2013年9月28日

海外医薬ニュース2013年9月29日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • JNJの抗HCV薬が日本で初承認
  • ルンドベック/武田の抗鬱剤は無事承認されるか?
  • イーライリリーの抗VEGFR-2抗体は胃癌が成功、乳癌はフェール
  • dalvancinが二度目の承認申請
  • EUがアストラゼネカのPARP阻害剤とオピオイド誘導性便秘薬の承認申請を受理
  • CHMPがJNJの二型糖尿病薬などの承認を支持
  • FDAはブリディオンを未だ承認しない
  • EUがベーリンガーや武田の新薬とJNJ等の適応拡大申請を承認
  • タイガシルは死亡リスクが高まる
  • 抗CD20抗体のHCV/HBV増悪リスクを警告強化


【今週の話題】



JNJの抗HCV薬が日本で初承認

(2013年9月27日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセンファーマは、ソブリアード(Sovriad、simeprevir)が厚生労働省に承認されたと発表した。慢性C型肝炎の一次、二次治療薬としてアルファ・インターフェロンやリバビリンと併用する。併用二剤は24週間又は48週間投与するが、ソブリアードは最初の12週間、100mgを一日一回経口投与する。スエーデンのMedivirからライセンスしたNS3/4Aプロテアーゼ阻害剤。

日本の承認を取り上げたのは、同社が世界に先駆けて日本で申請したからだ。海外と並行して日本でも臨床試験が進められ、理由は知らないが、海外より少ない用量が選定された。日本で最初に承認される薬は珍しくなくなったが、主として海外の治験データに基づくものでありながら、海外の審査機関が承認を躊躇っているうちに日本が承認するというパターンが多い。今回は明らかに異なり、日本の産学官の連携の賜物なので意義がある。

リンク:ヤンセンファーマのプレスリリース(和文)

ルンドベック/武田の抗鬱剤は無事承認されるか?

日本のねじれ国会は解消したが、米国は上院が民主党、下院は共和党が過半数を占める状態が続いており、予算案がすんなりと通らずに綱渡りを繰り返している。行政サービスが滞ったり、国債の元利返済が遅れたら大変なことになるはずだが、お構いなしだ。このままだと10月1日以降、連邦政府の機能がストップし国民や産業界に皺寄せが出てしまう。一日、二日ならまだ良いが、長期化したらどうなるのだろうか?

治安なども心配だが、海外医薬ニュースに関係するのは、ルンドベックが武田薬品と共同開発して承認申請し10月2日にPDUFA審査期限を迎える抗鬱剤、Brintellix(vortioxetine)だ。数年前に当時のFDA長官が、スケジュールが押している場合は休日出勤も辞さずの心構えで審査するよう通知したことがあり、がんばって9月30日に承認したら賞賛ものだが、どうだろうか。

【新薬開発】


イーライリリーの抗VEGFR-2抗体は胃癌が成功、乳癌はフェール

(2013年9月26日発表)

イーライリリーはIMC-1121B(ramucirumab)の第三相試験二本の成否を発表した。転移性胃癌で一次治療に不応・難治性だった患者を組入れてdocetaxelと併用する効果を調べた無作為化割付偽薬対照二重盲検試験は成功、主評価項目の全生存期間も二次的評価項目のPFS(無増悪生存期間)も、docetaxelだけの群より有意に向上した。

同様な患者を対象としたモノセラピー試験が既に成功しており、リリーはローリング承認申請を開始した模様。モノセラピー試験は効果もp値もそれほど良くなかったが、二本目の成功で承認の展望が開けた。

一方、her2陰性転移性乳癌にdocetaxelと併用した一次治療試験はフェールした。IMC-1121BはVEGFの受容体をブロックする完全ヒト化抗体で、VEGFをブロックするロシュのAvastinと同じではないが似かよった作用機序を持つ。両剤ともフェールしたことを考えれば、乳癌細胞がVEGFを分泌して血管新生を促進するのを阻害しても無効なのだろう。

この他に、結腸直腸癌や肺癌、肝細胞腫でも第三相試験中。結腸癌も肺癌もAvastinの試験が成功したので、IMC-1121Bも成功を期待できるだろう。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

【承認申請】


dalvancinが二度目の承認申請

(2013年9月26日発表)

シカゴの新興製薬会社、Durata Therapeutics(Nasdaq:DRTX)は、バンコマイシン系静注用抗生物質のdalbavancinをグラム陽性菌によるABSSSI(急性細菌性皮膚・皮膚構造感染症)の治療薬としてFDAに承認申請した。元々はファイザーが19億ドルを投じて買収した企業の開発品で、2004年にSSTI(皮膚・軟組織感染症、その後FDAが呼称を上記に変えた)治療薬として承認申請されたが承認されず、09年にDurataに開発販売権を譲渡したもの。

FDAの特別プロトコル審査を受けた二本の第三相が成功したので、今回こそ承認されるだろう。抗生剤開発奨励制度が適用されたので、優先審査を受け、承認された場合は通常より5年長い排他権が供与される。

リンク:Durataのプレスリリース

EUがアストラゼネカのPARP阻害剤とオピオイド誘導性便秘薬の承認申請を受理

(2013年9月27日発表)

新薬に紆余曲折は付き物だが、アストラゼネカが企業買収によって入手したPARP阻害剤、AZD2281/KU-0059436(olaparib)も崖っぷちから蘇った。卵巣癌維持療法の第二相試験がフェールし、同社がKuDOS買収時に計上した無形資産を償却したのでもう終わりと思っていたが、ポストホック分析でBRCA1/2型に対する有効性が浮上。第三相試験が開始されただけでなく、EUに承認申請され受理されたのである。

PARPは損傷したDNAの塩基を除去修復する生来のメカニズムに係るポリメラーゼ。BRCA1/2はDNAを修復するもう一つのメカニズムに係る蛋白。後者に遺伝性変異を持つ女性は卵巣癌や乳がんを発症するリスクが高い。発症した患者にPARP阻害剤を投与すると、DNA損傷メカニズムが両方とも機能しなくなり、細胞がアポトーシスする。

問題の第二相試験は高悪性度漿液性卵巣癌で白金薬治療を受け部分反応・完全反応した患者に400mgを一日二回、経口投与したもの。PFSはメジアン8.4ヶ月と偽薬群の4.8ヶ月を上回りハザードレシオ0.35と有意な効果を示したが、全生存期間の予備的中間解析はハザードレシオ0.94、有意差なしという失望的な結果だった。

ところが、その後に実施された先天性BRCA1/2変異型患者136人の事後的サブグループ分析で、PFS11.2ヶ月(偽薬群は4.1ヶ月)、ハザードレシオ0.17、95%信頼区間0.09-0.32と大変良い結果が出た。全生存期間の中間解析は34.9ヶ月対31.9ヶ月、ハザードレシオ0.74。症例不足で有意水準には達していないが期待できそうな数値だ。

それにしても、EUが第二相試験の事後的分析に基づく承認申請を受理したのは意外だ。この種の遺伝子検査は偽陽性などのリスクがあり、また、事後的分析なので盲検が維持されないリスクがある。BRCA検査は最もポピュラーな遺伝子検査の一つなので、判定ミスのリスクは小さいのかもしれない。だが、もし検査が簡明なら初めから全例検査して階層化しただろう。

アストラゼネカは、同日、EUがnaloxegolの承認申請を受理したことも発表した。09年にネクター社(Nasdaq:NKTR)からライセンスした末梢オピオイド受容体拮抗剤で、オピオイドの副作用である便秘の治療に用いる。

リンク:アストラゼネカのプレスリリース(olaparib)

リンク:同(naloxegol)

【承認審査・委員会】


CHMPがJNJの二型糖尿病薬などの承認を支持

(2013年9月19日発表)

先週、書き漏らしたものをフォローアップする。EUの医薬品科学的評価機関であるCHMPは9月の会議で以下の新薬、適応拡大に関しても肯定的意見を纏めた。順調なら3ヶ月以内に承認されることになるだろう。

・JNJが田辺三菱製薬からライセンスして共同開発したSGLT2阻害剤、Invokana(canagliflozin)。二型糖尿病の血糖管理に用いる。米国では3月に承認された。

リンク:JNJのプレスリリース

・ギリアッド(Nasdaq:GILD)が日本たばこからライセンスして開発したインテグラーゼ阻害剤、Vitekta(elvitegravir)。HIV/AIDSの多剤併用療法の一つとして用いる。米国は品質検査手法に係る懸念が浮上した模様で、審査完了通知を受領した。ギリアッドは本件に関するプレスリリースを出していないようだ。

リンク:EUのプレスリリース

・スエーディッシュ・オーファン・バイオヴィトラム(STO:SOBI)のKineret(anakinra)の適応拡大。クリオピリン関連周期性症候群(CAPS)に用いる。CAPSは100万人に一人の希少疾患。1月に米国で承認されたが、EUの方が様々なサブタイプに対する効能・安全性を認めた。

リンク:SOBIのプレスリリース

・BMSのYervoy(ipilimumab)の適応拡大。悪性黒色腫の再発時だけでなく、一次治療に用いることも支持された。

・ノバルティスのVotubia(everolimus)をTSC(結節硬化複合体)患者のSEGA(上衣下巨細胞性星細胞腫)に用いる時の対象年齢制限(3歳以上)を解除。

FDAはブリディオンを未だ承認しない

(2013年9月23日発表)

MSDはFDAにBridion(sugammadex、和名ブリディオン)の承認申請をしていたが、再び審査完了通知を受領した。FDAが過敏反応リスクを懸念したためアレルギー感受性試験を実施したが、治験施設の査察で懸念が浮上した模様。残念な話だ。

Bridionは多くの国で承認され、特に日本で多く使われている。日本のレーベルを見ると、海外の健常者試験でアナフィラキシーを含む過敏反応の発生率が4mg/kg投与群で0.7%、16mg/kg群では4.7%発生した。アナフィラキシー・ショックも発生した模様だ。16mg/kgは日本で承認されている用量なので、レーベルに記されているように、医療従事者は観察を十分に行い、異常が認められた場合には直ちに適切な処置を行う必要がある。

リンク:MSDのプレスリリース

【承認】


EUがベーリンガーや武田の新薬とJNJ等の適応拡大申請を承認

(2013年9月25日発表)

CHMPは夏休み期間に数多くの肯定的意見を出したが、2~3ヶ月のラグで以下の新薬、適応拡大がEUに認められた。

・武田薬品のDPP-4阻害剤alogliptinと二種類のコンビ薬が同時承認。二型糖尿病の血糖治療に用いる。alogliptinの製品名は日本はネシーナ、米国もNesinaだが欧州はVipidia。pioglitazone配合剤は夫々リオベル配合錠、Oseni、Incresync。metformin配合剤は米国がKazano、欧州はVipdomet、と複雑だ。

リンク:武田のプレスリリース(9月24日付、和文)

・ベーリンガー・インゲルハイムのGiotrif(afatinib)。EGFR変異陽性の非小細胞性肺癌の治療に用いる。米国では7月に承認。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース(9月25日付)

・ギリアッドの3A4阻害剤、Tybost。抗HIV薬atazanavirまたはdarunavirのブースターとして用いる。アッヴィ社の隠れたベストセラー、ritonavirの競合薬。米国は品質検査手法に関する懸念が浮上、審査完了に留まった。

リンク:ギリアッドのプレスリリース(9月25日付)

・GSKのRevolade(eltrombopag、和名レボレード)の適応拡大。慢性C型肝炎でインターフェロン・ベースの治療を受ける患者の血小板減少症の治療する。肝炎で血小板減少症を合併する患者はインターフェロンとリバビリンによる治療を行うと副作用で悪化する可能性があるのでNG。Revoladeで血小板を増やせばもっと多くの患者が抗HCV治療を受けられるようになる。肝臓副作用が出ることがあるので要注意。

リンク:GSKのプレスリリース(9月24日)

・JNJのStelara(ustekinumab)の適応拡大。乾癬性関節炎に用いる。JNJは同日に米国でも承認されたことを発表した。

リンク:JNJのプレスリリース(欧州適応拡大、9月23日付)

リンク:同(米国適応拡大、9月23日付)

・JNJのSimponi(golimumab)の適応拡大。難治性中重度潰瘍性大腸炎に用いる。類薬であるRemicade(infliximab)は数多くの用途で承認されているのでSimponiも一つ一つキャッチアップする必要がある。

リンク:JNJのプレスリリース(9月23日)

【医薬品の安全性】


タイガシルは死亡リスクが高まる

(2013年9月27日発表)

FDAは、Tygacil(tigecycline、和名タイガシル)の死亡リスクを警告するべく、ファイザーがレーベルを改定して枠付警告することを承認したと発表した。静注用抗生物質で、多剤耐性グラム陽性菌にも活性を持つため、わが国でも日本感染症学会、日本化学療法学会、日本環境感染学会、日本臨床微生物学会が共同で要望し、昨年承認された。

第三相試験で死亡リスクが活性対照薬より高かったが、サンプル数が少なく、安全性ではなく効果の問題である可能性も考えられた。その後、別の試験も含めてFDAが行ったメタアナリシスで死亡率が4%と対照群の3%より高く、群間差の95%信頼区間は0.1~1.2%だった。更に、承認されている用途の試験だけの5000例を超えるメタアナリシスが行われ、死亡率2.5%対1.8%、差の95%信頼区間は0.0~1.2%だった。

このため、FDAは、他の治療薬が不適当な場合だけに用いることを推奨した。

リンク:FDAのプレスリリース

抗CD20抗体のHCV/HBV増悪リスクを警告強化

(2013年9月25日発表)

FDAは、Rituxan(rituximab、和名リツキサン)とArzerra(ofatumumab、和名アーゼラ)のレーベルを改定して、慢性B型肝炎や慢性C型肝炎の増悪リスクを枠付警告したことを発表した。この二つの抗CD20抗体医薬は免疫抑制作用が強くウイルスや細菌による感染症のリスクが高まることは周知だが、肝炎が悪化して肝不全や致死例も発生しているようだ。作用が長く続くせいか、治療を終了して数ヶ月経ってから発症した例もある由。

このため、投与開始前にウイルス検査を行い、感染経験者であった場合はモニタリング方法や治療方針を専門医に相談する。発症したら投与を止め速やかに治療する。

リンク:FDAのプレスリリース

今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


0 件のコメント:

コメントを投稿