2014年4月27日

海外医薬ニュース2014年4月27日号

【ニュース・ヘッドライン】




  • GSKとノバルティスがアセットスワップ
  • ワーファリンの遺伝子検査は不要?
  • ALSの臨床試験がまたフェール
  • アッヴィがC型肝炎の多剤併用療法を承認申請
  • キュービストが複合セファロスポリンを承認申請
  • CHMPがグラクソの抗癌剤などの承認を支持
  • FDAがイーライリリーの抗癌剤を承認
  • JNJの抗IL6抗体がキャッスルマン病に承認


【今週の話題】


GSKとノバルティスがアセットスワップ

(2014年4月22日発表)

グラクソ・スミスクラインとノバルティスは、グラクソがノバルティスに腫瘍学製品を145億ドル+達成報奨金15億ドルで売却し、ノバルティスはワクチン事業(インフルエンザ関連を除く)を52.5億ドル+達成報奨金18億ドル+売上ロイヤルティで売却、更に、両社のOTC事業をグラクソが63.5%保有する合弁会社化することで合意した。伸び悩んでいる事業を売却し得意分野を増強する。

ノバルティスはサンドとチバガイギーが95年に合併して以来、トップに君臨したダニエル・バゼラが退任し、新経営陣の下、事業領域の見直しを進めている。バゼラは医師出身で医療に必要なもの、社会的責任を果たすために必要な事業は網羅するという志から、呼吸器疾患やウイルス病、ワクチン事業などに積極的に取り組んできたが、カイロン社を買収して本格参入したワクチン事業は未だ大きな成果を上げていない。

グラクソは元々は吸入用薬や抗ウイルス薬など特殊医薬品を志向しニッチ分野で高いシェアを取る戦略だったが、歯磨きやスポーツ飲料、OTC薬など幅広い事業分野を持っていたスミスクラインと合併して以来、多角化経営を受け入れるようになった。新薬開発では高リスク高リターンのプロジェクトと低リスク低リターン・プロジェクトを組み合わせるポートフォリオ戦略を採用したが、前者は殆どがフェールし、二番煎じ、三番煎じの新薬を数多く発売する結果になった。

腫瘍学は殆どの大手製薬会社が最も重視する領域の一つで、研究が進み新薬開発のタネが数多く発見されている。価格が高く利益率が著しく高い。手放すのはもったいないようにも見えるが、グラクソは一部の製品を除けば先行品との差別化ができないものばかりなので拘る必要はないと判断したのだろう。新薬発売が活発な分、併用試験の費用もかさむ。研究開発は続けるので将来、本格復帰するかもしれないが、よほどの大型薬が登場しない限り、オプト・イン権を持つノバルティスに販売を委ね、研究開発も徐々に縮小するのではないか。

丁度、アストラゼネカが抗PD-L1モノクローナル抗体のMEDI4736で扁平上皮非小細胞性肺癌の第三相試験を開始したことを発表した。BMSが先鞭を付けた抗PD-1抗体ではMSDが一足先にローリング承認申請を開始し、受容体ではなくレガンドに結合する抗PD-L1抗体でも競争が激化してきた。アストラゼネカのように、先行する企業の治験成績と自社開発品の後期第一相試験の成績をブリッジングして一気に第三相に進む手法が一般化しており、腫瘍学でもパイオニアの先行利潤が小さくなってきているので、グラクソの決断も一理ある。

グラクソは売却資金を原資に40億ポンド(67億ドル)程度を自己株買いの形で株主に還元する。ノバルティスは動物薬事業をイーライリリーに54億ドルで売却することも決め、インフルエンザワクチン事業も独占禁止法上の問題が発生しない会社に売却するだろうから、資金支出は数十億ドル程度に留まることになる。

他社が動物薬や医療機器事業をスピンアウト・売却するのを静観していたノバルティスとグラクソがアセットスワップに乗り出したことで、大きな流れが固まった。次は、選択し集中する事業分野でどんな手を打つかだ。ファイザーがアストラゼネカに買収を打診した旨、報じられているが、本当にそれが次の一手になると考えているのか、事態の進展が注目される。

リンク:グラクソのプレスリリース

リンク:ノバルティスのプレスリリース

ワーファリンの遺伝子検査は不要?

日本トリムの米国子会社が、ワーファリンの遺伝子検査の販売に苦戦しているようだ。無理もない。2013年のAHA米国心臓協会科学部会で発表された三本の前向き試験によれば、年齢や体重などの臨床的要素と遺伝子検査に基づいて治療開始時の用量を決定する手法は、何も考えずに決まった用量を投与するよりは優れているが、臨床的要素だけに基づいて決定する手法とは大差ない。費用と時間を掛けて遺伝子検査をしても、あまり価値が無いことになる。

数年前にMedicine Blogでプラビックス(clopidogrel)とCYP2C19多型との関連について取り上げたことがある。重要な学会・論文発表がある度にアップデートしたが、結局、明確な答えが得られないまま、議論や研究が下火になってしまった。プラビックスにせよ、ワーファリンにせよ、効果や副作用が代謝酵素の多型と関連しないはずはないのだが、個人差に関連する未知なものを含めた様々な要素の一つに過ぎず、医療において決定的に重要な要素ではないということなのだろう。

一円を笑う者は一円に泣くが、100円の飲料が101円になったからと言って一々気にはしていられない。但し、100万円が102万円になるのは話が少し違う。それでは、1000円が1020円の場合はどうか?結局、程度問題なのである。

ワーファリンは個人差が大きく、また、食物相互作用もあるので定期的に効き具合を検査して用量を変える必要がある。効きすぎると出血リスクが高まり、効かな過ぎると血栓性疾患のリスクが高まるからだ。治療開始当初は手探りになるので、結果的に過剰投与、過少投与のリスクが高まることになる。薬品の副作用による入院として一番多いのはアセトアミノフェンとワーファリンと言われており、有益な薬で服用患者が多いだけに、重要な課題になっている。

米国のワーファリンのレーベルによると、ワーファリンはS異性体とR異性体のラセミ体で、S異性体の方が抗凝固作用が2~5倍高い。S異性体を代謝する酵素の一つであるCYP2C9には多型があり、2型(アレル頻度はカフカス人の11%)や3型(7%)などを持つ人は1型だけを持つ人よりも代謝に時間が掛かる。また、ワーファリンの標的である蛋白複合体のVKORC1遺伝子の1636G>Aアレルを持つ人は、少ない用量で足りる可能性がある。

興味深いのは、FDAが、事前検査を義務付けも推奨もしていないことだ。遺伝子検査を行う場合と、行わない場合の夫々の用量決定方法を併記している。遺伝子検査のエビデンスがメタアナリシスだけなので、前向き臨床試験の結果が出るまでは医師の判断に委ねる姿勢なのだろう。

13年11月にAHA科学部会のレートブレーカーで発表され、New England Journal of Medicine誌に刊行された前向き試験三本の結果は意外なものだった。米国で実施されたCOAG試験と欧州で実施されたEU-PACT試験二本で、何れも、ワーファリン(一本はワーファリン誘導体)による治療を初めて受ける患者を対象に、臨床要素と遺伝子要素を考慮して開始用量を決定する群と臨床要素だけの群(EU-PACT試験の一本は年齢以外の臨床要素も配慮せず決まった用量で開始する群)のPTTRを比較した。

PTTRは、ワーファリンの効果の指標であるINRが望ましいレンジの中に納まっていた時間の比率を示す。高ければ高いほど、期中の過剰・過少服用リスクが小さかったことになる。

結果は、COAG試験では両群のPTTRに有意差は無かった。INRが10を超えたり、大出血を起こした患者の比率も大差なかった。但し、アフリカ系アメリカ人に関しては遺伝子検査を行った群の方が悪かった。EU-PACT試験では、臨床要素を配慮さえすれば遺伝子検査はやってもやらなくても大差ない、臨床要素を配慮しないのは不味い、という結果になった。

この三本の試験のデザインは十分ではない。PTTRは重要だが、本当に重要なのは大出血や脳梗塞のリスクであり、それを調べるには遥かに大規模な試験が必要だろう。それでも、複数の試験で同じような結果が出たことは重視せざるを得ない。ワーファリン治療を開始する前に遺伝子検査を行っても、手間や費用に見合った便益は得られないと考えざるを得ない。

リンク:米国のワーファリンのレーベル

リンク:2013年AHA科学部会のプレゼンスライド・アーカイブ(要登録)

リンク:COAG試験論文抄録(NEJM)

リンク:同、EU-PACT試験

リンク:同、EU-PACT固定用量対照試験

【新薬開発】


ALSの臨床試験がまたフェール

(2014年4月25日発表)

サイトキネティクス(Nasdaq:CYTK)は、tirasemtivの後期第二相ALS(筋萎縮性側索硬化症)試験がフェールしたと発表した。ALSの臨床試験は殆どがフェールしており、一層の研究が望まれる。

同社によるとtirasemtivはカルシウム感受性を増強して筋骨格のトロポリン複合体を活性化する。前臨床や臨床初期試験で筋力を増強し疲労を緩和する作用が見られたようだ。今回の試験ではALSFRS-Rという機能評価スケールの変化を偽薬群と比較したが、平均で2.98ポイント低下と偽薬群の2.40ポイント低下と大差なかった(p=0.11)。呼吸機能など二次的評価項目の結果は区々だった。詳細は4月29日にAAN米国神経学会で発表される予定。

リンク:サイトキネティクスのプレスリリース

【承認申請】


アッヴィがC型肝炎の多剤併用療法を承認申請

(2014年4月22日発表)

アッヴィ(NYSE:ABBV)は、ABT-450などの開発品3品を慢性C型肝炎治療薬として承認申請したと発表した。一つはritonavir配合剤で、ribavirinを併用する方法も承認申請した模様なので、薬品数は3~4個だが実質的に4~5剤の併用療法となる。この多剤併用療法はFDAのブレークスルーセラピー指定を受けている。

奏効率は高く、I型感染者の殆どが奏功するが、新薬をふんだんに使うので薬剤費も殆どの患者が青ざめるだろう。ギリアッドのSovaldi(sofosbuvir)は12週間コースで84000ドルという信じられない価格で、14年第1四半期の売上高が23億ドルと、過去の全ての新薬と比べても空前の水準に達した。ファーマセットを110億ドルで買収して入手した薬なので高くしないとペイしないのだろう。

アボットの新薬もABT-450はEnanta社からのライセンス品だが、買収は少なくとも現時点では行っていないので、そこまで高くする必要はないはずだ。奏効率が高いと言っても、既存薬の組み合わせでも一定の患者には効くのだから、あまり高価にすると第二選択レジメンに格下げされかねない。

この3品は、ABT-450というプロテアーゼ阻害剤とritonavirの合剤、ABT-267(ombitasvir)というNS5A阻害剤、ABT-333(dasabuvir)という非核酸系ポリメラーゼ阻害剤で、全て経口剤。臨床試験ではribavirinを併用する群も設定されたが、奏効率は大差ないので、副作用を減らすために併用しない方が良いように見える。他の薬も含めて、全ての薬を併用する必要があるのか、もし一剤をオミットするとしたらどの組み合わせが至適なのか、検討の余地があるように思われる。

リンク:アッヴィのプレスリリース

キュービストが複合セファロスポリンを承認申請

(2014年4月21日発表)

キュービスト(Nasdaq:CBST)は、静注用複合セファロスポリンのCXA-201(ceftolozane/tazobactam)を米国でグラム陰性菌による複雑尿道感染症と複雑腹腔内感染症の治療薬として承認申請したと発表した。臨床試験では、既存の治療法と比べて奏効率が非劣性だった。下期にEUでも承認申請する予定。

ceftolozaneはアステラス製薬の創製で、キュービストは09年にCalixa Therapeuticsを買収して欧米などの権利を取得、13年には全世界での権利に拡大した。緑膿菌に対する活性が既存のセフェム系抗生剤より高い模様。QIDP指定を受けており、承認されたら特許期間が5年間、加算される。

リンク:キュービストのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPがグラクソの抗癌剤などの承認を支持

(2014年4月25日発表)

EUの医薬品科学的評価委員会であるCHMPが4月の会合でグラクソ・スミスクラインのMekinist(trametinib)の承認とバイエルのNexavar(sorafenib)やベーリンガー・インゲルハイムのPradaxa(dabigatran、和名プラザキサ)の適応拡大承認に肯定的評価を出した。順調なら2~3ヶ月内に承認されることになるだろう。

MekinistはMEK1/2阻害剤で、V600変異型の切除不能・転移性黒色腫に用いる。BRAF阻害剤併用は認められなかったが、おそらくエビデンス不足が原因だろう。FDAは1月に併用と合わせて承認したので、EUでもやがて承認されるだろう。MekinistはBRAF阻害剤に反応しない患者の二次治療には効果が弱い模様なので、モノセラピーだけでは出番が限られるのではないか。

日本たばこの創製でGSKは06年にライセンスした。グラクソは腫瘍学製品をノバルティスに売却する予定。

リンク:CHMPのプレスリリース

リンク:GSKのプレスリリース

Nexavarはアムジェンが買収したオニクスとの共同研究から生まれたVEGF受容体阻害剤で、腎細胞腫や肝細胞腫に承認されている。今回は分化甲状腺癌に対する有用性が認められた。進行が早い、局所進行性、あるいは転移性の癌で、放射性ヨウ素による治療に反応しない患者に用いる。VEGF受容体阻害剤が有効な癌だ。

リンク:CHMPのプレスリリース

リンク:バイエルのプレスリリース

Pradaxaは経口直接的トロンビン阻害剤で、心房細動患者の脳梗塞リスク削減や、関節置換術後の深静脈血栓予防に承認されれているが、今回、深静脈血栓の治療と再発予防に用いることが支持された。Xa阻害剤も承認されているものがあるが、Pradaxaの場合は臨床試験のプロトコルに即して、治療開始当初は他の抗凝固剤を用い、6~11日後にスイッチする用法になるのではないか。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

【承認】


FDAがイーライリリーの抗癌剤を承認

(2014年4月21日発表)

FDAは、イーライリリーの抗VEGFR-2完全ヒト化抗体、Cyramza(ramucirumab)を胃癌の二次治療薬として承認した。5-FUまたは白金系の化学療法に反応しない/再発した患者に用いる。致死的な出血のリスクが枠付警告された。

FDAのリリースはpaclitaxel併用試験の成功に言及しているが、今回はモノセラピーだけの承認。審査が間に合わなかったのだろう。モノセラピー試験のメジアン生存期間は5.2ヶ月、偽薬群は3.8ヶ月でハザードレシオ0.776、p=0.0473だった。p値があまりよくないので承認されるかどうか不安に思っていたが、paclitaxel併用試験が各9.6ヶ月、7.3ヶ月、0.807、0.0169という結果になりエビデンスが二本に増えたため承認に繋がったのだろう。

有害事象は高血圧、下痢、頭痛、低ナトリウム血症など。深刻な有害事象は貧血、腸閉塞など。臨床的に重要なもの蛋白尿、胃腸穿孔、点滴関連反応など。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:イーライリリーのプレスリリース

JNJの抗IL6抗体がキャッスルマン病に承認

(2014年4月23日発表)

FDAは、ジョンソン・エンド・ジョンソンのSylvant(siltuximab)を多中心性キャッスルマン病の治療薬として承認したと発表した。キャッスルマン病というと日本では中外製薬のアクテムラを連想するが、SylvantはIL-6受容体ではなくIL-6に結合するキメラモノクローナル抗体。IL-6受容体はIL-6と複合体を形成して血液中にも分布していているので、似たようなものだ。多中心性はキャッスルマン病の特に重い病態で、米国の患者数は1100~1200人と推測されている。

JNJは抗IL-6完全ヒト化抗体のCNTO 136(sirukumab)でリウマチの第三相試験を実施中。他社の開発品も含めて、アクテムラ類似薬の開発が大詰めに入ってきた。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:JNJのプレスリリース

今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


2014年4月20日

海外医薬ニュース2014年4月20日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • FDAが子宮筋腫の腹腔鏡下細切除去術に関して警告
  • 遺伝子組換え型VW因子の第三相試験が成功
  • ILC:INT-747の第三相試験結果
  • MSDの経口減感作療法用薬が米国で承認
  • GSKのGLP-1作用剤が米国でも承認
  • アーゼラをCLL一次治療に使うことが承認
  • Gardasilの割安コースがEUで承認



【今週の話題】


FDAが子宮筋腫の腹腔鏡下細切除去術に関して警告

(2014年4月17日発表)

FDAは、子宮筋腫の治療法の一つである腹腔鏡下電動細切除去術について安全性情報を発出し、施行しないよう促した。未発見の子宮肉腫細胞を切除し腹腔や骨盤に散らばしてしまうリスクがあるからだ。FDAの推定では、筋腫を治療するために子宮・筋腫摘出術を受ける女性の350人に一人の割合で、平滑筋肉腫などの子宮肉腫が発見される。米国では子宮筋腫を治療する目的の子宮摘出術が年間に25~30万件施行されており、うち10%強が腹腔鏡下電動細切除去術。体の負担が小さい好ましい治療法と考えられていただけに、驚きだ。

この問題に関しては複数の研究論文が刊行されており、様々な学会も声明を出している。FDAの警告は遅すぎたと言えるかもしれないが、研究者やメーカーから様々なデータを得ることのできるFDAがこのような結論を出したことは重要だ。FDAは、もし施行する場合は患者にリスクを伝えるよう勧告しており、医療過誤訴訟リスクを考えると励行せざるを得ないだろう。

FDAによると、一部の医療施設・医師は標本袋の中で細切することによって拡散を防ぐ手法を採用している由。言及しているだけなので効果に関する十分なエビデンスは持っていないのだろうが、どうしても施行しなければならない場合はオプションの一つになるかもしれない。

リンク:FDAのプレスリリース(主要学会の声明のリンク有)

【新薬開発】


遺伝子組換え型VW因子の第三相試験が成功

(2014年4月16日発表)

バクスター(NYSE:BAX)は、BAX 111の第三相試験成功を発表した。遺伝子組換え型のフォン・ヴィレブランド因子で、フォン・ヴィレブランド病患者の出血治療に成功した。

フォン・ヴィレブランド病は遺伝性の男女両性が罹患する疾患で、フォン・ヴィレブランド因子の不足または機能不全が原因で出血時の血栓形成が上手く行かない。罹患率は100人に一人と推測されているが症候が深刻で疾病診断されるのはそのうち10人に一人とのことだ。

今回の試験は欧米や豪州、日本、ロシア、インドの医療施設で重度フォン・ヴィレブランド病の患者37人を組入れて、出血時に単剤でまたは遺伝子組換え型第VIII因子Advate(octocog alfa)と共に投与して治療効果や安全性を検討した。結果は、22人の患者全てで治療に成功した。インヒビターや血栓性イベントは一例も発生しなかった。頭痛、悪心嘔吐、貧血などの有害事象が発生したが、試験薬との関連性が疑われる深刻な有害事象は、点滴時の一時的な心拍上昇と胸部不快感だけだった。

バクスターは2014年末までに米国で承認申請する考え。年内に予防的投与の第三相試験も行う予定。

リンク:
バクスターのプレスリリース


ILC:INT-747の第三相試験結果

(2014年4月12日発表)

ILC(国際肝臓会議、EASL2014)でインターセプト・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ICPT)のINT-747(obeticholic acid、OCA)の第三相胆汁性肝硬変試験結果が発表された。217人の患者を偽薬、5mg(半年後に10mgに増量)、または10mgを一日一回経口投与する三群に割付けて12ヶ月間治療したところ、各群10%、46%、47%の患者でアルカルフォスフォターゼ値と総ビリルビン値が改善。両用量とも偽薬比有意に優れていた。

胆汁性肝硬変は主として50-60代の女性が罹患する自己免疫性疾患。肝内小型胆管が徐々に破壊され、胆汁が肝臓内に滞留、肝臓障害を合併する。先進国の患者数は最大で30万人、うち6万人が診断されursodiol(UDCA)による治療を受け、その半分が応答する由だ。この治験でもほとんどの患者がUDCAを服用していた。

この試験の難点は、臨床的転帰を検討していないこと。アルカルフォスフォターゼ値と総ビリルビン値が下がれば肝臓疾患死や肝移植のリスクが減少するという事後的メタアナリシスの裏付けがある模様だが、仮説検証的試験ほど明確なエビデンスではない。試験薬群は掻痒の有害事象が多かったのだが、掻痒は胆汁性肝硬変の症状でもあるので、病状が悪化したと考えることもできる。もしQOLが悪化するならば、臨床的な効用は何なのか、明確にする必要があるだろう。

OCAはUDCAと同様な胆汁酸成分の類縁体だが、核内受容体であるFXRのアゴニストとしても作用することが特徴。本試験で示された効果がFXRアゴニスト作用によるものなのか、UDCAを増量するのと同じなのか、作用機序の解明も望まれる。

インターセプトは年末に欧米で承認申請する予定。日本は大日本住友製薬が開発中。

リンク:インターセプトのプレスリリース

リンク:ILCプレスコンファレンスでのP2延長試験などに関するプレゼンテーションのビデオ(You Tube)

【承認】


MSDの経口減感作療法用薬が米国で承認

(2014年4月14日、17日発表)

MSDの二種類の経口減感作療法用薬が米国で相次いで承認された。減感作療法はアレルギー性鼻炎・結膜炎の患者にアレルゲンを少量ずつ毎日投与して体を慣れさせるもの。注射ではなく経口投与できるので市場が拡大するだろう。尤も、効果は特効薬というほどでもなく、稀だが命に係るアナフィラキシーのリスクもあるので注意が必要だ。子宮頸癌ワクチンの事例を見ても分かるように、普及の妨げになるからといって稀だが深刻な有害事象に言及するのを割愛すると、結局は普及の妨げになる。

Grastek(MK-7243)はチモシー、Ragwitek(MK-3641)はブタクサのアレルゲンを含有する舌下錠で、口腔内で溶解・吸収される。前者は5~65歳、後者は18~65歳の患者に承認された。シーズンが始まる12週間前から一日一回服用する。初回は医療施設で服用し、30分間様子を見る。その後は在宅服用が可能だが、万が一深刻なアナフィラキシーが発生した時のために自己注用エピネフィリンを常備する。臨床試験では、症状や治療薬の量を2割程度減少する効果が見られた。

重度アレルギー反応のリスクが枠付警告された。重度の管理不良喘息症や、重度全身性アレルギー反応歴、好中球性食道炎の患者には投与すべきではない。主な有害事象は口腔内のアレルギー反応。

両剤はAlk Abelloからライセンスしたもの。StallergenesのOralairが一足先にFDA承認を得ており、こちらは5種類のアレルゲンを含有しているのでカバレッジが広い。

リンク:MSDのプレスリリース(Grastek承認、4/14付)

リンク:同(Ragwitek承認、4/17付)

リンク:FDAのリリース(Ragwitek承認、4/17付)

GSKのGLP-1作用剤が米国でも承認

(2014年4月15日発表)

グラクソ・スミスクラインはGLP-1作用剤Tanzeum(albiglutide)が米国で承認されたと発表した。EUでも3月にEperzan名で承認されており、二型糖尿病領域ではAvandia(rosiglitazone)以来の大型薬候補の投入になる。DPP-4に分解され難く改変したヒトGLP-1にヒト血清アルブミンを結合したもので、皮注頻度が週一回であることが特徴。

GLP-1作用剤のクラスレーベルである、既承認のGLP-1作用剤の齧歯類試験で甲状腺C細胞腫が増加したことが枠付警告されている。ヒトにも同様なリスクがあるかどうかは不明だが、甲状腺髄様腫のリスクが高い患者は禁忌。尚、Tanzeum自体の癌原性試験は行われなかった。齧歯類では抗体ができてしまい血中濃度を維持できないからだ。

有害事象プロファイルは他のGLP-1作用剤と同様に、悪心嘔吐や注射箇所反応が増加する。薬効面は、幾つかの活性薬対照非劣性試験がフェールしており、差は小さいものの、やや弱い印象を与える。

リンク:GSKのプレスリリース

リンク:FDAのリリース

アーゼラをCLL一次治療に使うことが承認

(2014年4月17日発表)

グラクソ・スミスクラインとジェンマブ(OMX:GEN)は、Arzerra(ofatumumab、和名アーゼラ)をCLL(慢性リンパ性白血病)の一次治療に用いる適応拡大が米国で承認されたことを発表した。fludarabineによる治療に不適・不耐の患者にchlorambucilと併用する。09年に再発性・難治性CLLに初承認されたが、ジョンソン・エンド・ジョンソンが行ったImbruvica(ibrutinib)の直接比較試験で負けたので、商業的に良いタイミングだ。

Arzerraはジェンザイムが創製した抗CD20抗体で、Rituxan(rituximab)のようなキメラ抗体ではなく完全ヒト化抗体であることが特徴。Rituxanの改良薬であるGazyva(obinutuzumab)も昨年、CLL一次治療で承認されている。夫々の臨床試験で示されたPFS(無増悪生存期間)延長効果は同程度のように見えるが、直接比較試験ではないので良く分からない。

リンク:
GSKのプレスリリース


Gardasilの割安コースがEUで承認

(2014年4月7日発表)

MSDとサノフィの欧州ワクチン合弁会社であるサノフィ・パスツーツMSDは、子宮頸癌ワクチンGardasilを9~13歳の子供に二回接種する用法がEUで承認されたと発表した。これまでの三回接種と比べてコストが下がることになる。費用が理由で避けていた人には朗報だ。14歳以上の人は、これまでと同様に三回接種する。

Dobsonらが行った臨床試験では、16~26歳を対象に三回投与するのと同程度の効果があった。但し、一部の型のHPVに対する効果が2~3年後に低下し非劣性ではなくなったため、著者らは更なる研究が必要と述べている。

既に三回接種を受けた人は何を今更と思うかもしれないが、これには事情がある。子宮頸癌ワクチンの第三相試験の結果、既に癌原性HPVに持続的感染している人にはその型のHPVによる癌を防ぐ十分な効果が無いことが判明。本来なら事前に検査して無駄な投与を止めるべきなのだが、他の型のHPVによる癌の予防に役立つかもしれず、そもそも、事前検査はコストが嵩み、持続感染と判定された人をどうするかという微妙な問題も含んでいるため、検査は止めて、代わりに、まだ感染していないであろう10歳前後の時期に接種することになった。

しかし、10歳前後を対象とした臨床試験は簡単なものしか実施されていなかったので、その段階では至適用法が明らかではなかったのだろう。

グラクソ・スミスクラインのCervarixもEUでは9~14歳に2回接種スケジュールが承認されている。少なくともこの年齢層に関しては2回接種が主流になりそうだ。

リンク:サノフィ・パスツーツMSDのプレスリリース

リンク:Dobsonらの治験論文(JAMA、2013年、オープンアクセス)

今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


2014年4月12日

海外医薬ニュース2014年4月13日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • AACR:palbociclibが第二相試験で好成績
  • AACR:イーライ・リリーもCDK4/6阻害剤の第三相を開始
  • AACR:抗PD-1抗体の応答性もPD-L1に関連?
  • ACR:イクスタンジはアンドロゲン受容体変異に弱い?
  • エイビリファイ メンテナの競合品が承認申請へ
  • BMSがHCV複製複合体阻害剤を承認申請


【新薬開発】


AACR:palbociclibが第二相試験で好成績

(2014年4月6日発表)

AACR(米国癌研究協会)でファイザーのPD-0332991(palbociclib)の第二相転移性乳癌試験の結果が発表された。PFS(無増悪生存期間)は対照群と比べて有意に伸びたが中間解析値ほどではなく、全生存期間の解析はフェールした。ベストケースでは第三相試験の結果を待たずに承認申請するシナリオも考えられたが、難しいだろう。それでも、第三相試験の成功を期待できる内容だ。

palbociclibはCDK-4/6阻害剤で、細胞周期がG1期からS期に進行するのを妨げ、細胞分裂を止める。この試験では、エストロゲン受容体陽性かつher2陰性の乳癌で転移後初治療を受ける閉経後女性165人を、ノバルティスのアロマターゼ阻害剤Femara(letrozple)だけを投与する群とpalbociclibを併用する群に無作為化割付し、PFSを比較した。palbociclibは125mgを一日一回、21日連続投与し7日間休むスケジュールで経口投与。

結果は、単剤投与群のPFSがメジアン10.2ヶ月、併用群は20.2ヶ月、ハザードレシオは0.488でp=0.0004となった。中間解析のメジアン7.5ヶ月対26.1ヶ月、ハザードレシオ0.37より若干後退したことになる。

この試験は第一部と第二部に分かれており、第二部は前臨床の所見に基づきCCND1増幅またはp16欠損の見られる症例だけを組入れたが、治療成績は向上しなかった。第一部の66人のPFSハザードレシオは0.299、p=0.0001。第二部の99人では0.508、p=0.0046で、数値上は第一部の方が高い治療効果を生んでいる。

全例を対象とした全生存期間解析は単剤投与群33.3ヶ月、併用群37.5ヶ月、ハザードレシオ0.813、p=0.2105となった。数値は合格点ぎりぎりか若干下回っており、統計学的な信頼性も低いことになる。尤も、メジアン値を見ても分かるように被験者の生存期間は末期癌ほど短くなく、十分な検出力を持たせるには観察期間を長くする必要がある。同様なデザインの第三相試験では450人を組入れる計画であり、今回の165人、イベント数61では足りないのだろう。

注意すべきは、抗癌剤では第二相で良さそうな結果が出たのに第三相がフェールした例や、PFSで統計的にも臨床的にも意味のある差があったのに延命効果が確認できなかった例があることだ。

前者は第二相は症例数が少なく患者背景に偏りが生じるリスクがあり、また、今回の試験もそうだが、二重盲検とか、担当医の進行評価の査読のような厳格なプロトコルが導入されないことが多いため、良薬の登場を期待する医師のバイアスが治験成績に影響するリスクがある。後者は、進行後の生存期間が長い腫瘍では、一次治療の副作用が原因で二次治療の選択肢が狭まることも考えられる。副作用の点では併用ではなく夫々を一次治療と二次治療で使い分けた方が良いだろうから、結果(全生存期間)が大差ないなら併用しない方が患者のためもしれない。

この試験の主な有害事象は好中球減少症、白血球減少症、疲労、貧血。細胞分裂を妨げるので血球細胞の増殖も抑制されるのだろう。休薬期を設けているのも忍容性に対する配慮ではないだろうか。幸い、この試験では熱性好中球減少症は発生せず、対処可能だったようだ。

palbociclibは同様なデザインの第三相試験の他に、ホルモン療法不応患者を対象としたFaslodex(fulvestrant、和名フェソロデックス、アストラゼネカ)併用試験と、ネオアジュバント(術前化学療法)と摘出術を受けた再発リスクの高い患者を対象としたアジュバント試験も進行中。乳癌の6割程度がエストロゲン受容体陽性、her2陰性なので、市場性は大きい。

今回の試験の用途でブレークスルーセラピー指定を受けており、今後の解析で全生存に有意差が出れば承認申請が認められる可能性があるだろう。Femara併用第三相試験は2015年にデータベースロックの予定なので、遅くともこの時点では承認申請される可能性がありそうだ。

リンク:ファイザーのプレスリリース

リンク:Richard S. FinnらのAACR抄録

AACR:イーライ・リリーもCDK4/6阻害剤の第三相を開始

(2014年4月7日発表)

イーライ・リリーは、LY2835219の第三相試験をclinicaltrials.comに治験登録した。ファイザーのpalbociclibと同じCDK4/6阻害剤で、二番目に第三相を開始したノバルティスを含め開発競争が激化してきた。

ホルモン受容体陽性乳癌を対象に、fulvestrant単独投与群とLY2835219(200mgを一日二回、経口投与、休薬期なし)併用群のPFS(無増悪生存期間)を比較する。データベースロックは2017年の予定となっている。

AACRのアブストラクトに初期試験の成果がでているが、メジアン7治療を受けた患者に対して部分反応率19%、G3/4好中球減少症発生率21%と、palbociclibより良さそうに見える。尤も、患者背景が異なっていても全く不思議ではないので、see what happensだ。

リンク:Amita PatnaikらのAACR抄録

リンク:第三相試験治験登録(ClinicalTrials.gov)

AACR:抗PD-1抗体の応答性もPD-L1に関連?

(2014年4月6日発表)

MSDは、AACRで抗PD-1抗体MK-3475のバイオマーカー分析に関する発表を行った。PD-1のレガンドであるPD-L1が高発現している癌の方が効果が高そうだが、それ以外の患者に効果が無いとも言えず、難しいところだ。同社は既に米国でローリング承認申請を開始しており、応答性予測因子の解明は発売後になりそうだ。

まず、末期黒色腫については、進行中の後期第一相試験の評価可能例125例を、IHC法で腫瘍細胞の1%を閾値として評価したところ、71%がPD-L1陽性となった。総合反応率は全体(n=113)で40%で、PD-L1陽性では49%、陰性では13%となり、夫々の95%信頼区間はオーバーラップしなかった。一方、10%を閾値とした評価では、陽性65例の総合反応率は52%、陰性48例は23%となり、95%信頼区間はオーバーラップしなかった。

MSDは、PD-L1陽性が多いことや陰性でも効果がない訳ではないことから、適応を陽性患者だけに絞り込んでも効用は小さいと判定した。

一方、末期非小細胞性肺癌は同じ後期第一相試験の評価可能例129例を分析。MSDが至適と判定した閾値50%を強陽性と定義すると、25%が該当した。全体(n=129)の総合反応率は19%だったが、強陽性41例では37%、低陽性・陰性88例では11%に留まった。夫々の95%信頼区間はオーバーラップしていない。

反応率一桁では物足りないが、黒色腫でも非小細胞性肺癌でも陰性患者の10%超が反応しているので、一概にダメとは言えない。今後は、複数のバイオマーカーを用いて最適な患者をスクリーニングする手法が検討されることになりそうだ。BMSの抗PD-1抗体や、初期の試験でPD-L1陽性患者の方が応答性が良かったロシュの抗PD-L1抗体の最新のデータも注目されるところだ。

リンク:MSDのプレスリリース

ACR:イクスタンジはアンドロゲン受容体変異に弱い?

(2014年4月7日発表)

アンドロゲン受容体を標的とするXtandi(enzalutamide、和名イクスタンジ)のような薬は去勢抵抗性前立腺癌でしばしば見られるアンドロゲン受容体多型に対する効果が弱い可能性を示唆する研究がAACRで発表された。遺伝子変異による多型ではなく、スプライシング(DNAを転写したRNAから翻訳に必要なメッセンジャーRNAを切り出すこと)の違いによる多型である。

この種の研究は大規模な前向き試験で確認する必要があるが、プリキモの試験が成功しこれから化学療法にとり変わろうという時期だけに、出足をくじかれかねない。

この研究はenzalutamideによる治療を受けた31例の血中循環腫瘍細胞におけるAR-V7メッセンジャーRNA発現状況と、応答性を検討したもの。38.7%を占めた陽性例のPSA反応率は0%で、陰性患者の52.6%と比べ有意に劣っていた。PFS(無増悪生存期間)もメジアン2.1ヵ月と6.1ヵ月で有意な差があった。

それでは当該患者はどうしたらよいのか?いくつか文献に当たったが、難しいようだ。AR-V7型やそれ以上に多いとされるAR-V567型(ある研究によれば59%が該当する)はレガンド結合部位が欠損しているのでレガンドの合成を阻害するabirateroneも効果が弱いようだ。おそらくホルモン療法は全部駄目だろう。

AR-V567型(5番から7番までのエクソンが欠如)はタクサン系の抗がん剤に反応するようなので、症状が耐え難いようなら選択肢になるが、上記二剤ならもっと軽い段階の患者も適応になるので(enzalutamideは承認審査段階)完全な代替手段にはならない。

取り敢えずはエキスパートオピニオンを待ちたい。私見では、決定的なエヒデンスではなく、もつと多くのデータが欲しい。

リンク:Emmanuel S. AntonarakisらのAACR抄録

エイビリファイ メンテナの競合品が承認申請へ

(2014年4月8日発表)

Alkermes(Nasdaq:ALKS)は、aripiprazoleの月一回投与用製剤の第三相試験成功を発表した。米国で7~9月期に承認申請する予定。発売後は本家大塚製薬の月一回製剤、Abilify Maintenna(paliperidone palmitate)と競争することになる。

同社は医薬品の管理放出技術で知られ、ジョンソン・エンド・ジョンソンのInvega Sustennaも同社が開発したもの。このaripiprazole lauroxilは同社のLinkeRx技術を用いている。二ヶ月に一回の製剤も開発しているようだ。

第三相の特徴は441mgと882mgの二種類をテストしたこと。Abilify Maintennaの承認用量は400mgで開始、300mgに減量可、なので、2倍のレンジの用量が承認されれば滴定の余地が広がる。

尤も、話はそう単純ではない。この薬はジェネリックではないので医師に処方箋を書いてもらわなければならない、つまり、販促で大塚・ルンドベック連合に勝たなければならない。また、向精神薬は承認されている用量域と実際に用いられているそれが必ずしも一致しない。

おそらく、Alkermesの勝負所は二ヶ月持続製剤の投入時だろう。

リンク:Alkermesのプレスリリース

【承認申請】


BMSがHCV複製複合体阻害剤を承認申請

(2014年4月7日発表)

BMSは二種類のC型慢性肝炎治療薬を米国で承認申請したことを発表した。BMS-790052(daclatasvir:NS5A複製複合体阻害剤)とBMS-650032(asunaprevir:NS3プロテアーゼ阻害剤)で、後者はこの二剤併用でIb型感染者だけに用いることを求めたようだ。

BMSは翌日に、この二剤併用をIb患者に投与した第三相試験の結果を発表した。24週間の投与で初めて治療を受ける患者のSVR12(治療終了後12週間経ってもウイルスが検出不能な患者の比率)が90%、PEG化インターフェロンとribavirinによる治療に不応だった患者では82%、不応・不適患者は82%だった。別の試験では、肝硬変を合併する患者でもそれ以外でもSVR12は大差なかった。有害事象による治験離脱は1~3%、深刻な有害事象の発生率は5~7%だった。

リンク:BMSの承認申請プレスリリース

リンク:BMSのP3データプレスリリース(4/10付)

今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


2014年4月5日

海外医薬ニュース2014年4月5日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • ノバルティス、心不全治療薬の第三相が成功
  • アムジェン、ウイルス療法薬の全生存解析は惜しくも未達
  • GSK、癌治療用ワクチンの肺癌試験を中止
  • JNJ、プリジスタ配合剤を承認申請
  • アステラス、EUでイクスタンジの適応拡大申請
  • FDA諮問委員会が吸入用インスリンを支持
  • FDA諮問委員会がキュービストとDurataの抗生剤を支持
  • GSK、ヴォトレントの卵巣癌適応拡大申請を撤回
  • 減感作療法用の舌下錠が米国にも上陸
  • バイエル、EUがAdempasを承認


【新薬開発】


ノバルティス、心不全治療薬の第三相が成功

(2014年3月31日発表)

ノバルティスは、LCZ696の第三相試験のデータ監視委員会が中間解析で主目的達成と認定、繰上完了を勧告したと発表した。慢性心不全で駆出率減少の見られる患者8436人を組入れた大規模な試験で、心血管疾患による死亡あるいは心不全による入院のリスクをACE阻害剤enalaprilと比較したもの。データは未公表だが、もし標準療法やenalaprilの投与がキチンと行われているようならば、そして臨床的に意味のある治療効果が確認できたのならば、一歩前進だ。ノバルティスは当局と今後を相談する考え。

LCZ696は同社のDiovanの活性成分であるvalsartanとAHU-377を一つの分子にしたもので、服用後に分離し前者はアンジオテンシンII受容体拮抗剤として、後者は活性代謝物LBQ657が中性エンドペプチターゼ(NEP)阻害剤として作用する。第三相試験で用いられた200mg(一日二回服用)は、アンジオテンシンII受容体拮抗力ではvalsartanの320mg(一日一回)と同程度だが、降圧は上回る。

両群の血圧に差があった場合、アウトカム改善作用が降圧によるものなのか、試験薬の臓器保護作用によるものなのかが議論になるだろう。他の降圧剤の併用状況に偏りがあった場合、医師が各地域の治療ガイドラインに則った最適な治療を行ったかどうかも検証されることになるだろう。

NEP阻害剤はブラディキニンを増やすので血管浮腫に気を付ける必要がある。BMSが開発したACE/NEP阻害剤のVanlev(omapatrilat)は、稀だが深刻な血管浮腫が特にアフリカ系人種で見られたため、FDAが承認せず開発中止になった(死亡・心不全入院予防効果がenalaprilを上回らなかったことも承認されなかった理由だが)。ACE阻害剤もブラディキニンを増やすので悪いシナジーが生まれたのかもしれない。

LCZ696の過去の試験では見られなかった模様だが、今回のデータで確認する必要があるだろう。グローバル試験はアフリカ系の人種構成が米国のそれより低くなりがちなので、全体の発生率ではなくアフリカ系のデータが重要だ。

今回の試験は検出力が高いため、三回目の中間解析で心血管死・心不全入院の有意差を確認できたこと自体は驚きではない。注目は、心血管死予防効果だ。この試験は十分な検出力を持っているが、一部報道によれば、データ監視委員会が中止勧告をしたのは心血管死予防効果が確認されたからだという。もし本当ならば、そして、上記の点に問題が無いならば、慢性心不全の標準療法薬としてマストになる可能性が高い。

慢性心不全の患者は欧米で2000万人以上。半分の患者で駆出率減少が見られるとのことだ。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

アムジェン、ウイルス療法薬の全生存解析は惜しくも未達

(2014年4月4日発表)

アムジェンは、talimogene laherparepvecの全生存解析がフェールしたと発表した。

この薬はGM-CSFの遺伝子を組込んだ遺伝子組換え型単純ヘルペスウイルスで、腫瘍内に直接注射すると、増殖して腫瘍細胞を破壊する。やがて細胞外に飛び出しGM-CSFを分泌して免疫刺激するため、周辺の腫瘍細胞にも効果があるようだ。正常の細胞では増殖しないようだ。

第三相試験では、切除不能でステージIIIB、IIIC、IVの悪性黒色腫を組入れてGM-CSF皮注群と持続的反応率を比較したところ、16%対2%で有意に上回った。副次的評価項目であり抗癌剤にとって最も重要な全生存の解析は、その時点ではハザードレシオ0.79だが有意差は未だ出ず、13年11月に発表された中間解析でもHR0.79、p=0.07、メジアン生存期間23.3ヶ月対19.0ヶ月だった。

今回もp=0.051で有意水準に届かなかった。HRやメジアン値の差は中間解析と大差なかったようだが、延命効果が確認されなかった以上、この試験のデータを元に承認を取得するのは容易ではないだろう。持続的反応率の改善が生活品質の向上に繋がることを立証し、深刻な有害事象の発生率が26%対13%と高く、奏効した人よりも多いことを正当化する必要がありそうだ。

リンク:アムジェンのプレスリリース

GSK、癌治療用ワクチンの肺癌試験を中止

(2014年4月2日発表)

グラクソ・スミスクラインは、MAGE-A3ワクチンの非小細胞性肺癌第三相試験を中止すると発表した。三種類の主評価項目のうち、全ユニバース及び化学療法未施行サブグループにおける無病生存期間延長効果の解析がフェールしたことは先に発表済みだが、今回、特定の遺伝子シグナチュアを持つ患者の解析も断念した。解析を担当する治験から独立した第三者が、治療効果が不十分で解析のやりようがないと判定した様子だ。

MAGE-A3は癌の表面抗原であるMAGE-A3を配合したワクチンで、悪性黒色腫でも第三相試験が行われたが、延命効果は確認されず、もう一つの主評価項目である特定の遺伝子シグナチュアを持つ患者の解析が2015年に予定されている。こちらの試験は続行されるようだ。

リンク:GSKのプレスリリース

【承認申請】


JNJ、プリジスタ配合剤を承認申請

(2014年4月1日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、抗HIV薬Prezista(darunavir、和名プリジスタ)とギリアッドからライセンスした3A4阻害剤cobicistatの合剤を米国で承認申請した。EUでも承認審査中。

Prezistaのようなプロテアーゼ阻害剤は生物学的利用率が低く、多くの量を一日に何回も服用する必要があったが、アボットの抗HIV薬ritonavirを少量併用することで代謝を遅らせ効果を長持ちさせるritonavirブーストという手法が広がり、ピルバーデンが改善した。アボットは新開発のプロテアーゼ阻害剤との合剤、Kaletra(lopinavir・ritonavir合剤、和名カレトラ)を発売し更に改善したが、他社はギリアッドがcobicistatを開発するまで追随できなかった。

ギリアッド自身に加えてBMSもcobicistat配合剤を開発しており、今後の主流になるだろう。

リンク:JNJのプレスリリース

アステラス、EUでイクスタンジの適応拡大申請

(2014年4月3日発表)

アステラス製薬は、メディベーション(Nasdaq:MDVN)からライセンスした経口アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤、Xtandi(enzalutamide、和名イクスタンジ)を化学療法施行前の去勢抵抗性前立腺癌に用いる適応拡大申請を行った。第三相試験では全死亡のハザードレシオが偽薬比0.71で統計的に有意な差があった。

メディベーションと共同販売する米国でも申請されるだろう。日本で3月に承認されたが、添付文書に化学療法施行前の患者に対する有効性や安全性は確立していないと記されているので、恐らく日本でも適応拡大申請されることになるだろう。

リンク:アステラスのプレスリリース(和文)

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会が吸入用インスリンを支持

(2014年4月1日発表)

FDAの内分泌学代謝薬諮問委員会は、マンカインド社(Nasdaq:MNKD)が糖尿病薬として承認申請した吸入用インスリン、Afrezzaを検討、一型糖尿病については賛成13名、反対1名、棄権1名の多数で、二型については賛成14名、棄権1名で、承認を支持した。無事承認されれば、ファイザーが07年にExuberaの販売を中止して以来7年振りの注射の要らないインスリン製品となる。

ファイザーの販売中止は商業的な理由だが、副作用被害を受けた患者が続々と提訴して巨額の訴訟費用や損害賠償金を負担するリスクも商業的な理由と言えないことはないので、真意は分からない。何れにせよはっきりしているのは、吸入インスリンに肺がんリスクがあるのかないのか、確認できなくなってしまったことだ。

数年前に持効性インスリンの疫学的試験で懸念が浮上したことがある。その後の各種疫学的試験では確認されず否定されたが、インスリンは細胞成長因子なので、細胞を癌化するリスクが無かったとしても、運悪く癌になった人の寿命を短くするリスクはあるかもしれない。吸入用インスリンの場合は肺癌が特に注目される。Exuberaの試験では、100人年当り0.13例と対照群の0.02例より6倍多かったので、疑う理由はある。FDAや諮問委員もリスクが無いとは思っていないようなので、安全性の挙証は市販後にマンカインド、医師、患者が負うことになる。

リンク:マンカインドのプレスリリース

FDA諮問委員会がキュービストとDurataの抗生剤を支持

(2014年3月31日発表)

FDAの抗感染症薬諮問委員会は、キュービスト(Nasdaq:CBST)とDurata(Nasdaq:DRTX)が夫々に承認申請した抗生物質を検討、全員一致で承認を支持した。

キュービストのSivextro(tedizolid phosphate)は、韓国の東亞製薬(Dong-A Pharmaceuticals)から韓国北朝鮮以外の地域での権利を取得してグラム陽性菌による急性細菌性皮膚皮膚構造感染症の治療薬として開発したもの。ファイザーのZyvox(linezolid)の第二世代品とされ、静注用製剤と経口剤が用意されている。MRSAにも活性を持つ。

第三相試験のうち経口剤試験は、200mgを一日一回、6日間投与したところ、Zyvoxを一日二回、10日間投与した群と臨床的反応率が非劣性だった。点滴用製剤同士の比較も非劣性だった。公認感染症用医薬品(QIPD)資格を持っており、承認されたら排他権期間が通常より5年間、延長される。

リンク:キュービストのプレスリリース

DurataのDalvance(dalvancin)はバンコマイシン系の点滴用抗生物質で、MRSAにも活性を持つ。ファイザーが企業買収によって入手し承認申請したが再試験を求められ、09年にDurataに開発販売権を譲渡した。グラム陽性菌による急性細菌性皮膚皮膚構造感染症の第三相試験が二本実施され、何れもZyvoxと非劣性だった。初日と第8日に30分点滴投与する。

リンク:Durataのプレスリリース

GSK、ヴォトレントの卵巣癌適応拡大申請を撤回

(2014年3月31日発表)

グラクソ・スミスクラインはVEGFR阻害剤Votrient(pazopanib、和名ヴォトリエント)をステージII~IV卵巣癌の一次治療奏功者の維持療法としてEUで承認申請していたが、撤回した。第三相試験ではPFS(無増悪生存期間)のハザードレシオが0.77、メジアン値が17.9ヶ月と偽薬群の12.3ヶ月を上回ったが、その時点では延命効果が見られなかった。

未成熟(有意差を出すために必要なイベント数に到達していない)ことが原因である可能性もあったが、二回目の中間解析でもHR1.076、p=0.49となり、最終解析で良い結果が出る可能性が乏しくなった。

PFSという評価項目は広く用いられているが、必ずしも延命効果に結び付くとは限らない。進行後の生存期間が長い癌の場合はその後の治療も影響するが、PFSが長いということは次の治療を開始する時期は遅くなることを意味する。治療の副作用が発生すると、その後の治療の選択肢が狭まる。薬のタイプにもよるのだろうが、VEGFを阻害する薬ではPFSが延びたが延命効果は確認できず、というケースが増えてきている。

評価を客観的に行うために腫瘍の大きさなど定量的な指標に基づいて判定されるので、PFSは必ずしも症状の改善を意味せず、その意味で、無増悪生存期間という呼び方は適切ではない。

リンク:GSKのプレスリリース

【承認】


減感作療法用の舌下錠が米国にも上陸

(2014年4月1日発表)

フランスのStallergenes社は、OralairがFDAに承認されたと発表した。アレルギー性鼻炎(結膜炎合併例も含む)の減感作療法で、アレルゲンを少量ずつ毎日投与することで免疫寛容を目指す。注射用製剤が一般的だが、欧州では舌下錠も普及し始めており、米国はOralairが初承認。

ルガヤ、カモガヤ、多年生ライ麦、チモシー、ケンタッキー青草の5種類から抽出されたアレルゲンを含有しており、これらにアレルギーを持つ患者が、シーズンの40日前から一日一回、シーズンが終わるまで服用する。命に係ることもあるアナフィラキシーが発生する可能性もあるので、初回は医療施設で服用し、30分間様子を観察する。二回目以降は在宅服用が可能だが、万が一アナフィラキシーが発生した時に備えて、エピネフィリン(アドレナリンの米名)のオートインジェクターも処方し患者に使い方を教えておく必要がある。

MSDもデンマークのAlk Abelloからライセンスした舌下錠を二種類、承認申請したが一つはチモシー、もう一つはブタクサだけを含有している。塵ダニ用も開発中。欧米の患者はチモシー、ブタクサ、イエダニが多いので、対象患者合計数はOralairと大差ないかもしれない。日本人としてはスギ花粉アレルギー用の開発状況が気になるが、夫々のライセンシーである塩野義製薬と鳥医薬品が取り組んでいる模様だ。

画期的な薬が登場するとメディアが賛美するが、不都合な真実は語られない傾向があるので、私たちは気を付けなければならない。日本でも健康バラエティ番組で減感作療法舌下錠の話を聞くようになったが、アナフィラキシーのリスクは聞いたことが無い。注射用より発生率が低いのかもしれないが、ゼロではない。既知のリスクから目を背けると、子宮頸がんワクチンの二の舞になる心配がある。

リンク:Stallergenesのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース(4/2付)

バイエル、EUがAdempasを承認

(2014年3月31日発表)

バイエルは、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激剤Adempas(riociguat)がEUで二種類の肺高血圧症に承認されたと発表した。一つは手術不能または手術不応・再発の慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)。もう一つは肺動脈高血圧症。CTEPHは肺血栓内膜摘除術が有効だが、薬物療法の選択肢が承認されたのは初めて。



リンク:バイエルのプレスリリース

今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/