2013年9月1日

海外医薬ニュース2013年9月1日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • ESCの注目演題~HOKUSAI試験が成功
  • アムジェンのオニクス買収交渉が決着
  • 大塚製薬のSamscaの適応拡大は承認されず
  • 局所性メクロレタミンが米国で初承認
  • EUでサノフィのAubagioが承認
  • EUがバイエルのアイリーアの適応拡大とスチバーガの販売承認申請を承認


【今週の話題】



ESCの注目演題~HOKUSAI試験が成功

ESC欧州心臓学会が9月1日から始まる。近年の心臓学会は開発後期段階の新薬に係るLate-breaking発表が少なくなっており、今回も不作という印象だ。学会はフェールした試験も差別しないので、ESCのホット・ラインの演題にはフェールした試験が数多く含まれている。昨日時点で成否不明なのは第一三共のLixiana(edoxaban、和名リクシアナ)の静脈血栓塞栓治療試験、Hokusai-VTEと、武田のNesina(alogliptin、和名ネシーナ)の二型糖尿病急性冠症候群試験、EXAMINE位だ。

本日、ホット・ラインの皮切りとして発表されたのがHokusai-VTE試験だ。Lixianaはベーリンガー・インゲルハイムのPradaxa(dabigatran、和名プラザキサ)、バイエル/ジョンソン・エンド・ジョンソンのXarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)、BMS/ファイザーのEliquis(apixaban、和名エリキュース)に次ぐ第四の新規経口抗血栓薬。

今回の試験は、急性の症候性深静脈血栓や肺塞栓をヘパリンで治療した後にLixiana(60mg一日一回・・・日本で関節術後深静脈血栓予防に承認されている用量の倍)またはワーファリンを用いて長期再発予防する効果を比較したもの。

結果は、Xareltoと同様、再発予防効果は非劣性だったが、臨床的に重要な出血は少なかったようだ。また、被験者の3割を占める肺塞栓で右心室機能不全の見られる患者では再発予防効果が優れ、20%を占める出血リスクの高い患者にはLixianaを30mgに減量する用法が奏功、ワーファリンより出血リスクが小さく効果は同程度だった。

現時点ではESCのプレスリリースしか見ていないので詳細は不明。経口抗血栓薬の本命の用途である心原性脳卒中予防試験の結果は11月19日にAHA科学部会で発表される予定だが、この用途は出血リスクに鋭敏なので、Hokusai試験の論文が刊行されたらよく吟味する必要がある。

経口抗血栓薬はワーファリンのように用量を頻繁に調整する必要がなく、食物・薬物相互作用が少ないため大いに期待されたが、これまでの販売は期待を下回っている。Lixianaは後発なので、治験でできるだけ良いデータを収集することが重要だ。

リンク:ESCのリリース




サノフィの静注用Xa阻害剤otamixabanの治験結果も発表される予定だが、既に開発中止になった。Pradaxaの人工心弁患者脳卒中予防試験も効果不足でフェールしたことが明らかにされている。

日曜午後には第一三共/イーライリリーのEfient(prasugrel)のACCOAST試験の結果も発表される予定だが、報道によると、2年前に出血リスクを理由に中止になったようだ。この試験は非ST上昇型心筋梗塞でPCIを受ける患者を対象に、プリトリートメント(血管造影術時ではなく非ST上昇型心筋梗塞と診断された段階で負荷用量の半分の量を、PCI時に残りの量を投与する)の効用を検討したもの。目標症例4100例とのことなので、かなり大きな試験だ。

Efientはサノフィ/BMSのPlavix(clopidogrel、和名プラビックス)と異なり作用のオンセットが早いためプリトリートメントする必要はないと考えられ、第三相試験では採用されなかった。しかし、入院後早い段階でPlavixを投与する病院もあるので、Efientでも同じことができるのか確認するのは重要だ。

それだけに、もし出血リスクが高まるだけで効果は大差ないことが2年前に判明しているならば、メーカー側は、今日まで公表しなかった理由を釈明すべきだろう。

9月2日には二型糖尿病薬二剤の心血管アウトカム試験の結果が発表される予定。一つはBMS/アストラゼネカのOnglyza(saxagliptin、日本は協和発酵キリンのオングリザ)のSAVOR-TIMI 53試験で、心血管疾患を持つ、あるいはそのリスクが高い二型糖尿病を組入れて、心血管疾患リスク削減効果を通常の医療と比較したもの。フェールしたことが既に公表されている。

もう一本は武田のNesinaのEXAMINE試験。急性冠症候群を発症して15~90日経った二型糖尿病患者を対象としており、Actos(pioglitaxone)のPROACTIVE試験と似ている。心血管アウトカム改善効果が確認されたらSAVOR試験との違い、フェールした場合はPROACTIVE試験の違いが注目されることになりそうだ。

アムジェンのオニクス買収交渉が決着

(2013年8月25日発表)

アムジェンはオニクス・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ONXX)を一株当たり125ドルの現金で買収することで合意した。総額104億ドル、オニクスの手元現金とネットで97億ドルの買収となる。

オニクスはバイエルと抗癌剤Nexavar(sorafenib、和名ネクサバール)を共同開発販売しているほか、バイエルの新規抗癌剤であるStivarga(regorafenib)の売上の20%を得る権利と、ファーザーがホルモン陽性乳癌で第三相試験中のCDK4/6阻害剤、PD-0332991(palbociclib)の売上の8%を得る権利を持っている。

更に、2012年には、2009年にProteolix社を8.1億ドルで買収して入手したKyprolis(carfilzomib)を多発骨髄腫用薬として米国で発売した。ジョンソン・エンド・ジョンソン/武田薬品のVelcade(bortezomib)の類薬であり、Velcade並みの成功が期待されている。欧州では2014年に二本の第三相対照試験の中間解析結果が出てから承認申請される予定。

一本はセルジーンのRevlimid(lenalidomide、和名レブラミド)及びdexamethasoneと三剤併用で再発性多発骨髄腫の2~4次治療を行う。他剤の試験を見ても、三剤併用は効果が高いので期待できそうだ。もう一本は既存の主要な抗癌剤3種類(Velcadeを含む)を既に用いた、最終治療抵抗性の多発骨髄腫に対する効果をステロイド・ベースの最良支持療法と比較する。

過去の報道によるとオニクスは一株当たり130ドルを要求したが、アムジェンがこの二本の試験の途中データを要求したため、頓挫した。アムジェンの狙いは忍容性を確認することだったのだろうが、商業的な意味で本当に重要なのは、数多く実施されているVelcade直接比較試験だ。2015年頃から結果が出始めると推測される。

リンク:アムジェンのプレスリリース

【承認審査・委員会】


大塚製薬のSamscaの適応拡大は承認されず

(2013年8月30日発表)

大塚製薬は米国でバソプレシン2受容体拮抗剤Samsca(tolvaptan、和名サムスカ)をADPKD(常染色体優性多発性嚢胞腎)に適応拡大申請していたが、予想された通り、審査完了となった。薬効や安全性の立証が不十分と判定されたようだ。

承認申請の根拠となった臨床試験では腎臓量の増加や腎機能の悪化を抑制する効果が確認されたが、治験デザイン上の制約で、臨床的な転帰を改善する効果は明確にならなかった。重大な肝毒性リスクがあるため、転帰改善効果が曖昧なままでは便益がリスクを上回るとは断定できない。諮問委員会でも15人の委員中9人が承認に反対した。

日本では承認を期待する声もあったようだが、肝毒性懸念が原因で承認されなかった薬は枚挙に暇がないことを知らないのだろうか?日本企業絡みでも08年に武田のTAK-475(lapaquistat acetate)が承認申請直前に開発中止になった。SamscaもFDAが今年1月に肝毒性リスクを警告した段階で、ハードルが高まったと判断しなければいけない。現在承認されている用途は治療を30日以内に終わらせることが可能だが、ADPKDは長期治療が必要なので話が別である。

リンク:大塚製薬のプレスリリース

【承認】


局所性メクロレタミンが米国で初承認

(2013年8月26日発表)

フィラデルフィアの新興製薬会社Ceptaris Therapeuticsは、FDAがValchlor(mechlorethamineジェル製剤)を真菌性菌状息肉腫治療薬として承認したと発表した。局所性製剤の承認は初とのこと。今後は、調剤薬局製品と競争することになる。同社はスイスのアクテリオン(SIX:ATLN)が2.5億ドル+達成報奨金で買収することに合意しているが、Valchlorの承認が前提条件の一つなので、買収に向けて一歩前進したことになる。

リンク:Ceptarisのプレスリリース

EUでサノフィのAubagioが承認

(2013年8月30日発表)

サノフィはAubagio(teriflunomide)が再発寛解型多発性硬化症の維持療法薬として承認されたと発表した。経口剤なので利便性が高く、再発リスク削減効果はバイオジェン・アイデックのTecfidera(dimethyl fumarate)などと比べて見劣りするものの、免疫抑制剤に付き物な日和見感染症や癌のリスクは見られない。但し、肝毒性に注意が必要だ。

米国でも昨年承認されたが、EUは一日7mg服用は承認しなかった。14mgと異なり疾病進行抑制作用が確認されていないからだろう。米国がこの点をスルーしたのは、現在の疾病進行評価方法を妥当と見做していないからだろう。

リンク:ジェンザイム(サノフィの子会社)のプレスリリース

EUがバイエルのアイリーアの適応拡大とスチバーガの販売承認申請を承認

(2013年8月29日と30日発表)

バイエルは、Eylea(aflibercept、和名アイリーア)を網膜中心静脈閉塞症の治療に用いる適応拡大と、Stivarga(regorafenib)を転移性結腸直腸がんのサルベージ療法として用いる販売承認申請がEUで承認されたと発表した。

Eyleaはロシュ/ノバルティスのLucentis(ranibizumab)と同様なVEGFに結合する抗体だが、結合力の高さと、二種類のVEGF受容体のサブユニットを免疫グロブリンの固定領域と結合した融合蛋白であること、そして、Lucentisより割安な価格で販売されていることが特徴。

Eyleaはリジェネロン(Nasdaq:REGN)の開発品。同社のような、先行企業の特許を侵害せずに類似した抗体医薬を生産する技術を持っている企業は、要注目だ。

リンク:バイエルのプレスリリース(8/29付)

Stivargaは同社のNexavar(regorafenib)の誘導体。Nexavarはオニクスとの共同研究の成果だが、バイエルは当初、Stivargaは異なると主張。結局、20%の売上ロイヤルティを払うことで和解したのだが、そうなると、Stivargaの位置付けが曖昧になる。Nexavarが承認されている用途で開発しても意味がないからだ。切除不能のGIST(消化管間質腫瘍)のサルベージ療法としても申請中で米国では既に承認されたが、今後も、Nexavarの次に使う薬としての位置付けに留まりそうだ。

リンク:バイエルのプレスリリース(8/30付)

今週は以上です。

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