2014年10月19日

海外医薬ニュース2014年10月19日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • 米国で二種類の特発性肺線維症用薬が承認
  • Imbruvicaが欧州でも承認
  • FDA諮問委員会、チャンピックスの枠付警告は未だ外せないと判定


【承認】


米国で二種類の特発性肺線維症用薬が承認

(2014年10月15日発表)

FDAは、特発性肺線維症治療薬を二剤、同日に、承認した。片方は審査期限より2ヶ月半早く、もう一つも1ヶ月半早かった。特発性肺線維症は肺の間質などが線維化し酸素を取り込む能力が低下する。5年生存率20~40%の難病。推定患者数は米国が10万人、欧州は8~11万人、日本は7000~8000人。二剤とも延命効果は確認されていないが、FVC(努力肺活量)の低下を遅らせる効果や急な増悪を抑制する効果を持つ。

ロシュが9月に買収したインターミューンのEsbriet(pirfenidone、和名ピレスパ)は抗線維化剤とされる。マルナック社からライセンスを取得した様々な会社が様々な用途に臨床開発を行ったが、日本の研究者が肺線維症に有効であることを発見、最初の臨床試験は曖昧な結果になったが再試験に成功、08年に世界に先駆けて承認され、塩野義製薬が発売した。インターミューンは再試験と並行して海外試験を実施、曖昧な結果になったが欧州は日本試験に基づいて11年に承認した。

一方、米国は承認されず再試験を実施、今回の承認に至った。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:ロシュのプレスリリース

ベーリンガー・インゲルハイムのOfev(nintedanib)はVEGFやPDGF、FGFなどの受容体を阻害する小分子薬で、腺腫非小細胞性肺癌の二次治療薬としても欧州で承認審査中。特発性肺線維症の第三相ではFVCの下落率が偽薬比有意に小さく、病状判定スコアの悪化や急性増悪を防ぐ効果については、一本はフェールしたがもう一本は成功した。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

この二剤の使い易さを比較すると、どちらも経口剤だが服用頻度はEsbrietが一日三回、Ofevは二回なので若干少ない。Esbrietは重度肝機能障害と末期腎疾患、Ofevは中重度肝機能障害を持つ患者には推奨されない。Esbrietは皮膚光線過敏を招くことがあるので日光を避けるなりサンスクリーンを用いるなりする必要がある。ラッシュも起きることがある。Ofevは催奇性を持つので妊娠の可能性のある人は避妊が必要。

主な副作用は両剤とも悪心、嘔吐、腹痛、下痢、食欲低下などのリスクを持つ。OfevはVEGFR阻害作用を持つので血圧上昇リスクもある。

Esbrietの審査期限は11月、Ofevは来年1月だったが、同時に承認されたため販促競争が始まることになる。インターミューン一社では心許なかったが、ロシュならベーリンガーと遜色ないだろう。競争が価格抑制につながるなら医療経済にポジティブだが、希少疾患用薬で参入も二社だけなので、望み薄だろう。

Imbruvicaが欧州でも承認

(2014年10月17日発表)

カリフォルニアのファーマサイクリクス(Nasdaq:PCYC)は、Btk阻害剤Imbruvica(ibrutinib)が欧州で承認されたと発表した。適応は昨年11月に承認された米国とほぼ同じで、再発性または難治性のマントルセルリンパ腫と、慢性リンパ性白血病の二次治療。後者は、化学療法不適で17p(第17染色体短腕)欠失あるいはTP53変異を持つ場合は一次治療に用いることもできる。

米国ではTP53変異に対する一次治療は承認されていない。17p欠失もTP53変異も化学療法応答性が低いので一次治療可としたのだろうが、薬効の裏付けはサブグループ分析なので、エビデンスの磐石性に関する評価が欧米で食い違ったのだろう。

マントルセルリンパ腫は米国で年5000人診断される難治性疾患。慢性リンパ性白血病は1.6万人で、うち、17p欠失は新患の7%、再発・難治性患者の20~40%を占めると推定されている。

Imbruvicaはファーマサイクリクスがジョンソン・エンド・ジョンソンと共同販売している。

リンク:ファーマサイクリクスのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDA諮問委員会、チャンピックスの枠付警告は未だ外せないと判定

(2014年10月16日発表)

FDAの精神薬理学薬と薬品安全性・リスク管理に関わる諮問委員会が共催会議を開き、ファイザーの禁煙補助薬、Chantix(varenicline、和名チャンピックス)の神経精神学的副作用について検討、枠付警告を削除するのは早計との結論に至った。

Chantixが06年に米国で承認された時はピーク年商13億ドルの大型化が期待されたが、テキサスのミュージシャンの悲劇などがメディアに大きく取り上げられ、09年に市販後有害事象報告に基づいて枠付警告が導入されたため、08年の8.5億ドルをピークに頭打ちになってしまった。枠付警告があると医療組合・保険の処方制限が厳しくなるからだ。内容も、激性や鬱気分、行動異常、自殺思慮などが見られたら服用を止めるよう患者や介護者に説明することを推奨する厳しいものだ。

通常は、服薬中に有害事象が発生したら医師に相談せよと書くものだが、精神症状は本人でないと分からないこともあり、例えば鬱症状だったら、医療施設に行きたがらないかもしれない。だからリスクを患者自身に十分に説明する必要があるのだが、怖がって服用を拒否する可能性もあり、難しいところだ。これらの有害事象はChantixではなく禁煙すること自体の副作用である可能性も排除できないのである。

そのせいか、枠付警告では禁煙やChantixの効果についても言及し、便益と危険を十分に検討した上で決定するよう推奨している。枠付警告は深刻な副作用に注意を促すもので、通常、便益については言及しない。

今回、諮問委員会が開催されたのは、ファイザーが疫学試験や臨床試験のメタアナリシスに基づいてリスクは高まらないと判定し、枠付警告の削除・緩和をFDAに求めたため。

FDA審査官は、安全性確認試験の結果が15年に出るまで待つべきと考えた。理由は、神経精神学的有害事象症例の中にはタバコを吸い続けた患者もいるので、ニコチン依存の離脱症状と決めつけることはできない。また、過去の禁煙チャレンジでは発症しなかった患者もいる。更に、服薬を中断して症状が緩和したため再開したら再発という、薬の関与を疑うべき症例もあった。

18人の委員のうち、11人は枠付警告を維持すべきと判定した。6人は上記の便益に関する記述を廃止すべきと主張。警告廃止を推奨したのは一人だけだった。米国では厳しい制限が続くことになりそうだ。

薬の利益相反やバイアスというと製薬会社の話ばかりだが、実際には、医学者にも、患者のために良い薬であってほしい、良い薬なので使ってほしいという善意に基づくバイアスがある。子宮頸癌予防用ワクチンの神経学的有害事象は他の国でも騒ぎになったことがあり、日本でも発売前に十分に予見できたはずだ。普及を促すために効能に関する留保点や副作用とは断定できない有害事象を割愛するのは良くあること。日本のメディアは医療メディアも含めて大本営発表に忠実なので、私たち自身が注意しなければならない。

リンク:MedPage Todayの記事

今週は以上です。

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