2014年1月26日

海外医薬ニュース2014年1月26日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • ランバキシーはAPIも米国輸入禁止に
  • BMSのnivolumab開発計画に変調?
  • ロシュ、新しい作用機序の向精神薬の第三相試験がフェール
  • CHMPがバイエルの肺高血圧症用薬などに肯定的意見
  • FDAはAMAGの静注用鉄の適応拡大を認めず
  • EUがGSKのインテグラーゼ阻害剤を承認


【今週の話題】


ランバキシーはAPIも米国輸入禁止に

(2014年1月23日発表)

FDAは、第一三共の子会社であるインドのランバキシーがToansa工場で生産するAPI(医薬品の原体)に関して、米国での販売を禁止する処分を取った。他の国で製品化されたものも禁止。同工場は同社が米国で販売しているジェネリック薬の7割を担っており、大きな打撃だ。

同社はPaonta Sahibなど三工場で生産する医薬品についても米国輸入禁止処分を受けており、2012年にFDAと同意審決を結び、品質管理問題(cGMP問題)解消に向けて取り組んできた、筈だった。新たな問題が発覚したことは、事態が収拾に向かうどころか深刻化していることを示している。

FDAによれば、今月11日に完了した査察で、同工場の従業員が原料や中間体、そして完成したAPIが規格検査に合格しなかった場合に、許容可能な結果が出るように再試験を行ったり、不合格になったことを報告しなかったりしていた。ランバキシーは13日にFDAから第483書式(査察の所見や問題点を指摘する文書)を受領したことを発表したが、APIの対米輸出をストップしたことはFDAが23日に輸入禁止処分を発表した翌日まで、公表しなかった。

1月16日にはインドのビジネス・スタンダード紙が、他社のAPIを使って米国でDiovan(valsartan)のGE薬を発売する計画であることをスクープしたが、この動きもToansa工場産品の輸入禁止に備えたものだろう。

FDAの発表を受けてランバキシーや第一三共の株価が大きく下落した。両社はもっと早い段階で情報開示すべきだったし、株式市場も、cGMP問題は容易くは解決しないことを理解すべきだろう。

リンク:FDAのプレスリリース(1/23付)

リンク:ランバキシーのプレスリリース(1/24付)

リンク:同(1/13付)

リンク:ビジネス・スタンダード紙の関連記事(1/16付)

【新薬開発】


BMSのnivolumab開発計画に変調?

BMSは1月24日に開催した決算説明電話会議で、小野薬品と共同開発している抗PD-1抗体、BMS-936558(nivolumab)に関して、Yervoy(ipilimumab)併用肺癌試験は現在の第一相試験を継続し、直ぐには承認申請用試験には進まないことを明らかにした。非常に大きな期待を受けている薬であるため、株価が下落した。

アナリストからの質問は、殆どがnivolumabに関するものだった。両剤の併用試験に昨秋、低用量群が追加されたことや、最近治験登録されたnivolumabの第三相非小細胞性肺癌一次治療試験がPD-L1高発現例だけを対象にしていることについて多くの質問が出た。

何れも、奇異なことではないが、期待が大きいことや、ライバルのMSDが抗PD-1抗体MK-3475(lambrolizumab)のローリング承認申請を悪性黒色腫向けに開始したことなどが影響しているのだろう。BMSの強みは同社のYervoyを併用する方法の開発で先行していること、及び、肺癌や腎細胞腫でもいち早く第三相入りしていることだ。それだけに、少しの紆余曲折でもネガティブに受け止められてしまうのだろう。

BMSはASCO米国臨床腫瘍学会でnivolumabに関する様々な発表を行う予定であり、今回の電話会議では部分的な説明に留まった。肺癌は様々なタイプがあることから、BMSは患者背景に応じてYervoy併用時の用量を調整したり、併用と単剤療法を使い分ける可能性を視野に入れているような印象だ。対象患者や用量が変われば将来の年商も変わるので、株価の評価額も変わってくる。もしかしたら、アナリストは何らかの安全性懸念が発生した可能性を危惧したのかもしない。



同社がイムクローン(後にイーライリリーが買収)と共同開発したErbitux(cetuximab)は、結腸直腸癌に承認された後になって、ras主要関連遺伝子に変異のある患者には無効でむしろ有害である可能性が明らかになり、対象人口が4割程度減少した。抗癌剤の開発はスピードが重要だが、それだけに、重要なことを見落とすリスクもある。nivolumabに関しても、数々の試験の成績を総合的に評価して最適な患者、用法を探索する考えなのだろう。

尚、承認申請の時期に関しては、扁平上皮非小細胞肺癌の三次治療第二相試験が今年前半に成功したら加速承認を求める可能性があると語った。

ロシュ、新しい作用機序の向精神薬の第三相試験がフェール

(2014年1月21日発表)

ロシュは、RO4917838/RG1678(bitopertin)の第三相試験6本のうち、最初に開票した2本がフェールしたと発表した。陰性症状優勢型の統合失調症の治療は3本中2本がフェールしたことで承認申請が難しくなった。残りの三本は陰性症状、陽性症状を問わずに統合失調症治療効果を検討したものだが、事前の期待は陰性症状改善効果のほうが大きかったので、成功を期待するのは難しい。

bitopertinは一型グリシン輸送蛋白を阻害する小分子薬。統合失調症にはNMDA受容体の抑制が関連している可能性があり、この受容体の共アゴニストであるグリシンの再取込を阻害し増強することによって、症状を改善できる可能性があった。第二相試験で陰性症状改善作用が示唆されたが、統合失調症の開発は中々上手く行かないので、第三相試験成功の期待値は決して高くなかった。

リンク:ロシュのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPがバイエルの肺高血圧症用薬などに肯定的意見

(2014年1月24日発表)

EUの医薬品科学的評価機関であるCHMPは、1月の会合で、バイエルの肺高血圧症用薬など三種類の新薬に肯定的意見を纏めた。一方、テバの多発性硬化症薬やノバルティスの急性心不全治療薬など四剤には否定的意見を出した。肯定的意見を受けたものは、2~3ヶ月内に承認されることになる。

リンク:CHMPのプレスリリース

肯定的意見を受けた新薬は、まず、バイエルのAdempas(riociguat)。WHO機能クラスがIIまたはIIIのCTEPH(慢性血栓塞栓性肺高血圧症)や肺動脈高血圧症の治療に用いる。どちらも100万人に数十人の希少疾患。CTEPHは切除術が第一選択なので、Adempasは切除不能あるいは切除しても症状が十分に改善しない患者に用いる。深刻な副作用としては喀血、肺出血、腎障害のリスクが高まる可能性がある。

Adempasは可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激剤。肺高血圧症に関与する三種類のパスウェイのうち、酸化窒素が血管平滑筋を弛緩するパスウェイを増強する。酸化窒素に依存しない直接的な可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激作用も持っているようだ。この作用機序の薬は初。CTEPHの治療薬も初となる。米国では昨年10月に、日本でも今月、CTEPHに、承認された。

リンク:CHMPのサマリーオピニオン(pdf)

リンク:バイエルのプレスリリース

次に、グラクソ・スミスクラインのEperzan(albiglutide)。二型糖尿病の治療に用いる。遺伝子組換え型GLP-1をアルブミンと細胞融合して半減期を延ばしたもので、Victoza(liraglutide)は一日一回皮注だが、Eperzanは週一回皮注で済む。効果やこの種の薬に共通する副作用である悪心嘔吐の発生率はVictozaやByetta/Bydureon(exenatide)と大差ない。

リンク:CHMPのサマリーオピニオン(pdf)

リンク:GSKのプレスリリース

最後に、大日本住友製薬が開発し英国以外の欧州では武田が開発販売するLatuda(lurasidone)。統合失調症の治療に用いる。

リンク:CHMPのサマリーオピニオン(pdf)

CHMPのリリースには出ていないが、ロシュのMabThera(rituximab、和名リツキサン、米名Rituxan)の皮注用新製剤も肯定的意見を受けた。現行の製剤は2時間半掛けて点滴静注するが、新製剤は5分間で投与が終了する。ハロザイム(Nasdaq:HALO)の遺伝子組換え型ヒアルロニダーゼ技術を応用したもので、皮下のヒアルロナンを一時的に零落させることによって抗体医薬のような高分子薬が通過できるようにした。ロシュは他の抗体医薬にも応用・開発中。

リンク:ロシュのプレスリリース

リンク:ハロザイムのプレスリリース

適応拡大では、ノバルティスのXolair(omalizumab、和名ゾレア)を慢性特発性蕁麻疹の治療に用いることが支持された。12歳以上で、抗ヒスタミンに十分反応しない患者が対象になる。現在は難治性喘息症に承認されている。

リンク:CHMPのサマリーオピニオン(pdf)

リンク:ノバルティスのプレスリリース

今月は否定的意見が多かった。まず、テバがスエーデンのアクティブ・バイオテック(OMX:ACTI)からライセンスして開発したNerventra(laquinimod)。再発寛解型多発性硬化症の維持療法として承認申請されたが、第三相試験の一本がフェールしたため、すんなり承認される可能性は元々低かった。初耳だったのは、前臨床の癌原性試験や催奇性試験で懸念が生じていたこと。後者は死産が増加したり、生後時間が経ってから副作用が表面化したりするので、通常よりも厳格な注意・監視が必要である模様。

再発寛解型多発性硬化症はQOL(生活品質)を損ね10年、20年後には寝たきりになる可能性もあるが、今すぐ命に係る訳ではない。10年後のリスクを回避する治療が例え稀であっても癌を誘導するのでは、割に合わない。実際には病気が進行し既に歩行に支障が生じている患者にも使われているのだろうが、これらの薬の臨床試験は自立歩行できない患者を除外しているので、このような患者に効果があるのかどうか、分からない。

両社は、CHMPに再審査を請求する考えだ。

リンク:CHMPのサマリーオピニオン(pdf)

リンク:両社のプレスリリース

次に、ノバルティスがCorthera社を買収して入手した遺伝子組換え型ヒトrelaxin-2、Reasanz(serelaxin)。急性心不全で入院した患者を治療した第三相試験が成功、医学会やLancetで大々的に発表されたが、CHMPの評価は厳しかった。

二種類の主評価項目のうち、5日間通算の呼吸困難症状は偽薬より有意に良かったが、CHMPによると、臨床的な意義は明確ではない。もう一つの、最初の6時間、12時間、24時間の呼吸困難症状改善奏効率は偽薬と大差なかった。そもそも、解析方法に問題がある由で、死亡・治療追加例に関しては実際の数値ではなく推定値を用いているとのこと。また、標準療法の内容に群間の偏りがある由。このため、もう一本実施して効能を確認する必要があると断じた。

CHMPは急性心不全治療薬の薬効を全死亡で評価することを好むと言われている。Reasanzの試験では、60日間の退院・生存率や心血管死・心腎不全再入院の解析はフェールしたが、180日間の心血管死や全死亡では有意な差があった。CHMPが重視しなかったのは、p値が0.02~0.03と有意性があまり高くなかったからだろう。最近のアウトカム試験は心筋梗塞や不整脈、心不全を十分改善することができなくても何故か全死亡で有意差が出ることがあり、違和感を持つことが少なくない。

ノバルティスはデータを見直して再提出し、再審査を促す考えだが、難しそうだ。二本目の第三相試験が進行中なので、結果を待つことになりそうだ。

リンク:CHMPのサマリーオピニオン(pdf)

リンク:
ノバルティスのプレスリリース


フランスのABサイエンスが承認申請したMasiviera(masitinib)は、消化管間質腫瘍に続き、膵癌でも否定的意見を受けた。gemcitabine併用で実施した第三相試験がフェールしたこと、サブグループ分析で一部の患者に効果が示唆されたが事後的分析であること、副作用懸念、不純物に関する懸念、治験で用いられた製剤と量産バッチとの同等性、などが理由だ。ABサイエンスは異議申立を行う考え。masitinibはC-KIT阻害剤で、犬の肥満細胞腫瘍薬として販売されている。

リンク:CHMPのサマリーオピニオン(pdf)

リンク:ABサイエンスのプレスリリース(pdf)

PTCセラピュティクス(Nasdaq:PTCT)がデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療薬として承認申請したTranslarna(ataluren)も否定的意見。

この病気の患者の一部はジストロフィンの遺伝子にストップコドンと呼ばれる翻訳を終了させる塩基配列がある。atalurenはこのストップコドンの読み取りを阻害する薬で、通常より短いがある程度の機能を持つジストロフィンが産生されるようになる。残念ながら、後期第二相試験はフェールし、低量群は6分歩行検査が偽薬比で30メートル弱の差が見られたが有意水準には達しなかった。高量群は偽薬並みだった。

CHMPは治療効果の小ささ、用量反応関係の検討が不十分であること、作用機序の探索も不十分であることを理由に、条件付き承認を認めなかった。

PTCは再審査を請求する考え。PTCによると、CHMPは条件付き承認すると進行中の第三相試験の組入れが進まなくなり薬効確認できなくなることを心配している。再審査請求の結論が出るころには組入れがかなり進んでいる筈なので、懸念が後退するはず、という読みだ。

私はいつも思うのだが、患者が望んでいるのは新薬ではなく、自分に効く薬である。有効性の検討を十分に行わずに迅速承認し効かないかもしれない薬を使い続けることは、患者の期待をむしろ裏切ることになるのではないだろうか。

リンク:CHMPのサマリーオピニオン(pdf)

リンク:PTCのプレスリリース

CHMPの否定的意見を受け承認申請が撤回されたのが、東レのWinfuran(nalfurafine、和名レミッチ)だ。2009年1月に日本で血液透析患者のそう痒症の治療薬として承認され、鳥居薬品が販売している選択的なオピオイドカッパ受容体作動薬だが、海外の試験はフェールした模様。重度患者には穏やかな効果があったが臨床的な意味は不十分、と評価した。

日本はドラッグラグ解消のため新薬をどんどん承認しているが、海外の試験がフェールしたものも偶にある。なぜ海外試験がフェールしたのか、という疑問は、なぜ日本の試験は成功したのか、という疑問と裏腹だ。

リンク:CHMPのQ&A集




FDAはAMAGの静注用鉄の適応拡大を認めず

(2014年1月22日発表)

AMAGファーマシューティカルズ(Nasdaq:AMAG)は、Feraheme(ferumoxytol)の適応拡大申請に関してFDAから審査完了通知を受領したと発表した。安全性懸念があるようだ。

現在は、鉄欠乏性貧血で経口鉄に不耐不応の慢性腎疾患患者向けに承認されている。AMAGは慢性腎疾患以外に対象人口拡大を図ったが、FDAは、臨床試験で深刻な過敏反応/アナフィラキシー、心血管安全性、死亡リスクを評価するよう求めた。用法変更も提案した模様だ。欧州でも武田薬品が適応拡大申請中だが、見通しが暗くなった。

リンク:AMAGのプレスリリース

【承認】


EUがGSKのインテグラーゼ阻害剤を承認

(2014年1月21日発表)

GSKの抗HIV薬合弁会社であるViiVヘルスケアは、EUがTivicay(dolutegravir)を承認したと発表した。HIVの遺伝子が宿主細胞のゲノムに組入れられる時に必要なインテグラーゼ・トランスフェラーゼを阻害する薬で、先行品に耐性を持つウイルスの多くに有効。通常は多剤併用療法の一つとして50mgを一日一回服用するが、インテグラーゼ・トランスフェラーゼ阻害剤耐性ウイルスに感染している患者や、ある種の薬物相互作用のある薬を服用している患者は、50mgを一日二回服用。

Tivicayは日本たばこが創製し、ViiVヘルスケアにライセンスしたもの。

リンク:GSKのプレスリリース

今週は以上です。

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