2014年5月25日

海外医薬ニュース2014年5月25日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • 大日本住友、BBI608試験がフェール
  • CHMPがPTC社のDMD治療薬などの承認を勧告
  • エンドサイト/MSD、vintafolideの承認申請を撤回
  • 米国でバンコマイシン系新薬が承認
  • 武田の炎症性腸疾患薬が米国で承認
  • ベクチビックスを一次治療に用いることが米国で承認
  • EUはempagliflozinを承認


【新薬開発】


大日本住友、BBI608試験がフェール

(2014年5月23日発表)

大日本住友製薬は、BBI608のグローバル第三相結腸直腸癌試験の患者登録と投与を中止すると発表した。2012年に子会社化したボストン・バイオメディカルの開発品で、新興企業によくある、不十分なエビデンスに基づいて思い切って第三相を開始したがやっぱり駄目だった、というパターンのように思われる。

新興企業はステージアップの基準が大手より甘い。トップスピードで開発しないと莫大な資金力、人材、機材、経験を持つ大手製薬会社に似たような薬を開発されて、いつの間にか追いつかれ、追い抜かれることになりかねないからだ。階段を三段跳びに上がって無事ゴールにたどり着けば賞賛されるし、足を滑らせて途中からやり直しになっても失うものは少ない。但し、患者を不必要なリスクに晒さないよう、配慮しなければならない。

今回の試験中止は、この二つの課題のバランスの上でトリガーされたものであり、その意味では、やるべきことをキチンとやったと評価すべきだろう。

BBI608は癌幹細胞を標的とする小分子薬で、増殖を阻害し癌幹細胞と癌細胞のアポトーシスを誘導するとされる。実際に何を阻害するのかは明らかではない。学会や論文発表も限られている。学会発表は開発品の効能をアピールして医師が治験に参加するモチベーションを高めたり、投資家の注目を集め開発資金の調達を容易にする宣伝の場でもあるのだが、ボストン・バイオメディカルは大日本住友というスポンサーを獲得できたので他社に情報を与えるリスクのほうを重視したのだろう。

第一相試験では、結腸直腸癌の患者12人のうち8人の病状が安定した。DCR(疾病管理奏効率)66%ということになる。追加的に組入れた症例でも良好なDCRが見られた模様だ。

第三相試験は昨年4月に開始された。末期結腸直腸癌で承認されている全ての薬を既に使い終わった患者を組入れて、480mgカプセルまたは偽薬を一日二回、経口投与して延命効果を検討するもので、FDAのSPA(特別プロトコル評価)を受けている。当初の計画では650人を組入れて、15年に薬効解析のためのデータ収集を行うスケジュールだった。2014年ASCOの抄録によると、今年2月時点で130例を割付済み。今回の発表によると直近では280例に増えており、患者登録をスピードアップしたところなのだろう。

大規模な試験はもし無益/有害な薬であった場合に多くの被験者に機会損失や副作用被害を与えてしまうリスクがあるので、何度か中間解析を行って安全性や無益性を確認するプロトコルが導入される。BBI608の場合、最初の97例を対象とした中間解析で安全性面では特に問題はなかったものの、DCRがプロトコルで定められた水準に達しなかったため、独立安全性モニタリング委員会が無益性を認定、新規患者の登録と登録済みの患者に対する投与を中止するよう勧告した。

目標症例数の15%という早い段階で無益性が認定されるのは珍しく、DCRを使ったというのも違和感がある(中間解析の判定基準は公表されないことが多いので私が知らないだけかもしれないが)。私の想像だが、BBI608は過去の投与症例数が少ないため、被験者の権利を保護するために早い段階で無益性解析を行うことにしたのではないか。症例数が少ないと例えばPFS(無進行生存期間)の解析を行っても意味のある評価はできないだろう。そこで、第一相や第二相で用いられるのと同じ、反応率で評価したのだろう。

もしこの想像が正しいとすると、今回の第三相フェールは、実質的には、DCRを主評価項目とするPOC試験がフェールしたのと同じである。BBI608のような分子標的薬はモノセラピーではCR(完全反応:標的癌細胞が消滅する)やPR(部分反応:一定以上縮小する)を誘導するパワーが弱いので、PFSや全生存期間を使った方が良い。DCRなら効果の兆しが表れるはずだが、データが発表されるまで判断を留保したい。何れにせよ、別途進行中の第二相化学療法併用試験で改めてPOCにチャレンジすることになるだろう。

尚、登録済みの280例に関する全生存期間の解析が行われる予定だが、常識的に考えれば有意な延命効果が示される可能性は低く、また、トレンドが見られたとしても承認申請するためには改めて第三相を行う必要があるだろう。

リンク:大日本住友のプレスリリース(和文、pdfファイル)

リンク:2014年ASCOの抄録(今回の試験のデザインに関するもの)

【承認審査・委員会】


CHMPがPTC社のDMD治療薬などの承認を勧告

(2014年5月23日発表)

EMA(欧州薬品庁)の医薬品科学的評価委員会であるCHMPは、5月の会議で、PCTセラピュティクス(Nasdaq:PTCT)のデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)治療薬などについて、肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内に承認されることになるだろう。

リンク:EMAのプレスリリース

肯定的意見が出た新薬は以下の通り。

・PTCのTranslarna(ataluren)

適応は、ジストロフィン遺伝子にナンセンス変異を持つ5歳以上で歩行可能なDMD患者。条件付き申請なので、進行中の第三相試験で薬効や安全性を確認する必要がある。来年後半には判明しよう。EUのDMD患者は18600人、うちナンセンス変異を持つ患者は13%と推定されている。

ジストロフィンは筋細胞が収縮する時に障害を受けないよう保護する蛋白で、ナンセンス変異を持つ患者は十分な機能を持つジストロフィンを作れない。TranslarnaはメッセンジャーRNAを元にアミノ酸が繋ぎ合わされる過程に介入し、翻訳中止箇所を示すRNA配列が『読み過ごされる』ため、機能するジストロフィンが作られる。

承認申請は4年以上前に実施された後期第二相試験の成績に基づくもので、二種類の用量または偽薬を48週間投与して、6分歩行試験で薬効評価した。結果は、低用量群の悪化が13メートル、偽薬群と高用量群の悪化が42メートルとなり、有意差が無かった。このため、CHMPは今年1月に否定的意見を出したが、PTCから再審査請求と追加データの提出を受け、今回、結論を覆した。EMAのQ&A資料を読んでも翻意の理由はよく分からない。

Translarnaはジェンザイム(後にサノフィが買収)と共同開発していたが、後期第二相試験がフェールした後、提携解消となった。米国は第三相試験を経て承認申請される見込み。

リンク:EMAのプレスリリース

リンク:EMAのQ&A資料

リンク:PTCのプレスリリース

・ロシュのGazyvaro(obinutuzumab、米国名Gazyva)

Rituxan(rituximab)と同じ抗CD20ヒト化抗体だが、フコースが付加されていないためNKセルやマクロファージの受容体に結合する力が強く、高いADC(抗体依存的細胞毒性)活性を持つ。

適応は慢性リンパ性白血病の治療を初めて受ける、持病などが原因でfludarabineによる治療を受けられない患者。chlorambucilと併用する。第三相試験ではPFSがchlorambucilだけの群より有意に長かった。Rituxanとchlorambucilを併用した群と比べても有意に延長した。バイオジェン・アイデックと共同開発・共同販売。

リンク:ロシュのプレスリリース

・バイオジェン・アイデックのPlegridy(peginterferon beta-1a)

多発性硬化症の維持療法薬で、AvonexをPEG化して投与頻度を2週間に一回に減らすと共に、筋注ではなく皮注に変えたもの。インターフェロン・ベータ1bはロシュのPegasysなどPEG化品が主流になったが、1aはPlegridyが第一号。バイオシミラーは抗体医薬よりサイトカイン系の方が承認が取りやすいと考えられているので、第二世代品の開発は重要な課題だ。米国は審査期間延長になったので8月頃の承認か。

・OctapharmaのNuwiq(simoctogog alfa)

遺伝子組換え型第VIII因子。A型血友病患者の出血の治療や予防に用いる。

・アルコンのSimbrinza(brinzolamideとbrimonidine tartrateの合剤)

既に承認されている炭酸脱水酵素阻害剤とアルファ2アドレナセプター作動剤を配合した点眼用液で、開放隅角緑内障や高眼圧症の治療に用いる。ベータブロッカーに適さない患者には貴重な選択肢。アルコンはノバルティスの子会社。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

・Chiesi FarmaceuticiのEnvarsus(tacrolimus)

腎移植や肝移植後の拒絶反応を防ぐ免疫抑制剤。アステラスのAdvagrafと同様な、Prografの一日一回服用型新製剤で、Veloxis Pharmaceuticals(OMX:VELO)が生物学的利用率・薬物動態改良技術を応用して開発した。Chiesiは欧州などの権利を持っている。臨床試験ではPrografと非劣性だった。米国でも承認審査中。Prografは一日二回服用なので、米国の自動代替制度の対象にはならない。

Veloxisは2002年にルンドベックからスピンアウトした会社で、昔はLifeCycle Pharmaという社名だった。塩野義製薬が米国で販売しているFenoglide(fenofibrate)も同社の開発品。そういえば、塩野義が買収したScieleは昔はFirst Horizonという名前だったので、買収発表時には何の会社かわからなかった。

リンク:Veloxisのプレスリリース

次に、適応拡大に関する肯定的意見を得たのは、

・GSK/ジェンマブのArzerra(ofatumumab、和名アーゼラ)

Rituxanと同じ抗CD20抗体だがヒト化ではなく完全ヒト化で、結合するエピトープも異なる。2010年に慢性リンパ性白血病でfludarabineやalemtuzumabによる治療を既に受けてしまった患者に承認されたが、今回、fludarabine不適患者の一次治療薬としてchlorambucilと併用することが支持された(上記のGazyvaroと同じ)。

リンク:GSKのプレスリリース

ところで、Arzerraはネガティブなニュースもあった。びまん性大細胞型Bセルリンパ腫の第三相Rituxan直接比較試験が行われたが、フェールしたのだ。効果が有意に上回るはずだったが、有意差はなく、この用途は開発中止となった。

リンク:GSKのプレスリリース(5/19付)

・エーザイのHalaven(eribulin mesylate、和名ハラヴェン)

局所進行性/末期転移性乳癌のサルベージ療法として承認されているが、今回、二次治療に用いることが支持された。第三相capecitabine対照試験がフェールしたことを考えれば、なぜ支持されたのか私には理解できない。米国では適応拡大申請されていないようだ。

乳癌は早期発見して切除し高リスク患者はanthracyclineやtaxaneによる付随療法を受けることが多い。ここでいう二次治療は転移後の二番目の治療という意味で、上記二剤を併用する付随療法を受けた患者は転移後の最初の治療として使うこともできるのではないか。

Halavenは日米合作で、日本の研究者が海綿から発見した成分の抗腫瘍活性を米国癌研究所の研究者が発見、化学合成方法を模索したが中々果たせず、ハーバード大学の日本人学者がエーザイと共に取り組んで遂に成功したもの。微小管伸長阻害剤で好中球減少症などの副作用を持つ。

一方、否定的意見となったのは、

・ロシュのAvastin(bevacizumab)

神経膠腫は08年に二次治療、5年後に一次治療が承認申請されたが、CHMPはどちらも承認しなかった。前者は第二相試験なので良く分からないところがあり、米国は承認、EUは否定的意見と分かれた。後者は第三相試験で、主評価項目二つのうちPFSの解析は成功したが、全生存期間の解析はハザードレシオ0.88、p=0.0987とフェールした。PFSによる評価はフェイクかもしれないので、全生存期間を重視したのだろう。

神経膠腫のPFSはMRI画像で腫瘍の大きさの変化を測定するが、Avastinのような血管新生阻害剤を用いると腫瘍の血管壁が安定するので、造影剤が漏れ難くなる。腫瘍は成長しているのに造影剤画像は縮小するという現象が起こりうるのだ。このため、FDAも、CHMPも、PFSデータを薬効のエビデンスとは認めなかった。

さて、日本は悪性神経膠腫に用いることを二次治療に限定していない。一次治療を承認している、日米欧の中で唯一の国ということになる。FDAやCHMPの評価についてどう考えているのだろうか。

迅速承認制度の先駆けである米国は、承認後にキチンとした試験を行って薬効や安全性を確認することを製薬会社に求めたが、上手く行かなかった。承認された後で偽薬対照試験を行っても、少なくとも米国では、被験者が集まらないからだ。このため、加速承認の段階で第三相試験の患者組入れが相当進んでいることを求めるようになった。EUはもっとはっきりしていて、条件付き承認を受けた薬は第三相がフェールした場合、承認を取り消される。

良く分からないのは日本だ。迅速承認した後に効かないことが判明したら誰がどうやって再審査するのだろうか。二次治療と一次治療を区別せずに承認する慣習だが、欧米が併用薬も含めて事細かく分けて審査していることをどう考えているのだろうか。

最後に、CHMPはPTCのTranslarna以外にも三種類の新薬の再審査を行ったが、再び否定的意見となった。

・アクティブ・バイオテック/テバのNerventra(laquinimod)

再発寛解型多発性硬化症の維持療法として承認申請されたが、臨床試験の成績が区々であることや再発予防効果が穏やかであること、そして、動物試験で癌や催奇性のリスクが見られたことがボトルネックになった。再試験中。

・ノバルティスのReasanz(serelaxin)

第三相急性非代償性心不全治療試験が成功、大いに注目を浴びたが、承認審査が進むにつれて治験のデザインや実施内容が不適当であったことが明らかになり、FDAもCHMPも再試験を求めるという失望的な結果になった。再試験中。

・ABサイエンスのMasiviera(masitinib)

薬効確認試験がフェールしたことや品質管理に懸念があることがボトルネックになった。

エンドサイト/MSD、vintafolideの承認申請を撤回

(2014年5月19日発表)

エンドサイト(Nasdaq:ECYT)とMSDは、Vynfinit(vintafolide)のEUにおける承認申請を撤回したと発表した。葉酸受容体陽性プラチナ抵抗性卵巣癌の後期第二相試験に基づいて承認申請し、3月にCHMPの肯定的評価を受けたばかりだか、第三相試験がフェールしたため承認が危ぶまれていた。

リンク:MSDのプレスリリース

【承認】


米国でバンコマイシン系新薬が承認

(2014年5月23日発表)

Durata Therapeutics(Nasdaq:DRTX)は、FDAがDalvance(dalbavancin)をグラム陽性菌による急性細菌性皮膚皮膚構造感染症(ABSSSI)の治療薬として承認したと発表した。MRSAに使うこともできるバンコマイシン系の静注点滴用抗生物質。

元々はファイザーが買収した会社が開発していたが、品質管理問題やFDAの薬効評価方法見直しがボトルネックとなって承認されず、5年前に権利を取得したDurataが再試験を行った経緯がある。時間はかかったが、感染症治療薬に与えられるQIDP指定を受けているため、排他権期間が5年間延長され、その間はGE薬が承認されない。QIPD指定を受けた薬の中で初の承認となった。

リンク:Durataのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

武田の炎症性腸疾患薬が米国で承認

(2014年5月20日発表)

FDAは武田薬品のEntyvio(vedolizumab)を中重度潰瘍性大腸炎や中重度クローン病の治療薬として承認したと発表した。ステロイドなどの治療に十分に反応しない患者に用いる。クローン病は第三相治療試験の共同主評価項目の一つがフェールしたので危ぶんだが、無事、どちらも承認された。

武田の子会社であるミレニアムの開発品。元々は同社が買収したLeukoSiteが97年にジェネンテックにライセンスしたものだが、第二相で十分な薬効が確認されなかったため権利返還となった。ミレニアムにとって優先プロジェクトではなかったが、武田の子会社になったのと前後して開発が再開、私がこの薬を知ってから17年の時を経て、遂に実用化された。

リンパ球やNKセルが発現する接着分子、アルファ4ベータ7インテグリンに結合する抗体医薬で、血管内皮細胞が発現するMAdCAM-1に結合して血管壁を潜り抜け組織に移行するのを妨げる。バイオジェン・アイデック/JNJのTysabri(natalizumab)に似ているが、VCAM-1をブロックしないので、進行性多病巣性白質脳症のリスクが小さい可能性がある。

実際にEntyvioの試験では一件も発生していないが、Tysabriのリスクは治療期間と相関するのでEntyvioが安全であることを確認するにはもっと大きな、長期試験を行う必要があるだろう。Tysabriの主用途は多発性硬化症であり、リスクに関連する治療歴や併用薬が同じとは限らないので、単純には比較できない。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:武田のプレスリリース(和文)

ベクチビックスを一次治療に用いることが米国で承認

(2014年5月23日発表)

アムジェンは、Vectibix(panitumumab、和名ベクチビックス)が米国で末期結腸直腸癌の一次治療薬として承認されたと発表した。krasという腫瘍関連遺伝子に変異がない患者に、FOLFOXレジメンと併用する。第三相試験では全生存期間がメジアン23.8ヶ月と、FOLFOXだけを投与した群の19.4ヶ月より延びた。VectibixはEGFRに結合するトランスジェニック・マウス抗体。krasに変異のある癌では寿命を縮めてしまう恐れがあるので使うべきではない。

リンク:アムジェンのプレスリリース

EUはempagliflozinを承認

(2014年5月23日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムとイーライリリーは、EUがJardiance(empagliflozin)を承認したと発表した。二型糖尿病のSGLT2阻害剤で、グルコースが腎臓で濾し取られた後に血液中に移送されるのを妨げる。尿道を通るグルコースという栄養物が増加するため、尿道や性器の感染症が増加する。

米国でも承認申請されたが、FDAは、工場の品質管理基準の解決を求めた。Jardianceには関係ないかもしれないが、FDAは、cGMP違反の是正を担保するために、その会社の新薬の承認を人質に取ることができる。

両社は糖尿病領域で開発販売提携をしており、Jardianceも両社で販売する。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

今週は以上です。

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2014年5月18日

海外医薬ニュース2014年5月18日号

 



【ニュース・ヘッドライン】




  • ASCO:nivolumabの株が下がる
  • ASCO:イーライリリーのnecitumumabの効果は限定的
  • ASCO:武田のTAK-700は二本とも第三相フェール
  • ファイザー、CDK4/6阻害剤を承認申請へ
  • イーライリリー、LY2605541がランタスに勝った
  • GSK、Lp-PLA2阻害剤は二本目の第三相もフェール
  • Kythera、二重顎治療薬を米国で承認申請
  • ノバルティス、serelaxinは承認されず
  • JNJ、ソブリアードがEUでも承認


【新薬開発】


ASCO:nivolumabの株が下がる

(2014年5月14日発表)

ASCOの抄録が一般公開され、各社がプレスリリースを出すと共に、メディア向けのマル秘ブリーフィングも行われたようだ。第一の注目は、BMSが小野薬品と共同開発した抗PD-1トランスジェニック・マウス抗体、BMS-936558/MDX-1106/ONO-4538(nivolumab)の後期第一相試験、第二相試験のデータ。非小細胞性肺癌については弱点も散見された。腎細胞腫については抗CTLA-4トランスジェニック・マウス抗体Yervoy(ipilimumab)併用で良さそうな結果が出た。

非小細胞性肺癌の後期第一相一次治療試験のうち、単剤投与群では、PD-L1陽性癌(20例中10例)のORR(反応率)が50%であったのに対して、陰性(7例、残りの3例は判定不能)ではゼロだった。同じ現象は他社の抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体でも見られるので、少なくとも肺癌に関しては、このタイプにしか効かないのだろう。

この弱点はYervoyを併用することで対応できるかもしれない。Yervoyを併用した群では用量の組み合わせや細胞の種類(扁平上皮腫/非扁平上皮腫)によってORRが7~25%となり、PD-L1発現状況との関連性は見られなかった模様だ。一方で、忍容性は良好とは言えず、G3以上の治療関連有害事象が22例、48%の患者で発生、16例は治験離脱となり、3例は致死的だった(呼吸不全、気管支肺出血、中毒性表皮剥離症)。

両剤の用量は、nivolumabが1mg/kgとYervoyが3mg/kgの群と、用量が逆の群が設定されていたが、昨年9月に1mg/kgずつ併用する群が追加された。どちらの薬も至適用量が明確になっていないので、減量することで忍容性を緩和し薬効は維持することができるかどうか、注目される(BMSのプレスリリースや抄録にはデータが出ていない)。尤も、併用群は症例数が少ないので信頼性は今一つ。

併用試験の難点は、どちらの薬の寄与なのか分かり難いことだ。PD-L1陽性でも陰性でも大差ないなら、PD-L1陽性には単剤投与で十分だろう。陰性に対する効果はYervoy単剤投与と同じ可能性も考えられるので、今後の報告が注目される。何れにせよ、肺癌未承認のYervoyとの併用で開発が先行というBMSのアドバンテージは、それほど重要ではなくなった。悪性黒色腫では承認されているので他社も自由に併用試験を行える。

腎細胞腫は後期第一相Yervoy併用試験と第二相単剤投与試験のORRが明らかになった。前者は治療未経験者と経験者が対象で、ORRは43~48%だった。後者は血管新生阻害剤による治療を経験済みの患者168人を組入れた比較的大きな試験で、ORRは20~22%だった。用量は三種類テストしたが用量反応相関は見られなかったようだ。どちらも中々良い。

nivolumabは扁平上皮非小細胞性肺癌の第二相単剤投与試験のデータに基づいてローリング承認申請される見込みだが、PD-L1陽性以外には効かないとなると、薬効を評価する上でPD-L1陽性例のサンプル数不足や、検査方法の妥当性・信頼性がボトルネックになるかもしれない。

様々な用途で第三相試験中なので、整理しておこう。非小細胞性肺癌の第三相は今のところ単剤投与だけで、扁平上皮腫とそれ以外の二次治療試験が進行中。前者は16年、後者は15年夏ごろに結果が判明するのではないか。どちらもdocetaxel併用試験なのでハードルは低くない。ここでも、PD-L1陽性癌だけの解析でも十分な検出力を持っているかどうかがポイントになりそうだ。一次治療試験と安全性試験(投与を1年で止める群と不応不適になるまで続ける群を設定)も今年、始まった。

悪性黒色腫ではYervoy経験者を対象とした単剤投与試験が15年下期に、一次治療試験は単剤投与試験が15年下期、Yervoy併用試験は16~17年頃に、結果が出るのではないか。腎細胞腫(血管新生阻害剤経験者)と扁平上皮頭頸部癌(白金薬経験者)は16年になりそうだ。

nivolumabは日本では小野薬品が昨年12月に第二相悪性黒色腫試験の結果に基づいて承認申請済み。

リンク:BMSのプレスリリース(非小細胞性肺癌)

リンク:ASCO抄録(非小細胞性肺癌単剤投与)

リンク:ASCO抄録(同、Yervoy併用)

リンク:BMSのプレスリリース(腎細胞腫)

リンク:ASCO抄録(腎細胞腫単剤投与)

リンク:ASCO抄録(同、Yervoy併用)

ASCO:イーライリリーのnecitumumabの効果は限定的

(2014年5月14日発表)

イーライリリーは、ASCOで発表されるnecitumumabの第三相試験の結果概要を発表した。イムクローン買収で入手した抗EGFR抗体で、第三相は扁平上皮非小細胞性肺癌とそれ以外の非小細胞性肺癌の二本の一次治療試験が行われ、後者は中止、前者は成功したことが既に発表されていた。

扁平上皮とそれ以外を分けるのは標準療法が異なるからだ。扁平上皮以外の試験はイーライリリーのAlimtaとcisplatinの併用群と更にnecitumumabを併用する群を比較したが、中間解析で血栓性疾患のリスクが見られ、効果も不十分であったため中止された。扁平上皮の試験はgemcitabineとcisplatinを併用する欧州的な標準療法と三剤併用を比較したところ、メジアン生存期間が9.9ヶ月と11.5ヶ月、ハザードレシオ0.84、p=0.012となった。

p値が0.05未満なので統計的には有意だが、それほど良い数値ではなく、再現性が確認されていない点も弱い。ORRは有意差なし、PFSはp=0.02で有意だがメジアン値の差は0.2ヶ月に過ぎないので、効果のほど満足できるものではない。扁平上皮非小細胞性肺癌に有効な薬は限られているので効果が小さくても価値があるのかもしれないが...

イムクローンは抗EGFRキメラ抗体Erbitux(和名エルビタックス、cetuximab)を結腸直腸癌や扁平上皮頭頸部癌に開発、米国ではBMS、欧州などではドイツのメルクと共同販売している。非小細胞性肺癌で複数の第三相試験が実施されたが結果は区々で、米国でも欧州でも承認されなかった。Dyaxのファージディスプレイ・ライブラリーを利用して開発されたnecitumumabが肺癌で承認されれば共存できることになるが、可能性は高くないのではないだろうか。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

リンク:ASCO抄録

ASCO:武田のTAK-700は二本とも第三相フェール

(2014年5月16日発表)

武田薬品は非ステロイド系17.20-リアーゼ阻害剤のTAK-700(orteronel)で二本の第三相去勢抵抗性前立腺癌試験を行った。化学療法経験者のポスト・キモ試験は昨年、中間解析で打ち切られたが、経験前のプリ・キモ試験もフェールしたことが発表された。どちらも放射線学的PFSでは有意差があったが、全生存期間の解析はフェール。残念な結果になった。

ASCOでポスター発表だけが行われるポスト・キモ試験の地域別解析の抄録を読むと、欧州の施設では延命効果が見られなかったが、米国は症例数がもっとあれば有意差が出たかもしれず、それ以外の地域ではp=0.019なので決して悪くは無かった。これが実力なのか、ノイズなのか、興味のあるところだ。TAK-700はSWOGが新患の第三相アンドロゲン枯渇療法併用試験を実施しているようなので、この結果が出れば話が変わるかもしれないが、この分野は続々と新薬が登場しているので、被験者候補が他の試験に行ってしまうかもしれない。

リンク:
武田のプレスリリース(和文、pdfファイル)


リンク:ASCO抄録(プリ・キモ)

リンク:ASCO抄録(ポスト・キモ地域別解析)

ファイザー、CDK4/6阻害剤を承認申請へ

(2014年5月16日発表)

ファイザーはCDK4/6阻害剤PD-0332991(palbociclib)を米国で承認申請することを発表した。第1/2相試験のデータに基づくもので、FDAとの相談で感触が良かったのだろう。

CDK4/6はサイクリン4とサイクリン6を阻害して細胞周期がG1期からS期に進行するのを阻害する。この第1/2相試験の第2相ポーションでは、局所進行性/転移性乳癌でエストロゲン受容体陽性且つher2陰性の閉経後患者を対象に、Femara(letrozole)だけを投与する群とpalbociclibを併用する群を比較した。

ORRは各31%と45%、PFS(無増悪生存期間)はメジアン7.5ヶ月と26.1ヶ月でハザードレシオ0.37、p値は0.001未満と大変良い結果になった。全生存期間はメジアン33.3ヶ月と37.5ヶ月、ハザードレシオ0.813だったが、検出力不足でまだ有意差は出ていない(p=0.2105)。この成績に基づいてFDAのブレークスルーセラピー指定を受けている。

同じ内容の第三相試験と、fulvestrant併用で二次治療試験も進行中。経口剤なので早期乳癌切除術後のアジュバント療法にも適していそうだ。

リンク:ファイザーのプレスリリース

イーライリリー、LY2605541がランタスに勝った

(2014年5月12日発表)

イーライリリーは、Humalog(insulin lispro)の活性成分をPEG化したLY2605541(peglispro)を食事時インスリンではなく基礎インスリンとして開発しているが、二型糖尿病の第三相試験三本が成功したと発表した。

夫々、インスリン未経験者、基礎インスリン使用者、基礎インスリンと食事時インスリンの両方使用者を組入れて血糖管理をサノフィのLantus(insulin glargine)と比較したところ、非劣性であることが確認された。優越性解析も成功したので、Lantusに勝ったことになる。

有害事象は、夜間の低血糖や体重増加は有意に少なかった。脂質影響は若干大きいようだが、二型糖尿病試験の心血管メタアナリシスで95%上限が1.8を下回った(FDAが承認前に心血管アウトカム試験を実施するよう求める可能性は低いことを意味する)。ALT上昇例がLantus群より多かったが、Hyの法則該当例は無かった(総ビリルビン上昇を伴うなどの条件を満たす症例が発生した場合、FDAが承認しないリスクが高まる)。

インスリンの長所は効果が青天井であることなので、実薬対照試験で有意な差が出るのは違和感がある。夜間低血糖が少ない分、高量を投与できたのかもしれないが、併用薬の強度の違いなど、ノイズが発生した可能性もある。データは未発表なので、臨床的に重要な差ではない可能性も残っている。

イーライリリーは、一型糖尿病試験の結果を待って15年に承認申請する予定。

イーライリリーはベーリンガー・インゲルハイム(BI)と糖尿病分野で共同開発販売提携しているが、LY2605541はBIが権利を返還した。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

GSK、Lp-PLA2阻害剤は二本目の第三相もフェール

(2014年5月13日発表)

グラクソ・スミスクラインは、Tyrisa(GSK480848、darapladib)の第三相急性冠症候群試験がフェールしたことを発表した。冠状心疾患安定期の患者を組入れた試験も昨年、フェールしており、おそらく開発中止になるだろう。

今回のSOLID-TIMI 52試験は、もう一本の試験で脳卒中を防ぐ効果が見られなかったため、主評価項目から脳卒中を除外して冠状心疾患死、非致死的心筋梗塞、そして緊急冠血行再建術だけをカウントしたが、駄目だった。結局、安定期試験で脳卒中以外は良い結果が出たのはノイズだったのだろう。ポストホック・サブセグメント分析は当てにならない。

リンク:GSKのプレスリリース

【承認申請】


Kythera、二重顎治療薬を米国で承認申請

(2014年5月12日発表)

Kythera(Nasdaq:KYTH)は、ATX-101(deoxycholic acid)を米国でおとがい(頤)下脂肪治療薬として承認申請したと発表した。天然の脂肪分解物質であるデオキスコール酸の類縁体で、二重顎の原因になるおとがい下脂肪領域に月一回、最大で4回、注射する。第三相試験二本では、奏効率が67~70%と偽薬群の18~22%を有意に上回った。

バイエルの皮膚科用薬子会社が10年に欧州などの権利をライセンスしたが、14年に返還を受けた。

リンク:Kytheraのプレスリリース

【承認審査・委員会】


ノバルティス、serelaxinは承認されず

(2014年5月16日発表)

ノバルティスはserelaxinを急性非代償性心不全の治療薬として承認申請していたが、FDAから審査完了通知を受領したと発表した。第三相試験のデザインや結果が不適切で薬効のエビデンスとしては不十分と判定されたようだ。3月の諮問委員会で11人の委員全員が承認に反対したことや、欧州もCHMPが否定的意見を纏めたことを考えれば、予想された結果だ。追加試験が進行中なので、来年以降に結果が出るのを待つことになりそうだ。

serelaxinは遺伝子組換え型ヒトrelaxin-2。第三相試験の結果が学会発表された時は、急性心不全領域で久々の快挙と歓迎されたが、実際の効果はヘッドライン・データほど良くは無かったようだ。薬効判定方法や解析方法の妥当性は何十万頁という承認申請資料を読む承認審査機関にしか分からないので、こんなことも起きる。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

【承認】


JNJ、ソブリアードがEUでも承認

(2014年5月16日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、Olysio(simeprevir、和名ソブリアード)がEUでも1型と4型の慢性C型肝炎治療薬として承認されたと発表した。Medivirからライセンスしたプロテアーゼ阻害剤で、HIVに感染していない患者には、先に承認されたギリアッドのsofosbuvirと併用(ribavirinと三剤併用も可)で12週間、経口投与するだけで足りる。

HIVと共感染している患者は、PEG化インターフェロンとribavirinの三剤併用で24週間投与、但し、一次治療で一度も奏功しなかった患者の二次治療に用いる時は48週間投与する。

Olysioは昨年9月に日本で、11月には米国で、承認された。他のプロテアーゼ阻害剤と異なり一日一回服用であることが長所だが、NS3プロテアーゼのQ80K置換型には効果が弱い。米国の1a型ウイルスではしばしば見られる変異のようだが、欧州や日本ではどうなのだろうか。

リンク:JNJのプレスリリース

今週は以上です。

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2014年5月11日

海外医薬ニュース2014年5月11日号


【ニュース・ヘッドライン】




  • MSDの抗PD-1抗体、FDA審査結果は10月までに
  • アッヴィ、抗HCV薬をEUでも承認申請
  • FDAがMSDのPAR-1阻害剤を承認
  • アストラゼネカ、EPA・DHA製剤が米国で承認
  • GSK、LAMA・LABA合剤がEUでも承認


【承認申請】


MSDの抗PD-1抗体、FDA審査結果は10月までに

(2014年5月6日発表)

MSDは、FDAがMK-3475(lambrolizumab)の承認審査を受理し優先審査指定したと発表した。審査期限は10月28日。ローリング承認申請を始めてから4ヶ月経つので期限前に承認される可能性もありそうだ。

MK-3475は抗PD-1ヒト化抗体で、活性化Tセルなどで発現する表面分子のPD-1をブロックし、癌細胞などが発現するPD-L1などがPD-1に抑制的刺激を送り込むのを妨げる。通常の抗体医薬と異なりIgG4型の免疫グロブリン固定領域を用いているので、Tセルに対する免疫を誘導しない。今回、承認申請された用途は、切除不能または転移性の黒色腫で既にBMSのYervoy(ipilimumab)による治療を受けた患者。

同様な作用機序ではBMS/小野薬品のnivolumabとロシュの抗PD-L1ヒト化抗体RG7446が第三相段階、そしてアストラゼネカもMEDI4736で第三相を開始し、競争が激化している。nivolumabが先行していたはずだが、MSDに追い抜かれてしまった。開発力の差なのだろう。MSDは臨床開発を前倒し、前倒しで進めることで、スピードアップを図っている。予算も前倒しになるので失敗した時の損失が膨らむが、新薬開発は元々リスキーなものであり、ビッグファーマの潤沢な資金力を生かす最良の戦術だ。

具体的に何が違うのか?後期第一相でありながら被験者数が多いことが目に付くが、最近の抗癌剤は皆、そうである。残念ながら、MSDの強みは私たちが気付かないところにある。過去の例では、MSDは杏林から導入したPPAR作動剤の長期動物安全性試験を行い、開発中止を決定した。その後、FDAはPPAR作動剤を開発する全ての会社に長期動物安全性試験の実施を要請。数年後には、承認されているPPAR作動剤の安全性についても鋭く切り込んでいった。私はMSDが試験結果をFDAに報告し注意を促したものと推測しているが、証拠はない。

あるいは、NPY Y5受容体拮抗剤。MSDは動物試験、臨床薬物動態試験、受容体占有度確認試験など様々な手法で仮説をひとつずつ確認した上で第二相長期薬効確認試験に進んだが、十分な体重管理効果が見られず、開発中止した。その後、塩野義製薬が同じ作用機序の薬のプルーフ・オブ・コンセプトに成功したが、数年後に開発中止となり、MSDが通った道には何も残っていないことを私は思い知った。

勿論、MSDでも見落としはあるだろう。PD-L1の発現状況と効果の間に相関性は無いのか、あるいは、深刻な免疫性副作用は起きないのか、気になるところだ。nivolumabの承認申請が遅れたのは何らかの安全性問題が発生したことが問題かもしれず、MSDが先駆けたのは偶々、臨床試験で同じ有害事象が発生しなかったことが原因かもしれない。いかなMSDと言えどもBMSの治験データは把握していないだろうし、一方、FDAは知っているだろうから、審査の過程で関連する有害事象例を徹底的に調べるかもしれない。

最後に笑うのは誰か、10月に答えが出る。

リンク:MSDのプレスリリース

アッヴィ、抗HCV薬をEUでも承認申請

(2014年5月8日発表)

アッヴィ(NYSE:ABBV)は、ABT-450などの開発品3品を慢性C型肝炎治療薬としてEUで承認申請したと発表した。米国でも4月に申請済み。ABT-450(プロテアーゼ阻害剤)とritonavirの合剤、ABT-267(ombitasvir、NS5A阻害剤)、ABT-333(dasabuvir、非核酸系ポリメラーゼ阻害剤)の3品で、全て経口剤。臨床試験ではribavirinを併用する群も設定された。奏効率は大差ないので副作用を減らすために併用しない方が良いように思っていたが、4品併用のほうが良い場合もあるようだ。

リンク:アッヴィのプレスリリース

【承認】


FDAがMSDのPAR-1阻害剤を承認

(2014年5月8日発表)

FDAは、MSDのZontivity(vorapaxar)を心筋梗塞歴を持つ、または、末梢動脈疾患を持つ患者の心筋梗塞、脳卒中、心血管死のリスクを削減する薬として承認した。今年最大のサプライズだ。普通なら通らないであろう牌が通ってしまったのは、これもMSDの開発力の高さを示すエピソードなのだろう。

Zontivityは同社が買収したシェリング・プラウが開発したPAR-1阻害剤で、トロンビンが血小板の凝集を促進するのを妨げる、Plavix(clopidogrel)やアスピリンとは異なった作用機序の抗血小板薬。他の薬と同様に出血リスクが高まり、第三相試験の一本(非ST上昇型急性冠症候群が対象)は頭蓋内出血など深刻な出血自己が原因で中止された。

脳卒中やTIA(一時的脳虚血発作)歴を持つ患者で特にリスクが高かったため、もう一本の試験(心筋梗塞安定期、末梢動脈疾患、脳梗塞が対象)は該当する患者を除外して続行したところ、3年間の心筋梗塞・脳卒中・心血管死の発生率が7.9%と偽薬群の9.5%より有意に小さかった。NNT(一人を救うために必要な投与患者数)は62なので、効果は顕著に高い訳ではない。

Plavixなどと同様に、出血リスクが枠付警告された。医師は患者に出血リスクを伝え、異常な出血時には相談するよう伝えなければならない。

MSDのホームページをチェックしたが、まだプレスリリースは出ていないようだ。重要なプロジェクトとは考えていないのかもしれない。

リンク:
FDAのプレスリリース


アストラゼネカ、EPA・DHA製剤が米国で承認

(2014年5月6日発表)

アストラゼネカはEpanova(omega-3-carboxylic acids)が米国で重度トリグリセリド血症の治療薬として承認されたと発表した。魚由来の高純度EPA/DHA製剤で、一日一回、2カプセルまたは4カプセルを服用する。

トリグリセリド値が500mg/dL以上の患者が適応になるが、同社は混合異脂血症に適応拡大してCrestor(rosuvastatin)配合剤を開発・発売する計画。TG値が200~500mg/dLでLDL-C値が100mg/dL未満のスタチン服用者(LDL-Cを十二分に管理できている患者)を対象に心血管アウトカム試験をロンチしたが、結果が出るのは4年後の見込みなので、承認申請の段階ではTG低下効果だけをアピールするのだろう。

Epanovaは昨年買収したOmthera社の開発品。遊離脂肪酸なので酵素による代謝を必要とせずに腸で吸収されるため、生物学的利用率が良いとのことだ。

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

GSK、LAMA・LABA合剤がEUでも承認

(2014年5月8日発表)

グラクソ・スミスクラインは、AnoroがEUでCOPD維持療法薬として承認されたと発表した。長期作用性ムスカリン阻害剤(LAMA)のumeclidiniumと長期作用性ベータ2作用剤(LABA)の合剤で、Ellipta吸入器で一日一回、吸入する。

GSKはテラバンスと呼吸器用薬の共同開発を行っており、両成分は何れもGSK側のパイプラインだが、テラバンスは達成報奨金を払って売上ロイヤルティをもらうことができる。達成報奨金は昨年12月に米国で承認された時に3000万ドル、ロンチ時にも3000万ドル、今回は1500万ドル、発売時に更に1500万ドルとなっている。

リンク:GSKのプレスリリース

今週は以上です。

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2014年5月4日

海外医薬ニュース2014年5月4日号


【ニュース・ヘッドライン】




  • ヴァーテックスがC型肝炎治療薬の開発を中止
  • イリノテカン新製剤の第三相試験が成功
  • BMS、年内にnivolumabの承認申請を開始へ
  • cangrelorは承認されず
  • エンドサイト/MSDの新薬、EU承認を前に黄信号
  • FDA諮問委員会はシングレアのOTCスイッチに反対
  • ノバルティス、ALK阻害剤が米国で承認
  • GSK、Incruseが欧米で承認
  • 大塚の抗結核薬がEUで承認


【今週の話題】


ヴァーテックスがC型肝炎治療薬の開発を中止

(2014年5月1日発表)

ヴァーテックス(Nasdaq:VRTX)は2014年第1四半期決算発表に合わせて、Alios BioPharmaからライセンスしたNS5Bポリメラーゼ阻害剤のALS-2200//VX-135をアウトライセンスする考えであることを明らかにした。プロテアーゼ阻害剤Incivek(telaprevir、和名テラビック)を開発した実績を持ち他にも複数のパイプラインを持っている同社の方針転換は、開発・販売競争の激化を示している。

Incivekは米国で2011年に発売。売上高は同年に9.5億ドル、12年には11.6億ドルに達したが、13年は4.6億ドルと半減、今第1四半期は300万ドル、前年同期比98%減少した。昨年4月にギリアッドのポリメラーゼ阻害剤Sovaldi(sofosbuvir)が承認申請され、承認されるまで治療を待つ動きが広がったためである。米国外では日本は田辺三菱製薬、欧州などではジョンソン・エンド・ジョンソンが販売しているが、後者のロイヤルティ権は売却してしまったので、今年以降は入らない。

一方、Kalydeco(ivacaftor)を筆頭とする膿胞性繊維症治療薬は同社の独壇場となっており、作用の異なる複数のコンパウンドが単剤、Kalydeco併用で開発に拍車がかかっている。競合が少なく同社に対する患者の期待も大きい分野に研究開発リソースを集中投入するのは自然な成り行きだろう。

リンク:ヴァーテックスの決算発表プレスリリース

【新薬開発】


イリノテカン新製剤の第三相試験が成功

(2014年5月1日発表)

Merrimack Pharmaceuticals(Nasdaq:MACK)は、MM-398の第三相膵癌二次治療試験が成功したと発表した。年内に米国で承認申請する予定。MM-398はirinotecannをナノパーティクル化してリポゾームに封入した、ドキシルのような製剤だ。

この試験では、gemcitabineベースのレジメン後の二次治療として5-FU及びleucovorinと併用したところ、メジアン生存期間が6.1ヶ月と5-FU/Lだけの群の4.2ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.67、p=0.012となった。メジアン値の差は小さくp値もそれほど低くはないが、ハザードレシオは良い。尚、この試験は元々は単剤投与試験で併用群は途中で追加されたのだが、単剤投与群の方が効果が無く、投与量が80mg/m2(二週間に一回投与)ではなく120mg/m2(三週間に一回投与)であるせいか、有害事象の程度が併用群と比べても重かったようだ。

MM-398は台湾のPharmaEngine社からライセンスしたもの。不思議なのは、Merrimackのプレスリリースでは台湾以外の全世界の開発販売権を持つと記されているが、PharmaEngineのリリースには2011年にアジアと欧州の権利を供与したことしか記されていないことだ。Merrimackの10-K(年次報告書)によれば09年のHermes BioSciences買収で米国権も入手したとのことだが、見解の相違があるのかもしれない。

リンク:Merrimackのプレスリリース

リンク:PharmaEngineのプレスリリース(pdfファイル)

BMS、年内にnivolumabの承認申請を開始へ

(2014年4月29日発表)

ブリストル・マイヤーズ・スクイブは、2014年第1四半期の決算発表に合わせて、BMS-936558/ONO-4538(nivolumab)を扁平上皮性非小細胞性肺癌のサルベージ治療用薬として年内に米国でローリング承認申請を開始する予定であることを明らかにした。第二相試験のデータに基づくもので、結果をFDAに見せて相談した上で申請を決定した模様。

ローリング承認申請は承認申請に必要な三種類の資料のうち、出来上がったものから逐次提出して承認審査を受けるもので、例えば品質検査手法の妥当性検証が未了でも、治験報告が完成していれば着手することができる。第二相のデータがあるなら年内と言わずにもっと早い段階で申請開始できそうなものだ。何か公表されていないボトルネックがあるのかもしれない。

nivolumabは小野薬品との共同研究から生まれた抗PD-1完全ヒト化抗体。悪性黒色腫を始め様々な癌向けに大型化が期待されているが、MSDが類薬のローリング承認申請を既に開始している。それだけに、今回のBMSの発表は投資家にネガティブに受け止められた。

リンク:BMSのプレスリリース

【承認審査・委員会】


cangrelorは承認されず

(2014年4月30日発表)

メディスンズ・カンパニー(Nasdaq:MDCO)は点滴用P2Y12阻害剤cangrelorをPCI補助療法として承認申請したが、FDAから審査完了通知を受領した。CHAMPION PHOENIX試験で48時間虚血性イベントを有意に減らしたが、FDAは治験のデザインや実施内容、データ管理、フェールしたCHAMPION試験で用いられた製剤との生物学的同等性などに関して、エビデンスが不十分と判定した模様だ。2月の諮問委員会で反対が多数を占めたことを考えれば、驚きではない。

尚、Plavix(clopidogrel)を服用している患者が手術を受けるために休薬しなければならない時にclopidogrelで代用する手法も承認申請されたが、エビデンスが不十分であるため、承認されなかった。

リンク:メディスンズ・カンパニーのプレスリリース

エンドサイト/MSDの新薬、EU承認を前に黄信号

(2014年5月2日発表)

エンドサイト(Nasdaq:ECYT)と開発販売パートナーのMSDは、Vynfinit(vintafolide)の第三相試験が中間解析で無益判定されたことを明らかにした。3月にEUのCHMPが条件付き承認に肯定的評価を出したばかりだが、承認に黄信号が点った。

VynfinitはビタミンB9とアルカロイド系細胞毒を結合したもので、前者が腫瘍細胞の葉酸受容体に結合し、後者が腫瘍細胞選択的に攻撃する。葉酸受容体陽性のプラチナ抵抗性卵巣癌にDoxil(doxorubicin)と併用する効果を検討した後期第二相試験で、全標的病変が葉酸受容体陽性だった患者(全体の約4割)のPFS(無増悪生存期間)がメジアン5.5ヶ月とDoxilだけの群の1.5ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.38、p=0.018と良い結果になった。

しかし、全生存期間の解析はフェールし、また、Doxilの投与量に群間の偏りがあるなど、はっきりしない点もあった。そもそも、このサブグループ分析の信頼性は高そうには見えない。十分なサンプルサイズを持つ前向き試験で確認すべきではないかと私は思っていたので、CHMPが肯定的意見を出したのは意外だった。

今回、事前に定められたプロトコルに則って第三相薬効確認試験の中間解析を行ったところ、続行しても成功する見込みは極めて小さいことが判明した。対象疾患も、用法も、評価項目も同じなので、結局、後期第二相試験のPFSデータがノイズに過ぎなかった可能性が高い。

バイオマーカーを用いて抗癌剤の応答性を予測する研究は活発なので、今回と同様なケースは今後も発生するだろう。CHMPは事後的分析のデータを受け入れることがしばしばあるが、FDAは十分な検出力を持つ前向き試験を行って確認することを求めることが多い。CHMPも今回のような経験を経て、考え方を変えるのではないだろうか。

リンク:両社のプレスリリース

FDA諮問委員会はシングレアのOTCスイッチに反対

(2014年5月2日開催)

FDAの非処方薬諮問委員会は、MSDが申請していたSingulair(montelukast)のRx-OTCスイッチを検討し、15人の委員中11人が承認に反対した。適応は成人のアレルギー性鼻炎だけで、処方薬の適応である喘息症や通年性アレルギー性鼻炎、幼小児アレルギー性鼻炎は対象外だが、諮問委員はこれらの患者が使ってしまうリスクや、近年注目されている精神学的有害事象リスクを懸念した模様だ。

この精神学的有害事象はリューコトリエン阻害剤のクラス・イフェクトと考えられていて、市販後有害事象報告の分析に基づいて09年に処方薬のレーベルが改定、事前注意事項として記載された。具体的には自殺思慮・行動、鬱病、不安症、振戦などで、薬物関連疑い例もあった模様だ。

【承認】


ノバルティス、ALK阻害剤が米国で承認

(2014年4月29日発表)

ノバルティスは、FDAがZykadia(ceritinib)を承認したと発表した。変異ALK陽性の非小細胞性肺癌で、ファイザーのALKALK阻害剤であるXalkori(crizotinib)に不応・不耐の患者に用いる。承認申請の根拠となった第二相試験では、反応率54%、反応持続期間はメジアン7.4ヶ月だった。一次治療試験も進行中。

ZykadiaはALK阻害剤で、染色体転座などにより活性が極めて高くなったALKを阻害、腫瘍の成長を妨げる。非小細胞性肺癌は肺癌の8~9割を占め、ALK陽性はその2~7%に過ぎない。ヒット率がこんなに低いと保険組織に検査しても無駄と言われかねないが、非小細胞性肺癌の分子標的薬はEGFRやkrasの変異状況に応じて薬を使い分ける時代になったことが追い風だ。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

GSK、Incruseが欧米で承認

(2014年4月28日発表)

GSKは、Incruse(umeclidinium)がCOPDの維持療法薬として欧米で承認されたと発表した。吸入用長期作用性ムスカリン拮抗剤(LAMA)で、Ellipta吸入器を用いている。

同種の薬ではベーリンガー・インゲルハイムのSpiriva(tiotropium)が大成功しているが、今回の承認内容を見ると、注意すべき点も多いことが分かる。LAMAは不整脈のリスクがあり、Incruseの試験では重度心血管疾患を持つ患者は除外された。尿滞留や狭角緑内障の患者は病状が悪化する可能性があるので要注意。気管支拡張剤は逆に気管支収縮が発生することがあるので、発作が重かったり悪化している時は使うべきではない。Incruseはミルク蛋白に過敏反応を持つ患者は禁忌。

リンク:EU承認のプレスリリース(4/28付)

リンク:米国承認のプレスリリース(4/30付)

大塚の抗結核薬がEUで承認

(2014年4月30日発表)

大塚製薬は、Deltyba(delamanid)がEUで条件付き承認されたと発表した。既存薬に不応・不耐の多剤抵抗性肺結核の治療に用いる。細胞壁のミコール酸を標的とする新しいタイプの抗菌剤で、第二相試験のデザインがあまりキチンとしてなかったためCHMPは当初、否定的意見を出したが、その後、肯定的意見に転じた。第三相試験の結果は2016年の見込みで、成功なら本承認に切り替わることになる。

リンク:大塚製薬のプレスリリース(和文)

今週は以上です。

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