2014年7月6日

海外医薬ニュース2014年7月6日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • リソソーム酸リパーゼ欠乏症治療薬の試験が成功
  • MSD、EUが抗PD-1抗体の承認申請を受理
  • GSK、米国でレルベアを喘息症に適応拡大
  • 米国で第三のPTCL用薬が承認
  • GSK、EUが新薬と適応拡大を承認
  • エーザイ、EUがハラヴェンの適応拡大を承認


【新薬開発】


リソソーム酸リパーゼ欠乏症治療薬の試験が成功

(2014年6月30日発表)

米国のSynageva BioPharma(Nasdaq:GEVA)は、SBC-102(sebelipase alfa)の第三相試験の成功を発表した。リソソーム酸リパーゼ(LAL)欠乏症の小児・成人66人を偽薬群とSBC-102を二週間に一回、点滴静注する群に無作為化割付して20週間の二重盲検試験を行ったところ、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)値が正常化した患者の比率が有意に高かった。

p値は0.027なのでそれほど良くないが、二次的評価項目のAST(アスパラギン酸トランスフェラーゼ)正常化率や、MRI肝脂肪含有率、LDL-C、HDL-Cも有意に改善しており、また、症例数が少ないせいか有意差は無かったが治験前後にバイオプシーを行った26例では肝脂肪改善率が63%と偽薬の40%を数値上上回った。安全性面では深刻な非定型的点滴関連反応で1人が治験を離脱したことが懸念されるが、全体的には悪くなさそうだ。同社は2015年の第1四半期までに欧米で承認申請する予定。

SBC-102は米国でブレークスルーセラピー指定されている。また、日米欧で希少疾患用薬指定されている。

LAL欠乏症は新生児100万人に2人の超希少疾患で、常染色体の劣性遺伝によりこの酵素が機能せず分解されるべき脂肪が蓄積して、吸収不良や成長不全、肝臓疾患などを合併する。今回の試験ではメジアン13歳と比較的状態の良い患者を対象としたが、急速進行型の乳児を組入れた第二/三相試験でも、9人中6人が1歳の誕生日を迎えることができた。

リンク:Synagevaのプレスリリース

リンク:ライソゾーム病に関する情報(難病情報センター)

【承認申請】


MSD、EUが抗PD-1抗体の承認申請を受理

(2014年6月30日発表)

MSDは、EUが悪性黒色腫用薬MK-3475(pembrolizumab)の販売承認申請を受理したと発表した。米国でも5月に受理されており、抗PD-1抗体の開発競争は、少なくとも発売の時点では、MSDが欧米共に一番乗りになりそうだ。

ファースト・イン・クラスの新薬開発レースで同社が高い勝率を誇る一つの理由は、「前倒し」だろう。米国立医療研究所のClinicalTrials.govに多くの臨床試験が登録されるようになって初めて明らかになったのは、同社が第二相試験でありながら数百人、1年という第三相並みの試験を行っていることだ。1年の試験を行うためにはその前の段階で半年以上投与した症例を数多く集めている筈であり、結局、第一相、第二相、第三相の各段階で最低限やらなければならないこと以上の研究・検討を行っていることが窺われる。

承認申請に必要な薬効のエビデンスは第二相とか第三相とかの呼び名ではなく、デザインが問題になる。後期第二相でキチンとした試験を行えば、第三相試験は一本でも足りるし、難病に使う薬ならば後期第二相試験だけで承認申請が認められるかもしれない。開発を前倒しすることによって承認申請・発売までのリードタイムを短縮できる可能性があるのだ。

臨床試験と並行して量産プロセスの開発が進めるが、バイオ薬の場合は臨床試験用の薬と量産ラインで作った薬の特性に僅かな違いが発生することがある。効果や安全性が違う疑いが生じた場合、第三相試験のやり直しに繋がりかねない。ジェネンテックのRaptiva(efalizumab;乾癬治療薬として03年に発売されたが副作用懸念で販売中止に)は、これが理由で承認申請が一年遅れた。第三相開始前に前倒しで量産方法を確立しておけば、このようなリスクを回避できることになる。

勿論、デメリットもある。第二相試験がフェールし開発中止になったら、前倒しで使った研究開発予算が無駄になってしまう。リスクを削減するためには効果や安全性を前倒しで検討する必要があるが、そのために重要なのが動物試験だ。MSDの動物試験といえば、PPAR作動剤の癌原性や心毒性を発見、日本企業から取得した開発販売権を返還したことがある。その後、FDAはPPAR作動剤を開発する会社全てに対して、半年以上の治験を行う前に癌原性試験を行うことを求めた。MSDの報告がFDAを動かしたのである。

DPP-4阻害剤でも霊長類の試験で薬剤の選択性と皮膚毒性の関連を発見、学会や論文を通じて当局や他の製薬会社に警鐘を鳴らした。

MSDの新薬開発の徹底ぶりが伺われるのは2006年にCell Metabolismに刊行されたNPY Y5受容体拮抗剤、MK-0557の論文だ。夫々の開発段階で検討すべき仮説を一つ一つ確認した上で次のステージに上がる。積み上げた石が全て盤石だから、治験で効果が確認されなかった時に、その仮説が間違っていたことが証明される。このような周到な研究を行う会社だからこそ、財務的なリスクを担って前倒しができるのだ。

研究者にもスピードを求められる時代になったが、研究の質、スピード、そして巨額の予算の全てを兼ね備えることが肝要だ。

リンク:MSDのプレスリリース

GSK、米国でレルベアを喘息症に適応拡大

(2014年6月30日発表)

グラクソ・スミスクラインとテラバンス(Nasdaq:THRX)は、Breo(fluticasone furoateとvilanterol、和名レルベア)を米国で喘息症の維持療法として適応拡大申請したと発表した。用量はEUや日本の承認内容と同じ、100mcg・25mcgの組み合わせと200mcg・25mcg。吸入用コルチコイドとベータ2作用剤の固定用量合剤で、Advair(fluticasone propionateとsalmeterol xinafoate、和名アドエア)の後継薬といったところだ。

Advairのような薬は多くの患者が用いるので優れたエビデンスが求められる。Breoは欧州ではRelvar名で喘息とCOPDの両方の用途で承認されたが、米国はFDAがベータ2作用剤の喘息症増悪リスクを懸念していることから、先にCOPD用途が承認申請・承認された。一方、日本ではCOPD試験二本のうち一本がフェール、先に喘息症用途が承認された。Advairは両方の用途で承認されているので、後継薬になるためには片方を落とすわけにはいかない。無事、米国で承認されるか、注目される。

リンク:両社のプレスリリース

【承認】


米国で第三のPTCL用薬が承認

(2014年7月3日発表)

FDAは、スペクトラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:SPPI)のBeleodaq(belinostat)を末梢Tセルリンパ腫(PTCL)用薬として承認したと発表した。再発性または難治性の患者に用いる。PTCL用薬は、同社のFolotyn(pralatrexate)が再発性難治性向けに、セルジーンのIstodax(romidepsin)が二次治療向けに承認されているので第三の新薬ということになる。

Istodaxと同じHDAC阻害剤で、遺伝子がヒストンに巻き付くのに必要な脱アセチル化酵素を阻害することによって、腫瘍の成長に必要な遺伝子の発現を妨げる。デンマークのTopotarget社から北米などの共同開発権を取得したもの。Topotargetはフランスの会社と合併、BioAlliance Pharma(Euronext Paris:BIO)となった。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:BioAllianceのプレスリリース

GSK、EUが新薬と適応拡大を承認

(2014年7月3日、4日発表)

グラクソ・スミスクラインは、EUがMekinist(trametinib)を承認したと発表した。前日にはArzerra(ofatumumab、和名アーゼラ)の適応拡大承認も発表した。

Mekinistは切除不能または転移性の黒色腫でBRAF遺伝子にV600変異を持つ場合に用いる。同様にV600変異型に承認されている同社やロシュのBRAF阻害剤に反応しなかった患者にはあまり効かないようだ。効果はBRAF阻害剤の方が高そうなので、BRAF阻害剤併用が承認されるまでは出番は少ないだろう。併用は欧州では申請撤回となったが米国では承認されているので、時間の問題だろう。

リンク:GSKのプレスリリース(7/4付)

Arzerraは抗CD20抗体で、再発性の慢性リンパ性白血病向けに承認されているが、新たに、化学療法併用で新患に用いることが認められた。fludarabineに不適な患者が対象。

リンク:GSKのプレスリリース(7/3付け)

エーザイ、EUがハラヴェンの適応拡大を承認

(2014年7月3日発表)

エーザイは、EUがHalaven(eribulin mesylate、和名ハラヴェン)を転移性乳癌の二次治療薬として承認したことを発表した。局所進行性・転移性乳癌で、早期乳癌切除後または再発後にアンスラサイクリンやタキサン系の抗癌剤による治療を受けた患者に用いる。分かり難いが、乳癌は早期に発見・切除されることが多く、高リスク患者は術後にアンスラサイクリンなどによる再発予防療法を受けることになるので、転移性乳癌の二次治療を受ける患者の前治療は様々で一言では言えないのである。

早期乳癌の術後療法は効果だけで言えばアンスラサイクリンとタキサン系ともう一剤の併用が最も高い。この治療を受けた患者が再発・転移し更に二次治療を受ける場合は、前治療で4種類以上の薬を既に経験していることになる。このほかに、ホルモン受容体陽性癌やher2陽性癌なら専用の薬も使っただろう。一方、発見された段階で既に転移している場合もある。

もう一つ分かり難いのは、承認の根拠になった301試験が曖昧な結果であることだ。Xeloda(capecitabine)群と全生存期間を比較したところ、メジアン15.9ヶ月と14.5ヶ月で優越性解析がフェールした。優越性解析がフェールしたということは優越であるとは限らないという意味で、例え数値が若干良かったとしても、効果が非劣性であるとも、同程度であるとも言えない。これらの仮説を立証するためには、通常、優越性試験よりももっと大きな試験を行う必要がある。

統計的学な話は置いておいても、抗癌剤は副作用の出方が区で、例えば死ぬような痛みと致死的な副作用とどちらが良いかは一概には言えない。二剤の便益と危険を比較するのは難しく、その意味でも、エビデンスの明確さは重要なファクターだ。判断の分かれるところであり、EUは承認したが、米国では一次治療と合わせて薬効確認試験中である。

リンク:エーザイのプレスリリース(和文)

今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


0 件のコメント:

コメントを投稿