2014年7月27日

海外医薬ニュース2014年7月27日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • Puma社、汎erbB阻害剤の第三相が成功
  • UCB、抗癲癇薬の第三相試験が二つ目の成功
  • ネクサバール、乳癌試験はフェール
  • GSK、EUでマラリアワクチンを承認申請
  • ロシュ、アバスチンを米国でも卵巣癌に適応拡大申請
  • ノバルティス、G-CSFのバイオシミラーを米国で承認申請
  • 低ホスファターゼ血症の治療薬がEUで承認申請
  • CHMPが二種類の抗ガン剤などに肯定的意見
  • ギリアッド、PI3Kデルタ阻害剤が米国で承認
  • GSK、フルナーゼのOTCスイッチが米国で承認


【新薬開発】


Puma社、汎erbB阻害剤の第三相が成功

(2014年7月22日発表)

Puma Biotechnology(NYSE:PBYI)は、PB272(neratinib)の第三相早期乳癌延長アジュバント試験が成功したと発表した。her2陽性早期乳癌を切除しロシュのHerceptin(trastuzumab)による付随療法を受けた患者を組入れて、neratinib(240mg、一日一回)を1年間経口投与して再発予防効果を偽薬と比較した試験で、無病生存期間のハザードレシオが0.67、p=0.0046と良い結果になった。同社は来年上期に承認申請に向かう計画。

neratinibはワイスがHKI-272名で開発した不可逆的汎erbB阻害剤で、EGFR、her2、her4のチロシンキナーゼを阻害する。08年に第三相入りしたが、翌年にワイスを買収したファイザーは自社開発を断念、11年にPumaに世界開発販売権をアウトライセンスした。ファイザーはアグロンやスジェン、ワーナー・ランバートなどの買収を通じて数多くのerbG阻害剤パイプラインを入手しており、当初は夫々の会社に開発競争させる方針を取っていたが、丁度この頃から優先順位を付ける方針に転換したのである。

ファイザー自身もCI-1033(canertinib)という汎erbB阻害剤を開発したことがある。また、07年にはグラクソ・スミスクラインがEGFRとher2を阻害するTykerb(lapatinib、和名タイケルブ)を米国で発売した。おそらく、過去の経験や競争環境を考慮してneratinibに見切りをつけたのだろう。

Pumaの社長であるAuerbach氏は、ウェルズ・ファーゴでアナリストをした後、Cougar Biotechnologyを設立。英国のBTGからインライセンスしたテストステロン合成阻害剤abirateroneのPOC試験に成功する成果を上げた。11年に発売された前立腺癌用薬、Zytiga(和名ザイティガ)である。氏は発売まで待たず、09年に会社をジョンソン・エンド・ジョンソンに10億ドル弱で売却、新たにPuma Biotechnologyを設立した。

neratinibは今回の第三相以外にもher2陽性転移性乳癌のTykerb対照試験が進行中。また、複数の開発品を次々と篩にかけるI-SPY2試験の合格第一号となり、コンソーシアムが第三相試験を行う予定。豊富なパイプラインを持つが故にステージアップのハードルが高い会社がふるい落とした薬を、早く結果を出したい新興企業や新プロジェクトが蘇らせた格好である。

今回の試験には変遷を経た故の弱点もある。ワイスが開始した当初は5年間追跡する計画だったが、2年間に短縮し目標症例数も削減されたのだ。治験の検出力は低下した筈であり、それでも成功したから快挙なのだが、追跡期間が十分なのか議論の余地があるかもしれない。昔、タクサン系の薬のアジュバント試験で3年を過ぎた辺りから群間差が縮小し始めたことから、5年間のデータが必要という意見があった記憶がある。

また、Herceptinの投与期間が適切であったかどうかも要チェック項目だ。HERA試験により1年コースも2年コースも効果に変わりはないことが明らかになったが、欧州ではもっと短いコースも実施されているようだ。もし短すぎて効果が十分に発揮されていない場合は、neratinibではなくHerceptinを合計1年間、投与すべきだろう。

リンク:Pumaのプレスリリース

UCB、抗癲癇薬の第三相試験が二つ目の成功

(2014年7月23日発表)

UCBは、ucb 34714(brivaracetam)の第三相焦点性癲癇試験が成功したと発表した。薬効のエビデンスが二本となったため、来年初めに欧米で承認申請する計画。データは学会で発表される予定。

brivaracetamは同社の抗癲癇薬Keppra(levetiracetam)と同じSynaptic Vesicle Protein 2A作動剤で、元々はKeppraの特許切れ対策という面もあったが、第三相試験が一勝一敗となり、開発が遅延した。成功した試験は一日5~50mgをテスト、フェールした試験は20~100mgをテストしたので、今回の100mg及び200mgをテストした試験が成功するようには思われなかったが、この意外性が抗癲癇薬なのだろう。

リンク:UCBのプレスリリース

ネクサバール、乳癌試験はフェール

(2014年7月25日発表)

バイエルは、Nexavar(sorafenib)の第三相転移性乳癌試験がフェールしたと発表した。VEGFを標的とする薬ではAvastin(bevacizumab)の乳癌試験も延命効果が確認されず米国では承認取消となった。Nexavarのフェールもその意味では予想されたことだが、PFS(無増悪生存期間)でも有意差が出なかったことが意外だ。

この試験はher2陰性転移性乳癌でタクサン系とアンスラサイクリン系による前治療経験を持つ患者を対象に、欧米や日本、豪州の施設で実施された。Nexavarは承認されている用途(腎細胞腫、肝細胞腫、甲状腺癌)では400mgを一日二回投与するが、今回はcapecitabineを併用したせいか、朝は200mg、夕方は400mgとやや量を減らした。

リンク:バイエルのプレスリリース

【承認申請】


GSK、EUでマラリアワクチンを承認申請

(2014年7月24日発表)

グラクソ・スミスクラインは、マラリアワクチンをEUで承認申請したと発表した。マラリアのワクチンは初。この申請は「58条申請」で、WHOが公的医療における主要課題と認定した疾病の予防・治療薬に関して、EU以外での使用を念頭において、承認審査を求めるもの。マラリアによる死亡の9割はサブサハラ・アフリカ地域なので、専らこの地域で用いられることになる。

アフリカの国の多くは、EU産の医薬品について先ずEUで承認を取ることを求めており、EU承認後はWHOが接種を勧奨し、流行している国が承認・接種勧奨というスケジュールになりそうだ。

サブサハラ・アフリカは様々な感染症により多くの人が亡くなっている。ワクチンのニーズが高いが、購買力が低いので、工夫が必要だ。例えば子宮頸癌ワクチンの場合、先進国の政府が国民に接種を勧奨し、メーカーが開発費を回収できるようにする。投資回収後はサブサハラなどで安価に販売できるわけだ。本当に必要としている国が後回しになるのは歯痒いが、ワクチンの開発は長期間、高額なので、止むを得ないのである。

マラリアワクチンは先進国の需要が小さいため、異なったアレンジメントが必要になる。GSKはこれまでに3.5億ドルを投資、今後更に2.5億ドルを投資する計画。基金などから2億ドル以上の助成金を得ているが、4億ドル程度は自己負担という計算になる。GSKはコスト+利潤5%の価格で販売し、利潤は第2世代品の開発に再投資する計画だ。

リンク:GSKのプレスリリース

ロシュ、アバスチンを米国でも卵巣癌に適応拡大申請

(2014年7月22日発表)

ロシュは、FDAがAvastin(bevacizumab)の卵巣癌適応拡大申請を受理し、優先審査指定したと発表した。この用途では数本の第三相試験が実施され、PFS(無増悪生存期間)は有意に延びたが、延命効果は確認されていない。このため、EUと異なり米国では未承認だった。今回の申請はAURELIA試験に基づくものだが、やはり延命効果は確認されていない。

デザインを見ると、初めから確認するつもりが無かったようである。抗癌剤の昔の試験は、オープンレーベルで偽薬を使わなかったり、判定の評価が主観的でバイアスの疑いが払拭できなかった。キチンとした試験が行われるようになったのは、承認審査機関がデザインの欠陥を鋭く指摘し、改善を強く要求したからである。エビデンスは求めなければ与えられない。FDAが今回も拒絶するか、もうそろそろ矛先を収めて承認するか、結果が注目される。

AURELIA試験は、プラチナ抵抗性卵巣癌の患者を、三種類の化学療法薬の何れかだけを施行する群とAvastinと二剤併用する群に割付けてPFSを比較したオープンレーベル試験。結果は化学療法だけの群がメジアン3.4ヶ月、Avastin併用群は6.7ヶ月、ハザードレシオは0.48となり有意な延長効果が見られた。しかし、全生存期間の解析は各13.3ヶ月と16.6ヶ月、ハザードレシオ0.85となり有意差は無かった。

全生存に有意差が無かったのは、化学療法だけの群の4割が進行後にAvastinによる治療を受けたことが原因という見方が多い。Avastin群は進行後に再利用することは禁じられていた。進行後は他の薬も使ったのではないかと思われるが、追跡調査は行われなかったようだ。おそらく、初めから全生存の解析を行う積りが無かったのだろう。

今回の試験のもう一つの難点は併用薬が三種類あったことだ。一番良かったのはpaclitaxelで、単剤の数値も、Avastin併用時の上乗せ効果(PFSのハザードレシオは0.46で有意、全生存は有意ではなかったが0.65)も良かった。

一方、topotecanやdoxorubicinは単剤も併用時の上乗せ効果も今一つだった。プラチナ抵抗性癌に承認されている二剤の効果が今一つというのは意外感がある。サブグループ分析は検出力が劣るので誤差の範囲内かもしれないが、もしそうなら、paclitaxelの好成績も過大評価できないだろう。

FDAがAvastinの転移性乳癌の適応を取り消したのは、PFSは延長するがどの試験でも全生存期間延長効果が見られなかったからだ。抗癌剤は様々な副作用があるので、QOLを評価するのが難しい。PFSは特定の癌細胞の大きさに基づいて判定するので、QOLとは一致せず、進行を判定する閾値の妥当性も明確ではない。31%成長と29%成長の違いは本来は小さいはずだからだ。結局、延命効果という患者にとって一番重要な要素に基づいて評価するのが最も適切である。

リンク:ロシュのプレスリリース

ノバルティス、G-CSFのバイオシミラーを米国で承認申請

(2014年7月24日発表)

ノバルティスのGE薬子会社であるサンドは、Zarzio(filgrastim)のバイオシミラーとしての承認申請がFDAに受理されたと発表した。生物学的医薬品価格競争革新法(BPCIA)に基づく初のバイオシミラー申請とのこと。

米国はバイオシミラーに関して二種類のカテゴリーを設けており、バイオシミラーとして承認されることがどの程度の商業的価値を生むか不透明なところがあるが、それにしても、公式にバイオシミラーとして認定されることは他社製品と差別化する上で有利にはなっても不利になることはないだろう。

アムジェンのNeupogen(filgrastim)は2013年の売上高14億ドル中、米国が12億ドルを占める。長期作用性G-CSFであるNeulastaも44億ドル中35億ドルなので、当然、バイオシミラーの市場も米国が最も重要だ。サンドは成長ホルモンやEPOなどのGE薬・バイオシミラーで高いシェアを持っている。バイオ薬は値段が高く、後続品は3割程度安いが小分子薬のGE薬と比べれば遥かに高価なので、重要な商品だ。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

低ホスファターゼ血症の治療薬がEUで承認申請

(2014年7月24日発表)

カナダの希少病疾患用薬開発会社であるアレキシオン(Nasdaq:ALXN)は、低ホスファターゼ血症治療薬asfotase alfaをEUで承認申請し受理されたと発表した。この疾患の薬は初めてで、加速審査される。米国でも4月にローリング承認申請を開始。

低ホスファターゼ血症は極めて稀な遺伝子性代謝疾患で、TNSALPという遺伝子の欠陥でカルシウムやリンの代謝が上手く行かず、筋骨格の成長不全や重度の脱力、臓器障害などを合併する。18歳未満で発症する小児発症型は5年死亡率73%といわれる。asfotase alfaは遺伝子組換え型のヒト・ホスファターゼで、酵素補充療法。2011年にEnobia Pharma社を6.1億ドル+各種目標達成金4.7億ドルで買収して入手したもので、アレキシオンの主力製品であるSoliris(eculizumab、和名ソリーアリス)同様に著しく高い価格が付けられるだろう。

リンク:アレキシオンのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPが二種類の抗ガン剤などに肯定的意見

(2014年7月25日発表)

EUの医薬品科学的評価委員会であるCHMPは7月の会議でギリアッドやジョンソン・エンド・ジョンソンの血液癌用薬とノボの二型糖尿病用合剤などについて肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内に上部組織であるEMAにより承認されることになるだろう。

リンク:EMAのプレスリリース

ギリアッド(Nasdaq:GILD)のZydelig(idelalisib)は、慢性リンパ性白血病と濾胞性リンパ腫の経口剤。慢性リンパ性白血病では、ロシュのRituxan(rituximab)と併用で二次治療に用いる。17p欠損型やTP53変異型で化学免疫療法に適さない患者の場合は一次治療も可。濾胞性リンパ腫では二種類の前治療に反応しなかった難治性患者に単剤投与する。Bセルの生存・増殖・活性化に必要な酵素であるPI3Kを阻害する、ファーストインクラス。米国でも承認された(後述)。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

ジョンソン・エンド・ジョンソンのImbruvica(ibrutinib)の適応も一つは慢性リンパ性白血病で、二次治療用だが特定の遺伝子変異を持ち化学免疫療法に不適な患者の場合は一次治療も可。もう一つは非ホジキン型リンパ腫の中でも特に深刻なマントルセルリンパ腫の二次治療。Bセルのアポトーシス、細胞接着、移動に関与するBruton's tyrosine kinaseを阻害するファーストインクラスで、こちらも経口剤。ファーマサイクリクス(Nasdaq:PCYC)から共同開発販売権を取得したもの。

米国では昨年、マントルセルリンパ腫に承認、慢性リンパ性白血病は承認審査中。

リンク:JNJのプレスリリース

ノボ ノルディスクのXultophy(insulin degludec、liraglutide)は、持効性インスリンTresiba(和名トレシーバ)とGLP-1作用剤Victoza(和名ビクトーザ)の合剤で、二型糖尿病の治療に用いる。インスリンは体重が増加するがGLP-1作用剤は減少するため、この合剤の体重影響は中立的。

リンク:ノボのプレスリリース

適応拡大ではアムジェンのXgeva(denosumab、和名ランマーク)を希少疾患である骨巨細胞腫に用いることが支持された。

【承認】


ギリアッド、PI3Kデルタ阻害剤が米国で承認

(2014年7月23日発表)

ギリアッドのZydelig(idelalisib)が米国で承認された。適応と用法は、再発性慢性リンパ性白血病で化学療法不適な患者にRituxanと併用で150mgを一日二回、経口投与する。第三相試験ではPFSがメジアン10.5ヶ月と、Rituxanと偽薬を併用した群の5.5ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.18、pは0.0001未満だった。再発性濾胞性リンパ腫や小リンパ性リンパ腫の三次治療として単剤投与することも認められた。第二相試験に基づく加速承認で、前者はORR(客観的反応率)が54%、後者は58%だった。

副作用では、肝毒性や重度下痢、結腸炎、肺炎、小腸穿孔という致死的あるいは深刻な有害事象が枠付警告された。

ギリアッドというと抗HIV薬で有名だが、近年は抗癌剤の開発にも注力している。Zydeligは2011年にCalistoga Pharmaceuticalsを3.75億ドル+達成報奨金2.25億ドルで買収して入手したもの。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:ギリアッドのプレスリリース

GSK、フルナーゼのOTCスイッチが米国で承認

(2014年7月24日発表)

グラクソ・スミスクラインは、アレルギー性鼻炎治療用点鼻薬のFlonase(fluticasone propionate)をOTC薬として販売することがFDAに承認されたと発表した。枯草熱や上部気道アレルギーの症状を一時的に軽快する。GE薬が発売されるまで売上ナンバーワンだった点鼻ステロイドで、用量は処方用薬と同じ。OTC薬は保険還元の対象にならないが処方薬より手軽に入手することができる。

リンク:GSKのプレスリリース

今週は以上です。

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2014年7月20日

海外医薬ニュース2014年7月20日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • アムジェン、二次性副甲状腺機能亢進症の第三相試験が成功
  • ロシュとGSK、MEK阻害剤の黒色腫併用試験が夫々、成功
  • ベネフィクスの予防試験、週一回投与で成功
  • 大塚、非定型向精神薬を米国で承認申請
  • ロシュ、アバスチンを子宮頸癌に適応拡大申請
  • 抗真菌剤が欧州で承認申請
  • ウサギが作る薬が米国で承認


【新薬開発】


アムジェン、二次性副甲状腺機能亢進症の第三相試験が成功

(2014年7月17日発表)

アムジェンは、AMG 416の一本目の第三相試験が成功したと発表した。透析期慢性腎疾患に合併する二次性副甲状腺機能亢進症を治療する試験で、副甲状腺ホルモンレベルが30%超低下した患者の比率が75.3%と偽薬銀の9.6%を有意に上回り、二次的評価項目であるリンやカルシウムの血中濃度も偽薬比有意に低下した。年内にもう一本の偽薬対照試験の結果が、来年には類薬である同社のSensipar(cinacalcet)対照試験の結果が判明する見込みで、来年には承認申請されるのではないだろうか。

二次性副甲状腺機能亢進症は腎機能低下に対する代償反応で、血中カルシウムの低下を探知すると副甲状腺ホルモンの分泌が増加、カルシウムやリンを正常レベルに維持するが、腎機能低下が著しく進むとこれらが過剰になる。有効なのがSensiparのようなカルシウム感受受容体作動薬で、AMG 416もこのタイプ。2012年にKAIファーマシューティカルズを3億ドルで買収して入手したペプチド薬で、透析時に2.5~15mgを週3回静注する(Sensiparは経口剤)。今回の試験では両群ともカルシウムなどの標準療法を併用した。

治療時発現有害事象は症候性低カルシウム血症や嘔吐、下痢、筋痙攣などが増加したが、深刻な有害事象の発生率は24.6%で偽薬群の27.4%と大差なかった。

日本では小野薬品が導入、ONO-5163という開発コードで第1/2相試験中。Sensiparは協和発酵キリンがレグパラ錠として08年に発売。

リンク:アムジェンのプレスリリース

ロシュとGSK、MEK阻害剤の黒色腫併用試験が夫々、成功

(2014年7月14日、17日発表)

ロシュは7月14日にGDC-0973(cobimetinib)の第三相黒色腫試験が成功したと発表した。承認申請する計画。データは学会で発表される予定。

この試験はBRAF-V600変異陽性の切除不能な局所進行性/転移性黒色腫の一次治療試験で、同社のBRAF阻害剤、Zelboraf(vemurafenib)と併用する効果を検討した。60mgを一日一回、経口投与。過去の試験で粘膜炎の投与制限毒性が見られたため、21日連続投与して7日間休薬するスケジュールが採用された。主評価項目はPFS(無増悪生存期間)。

GDC-0973はExelixis(Nasdaq:EXEL)のMEK阻害剤、XL518をライセンスしたもの。MEK阻害剤はBRAF阻害剤併用で真価を発揮するので、BRAF阻害剤の第一号を開発したロシュはExelixisにとって良いライセンス先だ。ロシュにとってもグラクソ・スミスクラインに対抗するため必要なパイプラインだ。

リンク:ロシュのプレスリリース

この3日後、BRAF阻害剤の第二号であるTafinlar(dabrafenib)とMEK阻害剤の第一号であるMekinist(trametinib)を開発したGSKも、BRAF-V600変異陽性の切除不能/転移性皮膚黒色腫の一次治療併用試験が中間解析で成功したと発表した。対照薬はZelborafでロシュの試験と同じ、主評価項目は全生存期間なのでエビデンスとしての価値は高い。尚、この二剤の併用は米国では承認されている。

1月にTafinlar対照試験の成功も発表されており、ロシュの試験と合わせると、二剤併用は三戦全勝となった。今後はV600変異陽性にはBRAF阻害剤とMEK阻害剤の併用、それ以外にはYervoy(ipilimumab)が第一選択になりそうだ。

Mekinistは日本たばこからライセンスしたもの。GSKは腫瘍学用薬をノバルティスに売却することで合意しているが、今回の併用試験成功で譲渡額が145億ドルから160億ドルに引き上げられることになるだろう。

リンク:GSKのプレスリリース

ベネフィクスの予防試験、週一回投与で成功

(2014年7月16日発表)

ファイザーは、BeneFIX(nonacog alpha、和名ベネフィクス)の第三相B型血友病予防的投与試験が成功したと発表した。BeneFIXはこの用途では未承認で、遺伝子組換え型第IX因子の新薬に対抗するためには重要なデータと思われるが、適応拡大申請するかどうかはプレスリリースには明記されていない。

血友病の補充療法は高価だが、出血リスクの高い患者を中心に、定期的に投与して出血事故を予防する手法が開発され広く用いられている。既存薬は週2~3回投与する必要があるため、半減期を長期化した製品が複数、開発中で、B型血友病ではバイオジェン・アイデックのAlprolix(eftrenonacog alpha、和名オルプロリクス)が7~10日に一回投与する第IX因子として日米で承認された。

BeneFIXの試験はクロスオーバー試験で、最初の期間は出血時に投与して治療、次の期間は100国際単位/kgを週一回投与して予防したところ、第二期間の年率出血率はメジアンで94%減少した。既存の製品でも週一回投与が可能であることを示唆している。

バクスターのRixumisは、昨年、週二回投与で予防する用法が米国で承認され、エビデンスの面では新薬にキャッチアップした。既存薬が新薬にキャッチアップするというのは奇妙な表現だが、競争激化がエビデンスの充実という医療・患者に好ましい結果をもたらすのは良くある現象だ。

リンク:ファイザーのプレスリリース

【承認申請】


大塚、非定型向精神薬を米国で承認申請

(2014年7月14日発表)

大塚製薬と開発販売パートナーであるルンドベックは、OPC-34712(brexpiprazole)を統合失調症及び鬱病の治療薬として米国で承認申請したと発表した。後者は抗鬱剤の補完療法として追加投与する。

Abilify(aripiprazole、和名エイビリファイ)の類縁体で、D2受容体と5-HT1A受容体を部分作動、5-HT2A受容体を部分阻害する点では同じだが活性や結合力のプロファイルが異なる。この種のレセプター・プロファイルがどのような病気にどのような効果と副作用をもたらすかは活発な研究が行われているが、新薬そして研究助成金の出し手が減っているので、医学者の関心を集めそうだ。

という書き方をすると皮肉と受け止められかねないが、社会にとって一番望ましいのは優れた製薬会社と優れた医学者が協力することである。但し、野心を持つのは良いが患者と利益相反を持ってはならない。本題とは関係ないが、臨床研究の不祥事が相次いでいるのは憤りを感じる。病気の治療法の研究で不正を行うことは、現在そして将来の莫大な数の患者に被害を与える、個人が一生かけても償うことのできない犯罪である。

リンク:大塚のプレスリリース(和文)

ロシュ、アバスチンを子宮頸癌に適応拡大申請

(2014年7月15日発表)

ロシュは、Avastin(bevacizumab、和名アバスチン)を難治性転移性子宮頸癌向けに米国で適応拡大申請しFDAに受理されたと発表した。優先審査指定され、審査期限は10月24日。標準的な化学療法に追加する。残念ながら効果は限定的だが、一歩前進だ。

この申請はGOG-024試験に基づくもの。二種類の化学療法の比較、及び、Avastinを追加する三剤併用療法の効能を検討した2x2オープンレーベル試験で、Avastin併用群のメジアン生存期間は17.0ヶ月と化学療法だけの群の13.3ヶ月を3ヶ月強上回り、ハザードレシオ0.71、p=0.004と有意なリスク削減効果を示した。有害事象は例の如くで、グレード3以上の胃腸泌尿生殖器瘻の発生率が6%対0%、同じく血栓塞栓疾患が8%対1%と増加した。

子宮頸癌は早期段階で対処すれば5年生存率9割だが、転移癌の場合は1~2割に留まる模様。米国では年4000人が死亡する。GOG-024試験は転移性患者の組入れが少なく効果が鮮明ではなかった模様であり、このタイプにも承認されるかどうかは不透明だろう。

リンク:ロシュのプレスリリース

抗真菌剤が欧州で承認申請

(2014年7月17日発表)

スイスのBasilea(SWX:BSLN)は、BAL8557/ASP9766(isavuconazole)を欧州で侵襲性アスパルギルス症と侵襲性接合菌症に承認申請したと発表した。米国でも今月、権利を持つアステラス製薬が承認申請した。臨床試験では同じアゾール系のvoriconazoleと効果が非劣性だった。アゾール系の良いところは経口剤の開発が容易であることで、isavuconazoleも静注用と二種類が用意されている。

リンク:Basileaのプレスリリース

【承認】


ウサギが作る薬が米国で承認

(2014年7月17日発表)

FDAは、Ruconest(conestat alfa)を遺伝性血管浮腫の急性発作治療薬として承認した。遺伝子組換え型のヒトC1エステラーゼ・インヒビターで、通常の遺伝子組換え薬は大腸菌やチャイニーズ・ハムスター細胞などに遺伝子を組入れて量産するが、ウサギの乳腺に分泌させてミルクから回収するのが特徴。トランスジェニック羊では06年に欧州でAtryn(抗トロンビン)が承認されたが、トランスジェニック兎由来の医薬品はRuconestが初めてではないか。

オランダのPharming(Euronext:PHARM)が開発した薬で、米国のSalix(Nasdaq:SLXP)が北米の権利を持つSantarusを2010年に買収して取得した。Swedish Orphan Biovitrum(STO:BVT)が権利を持つ欧州では2010年に承認。

遺伝性血管浮腫は皮膚や小腸、口、喉などに痛みを伴う浮腫が発生、喉の場合は命に係ることもある。補体系免疫反応に係るC1インヒビターの遺伝子異常が原因だが、アレルギー性ショックと誤診されることが少なくないようだ。米国の患者数は6000~1万人。

治療法はヒト由来のC1エステラーゼ阻害剤や、英国のシャイア(アッヴィが買収する予定)のFirazyr(icatibant、ブラディキニンB2受容体拮抗剤)やDyax(Nasdaq:DYAX)のKalbitor(ecallantide、遺伝子組換え型ヒト・カリクレイン・インヒビター)が発作時治療や予防向けに承認されている。

尚、Salixはスイス上場のイタリア企業、Cosmo Pharmaceuticals(SIX:COPN)のアイルランド子会社と合併する予定。法人税率の低い国に税法上の本社を持つ企業と合併することが流行しており、アッヴィのシャイア買収も節税が目的の一つと考えられている。日本政府が法人税率引き下げに動いているのもこのような動きを未然に防ぐ目的かもしれない。

リンク:FDAのリリース

リンク:Salixのプレスリリース

今週は以上です。

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2014年7月13日

海外医薬ニュース2014年7月13日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • デング熱ワクチンの第三相が成功
  • BMS、オプジーボを黒色腫にも承認申請へ
  • アステラス、真菌症薬を承認申請
  • 爪真菌症治療薬が米国で承認


【新薬開発】


デング熱ワクチンの第三相が成功

(2014年7月11日発表)

デング熱ワクチンの第三相試験論文がLancet誌でオンライン刊行された。ワクチン効率56%とリーズナブルな効果を示し、デング熱ワクチンの実用化に向けて一歩前進した。

サノフィが08年にAcambis社を買収して入手した開発品で、弱毒化黄熱病ウイルスの遺伝子に4種類の血清型のデングウイルス抗原を導入したもの。今回の第三相試験はフィリピンなどASEAN5ヶ国で2~14歳の10275人を組入れ、ワクチン群と偽薬群に2対1割付して6ヶ月毎に3回接種し、2年超追跡した。

結果は、3回接種が終了して28日経った後のデング熱発症率が偽薬群は年率4.7%と事前の予想より高かったのに対してワクチン群は1.8%に留まり、ワクチン効率(相対リスク削減率)は56.5%だった。血清型や国により異なり、3型4型はリスクを75%削減したが2型は35%、1型は50%だった。また、マレーシアでは79%削減したがフィリピン、ベトナム、インドネシア、タイでは51~54%だった。年齢別でも12~14歳では74%削減したが6~11歳は59%、2~5歳は33%と若いほど効果は低下した。

1万人中28人がデング熱の重篤な合併症であるデング出血熱を発症したが、うち20人は偽薬群で、予防効果は88.5%だった。

ラテンアメリカでも9~16歳の2万人を組入れた第三相が進行中で15年中に結果が出る予定。

デング熱は熱帯・亜熱帯地域に多く日本脳炎と同様に蚊が媒介する。年間に50万人が入院すると言われており、アジアやラテンアメリカの住人及び渡航者には重要な脅威になる。WHOは2020年までに死亡者を50%、感染者を25%削減する目標を立てており、サノフィのワクチンは重要なツールになるだろう。

リンク:Capedingら(Lancet、オープンアクセス)

リンク:サノフィのプレスリリース(pdfファイル)

BMS、オプジーボを黒色腫にも承認申請へ

(2014年7月10日発表)

BMSは、小野薬品からライセンスした抗PD-1抗体Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)を9月までに黒色腫用薬として米国で承認申請する計画であることを発表した。Yervoy(ipilimumab)などによる治療を受け再発した患者を組入れたCheckMate-037試験の結果に基づいて申請することをFDAが首肯した模様だ。

ClinicalTrials.govの治験登録には15年5月に薬効解析データ収集と記されているので、おそらく、共同主評価項目の一つである反応率のデータで加速承認を取り、全生存期間の解析が成功した段階で本承認を取る考えなのだろう。

抗PD-1抗体ではMSDがMK-3475(pembrolizumab)を同じ用途で第二相試験の反応率データに基づき承認申請、10月にも承認される見込み。その前にBMSが承認申請すれば優先審査指定される可能性が高く、半年遅れ程度で発売できる可能性がある。扁平上皮非小細胞性肺癌でも年内にローリング承認申請を完了する計画なので、来年末には適応症面でMSDより一歩先行することができるだろう。

Opdivoの弱点は、前回も書いたように、点滴静注頻度が二週間に一回であること。医師と患者の手間とコストを考えればMK-3475のほうが使いやすい。黒色腫はYervoyを始め三週間に一回投与するものが多いので、将来、併用療法が実用化された場合はもっと不利になる。BMSは三週間に一回投与群も設けてYervoy併用試験(CheckMate-067試験)を実施中なので、首尾が注目される。

リンク:BMSのプレスリリース

【承認申請】


アステラス、真菌症薬を承認申請

(2014年7月9日発表)

スイスのBasilea社は、導出先のアステラス製薬が米国でBAL8557/ASP9766(isavuconazonium sulfate)を承認申請したと発表した。アゾール系の抗真菌薬で侵襲性のアスペルギルス症や接合菌感染症の治療に用いる。第三相試験では、42日全死亡率が18.6%とvoriconazole群の20.2%と比べて非劣性だった。静注用と経口剤の二種類が用意されている。感染症薬認定(QIDP)を受けているので、優先審査の対象になり承認後は5年間の特許期間補填が受けられる。

リンク:Basileaのプレスリリース

リンク:アステラスのプレスリリース(和文)

【承認】


爪真菌症治療薬が米国で承認

(2014年7月8日発表)

カリフォルニアの感染症治療薬開発会社であるAnacor Pharmaceuticals(Nasdaq:ANAC)は、Kerydin(tavaborole)外用液がFDAに承認されたと発表した。爪甲真菌症の治療薬で、oxaborole系のファースト・イン・クラス。二本の臨床試験では完全治癒率が各6%と9%で、偽薬群の1%前後より高かった。既にジェネリック化した既存の局所性製剤や経口剤と比べて効果が特に高い訳ではないので需要は限定的か。

リンク:Anacorのプレスリリース

今週は以上です。

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2014年7月6日

海外医薬ニュース2014年7月6日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • リソソーム酸リパーゼ欠乏症治療薬の試験が成功
  • MSD、EUが抗PD-1抗体の承認申請を受理
  • GSK、米国でレルベアを喘息症に適応拡大
  • 米国で第三のPTCL用薬が承認
  • GSK、EUが新薬と適応拡大を承認
  • エーザイ、EUがハラヴェンの適応拡大を承認


【新薬開発】


リソソーム酸リパーゼ欠乏症治療薬の試験が成功

(2014年6月30日発表)

米国のSynageva BioPharma(Nasdaq:GEVA)は、SBC-102(sebelipase alfa)の第三相試験の成功を発表した。リソソーム酸リパーゼ(LAL)欠乏症の小児・成人66人を偽薬群とSBC-102を二週間に一回、点滴静注する群に無作為化割付して20週間の二重盲検試験を行ったところ、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)値が正常化した患者の比率が有意に高かった。

p値は0.027なのでそれほど良くないが、二次的評価項目のAST(アスパラギン酸トランスフェラーゼ)正常化率や、MRI肝脂肪含有率、LDL-C、HDL-Cも有意に改善しており、また、症例数が少ないせいか有意差は無かったが治験前後にバイオプシーを行った26例では肝脂肪改善率が63%と偽薬の40%を数値上上回った。安全性面では深刻な非定型的点滴関連反応で1人が治験を離脱したことが懸念されるが、全体的には悪くなさそうだ。同社は2015年の第1四半期までに欧米で承認申請する予定。

SBC-102は米国でブレークスルーセラピー指定されている。また、日米欧で希少疾患用薬指定されている。

LAL欠乏症は新生児100万人に2人の超希少疾患で、常染色体の劣性遺伝によりこの酵素が機能せず分解されるべき脂肪が蓄積して、吸収不良や成長不全、肝臓疾患などを合併する。今回の試験ではメジアン13歳と比較的状態の良い患者を対象としたが、急速進行型の乳児を組入れた第二/三相試験でも、9人中6人が1歳の誕生日を迎えることができた。

リンク:Synagevaのプレスリリース

リンク:ライソゾーム病に関する情報(難病情報センター)

【承認申請】


MSD、EUが抗PD-1抗体の承認申請を受理

(2014年6月30日発表)

MSDは、EUが悪性黒色腫用薬MK-3475(pembrolizumab)の販売承認申請を受理したと発表した。米国でも5月に受理されており、抗PD-1抗体の開発競争は、少なくとも発売の時点では、MSDが欧米共に一番乗りになりそうだ。

ファースト・イン・クラスの新薬開発レースで同社が高い勝率を誇る一つの理由は、「前倒し」だろう。米国立医療研究所のClinicalTrials.govに多くの臨床試験が登録されるようになって初めて明らかになったのは、同社が第二相試験でありながら数百人、1年という第三相並みの試験を行っていることだ。1年の試験を行うためにはその前の段階で半年以上投与した症例を数多く集めている筈であり、結局、第一相、第二相、第三相の各段階で最低限やらなければならないこと以上の研究・検討を行っていることが窺われる。

承認申請に必要な薬効のエビデンスは第二相とか第三相とかの呼び名ではなく、デザインが問題になる。後期第二相でキチンとした試験を行えば、第三相試験は一本でも足りるし、難病に使う薬ならば後期第二相試験だけで承認申請が認められるかもしれない。開発を前倒しすることによって承認申請・発売までのリードタイムを短縮できる可能性があるのだ。

臨床試験と並行して量産プロセスの開発が進めるが、バイオ薬の場合は臨床試験用の薬と量産ラインで作った薬の特性に僅かな違いが発生することがある。効果や安全性が違う疑いが生じた場合、第三相試験のやり直しに繋がりかねない。ジェネンテックのRaptiva(efalizumab;乾癬治療薬として03年に発売されたが副作用懸念で販売中止に)は、これが理由で承認申請が一年遅れた。第三相開始前に前倒しで量産方法を確立しておけば、このようなリスクを回避できることになる。

勿論、デメリットもある。第二相試験がフェールし開発中止になったら、前倒しで使った研究開発予算が無駄になってしまう。リスクを削減するためには効果や安全性を前倒しで検討する必要があるが、そのために重要なのが動物試験だ。MSDの動物試験といえば、PPAR作動剤の癌原性や心毒性を発見、日本企業から取得した開発販売権を返還したことがある。その後、FDAはPPAR作動剤を開発する会社全てに対して、半年以上の治験を行う前に癌原性試験を行うことを求めた。MSDの報告がFDAを動かしたのである。

DPP-4阻害剤でも霊長類の試験で薬剤の選択性と皮膚毒性の関連を発見、学会や論文を通じて当局や他の製薬会社に警鐘を鳴らした。

MSDの新薬開発の徹底ぶりが伺われるのは2006年にCell Metabolismに刊行されたNPY Y5受容体拮抗剤、MK-0557の論文だ。夫々の開発段階で検討すべき仮説を一つ一つ確認した上で次のステージに上がる。積み上げた石が全て盤石だから、治験で効果が確認されなかった時に、その仮説が間違っていたことが証明される。このような周到な研究を行う会社だからこそ、財務的なリスクを担って前倒しができるのだ。

研究者にもスピードを求められる時代になったが、研究の質、スピード、そして巨額の予算の全てを兼ね備えることが肝要だ。

リンク:MSDのプレスリリース

GSK、米国でレルベアを喘息症に適応拡大

(2014年6月30日発表)

グラクソ・スミスクラインとテラバンス(Nasdaq:THRX)は、Breo(fluticasone furoateとvilanterol、和名レルベア)を米国で喘息症の維持療法として適応拡大申請したと発表した。用量はEUや日本の承認内容と同じ、100mcg・25mcgの組み合わせと200mcg・25mcg。吸入用コルチコイドとベータ2作用剤の固定用量合剤で、Advair(fluticasone propionateとsalmeterol xinafoate、和名アドエア)の後継薬といったところだ。

Advairのような薬は多くの患者が用いるので優れたエビデンスが求められる。Breoは欧州ではRelvar名で喘息とCOPDの両方の用途で承認されたが、米国はFDAがベータ2作用剤の喘息症増悪リスクを懸念していることから、先にCOPD用途が承認申請・承認された。一方、日本ではCOPD試験二本のうち一本がフェール、先に喘息症用途が承認された。Advairは両方の用途で承認されているので、後継薬になるためには片方を落とすわけにはいかない。無事、米国で承認されるか、注目される。

リンク:両社のプレスリリース

【承認】


米国で第三のPTCL用薬が承認

(2014年7月3日発表)

FDAは、スペクトラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:SPPI)のBeleodaq(belinostat)を末梢Tセルリンパ腫(PTCL)用薬として承認したと発表した。再発性または難治性の患者に用いる。PTCL用薬は、同社のFolotyn(pralatrexate)が再発性難治性向けに、セルジーンのIstodax(romidepsin)が二次治療向けに承認されているので第三の新薬ということになる。

Istodaxと同じHDAC阻害剤で、遺伝子がヒストンに巻き付くのに必要な脱アセチル化酵素を阻害することによって、腫瘍の成長に必要な遺伝子の発現を妨げる。デンマークのTopotarget社から北米などの共同開発権を取得したもの。Topotargetはフランスの会社と合併、BioAlliance Pharma(Euronext Paris:BIO)となった。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:BioAllianceのプレスリリース

GSK、EUが新薬と適応拡大を承認

(2014年7月3日、4日発表)

グラクソ・スミスクラインは、EUがMekinist(trametinib)を承認したと発表した。前日にはArzerra(ofatumumab、和名アーゼラ)の適応拡大承認も発表した。

Mekinistは切除不能または転移性の黒色腫でBRAF遺伝子にV600変異を持つ場合に用いる。同様にV600変異型に承認されている同社やロシュのBRAF阻害剤に反応しなかった患者にはあまり効かないようだ。効果はBRAF阻害剤の方が高そうなので、BRAF阻害剤併用が承認されるまでは出番は少ないだろう。併用は欧州では申請撤回となったが米国では承認されているので、時間の問題だろう。

リンク:GSKのプレスリリース(7/4付)

Arzerraは抗CD20抗体で、再発性の慢性リンパ性白血病向けに承認されているが、新たに、化学療法併用で新患に用いることが認められた。fludarabineに不適な患者が対象。

リンク:GSKのプレスリリース(7/3付け)

エーザイ、EUがハラヴェンの適応拡大を承認

(2014年7月3日発表)

エーザイは、EUがHalaven(eribulin mesylate、和名ハラヴェン)を転移性乳癌の二次治療薬として承認したことを発表した。局所進行性・転移性乳癌で、早期乳癌切除後または再発後にアンスラサイクリンやタキサン系の抗癌剤による治療を受けた患者に用いる。分かり難いが、乳癌は早期に発見・切除されることが多く、高リスク患者は術後にアンスラサイクリンなどによる再発予防療法を受けることになるので、転移性乳癌の二次治療を受ける患者の前治療は様々で一言では言えないのである。

早期乳癌の術後療法は効果だけで言えばアンスラサイクリンとタキサン系ともう一剤の併用が最も高い。この治療を受けた患者が再発・転移し更に二次治療を受ける場合は、前治療で4種類以上の薬を既に経験していることになる。このほかに、ホルモン受容体陽性癌やher2陽性癌なら専用の薬も使っただろう。一方、発見された段階で既に転移している場合もある。

もう一つ分かり難いのは、承認の根拠になった301試験が曖昧な結果であることだ。Xeloda(capecitabine)群と全生存期間を比較したところ、メジアン15.9ヶ月と14.5ヶ月で優越性解析がフェールした。優越性解析がフェールしたということは優越であるとは限らないという意味で、例え数値が若干良かったとしても、効果が非劣性であるとも、同程度であるとも言えない。これらの仮説を立証するためには、通常、優越性試験よりももっと大きな試験を行う必要がある。

統計的学な話は置いておいても、抗癌剤は副作用の出方が区で、例えば死ぬような痛みと致死的な副作用とどちらが良いかは一概には言えない。二剤の便益と危険を比較するのは難しく、その意味でも、エビデンスの明確さは重要なファクターだ。判断の分かれるところであり、EUは承認したが、米国では一次治療と合わせて薬効確認試験中である。

リンク:エーザイのプレスリリース(和文)

今週は以上です。

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