2014年2月16日

海外医薬ニュース2014年2月16日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • ギリアッドがC型肝炎治療用合剤を承認申請
  • FDA諮問委員会はcangrelorの承認を支持せず
  • FDAはイグザレルトの適応拡大を認めず
  • 米国でモルキオA症候群治療薬が承認
  • FDAがImbruvicaをCLLにも承認
  • FDAがオングリザの心不全リスクを検討へ


【承認申請】


ギリアッドがC型肝炎治療用合剤を承認申請

(2014年2月10日発表)

ギリアッド(Nasdaq:GILD)はSovaldi(sofosbuvir)とGS-5885(ledipasvir)の合剤を米国で承認申請した。欧州などでも3月までに承認申請する予定。遺伝子型I型の慢性C型肝炎の治療薬で、一日一剤を最短で12週間服用するだけで済む。日米欧はI型感染者が多く、米国の場合75%を占める。

Sovaldiは米国で昨年12月に承認されたNS5Bポリメラーゼ阻害剤。GS-5885はNS5A複製複合体阻害剤で、どちらもI型C型肝炎ウイルスのゲノムに含まれる、宿主細胞内で複製・増殖するのに必要な酵素を阻害する。臨床試験ではribavirinを併用する群も設定されたが、一次治療でも二次治療でも奏効率は二剤併用と大差なかった。FDAからブレークスルーセラピー指定を受けており、優先審査を受けることになりそうだ。インターフェロンもribavirinも不要な、簡便な治療法が年内にも登場することになる。

アッヴィ(NYSE:ABBV)も3種類の新薬を併用するレジメンを6月までに承認申請する見込み。奏効率はこちらの方が若干高いように見えるが、どちらも90%以上なので大きな差がある訳ではない。アッヴィのレジメンは二種類の新薬とritonavirの合剤と一種類の新薬を併用するのでピル数が多く、また、おそらく、薬剤費も高くなるだろう。

アッヴィが3剤併用レジメンの開発を優先したのは将来的に3剤併用が主流になることを見越して先手を打つ狙いと推測されるが、ギリアッドの2剤併用の効果が予想以上に高かったために空振りに終わりそうだ。私自身、NS5A複製複合体阻害剤には注目していたが、ribavirin抜きでこんなに高い奏効率を達成できるとは思わなかった。

もう一つ、意外だったのは、NS5A複製複合体阻害剤の開発で先行していたBMSがギリアッドに抜かれてしまったことだ。BMSは抗PD-1モノクローナル抗体の承認申請でもMSDに追い抜かれてしまった。臨床開発に何か問題があるのだろうか?

リンク:ギリアッドのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会はcangrelorの承認を支持せず

(2014年2月12日発表)

メディスンズ・カンパニー(Nasdaq:MDCO)は点滴静注用P2Y12阻害剤cangrelorをPCIを受ける冠動脈疾患患者や心臓手術などに備えて既存のP2Y12阻害剤の服用を中断した患者の心筋梗塞予防薬として承認申請したが、FDA心臓腎臓薬諮問委員会の支持を受けられなかった。前者の適応については9人の委員中7人が、後者は全員が、反対した。

後者の理由は簡単だ。臨床試験の主評価項目が血小板凝集抑制という代理マーカーに過ぎず、心筋梗塞防止効果が検討されていないからだ。それでも承認申請したのは、取れればラッキーと考えたのだろう。勿論、本命の適応症ではないだろう。

前者に関してネックになったのは主として3点。第一に、最初に実施された二本の第三相試験がフェールしたこと。三本目は心筋梗塞の定義(判定方法)を変えており、以前の二本とは異なる試験なのだが、小さな違いを無視すれば治験成績は一勝二敗となる。

思い出すのは京都府立医科大学や慈恵医大が主導したvalsartanのアウトカム試験だ。日本のvalsartanのアウトカム試験は二勝一敗だが、海外で実施された同様な試験や日本で実施されたcandesartanの二本の試験がフェールしたことを考えれば、成功した二本の方を疑うのが常識人の生活の知恵である。

第二のネックは、三本目の試験では本当の意味での標準療法が採用・実践されていなかったこと。cangrelor群は周術期に投与し終了後にPlavix(clopidogrel)を600mg投与、対照群は施術前にPlavixを600mgまたは300mg投与する用法を採用したが、Plavixの用量が異なることを調整した解析では有意な差は無かった。更に、Plavixの投与タイミングも米国の標準的な慣行より遅かった。また、PCIではGPIIb/IIIa阻害剤を併用することがしばしばあるが、この試験では禁止されていて、そのことが患者向け説明書に記されていなかった。

第三のネックは出血リスクと便益のバランス。cangrelor群の心血管イベントが有意に少なかったとは言え、減ったのは専ら周術期のCKMBの変化に基づいて判定された心筋梗塞なので、臨床的な意義はそれほど大きくない。出血という現実の脅威を覚悟してまで使うべきなのか、難しい問題だ。

FDAの審査担当者はPCIについては好意的に評価したが、心臓腎臓薬承認審査チームのリーダーであるThomas Marciniak医学博士が今回も臨床試験のデザインや実践内容に噛みついた。イーライリリー/第一三共のEfient(prasugrel)と言い、後述のバイエル/ジョンソン・エンド・ジョンソンのXarelto(rivaroxaban)と言い、博士の言動には今後も要注目だ。

これら二剤のPCI試験も、cangrelorの第三の試験も、主導したのは米国の血栓学共同試験グループ、TIMIである。研究者主導試験は製薬会社の影響を受けないので信頼性が高く、大規模なアウトカム試験は良質のエビデンス、という常識は過去のものになったのだろうか?

おそらく、問題は別の箇所にあるのだろう。アウトカム試験が大規模になりすぎて、小さな差でも統計学的に有意になってしまう。しかし、小さな差を正しく検出するためには試験を慎重、確実に行う必要があり、そのためには、対照薬の用法や標準療法の内容、施行要領、被験者の追跡方法などを厳格にコントロールする必要がある。

アウトカム試験の鉄則は日常医療の慣行に即して実施することであり、だからこそ、様々な患者を治療する様々な医療施設に適用できるエビデンスを生み出すことができるのだが、科学研究の原点に回帰して、小さなノイズを排除するために慎重、細心、厳格な試験を行う必要があるだろう。

リンク:メディスンズ・カンパニーのプレスリリース

FDAはイグザレルトの適応拡大を認めず

(2014年2月14日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)は、バイエルから導入したXa阻害剤Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)を急性冠症候群の治療に用いる適応拡大承認申請を2011年に行い、EUでは一部の患者向けに承認されたが、米国は三度、審査完了通知を受領した。

2012年に開催された諮問委員会では、Marciniak医学博士が臨床試験の信頼性に疑問を提示。諮問委員の意見は分かれたが承認反対が賛成を上回り、FDAは審査完了通知を出した。JNJは追跡打切り例のその後を追跡調査して提出したが、再び審査完了となった。JNJは投与期間を90日間に限定して再承認申請したが、今年1月に開催された諮問委員会は、11人中一人も支持しなかった。90日間投与のデータは事後的分析に過ぎないので信頼性が低く、また、データ自体もそれほど良くなかったからだ。

費用の掛かる大規模試験をもう一回行うとは考え難く、おそらく、この用途は開発中止になるだろう。BMS/ファイザーのEliquis(apixaban、和名エリキュース)の急性冠症候群試験は出血リスクが原因で途中で中止になった。Plavix、アスピリン、ワーファリンの三剤同時服用に関しても出血リスクが高まるだけで心筋梗塞再発効果は高まらないという研究結果が発表されており、結局、P2Y12阻害剤とアスピリンがあれば、抗血栓薬を追加する必要はないのだろう。

リンク:JNJのプレスリリース

【承認】


米国でモルキオA症候群治療薬が承認

(2014年2月14日発表)

FDAは、バイオマリン(Nasdaq:BMRN)のVimizim(elosulfase alfa)をムコ多糖症IV-A型(モルキオA症候群)の治療薬として承認した。この疾患の治療薬は初。また、希少小児疾患優先審査バウチャーを獲得したのも初。

モルキオA症候群は、GALNSという酵素の機能不全が原因でグリコサミノグルカンが分解されずに蓄積、骨の異形成、低身長、関節異常などの症状が表れる。患者数は世界で3000人、米国は800人だが、診断されていない患者も多いようだ。VimizimはGALNSを薬剤化した酵素補充療法。5~57歳の患者を24週間治療した試験では、週一回投与した群で、6分歩行検査の成績が偽薬比22.5メートル改善した。レーベルでは命に係るアナフィラキシーのリスクが警告されている。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:バイオマリンのプレスリリース

FDAがImbruvicaをCLLにも承認

(2014年2月12日発表)

FDAは、Btk阻害剤Imbruvica(ibrutinib)を再発性慢性リンパ性白血病(CLL)用薬として承認した。昨年11月のマントルセル・リンパ腫に次ぐ、二番目の適応症で、市場規模が2倍以上に拡大した。

BtkはBセルの生存を助長する三種類のメカニズムに関与するチロシンキナーゼで、阻害するとアポトーシスを誘導できる。再発性CLLの第二相試験では客観的反応率(ORR)が58%、反応持続期間は5~24ヶ月だった。今回の承認はこのデータに基づく加速承認だが、先月、第三相のArzerra(ofatumumab、和名アーゼラ)対照試験が中間解析で成功したので、早晩、本承認に切り替わるだろう。

マントルセル・リンパ腫の治療は140mgカプセル4個を一日一回服用、薬剤費はWAC(問屋取得価格)ベースで月10900ドルだが、CLLは3個と少ないので多少安くなる。米国の年間発症数はCLLが3倍多い。

Imbruvicaはファーマサイクリクス(Nasdaq:PCYC)がジョンソン・エンド・ジョンソンと共同開発したもの。米国の売上はファーマコサイクリクスが、海外の売上はJNJが計上し、開発費はJNJが6割負担、利益は両社で折半する。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:JNJのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDAがオングリザの心不全リスクを検討へ

(2014年2月11日発表)

FDAは、アストラゼネカの二型糖尿病用DPP-4阻害剤、Onglyza(saxagliptin、和名オングリザ)の心不全リスクを検討すべく、SAVOR-TIMI 53試験のデータの提出をメーカー側に要求したことを発表した。

この試験は承認時のフェーズIVコミットメントの一つで、主評価項目は様々な心血管疾患の複合評価項目だが、膵炎を始めとして様々な安全性監視項目が設けられている。2015年7月に完了し、2016年1月までに結果をFDAに提出するスケジュールだった。

昨年9月のEASD欧州糖尿病研究学会で結果が発表され、New England Journal of Medicine誌のホームページで論文も刊行された。主評価項目では群間差はなかったが、意外なことに、心不全による入院のリスクが対照群の1.27倍、p=0.007だった。発生率はOnglyza群が3.5%、対照群は2.8%なので、決して低くはない。心不全のリスクが元々高い患者や、BNP値上昇の見られる患者で特にリスクが高いようだ。

主評価項目の集計対象イベントの一つなので判定に過ちがあった可能性は低い。高リスク患者に偏りがあった可能性や、多重性による誤謬である可能性は残っているが、2013年9月8日号で書いたように、安全性に関わることなので無垢が証明されるまでは慎重に受け止めた方が良いだろう。

FDAは、Onglyzaを服用している患者は自己の判断で服用を中止すべきではない、もし懸念があるなら担当医に相談せよ、と述べている。その通りだ。通常なら、十分な情報も無いのに相談されても困るだろうと書くところだが、今回は4ヶ月前に治験論文が出ているし、メーカー側も学会発表時のプレスリリースで明記しているので、医師は知っている筈だ。

一つ残念なのは、NEJM論文は学会発表時にはオープンアクセスだったが、現在では抄録しか一般公開されていない。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:NEJM論文(抄録)

リンク:アストラゼネカらのEASD発表時のプレスリリース(13/9/2付)

今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


0 件のコメント:

コメントを投稿