申請】


    JNJ、抗CD38抗体の承認申請に着手
    (2015年6月5日発表)

    ジョンソン・エンド・ジョンソンはHuMax-CD38(daratumumab)のローリング承認申請を米国で開始したと発表した。

    薬効のエビデンスとして使われるのはASCOで発表された第二相試験。多発骨髄腫でプロテアソーム阻害剤(JNJ/武田のVelcadeなど)と免疫調停剤(セルジーンのRevlimidなど)の両方に反応しなかった、メジアンで5レジメンによる前治療を受けた患者106人を対象とした。

    VGPR(大変良好な部分反応)12%、独立査読委員会の判定に基づくORR(客観的反応率)29%、メジアン反応持続期間7.4ヶ月と、サルベージ療法としては良好な結果が出た。深刻な有害事象の発生率は30%、有害事象による治験離脱は4.7%だった。

    CD38は多発骨髄腫の表面に発現する膜貫通型の外酵素で、daratumumabが結合するとアポトーシスが誘導される由。デンマークのジェンマブがトランスジェニックマウス法で創製した完全ヒト化抗体で、2012年にJNJに世界独占開発販売権を供与した。

    リンク: JNJのプレスリリース
    リンク: JNJのプレスリリース(ASCOのデータ発表について、5/30付)

    Keytrudaの適応拡大申請が受理
    (2015年6月1日発表)

    MSDは、Keytruda(pembrolizumab)の適応拡大申請がFDAに受理されたと発表した。優先審査を受け、10月2日までに可否が決まる予定。再発性非小細胞性肺癌で、白金薬レジメンや、適応になる場合はEGFR阻害剤やALK阻害剤による前治療を受けた患者が対象。用量/投与スケジュールは既承認の再発性悪性黒色腫と同じで、2mg/kgを3週間に一回、点滴静注する。DAKO社がPD-L1発現検査をPMA(販売前申請)したことも併記されているので、おそらく、陽性患者だけを対象にするのだろう。

    リンク: MSDのプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    FDA諮問委員会が女性の性的不全治療薬を支持
    (2015年6月5日発表)

    FDAは骨・再生産・泌尿器学薬諮問委員会と薬品安全性リスク管理委員会の共同会議を開催し、米国のSprout Pharmaceuticalsが承認申請したADDYI(flibanserin)を検討した。5年前の委員会では11人の委員全員が承認に反対したが、今回は賛成18人、反対6人と多数が支持した。一歩前進だが、まだ波乱の余地は残っていそうだ。

    flibanserinは5-HT1Aにはアゴニスト、5-HT2Aにはアンタゴニストとして作用し、ドパミンとノルエピネフィリンを増強しセレトニンを抑制する。ベーリンガー・インゲルハイムが抗鬱剤として開発したが2001年に中止。その後、被験者の女性から性的欲望低下障害が改善したという声があったため大規模な第三相試験を実施したところ、穏やかな効果が見られた。しかし、効果が限定的であることや失神などのリスクが見られることから承認されず、この用途でも2010年に開発中止となった。

    権利を取得したSprout社が再承認申請したが再び審査完了通知を受領。しかし、異議申立が成功し、薬物相互作用試験や運転シミュレータ試験を実施した上で今年2月に再申請に漕ぎ着けたという経緯がある。

    承認されれば粘り勝ちとなるが、諮問委員会の大多数はREMSと呼ばれる副作用対策プログラムの導入を求めた模様なので、広く使われる薬にはならないだろう。女性の性的不全治療薬が承認されれば初。

    リンク: Sproutのプレスリリース



    今週は以上です。

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