2014年10月26日

海外医薬ニュース2014年10月26日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • アビガンをエボラ向けに追加生産へ
  • 大鵬、米国でロンサーフの承認申請手続きを開始
  • Imbruvicaをマクログロブリン血症に適応拡大申請
  • CHMPが二種類の画期的新薬などに肯定的意見
  • バクスター、後天的A型血友病用薬が米国で承認


【今週の話題】


アビガンをエボラ向けに追加生産へ

(2014年10月20日発表)

富士フィルムは、インフルエンザ治療薬アビガン(ファビピラビル)をエボラ向けに追加生産することを発表した。11月中旬にギニアやフランスで臨床試験を開始、有効性や安全性が確認されれば広く使われる可能性があるので、予め在庫を積み増す。

エボラウイルス疾患の治療法としては、回復した患者の血漿、抗体カクテル療法、ワクチン、小分子薬などが開発・試用されている。血漿は米国人医師ブラントリー氏の血漿がネブラスカやダラスの患者に用いられた。抗体カクテル療法はMapp BiopharmaceuticalのZMappがサルの試験で12頭全てが生存と良い結果を出したが在庫がなくなった。従来の製法だと量産に時間が掛かるため、複数の企業が量産方法の開発に着手した。

ワクチンは準備が整えば一番量産しやすいのではないかと思われる。予防だけでなく、感染者と接触した人の暴露後予防や、もしかしたら発症後の治療にも有効かもしれないので、将来、エボラ対策の決め手が現れるとしたら最有力候補だろう。

小分子薬では、効果の点で有望なのがサルの試験で全頭が生存という良績を挙げたTekmira Pharmaceuticals(Nasdaq:TKMR)のTKM-Ebolaだ。ネブラスカの患者が投与を受けたと報じられている。ただ、この薬も量産性に難があるようだ。量産方法の開発は、通常、第二相、第三相試験と平行して行うが、TKM-Ebolaは第一相段階なので已むを得ない。

アビガンの長所はインフルエンザで900例を超える臨床成績を持っていることと、供給力が豊富であること。催奇性を持つので通常の季節性インフルエンザに用いることはできないが、難治性の新型インフルエンザが流行した時の切り札として、厚労大臣の指示があったら量産できるよう体制を整えていたはずだ。現時点で2万人分、原薬は30万人分のストックがある由。

効果の面では見劣りする。WHOの資料によれば、サルの試験で6頭中1頭しか生存しなかった。論文刊行されていないのでプロトコルは不明だが、これが最初の試験なら、おそらく、ウイルスを移植すると同時に投与したのだろう。現実の医療では2~21日経って発症してから投与するので、効果はもっと下がる可能性が高い。ZMappの試験では移植5日後に投与を開始したケースでも全頭生存した。

増量試験を実施中とのことだが、そうなると、インフルエンザ臨床試験よりも副作用が増加するリスクがある。悪心嘔吐の症状がある疾患に大量の錠剤を飲ませるというのも、どの程度現実的なのか分からない。増量試験で他の薬と同様な成果を挙げない限り、もっと有効な薬が登場するまでの繋ぎに留まりそうだ。

米国で評価を高めているのが、Chimerix(Nasdaq:CMRX)のCMX001(brincidofovir)だ。サイトメガロウイルス感染予防で第三相試験中なので、ある程度の安全性のエビデンスを持っている。二重連鎖DNAウイルス全てに有効と言われていたコンパウンドが単鎖RNAウイルスであるエボラに有効と言われても俄かにはピンと来ないが、理屈はどうでも効けば良いのだから、サルの試験がどのような結果になるか、期待して待ちたい。

ダラスやネブラスカの患者に投与されたが、ネブラスカの患者がCMX001を選んだのは忍容性が比較的良いからとのこと。現段階では多少忍容性が悪くてもサルのエビデンスのある薬の方が良いように感じられるが、複数の開発品を同時使用するケースが多いようなので、副作用の相乗効果を恐れているのかもしれない。

リンク:富士フィルムのプレスリリース(和文)

【承認申請】


大鵬、米国でロンサーフの承認申請手続きを開始

(2014年10月21日発表)

大鵬薬品は、米国でTAS-102(trifluridineとtipiracilの合剤、和名ロンサーフ配合錠)のローリング承認申請を開始したと発表した。承認申請に必要な三種類の書類を、完成したものから逐次提出して審査を開始してもらうもので、有望な新薬を早く患者に届けるための制度である。年内に完了する予定なので優先審査指定されれば来年前半にも承認されることになりそうだ。

ロンサーフは日本の第二相試験に基づいて今年3月に結腸直腸がんのサルベージ療法(承認されている全ての薬がフェールした患者の最後の手段)として厚労省に承認された。今回の申請は同様な内容のグローバル第三相試験に基づくもので、メジアン生存期間が7.1ヶ月と、偽薬群の5.3ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.68、pは0.0001を下回った。

リンク:大鵬薬品のプレスリリース(和文)

Imbruvicaをマクログロブリン血症に適応拡大申請

(2014年10月21日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、慢性リンパ性白血病やマントルセルリンパ腫向けに承認されているBTK阻害剤、Imbruvica(ibrutinib)を、ワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症(WM)の治療薬として米国で適応拡大申請した。この三種類の疾患全てでブレークスルーセラピー指定を受けている。

WMは非ホジキンリンパ腫の一種で、IgM抗体が過剰生産され血液の粘度が上昇する。症状は易出血性や視覚・神経異常など様々で無症状の場合もある。年1000~1500人が診断され、60代、70代が多いようだ。

ImbruvicaはB細胞の生存性を増強する酵素を阻害する小分子薬で、Pharmacyclics(Nasdaq:PCYC)から共同開発販売権を取得したもの。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPが二種類の画期的新薬などに肯定的意見

(2014年10月24日発表)

EUの薬品規制庁であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、10月の会議でオーストラリア企業の皮膚病薬やアストラゼネカのPARP阻害剤などの新薬と、メディベーション/アステラスの抗癌剤の対象患者拡大について、肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認されることになる。

リンク:EMAのプレスリリース、

オーストラリアの皮膚病用薬開発会社、Clinuvel Pharmaceuticals(ASX:CUV)が開発したScenesse(afamelanotide)は、EPP(赤血球産生性プロトポルフィリン症)の対症療法。EPPは常染色体優性遺伝による希少疾患で、フェロキラターゼの欠損によりプロトポルフィリンがヘムに変換されずに骨髄や赤血球、皮膚などに蓄積する。プロトポルフィリンは光に反応して皮膚の痛みや腫れを起こするので、患者は日光などを避けなけらばならない。

Scenesseはメラニン細胞刺激ホルモンの類縁体で半減期を長期化したもの。メラニンを増やして皮膚を守る。第三相試験はフェールしたが、CHMPは、例外的環境条項に基づく承認を勧告した。薬効を評価するには患者を陽に当てて痛みが起きないことを確認する必要があるが、患者が嫌がるので、十分なエビデンスが無くても已むを得ないと判定した。

EUは承認審査に際して患者からヒアリングする制度を導入したが、Scenesseは第一号となった。

リンク:EMAのプレスリリース

アストラゼネカのPARP阻害剤、Lynparza(olaparib)は、BRCA変異を持つ再発性卵巣癌の維持療法用薬。薬効のエビデンスは第二相試験のサブグループ分析なので不確かなところがある。

BRCAとPARPは、遺伝子を修復する二つのメカニズムの夫々に関与する。BRCAに変異を持つ人は自然に発生した遺伝子変異・損傷を修復できないリスクがあり、乳癌や卵巣癌のリスクが高い。PARP阻害剤を使うと、活発に分裂するため遺伝子変異が起きやすい癌細胞は遺伝子修復ができなくなり、増殖を防げられる。片足で立つ癌細胞の残った足を蹴飛ばす訳だ。

臨床試験では、再発性白金感受性卵巣癌で白金ベース化学療法に反応した患者にLynparzaまたは偽薬を経口投与したところ、PFS(無進行生存期間)のハザードレシオが0.35と大変良い数値が出たが、全生存期間には有意な差が無かった。アストラゼネカは一旦、開発を断念したが、事後的解析で、BRCA変異を持つ症例のPFSのハザードレシオが0.18で有意、全生存期間は0.74と有意ではないが良さそうな数字が出た。このため、昨年、第三相試験に進んだ。

抗癌剤の第二相試験の事後的サブグループ分析は当てにならず、第三相がフェールした例は枚挙に暇がない。このためFDAは第三相試験で確認するよう求めることが多いが、CHMPは好意的なところがある。今回のプレスリリースには条件付き承認とは記されていないが、もし本承認だとしたら、更に一歩踏み出したことになる。

リンク:EMAのプレスリリース

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

新薬でもう一つ、肯定的意見を受けたのがバクスター・インターナショナル(NYSE:BAX)のRixubis(nonacog gamma)。遺伝子組換え型第IX因子で、B型血友病患者の出血治療と予防に用いる。米国では13年に成人患者向けに承認されたが、EUは小児も含めて申請するよう求めているため、小児治験の結果を待って申請したもの。予防的投与では週二回投与した。

リンク:EMAのプレスリリース

ファイザーの選択的エストロゲン受容体調節剤Conbriza(bazedoxifene、和名ビビアント)の活性成分に混合エストロゲンを配合したDuaviveも肯定的評価を受けた。米国では閉経後女性の紅潮治療と骨粗しょう症予防の適応症で昨年10月に承認されたが、EUでは子宮を持つ閉経後女性のエストロゲン欠乏症状の治療という漠然とした適応になる。プロゲスチンが不適の場合に用いる。65歳以上の治験症例は限定的。

Conbrizaは09年にEUで承認されたが米国は未承認。エストロゲン製剤や選択的エストロゲン受容体調節剤は米国で一世を風靡したが、長期試験のエビデンスが積み重なるにつれて潮が引き、更年期障害の対症療法として限定的に用いられるだけになった。

リンク:EMAのプレスリリース

適応拡大では、メディベーション(Nasdaq:MDVN)がアステラス製薬と共同開発・販売する経口アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤、Xtandi(enzalutamide、和名イクスタンジ)を化学療法未施行の患者に用いることが支持された。

現在の適応は、ホルモン療法に反応しなくなり化学療法の治療歴を持つ患者。化学療法が適応になるのは骨転移などにより疼痛などの症状を持つ患者だが、適応拡大後は、症状が小さいあるいは穏やかなうちにXtandiで治療を行うことができるようになる。早い段階の方が対象患者数も治療期間も増えるので、薬の市場性が大きく拡大する。

リンク:EMAのプレスリリース

【承認】


バクスター、後天的A型血友病用薬が米国で承認

(2014年10月24日発表)

バクスター・インターナショナル(NYSE:BAX)は、FDAがObizurを後天的A型血友病の成人の出血治療薬として承認したと発表した。インスピレーション社の開発品だったが、2012年にチャプター11申請を行い、バクスターが権利を買収したもの。

後天的A型血友病は第VIII因子に対する抗体(インヒビター)を持つのでヒト第VIII因子が使えない。患者の半分は原因不明、残りの半分は妊娠、癌、薬の副作用が関与している由だ。Obizurは遺伝子組換え型ブタ第VIII因子製剤で、インヒビターの影響を受けず、拒絶反応も誘導し難い。欧州でも承認審査中。

リンク:バクスターのプレスリリース

今週は以上です。

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2014年10月19日

海外医薬ニュース2014年10月19日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • 米国で二種類の特発性肺線維症用薬が承認
  • Imbruvicaが欧州でも承認
  • FDA諮問委員会、チャンピックスの枠付警告は未だ外せないと判定


【承認】


米国で二種類の特発性肺線維症用薬が承認

(2014年10月15日発表)

FDAは、特発性肺線維症治療薬を二剤、同日に、承認した。片方は審査期限より2ヶ月半早く、もう一つも1ヶ月半早かった。特発性肺線維症は肺の間質などが線維化し酸素を取り込む能力が低下する。5年生存率20~40%の難病。推定患者数は米国が10万人、欧州は8~11万人、日本は7000~8000人。二剤とも延命効果は確認されていないが、FVC(努力肺活量)の低下を遅らせる効果や急な増悪を抑制する効果を持つ。

ロシュが9月に買収したインターミューンのEsbriet(pirfenidone、和名ピレスパ)は抗線維化剤とされる。マルナック社からライセンスを取得した様々な会社が様々な用途に臨床開発を行ったが、日本の研究者が肺線維症に有効であることを発見、最初の臨床試験は曖昧な結果になったが再試験に成功、08年に世界に先駆けて承認され、塩野義製薬が発売した。インターミューンは再試験と並行して海外試験を実施、曖昧な結果になったが欧州は日本試験に基づいて11年に承認した。

一方、米国は承認されず再試験を実施、今回の承認に至った。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:ロシュのプレスリリース

ベーリンガー・インゲルハイムのOfev(nintedanib)はVEGFやPDGF、FGFなどの受容体を阻害する小分子薬で、腺腫非小細胞性肺癌の二次治療薬としても欧州で承認審査中。特発性肺線維症の第三相ではFVCの下落率が偽薬比有意に小さく、病状判定スコアの悪化や急性増悪を防ぐ効果については、一本はフェールしたがもう一本は成功した。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

この二剤の使い易さを比較すると、どちらも経口剤だが服用頻度はEsbrietが一日三回、Ofevは二回なので若干少ない。Esbrietは重度肝機能障害と末期腎疾患、Ofevは中重度肝機能障害を持つ患者には推奨されない。Esbrietは皮膚光線過敏を招くことがあるので日光を避けるなりサンスクリーンを用いるなりする必要がある。ラッシュも起きることがある。Ofevは催奇性を持つので妊娠の可能性のある人は避妊が必要。

主な副作用は両剤とも悪心、嘔吐、腹痛、下痢、食欲低下などのリスクを持つ。OfevはVEGFR阻害作用を持つので血圧上昇リスクもある。

Esbrietの審査期限は11月、Ofevは来年1月だったが、同時に承認されたため販促競争が始まることになる。インターミューン一社では心許なかったが、ロシュならベーリンガーと遜色ないだろう。競争が価格抑制につながるなら医療経済にポジティブだが、希少疾患用薬で参入も二社だけなので、望み薄だろう。

Imbruvicaが欧州でも承認

(2014年10月17日発表)

カリフォルニアのファーマサイクリクス(Nasdaq:PCYC)は、Btk阻害剤Imbruvica(ibrutinib)が欧州で承認されたと発表した。適応は昨年11月に承認された米国とほぼ同じで、再発性または難治性のマントルセルリンパ腫と、慢性リンパ性白血病の二次治療。後者は、化学療法不適で17p(第17染色体短腕)欠失あるいはTP53変異を持つ場合は一次治療に用いることもできる。

米国ではTP53変異に対する一次治療は承認されていない。17p欠失もTP53変異も化学療法応答性が低いので一次治療可としたのだろうが、薬効の裏付けはサブグループ分析なので、エビデンスの磐石性に関する評価が欧米で食い違ったのだろう。

マントルセルリンパ腫は米国で年5000人診断される難治性疾患。慢性リンパ性白血病は1.6万人で、うち、17p欠失は新患の7%、再発・難治性患者の20~40%を占めると推定されている。

Imbruvicaはファーマサイクリクスがジョンソン・エンド・ジョンソンと共同販売している。

リンク:ファーマサイクリクスのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDA諮問委員会、チャンピックスの枠付警告は未だ外せないと判定

(2014年10月16日発表)

FDAの精神薬理学薬と薬品安全性・リスク管理に関わる諮問委員会が共催会議を開き、ファイザーの禁煙補助薬、Chantix(varenicline、和名チャンピックス)の神経精神学的副作用について検討、枠付警告を削除するのは早計との結論に至った。

Chantixが06年に米国で承認された時はピーク年商13億ドルの大型化が期待されたが、テキサスのミュージシャンの悲劇などがメディアに大きく取り上げられ、09年に市販後有害事象報告に基づいて枠付警告が導入されたため、08年の8.5億ドルをピークに頭打ちになってしまった。枠付警告があると医療組合・保険の処方制限が厳しくなるからだ。内容も、激性や鬱気分、行動異常、自殺思慮などが見られたら服用を止めるよう患者や介護者に説明することを推奨する厳しいものだ。

通常は、服薬中に有害事象が発生したら医師に相談せよと書くものだが、精神症状は本人でないと分からないこともあり、例えば鬱症状だったら、医療施設に行きたがらないかもしれない。だからリスクを患者自身に十分に説明する必要があるのだが、怖がって服用を拒否する可能性もあり、難しいところだ。これらの有害事象はChantixではなく禁煙すること自体の副作用である可能性も排除できないのである。

そのせいか、枠付警告では禁煙やChantixの効果についても言及し、便益と危険を十分に検討した上で決定するよう推奨している。枠付警告は深刻な副作用に注意を促すもので、通常、便益については言及しない。

今回、諮問委員会が開催されたのは、ファイザーが疫学試験や臨床試験のメタアナリシスに基づいてリスクは高まらないと判定し、枠付警告の削除・緩和をFDAに求めたため。

FDA審査官は、安全性確認試験の結果が15年に出るまで待つべきと考えた。理由は、神経精神学的有害事象症例の中にはタバコを吸い続けた患者もいるので、ニコチン依存の離脱症状と決めつけることはできない。また、過去の禁煙チャレンジでは発症しなかった患者もいる。更に、服薬を中断して症状が緩和したため再開したら再発という、薬の関与を疑うべき症例もあった。

18人の委員のうち、11人は枠付警告を維持すべきと判定した。6人は上記の便益に関する記述を廃止すべきと主張。警告廃止を推奨したのは一人だけだった。米国では厳しい制限が続くことになりそうだ。

薬の利益相反やバイアスというと製薬会社の話ばかりだが、実際には、医学者にも、患者のために良い薬であってほしい、良い薬なので使ってほしいという善意に基づくバイアスがある。子宮頸癌予防用ワクチンの神経学的有害事象は他の国でも騒ぎになったことがあり、日本でも発売前に十分に予見できたはずだ。普及を促すために効能に関する留保点や副作用とは断定できない有害事象を割愛するのは良くあること。日本のメディアは医療メディアも含めて大本営発表に忠実なので、私たち自身が注意しなければならない。

リンク:MedPage Todayの記事

今週は以上です。

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2014年10月12日

海外医薬ニュース2014年10月12日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • テキサスのエボラ患者、電子カルテに問題は無かった
  • エボラウイルス疾患の新たな治療薬候補
  • Sunesis、第三相がフェールも欧州で承認申請へ
  • BMS、スンベプラの承認申請を米国で撤回
  • Prosensa、アンチセンス薬の承認申請手続きを開始
  • Harvoni承認でC型肝炎の治療も一日一回、一錠の時代に
  • 米国でエーザイの制吐剤合剤が承認
  • ベルケイド、MCL一次治療に承認


【今週の話題】


テキサスのエボラ患者、電子カルテに問題は無かった

(2014年10月3日発表)

10月5日号で記載した、テキサス州の病院がエボラウイルス疾患を見落とし帰宅させてしまった事件の原因は、電子医療記録のシステム上の不備ではなかった。病院側が訂正したもので、医師が感染地域渡航歴を知ることのできる状態にあった。油断としか考えられず、この油断は、どの国のどの医師でも犯しうる。万が一に備えて、発熱患者には渡航歴を訊こう。

リンク:NY Timesの報道

エボラウイルス疾患の新たな治療薬候補

(2014年10月6日発表)

ノースカロライナ州の抗ウイルス薬開発企業、Chimerix(Nasdaq:CMRX)は、CMX001(brincidofovir)をエボラウイルス疾患の治療に用いるための緊急治験薬申請(EIND)がFDAに承認されたと発表した。報道によるとTexas Health Presbyterian Hospitalの患者に用いられたようだ。残念ながら不幸な転帰になったが、もっと早く投与できれば違った結果になったかもしれず、また、用量が足りなかったのかもしれない。

brincidofovirは、ギリアドのCMV網膜症治療薬、Vistideの活性成分であるcidofovirをリピッドと結合することによって抗ウイルス活性を増強し、経口投与を可能にし、腎毒性を緩和したもの。in vitroでヒトに感染する二重連鎖DNAウイルス全てに活性を示した。エボラは単鎖RNAウイルスだが、CDC/NIHのin vitro試験で同様な活性が認められたようだ。エボラの動物試験が進行中で、臨床試験もデザイン検討中。

この薬の良いところは、CMV網膜症などに900以上の臨床投与例を持っていること。造血細胞移植を受けた患者のCMV感染症予防で2013年に第三相試験に進んだ。先週、アデノウイルス感染症の第三相試験パイロット試験の結果が発表されたが、死亡率37%と文献データである80%よりかなり良いものだった。

勿論、in vitro試験と臨床は異なる。富山化学のアビガン(ファビピラビル)のように、ウイルスが異なれば至適用量が全然違うこともありうる。しかし、brincidofovirの場合はin vitroのEC50がアデノウイルスやCMVに対するそれと大差ないとのことなので、クリアしなければならなハードルの数が少ない。

それにしても、brincidofovirは三面記事ネタになる薬だ。薬効・忍容性を確認するには偽薬対照二重盲検試験が不可欠だが、命に係る疾患の場合、偽薬割付けは医療倫理に反する可能性がある。かと言って、望む患者に治験外で提供していたら、臨床試験に参加する患者がいなくなってしまう。エボラの臨床試験をどのように実施すべきなのかは現在でも議論の的である。

brincidofovirは既に洗礼を受けている。アデノウイルス感染症の子供の両親が、提供を断られて、ネットやメディアを巻き込んでキャンペーンを行い、コンパッショネート・プログラムという通常の臨床試験と異なる形で未承認薬を入手することに成功したのだ。少年は無事、退院できたようである。世間に知れ渡ったこと、結果が出たことで、偽薬対照試験を行うことが一層困難になった。

リンク:Chimerixのプレスリリース

【新薬開発】


Sunesis、第三相がフェールも欧州で承認申請へ

(2014年10月6日発表)

Sunesis Pharmaceuticals(Nasdaq:SNSS)は、Qinprezo(vosaroxin)の第三相急性骨髄性白血病二次治療試験がフェールしたことを発表した。欧州で承認申請に向かう計画。米国もFDAと今後を相談する考え。欧州はサブセグメント分析に基づいて条件付き承認をすることがあるが、現時点では薬効確認試験が予定されていないので、承認申請が受理されても承認はされないだろう。

この試験は、白金薬による前治療歴を持つ患者にcytarabineと併用する効果を検討した偽薬対照試験。主評価項目の全生存期間は併用群のメジアン値が7.5ヶ月、偽薬群が6.1ヶ月、ハザードレシオは0.865、p値は0.06でフェールした。

一方、事前に設定されていた、幹細胞移植を受けた患者を追跡打切りとする解析では各6.7ヶ月、5.3ヶ月、0.809、p=0.02となり、p値が0.05を下回った。同様に、事前に設定されていた60歳以上と未満のサブグループ分析では、60歳以上で各7.1ヶ月、5.0ヶ月、0.755、0.006という結果になった。おそらく、このサブグループ分析に基づいて、承認を求める意図なのだろう。711名というかなり大きな試験なので、サブグループ分析の症例も少なくはないだろう。

しかし、p値が0.06でも0.02でも統計的な有意性が高くないことに変わりはない。0.006は良い数値だが、主評価項目がフェールした後の解析なので、厳格な統計学では有意とは言えない。また、併用群の重篤有害事象発生率は55.5%と偽薬群の35.7%をかなり上回っており、体力の劣る60歳以上では偏りがもっと大きいと推測される。これらのことを考えると、欧州でも承認される可能性は低いのではないだろうか。

Qinprezoは03年に第日本住友製薬からライセンスしたキノロン誘導体で、DNA介入とトポイソメラーゼII阻害の二つの作用を持つとされる。

リンク:Sunesisのプレスリリース

BMS、スンベプラの承認申請を米国で撤回

(2014年10月7日発表)

BMSは、慢性C型肝炎治療薬BMS-650032(asunaprevir、和名スンベプラ)の米国の承認申請を撤回したことを明らかにした。理由は不明だが、おそらく、Ia型のウイルスに対する活性が低いからだろう。このNS3/4Aプロテアーゼ阻害剤は、7月に日本でIb型に同社のDaklinza(daclatasvir、和名ダクルインザ)と二剤併用する用法で承認された。日本はIb型が7割を占めるので、ribavirinやインターフェロンに不耐不適な患者向けに役に立つという判断なのだろう。

ギリアドが昨年、NS5Bポリメラーゼ阻害剤Sovaldi(sofosbuvir)を発売して以来、C型肝炎治療薬の開発競争に鎮静化の兆しがある。NS5A複製複合体ledipasvirを配合したHarvoniが先週、米国で承認されたことによって、この一剤を一日一回、8~24週間服用するだけで9割以上の患者が完解するのだから、最早、生半可な新薬はいらないと言っても過言ではない。一世を風靡したアルファ・インターフェロンも、ribavirinも、そしてプロテアーゼ阻害剤すら、一次治療薬としては役割を終えてしまった。

sofosvirはギリアドが2011年にファーマセット社を110億ドルで買収して入手したもの。入札で価格が吊り上がったと当時は報じられたが、投資に見合う大きな成功を収めた。ポリメラーゼ阻害剤は短期間で強力にウイルスを抑制できるが、耐性ウイルスが生じるリスクが比較的高い。ポリメラーゼ阻害剤はウイルス消失まで時間が掛かるが耐性ウイルスが出にくい。難点は副作用で、これまでに多くが胃腸や心臓、肝腎の副作用で開発中止になった。狭き門を潜り抜けたのがsofosvirで、それだけに、強い。

リンク:BMSのプレスリリース

【承認申請】


Prosensa、アンチセンス薬の承認申請手続きを開始

(2014年10月10日発表)

Prosensa(NASDAQ:RNA)は、米国でPRO051(drisapersen)のローリング承認申請を開始したと発表した。欧州でも来年、承認申請の予定。2011年に第三相試験がフェールし今年に入ってグラクソ・スミスクラインが共同開発販売権を返還したため前途が危ぶまれたが、意外な展開になった。

エクソン・スキッピングという新しい作用機序を持つオリゴヌクレオチド薬で、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬として開発されている。DMD患者の多くは筋細胞膜の維持に必要なジストロフィンの遺伝子に欠損や塩基配列重複などを持ち、正常なジストロフィンを産生できない。このうち、エクソン51に変異を持つ患者向けに開発されているのがdrisapersenで、RNAのスプライシングに介入し、短いがある程度の機能を持つジストロフィンが作られるようになる。

第三相試験では186人の小児患者を組入れて6分歩行試験で薬効を評価したが、偽薬群との差は10メートルに留まり、フェールした。二次的評価項目の解析もフェール。忍容性面では皮注箇所反応が78%で発生(偽薬群は16%)、腎有害事象も46%で発生した(同25%)。ジストロフィン量は増加するので効果はあるはずなのだが、臨床的転帰を改善できるだけの力が無いのかもしれない。そもそも、ジストロフィン量の計測が正しくないのかもしれない。

深刻な疾患なのでProsensaやSarepta社、あるいは日本新薬が開発しているエクソン53スキッピング薬が効いてほしいと思うが、今のところ、十分に納得できるエビデンスはないように感じられる。

リンク:Prosensaのプレスリリース

【承認】


Harvoni承認でC型肝炎の治療も一日一回、一錠の時代に

(2014年10月10日発表)

ギリアド(Nasdaq:GILD)は、FDAがHarvoniをI型慢性C型肝炎の治療薬として承認したと発表した。昨年承認されたNS5Bポリメラーゼ阻害剤、Sovaldi(sofosbuvir)の活性成分と、NS5A複製複合体阻害剤ledipasvirを配合している。C型肝炎のコンビ薬は初。インターフェロンやribavirinを併用しないレジメンの承認も米国では初。

ギリアドと言えばHIV/AIDSのコンビ薬の開発で大きな成果を上げ、場合によっては一日に10以上のピルを服用しなければならない多剤併用療法を、一日一回、一錠飲むだけに変えた。Harvoniの承認で、C型肝炎の治療も一日一回一錠の時代に入った。

報道によると、価格は8週間コースで63000ドル、12週間コースは94500ドル。Sovaldiはインターフェロンなど3剤合計で94726ドルとされるので、薬剤費全体では同等以下ということになる。治療期間はウイルス量の変化を見て決定することになるのだろうが、患者の半分程度は8週間で足りる模様。インターフェロンとribavirinを1年間(日本では不応なら延長)投与していた時代とは様変わりだ。日本でも9月に承認申請された。

リンク:ギリアドのプレスリリース

リンク:FDAのリリース

米国でエーザイの制吐剤合剤が承認

(2014年10月10日発表)

FDAは、Akynzeo(netupitant, palonosetron)を化学療法誘導性悪心嘔吐の予防薬として承認したと発表した。

配合二成分は何れもスイスのHelsinn社の開発品で、5-HT3受容体拮抗剤palonosetronはMGIファーマが米国で2003年に発売、化学療法施行後早い段階で発症する悪心嘔吐を抑える。NK1拮抗剤netupitantは今回が初承認、翌日以降に発症する遅発性悪心嘔吐を抑える。MGIを買収したエーザイが合剤の米国共同販促権を取得したもの。

NK1阻害剤はMSDが11年前にEmend(aprepitant、和名イメンド)を発売、来年にはGE化する見込みだが、エーザイは、コンビ薬であることや薬物相互作用が小さいことをアピールして、『アカンぜよ』と言われるのを防ぐことになりそうだ。

リンク:FDAのプレスリリース

ベルケイド、MCL一次治療に承認

(2014年10月9日発表)

武田薬品の子会社であるミレニアム・ファーマスーティカルズ社は、FDAがVelcade(bortezomib、和名ベルケイド)をマントルセルリンパ腫の一次治療に用いることを承認したと発表した。03年に再発性・難治性の多発骨髄腫に、06年には再発性・難治性のマントルセルリンパ腫に承認されたプロテアソーム阻害剤が、また一つ用途を広げた。

予後の悪い難病なので、一次治療は多剤併用になる。第三相試験ではRituxan(rituximab)など5剤を併用するR-CHOPレジメンと、vincristineの代わりにVelcadeを用いるVcR-CAPレジメンのPFS(無進行生存期間)を比較したところ、メジアン14ヶ月対25ヶ月、ハザードレシオ0.63と大きな差があった。

リンク:ミレニアムのプレスリリース

今週は以上です。

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2014年10月5日

海外医薬ニュース2014年10月5日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • 発熱患者には渡航歴を尋ねよう
  • ESMO:抗PD-1抗体/抗PD-L1抗体とMEK阻害剤のデータ発表
  • Xa阻害剤の解毒剤の第三相が成功
  • リリーは抗BLyS抗体の開発を中止
  • ギリアドの抗HIV薬が米国で承認


【今週の話題】


発熱患者には渡航歴を尋ねよう

(2014年10月3日発表)

ダラスに続いてトロントでもエボラウイルス感染症が疑われる患者が発生したようだ。日本に上陸し広がるのを防ぐ方法は四つある。第一は西アフリカでの流行を収めるべく支援すること。第二は不要不急な感染地域への渡航を避けること。第三は、流行地域から帰国後に発熱したら速やかに病院に行き、渡航の事実を告げた上で治療を受けること。第四は、医療従事者は発熱を訴える患者がいたら渡航歴を尋ねること。ダラスの事例は最後の二点に関する重要な教訓になりうる。

報道によると、この患者はリビエラから帰国して4日後に発熱し、その2日後に病院の救急部に行って診療を受けたが帰宅。更に2日後に入院するまでに数十人と接触してしまった。何故、診断が遅れたのか?

エボラは出血を合併するとは限らず、初期の段階では他の感染症と見分けるのが難しいため、渡航歴を尋ねることが重要だ。この症例でも看護師がアフリカ帰国者であることを聞き出し、EHR(電子医療記録)に記載したが、医師には伝わらなかった。看護師の入力内容は診断に必要ない事項も多く、渡航歴はそのような情報の一つとして扱われるため医師がすぐ気付くような形では表示されず、医師の側も看護師記録を読まない習慣があったからだ。

EHRの陥穽が露呈した格好だが、それ以前に、もし看護師が医師に直接伝えていれば、あるいは、もし医師が患者に渡航歴を尋ねていれば、多くの人が感染のリスクに曝されるのを防げたかもしれない。感染者の家族、友人もさることながら、自分自身や同僚、家族、そして病院にいる患者を守るために、発熱患者には渡航歴を尋ねよう。

リンク:MedPageの記事(要登録)

【新薬開発】


ESMO:抗PD-1抗体/抗PD-L1抗体とMEK阻害剤のデータ発表

(2014年9月29日発表)

ESMO(欧州臨床腫瘍学会)で、BMS/小野薬品やMSD、ロシュのPD-1/PD-L1を標的とする抗体医薬三品の様々な臨床成績が発表された。ロシュのMEK阻害剤の第三相結果と合わせて報告しよう。

BMSが小野薬品と共同開発している抗PD-1完全ヒト化抗体、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)は欧米でも悪性黒色腫用薬として承認申請・受理されたところだが、薬効のエビデンスとなった第三相試験の中間解析結果が初めて公表された。9月に米国で承認されたMSDの抗PD-1完全ヒト化抗体、Keytruda(pembrolizumab)と概ね同じような成績だ。

このCheckMate-037試験は、BMSの抗CTLA-4完全ヒト化抗体Yervoy(ipilimumab)による前治療歴を持つ末期黒色腫患者を組入れて、Opdivoと医師が選んだ化学療法の効果や安全性を比較したもの。主評価項目はORR(客観的反応率)と全生存期間だが、中間解析はORRだけだったようだ。Opdivo群は32%(95%信頼区間24~41%)、化学療法群は11%(4~23%)。解析時点ではOpdivo群の95%の患者で反応が持続していた。

Keytrudaの単群試験のORRは24%(95%信頼区間15~34%)で数値上は見劣りするが、信頼区間が重なっているので効果は同程度と考えた方が良いだろう。この二本の試験はどちらもRECISTに基づいて評価、医師の判定を第三者が査読している。Yervoy前治療患者を対象としている点も同じ。大きな違いはKeytrudaは第二相単群試験であること。

リンク:BMSのプレスリリース(9/29付)

Keytrudaは驚くほど大規模な後期第一相試験が行われている。ESMOでは胃癌と膀胱癌のデータが初めて発表された。先ず、PD-L1陽性胃癌を組入れた試験はORRが31%と良さそうな結果が出た。胃癌は日本や韓国では診断・治療後の転帰が他の地域より良い傾向があり国際治験を行う上でかく乱要因になりうるが、Keytrudaの試験ではアジアもそれ以外の地域もORRは同程度だった。MSDは第二相に進む予定。

抗PD-1/PD-L1は腫瘍に対する免疫力を強化するので、IL-2やインターフェロン療法と似たところがある。悪性黒色腫や腎細胞腫、膀胱癌は免疫強化療法が有効な分野なので抗PD-1/PD-L1が効いても意外感はないが、胃癌は新鮮な驚きだ。

リンク:MSDのプレスリリース(9/28付)

膀胱癌の試験はORRが24%(29例中7例)で、完全反応率10%だった。抗PD-1/PD-L1抗体はPD-L1発現癌のほうが効果が高い可能性があるが、この解析は未だ行われていない模様だ。MSDは第三相へ進む予定。

リンク:MSDのプレスリリース(9/29付)

これらの試験は10mg/kgを2週間に一回投与した。悪性黒色腫の承認用法は2mg/kgを3週間に一回、7.5倍の量を使うので忍容性も注目される。胃癌では低酸素症で死亡した患者が医師に治療関連有害事象と判定された由。

ロシュのRG7446/MPDL3280Aは膀胱癌の第一相試験のアップデートが行われた。IHC法でPD-L1発現度が2または3と判定された患者はORRが52%(33例中17例)、0または1は14%(36例中5例)、PFS(無進行生存期間)のメジアン値は各24週間と8週間だった。やはり、膀胱癌に関してはPD-L1発現度に基づいてスクリーニングした方が良さそうだ。

リンク:ロシュのプレスリリース(9/29付)

悪性黒色腫の5割程度を占めるBRAFのV600変異型にはBRAF阻害剤のモノセラピーまたはMEK阻害剤併用が有効だ。グラクソ・スミスクラインはbraf阻害剤Tafinlar(dabrafenib)とMEK阻害剤Mekinist(trametinib)を13年に米国で発売。11年にbraf阻害剤Zelboraf(vemurafenib)を発売したロシュもエグゼリキシス(Nasdaq:EXEL)からGDC-0973/XL518(cobimetinib)を導入、第三相試験を実施し、ESMOでデータ発表した。

デザインはMekinistの併用試験と同様で、Zelboraf単剤療法と比較。主評価項目のPFSはZelboraf・cobimetinib併用群がメジアン9.9ヶ月、単剤群は6.2ヶ月、ハザードレシオは0.51で統計的に有意だった。医師の判定を第三者が査読した解析でも類似した結果になった。BRAF阻害剤は皮膚の良性腫瘍を刺激するリスクがあるが、この試験でも、MEK阻害剤併用で発生率を引き下げることができた。

分子標的薬の弱点は標的分子又はその川下の腫瘍関連分子が変異して効かなくなることだ。BRAF阻害剤とMEK阻害剤は夫々の薬効に加えてシナジーも生んでいる可能性があり、併用療法の未来を示唆している。

リンク:ロシュのプレスリリース(9/29付)

Xa阻害剤の解毒剤の第三相が成功

(2014年10月1日発表)

続々と登場した抗凝固薬新薬の弱点の一つは、解毒剤がないことだ。ワーファリンほど作用のオフセットが遅くないので大きな問題にはなっていないが、事故や緊急手術を行う時にはあったほうが良い。注目されているのがPortola社(Nasdaq:PTLA)が開発している遺伝子組換え型ヒトXa因子、PRT4445(andexanet alfa)で、一本目の第三相試験成功が発表された。

高齢健常者にEliquis(apixaban、和名エリキュース)を4日間投与した後に、PRT4445をボラス静注したところ、抗Xa因子レベルや非結合apixabanレベル、トロンビン生成などの評価項目で偽薬群を有意に上回った。

PortolaはXa阻害剤メーカーと提携して様々な第三相を行っている。Eliquisについてはボラス後に2時間連続点滴する試験も実施中。バイエル/JNJのXarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)、第一三共のSavaysa/Lixiana(edoxaban、和名リクシアナ)、Portolaがミレニアム社から導入・開発しているXa阻害剤、PRT021/MLN-1021(betrixaban)などの解毒試験も実施中。

FDAからブレークスルーセラピー指定を受けている。対象薬が多く競合品は少ないのでニッチだが有望な開発品だ。PortolaはCor社の研究者がミレニアム・ファーマスーティカルズに買収された時に独立して創設した会社。

リンク:Portolaのプレスリリース

リリーは抗BLyS抗体の開発を中止

(2014年10月2日発表)

イーライリリーは抗BAFF完全ヒト化抗体LY2127399(tabalumab)の第三相全身性エリトマトーデス試験のフェールと開発中止を発表した。二本のうち一本では高用量群の奏効率が偽薬群を有意に上回ったが、もう一本は二用量ともフェールした。

BAFFはBLySの別名なので、LY2127399はグラクソ・スミスクラインが11年に発売したBenlysta(belimumab)と同じような薬である。関節リウマチも第三相がフェールしており、Benlystaの売上高も期待外れであることから、開発を続行しても商業的な価値が小さいと判断したのだろう。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

【承認】


ギリアドの抗HIV薬が米国で承認

(2014年9月24日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)の抗HIV薬Stribild(和名スタリビルド配合錠)は12年に米国で、13年には日欧でも承認されたが、配合四成分のうち、新規活性成分であるインテグラーゼ阻害剤elvitegravirと3A4阻害剤cobicistatの単剤は、欧州ではスンナリ承認されたが米国は遅れていた。FDAの承認薬データベース、Drug@FDAによると9月に承認されたが、ギリアドがプレスリリースを出していないため気付かなかった。

Vitekta(elvitegravir)は日本たばこからライセンスしたインテグラーゼ阻害剤。ピルバーデンを緩和するためにTybost(cobicistat)のような3A4阻害剤を併用する。Stribildはelvitegravirを150mg配合しているが、UGT1Aを阻害する薬と併用する場合は量を減らす必要があるため、Vitektaは85mgも商品化された。

TybostはBMSのプロテアーゼ阻害剤Reyataz(atazanavir、和名レイヤターズ)またはジョンソン・エンド・ジョンソンのPrezista(darunavir、和名プリジスタ)と併用する。両剤ともcobicistat配合剤が開発されている。アッヴィのベストセラー製品であるNorvir(ritonavir)は、遂に競合品が登場した。

リンク:Drug@FDAのリンク(Vitekta)

リンク:同(Tybost)

今週は以上です。

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