2014年5月11日

海外医薬ニュース2014年5月11日号


【ニュース・ヘッドライン】




  • MSDの抗PD-1抗体、FDA審査結果は10月までに
  • アッヴィ、抗HCV薬をEUでも承認申請
  • FDAがMSDのPAR-1阻害剤を承認
  • アストラゼネカ、EPA・DHA製剤が米国で承認
  • GSK、LAMA・LABA合剤がEUでも承認


【承認申請】


MSDの抗PD-1抗体、FDA審査結果は10月までに

(2014年5月6日発表)

MSDは、FDAがMK-3475(lambrolizumab)の承認審査を受理し優先審査指定したと発表した。審査期限は10月28日。ローリング承認申請を始めてから4ヶ月経つので期限前に承認される可能性もありそうだ。

MK-3475は抗PD-1ヒト化抗体で、活性化Tセルなどで発現する表面分子のPD-1をブロックし、癌細胞などが発現するPD-L1などがPD-1に抑制的刺激を送り込むのを妨げる。通常の抗体医薬と異なりIgG4型の免疫グロブリン固定領域を用いているので、Tセルに対する免疫を誘導しない。今回、承認申請された用途は、切除不能または転移性の黒色腫で既にBMSのYervoy(ipilimumab)による治療を受けた患者。

同様な作用機序ではBMS/小野薬品のnivolumabとロシュの抗PD-L1ヒト化抗体RG7446が第三相段階、そしてアストラゼネカもMEDI4736で第三相を開始し、競争が激化している。nivolumabが先行していたはずだが、MSDに追い抜かれてしまった。開発力の差なのだろう。MSDは臨床開発を前倒し、前倒しで進めることで、スピードアップを図っている。予算も前倒しになるので失敗した時の損失が膨らむが、新薬開発は元々リスキーなものであり、ビッグファーマの潤沢な資金力を生かす最良の戦術だ。

具体的に何が違うのか?後期第一相でありながら被験者数が多いことが目に付くが、最近の抗癌剤は皆、そうである。残念ながら、MSDの強みは私たちが気付かないところにある。過去の例では、MSDは杏林から導入したPPAR作動剤の長期動物安全性試験を行い、開発中止を決定した。その後、FDAはPPAR作動剤を開発する全ての会社に長期動物安全性試験の実施を要請。数年後には、承認されているPPAR作動剤の安全性についても鋭く切り込んでいった。私はMSDが試験結果をFDAに報告し注意を促したものと推測しているが、証拠はない。

あるいは、NPY Y5受容体拮抗剤。MSDは動物試験、臨床薬物動態試験、受容体占有度確認試験など様々な手法で仮説をひとつずつ確認した上で第二相長期薬効確認試験に進んだが、十分な体重管理効果が見られず、開発中止した。その後、塩野義製薬が同じ作用機序の薬のプルーフ・オブ・コンセプトに成功したが、数年後に開発中止となり、MSDが通った道には何も残っていないことを私は思い知った。

勿論、MSDでも見落としはあるだろう。PD-L1の発現状況と効果の間に相関性は無いのか、あるいは、深刻な免疫性副作用は起きないのか、気になるところだ。nivolumabの承認申請が遅れたのは何らかの安全性問題が発生したことが問題かもしれず、MSDが先駆けたのは偶々、臨床試験で同じ有害事象が発生しなかったことが原因かもしれない。いかなMSDと言えどもBMSの治験データは把握していないだろうし、一方、FDAは知っているだろうから、審査の過程で関連する有害事象例を徹底的に調べるかもしれない。

最後に笑うのは誰か、10月に答えが出る。

リンク:MSDのプレスリリース

アッヴィ、抗HCV薬をEUでも承認申請

(2014年5月8日発表)

アッヴィ(NYSE:ABBV)は、ABT-450などの開発品3品を慢性C型肝炎治療薬としてEUで承認申請したと発表した。米国でも4月に申請済み。ABT-450(プロテアーゼ阻害剤)とritonavirの合剤、ABT-267(ombitasvir、NS5A阻害剤)、ABT-333(dasabuvir、非核酸系ポリメラーゼ阻害剤)の3品で、全て経口剤。臨床試験ではribavirinを併用する群も設定された。奏効率は大差ないので副作用を減らすために併用しない方が良いように思っていたが、4品併用のほうが良い場合もあるようだ。

リンク:アッヴィのプレスリリース

【承認】


FDAがMSDのPAR-1阻害剤を承認

(2014年5月8日発表)

FDAは、MSDのZontivity(vorapaxar)を心筋梗塞歴を持つ、または、末梢動脈疾患を持つ患者の心筋梗塞、脳卒中、心血管死のリスクを削減する薬として承認した。今年最大のサプライズだ。普通なら通らないであろう牌が通ってしまったのは、これもMSDの開発力の高さを示すエピソードなのだろう。

Zontivityは同社が買収したシェリング・プラウが開発したPAR-1阻害剤で、トロンビンが血小板の凝集を促進するのを妨げる、Plavix(clopidogrel)やアスピリンとは異なった作用機序の抗血小板薬。他の薬と同様に出血リスクが高まり、第三相試験の一本(非ST上昇型急性冠症候群が対象)は頭蓋内出血など深刻な出血自己が原因で中止された。

脳卒中やTIA(一時的脳虚血発作)歴を持つ患者で特にリスクが高かったため、もう一本の試験(心筋梗塞安定期、末梢動脈疾患、脳梗塞が対象)は該当する患者を除外して続行したところ、3年間の心筋梗塞・脳卒中・心血管死の発生率が7.9%と偽薬群の9.5%より有意に小さかった。NNT(一人を救うために必要な投与患者数)は62なので、効果は顕著に高い訳ではない。

Plavixなどと同様に、出血リスクが枠付警告された。医師は患者に出血リスクを伝え、異常な出血時には相談するよう伝えなければならない。

MSDのホームページをチェックしたが、まだプレスリリースは出ていないようだ。重要なプロジェクトとは考えていないのかもしれない。

リンク:
FDAのプレスリリース


アストラゼネカ、EPA・DHA製剤が米国で承認

(2014年5月6日発表)

アストラゼネカはEpanova(omega-3-carboxylic acids)が米国で重度トリグリセリド血症の治療薬として承認されたと発表した。魚由来の高純度EPA/DHA製剤で、一日一回、2カプセルまたは4カプセルを服用する。

トリグリセリド値が500mg/dL以上の患者が適応になるが、同社は混合異脂血症に適応拡大してCrestor(rosuvastatin)配合剤を開発・発売する計画。TG値が200~500mg/dLでLDL-C値が100mg/dL未満のスタチン服用者(LDL-Cを十二分に管理できている患者)を対象に心血管アウトカム試験をロンチしたが、結果が出るのは4年後の見込みなので、承認申請の段階ではTG低下効果だけをアピールするのだろう。

Epanovaは昨年買収したOmthera社の開発品。遊離脂肪酸なので酵素による代謝を必要とせずに腸で吸収されるため、生物学的利用率が良いとのことだ。

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

GSK、LAMA・LABA合剤がEUでも承認

(2014年5月8日発表)

グラクソ・スミスクラインは、AnoroがEUでCOPD維持療法薬として承認されたと発表した。長期作用性ムスカリン阻害剤(LAMA)のumeclidiniumと長期作用性ベータ2作用剤(LABA)の合剤で、Ellipta吸入器で一日一回、吸入する。

GSKはテラバンスと呼吸器用薬の共同開発を行っており、両成分は何れもGSK側のパイプラインだが、テラバンスは達成報奨金を払って売上ロイヤルティをもらうことができる。達成報奨金は昨年12月に米国で承認された時に3000万ドル、ロンチ時にも3000万ドル、今回は1500万ドル、発売時に更に1500万ドルとなっている。

リンク:GSKのプレスリリース

今週は以上です。

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