2014年3月16日

海外医薬ニュース2014年3月16日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • Walk, don't run
  • PCRが子宮頸癌スクリーニングの第一選択に
  • GSK、抗IL-5抗体の難治性喘息症試験が成功
  • GSK、Anoroの直接比較試験が成功
  • 神経栄養薬の脊髄性筋萎縮症試験が成功
  • ネクサバールの肝細胞腫アジュバント試験はフェール
  • BI/リリーのSGLT2阻害剤は承認遅延
  • エリキュースが米国でも関節置換術後の血栓症予防に承認


【今週の話題】


Walk, don't run

STAP細胞の話は残念ですが、TVのバラエティ番組まで取り上げているのは、不祥事発覚後だけではなく、STAP細胞の発見が発表された当初から、異常でした。大きな発見が後に否定される、あるいは結論が出ないままあやふやになってしまうことは珍しくなく、例えば、慢性疲労症候群の患者からXMRVというウイルスを発見したという論文や、ポリフェノールの一種であるレスベラトロール類縁体がマウスの寿命を延ばしたという論文は、否定的な論文も多い。

ワクチンと自閉症の関連性を指摘した論文は、その後、撤回されました。日本絡みでもvalsartanの複数の試験論文や、ACE阻害剤とARBの併用で腎疾患の進行を防いだという論文が撤回されました。理研という権威ある研究機関の発表なのでマスコミも信用してしまったのでしょうが、結論を急いではいけない、真実を発見する道のりはゆっくり歩くのが王道であることを示しています。私も他人事ではありません。

PCRが子宮頸癌スクリーニングの第一選択に

(2014年3月13日発表)

子宮頸癌のスクリーニングはパパニコロー検査よりもPCR検査を優先すべき、とFDAの医療機器諮問委員会が判定した。順調ならば、ロシュのcobas HPV検査が25歳以上の女性の子宮頸癌スクリーニングにおける第一選択として史上初めて、承認されることになる。ロシュが提案したプロトコルによると、検査で16型または18型(癌原性が高い)陽性であった場合は、パパニコロー検査は行わずに膣鏡診に進む。それ以外の高リスク型が陽性ならばパパニコロー検査を行う。陰性の場合は医師の判断に委ねる。

ロシュが実施したATHENA試験では、パパニコロー検査では正常、HPV検査では16型陽性と判定された女性の7人に1人の割合で、ハイグレードの子宮頸疾患が発見された。CIN3以上の疾患に関する感度はHPV検査が58%、パパニコロー検査は42%だった。

定説を覆すには地味な努力と大規模な試験が必要である。HIVや肝炎ウイルスについても日本の抗体検査で陰性だった献血血液から200例以上のHIV/HCV/HBV陽性血液が発見され、日本赤十字が核酸増幅検査を全面採用した。

今回の諮問委員会の結論は全員一致だが、細かいところでは、25~30歳の症例が少ないとか、パパニコロー検査は他の病変を発見できるメリットもあるとか傾聴すべき意見もあった。それでも、方向としては、子宮頸癌のスクリーニングはPCRベースの検査が主流になっていくのだろう。

リンク:ロシュのプレスリリース

【新薬開発】


GSK、抗IL-5抗体の難治性喘息症試験が成功

(2014年3月12日発表)

グラクソ・スミスクラインは、Bosatria(mepolizumab)の第三相難治性重度喘息症試験二本が成功したと発表した。後期第二相試験の結果と合わせて、承認申請に向かうのではないだろうか。

Bosatriaは抗IL-5完全ヒト化抗体。喘息症患者の一部では好酸球の増加が見られることから、好酸球の活性化や生存、肺移行に関与するIL-5をブロックする治療法が探索された。第二相喘息治療試験で好酸球増多型の重度喘息症に効果が見られたことから、第三相試験では好酸球数が一定値以上で、高量吸入ステロイドを含む二剤を併用しても増悪を管理できない重度患者だけを組入れた。

一本は、静注用製剤(75mg)と皮注用製剤(100mg)を4週間に一回、32週間投与したところ、臨床的に重要な増悪が偽薬比で各47%と53%減少した(p<0.001)。もう一本は経口ステロイドも服用している患者に皮注用製剤をテストしたところ、第20~24週の経口ステロイド服用量が有意に減少した。深刻な有害事象の発生率はどちらの試験とも偽薬群の方が高かったが、喘息発作もカウントしているようなので、薬効と引き換えに何を失うのか明らかではない。学会発表時の注目点になるだろう。

重度喘息の抗体医薬としてはXolair(omalizumab、和名ゾレア)以来、5~6年ぶりの新薬になりそうだ。抗IL-5抗体はテバもreslizumabで好中球増多型喘息症の第三相試験を実施中。また、アストラゼネカも協和発酵キリンの子会社から導入した抗IL-5受容体アルファ・チェーンPOTELLIGENT抗体で同様な第三相試験を実施中で、2016年頃に結果が出そうだ。

リンク:GSKのプレスリリース

GSK、Anoroの直接比較試験が成功

(2014年3月14日発表)

GSKは、軽中度COPDを対象としたAnoroの直接比較試験が成功したと発表した。差は小さく、安全性の差も案外小さかったが、大差ないなら一日一回服用の長所が映える。尤も、本当に大差ないかどうかは今回の試験だけでは何とも言えないだろう。

Anoroは昨年末に米国で承認された吸入用合剤で、長期作用性ムスカリン受容体拮抗剤umeclidiniumと長期作用性ベータ2作用剤vilanterolを配合。対照薬はGSKのベストセラーであるAdvair(和名アドエア)で、長期作用性ステロイドfluticasoneと長期作用性ベータ2作用剤salmeterolを配合。AdvairはEUでは高用量も承認されているため、低用量(各250mcgと50mcg)と比較した試験が二本、高用量(500mcgと50mcg)との比較が一本、実施された。

治験対象は、過去1年間に増悪を経験しなかった軽中度のCOPD患者。主評価項目は84日目の24時間加重平均FEV1。結果は、低用量と比較した試験では一本は74mL、もう一本は101mLの差があり、何れも統計的に有意だった。高用量比較試験でも80mLの差で統計的に有意だった。

AdvairよりAnoroの方が優れるということになるが、臨床的な違いは明確ではない。また、合剤を必要とするのは単剤では増悪を十分に管理できない重度の患者であり、そのような患者が必要とするのは増悪を防ぐことだが、今回の試験では答えは出ていない。

COPDにステロイドを使う時の留意点は肺炎や骨塩密度低下だが、今回の試験は症例数が少なく期間も短いため、大きな群間差は出ていない。ムスカリン受容体拮抗剤は心血管有害事象を増やすと指摘する研究者もいて、今回の試験でも数値上は発生率が高かったようだが、リスクがリアルなのか、ノイズなのかは分からない。もっと大規模な試験で解明が望まれる。

リンク:GSKのプレスリリース

神経栄養薬の脊髄性筋萎縮症試験が成功

(2014年3月10日発表)

フランスのTrophos社は、TRO19622(olesoxime)の第二相脊髄性筋萎縮症試験が成功したと発表した。承認申請を考えている様子だ。データは今後、学会で発表される予定。

TRO19622はコレステロール様の物質で、ストレスに晒された細胞がミトコンドリアの完全性や機能を維持する上で有用とのことだ。欧州7ヶ国で実施された第二相試験では、II型またはIII型で歩行不能な3歳から25歳の患者165人を偽薬と試験薬に1:2割付して2年間、治療したところ、MFM機能スケールの悪化を防ぐ効果が見られた由。

脊髄性筋萎縮症はSMNという遺伝子の欠損が係る深刻な疾患で、両親から欠損遺伝子を引継ぐと発症する。Trophosによると患者は世界で2万人。2月23日号で書いたように、米国のISISもISIS-SMNRxで第三相試験を開始する予定。

リンク:Trophosのプレスリリース

ネクサバールの肝細胞腫アジュバント試験はフェール

(2014年3月11日発表)

バイエルは、VEGFR阻害剤Nexavar(sorafenib、和名ネクサバール)の肝細胞腫アジュバント試験がフェールしたと発表した。データは学会で発表される予定。

このSTORM試験は、治癒を目的とする切除術などを受けた肝細胞腫患者を組入れて、Nexavarの再発予防効果を偽薬と比較したもの。分子標的薬は副作用リスクが比較的小さく、Nexavarは経口剤なので服用負担も点滴用薬より小さい。切除不能な末期肝細胞腫の一次治療試験が成功、承認されたため、アジュバント試験も期待を集めたが、成就しなかった。

Nexavarは、アムジェンが買収したオニクス社との共同研究の成果。切除不能腎細胞腫でも承認されており、主として二次治療薬として用いられている。他社のVEGFR阻害剤の末期肝細胞腫試験はフェールしており、結局、効果は限定的なのだろう。

リンク:バイエルのプレスリリース

【承認審査・委員会】


BI/リリーのSGLT2阻害剤は承認遅延

(2014年3月5日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムと開発パートナーであるイーライリリーは、SGLT2阻害剤BI 10773(empagliflozin)を二型糖尿病薬として承認申請したが、FDAから審査完了通知を受領した。生産管理に係る不備が原因のようだ。

FDAはルーチンに工場を査察して生産管理基準(cGMP)順守状況をチェック、重大な不備を発見したら是正を要求する。メーカー側が是正に応じなかったり時間稼ぎをすることもあるため、伝家の宝刀をチラリと見せて、是正されるまで新薬を承認しないかもしれないと通知することもある。BI 10773はcGMP違反が見つかった工場で生産されるようなので、承認されなかったのは当然と言えば当然だろう。ベーリンガーも問題解決に真剣に取り組んでいる筈だが、cGMP問題は長引くことが多いので要注意だ。

リンク:両社のプレスリリース

【承認】


エリキュースが米国でも関節置換術後の血栓症予防に承認

(2014年3月14日発表)

BMSと開発販売パートナーであるファイザーは、FDAがXa阻害剤Eliquis(apixaban、和名エリキュース)を膝・股関節置換術後の深静脈血栓予防に用いる適応拡大を承認したと発表した。

Xa阻害剤の新薬はこの用途で最初の第三相試験が行われることが多く、Eliquisもそうだったが、欧州と米国で行われた三本の試験のうち米国試験はフェール、予防効果が低分子量ヘパリンと比べて非劣性であることが確認できなかった。このため、EUでは2011年に承認されたが、米国は膝ではなく股関節置換で追加試験を実施、3年遅れで承認となった。

Xa阻害剤の市場としては12年に承認された心房細動患者の脳卒中予防が一番大きく、また、関節置換術用途は他社のXa阻害剤が承認されていて薬以外の予防法も存在するため、開発が遅延しても大勢には影響ないだろう。

リンク:両社のプレスリリース

今週は以上です。

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