2014年2月9日

海外医薬ニュース2014年2月9日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • MSDが抗PD-1抗体でコラボ作戦
  • エーザイ、甲状腺癌用薬の第三相が成功
  • ファイザー、CDK4/6阻害剤の第二相乳癌試験が成功
  • 新作用機序のIBS-d治療薬の第三相が成功
  • バイオジェン・アイデック、TecfideraがEUで承認


【今週の話題】


MSDが抗PD-1抗体でコラボ作戦

(2014年2月5日発表)

MSDは抗PD-1抗体MK-3475(lambrolizumab)でBMS/小野薬品やレガンド側をブロックする抗体を開発しているロシュと激しい先陣争いを繰り広げているが、米国での承認申請は、先月、ローリング承認申請を開始し一歩先んじた。併用法の開発では抗CTLA4抗体Yervoy(ipilimumab)を商品化しているBMSの方が有利に見えるが、MSDが様々な企業とコラボ戦略を開始した。

昨年12月にGSKとVotrient(pazopanib、和名ヴォトリエント)など複数のコンパウンドの併用試験で提携したのに続いて、今回、三社とのコラボが発表された。まず、ファイザー。対象は腎細胞腫用薬Inlyta(axitinib、和名インライタ)やPF-05082566(抗ヒト4-1BB完全ヒト化アゴニスティック抗体)。

InlytaはVotrientと同じVEGF受容体阻害剤なので、どちらかと言えばついでなのだろう。ファイザーはSutent(sunitinib、和名スーテント)も持っているのでInlytaの位置付けは微妙であり、何か違った特徴を持たせる必要がある。MSDの狙いは4-1BB(別名CD137)だろう。活性化した免疫細胞が発現する共刺激受容体を、アゴニスティック抗体で刺激することよって、免疫を強化する。第一相段階のようだ。

次に、インサイト(Nasdaq:INCY)と、INCB24360(indoleamine 2,3-dioxygenase<IDO>阻害剤)併用で非小細胞性肺癌などの第1/2相試験を行う。IDOはトリプトファンの代謝酵素で、制御的免疫細胞が分泌して免疫活動を抑制する。様々な腫瘍で高度発現しており、腫瘍細胞が免疫監視を免れるのに貢献しているようだ。

更に、アムジェンとtalimogene laherparepvec併用で悪性黒色腫の第1/2相試験を行う。単純ヘルペスウイルスにGM-CSFの遺伝子を組込んだ遺伝子療法で、腫瘍細胞に注射するとウイルスが増殖して破壊、GM-CSFを分泌して免疫機構の注意を惹き、他の腫瘍細胞を攻撃させる。昨年11月にモノセラピーで悪性黒色腫の第三相試験成功が発表された。

コラボの目的は、第一に、スピードアップだろう。一つでも多くの作用機序の薬と試験して有望な組み合わせを発見する。第二は費用負担の緩和。第三は、言うまでもなく、MSDが臨床開発段階のコンパウンドを持っていない分野の補完。MSDと言えば昔は自前主義で、他社がユニークなコンパウンドや技術を発見しても、提携せずに自社で開発したがる傾向があった。スタチンの逸話は、少なくとも日本では有名だ。しかし、時代は変わった。

時代が変わった一因は、開発段階の薬同士の併用試験が広く認められるようになったことだ。慢性C型肝炎ではコラボが一般的になっている。但し、このコラボはあくまで特定の臨床試験に係るものだ。MSDも併用のプルーフ・オブ・コンセプトに成功したら、その後は自社の4-1BBアゴニスティック抗体やIDO阻害剤を開発することになるのではないだろうか。

リンク:MSDのプレスリリース

リンク:同、GSK提携(13年12月18日付)

【新薬開発】


エーザイ、甲状腺癌用薬の第三相が成功

(2014年2月3日発表)

エーザイはE7080(lenvatinib)の進行性放射性ヨウ素治療抵抗性分化型甲状腺癌に対する第三相試験が成功したと発表した。3月までに承認申請に向かう見込み。承認されたら、小分子の分子標的薬では日本の製薬会社で初になる。尤も、用途はユニークだがVEGF受容体阻害剤は外資系製薬会社が数多く商品化しているので新味はない。今回の成功を第一歩に、世界に誇る新薬の開発に拍車を掛けてもらいたい。

E7080がもう一つユニークなのは、SFJファーマシューティカルズとスポンサー契約を結んでいることだ。SFJは今回の第三相試験の費用をすべて負担し、もし成功して販売承認を取得したら成功報酬を得る。ミーツードラッグの方が成功確率が高いのでSFJには良かっただろう。エーザイの側も、腫瘍学は適応症や併用法が数多いので、前項のMSDのように開発リスクをシェアしてくれるスポンサーがいれば有用だ。エーザイはクインタイルズともリスクシェアリング契約を結んでいる。

E7080は肝細胞腫でもNexavar(sorafenib、和名ネクサバール)対照第三相試験を実施中で、2015年頃に結果が出そうだ。

リンク:エーザイのプレスリリース(和文)

ファイザー、CDK4/6阻害剤の第二相乳癌試験が成功

(2014年2月3日発表)

ファイザーは、PD-0332991(palbociclib)の第二相試験が成功したと発表した。中間解析は中々良さそうなデータだったので、第三相試験の結果が15年頃に出るのを待たずに承認申請する可能性がありそうだ。この中間解析データに基づいてFDAからブレークスルーセラピー指定を受けている。

PD-0332991はCDK4/6阻害剤。サイクリン4と6を阻害して、細胞周期がG1期からS期に進むのを妨げる。癌細胞は細胞分裂が完了せず、アポトーシスすることになる。今回の第二相試験の対象は、エストロゲン受容体陽性、her2陰性の局所進行性/転移性乳癌に罹患する閉経後女性。

アロマターゼ阻害剤Femara(letrozole、和名フェマーラ、ノバルティス)とPD-0332991(125mg、一日一回、経口投与)または偽薬を併用したところ、PFS(無進行生存期間)が統計学的に有意な、そして、臨床的にも意味のある改善が見られた由。中間解析ではメジアンが26.1ヶ月対7.5ヶ月、ハザードレシオ0.37だった。

PD-0332991は同様なデザインの第三相試験の他に、ホルモン療法不応患者を対象としたFaslodex(fulvestrant、和名フェソロデックス、アストラゼネカ)併用試験と、ネオアジュバント(術前化学療法)と摘出術を受けた再発リスクの高い患者を対象としたアジュバント試験も進行中。乳癌の過半がエストロゲン受容体陽性、her2陰性なので、将来性は高そうだ。

リンク:ファイザーのプレスリリース

新作用機序のIBS-d治療薬の第三相が成功

(2014年2月4日発表)

Furiex Pharmaceuticals(Nasdaq:FURX)は、MuDelta(eluxadoline)の第三相IBS-d(下痢主導型過敏性腸症候群)試験が成功したと発表した。6月までに承認申請する予定。MeDeltaはミュー・オピオイド受容体にはアゴニストとして、デルタ・オピオイド受容体にはアンタゴニストとして作用する経口剤。ミューを作動して下痢を治療し、デルタを拮抗して便秘副作用を抑えるアイディアだ。全身的な暴露は小さく、腸のオピオイド受容体に局所的に作用する。

第三相試験では75mgまたは100mgを一日二回投与する用法をテスト。下痢と腹痛の複合評価項目を用いて奏効率を評価した。IBS-dはFDAとEUの評価基準が若干異なるが、FDA基準(12週間)では偽薬、75mg、100mgの各群が一本は16.2%、28.9%、29.5%。もう一本は17.1%、23.9%、25.1%となった。EU基準(26週間)では各20.2%、30.4%、32.6%と、19.0%、23.4%、29.3%となった。

治療効果は二本目の試験のほうが小さく、75mg群のp値はFDA基準が0.014、EU基準は0.11だった(それ以外は全て0.004以下)。用量が二種類、主評価項目が二つあるのでp値の閾値は低く設定されている筈であり、75mgは一本成功、一本フェールと受け止めた方が良さそうだ。

主な有害事象の発生率は便秘が約8%(偽薬2%)、悪心7%(4%)と若干多かった。膵炎は0.3%、何れも軽度で、大酒のみなどリスク因子を持つ人が多かったようだが、治験医の報告を第三者が査読するプロトコルが導入されたようなので、おそらく重点監視項目だったのだろう。これまでのIBS-d治療薬は虚血性大腸炎リスクが原因で承認されなかったり、用途限定を受けたりしたものが多い。作用機序が異なるものの、直ぐに命に係る病気ではないので、承認審査で稀だが深刻な有害事象が発生していないか、精査されることになるだろう。

Furiexは武田薬品のNesina(alogliptin、和名ネシーナ)などの開発などに携わったPPDの治験受託・開発部門が2010年にスピンアウトしてできた会社。MuDeltaは2011年にヤンセンから権利を取得した。コールバック・オプションは行使されなかったようなので、自社で販売するのか、ライセンスアウトするのかも注目される。

リンク:Furiexのプレスリリース

【承認】


バイオジェン・アイデック、TecfideraがEUで承認

(2014年2月3日発表)

バイオジェン・アイデックは、再発寛解型多発性硬化症の維持療法薬Tecfidera(dimethyl fumarate)がEUで承認されたと発表した。先に発売された米国では経口剤のトップブランドになっており、欧州でも成功しそうだ。

EUは既に承認されている薬の代謝物や異性体を新規活性成分と認めることに否定的で、臨床的に重要な違いがある場合に限定している。fumarateはドイツで乾癬治療薬として20年の市販歴を持つため、当初は新規活性成分と認めなかったが、その後、意見を変えた。このため、承認後10年間はGE薬は販売されない。

リンク:バイオジェン・アイデックのプレスリリース

今週は以上です。

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