2013年8月18日

海外医薬ニュース2013年8月18日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • オニクスの株価が乱高下
  • イーライリリーの抗EGFR抗体、二本目の第三相は成功
  • 間葉系幹細胞の糖尿病性足潰瘍試験が成功
  • Vicalの6年間の忍耐は報われなかった
  • フォレスト/アルミラルのCOPDコンビ薬は承認申請が遅延
  • GSK合弁の抗HIV薬が米国で承認
  • タイケルブとハーセプチンの併用が欧州で承認
  • FDAがフルオロキノロンの末梢神経症警告を強化


【今週の話題】


オニクスの株価が乱高下

(2013年8月15日発表)

米国の新興製薬会社オニクス(Nasdaq:ONXX)はアムジェンから買収提案を受けていると報じられているが、15日に新たなボトルネックが判明、株価が急落した。交渉の余地は乏しくアムジェンが妥協せざるをえないだろうが、要求の背景が気になるところだ。

Bloombergが事情通の話として15日に報じた記事によれば、オニクスは一株当たり130ドル、総額95億ドルなら買収オファーを受け入れる方向だったが、Kyprolis(carfilzomib)を欧州で承認申請するために行っている試験に関するデータを提供するようアムジェンが要求したため、膠着状態になった。進行中の試験のデータを覗き見すると承認審査に影響する可能性があるからだ。

ロイターも、どの臨床試験のデータなのか特定していないものの、概ね同様な内容を報じている。おそらく、インサイダーが世論を味方につけるべくリークしたのだろう。

Kyprolisは武田薬品/ジョンソン・エンド・ジョンソンのVelcade(bortezomib)と同様なプロテアソーム阻害剤で2012年に米国で再発性難治性多発骨髄腫の三次治療薬として承認された。薬効・忍容性のエビデンスとなったのは第二相単群試験の反応率データで、欧州は第三相対照試験の結果が2014年に纏まってから承認申請の見込み。

Velcadeと比べて力価や選択性が高く有望な新薬だが、気になるのは、第二相試験で深刻な副作用の懸念が浮上したことだ。7%の患者が心臓疾患や臓器不全、感染症など癌の進行以外の理由で死亡、45%の患者で深刻な有害事象が発生した。266人と比較的大きな試験なので、偶然とは考え難い。第三相試験の結果が出れば、リスクがもっと明確になるだろう。

進行中の試験のデータを覗き見すべきでないという意見は当然で、おそらくアムジェンも分かっているだろう。おそらく、データ監視委員会が把握しているであろう治験全体の有害事象発生率や群間の偏りに関する中間解析について情報を求めたのではないだろうか。この場合でも第三者であるアムジェンに提供できる情報は限られているだろう。どの程度具体的な情報を求めているのか明らかではないが、最終的には、アムジェンが譲歩することになるのではないか。

オニクス買収に巨額を払うためには、Kyprolisの安全性に深刻な懸念が生じて売れなくなるという代替シナリオの発生確率を従来の推定値より引き下げなければならない。そのためには根拠が必要で、もし入手できないなら推定値引き下げもできず、結局、買収価格を120ドルから130ドルに引き上げることにも応じられないことになる。それでも引き上げて買収に踏み切るかどうか、アムジェンの対応が注目される。

リンク:Bloombergの報道

リンク:ロイターの報道

【新薬開発】


イーライリリーの抗EGFR抗体、二本目の第三相は成功

(2013年8月13日発表)

イーライリリーはIMC-11F8(necitumumab)の二本目の第三相試験が成功したと発表した。一本目が安全性懸念で中止され、開発パートナーであったBMSが権利を返還した経緯を考えると意外だ。対象疾患が若干異なることや、既存の抗EGFR抗体でも効果の兆しは見られたので効く、効かないと言っても程度の問題に過ぎないことが影響しているのだろう。

necitumumabはイーライリリーが買収したイムクローンの開発品で、イムクローンが開発し米国ではBMSが、欧州などではドイツのメルクが販売しているErbitux(cetuximab)はキメラ抗体、こちらは完全ヒト化抗体という関係。Erbituxは結腸直腸癌や頭頸部癌で承認されているが、非小細胞性肺癌(NSCLC)は第三相試験が一本が成功したものの他はフェールしたため、承認されなかった。このため、necitumumabはNSCLCがリード・インディケーションとなった。

一本目の、扁平上皮以外の末期NSCLCを組入れた一次治療Alimta(pemetrexed)・cisplatin併用試験は血栓塞栓症の懸念から2011年に途中で打ち切られた。今回の試験は末期扁平上皮NSCLCの一次治療にGemzar(gemcitabine)・cisplatinと併用する効果を検討したもので、有意な延命効果が見られたとのこと。この試験でも深刻な血栓塞栓症が増加した。データは後日、発表される予定。尚、併用薬が異なるのはAlimtaは扁平上皮には承認されていないことが理由だろう。

対象疾患が若干異なるので一概には言えないが、治験の検出力は二本目の方が高いと推測される。組入れ数は1097人対634人、全生存解析をトリガーする死亡者数は844人対474人と、二本目の方が多いからだ。可能性としては、一本目の延命効果も数値上は同程度だったが検出力が低いために無益性判定基準を満たしてしまった、というシナリオも考えられる。何れにせよ、深刻な副作用を持つことは確かなのだろうから、統計的に有意であるだけでなく臨床的にも十分に意味のある延命効果が必要だろう。

不思議なのは、Erbituxの試験の事後的サブグループ分析で主としてEGFR高度発現癌に延命効果が認められたにも関わらず、necitumumabの試験は不問となっていることだ。今回はプロトコルで事前に設定した上でサブグループ分析が行われるだろうから、Erbituxのデータよりも信頼性が高く、もしEGFR高度発現癌だけに十分な効果があった場合はこのタイプに限定して承認されることになるだろう。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

間葉系幹細胞の糖尿病性足潰瘍試験が成功

(2013年8月13日発表)

間葉系幹細胞製品を開発・販売しているオサイリス(Nasdaq:OSIR)は、Grafixの糖尿病性足潰瘍試験が成功したと発表した。2010年に米国で発売され重症火傷の治療などに用いられているが、慢性疾患の外来治療は市場性が高いので重要な用途拡大になる。

Grafixは健康なドナーの骨髄から抽出した間葉系幹細胞(MSC)などを膜に固定化した製品。MSCは様々な結合組織細胞に分化できるので創傷治癒に役立つが、オサイリスによると、糖尿病患者はMSCの活性が低く自然治癒し難い。MSCは免疫刺激しないので、他人のMSCを培養して治療に用いることが可能。

天然の細胞をほぼそのまま製品化した製品は医薬品や医療機器に関する薬効・安全性審査の対象外である模様で、同社はGrafixとOvationを商品化、2011年の売上高は二剤で780万ドル。メディケア等が、重度火傷や糖尿病性足潰瘍の入院患者などについて薬価還元対象としている。

今回の試験はスクリーニング期間中の改善が小さかった131人を組入れて、12週間後の創傷完全閉鎖成功率を標準療法と比較したもの。97人の中間解析でGrafix群は62.0%、対照群は21.3%、pは0.0001を下回り、データ監視委員会が事前のプロトコルに則って治験成功を認定した。現在までに結果が出た二次的評価項目の解析も全て成功した。尚、この試験は盲検ではないが、担当医の評価を第三者が盲検で確認するPROBE法を採用している。

興味深いのは有害事象の発生率が各38%と66%でGrafix群の方が低いことだ。もし感染症が少なかったのならば、治療の価値が高まる。有害事象のデータは薬効データほど厳格に評価・報告されないので信頼性は十分ではないが、FDAの承認審査を受ける必要がないならば、この程度のデータでも十分な販促材料になるだろう。

リンク:オサイリスのプレスリリース(pdfファイル)

Vicalの6年間の忍耐は報われなかった

(2013年8月12日発表)

米国の新興企業Vical(Nasdaq:VICL)は、Allovectin-7(velimogene aliplasmid)の第三相悪性黒色腫一次治療試験がフェールしたと発表した。投資家向けに行われたテレカンファレンスによると、反応率も全生存期間も対照群(dacarbazine又はtemozolomideで治療)と同程度に留まった模様。同社は開発中止を決定。後は、アンジェスの出方次第となった。

既存薬と同程度なら効かない訳ではないが、対照群の二剤は、広く用いられているものの、延命効果が確立していない。シェリング・プラウ(後にMSDが買収)がtemozolomideとdacarbazineの直接比較試験を行いFDAに承認申請した時も、後者の薬効のエビデンスは曖昧でありそれと同じであるだけでは不十分、と判定された。更に、優越性検定がフェールすることと非劣性検定が成功することは意味が全く違う。従って、今回のデータに基づいて承認申請しても無駄だろう。

6年掛けて治験を実施している間に複数の悪性黒色腫用薬が発売された。BMSのYervoy(ipilimumab)はdacarbazine併用で、特定のタイプだけだがロシュのZelboraf(vemurafenib)やGSKのTafinlar(dabrafenib)やMekinist(trametinib)は単剤で、dacarbazineを上回る効果を発揮する。もし再試験を行ってAllovectin-7の効果が偽薬より高いことを確認しても、売上高は伸びないだろう。開発中止は順当なところだ。

アンジェスは、元々、頭頸部癌に対する効果に期待してアジアの権利をライセンスした模様。Vicalより資金的な余裕があるだろうから、治験報告書の完成を待って内容を十分に検討してから権利返還の当否を決めるのではないだろうか。

リンク:Vicalのプレスリリース

フォレスト/アルミラルのCOPDコンビ薬は承認申請が遅延

(2013年8月14日発表)

米国のフォレスト・ラボラトリーズ(NYSE:FRX)とスペインのアルミラル(ALM:MC)は、長期作用性ムスカリン拮抗剤aclidinium bromideと長期作用性ベータ2作用剤formoterol fumarateのコンビ薬のCOPD維持療法薬としての承認申請が、当初予定の今年10~12月から遅延する見込みになったことを明らかにした。

承認申請前会議でFDAがCMC(化学、製造、管理)に関するデータに疑問を呈した模様だ。aclidiniumは単剤でTudorza/Ekliraとして欧米で承認されており、formoterol fumarateも他社製品が承認されている。従って、同社のformoterol fumarate製剤またはこのコンビ薬に特有の問題が浮上したのだろう。これらの製品は乾燥粉末製剤なので、容器の中で固まったりしないよう、製造段階から厳格な管理を行う必要がある。工場の温度、湿気など様々な配慮が必要なので、ハードルは高い。

リンク:両社のプレスリリース

【承認】


GSK合弁の抗HIV薬が米国で承認

(2013年8月12日発表)

塩野義製薬が創製しグラクソ・スミスクラインやファイザーとの合弁会社、ViiVヘルスケアで開発されたインテグラーゼ・ストランド・トランスファー阻害剤(ISTI)、Tivacay(dolutegravir)が米国でHIV/AIDS治療薬として承認された。初めて抗ウイルス治療を受ける、あるいは多剤に反応しなくなった、成人と12歳以上且つ体重40kg以上の患者に用いる。成人の場合はMSDのIsentress(raltegravir)など他のISTIに抵抗性を持つウイルスに用いることも可能。

ISTIは2007年に承認されたIsentressが第一号で、昨年、ギリアッドが日本たばこからライセンスしたelvitegravirを配合して発売した四剤合剤Stribildが第二号。HIVの遺伝子が宿主細胞のゲノムに組入れられるのを妨げる。抗HIV薬の中では比較的忍容性が高く、また、使用歴が短い分、抵抗性ウイルスが広がっていないことが長所だ。核酸系逆転写阻害剤などと併用する。

第三相試験では、一次治療Isentress対照試験は奏効率が非劣性。同じくefavirenz(Sustiva、ギリアッドの三剤合剤Atriplaも配合)対照試験では88%対81%で有意に上回った。StribildのAtripla対照試験は非劣性だったのでTivacayのほうが効果が高い可能性があるが、Tivacayの試験は両群の併用薬が異なり、また、直接比較試験は行われていないので本当にTivacayのほうが優れているのかどうかは曖昧だ。

二次治療Isentress対照試験では79%対70%で有意に優れていたが、一次治療では差が無かったのだから再現性がなく、意義は明確ではない。

主な有害事象は不眠や頭痛、深刻な副作用は過敏反応やB型C型肝炎合併時の肝機能検査値異常。

特性をギリアッドの製品と比較すると、Tivacayは代表的なISTI抵抗性ウイルスの多くにある程度の活性を持ち、また、薬物相互作用が比較的小さい(一部の薬と併用する場合は50mgを一日一回ではなく二回服用する必要があるが)。一方で、現時点ではコンビ薬がラインアップされていないので、Stribildのように一日一回一錠を服用するだけで多剤併用療法を完結できる簡便さはない。尚、Isentressは一日二回服用なので、市販歴の長さ以外は両剤に見劣りする。

一次治療で服用の簡便さを求めるならStribildが有力な選択肢になるが、二次治療は様々な薬を組み合わせることになるので、薬物相互作用に起因する制約が比較的少なくIsentressやStribildに反応しなくなった患者に使える可能性が高いTivacayのほうが有力だろう。欧米は新患より治療を受けている患者の方が多いので、二次治療、三次治療のマーケットの方が大きい。

ViiVは一ヶ月分の問屋取得価格(WAC)を1175ドルとする模様。Isentressの2012年の売上高は15億ドルと大きいが、今後はStribildやTivacayが主流になりそうだ。

リンク:FDAのリリース

リンク:ViiVのプレスリリース

タイケルブとハーセプチンの併用が欧州で承認

(2013年8月14日発表)

グラクソ・スミスクラインは、Tyverb(lapatinib、和名タイケルブ)をHerceptin(trastuzumab)治療中に進行したher2陽性、ホルモン受容体陰性の転移性乳癌にHerceptinと併用する用法が欧州で承認されたと発表した。適応拡大の根拠となった試験では、併用群のメジアン生存期間は12.9ヶ月、Tyverbだけを投与した群は8.9ヶ月、ハザードレシオは0.62だった。

数字は良いが試験のデザインは奇妙だ。Tyverbのモノセラピーは承認されていないので効果は偽薬並みと考えると、この試験は偽薬にHerceptinを追加する効果を検討したことになる(実際には、対照群ではなく過去に行われたHerceptinモノセラピー試験のデータと比較したのだろうが)。しかも、ホルモン受容体陰性患者はこの試験の事後的サブグループ分析に過ぎない。CHMPは困難な課題を乗り越えて承認したことになるが、FDAはエビデンスが不十分と判定したのだろう、この適応拡大申請は米国では撤回された。

リンク:GSKのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDAがフルオロキノロンの末梢神経症警告を強化

(2013年8月15日発表)

FDAは安全性情報を発出し、経口/注射用フルオロキノロンが持つ深刻な末梢神経症のリスクに注意するよう呼び掛けた。レーベルやメディケーション・ガイドで警告されているが、機能不全の有害事象報告が続いているため、記述を改善した。耳や目の感染を治療する局所製剤では報告されていない模様。

フルオロキノロンの経口剤と注射剤は2011年の米国のデータで2700万人と多くの患者に用いられている。有害事象報告は氷山の一角なので発生頻度は不明だが、投与をやめた後も何ヶ月も改善しなかったり、永続的な障害が残ることもあるようだ。

投与後の早い段階で発生し、中止しても治らない可能性があるのならば、このような警告を行っても副作用症例は減らないだろう。難しい問題だ。

リンク:FDAの安全性情報

今週は以上です。

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