2015年5月24日

海外医薬ニュース2015年5月24日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • インターセプト、NASHでも第三相試験開始へ
  • アムジェン、抗IL-17受容体抗体の開発から手を引く
  • 第二の筋ジストロフィー用薬が承認申請へ
  • CHMPが抗PCSK9抗体や抗PD-1抗体等の承認を支持
  • ゼブリオンの3ヶ月持続製剤が米国で承認


【新薬開発】


インターセプト、NASHでも第三相試験開始へ
(2015年5月19日発表)

インターセプト・ファーマスーティカルズ(Nasdaq:ICPT)のOCA(obeticholic acid)は第三相原発性胆汁性肝硬変試験が成功したが、NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)でも9月までに第三相を開始すると発表した。

OCAは胆汁酸誘導物でFRXという核内胆汁酸受容体を作動、代謝に関連する遺伝子の転写を促す。胆汁性肝硬変の第三相ではアルカリフォスファターゼの低下や総ビリルビンの正常化に成功した患者が偽薬群を有意に上回った。延長試験や徹底QT試験、薬物相互作用試験などを実施して今四半期中に欧米で承認申請する予定。

NASHは潜在的な罹患率が高いと推定されているが、診断を確定するには侵襲的な検査を行う必要がある。治療効果の計測方法も難しく、過去の試験では肝機能検査値を代理マーカーとして用いることが多かったが、臨床的転帰の改善に繋がるのかどうかは不透明だ。NIH(米国立医療研究所)が主導したOCAの第二相試験では生検による組織学的評価を行ったが、これも臨床的意義は確立していない。

インターセプト社はFDAやEMAとの相談を踏まえて、二段階評価を行うことを決めた。P(対象患者)はステージ2または3の肝線維症を併発するNASH患者2500人。胆汁性肝硬変試験の10倍の規模になる。I(介入手段)とC(対照)は偽薬、10mg、25mg(一日一回経口投与)の三群に無作為化割付する。胆汁性肝硬変試験では漸増なしに10mgを投与した群の10%程度が掻痒の副作用により治験を離脱したが、今回の試験で用量漸増法が採用されるかどうかは明らかではない。

O(評価項目)は、中間解析と最終解析の二段階、盲検方式。1400人が72週間の治療を終えた段階で中間組織学的解析を実施、肝線維症が改善しNASHが悪化しなかった、または、NASHが解消し肝線維症が悪化しなかった患者を奏効と見做し、奏効率が偽薬比有意に優れているようなら承認申請に向かう。盲検は解除せずに肝関連有害事象(肝硬変など)のリスク削減効果を検討する最終解析に向かう。OCAの過去の試験では心血管疾患が若干増加した。大規模な試験なので、このリスクがリアルなのかノイズなのかも明確になるだろう。

この試験が成功して組織学的変化と臨床的転帰がブリッジされれば次のNASH治療薬の開発をスピードアップできるかもしれない。その意味でも重要な試験になるだろう。

日本や中国の権利は大日本住友製薬が保有しており、NASHで第二相試験中。

リンク: インターセプトのプレスリリース

アムジェン、抗IL-17受容体抗体の開発から手を引く
(2015年5月22日発表)

アムジェンは、AMG827(brodalumab)の共同開発から手を引くことを発表した。同社は2012年にアストラゼネカと炎症疾患用抗体医薬五品の共同開発販売提携を結び、この抗IL-17受容体抗体は乾癬、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎などの治療薬として開発してきた。乾癬は複数の第三相試験が成功、今年、承認申請される見込みだった。しかし、臨床試験で数例の自殺思慮・行動が発生。発売しても警告強化される可能性があるため、他の開発品を優先させることを決めた。

アストラゼネカは分析を進めた上で今後の方針を決定する考え。

AMG827は協和発酵キリンが2011年に日本、中国などの独占開発販売権を取得した。米国はisotretinoinの鬱病・自殺リスクが政治問題になったことがあり、そのせいか、FDAもリスクを厳しき評価している。日本はそれほどでもなさそうだし、もし海外の開発が中止になり日本で小規模な試験が行われるだけならリスクも表面化しないだろう。この場合でも、全世界で開発中止になった場合でも、AMG827に本当にリスクがあるのか、抗IL-17抗体との違いは何かは、解明されないままに終わるおそれがある。

リンク: アムジェンのプレスリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

【承認申請】


第二の筋ジストロフィー用薬が承認申請へ
(2015年5月19日発表)

Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)は、米国で月内にAVI-4658(eteplirsen)のローリング承認申請を開始すると発表した。年央までに完了する予定。

デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療に用いる核酸医薬で、ジストロフィン遺伝子のエクソン53の塩基欠損・重複箇所を転写機構に『読み過ごさせる』ことにより転写がストップするのを防ぎ、短いがある程度の機能を持つジストロフィンを作れるようにする。DMD患者の13%程度に有効と考えられている。

同様なエクソン53スキッピング薬ではバイオマリン(Nasdaq:BMRN)が昨年、Prosensa社を買収して入手したPRO051(drisapersen)を今年5月に米国で承認申請した。この二社は激しい開発競争を繰り広げているが、画期的な分野なので薬効評価が難しい。投与するとジストロフィン量が増加することが分かったが、この検査方法の妥当性に疑義が生じた。6分歩行試験による評価も行われたが、明確な結論は出なかった。

承認審査が大変だが、上記の問題の結論が出れば、今後はその結論や治験に基づいて臨床開発を行うことができるようになるので、承認されてもされなくても一歩前進だ。

リンク: Sareptaのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPが抗PCSK9抗体や抗PD-1抗体等の承認を支持
(2015年5月22日発表)

EUの薬品承認審査機関であるEMAの専門家委員会、CHMPは、5月の会議で、アムジェンの抗PCSK9抗体やMSDの抗PD-1抗体、United Therapeuticsの抗GD2抗体などの承認について肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: CHMPのプレスリリース

抗PCSK9完全ヒト化抗体はアムジェンとリジェネロン(Nasdaq:REGN)/サノフィが開発に鎬を削っていて、米国では後者が先に承認される可能性があるが、EUはアムジェンのRepatha(evolocumab)が先にCHMPの支持を獲得した。肝臓のLDL-C受容体の零落に関与する酵素をブロックし、血中LDL-Cの肝臓による取込を促す。

適応は広く、ホモ接合型家族性高脂血症(両親から引き継いだLDL-C受容体遺伝子のどちらも機能不全でLDL-C値が著しく高い)と、それ以外の原発性高脂血症または混合異脂血症でスタチンの最大耐量を服用してもLDL-C値が十分に管理できない患者、乃至は、スタチン不耐患者に単剤・追加投与する。第一選択薬のスタチンを使って上手く行かなかったら大抵の場合で使えることになる。二週間または四週間に一回、皮注する。

心血管疾患を防ぐ効果は2017年にアウトカム試験の結果が出るまで不明。LDL-C値が著しく低くなってしまう場合があるが、CHMPは、この場合の安全性は確立していないと述べている。主な有害事象は鼻咽頭炎、上部気道感染症、頭痛、背痛など。

リンク: CHMPのプレスリリース
リンク: アムジェンのプレスリリース

抗PD-1抗体の開発もデットヒート状態で米国ではMSDのヒト化抗体Keytruda(pembrolizumab)が昨年9月に、続いてBMSの完全ヒト化抗体Opdivo(nivolumab)が昨年12月に、夫々承認されたが、EUでは後者が4月に、Keytrudaは今回、悪性黒色腫用薬としてCHMPの支持を得た。どちらも一次治療と二次治療、両方が認められた。

Keytrudaの場合、一次治療では全生存のハザードレシオがBMSのYervoy比0.69、Yervoy後の二次治療ではPFS(無進行生存期間)のハザードレシオが化学療法比0.57だった。前者は10mg/kgを三週間に一回投与した群のデータ、後者は2mg/kgを三週間に一回投与した試験のデータと推測されるが、MSDのプレスリリースによると、承認用量は2mg/kgとのこと。抗PD-1抗体の至適用量は良く分からないところがあるが、CHMPは2mg/kgで十分と断じたのだろう。

リンク: CHMPのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース

Opdivoは3月に米国で非小細胞性肺癌の二次治療に用いることが承認されたが、今回、CHMPも支持した。但し、適応は扁平上皮腫だけ。間に合わなかったのだろう。製品名がNivolumab BMSとジェネリックのようなものになっているが、おそらく、承認される前に別の適応で申請するための便法なのだろう。

リンク: CHMPのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース

United Therapeutics(Nasdaq:UTHR)のUnituxin(dinutuximab)は3月の米国承認に続き、CHMPの支持も獲得した。抗GD2キメラモノクローナル抗体で、神経芽細胞腫の集学的一次治療に部分反応以上の応答を示した患者の維持療法。isotretinoinやGM-CSF、IL-2と併用する。第三相試験ではisotretinoinだけを投与した群より再発死亡リスクが小さかった。

GD2は主として神経芽細胞腫の細胞に発現するが通常の神経細胞でも発現するため、疼痛の副作用がある。臨床試験では鎮痛剤で予防したが、それでも2/3の患者で発症し、40%が重度疼痛を経験した。

リンク: CHMPのプレスリリース

シアトルのOmeros社(Nasdaq:OMER)のOmidriaも肯定的意見を獲得した。瞳孔を散大させるphenylephrineと抗炎症薬ketorolacの合剤で、白内障手術や眼内レンズ置換術時に、瞳孔の散大維持・縮小抑制と術後の疼痛を緩和する目的で注射する。米国でも14年に承認。

リンク: Omerosのプレスリリース

BMSの抗HIV薬、Evotazも支持を得た。同社のプロテアーゼ阻害剤atazanavirとギリアド(Nasdaq:GILD)からライセンスした3A4阻害剤cobicistatを配合したもので、服用する薬の数を一つ、減らすことができる。

適応拡大ではImbruvica(ibrutinib)をワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症に用いることが支持された。二次治療用だが化学療法不適には一次治療も可。Pharmacyclics(Nasdaq:PCYC)がジョンソン・エンド・ジョンソンと共同開発したがBTK阻害剤で、Bセルの生存や移行に関わる酵素を阻害する。臨床試験では18ヶ月無進行性生存率が80%だった。Imbruvicaはマントルセルリンパ腫や慢性リンパ性白血病に承認されている。尚、Pharmacyclicsはアッヴィが買収する予定。

リンク: CHMPのプレスリリース
リンク: Pharmacyclicsのプレスリリース

ジョンソン・エンド・ジョンソン/MSDの抗TNFアルファ完全ヒト化抗体、Simponi(golimumab、和名シンポニー)をnr-AxSpA(X線検査で仙腸関節炎が見られない軸性脊椎関節炎)に用いる適応拡大も支持された。

TNF阻害剤の主用途であるリウマチ性関節炎でも早い段階で治療する方向に向かっているが、脊椎炎も病名の定義や治療方針が変動している模様で、強直性脊椎炎の診断基準を満たさなくても、背痛やこわばりなどの症状を持ちCRP上昇やMRI所見など炎症を示唆する客観的兆候を伴う場合は、nr-AxSpAとして治療の対象とするようだ。非ステロイド抗炎症薬に十分に反応しない、あるいは不耐の患者に用いる。

リンク: ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

EMAに承認された薬はジェネリックもEMAの担当になる。今月は、04年に承認されたジョンソン・エンド・ジョンソン/武田薬品の多発骨髄腫用薬Velcade(bortezomib)のジェネリックが肯定的意見を獲得した。Accord Healthcareの製品。

リンク: CHMPのプレスリリース

【承認】


ゼブリオンの3ヶ月持続製剤が米国で承認
(2015年5月19日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、FDAがInvega Trinza(paliperidone palmitate)を承認したと発表した。同社は06年に非定型的向精神薬Invegaを発売、09年には月一回注射用のInvega Sustennaをラインアップしたが、Trinzaは効果が3ヶ月持続し年4回の投与で足りる。適応は統合失調症。Sustennaを4ヶ月以上投与した後にスイッチする。

リンク: ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース


今週は以上です。

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