2015年1月18日

海外医薬ニュース2015年1月18日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • 旧薬は時に高し(Colcrys騒動について)
  • BMS、オプジーボの肺癌試験が成功
  • アストラゼネカ、Brilintaの適応拡大試験が成功
  • afatinibはL858R変異型には効果が弱い?
  • リジェネロンも抗PCSK9抗体を承認申請
  • セルジーンとアッヴィの新薬がEUで承認


【今週の話題】


旧薬は時に高し(Colcrys騒動について)

(2015年1月12日発表)

NTTグループが運営するネット型大学講座、gaccoで、京都大学iPS細胞研究所のスタッフによる『よくわかる!iPS細胞』が開講した。

山中教授のノーベル賞受賞談話で印象的だったのは、iPS細胞の開発が医療応用に向けた第一歩に過ぎないことを強調していたことだ。第一週は概要紹介だけだったが、サイエンスコミュニケーションとか寄付募集専門職(ファンドレイザー)とか、様々な機能・役割を果たしている人たちが講師として登壇し、iPS研究所の活動の広さを印象付けた。臨床応用に向けた課題に関しても、作成方法だけでなく作成されたiPS細胞・移植用細胞の評価方法を標準化する必要性に言及。ラボの研究だけでなく、プロジェクトの全体像に目が行き届いている。

私のレポートではしばしば新薬の副作用に言及しているが、発売されたばかりの新薬は分からないことが多いので怖いという印象を与えないか心配だ。確かにそうなのだが、一方で、欠点が見つかるのはキチンと調査したからである。科学が進歩して新しい作用機序の薬が続々登場する一方で、薬を評価する技術も年々進歩する。ところが、新しい評価技術で評価されるのは多くの場合、新薬なので、それが良い作用でも悪い作用でも、研究対象になった新薬だけの問題であるように誤解されやすい。

現在の承認審査手続きが確立される前から使われている薬は本当に効果があるのか、安全なのか?用量は適切か?小児や高齢者にも有効・安全なのか?現代の尺度で再評価するのが望ましいが、全部調べるのは費用も時間が掛かり、現在治療を受けている患者に支障が生じかねない。行政はどう対処すべきか?

米国の場合、FDAが06年にUnapproved Drugs Initiativeを発表。昔から使われているため販売承認取得を免除されている薬のうち薬効・安全性懸念のあるものを選び出し、販売継続を望むメーカーにキチンとした試験を行って承認を取得するよう促した。インセンティブとして承認取得時に3年間の排他権を与え、通常より高い値段で販売して投資を回収できるようにした。

良い制度のように思われたが、11年に承認されたKVファーマシューティカルの早産予防薬Makena(hydroxyprogesterone caproate)や09年承認のURL Pharmaの痛風治療薬Colcrys(colchicine)は医師から強烈な反発を受けた。Makenaは価格が調剤薬局品の100倍、Colcrysは他の未承認製品の500倍だったからだ。Makenaは政治家が介入し、FDAが調剤薬局品の摘発を見送ったため、KV社は経営が破たんした。

Colcrysはリウマチ学会などが問題提起した。試験・承認申請に掛かった費用と比べて高すぎる、そもそも、URLの臨床試験で新たに得た知見は限定的、と主張したのである。だが、2010年にFDAが他社のコルヒチン製剤の販売を禁じたため、年商7億ドルの準大型薬に育った。

12年には武田薬品がURL社を8億ドルで買収した。武田は北米で痛風治療薬Uloric(febuxostat、和名フェブリク)を販売しているが、Colcrysの一日薬価はUloricの3倍近く、年商を上回る価格で買収してもペイすると考えたのだろう。

Colcrysは3年の排他権期間が終了した後もGE品が販売されなかったが、FDAが錠剤ではなくカプセル製剤を承認。武田は司法に承認・販売差止命令を請求したが却下され、Hikma(LSE:HIK)社が対抗品とそのオーソライズド・ジェネリックの発売を発表した。武田もPrasco社にオーソライズド・ジェネリックの販売を許諾、こちらは薬局における自動代替の対象になるので高いシェアを取りそうだ。

薬が高いのは正しい使い方に関する情報に価値があるからだ、と私は考えている。従って、Makenaの結末には不満がある。一方で、知識や情報はやがて陳腐化するのだから、知的所有権には期限があるべきだ。Colcrysは特許がまだ14年残っているが、バランスを考えれば、対抗品が発売されても良い頃だろう。

リンク:武田のプレスリリース(不利判決について)

リンク:同(AG提携について)

リンク:Hikmaのプレスリリース

リンク:KesselheimらのColcrysに関する論考(NEJM、オープンアクセス)

リンク:大学講座gaccoのウェブサイト

【新薬開発】


BMS、オプジーボの肺癌試験が成功

(2015年1月11日発表)

BMSは、小野薬品と共同開発している抗PD-1抗体、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)の第三相扁平上皮非小細胞性肺癌二次治療試験が成功し、繰上完了することを発表した。延命効果をdocetaxelと比較した試験で、もう一本、扁平上皮以外を組入れた同様な第三相も進行中。

Opdivoは昨年7月に日本で、12月には米国でも末期黒色腫用薬として承認されたが、この用途ではMSDのKeytruda(pembrolizumab)に3ヶ月遅れた。非小細胞性肺癌は12月に米国で適応拡大申請を行ったはずだが、MSDが6月までに適応拡大申請する計画を発表したため開発競争の先行きが不透明になっていた。BMSの申請は扁平上皮型だけの三次治療、MSDはそれ以外も含む二次治療と見做されているからである。

だが、注目されている抗癌剤は正式に適応拡大が承認される前でも、ASCOのような学会で結果発表されるだけでも保険還元の対象になり広く使われることがある。この時期に終了なら6月のASCOでデータ発表できるだろう。MSDのデータは大規模とは言え後期第一相試験のもの、BMSは第三相なのでエビデンスとしても優れる。扁平上皮の第三相も成功するならば、三次治療であっても先に適応拡大が承認される優位をフルに生かすことができるだろう。

リンク:BMSのプレスリリース

アストラゼネカ、Brilintaの適応拡大試験が成功

(2015年1月14日発表)

アストラゼネカは、抗血小板薬Brilinta(ticagrelor、欧州名Brilique)のPEGASUS-TIMI 54試験の成功を発表した。Plavix(clopidogrel)やEfient(prasugrel)と異なった構造を持つP2Y12阻害剤で、作用のオン、オフが早いことが特徴だが、一日二回服用であることや承認申請用試験の米国施設におけるデータが見劣りしたこと、そしてPlavixのGE品が発売されたことから売上は伸び悩んでいる。カンフル剤になるかどうか、データ発表が注目される。

Brilintaの適応が急性冠症候群であるのに対して、PEGASUS試験は心筋梗塞発症後1~3年経った患者を組入れ、アスピリンだけの群とEfient併用群の再発リスクを比較した。類似した内容のPlavixのCHARISMA試験はフェールしたが、心血管疾患既往患者だけのデータは良さそうに見えたので、本当に有効なのか確認することが望まれていた。また、昨年のAHAで結果発表されたDAPT試験と同様に、抗血小板薬の至適投与期間を明らかにする上でも重要だ。

PEGASUS試験は再発リスクを20%削減する効果を検出する力を持っているが、近年の試験は大規模でもう少し小さくても有意差が出る可能性がある。しかし、差があまり小さいと、抗血小板薬は出血リスクを伴うので、普及し難いだろう。

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

リンク:Bonacaらのデザインペーパー(American Heart Journal)

afatinibはL858R変異型には効果が弱い?

(2015年1月12日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムのGilotrif(afatinib、欧州名Gilotrif)はEGFRに特定の変異を持つ腺腫非小細胞性肺癌の一次治療薬だ。米国のレーベルによると適応はエクソン19欠損(del19)またはエクソン21のL858R置換(L858R)型だが、Lancet Oncologyに先行公開された治験論文によると、L858R型に対する効果は既存の併用レジメンと大差ないようだ。del19型には優れた効果が示されたので意外である。

既存レジメンと大差ないならOKと言えなくもないが、欧米の審査機関が対応するかどうか、様子を見たい。

afatinibはIressa(gefitinib)やTarceva(erlotini)と同じEGFRチロシンキナーゼ阻害剤だが、her2も阻害する。先行二品に反応し難いT790M変異型等に対する活性が期待されたが三次治療試験がフェールし、EGFR活性化変異型腺腫非小細胞性肺癌の一次治療試験でも全生存期間がAlimta(pemetrexed)・cisplatin併用レジメンより長いという仮説を立証できなかった。

しかし、後者の試験でdel19型やL858R型に対するPFS延長効果を示したため、13年に欧米で承認された。今回の論文は、承認の根拠となったLUX-Lung 3試験と、アジアで別途実施されたLung 6試験(対照群はgemcitabineとcisplatinを併用)の結果報告だ。

del19型のハザードレシオは前者の試験が0.54、後者は0.64で統計的に有意だった。サブグループ分析で症例数が少ないせいか後者のp値は0.023とそれほど良くないが、二本の試験で有意だったのだからこのタイプに対する有効性が確認されたと言って良いだろう。

ところが、L858R型はハザードレシオが各1.30と1.22で、有意ではないが数値上は悪い。95%上限は各2.1と1.8となっており、大きく劣っている可能性が否定されていない。メジアン値は前者が27.6ヶ月対40.3ヶ月、もう一本は19.6ヶ月対24.3ヶ月で差が大きい。

相手は活性薬なので微妙なところだが、L858R型に対しては既存薬より優れるとは言えなさそうだ。そもそも、afatinibはIressaやTarcevaより良いのか、という疑問も未解決である。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

リンク:Yangらの治験論文の要約(Lancet Oncology)

【承認申請】


リジェネロンも抗PCSK9抗体を承認申請

(2015年1月12日発表)

リジェネロンと開発パートナーであるサノフィは、Praluent(alirocumab)を高脂血症の治療薬としてEUに承認申請し、受理されたことを発表した。米国でも昨年第4四半期に申請したことが明らかにされた。

抗PCSK9完全ヒト化抗体ではアムジェンもAMG145(evolocumab)を米国では昨年8月、EUは昨年9月に承認申請している。リジェネロンはバイオマリンから6750万ドルで購入した優先審査バウチャーを用いたはずなので、米国では先に承認される可能性がある。

リンク:両社のプレスリリース

【承認】


セルジーンとアッヴィの新薬がEUで承認

(2015年1月16日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)はOtezla(apremilast)がEUで承認されたと発表した。適応は中重度乾癬と乾癬性関節炎で、DMARD(疾病修飾性抗リウマチ薬)などに十分反応しない、または不耐の患者。効果はTNF阻害剤より弱そうだが、経口投与できる点が長所(一日二回服用)。米国では昨年3月に承認。

リンク:セルジーンのプレスリリース

同日、アッヴィはViekirax(NS5A複製複合体阻害剤ombitasvir、NS3/4プロテアーゼ阻害剤paritaprevirと3A4阻害剤ritonavirの合剤)とExviera(非核酸系NS5Bポリメラーゼ阻害剤dasabuvir)がEUで承認されたことを発表した。遺伝子型1型のC型肝炎ウイルスだけでなく、中東やサブサハラ・アフリカに多く南欧でも感染者が増加している4型にribavirin併用で用いることも承認された。

この二つの錠剤は米国ではViekiraパック名で昨年12月に承認された。ギリアド(Nasdaq:GILD)の抗HCV新薬との販売競争が注目され、Express Scriptsがアッヴィ品だけを保険還元の対象にしたためアッヴィが優位に立ったと思われたが、その後、CVS Healthなど多くの薬剤給付管理会社がSovaldi/Harvoniを優先使用薬に指定、ギリアド優勢に推移しているようだ。欧州では英独仏などが薬価抑制に注力しており、大幅値引きの見返りにシェアを獲得する競争がまだまだ続きそうだ。

リンク:アッヴィのプレスリリース

今週は以上です。

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