2013年9月22日

海外医薬ニュース2013年9月22日号

 



【ニュース・ヘッドライン】




  • 第二のXenicalが遂に発売
  • FDAがランバキシーに新たな輸入禁止措置
  • エクソン・スキッピング薬の第三相試験がフェール
  • 二重顎治療薬の第三相が4本とも成功
  • CHMPがロシュのカドサイラなどに肯定的意見
  • EUがサノフィのLemtradaを承認


【今週の話題】



第二のXenicalが遂に発売

(2013年9月20日発表)

武田薬品は厚生労働省から肥満症治療薬オブリーン錠(セチリスタット)の製造販売承認を取得したと発表した。ロシュが海外で販売しているXenical(orlistat)の類薬で、脂肪の吸収に必要なリパーゼを阻害する。ライセンス元はオランダのNorgine BVで、経営破たんした英国のAlizyme社から2009年に権利を完全取得したもの。

リパーゼ阻害剤は吸収されなかった脂肪が肛門から漏れたり脂肪便になって水洗トイレで中々流れなかったりする。cetilistatはこの副作用がXenicalより起きにくいことが期待されたが、それほどでもなかった。Alizymeは2003年に日本の権利を武田薬品にライセンスした後、欧米市場での開発販売パートナーを探したが、見つからなかった。

体重管理薬は米国でfenfluramineとその光学異性体、欧州ではsibutramineやbenfluorexなどを巡り安全性懸念が浮上、大規模な心血管アウトカム試験が求められるようになり、Alizymeのような新興企業が単独で開発するのは困難になった。体重管理薬を開発する米国の新興企業も開発パートナーを探したが、アリーナ(Nasdaq:ARNA)はエーザイ、オレキシジェン(Nasdaq:OREX)は武田と日本の製薬会社しか手を組まず、ヴィーヴァス(Nasdaq:VVUS)は単独販売となった。

sibutramineは心血管アウトカム試験で懸念が浮上し欧州では承認取消、米国でも警告強化されたが、その直前に、日本では第一部会を通過した。このように、日本は欧米とは全く異なった考えを持っており、今や、日本企業と日本市場は体重管理薬開発の主要な担い手になっている。

オブリーンの日本での第三相では、120mgを一日三回、52週間投与したところ体重が2.8%減少し、偽薬群の1.1%減少を有意に上回った。治療効果は1.7%、体重100kgの患者なら1.7kgということになる。腹囲は体重と相関するので、1.7kg低下なら1~2cm改善するだろう。腹囲が86cmの男性なら、メタボのレッテルを破り捨てることができるかもしれない。

リンク:武田薬品のプレスリリース(日本語)

FDAがランバキシーに新たな輸入禁止措置

(2013年9月16日発表)

FDAは第一三共グループのGE薬メーカーであるランバキシーに対して、インドのMohali工場で生産された医薬品を米国に輸入することを禁じる措置を取った。cGMP(生産管理に関する基準)違反が理由。Paonta Sahib工場とDewas工場も同様な措置を受けており、事態が改善するどころかむしろ悪化している。

FDAはMohali工場を2012年9月と12月に査察し、異物混入が看過され適切な再発防止策が取られていないことを発見した。ランバキシーにとっては三度目の経験なのだから、上場企業の責務としてこの時点で公表してもよかったのではないかと感じられる。

リンク:FDAのプレスリリース

【新薬開発】


エクソン・スキッピング薬の第三相試験がフェール

(2013年9月20日発表)

オランダの新興企業Prosensa(Nasdaq:RNA)と開発パートナーのグラクソ・スミスクラインは、PRO051/GSK2402968(drisapersen)の第三相デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)試験がフェールしたと発表した。Prosensaの株価は70%下落、競合品を開発しているSarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)の株価は高騰と明暗が分かれたが、今回のフェールは作用メカニズムに疑念を生じさせた面もあるので、要注意だ。

この無作為化割付偽薬対照二重盲検試験は、DMDの少年186人を6mg/kgを週一回、皮注する群と偽薬群に2:1割付して48週間実施した。主評価項目の6分歩行テスト改善幅の群間差は10.3m、p=0.415となりフェール。第二相試験実績の31.5mを大幅に下回った。運動機能に係る様々な二次的評価項目でも効果が見られなかったようだ。主な有害事象は注射箇所反応(発生率78%、偽薬群は16%)や腎有害事象(各46%と25%)。

drispersenは、DMDの原因であるジストロフィン遺伝子の変異を補うために、遺伝子が翻訳される時に変異部位の塩基配列を無視してしまう、エクソン・スキッピングという現象を誘導する。短いがある程度の機能を持つジストロフィンが作られるようになる。ジストロフィン遺伝子は79のエクソンに分かれているが、drispersenが有効なのはエクソン51だけで、DMD患者の13%程度が対象になる。

Sareptaも同様な作用を持つeteplirsenを開発しているが、CMC(生産プロセスや品質検査、管理などに係る事項)に問題が生じたようで、第三相入りが遅れている。日本では国立精神・神経医療研究センターと日本新薬がエクソン53をスキップする化合物で臨床開発を開始した。

drispersenもeteplirsenもジストロフィンが増えることは確認されているはずだ。今回のフェールが示唆するのは、1)ジストロフィン検査方法が不正確で本当は増えていない、2)増えるが運動能力を大きく改善するには足りない、3)エクソン51スキッピングでジストロフィンを増やしても無効、の三つのシナリオだ。

1)はSareptaがジストロフィン増加作用を代理マーカーとして行った第二相試験のデータに基づいて承認申請すべく相談した時にFDAが指摘した、要確認点の一つである。3)は断定するにはまだ早い。エクソン・スキッピング薬やRNA介入薬のようなオリゴヌクレオシドは薬物動態が不安定という弱点を持ち、似たような薬でも効果が異なることは十分考えられるからだ。現時点では2)を本命とするのが妥当だろう。但し、今後drispersenの治験データが学会、論文発表され、3)の可能性が浮上する可能性もあるので要注意だ。

リンク:ProsensaとGSKのプレスリリース

二重顎治療薬の第三相が4本とも成功

(2013年9月16日発表)

Kythera Biopharmaceuticals(Nasdaq:KYTH)は、ATX-101の米国第三相試験が二本とも成功したと発表した。欧州の試験も成功しており、四戦四勝となった。北米以外の権利はバイエルの皮膚科用薬部門が保有している。

ATX-101は食物脂肪を分解するデオキシコール酸の特許性製剤で、二重顎の原因になる頤(おとがい)下の脂肪を減らす。頤下脂肪領域に直接注射するコースを月一回、最大で4コース施行する。第三相試験では医師の評価と患者の満足度評価の両方が1段階以上改善したら奏効と判定した。今回の米国試験では試験薬群の奏効率が7割前後に達し、一方、偽薬群は2割前後に留まったため、二本とも有意な差が見られた。有害事象は疼痛、腫脹、痺れなど。

1段階の差が臨床的にどの程度の意味があるのか知らないが、この種の薬は患者が喜べばそれでよいのだろう。日本の美白化粧品ではないが、患者を喜ばすための薬なのだから、美容面の副作用が発生して患者を悲しませたら元も子もない。ATX-101も安全性のハードルを十分に高く維持しなければならない。

リンク:Kytheraのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPがロシュのカドサイラなどに肯定的意見

(2013年9月20日発表)

EUの医薬品科学的評価委員会であるCHMPが9月の例会でロシュのKadcyla(trastuzumab emtansine)などの新薬に肯定的意見を出した。順調なら2~3ヶ月以内にEUで承認されることになるだろう。尚、日本時間の9月21日、22日時点でEMAのウェブサイトがメンテナンス中でアクセスできず、企業リリースなどに基づいて作成したため、見落としがあるかもしれない。

Kadcylaは日本でもカドサイラとして承認された。her2陽性の切除不能、または転移性の乳癌に二次治療薬として用いる。her2陽性乳癌の典型的な一次治療薬であるHerceptin(trastuzumab)とタクサン系抗癌剤を既に使った患者が対象。capecitabine・lapatinib併用群と比較した第三相試験では、共同主評価項目であるPFS(無増悪生存期間)と全生存期間がメジアン値で3~6ヶ月長く、ハザードレシオは0.65~0.68だった、

イミュノジェン(Nasdaq:IMGN)の抗体薬品結合技術を持ちいて開発したもので、Herceptinの抗体とDM1という細胞毒をリンカーで結合。腫瘍細胞の表面分子であるher2に結合するとher2と共に細胞内部に移行、リンカーが外れて細胞毒が腫瘍細胞選択的に攻撃する。

臨床試験でHerceptinとの取り違え事故が発生したことから、米国ではFDAの要請に基づきado-trastuzumab emtansineという一般名が用いられている。

リンク:ロシュのプレスリリース

バイエルのXofigo(radium-223 dichloride)はアルファ線を放射する放射性核種と、カルシウムに類似し骨に分布しやすい化学物質を結合したもの。去勢抵抗性前立腺癌で症候性骨転移があり、内臓転移のない患者に用いる。第三相試験では既承認薬であるdocetaxelに不耐、不適、不応の患者に投与したところ、骨関連イベント(増悪による治療など)や全生存期間が偽薬比有意に改善した。ノルウェイのAlgeta社からライセンスした。

リンク:バイエルのプレスリリース

ノボ ノルディスクのNovoEight(turoctocog alfa)は遺伝子組換え型血液凝固第VIII因子。A型血友病の出血治療、予防に用いる。バイエルやバクスターの製品と競合することになる。バイオジェン・アイデックも承認申請中。新薬は投与頻度の長期化が期待されたが、それほど変わらないようだ。十年以上前に品質管理問題が元で供給不足が生じたことがあるので、メーカーが増えることはそれ自体が患者にプラス。

リンク:ノボ ノルディスクのプレスリリース

大塚製薬のAbilify MaintenaはAbilify(aripiprazole)の長期持効性デポ製剤で、一回の筋注で効果が一ヶ月持続する。非定型向精神薬は薬を飲みたがらない患者に使う注射用持効性製剤が無いことがボトルネックだったが、ジョンソン・エンド・ジョンソン始め多くの会社が開発に成功。aripiprazoleは大塚のほかにAlkermes社も持効性製剤を開発していて年内に第三相試験の結果が出る見込み。

リンク:ルンドベックと大塚のプレスリリース

Relvar Ellipta(fluticasone furoate, vilanterol)はグラクソ・スミスクラインがテラバンス(Nasdaq:THRX)とCOPDや喘息症のパイプラインを持ち寄って共同研究・開発した成果である。

吸入ステロイドと長期作用性ベータ2作用剤のコンビ薬で、本来ならCOPDと喘息症の両方に有効なはずだが、米国ではCOPD向けしか承認されなかった。長期作用性ベータ2作用剤を喘息に使う時の安全性にFDAが懸念を持っていることが原因だろう。日本は逆で、喘息症しか承認されなかった。日本のCOPD試験成績が悪かったようだ。CHMPは両適応症を支持しており、三極の評価が大きく分かれた。

リンク:GSKとテラバンスのプレスリリース

【承認】


EUがサノフィのLemtradaを承認

(2013年9月17日発表)

サノフィは、EUがLemtrada(alemtuzumab)を多発性硬化症の維持療法薬として承認したと発表した。CD-52に結合するヒト化抗体で、元々はMabCampath/CampathとしてBセル慢性リンパ性白血病用薬として承認されたが、グラム単価が低く流用されるとLemtradaが売れなくなる懸念があるせいか、Lemtradaの承認を前に販売中止となった。

点滴静注だが頻度は少なく、最初は5日連続で投与するが、次回は1年後に3日連続投与するだけ。再発予防効果はトッププラスだが自己免疫性の血小板減少や甲状腺疾患、腎症などのリスクを持つため、用途は難治性患者に限定されるのではないか。

リンク:
ジェンザイムのプレスリリース


今週は以上です。

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