2014年5月25日

海外医薬ニュース2014年5月25日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • 大日本住友、BBI608試験がフェール
  • CHMPがPTC社のDMD治療薬などの承認を勧告
  • エンドサイト/MSD、vintafolideの承認申請を撤回
  • 米国でバンコマイシン系新薬が承認
  • 武田の炎症性腸疾患薬が米国で承認
  • ベクチビックスを一次治療に用いることが米国で承認
  • EUはempagliflozinを承認


【新薬開発】


大日本住友、BBI608試験がフェール

(2014年5月23日発表)

大日本住友製薬は、BBI608のグローバル第三相結腸直腸癌試験の患者登録と投与を中止すると発表した。2012年に子会社化したボストン・バイオメディカルの開発品で、新興企業によくある、不十分なエビデンスに基づいて思い切って第三相を開始したがやっぱり駄目だった、というパターンのように思われる。

新興企業はステージアップの基準が大手より甘い。トップスピードで開発しないと莫大な資金力、人材、機材、経験を持つ大手製薬会社に似たような薬を開発されて、いつの間にか追いつかれ、追い抜かれることになりかねないからだ。階段を三段跳びに上がって無事ゴールにたどり着けば賞賛されるし、足を滑らせて途中からやり直しになっても失うものは少ない。但し、患者を不必要なリスクに晒さないよう、配慮しなければならない。

今回の試験中止は、この二つの課題のバランスの上でトリガーされたものであり、その意味では、やるべきことをキチンとやったと評価すべきだろう。

BBI608は癌幹細胞を標的とする小分子薬で、増殖を阻害し癌幹細胞と癌細胞のアポトーシスを誘導するとされる。実際に何を阻害するのかは明らかではない。学会や論文発表も限られている。学会発表は開発品の効能をアピールして医師が治験に参加するモチベーションを高めたり、投資家の注目を集め開発資金の調達を容易にする宣伝の場でもあるのだが、ボストン・バイオメディカルは大日本住友というスポンサーを獲得できたので他社に情報を与えるリスクのほうを重視したのだろう。

第一相試験では、結腸直腸癌の患者12人のうち8人の病状が安定した。DCR(疾病管理奏効率)66%ということになる。追加的に組入れた症例でも良好なDCRが見られた模様だ。

第三相試験は昨年4月に開始された。末期結腸直腸癌で承認されている全ての薬を既に使い終わった患者を組入れて、480mgカプセルまたは偽薬を一日二回、経口投与して延命効果を検討するもので、FDAのSPA(特別プロトコル評価)を受けている。当初の計画では650人を組入れて、15年に薬効解析のためのデータ収集を行うスケジュールだった。2014年ASCOの抄録によると、今年2月時点で130例を割付済み。今回の発表によると直近では280例に増えており、患者登録をスピードアップしたところなのだろう。

大規模な試験はもし無益/有害な薬であった場合に多くの被験者に機会損失や副作用被害を与えてしまうリスクがあるので、何度か中間解析を行って安全性や無益性を確認するプロトコルが導入される。BBI608の場合、最初の97例を対象とした中間解析で安全性面では特に問題はなかったものの、DCRがプロトコルで定められた水準に達しなかったため、独立安全性モニタリング委員会が無益性を認定、新規患者の登録と登録済みの患者に対する投与を中止するよう勧告した。

目標症例数の15%という早い段階で無益性が認定されるのは珍しく、DCRを使ったというのも違和感がある(中間解析の判定基準は公表されないことが多いので私が知らないだけかもしれないが)。私の想像だが、BBI608は過去の投与症例数が少ないため、被験者の権利を保護するために早い段階で無益性解析を行うことにしたのではないか。症例数が少ないと例えばPFS(無進行生存期間)の解析を行っても意味のある評価はできないだろう。そこで、第一相や第二相で用いられるのと同じ、反応率で評価したのだろう。

もしこの想像が正しいとすると、今回の第三相フェールは、実質的には、DCRを主評価項目とするPOC試験がフェールしたのと同じである。BBI608のような分子標的薬はモノセラピーではCR(完全反応:標的癌細胞が消滅する)やPR(部分反応:一定以上縮小する)を誘導するパワーが弱いので、PFSや全生存期間を使った方が良い。DCRなら効果の兆しが表れるはずだが、データが発表されるまで判断を留保したい。何れにせよ、別途進行中の第二相化学療法併用試験で改めてPOCにチャレンジすることになるだろう。

尚、登録済みの280例に関する全生存期間の解析が行われる予定だが、常識的に考えれば有意な延命効果が示される可能性は低く、また、トレンドが見られたとしても承認申請するためには改めて第三相を行う必要があるだろう。

リンク:大日本住友のプレスリリース(和文、pdfファイル)

リンク:2014年ASCOの抄録(今回の試験のデザインに関するもの)

【承認審査・委員会】


CHMPがPTC社のDMD治療薬などの承認を勧告

(2014年5月23日発表)

EMA(欧州薬品庁)の医薬品科学的評価委員会であるCHMPは、5月の会議で、PCTセラピュティクス(Nasdaq:PTCT)のデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)治療薬などについて、肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内に承認されることになるだろう。

リンク:EMAのプレスリリース

肯定的意見が出た新薬は以下の通り。

・PTCのTranslarna(ataluren)

適応は、ジストロフィン遺伝子にナンセンス変異を持つ5歳以上で歩行可能なDMD患者。条件付き申請なので、進行中の第三相試験で薬効や安全性を確認する必要がある。来年後半には判明しよう。EUのDMD患者は18600人、うちナンセンス変異を持つ患者は13%と推定されている。

ジストロフィンは筋細胞が収縮する時に障害を受けないよう保護する蛋白で、ナンセンス変異を持つ患者は十分な機能を持つジストロフィンを作れない。TranslarnaはメッセンジャーRNAを元にアミノ酸が繋ぎ合わされる過程に介入し、翻訳中止箇所を示すRNA配列が『読み過ごされる』ため、機能するジストロフィンが作られる。

承認申請は4年以上前に実施された後期第二相試験の成績に基づくもので、二種類の用量または偽薬を48週間投与して、6分歩行試験で薬効評価した。結果は、低用量群の悪化が13メートル、偽薬群と高用量群の悪化が42メートルとなり、有意差が無かった。このため、CHMPは今年1月に否定的意見を出したが、PTCから再審査請求と追加データの提出を受け、今回、結論を覆した。EMAのQ&A資料を読んでも翻意の理由はよく分からない。

Translarnaはジェンザイム(後にサノフィが買収)と共同開発していたが、後期第二相試験がフェールした後、提携解消となった。米国は第三相試験を経て承認申請される見込み。

リンク:EMAのプレスリリース

リンク:EMAのQ&A資料

リンク:PTCのプレスリリース

・ロシュのGazyvaro(obinutuzumab、米国名Gazyva)

Rituxan(rituximab)と同じ抗CD20ヒト化抗体だが、フコースが付加されていないためNKセルやマクロファージの受容体に結合する力が強く、高いADC(抗体依存的細胞毒性)活性を持つ。

適応は慢性リンパ性白血病の治療を初めて受ける、持病などが原因でfludarabineによる治療を受けられない患者。chlorambucilと併用する。第三相試験ではPFSがchlorambucilだけの群より有意に長かった。Rituxanとchlorambucilを併用した群と比べても有意に延長した。バイオジェン・アイデックと共同開発・共同販売。

リンク:ロシュのプレスリリース

・バイオジェン・アイデックのPlegridy(peginterferon beta-1a)

多発性硬化症の維持療法薬で、AvonexをPEG化して投与頻度を2週間に一回に減らすと共に、筋注ではなく皮注に変えたもの。インターフェロン・ベータ1bはロシュのPegasysなどPEG化品が主流になったが、1aはPlegridyが第一号。バイオシミラーは抗体医薬よりサイトカイン系の方が承認が取りやすいと考えられているので、第二世代品の開発は重要な課題だ。米国は審査期間延長になったので8月頃の承認か。

・OctapharmaのNuwiq(simoctogog alfa)

遺伝子組換え型第VIII因子。A型血友病患者の出血の治療や予防に用いる。

・アルコンのSimbrinza(brinzolamideとbrimonidine tartrateの合剤)

既に承認されている炭酸脱水酵素阻害剤とアルファ2アドレナセプター作動剤を配合した点眼用液で、開放隅角緑内障や高眼圧症の治療に用いる。ベータブロッカーに適さない患者には貴重な選択肢。アルコンはノバルティスの子会社。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

・Chiesi FarmaceuticiのEnvarsus(tacrolimus)

腎移植や肝移植後の拒絶反応を防ぐ免疫抑制剤。アステラスのAdvagrafと同様な、Prografの一日一回服用型新製剤で、Veloxis Pharmaceuticals(OMX:VELO)が生物学的利用率・薬物動態改良技術を応用して開発した。Chiesiは欧州などの権利を持っている。臨床試験ではPrografと非劣性だった。米国でも承認審査中。Prografは一日二回服用なので、米国の自動代替制度の対象にはならない。

Veloxisは2002年にルンドベックからスピンアウトした会社で、昔はLifeCycle Pharmaという社名だった。塩野義製薬が米国で販売しているFenoglide(fenofibrate)も同社の開発品。そういえば、塩野義が買収したScieleは昔はFirst Horizonという名前だったので、買収発表時には何の会社かわからなかった。

リンク:Veloxisのプレスリリース

次に、適応拡大に関する肯定的意見を得たのは、

・GSK/ジェンマブのArzerra(ofatumumab、和名アーゼラ)

Rituxanと同じ抗CD20抗体だがヒト化ではなく完全ヒト化で、結合するエピトープも異なる。2010年に慢性リンパ性白血病でfludarabineやalemtuzumabによる治療を既に受けてしまった患者に承認されたが、今回、fludarabine不適患者の一次治療薬としてchlorambucilと併用することが支持された(上記のGazyvaroと同じ)。

リンク:GSKのプレスリリース

ところで、Arzerraはネガティブなニュースもあった。びまん性大細胞型Bセルリンパ腫の第三相Rituxan直接比較試験が行われたが、フェールしたのだ。効果が有意に上回るはずだったが、有意差はなく、この用途は開発中止となった。

リンク:GSKのプレスリリース(5/19付)

・エーザイのHalaven(eribulin mesylate、和名ハラヴェン)

局所進行性/末期転移性乳癌のサルベージ療法として承認されているが、今回、二次治療に用いることが支持された。第三相capecitabine対照試験がフェールしたことを考えれば、なぜ支持されたのか私には理解できない。米国では適応拡大申請されていないようだ。

乳癌は早期発見して切除し高リスク患者はanthracyclineやtaxaneによる付随療法を受けることが多い。ここでいう二次治療は転移後の二番目の治療という意味で、上記二剤を併用する付随療法を受けた患者は転移後の最初の治療として使うこともできるのではないか。

Halavenは日米合作で、日本の研究者が海綿から発見した成分の抗腫瘍活性を米国癌研究所の研究者が発見、化学合成方法を模索したが中々果たせず、ハーバード大学の日本人学者がエーザイと共に取り組んで遂に成功したもの。微小管伸長阻害剤で好中球減少症などの副作用を持つ。

一方、否定的意見となったのは、

・ロシュのAvastin(bevacizumab)

神経膠腫は08年に二次治療、5年後に一次治療が承認申請されたが、CHMPはどちらも承認しなかった。前者は第二相試験なので良く分からないところがあり、米国は承認、EUは否定的意見と分かれた。後者は第三相試験で、主評価項目二つのうちPFSの解析は成功したが、全生存期間の解析はハザードレシオ0.88、p=0.0987とフェールした。PFSによる評価はフェイクかもしれないので、全生存期間を重視したのだろう。

神経膠腫のPFSはMRI画像で腫瘍の大きさの変化を測定するが、Avastinのような血管新生阻害剤を用いると腫瘍の血管壁が安定するので、造影剤が漏れ難くなる。腫瘍は成長しているのに造影剤画像は縮小するという現象が起こりうるのだ。このため、FDAも、CHMPも、PFSデータを薬効のエビデンスとは認めなかった。

さて、日本は悪性神経膠腫に用いることを二次治療に限定していない。一次治療を承認している、日米欧の中で唯一の国ということになる。FDAやCHMPの評価についてどう考えているのだろうか。

迅速承認制度の先駆けである米国は、承認後にキチンとした試験を行って薬効や安全性を確認することを製薬会社に求めたが、上手く行かなかった。承認された後で偽薬対照試験を行っても、少なくとも米国では、被験者が集まらないからだ。このため、加速承認の段階で第三相試験の患者組入れが相当進んでいることを求めるようになった。EUはもっとはっきりしていて、条件付き承認を受けた薬は第三相がフェールした場合、承認を取り消される。

良く分からないのは日本だ。迅速承認した後に効かないことが判明したら誰がどうやって再審査するのだろうか。二次治療と一次治療を区別せずに承認する慣習だが、欧米が併用薬も含めて事細かく分けて審査していることをどう考えているのだろうか。

最後に、CHMPはPTCのTranslarna以外にも三種類の新薬の再審査を行ったが、再び否定的意見となった。

・アクティブ・バイオテック/テバのNerventra(laquinimod)

再発寛解型多発性硬化症の維持療法として承認申請されたが、臨床試験の成績が区々であることや再発予防効果が穏やかであること、そして、動物試験で癌や催奇性のリスクが見られたことがボトルネックになった。再試験中。

・ノバルティスのReasanz(serelaxin)

第三相急性非代償性心不全治療試験が成功、大いに注目を浴びたが、承認審査が進むにつれて治験のデザインや実施内容が不適当であったことが明らかになり、FDAもCHMPも再試験を求めるという失望的な結果になった。再試験中。

・ABサイエンスのMasiviera(masitinib)

薬効確認試験がフェールしたことや品質管理に懸念があることがボトルネックになった。

エンドサイト/MSD、vintafolideの承認申請を撤回

(2014年5月19日発表)

エンドサイト(Nasdaq:ECYT)とMSDは、Vynfinit(vintafolide)のEUにおける承認申請を撤回したと発表した。葉酸受容体陽性プラチナ抵抗性卵巣癌の後期第二相試験に基づいて承認申請し、3月にCHMPの肯定的評価を受けたばかりだか、第三相試験がフェールしたため承認が危ぶまれていた。

リンク:MSDのプレスリリース

【承認】


米国でバンコマイシン系新薬が承認

(2014年5月23日発表)

Durata Therapeutics(Nasdaq:DRTX)は、FDAがDalvance(dalbavancin)をグラム陽性菌による急性細菌性皮膚皮膚構造感染症(ABSSSI)の治療薬として承認したと発表した。MRSAに使うこともできるバンコマイシン系の静注点滴用抗生物質。

元々はファイザーが買収した会社が開発していたが、品質管理問題やFDAの薬効評価方法見直しがボトルネックとなって承認されず、5年前に権利を取得したDurataが再試験を行った経緯がある。時間はかかったが、感染症治療薬に与えられるQIDP指定を受けているため、排他権期間が5年間延長され、その間はGE薬が承認されない。QIPD指定を受けた薬の中で初の承認となった。

リンク:Durataのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

武田の炎症性腸疾患薬が米国で承認

(2014年5月20日発表)

FDAは武田薬品のEntyvio(vedolizumab)を中重度潰瘍性大腸炎や中重度クローン病の治療薬として承認したと発表した。ステロイドなどの治療に十分に反応しない患者に用いる。クローン病は第三相治療試験の共同主評価項目の一つがフェールしたので危ぶんだが、無事、どちらも承認された。

武田の子会社であるミレニアムの開発品。元々は同社が買収したLeukoSiteが97年にジェネンテックにライセンスしたものだが、第二相で十分な薬効が確認されなかったため権利返還となった。ミレニアムにとって優先プロジェクトではなかったが、武田の子会社になったのと前後して開発が再開、私がこの薬を知ってから17年の時を経て、遂に実用化された。

リンパ球やNKセルが発現する接着分子、アルファ4ベータ7インテグリンに結合する抗体医薬で、血管内皮細胞が発現するMAdCAM-1に結合して血管壁を潜り抜け組織に移行するのを妨げる。バイオジェン・アイデック/JNJのTysabri(natalizumab)に似ているが、VCAM-1をブロックしないので、進行性多病巣性白質脳症のリスクが小さい可能性がある。

実際にEntyvioの試験では一件も発生していないが、Tysabriのリスクは治療期間と相関するのでEntyvioが安全であることを確認するにはもっと大きな、長期試験を行う必要があるだろう。Tysabriの主用途は多発性硬化症であり、リスクに関連する治療歴や併用薬が同じとは限らないので、単純には比較できない。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:武田のプレスリリース(和文)

ベクチビックスを一次治療に用いることが米国で承認

(2014年5月23日発表)

アムジェンは、Vectibix(panitumumab、和名ベクチビックス)が米国で末期結腸直腸癌の一次治療薬として承認されたと発表した。krasという腫瘍関連遺伝子に変異がない患者に、FOLFOXレジメンと併用する。第三相試験では全生存期間がメジアン23.8ヶ月と、FOLFOXだけを投与した群の19.4ヶ月より延びた。VectibixはEGFRに結合するトランスジェニック・マウス抗体。krasに変異のある癌では寿命を縮めてしまう恐れがあるので使うべきではない。

リンク:アムジェンのプレスリリース

EUはempagliflozinを承認

(2014年5月23日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムとイーライリリーは、EUがJardiance(empagliflozin)を承認したと発表した。二型糖尿病のSGLT2阻害剤で、グルコースが腎臓で濾し取られた後に血液中に移送されるのを妨げる。尿道を通るグルコースという栄養物が増加するため、尿道や性器の感染症が増加する。

米国でも承認申請されたが、FDAは、工場の品質管理基準の解決を求めた。Jardianceには関係ないかもしれないが、FDAは、cGMP違反の是正を担保するために、その会社の新薬の承認を人質に取ることができる。

両社は糖尿病領域で開発販売提携をしており、Jardianceも両社で販売する。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

今週は以上です。

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