2014年7月27日

海外医薬ニュース2014年7月27日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • Puma社、汎erbB阻害剤の第三相が成功
  • UCB、抗癲癇薬の第三相試験が二つ目の成功
  • ネクサバール、乳癌試験はフェール
  • GSK、EUでマラリアワクチンを承認申請
  • ロシュ、アバスチンを米国でも卵巣癌に適応拡大申請
  • ノバルティス、G-CSFのバイオシミラーを米国で承認申請
  • 低ホスファターゼ血症の治療薬がEUで承認申請
  • CHMPが二種類の抗ガン剤などに肯定的意見
  • ギリアッド、PI3Kデルタ阻害剤が米国で承認
  • GSK、フルナーゼのOTCスイッチが米国で承認


【新薬開発】


Puma社、汎erbB阻害剤の第三相が成功

(2014年7月22日発表)

Puma Biotechnology(NYSE:PBYI)は、PB272(neratinib)の第三相早期乳癌延長アジュバント試験が成功したと発表した。her2陽性早期乳癌を切除しロシュのHerceptin(trastuzumab)による付随療法を受けた患者を組入れて、neratinib(240mg、一日一回)を1年間経口投与して再発予防効果を偽薬と比較した試験で、無病生存期間のハザードレシオが0.67、p=0.0046と良い結果になった。同社は来年上期に承認申請に向かう計画。

neratinibはワイスがHKI-272名で開発した不可逆的汎erbB阻害剤で、EGFR、her2、her4のチロシンキナーゼを阻害する。08年に第三相入りしたが、翌年にワイスを買収したファイザーは自社開発を断念、11年にPumaに世界開発販売権をアウトライセンスした。ファイザーはアグロンやスジェン、ワーナー・ランバートなどの買収を通じて数多くのerbG阻害剤パイプラインを入手しており、当初は夫々の会社に開発競争させる方針を取っていたが、丁度この頃から優先順位を付ける方針に転換したのである。

ファイザー自身もCI-1033(canertinib)という汎erbB阻害剤を開発したことがある。また、07年にはグラクソ・スミスクラインがEGFRとher2を阻害するTykerb(lapatinib、和名タイケルブ)を米国で発売した。おそらく、過去の経験や競争環境を考慮してneratinibに見切りをつけたのだろう。

Pumaの社長であるAuerbach氏は、ウェルズ・ファーゴでアナリストをした後、Cougar Biotechnologyを設立。英国のBTGからインライセンスしたテストステロン合成阻害剤abirateroneのPOC試験に成功する成果を上げた。11年に発売された前立腺癌用薬、Zytiga(和名ザイティガ)である。氏は発売まで待たず、09年に会社をジョンソン・エンド・ジョンソンに10億ドル弱で売却、新たにPuma Biotechnologyを設立した。

neratinibは今回の第三相以外にもher2陽性転移性乳癌のTykerb対照試験が進行中。また、複数の開発品を次々と篩にかけるI-SPY2試験の合格第一号となり、コンソーシアムが第三相試験を行う予定。豊富なパイプラインを持つが故にステージアップのハードルが高い会社がふるい落とした薬を、早く結果を出したい新興企業や新プロジェクトが蘇らせた格好である。

今回の試験には変遷を経た故の弱点もある。ワイスが開始した当初は5年間追跡する計画だったが、2年間に短縮し目標症例数も削減されたのだ。治験の検出力は低下した筈であり、それでも成功したから快挙なのだが、追跡期間が十分なのか議論の余地があるかもしれない。昔、タクサン系の薬のアジュバント試験で3年を過ぎた辺りから群間差が縮小し始めたことから、5年間のデータが必要という意見があった記憶がある。

また、Herceptinの投与期間が適切であったかどうかも要チェック項目だ。HERA試験により1年コースも2年コースも効果に変わりはないことが明らかになったが、欧州ではもっと短いコースも実施されているようだ。もし短すぎて効果が十分に発揮されていない場合は、neratinibではなくHerceptinを合計1年間、投与すべきだろう。

リンク:Pumaのプレスリリース

UCB、抗癲癇薬の第三相試験が二つ目の成功

(2014年7月23日発表)

UCBは、ucb 34714(brivaracetam)の第三相焦点性癲癇試験が成功したと発表した。薬効のエビデンスが二本となったため、来年初めに欧米で承認申請する計画。データは学会で発表される予定。

brivaracetamは同社の抗癲癇薬Keppra(levetiracetam)と同じSynaptic Vesicle Protein 2A作動剤で、元々はKeppraの特許切れ対策という面もあったが、第三相試験が一勝一敗となり、開発が遅延した。成功した試験は一日5~50mgをテスト、フェールした試験は20~100mgをテストしたので、今回の100mg及び200mgをテストした試験が成功するようには思われなかったが、この意外性が抗癲癇薬なのだろう。

リンク:UCBのプレスリリース

ネクサバール、乳癌試験はフェール

(2014年7月25日発表)

バイエルは、Nexavar(sorafenib)の第三相転移性乳癌試験がフェールしたと発表した。VEGFを標的とする薬ではAvastin(bevacizumab)の乳癌試験も延命効果が確認されず米国では承認取消となった。Nexavarのフェールもその意味では予想されたことだが、PFS(無増悪生存期間)でも有意差が出なかったことが意外だ。

この試験はher2陰性転移性乳癌でタクサン系とアンスラサイクリン系による前治療経験を持つ患者を対象に、欧米や日本、豪州の施設で実施された。Nexavarは承認されている用途(腎細胞腫、肝細胞腫、甲状腺癌)では400mgを一日二回投与するが、今回はcapecitabineを併用したせいか、朝は200mg、夕方は400mgとやや量を減らした。

リンク:バイエルのプレスリリース

【承認申請】


GSK、EUでマラリアワクチンを承認申請

(2014年7月24日発表)

グラクソ・スミスクラインは、マラリアワクチンをEUで承認申請したと発表した。マラリアのワクチンは初。この申請は「58条申請」で、WHOが公的医療における主要課題と認定した疾病の予防・治療薬に関して、EU以外での使用を念頭において、承認審査を求めるもの。マラリアによる死亡の9割はサブサハラ・アフリカ地域なので、専らこの地域で用いられることになる。

アフリカの国の多くは、EU産の医薬品について先ずEUで承認を取ることを求めており、EU承認後はWHOが接種を勧奨し、流行している国が承認・接種勧奨というスケジュールになりそうだ。

サブサハラ・アフリカは様々な感染症により多くの人が亡くなっている。ワクチンのニーズが高いが、購買力が低いので、工夫が必要だ。例えば子宮頸癌ワクチンの場合、先進国の政府が国民に接種を勧奨し、メーカーが開発費を回収できるようにする。投資回収後はサブサハラなどで安価に販売できるわけだ。本当に必要としている国が後回しになるのは歯痒いが、ワクチンの開発は長期間、高額なので、止むを得ないのである。

マラリアワクチンは先進国の需要が小さいため、異なったアレンジメントが必要になる。GSKはこれまでに3.5億ドルを投資、今後更に2.5億ドルを投資する計画。基金などから2億ドル以上の助成金を得ているが、4億ドル程度は自己負担という計算になる。GSKはコスト+利潤5%の価格で販売し、利潤は第2世代品の開発に再投資する計画だ。

リンク:GSKのプレスリリース

ロシュ、アバスチンを米国でも卵巣癌に適応拡大申請

(2014年7月22日発表)

ロシュは、FDAがAvastin(bevacizumab)の卵巣癌適応拡大申請を受理し、優先審査指定したと発表した。この用途では数本の第三相試験が実施され、PFS(無増悪生存期間)は有意に延びたが、延命効果は確認されていない。このため、EUと異なり米国では未承認だった。今回の申請はAURELIA試験に基づくものだが、やはり延命効果は確認されていない。

デザインを見ると、初めから確認するつもりが無かったようである。抗癌剤の昔の試験は、オープンレーベルで偽薬を使わなかったり、判定の評価が主観的でバイアスの疑いが払拭できなかった。キチンとした試験が行われるようになったのは、承認審査機関がデザインの欠陥を鋭く指摘し、改善を強く要求したからである。エビデンスは求めなければ与えられない。FDAが今回も拒絶するか、もうそろそろ矛先を収めて承認するか、結果が注目される。

AURELIA試験は、プラチナ抵抗性卵巣癌の患者を、三種類の化学療法薬の何れかだけを施行する群とAvastinと二剤併用する群に割付けてPFSを比較したオープンレーベル試験。結果は化学療法だけの群がメジアン3.4ヶ月、Avastin併用群は6.7ヶ月、ハザードレシオは0.48となり有意な延長効果が見られた。しかし、全生存期間の解析は各13.3ヶ月と16.6ヶ月、ハザードレシオ0.85となり有意差は無かった。

全生存に有意差が無かったのは、化学療法だけの群の4割が進行後にAvastinによる治療を受けたことが原因という見方が多い。Avastin群は進行後に再利用することは禁じられていた。進行後は他の薬も使ったのではないかと思われるが、追跡調査は行われなかったようだ。おそらく、初めから全生存の解析を行う積りが無かったのだろう。

今回の試験のもう一つの難点は併用薬が三種類あったことだ。一番良かったのはpaclitaxelで、単剤の数値も、Avastin併用時の上乗せ効果(PFSのハザードレシオは0.46で有意、全生存は有意ではなかったが0.65)も良かった。

一方、topotecanやdoxorubicinは単剤も併用時の上乗せ効果も今一つだった。プラチナ抵抗性癌に承認されている二剤の効果が今一つというのは意外感がある。サブグループ分析は検出力が劣るので誤差の範囲内かもしれないが、もしそうなら、paclitaxelの好成績も過大評価できないだろう。

FDAがAvastinの転移性乳癌の適応を取り消したのは、PFSは延長するがどの試験でも全生存期間延長効果が見られなかったからだ。抗癌剤は様々な副作用があるので、QOLを評価するのが難しい。PFSは特定の癌細胞の大きさに基づいて判定するので、QOLとは一致せず、進行を判定する閾値の妥当性も明確ではない。31%成長と29%成長の違いは本来は小さいはずだからだ。結局、延命効果という患者にとって一番重要な要素に基づいて評価するのが最も適切である。

リンク:ロシュのプレスリリース

ノバルティス、G-CSFのバイオシミラーを米国で承認申請

(2014年7月24日発表)

ノバルティスのGE薬子会社であるサンドは、Zarzio(filgrastim)のバイオシミラーとしての承認申請がFDAに受理されたと発表した。生物学的医薬品価格競争革新法(BPCIA)に基づく初のバイオシミラー申請とのこと。

米国はバイオシミラーに関して二種類のカテゴリーを設けており、バイオシミラーとして承認されることがどの程度の商業的価値を生むか不透明なところがあるが、それにしても、公式にバイオシミラーとして認定されることは他社製品と差別化する上で有利にはなっても不利になることはないだろう。

アムジェンのNeupogen(filgrastim)は2013年の売上高14億ドル中、米国が12億ドルを占める。長期作用性G-CSFであるNeulastaも44億ドル中35億ドルなので、当然、バイオシミラーの市場も米国が最も重要だ。サンドは成長ホルモンやEPOなどのGE薬・バイオシミラーで高いシェアを持っている。バイオ薬は値段が高く、後続品は3割程度安いが小分子薬のGE薬と比べれば遥かに高価なので、重要な商品だ。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

低ホスファターゼ血症の治療薬がEUで承認申請

(2014年7月24日発表)

カナダの希少病疾患用薬開発会社であるアレキシオン(Nasdaq:ALXN)は、低ホスファターゼ血症治療薬asfotase alfaをEUで承認申請し受理されたと発表した。この疾患の薬は初めてで、加速審査される。米国でも4月にローリング承認申請を開始。

低ホスファターゼ血症は極めて稀な遺伝子性代謝疾患で、TNSALPという遺伝子の欠陥でカルシウムやリンの代謝が上手く行かず、筋骨格の成長不全や重度の脱力、臓器障害などを合併する。18歳未満で発症する小児発症型は5年死亡率73%といわれる。asfotase alfaは遺伝子組換え型のヒト・ホスファターゼで、酵素補充療法。2011年にEnobia Pharma社を6.1億ドル+各種目標達成金4.7億ドルで買収して入手したもので、アレキシオンの主力製品であるSoliris(eculizumab、和名ソリーアリス)同様に著しく高い価格が付けられるだろう。

リンク:アレキシオンのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPが二種類の抗ガン剤などに肯定的意見

(2014年7月25日発表)

EUの医薬品科学的評価委員会であるCHMPは7月の会議でギリアッドやジョンソン・エンド・ジョンソンの血液癌用薬とノボの二型糖尿病用合剤などについて肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内に上部組織であるEMAにより承認されることになるだろう。

リンク:EMAのプレスリリース

ギリアッド(Nasdaq:GILD)のZydelig(idelalisib)は、慢性リンパ性白血病と濾胞性リンパ腫の経口剤。慢性リンパ性白血病では、ロシュのRituxan(rituximab)と併用で二次治療に用いる。17p欠損型やTP53変異型で化学免疫療法に適さない患者の場合は一次治療も可。濾胞性リンパ腫では二種類の前治療に反応しなかった難治性患者に単剤投与する。Bセルの生存・増殖・活性化に必要な酵素であるPI3Kを阻害する、ファーストインクラス。米国でも承認された(後述)。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

ジョンソン・エンド・ジョンソンのImbruvica(ibrutinib)の適応も一つは慢性リンパ性白血病で、二次治療用だが特定の遺伝子変異を持ち化学免疫療法に不適な患者の場合は一次治療も可。もう一つは非ホジキン型リンパ腫の中でも特に深刻なマントルセルリンパ腫の二次治療。Bセルのアポトーシス、細胞接着、移動に関与するBruton's tyrosine kinaseを阻害するファーストインクラスで、こちらも経口剤。ファーマサイクリクス(Nasdaq:PCYC)から共同開発販売権を取得したもの。

米国では昨年、マントルセルリンパ腫に承認、慢性リンパ性白血病は承認審査中。

リンク:JNJのプレスリリース

ノボ ノルディスクのXultophy(insulin degludec、liraglutide)は、持効性インスリンTresiba(和名トレシーバ)とGLP-1作用剤Victoza(和名ビクトーザ)の合剤で、二型糖尿病の治療に用いる。インスリンは体重が増加するがGLP-1作用剤は減少するため、この合剤の体重影響は中立的。

リンク:ノボのプレスリリース

適応拡大ではアムジェンのXgeva(denosumab、和名ランマーク)を希少疾患である骨巨細胞腫に用いることが支持された。

【承認】


ギリアッド、PI3Kデルタ阻害剤が米国で承認

(2014年7月23日発表)

ギリアッドのZydelig(idelalisib)が米国で承認された。適応と用法は、再発性慢性リンパ性白血病で化学療法不適な患者にRituxanと併用で150mgを一日二回、経口投与する。第三相試験ではPFSがメジアン10.5ヶ月と、Rituxanと偽薬を併用した群の5.5ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.18、pは0.0001未満だった。再発性濾胞性リンパ腫や小リンパ性リンパ腫の三次治療として単剤投与することも認められた。第二相試験に基づく加速承認で、前者はORR(客観的反応率)が54%、後者は58%だった。

副作用では、肝毒性や重度下痢、結腸炎、肺炎、小腸穿孔という致死的あるいは深刻な有害事象が枠付警告された。

ギリアッドというと抗HIV薬で有名だが、近年は抗癌剤の開発にも注力している。Zydeligは2011年にCalistoga Pharmaceuticalsを3.75億ドル+達成報奨金2.25億ドルで買収して入手したもの。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:ギリアッドのプレスリリース

GSK、フルナーゼのOTCスイッチが米国で承認

(2014年7月24日発表)

グラクソ・スミスクラインは、アレルギー性鼻炎治療用点鼻薬のFlonase(fluticasone propionate)をOTC薬として販売することがFDAに承認されたと発表した。枯草熱や上部気道アレルギーの症状を一時的に軽快する。GE薬が発売されるまで売上ナンバーワンだった点鼻ステロイドで、用量は処方用薬と同じ。OTC薬は保険還元の対象にならないが処方薬より手軽に入手することができる。

リンク:GSKのプレスリリース

今週は以上です。

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