2013年8月25日

海外医薬ニュース2013年8月25日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • エーザイが麻薬指定の遅れを提訴
  • インサイトのJAK阻害剤が膵癌POCに成功
  • 武田薬品のvedolizumabの炎症性大腸炎第三相試験
  • GSKのCCR9阻害剤のクローン病試験はフェール
  • 選択的アルドステロン受容体調節剤の第三相試験がフェール
  • FDAはceftobiproleの承認申請を認めない


【今週の話題】


エーザイが麻薬指定の遅れを提訴

(2013年8月19日発表)

エーザイの抗癲癇薬Fycompa(perampanel)は昨年10月にFDAに承認されたが、DEA(麻薬取締局)がスケジュール指定を中々行わないために発売が遅れている。業を煮やしたのか、FDAに対して新薬排他権期間の開始を遅らせるよう市民請願したのに続いて、連邦コロンビア地区控訴裁判所に対して、速やかに指定するようDEAに指示することを求める請求を行った。

スケジュール指定は依存性のある薬物を度合いに応じて5種類に分類しその分類に応じて生産、販売、処方を制限するもの。例えば睡眠薬Ambien(zolpidem、和名マイスリー)はスケジュールIVで、規制がそれほど厳しくない。一方、モルヒネなどはスケジュールIで、特別に許可を受けた人以外が製造、販売、処方するのは違法である。

依存性が疑われる場合は薬物依存経験者を被験者とする試験で嗜好性を検討し、FDAがスケジュール分類を勧告、DEAが決定する。エーザイの米国のプレスリリースによると、DEAが決定するまでの平均期間は97~99年の49日から09~13年は237日と、著しく長期化している。エーザイがインライセンスしたアリーナ(Nasdaq:ARNA)の体重管理薬、Belviq(lorcaserin)も承認からスケジュール指定まで11ヶ月掛かった。

米国は一部の州でモルヒネが安易且つ大量に販売されており、若者が副作用で死亡する事件も少なくないため社会問題になっている。規制を他の州並みに強化すれば良いのではないかと思うが、そのような意見は聞かないので、実行が難しいのだろう。

規制が不十分なのは確かだが、だからと言って、難治性癲癇患者にとって重要な選択肢の一つになりうるFycompaの発売が遅れるのは好ましくない。DEAは、なぜ審査が遅れているのか理由を明確にすべきだろう。

リンク:エーザイのプレスリリース

【新薬開発】


インサイトのJAK阻害剤が膵癌POCに成功

(2013年8月21日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)は、JAK阻害剤ruxolitinibが膵癌のPOC(proof-of-concept)に成功したと発表した。欧米でJakavi/Jakafi名で慢性特発性骨髄線維症治療薬として承認されているが、新たな用途が浮上した。

JAKはインターロイキン受容体のダウンストリーム・シグナルに関与する酵素で、阻害するとIL-6、GM-CSF、インターフェロン・ガンマなど様々な物質の生産を調節することができる。ruxolitinibは造血・血管細胞に発現するJAK3に対する力価が低く、JAK1、JAK2、TYK2選択的。米国以外の権利はノバルティスが保有している。

今回のPOC試験は転移性膵癌の二次治療としてcapecitabine(『ゼローダ』)と併用する効果を検討したもの。136人の患者を併用群とcapecitabine・偽薬併用群に無作為化割付して全生存期間を比較したところ、ハザードレシオ0.79、p=0.12となった。中でも、事前に設定された、JAK阻害剤応答性が予測された患者のサブグループ分析では、ハザードレシオ0.47、p=0.005と有望なデータが出た。応答性は既存の検査で予測できる模様で、検査アッセイの開発は不要。被験者の半分が該当した由だ。

転移性膵癌の二次治療はcapecitabineとTarceva(erlotinib、和名タルシバ)の併用が承認されているが、Tarcevaを併用する上乗せ効果は、少なくとも第三相試験では、決して高くなかった。それでも、capecitabineしか投与しない群を設けるのは倫理上の問題があるように感じられるので、ruxolitinibの第三相試験では二つの併用療法を直接比較したほうが良いのではないだろうか。Tarcevaは5~7年後に特許が切れるので、販促の点でも雌雄を決しておいた方が有利だろう。

リンク:インサイトのプレスリリース

武田薬品のvedolizumabの炎症性大腸炎第三相試験

(2013年8月21日発表)

武田薬品が炎症性大腸炎治療薬として開発しているMLN0002(vedolizumab)の第三相試験論文がNEJM誌に掲載された。クローン病試験の成績は今一つだが、潰瘍性大腸炎試験は寛解導入も維持療法も良好。欧米で承認審査中で、承認されたら、特にTNF阻害剤不応患者に有力な選択肢の一つになりそうだ。

vedolizumabはバイオジェン・アイデックのTysabri(natalizumab)と同様な、リンパ球が血管壁に接着し組織に移行するのに必要なアルファ4ベータ7に結合、ブロックする。アルファ4ベータ1には結合しないため、PML(進行性多巣性白質脳症)のリスクが小さいことが期待されている。現実に、今回の二本の第三相試験ではPML症例は発生しなかったようだ。但し、安全と断定するには症例数が足りず、またTysabriのPMLリスクは投与期間と相関するので1年のデータでは不十分だ。

Tysabriは難治性中重度活性期クローン病に承認されているがvedolizumabは少なくとも潰瘍性大腸炎には承認されるだろうから、適応症も若干異なる。

vedolizumabは初日と第15日に300mgを静注投与して寛解導入を試み、ある程度以上の成果が上がったら、その後は4週間又は8週間に一回投与して更なる改善、寛解維持を目指す。潰瘍性大腸炎の試験では、6週間後の症状改善奏効率(メイヨー・クリニック・スコアで評価)が47.1%と偽薬群の24.5%を有意に上回り、副次的評価項目の寛解率も16.9%対5.4%で有意。

この寛解導入試験とは別のプロセスで投与を受けた患者を含めて、ある程度以上の成果が上がった患者を対象に行われた維持療法試験では、8週間に一回投与、4週間に一回投与、偽薬にスイッチした各群の52週寛解率が各41.8%、44.8%、23.8%となり偽薬比有意な効果を示した。

一方、クローン病の寛解導入試験は6週寛解率と6週CDAI100(CDAI症状スコアが100ポイント以上改善した患者の比率)の両方が主評価項目とされ、前者は14.5%対6.8%で統計的に有意だったが後者は31.4%対25.7%でフェールした。クローン病は大腸だけでなく様々な消化器官で炎症が見られ、表在性ではなく貫壁性なので、治療成果が表れるまで時間が掛かるのかもしれない。実際、維持療法試験では52週寛解率が各群39.0%、36.4%、21.6%となり、8週間に一回でも4週間に一回でも偽薬比有意な差があった。

二本の試験の主な有害事象は原疾患症状悪化と頭痛、鼻咽頭炎。免疫抑制療法に付き物な感染症の増加はあまり見られなかったようだが、クローン病試験では敗血症による死亡が2例あったので、注意が必要だ。承認審査の過程で試験薬との関連性が検討されることになるだろう。

今年3月にEUで、6月には米国でも二つの適応症で承認申請された。元々はミレニアムがミレニアム前の1999年に買収したリューコサイト社の開発品で、ジェネンテックがライセンスしたがPOC試験後に権利を返還した経緯がある。Tysabriも第三相クローン病試験がフェールした後に復活した経緯を持ち、この分野は、細心の注意を以て臨床試験を設計・実施する必要があるのだろう。

リンク:Feaganらの潰瘍性大腸炎試験論文アブストラクト(NEJM誌)

リンク:Sandbornらのクローン病試験論文アブストラクト(NEJM誌)

リンク:武田薬品の米国子会社のプレスリリース

GSKのCCR9阻害剤のクローン病試験はフェール

(2013年8月23日発表)

グラクソ・スミスクラインは、GSK1605786(vercimon)の最初の第三相試験がフェールしたと発表した。有害事象が用量依存的に増加する傾向が見られたため、分析・検討を行う間、他の試験の組入れ、投与を中断する。キモカインの研究で高名なChemoCentryx社からライセンスしたCCR9阻害剤で、TセルのCCR9を阻害して腸に移行するのを妨げる作用機序。他の試験を中断するということは、おそらく、深刻な有害事象が発生したのだろう。

リンク:GSKのプレスリリース

選択的アルドステロン受容体調節剤の第三相試験がフェール

(2013年8月19日発表)

GTx(Nasdaq:GTXI)はOstarine(enobosarm)の第三相試験がフェールしたと発表した。欧米の承認審査機関と今後の方策を相談するとのことだが、おそらく、少なくともこの用途での開発は中止になるだろう。

enobosarmは選択的アルドステロン受容体調節剤(SARM)で、癌性筋肉減弱症を治療する後期第二相試験が成功、対象を非小細胞性肺癌で一次治療を受ける患者だけに絞って二本の筋肉減弱症予防・治療試験を実施した。二つの主評価項目のうち、84日時点のLBM(除脂肪体重)は一本で偽薬比有意な効果が見られたがもう一本はフェール。階段昇降試験は二本ともフェールした。

リンク:GTxのプレスリリース

FDAはceftobiproleの承認申請を認めない

(2013年8月21日発表)

スイスの抗菌剤開発企業であるバジレア・ファーマスーティカ(SWX:BSLN)が開発したMRSA作用性セファロスポリン、ceftobiproleは、依然として茨の道を歩んでいる。導出先であるジョンソン・エンド・ジョンソンが複雑皮膚皮膚構造感染症向けに承認申請しスイスやカナダで承認されたが、第三相試験実施施設の一部で臨床試験基準違反の疑いが浮上、米国でもEUでも承認されず、スイスとカナダは販売中止、ライセンス返還となった。

バジレアは、もう一つの適応症である市中感染肺炎による入院患者と院内感染肺炎患者の第三相試験を実施、EUの非中央手続を用いて承認申請し、受理された。年末までに結果が出る見込みだ。一方、FDAは、開発ガイドラインに従って、この二つの適応症の夫々について第三相試験を二本実施するよう求めている模様で、承認申請が遅れている。同社の上期の決算発表資料の中で、進展がないことが公表されたため、株価が暴落した。

抗生剤ではアベンティス(後にサノフィと合併)のKetek(telithromycin、和名ケテック)でも安全性確認試験で治験医の不正報告が発覚、大きな問題になったことがある。新薬を待望する医師の、そして大型薬を待望する製薬会社の切実な願いはバイアスや不正の動機になりうるので、客観性を保ち第三者が検証する厳密なプロトコルが必要だ。

わが国でもアウトカム試験のデータ操作疑惑が取り沙汰されている。真相解明に留まらず、再発防止策も実施する必要があり、例えば、今後行われる全てのアウトカム試験について不正の余地を減らすために必要な手順を盛り込むべきである。治験実施者には不本意かもしれないが、襟を正す良い機会なのだ。やるべきことをやらないと、有望な薬や治療法の実用化を却って遅らせることになりかねない。

リンク:バジレアのプレスリリース

今週は以上です。

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