2015年5月31日

海外医薬ニュース2015年5月31日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • ASCO:オプジーボも肺癌ではPD-L1発現だけ?
  • ASCO:KeytrudaはMMR不全型大腸がんに有効な可能性
  • ASCO:CAR-Tが引き続き良好なデータ
  • ASCO:アバスチンは中皮腫一次治療に有効
  • ASCO:Gazyvaの併用試験が成功
  • ASCO:Ibranceの乳癌二次治療併用試験が成功
  • ASCO:Imbruvicaの三剤併用試験が成功
  • MSD、HCV治療用コンビ薬を承認申請
  • FDAが二種類のIBS-D治療薬を承認
  • ラパリムスが米国でもリンパ脈管筋腫症に適応拡大
  • ベーリンガー、COPD用合剤が米国で承認

【新薬開発】


ASCO:オプジーボも肺癌ではPD-L1発現だけ?
(2015年5月29日発表)

BMSが小野薬品と共同開発している抗PD-1完全ヒト化抗体、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)の第三相非扁平上皮非小細胞性肺癌二次治療試験の結果がASCO米国臨床腫瘍学会で発表された。標準療法薬の一つであるdocetaxelと比べて、全生存のハザードレシオ(HR)が0.73、95%信頼区間0.59~0.89、p=0.0015と良い結果だった。今年3月に扁平上皮型の非小細胞性肺癌の二次治療薬として米国で承認されたが、この試験に基づいて腺腫などそれ以外のタイプにも適応拡大されるのではないか。

意外だったのは、このCheckMate-057試験ではPD-L1(PD-1のレガンドの一つ)が発現していないタイプには効果が感じられないこと。閾値は三種類設定されたが、例えば1%以上発現症例(判定可能例の54%程度を占めた)ではHRが0.59、メジアン生存期間は17.2ヶ月とdocetaxel群の9.0ヶ月をかなり上回ったものの、1%未満では各0.90、10.4ヶ月対10.1ヶ月。また、10%以上発現サブグループ(同36%)では各0.40、19.4ヶ月対8.0ヶ月と大変良かったが10%未満では1.00、9.9ヶ月対10.3ヶ月だった。

docetaxelと同程度なら悪くはなく、忍容性はdocetaxelよりは良さそうだが、新薬の中でも高価な薬とGE化した薬の効果が大差ないのは悩ましい。Opdivoは超大型化が期待されている薬なので、全員が使うのか、それとも36%の患者だけなのかは重要な問題である(正確に言えば評価可能な78%の患者の36%なので28%)。

MSDの抗PD-1ヒト化抗体Keytruda(pembrolizumab)やロシュの抗PD-L1抗体RG7446/MPDL3280A(atezolizumab)の試験でもPD-L1発現と相関性が見られたので、今回の報告はそれ自体は首肯できるものだ。しかし、改めて不思議に思うのは、何故Opdivoの扁平上皮非小細胞性肺癌の第三相では相関がみられなかったのか、ということだ。HR0.59なので057試験の発現1%以上のデータと同程度の良い結果が、全ユニバースの解析で出ている。

抗PD-1抗体に関しては新しい応答性予測因子も浮上してきた(次項参照)。癌のタイプや様々な予測因子に基づいて適否を木目細かく検討する必要がありそうだ。

尚、BMSのプレスリリースでは057試験の主評価項目をPFS(無進行生存期間)と記しているが、Paz-Aresらの抄録や治験登録には全生存期間と記されているため、本稿では後者に従った。

リンク: Paz-Aresらの抄録(LBA109、2015ASCO)
リンク: BMSのプレスリリース

ASCO:KeytrudaはMMR不全型大腸がんに有効な可能性
(2015年5月29日発表)

抗PD-1抗体の応答性予測因子として、MMR(ミスマッチ修復)不全型が浮上した。Leらが行った第二相末期結腸直腸癌試験で、ORR(客観的反応率)が62%(13例中8例)と有効性が示唆された。一方、『堪能型(proficient)』の25例ではゼロだった。MSDは承認申請用の第二相試験を開始する予定。

MMR不全は細胞分裂時に発生する遺伝子複製ミスを修復する機能が弱い。この試験では平均1700ヶ所の変異があり、堪能型の70ヶ所より顕著に多かった。癌患者の5~20%がMMR不全で、進行した癌の方が比率が高いようだ。

MMR不全がなぜ予測因子になりうるのか?抄録著者らは、変異遺伝子が産生する変な蛋白が免疫応答を誘導するからと考えているようだ。

今回のASCOではOpdivoの肝細胞腫試験やKeytrudaの頭頸部癌試験の報告が行われているが、新しい切り口が見つかるにつれて用途が更に広がっていきそうだ。

リンク: Leらの抄録(LBA100、2015ASCO)
リンク: MSDのプレスリリース

ASCO:CAR-Tが引き続き良好なデータ
(2015年5月30日発表)

Juno Therapeutics(Nasdaq:JUNO)は、キメラ抗原受容体Tセル療法(CAR-T)であるJACR015のALL(急性リンパ芽球性白血病)試験の結果をASCOで発表した。再発性または難治性のBセルALLを組入れた試験で、薬効評価が可能な38例中33例(87%)が完全寛解、メジアン生存期間は8.5ヶ月だった。

CAR-Tの難点は免疫を過度に刺激しサイトカイン放出症候群を誘導してしまうリスク。この試験では23%が重度サイトカイン放出症候群と判定されたが、全般的に可逆的だった模様だ。グレード3/4神経毒性の発生率は28%。毒性による死亡は39例中3例あったが、一例は試験薬とは無関係と評価された由。

Junoは承認申請用の試験を開始する考え。ノバルティスのCAR-Tとの開発競争が本格化する。

リンク: Junoのプレスリリース

ASCO:アバスチンは中皮腫一次治療に有効
(2015年5月30日発表)

ロシュは、フランスの共同治験グループが主導したMAPS試験の結果がASCOで報告されたと発表した。悪性胸膜中皮腫の一次治療として、Alimta(pemetrexed)とcisplatinを併用する標準療法と、更にAvastin(bevacizumab)を追加する三剤併用法を比較したもので、全生存のHRが0.76、p=0.0127、メジアン生存期間は18.8ヶ月と標準療法群の16.1ヶ月を上回った。グレード3~4の有害事象発生率は47.3%で標準療法群の49.6%と大差なかった。

治療効果はそれほど大きくないが、忍容性がそれほど悪化しないなら、選択肢の一つになりそうだ。

リンク: ロシュのプレスリリース

ASCO:Gazyvaの併用試験が成功
(2015年5月30日発表)

ロシュは、Gazyva(obinutuzumab)の緩慢性非ホジキン型リンパ腫併用試験の結果がASCOで報告されたと発表した。Rituxan(rituximab、和名リツキサン)抵抗性の患者をbendamustine(和名トレアキシン)を投与する群とGazyvaを併用する群に無作為化割付してPFS(無進行生存期間)を比較したもの。Gazyvaはbendamustineの投与が終わった後も維持療法として最長2年間、投与した。

結果は、HR0.55、p=0.0001と、併用群が有意に上回った。単剤群のメジアンPFSは14.9ヶ月、併用群は未だメジアンに到達していない。この解析は第三者の査読を受けたデータだが、治験医の評価に基づくメジアンPFSは各14.0ヶ月と29.2ヶ月と大きな違いを示した。グレード3~4の有害事象では、白血球減少症や点滴関連反応、熱性白血球減少症が増加した。

GazyvaはRituxanと同じ抗CD20抗体だがフコースを除去することにより免疫刺激力を強化している。米国で13年に慢性リンパ性白血病用薬として承認された。今回の適応症でも適応拡大申請される見込み。Rituxanは様々な疾患、用法が承認されている。適応症は緩徐が多く治験に時間が掛かるため中々追いつかないが、将来はRituxanに代わる第一選択薬になるだろう。

リンク: ロシュのプレスリリース

ASCO:Ibranceの乳癌二次治療併用試験が成功
(2015年5月30日発表)

ファイザーは、CDK4/6阻害剤Ibrance(palbociclib)の乳癌試験のデータがASCOで明らかにされたと発表した。15年に米国で承認されているが、第三相対照試験で延命効果が確認されたのは初めて。

このPALOMA-3試験は、ホルモン受容体陽性her2陰性の転移性乳癌でホルモン療法に反応しなくなった患者をFemara(letrozole)単剤投与群とIbrance併用群に無作為化割付してPFSを比較したもの。結果は、HR0.42、pは0.000001未満、メジアンPFSは9.2ヶ月で単剤投与群の3.8ヶ月を上回った。深刻な有害事象の発生率は両群大差なかった。

Ibranceはin vitroでアロマターゼ阻害剤とシナジーが見られ、Femaraなどとの併用で臨床開発されている。一次治療も進行中。

リンク: Turnerらの抄録(LBA502、2015ASCO)
リンク: ファイザーのプレスリリース

ASCO:Imbruvicaの三剤併用試験が成功
(2015年5月30日発表)

Pharmacyclics(Nasdaq:PCYC)は、Imbruvica(ibrutinib)の第三相再発性難治性慢性リンパ性白血病/小細胞リンパ性白血病試験のデータがASCOで公表されたと発表した。Rituxan(rituximab)とbendamustineを併用する標準療法の一つと、更にImbruvicaも投与する三剤併用群のPFS(第三者が査読)を比較したもの。

結果は、中間解析でHR0.203、95%信頼区間0.15~0.276と大変良い結果になった。メジアン値は標準療法群が13.3ヶ月、三剤併用群は未達。

Imbruvicaはbtkを阻害する経口剤。Pharmacyclicsがジョンソン・エンド・ジョンソンと提携して開発し、13年にマントルセルリンパ腫二次治療に、14年には慢性リンパ性白血病/小細胞リンパ性白血病二次治療でも、米国で承認された。どちらもモノセラピーなので、今回の用法を追加承認申請することになるだろう。尚、Pharmacyclicsはアッヴィが買収する予定。

リンク: Pharmacyclicsのプレスリリース

【承認申請】


MSD、HCV治療用コンビ薬を承認申請
(2015年5月28日発表)

MSDは、汎遺伝子型NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤のgrazoprevirとNS5A複製複合体阻害剤のelbasvirを配合したコンビ薬を米国で承認申請したと発表した。慢性C型肝炎のうち、遺伝子型1型、4型、6型の治療に用いる。一日一回一錠を12週間、経口投与するだけなので簡便。但し、4型は16週間またはribavirin併用で12週間、6型はribavirin併用16週間の方が良さそうだ。一部の患者向けにブレークスルー・セラピー指定を受けている。

リンク: MSDのプレスリリース

【承認】


FDAが二種類のIBS-D治療薬を承認
(2015年5月27日発表)

FDAは二種類のIBS-D(下痢型過敏性腸症候群)治療薬を承認したと発表した。一つはアクタビス(NYSE:ACT)が昨年、フォレストを買収して入手したViberzi(eluxadoline)。元々はヤンセン(JNJ)からライセンスしたもの。オピオイド受容体のうち、ミューとカッパにはアゴニストとして、デルタにはアンタゴニストとして作用する。

オディ括約筋の痙攣を誘導するリスクがあり、FDAは総胆管や膵管に閉塞を持つ患者やアルコール飲料を一日三回超飲む人を禁忌とした。一日二回、経口投与する。麻薬指定を経て発売される見込み。

もう一つはバレアント(NYSE:VRX)がサリックスを買収して入手したXifaxan(rifaximin)。抗生剤の誘導体で、旅行者の大腸菌による下痢の治療や、顕性肝性脳症のリスク削減で承認されている。IBS-Dにおける作用機序は不明だが、胃腸の細菌の変化が関連すると考えられている。有害事象は悪心、ALT上昇など。一日三回、経口投与する。

リンク: FDAのリリース
リンク: アクタビスのプレスリリース
リンク: バレアントのプレスリリース

ラパリムスが米国でもリンパ脈管筋腫症に適応拡大
(2015年5月29日発表)

FDAは、ファイザーのRapamune(sirolimus、和名ラパリムス)をリンパ脈管筋腫症の治療に用いることを承認した。日本では世界に先駆けて昨年7月に承認されている。mTOR阻害剤で、腎移植後の拒絶反応予防などの用途で承認されている。

リンパ脈管筋腫症は米国の推定患者数が800人の希少疾患。平滑筋様細胞が異常増殖し、肺や腎臓、リンパ系に障害を齎す。再生産年齢の女性が多く、致死的なことも少なくない。平滑筋様細胞の増殖にmTORが関与していることから治験が行われた。

リンク: FDAのリリース
リンク: ファイザーのプレスリリース

ベーリンガー、COPD用合剤が米国で承認
(2015年5月26日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムは、Stiolto RespimatがFDAにCOPD維持療法薬として承認されたと発表した。M3受容体拮抗剤のSpiriva(tiotropium、和名スピリーバ)と長期作用性ベータ2作用剤Striverdi(olodaterol)のコンビ薬で、一日一回吸入する。

COPDは疾病啓蒙活動が成功し治療を受ける患者が増加、それに伴い維持療法薬の市場も拡大した。SpirivaはM3受容体拮抗剤のベストセラーだがGSKやノバルティスなど他社も単剤、コンビ薬の開発・発売を活発化しており、Stioltoは重要な戦力になりそうだ。

リンク: ベーリンガーのプレスリリース


今週は以上です。

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2015年5月24日

海外医薬ニュース2015年5月24日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • インターセプト、NASHでも第三相試験開始へ
  • アムジェン、抗IL-17受容体抗体の開発から手を引く
  • 第二の筋ジストロフィー用薬が承認申請へ
  • CHMPが抗PCSK9抗体や抗PD-1抗体等の承認を支持
  • ゼブリオンの3ヶ月持続製剤が米国で承認


【新薬開発】


インターセプト、NASHでも第三相試験開始へ
(2015年5月19日発表)

インターセプト・ファーマスーティカルズ(Nasdaq:ICPT)のOCA(obeticholic acid)は第三相原発性胆汁性肝硬変試験が成功したが、NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)でも9月までに第三相を開始すると発表した。

OCAは胆汁酸誘導物でFRXという核内胆汁酸受容体を作動、代謝に関連する遺伝子の転写を促す。胆汁性肝硬変の第三相ではアルカリフォスファターゼの低下や総ビリルビンの正常化に成功した患者が偽薬群を有意に上回った。延長試験や徹底QT試験、薬物相互作用試験などを実施して今四半期中に欧米で承認申請する予定。

NASHは潜在的な罹患率が高いと推定されているが、診断を確定するには侵襲的な検査を行う必要がある。治療効果の計測方法も難しく、過去の試験では肝機能検査値を代理マーカーとして用いることが多かったが、臨床的転帰の改善に繋がるのかどうかは不透明だ。NIH(米国立医療研究所)が主導したOCAの第二相試験では生検による組織学的評価を行ったが、これも臨床的意義は確立していない。

インターセプト社はFDAやEMAとの相談を踏まえて、二段階評価を行うことを決めた。P(対象患者)はステージ2または3の肝線維症を併発するNASH患者2500人。胆汁性肝硬変試験の10倍の規模になる。I(介入手段)とC(対照)は偽薬、10mg、25mg(一日一回経口投与)の三群に無作為化割付する。胆汁性肝硬変試験では漸増なしに10mgを投与した群の10%程度が掻痒の副作用により治験を離脱したが、今回の試験で用量漸増法が採用されるかどうかは明らかではない。

O(評価項目)は、中間解析と最終解析の二段階、盲検方式。1400人が72週間の治療を終えた段階で中間組織学的解析を実施、肝線維症が改善しNASHが悪化しなかった、または、NASHが解消し肝線維症が悪化しなかった患者を奏効と見做し、奏効率が偽薬比有意に優れているようなら承認申請に向かう。盲検は解除せずに肝関連有害事象(肝硬変など)のリスク削減効果を検討する最終解析に向かう。OCAの過去の試験では心血管疾患が若干増加した。大規模な試験なので、このリスクがリアルなのかノイズなのかも明確になるだろう。

この試験が成功して組織学的変化と臨床的転帰がブリッジされれば次のNASH治療薬の開発をスピードアップできるかもしれない。その意味でも重要な試験になるだろう。

日本や中国の権利は大日本住友製薬が保有しており、NASHで第二相試験中。

リンク: インターセプトのプレスリリース

アムジェン、抗IL-17受容体抗体の開発から手を引く
(2015年5月22日発表)

アムジェンは、AMG827(brodalumab)の共同開発から手を引くことを発表した。同社は2012年にアストラゼネカと炎症疾患用抗体医薬五品の共同開発販売提携を結び、この抗IL-17受容体抗体は乾癬、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎などの治療薬として開発してきた。乾癬は複数の第三相試験が成功、今年、承認申請される見込みだった。しかし、臨床試験で数例の自殺思慮・行動が発生。発売しても警告強化される可能性があるため、他の開発品を優先させることを決めた。

アストラゼネカは分析を進めた上で今後の方針を決定する考え。

AMG827は協和発酵キリンが2011年に日本、中国などの独占開発販売権を取得した。米国はisotretinoinの鬱病・自殺リスクが政治問題になったことがあり、そのせいか、FDAもリスクを厳しき評価している。日本はそれほどでもなさそうだし、もし海外の開発が中止になり日本で小規模な試験が行われるだけならリスクも表面化しないだろう。この場合でも、全世界で開発中止になった場合でも、AMG827に本当にリスクがあるのか、抗IL-17抗体との違いは何かは、解明されないままに終わるおそれがある。

リンク: アムジェンのプレスリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

【承認申請】


第二の筋ジストロフィー用薬が承認申請へ
(2015年5月19日発表)

Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)は、米国で月内にAVI-4658(eteplirsen)のローリング承認申請を開始すると発表した。年央までに完了する予定。

デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療に用いる核酸医薬で、ジストロフィン遺伝子のエクソン53の塩基欠損・重複箇所を転写機構に『読み過ごさせる』ことにより転写がストップするのを防ぎ、短いがある程度の機能を持つジストロフィンを作れるようにする。DMD患者の13%程度に有効と考えられている。

同様なエクソン53スキッピング薬ではバイオマリン(Nasdaq:BMRN)が昨年、Prosensa社を買収して入手したPRO051(drisapersen)を今年5月に米国で承認申請した。この二社は激しい開発競争を繰り広げているが、画期的な分野なので薬効評価が難しい。投与するとジストロフィン量が増加することが分かったが、この検査方法の妥当性に疑義が生じた。6分歩行試験による評価も行われたが、明確な結論は出なかった。

承認審査が大変だが、上記の問題の結論が出れば、今後はその結論や治験に基づいて臨床開発を行うことができるようになるので、承認されてもされなくても一歩前進だ。

リンク: Sareptaのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPが抗PCSK9抗体や抗PD-1抗体等の承認を支持
(2015年5月22日発表)

EUの薬品承認審査機関であるEMAの専門家委員会、CHMPは、5月の会議で、アムジェンの抗PCSK9抗体やMSDの抗PD-1抗体、United Therapeuticsの抗GD2抗体などの承認について肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: CHMPのプレスリリース

抗PCSK9完全ヒト化抗体はアムジェンとリジェネロン(Nasdaq:REGN)/サノフィが開発に鎬を削っていて、米国では後者が先に承認される可能性があるが、EUはアムジェンのRepatha(evolocumab)が先にCHMPの支持を獲得した。肝臓のLDL-C受容体の零落に関与する酵素をブロックし、血中LDL-Cの肝臓による取込を促す。

適応は広く、ホモ接合型家族性高脂血症(両親から引き継いだLDL-C受容体遺伝子のどちらも機能不全でLDL-C値が著しく高い)と、それ以外の原発性高脂血症または混合異脂血症でスタチンの最大耐量を服用してもLDL-C値が十分に管理できない患者、乃至は、スタチン不耐患者に単剤・追加投与する。第一選択薬のスタチンを使って上手く行かなかったら大抵の場合で使えることになる。二週間または四週間に一回、皮注する。

心血管疾患を防ぐ効果は2017年にアウトカム試験の結果が出るまで不明。LDL-C値が著しく低くなってしまう場合があるが、CHMPは、この場合の安全性は確立していないと述べている。主な有害事象は鼻咽頭炎、上部気道感染症、頭痛、背痛など。

リンク: CHMPのプレスリリース
リンク: アムジェンのプレスリリース

抗PD-1抗体の開発もデットヒート状態で米国ではMSDのヒト化抗体Keytruda(pembrolizumab)が昨年9月に、続いてBMSの完全ヒト化抗体Opdivo(nivolumab)が昨年12月に、夫々承認されたが、EUでは後者が4月に、Keytrudaは今回、悪性黒色腫用薬としてCHMPの支持を得た。どちらも一次治療と二次治療、両方が認められた。

Keytrudaの場合、一次治療では全生存のハザードレシオがBMSのYervoy比0.69、Yervoy後の二次治療ではPFS(無進行生存期間)のハザードレシオが化学療法比0.57だった。前者は10mg/kgを三週間に一回投与した群のデータ、後者は2mg/kgを三週間に一回投与した試験のデータと推測されるが、MSDのプレスリリースによると、承認用量は2mg/kgとのこと。抗PD-1抗体の至適用量は良く分からないところがあるが、CHMPは2mg/kgで十分と断じたのだろう。

リンク: CHMPのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース

Opdivoは3月に米国で非小細胞性肺癌の二次治療に用いることが承認されたが、今回、CHMPも支持した。但し、適応は扁平上皮腫だけ。間に合わなかったのだろう。製品名がNivolumab BMSとジェネリックのようなものになっているが、おそらく、承認される前に別の適応で申請するための便法なのだろう。

リンク: CHMPのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース

United Therapeutics(Nasdaq:UTHR)のUnituxin(dinutuximab)は3月の米国承認に続き、CHMPの支持も獲得した。抗GD2キメラモノクローナル抗体で、神経芽細胞腫の集学的一次治療に部分反応以上の応答を示した患者の維持療法。isotretinoinやGM-CSF、IL-2と併用する。第三相試験ではisotretinoinだけを投与した群より再発死亡リスクが小さかった。

GD2は主として神経芽細胞腫の細胞に発現するが通常の神経細胞でも発現するため、疼痛の副作用がある。臨床試験では鎮痛剤で予防したが、それでも2/3の患者で発症し、40%が重度疼痛を経験した。

リンク: CHMPのプレスリリース

シアトルのOmeros社(Nasdaq:OMER)のOmidriaも肯定的意見を獲得した。瞳孔を散大させるphenylephrineと抗炎症薬ketorolacの合剤で、白内障手術や眼内レンズ置換術時に、瞳孔の散大維持・縮小抑制と術後の疼痛を緩和する目的で注射する。米国でも14年に承認。

リンク: Omerosのプレスリリース

BMSの抗HIV薬、Evotazも支持を得た。同社のプロテアーゼ阻害剤atazanavirとギリアド(Nasdaq:GILD)からライセンスした3A4阻害剤cobicistatを配合したもので、服用する薬の数を一つ、減らすことができる。

適応拡大ではImbruvica(ibrutinib)をワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症に用いることが支持された。二次治療用だが化学療法不適には一次治療も可。Pharmacyclics(Nasdaq:PCYC)がジョンソン・エンド・ジョンソンと共同開発したがBTK阻害剤で、Bセルの生存や移行に関わる酵素を阻害する。臨床試験では18ヶ月無進行性生存率が80%だった。Imbruvicaはマントルセルリンパ腫や慢性リンパ性白血病に承認されている。尚、Pharmacyclicsはアッヴィが買収する予定。

リンク: CHMPのプレスリリース
リンク: Pharmacyclicsのプレスリリース

ジョンソン・エンド・ジョンソン/MSDの抗TNFアルファ完全ヒト化抗体、Simponi(golimumab、和名シンポニー)をnr-AxSpA(X線検査で仙腸関節炎が見られない軸性脊椎関節炎)に用いる適応拡大も支持された。

TNF阻害剤の主用途であるリウマチ性関節炎でも早い段階で治療する方向に向かっているが、脊椎炎も病名の定義や治療方針が変動している模様で、強直性脊椎炎の診断基準を満たさなくても、背痛やこわばりなどの症状を持ちCRP上昇やMRI所見など炎症を示唆する客観的兆候を伴う場合は、nr-AxSpAとして治療の対象とするようだ。非ステロイド抗炎症薬に十分に反応しない、あるいは不耐の患者に用いる。

リンク: ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

EMAに承認された薬はジェネリックもEMAの担当になる。今月は、04年に承認されたジョンソン・エンド・ジョンソン/武田薬品の多発骨髄腫用薬Velcade(bortezomib)のジェネリックが肯定的意見を獲得した。Accord Healthcareの製品。

リンク: CHMPのプレスリリース

【承認】


ゼブリオンの3ヶ月持続製剤が米国で承認
(2015年5月19日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、FDAがInvega Trinza(paliperidone palmitate)を承認したと発表した。同社は06年に非定型的向精神薬Invegaを発売、09年には月一回注射用のInvega Sustennaをラインアップしたが、Trinzaは効果が3ヶ月持続し年4回の投与で足りる。適応は統合失調症。Sustennaを4ヶ月以上投与した後にスイッチする。

リンク: ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース


今週は以上です。

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2015年5月17日

海外医薬ニュース2015年5月17日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • 治験は厳格にやらないと数百億円をドブに捨てることに
  • ASCO抄録:抗PD-1/PD-L1抗体のデータ発表
  • ASCO抄録:アレセンサの海外試験が成功
  • ASCO抄録:抗SLAMF7抗体の第三相が成功
  • ASCO抄録:neratinibの効果はそれ程でもなさそう
  • FDA諮問委員会が膿胞性線維症用薬を支持
  • FDAもSGLT2阻害剤のケトアシドーシスリスクを警告

  • 【今週の話題】


    治験は厳格にやらないと数百億円をドブに捨てることに
    (2015年5月12日発表)

    昨年9月に米国で承認された体重管理薬、Contrave(bupropionとnaltrexoneの徐放性合剤)の心血管アウトカム試験がとうとう中止されることになった。既定路線ではあるが、初めからやり直す。原因は、一言でいえば、スポンサーが治験の厳格性を軽視したからである。

    Contraveのアウトカム試験の費用は1~2億ドルと推測されるので、大きなペナルティを払うことになった。開発者のオレキシジェン(Nasdaq:OREX)、と北米などの共同開発販売権を持ちオリジナルの契約ではアウトカム試験の費用の75%を負担しなけらばならない武田薬品との関係にもひびが入ったようだ。

    Contraveは鬱病や薬物依存の治療に承認されているドーパミン・ノルエピネフィリン再取込阻害剤のbupropionと代償機構を抑制するnaltrexoneの合剤。FDAは体重管理薬や血糖治療薬を開発する会社に対して心血管アウトカム試験を実施して心筋梗塞などのリスクが大きく上昇しないことを確認するよう求めている。2010年に開催されたContraveに関する内分泌代謝学薬諮問委員会では過半の委員が承認後に実施すれば十分と回答したが、FDAは承認せず、確認試験を求めた。

    両社は12年に9000人を組入れる偽薬対照心血管アウトカム試験、LIGHT試験を開始、当初の目論見通りに中間解析でハザードレシオの95%上限が2未満であることが確認されたため、昨年9月に米国で、今年3月にはEUでもMysimba名で、承認を獲得した。

    ところで、肥満は心筋梗塞などのリスク要因であり、治療目的はこれらのリスクを引き下げることである。本来ならハードルは0.7とかに設定すべきであり、もし偽薬の1.9倍に高まるならそんな薬は誰も使わないだろう。勿論、FDAもリスクの著増を許容しているわけではない。最終解析の結果が出るのは17年と時間が掛かるため、新薬を少しでも早く必要とする患者の利益とバランスを取るために、中間解析で大きなリスクの可能性を排斥し、イベント数が増えて信頼区間が狭まる最終解析で許容範囲であることを確認する意図なのである。

    最終解析を厳格に行うためには中間解析結果をできるだけ秘匿しなければならない。もしリスクが10倍に高まるならデータ監視委員会が中止を勧告するだろうから問題ない。しかし、もしリスクが大きく低下したという情報が広がった場合、患者が治験から離脱して薬局で普通に売っているContraveにスイッチし、治験続行が不可能になるかもしれない。

    中間解析の検出力が高ければそれでもよいが、解析に必要なイベント数の1/4しか発生していない段階で行うので、信頼性は十分ではない。実際、長期的な試験を実施中に一時的に群間の偏りが発生し、やがて今度は反対側に振れるようなことは決して珍しくないようだ。

    LIGHT試験の問題は中間解析の秘密保持が徹底されなかったことだ。治験の運営や中間解析に直接関わる人たちだけでなく、報道によれば、オレキシジェンの経営陣や両社のマーケティング担当者、投資銀行などの100人程度が結果を知りうる立場にあった。このため、FDAは、承認に際して新たなアウトカム試験の実施を求めた。2015年中に開始して2022年頃に結果が出る見込みなので、当初の予定より5年遅れることになる。

    ここで話を拗らせたのが、オレキシジェンがLIGHT試験の中間解析に基づく特許を取得し、投資家向け開示文書をSECに提出したことだ。医薬品の特許の中には明細書が治験報告書のような内容になっているものがあるが、この特許も中間解析結果が詳述されている。おそらく、どうせ中止する試験なのだから開示しても問題ないと考えたのだろう。しかし、LIGHT試験の執行委員会は反発した。中間解析のハザードレシオが0.57(95%信頼区間0.39、0.90)と大変良いものだったため、販促目的でリークしたと受け止めたのである。

    5月12日に武田薬品とオレキシジェンはLIGHT試験の中止を正式に発表した。同日に、治験執行委員会を主導するクリーブランドクリニックがプレスリリースを出し、目標イベント数の50%が発生した時点で実施した予備的解析結果を発表した。心血管疾患のハザードレシオは0.88(95%信頼区間0.66、1.17)で、偽薬より良いとも悪いとも言えない。主評価項目に含まれていない心血管疾患以外の理由による死亡は26人対17人でContraveの方が多かった。

    特許に記されているカプラン・マイヤー・カーブは非常にきれいで、追跡期間が長くなればなるほど治療効果が拡大するように見えた。それだけに衝撃的であり、十分な検出力のないデータでどんなに良い結果が出ても鵜呑みにしてはいけないことを改めて痛感させられた。こんなことが起こりうるので、中間解析データは内緒にして最終解析の厳格性を守らなければならないのである。

    オレキシジェンは、FDAが心血管アウトカム試験のやり直しを求めていることを開示した昨年の投資家向け電話会議で、費用の75%は武田薬品が負担することを明らかにした。しかし、思惑通りには進まなかったようだ。オレキシジェンが単独で出したプレスリリースの中で、クリーブランドクリニックやメディア報道に反論すると共に、武田と紛争が発生し調停手続きに進む可能性があることを公表したのである。

    おそらく、治験やり直しはオレキシジェンの過失によるもので武田が費用を負担する必要はない、あるいはオレキシジェンがもっと負担すべき、と主張しているのだろう。

    臨床試験の費用は金銭だけではない。参加する医師や患者の好意や情熱、時間も掛かっている。日本の例でいえば、KYOTO HEART STUDYやSTAP細胞の研究に直接係った人たちや検証を試みた人たちの熱意や時間は取り返しがつかない。私自身もブログで『Valsartanは京都で誰を倒したのか』を書く前に学会発表ビデオを見て、治験論文を読んで、海外や他のARBの治験結果を復習してと、随分時間を掛けたが今となっては無駄になった。

    それだけに、他人の失敗を自分の経験に変えることが重要だ。治験は厳格に行うべし。さもなければ多くの人々の好意に泥を被せる結果になる。

    リンク: Cleveland Clinicのプレスリリース
    リンク: 武田薬品とオレキシジェンのプレスリリース
    リンク: オレキシジェンが単独で出したプレスリリース


    【新薬開発】


    ASCO抄録:抗PD-1/PD-L1抗体のデータ発表
    (2015年5月13日発表)

    5月29日から6月2日に開催されるASCO米国臨床腫瘍学会の抄録が一般公開された。例外はLate-breakerで、学会のメディア向けコンファレンスまで公表されない。

    BMSが小野薬品と共同開発販売している抗PD-1抗体、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)は、第三相の末期黒色腫Yervoy併用一次治療試験、非扁平上皮非小細胞性肺癌二次治療試験、扁平上皮非小細胞性肺癌二次治療試験の結果が発表される。最初の二つはLate-breakerで、黒色腫試験は31日のプレスコンファレンスと学会で、非扁平上皮肺癌試験は29日のプレスコンファレンスと30日の学会で、発表される予定。

    扁平上皮非小細胞性肺癌の二次治療試験、CheckMate-017試験は抄録が公開された。全生存期間の解析でハザードレシオが0.59、統計的に有意、メジアン生存期間はOpdivo群が9.2ヶ月、docetaxelを投与した群が6.0ヶ月で3ヶ月の差があった。グレード3以上の薬物関連有害事象の発生率も7%対55%と低く、中々良い内容だ。

    PD-L1の発現と治療効果の関連性は見られないと著者は結論。しかし、データを見る限りではある程度の相関があるように感じられる。非扁平上皮非小細胞性肺癌試験の同様な解析結果を待ちたい。MSDの抗PD-1抗体、Keytruda(pembrolizumab)や下記のMPDL3280Aの試験ではPD-L1の発現度と応答性の間に相関がみられたが、どちらが正しいのか中々結論が出ない。

    抗PD-1抗体は、これまでの免疫強化療法とは異なり、様々な種類の癌に有効性の兆しを示している。今年のASCOではOpdivoの肝細胞腫第一/二相試験の報告もLate-Breakerに選ばれており、注目される。

    リンク: Spigelらの抄録(2015年ASCO)

    ロシュは受容体表面分子であるPD-1ではなくレガンドのPD-L1をブロックする抗体医薬、RG7446/MPDL3280Aを開発している。ASCOでは、第二相末期非小細胞性肺癌二次/三次治療試験の結果が発表される。抄録によると、全生存期間の中間解析でハザードレシオ0.78(95%信頼区間0.59、1.03)で、メジアン生存期間は11.4ヶ月とdocetaxel群の9.5ヶ月を上回った。Opdivoのデータと比べるとやや見劣りするが、比較的予後の良い腺腫なども組入れられている筈なので、何とも言えない。

    この試験ではPD-L1発現度とハザードレシオの間に相関性が見られた。陰性患者を除いた解析では、ハザードレシオ0.63(95%信頼区間0.42、0.95)となっている。280人程度の試験の195人の解析なので確実ではないが、Opdivoだけが何故違うのか、不思議だ。

    リンク: Spira等の抄録(2015年ASCO)

    ASCO抄録:アレセンサの海外試験が成功
    (2015年5月13日発表)

    中外製薬が開発し14年に日本で発売したALK阻害剤、アレセンサ(alectinib、ロシュの開発コードRG7853)の海外で実施された承認申請用試験二本の結果が抄録発表された。

    ファイザーのALK阻害剤であるXalkori(crizotinib)による治療を受けた後に再発したALK変異陽性非小細胞性肺癌を組入れて、600mg(日本の承認用量の2倍)を一日二回、経口投与したもので、第三者委員会の検証に基づくORR(客観的反応率)が一本は50%、もう一本は47.8%。反応率で承認を得る時に必要なメジアン反応持続期間も11.2ヶ月と7.5ヶ月で良好だった。

    RG7853は脳血管関門通過性が良く、中枢神経転移に対する有効性が期待されている。当該患者のORRは57.1%と68.8%で、これも良いものだった。忍容性面ではグレード3以上の有害事象はCPKや肝臓酵素の上昇、息切れ、肺塞栓など。出血による死亡が一例あった。

    承認されれば欧米ではノバルティスのZykadia(ceritinib)に次ぐ第三のALK阻害剤になる。Xalkori対照一次治療試験が成功すれば後発でもシェアを拡大できるだろう。

    リンク: Gandhiの抄録(2015年ASCO)
    リンク: Ignatiusの抄録(2015年ASCO)

    ASCO抄録:抗SLAMF7抗体の第三相が成功
    (2015年5月13日発表)

    BMSは、PDLを買収したアッヴィと共同でBMS-901608/HuLuc63(elotuzumab)を開発しているが、第三相の再発性難治性多発骨髄腫試験が中間解析で成功したことがASCOの抄録公開で明らかになった。前日にFDAからブレークスルー・セラピー指定を受けた旨、発表しており、承認申請に向かうのではないか。今回の抄録は数ヶ月前に作成されたものだろうから、既に申請したかもしれない。

    SLAMF7は骨髄腫細胞に発現する糖タンパク。elotuzumabはNK細胞による免疫も誘導するようだ。この試験は、セルジーンのRevlimid(lenalidomide)とdexamethasoneを併用する標準療法の一つと、elotuzumabの点滴投与を加えた三剤併用療法のPFS(無進行生存期間)を比較したもの。646例の中間解析でハザードレシオ0.7(95%信頼区間0.57、0.85)、メジアン19.4ヶ月対14.9ヶ月、2年無進行生存率41%対27%と良好な結果になった。

    グレード3以上の有害事象発生率は好中球減少症が25%対33%、貧血症が15%対16%で、上昇しなかった。

    多発骨髄腫は造血幹細胞移植の他に薬物療法も有効だが、後者はやがて再発するので、二次治療、三次治療と多くの薬の選択肢が必要だ。幸い、この十数年に次々と新薬が登場。切り札を取っておく必要が減少したせいか、今回のような三剤併用、あるいは四剤併用試験が活発に実施され、多くが高い奏効率を示した。三剤併用のベストな組み合わせは未だ明らかではないが、少なくとも、また一つ新たな選択肢が登場しそうだ。

    リンク: Lonialらの抄録(2015年ASCO)

    ASCO抄録:neratinibの効果はそれ程でもなさそう
    (2015年5月13日発表)

    Puma Biotechnology(NYSE:PBYI)はファイザーから導入した不可逆的汎erbBチロシンキナーゼ阻害剤、PB272(neratinib、ファイザーが買収したワイスの開発コードはHKI-272)を来年初めに米国で承認申請する予定だが、第三相試験の成績はそれほど良くなかったことがASCOの抄録で明らかになった。

    この試験は、her2陽性の早期乳癌で切除後にHerceptin(trastuzumab)によるアジュバント治療を受けた患者を組入れて、更にneratinibを一日一回、一年間に亘り経口投与して偽薬群と再発リスクを比較したもの。ファイザーは、neratinibの幾つかの試験がフェールしたため、この試験の追跡期間を5年から2年に短縮し繰上完了しようとしたが、Pumaに導出するに当たって再び5年に戻した経緯がある。

    結果は、2年経過後に浸潤性乳癌が再発せず生存した患者の比率が93.9%と偽薬群の91.6%を上回り、ハザードレシオ0.67で統計的に有意だった。事前に設定されたサブセグメント分析では、エストロゲン受容体やプロゲスチン受容体が発現している乳癌ではハザードレシオ0.51、セントラルラボでher2陽性であることが再確認されたグループでは0.52で、何れも95%上限が0.8を下回った。her2だけでなくEGFRも阻害するため、グレード3以上の下痢が40%の患者で発生した。

    ハザードレシオは良いのだが、無病生存率が93.9%と91.6%で2ポイントしか差がないのは物足りない印象だ。早期乳癌の治療は5年間無再発が目標になるので2年時点のデータだけでは何とも言えないが、NNT(一人を再発から救うために薬を投与しなければならない人数)が43、NNH(一人に重い副作用を齎すために薬を投与しなければならない人数)が2.5というのは、あまりバランスが良くない印象だ。

    リンク: Chanらの抄録(2015年ASCO)


    【承認審査・委員会】


    FDA諮問委員会が膿胞性線維症用薬を支持
    (2015年5月12日発表)

    ヴァーテックス(Nasdaq:VRTX)は、FDAの肺アレルギー薬諮問委員会がOrkambiの承認を支持したと発表した。Kalydecoの活性成分であるCFTRポテンシエイター、ivacaftorと、新開発のCFTRコレクターであるVX-809(lumacaftor)を配合した合剤で、12歳以上の膿胞性線維症のうち、F508欠損型のCFTR遺伝子だけしか持たない患者に用いる。

    膿胞性線維症はCFTR遺伝子に機能低下/喪失変異を持つ。KalydecoはCFTRのイオンチャネル開口時間を長期化し、機能を強化する。G551D変異型など十種類程度のタイプに承認されているが、米国の患者の3割程度を占めるF508欠損遺伝子を両親から引き継いだタイプには、十分な効果が無かった。このタイプはCFTRが細胞の表面に移行し難いことが分かり、移行性を高める作用を持つivacaftorと併用する第三相試験が実施された。

    諮問委員会では主に二点が議題になった。第一は、FEV1が偽薬比2~4%しか改善しないという治療効果が臨床的に意味があるかどうか。確かに、Kalydecoの承認用途における治療効果と比べると小さい。13人の諮問委員は一人を除いて意味があると判定した。FDA諮問委員会では学者や患者、患者支援団体、消費者団体などの代表者が意見を述べる機会が設けられているが、報道によると、患者自身の訴えが委員の心を動かしたようだ。

    第二は、lumacaftorの併用は必要かどうか。FDAは、通常、コンビ薬の第三相試験で片方の成分だけを投与する群も設定することを求めるが、Kalydeco単剤投与では十分な効果が無いことが分かっていたために、割愛することを認めた。ところが、併用しても効果はそれほど高まらず、今回の諮問委員の評価を適用するとKalydeco単剤でも効果は十分かもしれない。とは言え、小規模な試験同士の小さな差を比較するのは適切ではない。第三相で単剤投与群を設けなかったことは、結果的に、判断ミスだった。

    当然のことながら委員の評価は分かれ、必要と答えたのは3人、不要が4人、判定できないが6人だった。おそらく、承認後に改めて単剤投与との比較試験を求めることになるのではないか。

    審査期限は7月5日。Kalydecoは年31万ドルと高価な薬で、Orkambiは画期的作用機序を持つ新規活性成分も配合しているのだからもっと高価だろう。12歳以上のF508欠損ホモ接合型患者は米国で8500人と推定されており、全員に普及すれば年商30億ドルを超える計算になる。

    リンク: ヴァーテックスのプレスリリース

    【医薬品の安全性】


    FDAもSGLT2阻害剤のケトアシドーシスリスクを警告
    (2015年5月15日発表)

    FDAは、二型糖尿病の治療に用いられるSGLT2阻害剤がケトアシドーシスを誘導する可能性があることを警告した。服用中の患者は、息切れや吐き気、嘔吐、腹痛、混乱、通常と異なる疲労感、眠気などを経験したら直ちに医療従事者に伝えるよう勧告した。

    最初のSGLT2阻害剤が承認された13年3月から14年6月までの期間に、20例のアシドーシス症例がFDAの有害事象報告システムに通告された。全てが救急または入院治療を受けた。SGLT2阻害剤の投与開始から発症までの期間はメジアンで2週間、レンジは初日から175日目となっている。

    糖尿病性ケトアシドーシスは、通常、インスリンレベルが低すぎたり空腹が長く続いたりした時に発症する。一型糖尿病で起きることが多く、血糖値の上昇を伴う(典型的には250mg/dL以上)。しかし、今回の報告は殆どが二型糖尿病で、血糖値が報告されている症例ではあまり上昇していない事が特徴。幾つかで共通する因子は急性疾患、食物・水分の摂取減少、インスリンの減量。多くの症例で血中・尿中ケトンの上昇を伴う高アニオン・ギャップ代謝性アシドーシスが報告されている由。

    日本でも昨年、SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会などがケトアシドーシスを含む副作用に注意を呼び掛けた。

    リンク: FDAの安全性情報


    今週は以上です。

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    2015年5月10日

    海外医薬ニュース2015年5月10日号

    【ニュース・ヘッドライン】

    • アッヴィ、bcl-2阻害剤をCLLに承認申請へ
    • ヒュミラは非感染性ぶどう膜炎にも有効
    • ADA-SCIDの遺伝子療法がEUで承認申請
    • moxifloxacinが米国でペストに適応拡大
    • ノバルティス、ALK阻害剤がEUで承認


    【新薬開発】


    アッヴィ、bcl-2阻害剤をCLLに承認申請へ
    (2015年5月6日発表)

    アッヴィは、ロシュと共同開発しているbcl-2阻害剤、ABT-199/RG7601/GDC0199(venetoclax)を再発難治性慢性リンパ性白血病(CLL)用薬として欧米で承認申請する計画だ。FDAが17番染色体短腕(17p)欠損型にブレークスルー・セラピー指定したことを受けて公表した。急性骨髄性白血病などでも開発中。

    bcl-2はリンパ球などのアポトーシスを抑制する蛋白で、CLLではしばしば過剰発現している。ジェンタがアベンティス(当時)と提携してoblimersenの第三相CLL試験を行ったことがあるが、惜しくもフェールした。oblimersenがblc-2の転写を阻害するアンチセンス核酸医薬であるのに対して、ABT-199は天然のアンタゴニストであるBH3蛋白の類縁体で経口投与が可能。アボット時代の07年にジェネンテックとbcl-2阻害剤やVEGFR阻害剤の共同開発を開始した。

    13年に再発難治性CLLの第三相を開始。Rituxan(rituximab)併用で、標準的療法であるRituxanとTreanda(bendamustine、和名トレアキシン)の併用と効果を比較する。結果が判明するのは18年頃のようなので、今回の承認申請は昨年のASH(米国血液学会)で報告された後期第一相試験を薬効・安全性のエビデンスにするのだろう。

    49人を組入れてRituxanと併用する時の至適用量を探索した試験で、ORR(客観的反応率)が88%、CR/CRi(完全反応又は血小板数など一項目を除いて完全反応)も31%と高い活性を示した。再発難治性CLLでは30~50%に17p欠損が見られ、治療応答性が低く予後が悪いとされるが、この試験では17p欠損型にも有効であった由。

    腫瘍壊死症候群が1例発生したが、用量漸増のペースを少し遅らせるプロトコル変更の後は発生しなかった由。グレード3/4の有害事象は好中球減少症が47%、血小板減少症が16%、貧血が14%で発生した。メカニズム的に止むを得ないことだが骨髄抑制のリスクが高い。用量は200~600mg(一日一回)を試験したが、投与制限的毒性は発生せず、総合的判断で400mgが至適と判定した。症例数が少ないせいか効果も副作用も数値を見る限りでは用量相関していない。

    今年3月にはファーマサイクリクス(Nasdaq:PCYC)を210億ドルで買収する計画を発表。ジョンソン・エンド・ジョンソンと提携してImbruvica(ibrutinib)を開発販売している会社で、適応症の一つがCLLであり、17p欠損型に対する有効性が認められている。ABT-199と異なった作用機序でアポトーシスを誘導するBtk阻害剤なので、併用でシナジーを生むことができるかもしれない。少なくともマーケティング面のシナジーはありそうだ。

    リンク: アッヴィのプレスリリース

    ヒュミラは非感染性ぶどう膜炎にも有効
    (2015年5月5日発表)

    アッヴィは、Humira(adalimumab)の第三相非感染性ぶどう膜炎試験が成功したと発表した。年内に欧米で適応拡大申請する予定。抗TNFアルファ抗体が登場してから16年経ち、第一号であるジョンソン・エンド・ジョンソンのRemicade(infliximab)はバイオシミラーも出始めたが、用途の拡大は止まる処を知らない。

    感染症以外の原因で発生するぶどう膜炎は自己免疫疾患と考えられており、治療はステロイドなどを用いる。今回の試験は全身性ステロイドを服用しても眼球内の炎症が治まらない中間部、後部、全ぶどう膜炎の患者を組入れて、治療がフェールするリスクを偽薬と比較したところ、メジアン5.6ヶ月と偽薬群の3ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.5、統計的に有意だった。

    もう一本、活性期ではない患者を組入れた試験も間もなく開票するとのことだ。

    リンク: アッヴィのプレスリリース

    【承認申請】


    ADA-SCIDの遺伝子療法がEUで承認申請
    (2015年5月5日発表)

    グラクソ・スミスクラインはGSK2696273をEUで承認申請したと発表した。適応症はADA-SCID(アデノシンデアミナーゼ欠損症による重度複合型免疫不全症)で、HLA型適合ドナーが見つからない場合に限定される。患者の骨髄細胞から精製した造血前駆・幹細胞に、アデノシンデアミナーゼの遺伝子をレトロウイルスベクターを用いて導入し、体内に戻す遺伝子療法。

    アイディアとしては昔からある遺伝子療法のクラシックな用途だが、ベクターの安全性が問題になったことがあるので、おそらくそれが理由で開発が遅れたのだろう。ex vivoで、Moloney Murine Leukaemia Virusという聞きなれないウイルスを使って遺伝子を送り込んでいる。

    GSKはFondazione Telethon and Fondazione San Raffaeleから2010年に権利を取得。承認されたら先ずミラノのOspedale San Raffaeleで治療を開始する。

    EUでは12年に西洋初の遺伝子療法であるGlybera(alipogene tiparvovec)が重度家族性リポプロテイン・リパーゼ欠乏症向けに例外的環境条項に基づいて承認された前例がある。こちらはアデノ随伴ウイルスをベクターとして筋細胞に注射する。アムステルダム大学発の製品で、EUなどではChiesi Farmaceuticiが販売する。

    リンク: GSKのプレスリリース

    【承認】


    moxifloxacinが米国でペストに適応拡大
    (2015年5月8日発表)

    FDAは、バイエルのフルオロキノロンであるAvelox(moxifloxacin、和名アベロックス)をペストの治療と曝露後予防に用いることを承認した。ペスト感染は世界で年1000~2000例と少ないが、バイオテロリズムを想定した承認のようだ。臨床試験の実施は困難なので、薬効は動物試験で確認した。具体的には、アフリカミドリザルに感染させ発熱の4時間後に投与したところ、偽薬群は10頭全てが死亡したがmoxifloxacin群は全て生存した。

    12年にLevaquin(levofloxacin、和名クラビット)も同じ用途で承認されている。この二つのフルオロキノロンは肺炭疽にも承認されているが、切っ掛けは貿易センタービルのテロの後に炭疽菌を入れた封筒がTVキャスターなどに送付された事件であり、今回の承認はバイオテロリズム対策第二号と言える。

    Aveloxは腱炎や腱断裂などの筋毒性が枠付警告されている。

    リンク: FDAのリリース

    ノバルティス、ALK阻害剤がEUで承認
    (2015年5月8日発表)

    ノバルティスは、Zykadia(ceritinib)がEUでALK陽性末期非小細胞性肺癌向けに条件付き承認されたと発表した。染色体転座で生じるEML4-ALK融合蛋白などを持つ、非小細胞性肺癌の2~7%程度を占める患者が対象で、同じALK阻害剤で先に承認されたXalkori(crizotinib、和名ザーコリ)を既に使った患者が適応になる。米国では14年に承認された。エビデンスとなった第二相試験では反応率が58%で、そのうちcrizotinib経験者では55%、メジアン反応持続期間は7.4ヶ月だった。

    第三相は三次治療試験と一次治療試験が進行中。どちらも対照薬はcrizotinibではなく化学療法である点が残念。これらの試験で薬効が確認された段階で本承認に切り替わることになりそうだ。

    ところで、EML4-ALK染色体転座は日本の学者が科学技術振興機構の支援を受けて行った研究で発見されたものだ。Nature誌に論文が刊行されたのが07年、Xalkoriの米国承認は11年なので、ベンチとベッドサイドが4年で繋がったことになる。Xalkoriはc-MET阻害剤として臨床開発されていたため上手く飛び乗れたという面もあるのだろうが、日本の研究が世界的な成果を生んだことはもっとアピールされて然るべきである。

    ここでネックになるのが、実際に製品化したのが最初はファイザー、次がノバルティスで日本の製薬会社ではないことだ。内資系製薬会社にも頑張ってもらいたい。

    リンク: ノバルティスのプレスリリース


    今週は以上です。

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    2015年5月2日

    海外医薬ニュース2015年5月3日号



    【ニュース・ヘッドライン】

    • FDA、抗PCSK9抗体の諮問委員会を招集へ
    • バイオマリン、DMD治療薬の承認申請が完了
    • FDAが新種の多発性硬化症用薬の承認申請を受理
    • オプジーボ、悪性黒色腫一次治療の申請をFDAが受理
    • FDA諮問委員会が黒色腫遺伝子療法を支持
    • FDAはブリディオンを今回も承認せず
    • 米国で頤下脂肪治療薬が承認
    • MDCO、FDAが二製品を相次いで承認
    • レルベアが米で適応拡大
    • Lantus新製剤がEUで承認


    【今週の話題】


    FDA、抗PCSK9抗体の諮問委員会を招集へ

    (2015年4月29日発表)

    FDAは、6月9日と10日に内分泌代謝薬諮問委員会を招集してリジェネロン(Nasdaq:REGN)/サノフィとアムジェンが夫々、承認申請した抗PCSK9完全ヒト化抗体について意見を聞くことを発表した。

    PCSK9(proprotein convertase subtilisin/kexin type 9)はLDL受容体の零落に関与する酵素。機能喪失変異を持つ人は心血管疾患のリスクが低いとされる。コレステロール治療薬はスタチンが世界で数千万人が服用するの超大型薬になり、また、高リスク患者を中心にLDL-C治療目標値が低下しているため、アドオン用薬として、あるいはスタチン不耐患者向けに、大型化が期待されている。

    6月9日の会合はリジェネロン/サノフィが昨年承認申請したPraluent(alirocumab)を検討する。バイオマリン社から6750万ドルで購入した優先審査バウチャーを用いたため審査期限が7月24日と早いが、諮問委員会の後に1ヶ月以上あるので、大きな問題が浮上しない限り審査スケジュールには影響しないだろう。10日はアムジェンのRepatha(evolocumab)を検討する。承認申請は昨年8月と先だが標準審査なので審査期限は8月27日と1ヶ月遅い。

    抗PCSK9抗体は心血管アウトカム試験が進行中で、治療目的である心筋梗塞などのリスクを削減する効果は確立していない。第三相試験などのメタアナリシスは良さそうなデータが出ているようだが、情報が断片的で鳥瞰が難しい。諮問委員会の2~3日前にブリーフィング資料が公開されれば全体像が明確になるだろう。

    FDAは高脂血症/異脂血症治療薬の承認に際して心血管リスク削減効果のエビデンスを求めていない模様だ。作用機序が異なる薬でもLCL-Cが低下するならば心血管リスクも低下すると推定できると考えている。諮問委員会では、この仮説の妥当性や過去の臨床試験で稀に発生した神経認知障害や眼科系有害事象などに関する評価を議題にするのではないか。

    リンク:FDAの公告(Praluent)

    リンク:FDAの公告(Rapatha)

    リンク:アムジェンのプレスリリース

    【承認申請】


    バイオマリン、DMD治療薬の承認申請が完了

    (2015年4月27日発表)

    米国の希少疾患用薬開発会社であるバイオマリン(Nasdaq:BMRN)は、米国でdrisapersenのローリング承認申請を完了したと発表した。DMD(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)の患者の13%程度を占めるエクソン51スキップ型の治療に用いる皮注用アンチセンス薬で、ジストロフィン遺伝子の翻訳が途中で終了してしまうのを防ぎ、短いがある程度の機能を持つジストロフィンを作れるようにする。

    初期、中期の試験では6分歩行距離が31~35メートル改善したが、第三相試験では偽薬比10メートルしか改善せず、二次的評価項目である運動機能などでも有意な差は見られなかった。エビデンスは明確ではないが、希少疾患なので、効果が小さくても承認される可能性はありそうだ。

    EUでは15年央に条件付き承認申請を行う予定。

    リンク:バイオマリンのプレスリリース

    FDAが新種の多発性硬化症用薬の承認申請を受理

    (2015年4月29日発表)

    バイオジェン(Nasdaq:BIIB)とアッヴィ(NYSE:ABBV)は、抗CD25ヒト化抗体Zinbryta(daclizumab)を再発寛解型多発性硬化症の維持療法薬としてFDAに承認申請し受理されたと発表した。EUの申請も3月に受理されている。

    この活性成分はPDLバイオファーマが創製、ライセンシーであったロシュが腎移植後の拒絶反応防止薬Zenapaxとして1997年に発売したが、売上が小さいため、09年に生産中止となった。両社は自己免疫疾患領域でも共同開発していたがロシュは離脱。PDLは生産プロセスを改良し、バイオジェンと共同で多発性硬化症の開発を進めた。アッヴィはPDLからスピンアウトされた新薬開発部門を買収、大手製薬会社同士の呉越同舟となった。

    第三相試験ではベータインターフェロンより高い再発防止効果を示したが、深刻な皮膚毒性や肝機能検査値異常も見られた。過去の試験では自己免疫疾患も見られた。このため、承認審査では便益とリスクのバランスが論点になりそうだ。

    リンク:両社のプレスリリース

    オプジーボ、悪性黒色腫一次治療の申請をFDAが受理

    (2015年4月29日発表)

    BMSは、抗PD-1抗体Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)を悪性黒色腫の一次治療薬として米国で承認申請し受理されたと発表した。優先審査指定を受け、審査期限は8月27日。Opdivoは小野薬品との共同開発品で14年に二次治療薬として承認されている。

    今回の申請は欧州やカナダで実施されたCheckMate-066試験に基づくもの。活性対照薬であるdacarbazineと比べて全生存のハザードレシオが0.42と有意に優れ、有害事象による治験離脱(6.8%対11.7%)も、グレード3以上の有害事象(11.7%対17.6%)も少なかった。

    EUでは4月に一次治療と二次治療の両方でCHMPの肯定的意見を受けたが、前者はこの試験のエビデンスに基づいている。米国の申請が遅れたのは対照薬がdacarbazineであることがボトルネックなのだろう。同社のYervoy(ipilimumab)は11年に欧米で承認されたが、EUが二次治療に限定した(13年に解除)のに対してFDAは最初から一次治療も認めた。このため、米国ではYervoyが転移性進行性黒色腫一次治療の標準薬になっている。066試験に米国の施設が参加しなかったのはこのためだろう。

    とは言え、Opdivoは小規模なYervoy対照試験でかなり良い反応率を示しており、様々な試験の結果を総合的に評価すれば、適応拡大を承認することが可能だろう。

    リンク:BMSのプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    FDA諮問委員会が黒色腫遺伝子療法を支持

    (2015年4月29日発表)

    FDAの細胞・組織・遺伝子療法諮問委員会と腫瘍学薬諮問委員会の共催会議は、アムジェンが切除不能悪性黒色腫用薬として承認申請したT-VEC(talimogene laherparepvec)を検討し、22人対1人の大多数が承認を支持した。

    T-VECは同社が11年に買収したBioVexの開発品で以前はOncoVEX(GM-CSF)と呼ばれていた。腫瘍細胞選択的に増殖するよう遺伝子操作したヘルペスウイルスにGM-CSFの遺伝子を組み込んだもので、黒色腫に直接注射するとウイルスが腫瘍を破壊し、腫瘍の各種抗原とGM-CSFに刺激された免疫細胞が他の黒色腫細胞も攻撃する、というアイディアだ。

    第三相試験では主評価項目である持続的反応率が15.6%とGM-CSFだけを投与した群の1.4%を有意に上回ったが、全生存期間はメジアン23.3ヶ月対19.0ヶ月、ハザードレシオ0.79、p=0.051と有意な差が無かった。

    FDAの評価はあまり良くないようだ。FDAは、通常、複数の独立した臨床試験で有意な治療効果を確認するよう求め、例外的に一本だけの時はp値が0.001とか著しく低いことを要求する。0.051では失格である。持続的反応率では大きな差があったが、オープンレーベル試験なので医師のバイアスが影響しているかもしれない。打切り例が多いこともこの影響かもしれない。それでも諮問委員が支持したのは、悪性黒色腫は難しい病気なので様々な治療オプションが必要という主張であるようだ。

    この試験は一次治療の患者も含まれており、サブグループ分析では一次治療、内臓転移なし、腫瘍が小さい、などの患者の方が効果が高かったようだ。しかし、抗癌剤のサブグループ分析はあまりアテにならないので、これらの患者だけに承認するのは難しいだろう。

    審査期限は10月27日。FDAがどのような結論を出すか、注目される。EUでは昨年9月に承認申請が受理された。

    FDAはブリディオンを今回も承認せず

    (2015年4月28日発表)

    MSDは15年第1四半期の決算発表電話会議で、FDAからBridion(sugammadex、和名ブリディオン)の審査完了通知を受領したことを明らかにした。Bridionは筋弛緩剤の解毒剤で、術後の回復を早める。欧州で08年、日本での10年に承認され、特に日本で普及したようだ。米国は08年に承認申請したが過敏反応の懸念を指摘され、アレルギー感受性試験を実施することになった。13年に試験結果を提出したが、実施施設の査察で問題が発覚した模様で、再び審査完了通知を受領。

    追加試験を実施して提出したが、ここでも査察で何か発覚した模様で、諮問委員会がキャンセルになり三度目の審査完了通知を受領することになった。

    【承認】


    米国で頤下脂肪治療薬が承認

    (2015年4月29日発表)

    FDAは頤下脂肪(二重顎)の治療薬を承認したと発表した。Kythera社(Nasdaq:KYTH)が開発したKybella(deoxycholic acid)で、天然の食物脂肪分解物質を化学合成したもの。顎の下の膨らんだ脂肪に注射すると細胞膜を破壊する。

    脂肪を取る薬というと腹を凹ませることができないかとか、色々想像してしまう。FDAも乱用を気にしている模様で、顎以外の脂肪に対する効果や安全性は確立していないと警告している。承認された用途でも深刻な神経障害のリスクがあるようだ。医師は事前にトレーニング・プログラムを受講し、患者にリスクを伝えた上で施行する。治療は一回15~20分程度で終わるようだ。

    リンク:FDAのリリース

    リンク:Kytheraのプレスリリース

    MDCO、FDAが二製品を相次いで承認

    (2015年4月30日発表)

    メディスンズ・カンパニー(Nasdaq:MDCO)は同じ日に二度、FDA承認を発表した。

    一つはIONSYS。術後の入院患者が用いるフェンタニル供給器で、クレジットカード・サイズのディバイスを上腕部や胸に貼付け、必要な時にボタンを押すとフェンタニルが微弱電流に乗って経皮供給される。ベッドサイドに据え置くPCAと呼ばれる静注用機器と異なり、針が無いので患者や医療従事者に安全で、また、ベッドを離れる邪魔にならない。元々はジョンソン・エンド・ジョンソンが06年に承認取得したものだが、誤作動が原因で販売中止になった。その後、権利を取得して改良に成功したIncline社をMDCOが12年に買収した。

    もう一つはRaplixaというフィブリンシーラント。術中に軽中度出血を止血できない場合に用いる。Ventura社の技術を用いてフィブリノーゲンとトロンビンを乾燥粉末化したもので、出血箇所で溶解・混合し血栓を形成する。吸収性ゼラチンスポンジと共に用いる。乾燥粉末製剤が承認されたのは米国で初めて。13年に買収したProFibrix社の開発品。

    リンク:FDAのリリース

    リンク:MDCOのプレスリリース(IONSYS)

    リンク:同(Raplixa)

    レルベアが米で適応拡大

    (2015年4月30日発表)

    グラクソ・スミスクラインは、Breo(和名レルベア)を喘息症の維持療法として用いることが米国で承認されたと発表した。吸入用コルチコイドのfluticasone furoateと長期作用性ベータ2作用剤vilanterolの合剤で、同社のAdvair(fluticasone propionateとsalmeterol xinafoateの合剤、和名アドエア)と似ているが、一日二回ではなく一回の吸入で済む。

    13年にCOPD維持療法薬として承認されたが、FDAは喘息症患者に対する長期作用性ベータ2作用剤の安全性に懸念を持っているため承認が遅れた。18歳以上が対象で、12~17歳は審査完了通知となった。

    リンク:グラクソ・スミスクラインのプレスリリース

    Lantus新製剤がEUで承認

    (2015年4月28日発表)

    サノフィは、Toujeo(insulin glargine)がEUで糖尿病治療薬として承認されたと発表した。持効性インスリンのベストセラーであるLantusの新製剤で300単位/mlと濃度が3倍。薬物動態が若干異なるようで、Lantusからスイッチする場合は量を10~18%増やす。米国は2月に承認、日本は昨年7月に承認申請。

    Lantusはバイオシミラーが承認申請されているため需要をToujeoにシフトさせたいところだが、米国では価格がLantusと大差ないようなので、難しいだろう。勿論、バイオシミラーの普及速度もスローなのだろうが。

    リンク:サノフィのプレスリリース

    今週は以上です。

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