2013年6月30日

海外医薬ニュース2013年6月30日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • ヴァイカル/アステラスがCMV予防ワクチンで第三相
  • サンドがエンブレルのシミラーで第三相試験を開始
  • 欧州でプラザキサの適応拡大申請
  • CHMPがレミケードのバイオシミラーなどに肯定的意見
  • バクスターの遺伝子組換え型IX因子が米国で承認
  • EUでメディベーション/アステラスの抗癌剤とアヴァニールの情動管理薬が承認


【新薬開発】


ヴァイカル/アステラスがCMV予防ワクチンで第三相

(2013年6月25日発表)

ヴァイカル(Nasdaq:VICL) とアステラス製薬は、ASP0113(TransVax)の第三相試験に着手した。同種(=他人の)造血細胞移植を受ける血清学的CMV(サイトメガロウイルス)陽性患者500人を組入れるadaptive designの試験で、第一部では100人を組入れて1年生存率を偽薬と比較。第二部は残りの400人を組入れ、主評価項目は、第一部の観察事項に基づいて全生存期間または全生存期間と臨床的イベントの複合評価項目を採用する。

CMVは成人の5割以上がキャリアで、通常は抑制されているが、臓器移植や造血細胞移植を受けた患者は免疫力が低下するためしばしば感染症を発症する。TransVaxはCMVのDNAのうちpp65と糖タンパクBを発現する遺伝子を組入れたプラスミド型ワクチンで、ワクチンとしては初めて、第二相試験でCMV血症を有意に抑制した。今回の第三相試験の第一部は野心的で、もし1年生存率を向上できるならば商業的に大いに有望だ。できなかった場合は、臨床的に重大なイベントをどの程度防ぐことができるかが問題になる。

Adaptive designは比較的新しい方法で、通常は探索的試験で至適用法や効能に目処を立てた上で次の仮説検証試験に進むが、今回のように一本の試験で両方を行う。患者組入れをシームレスに行い、また、探索的試験の症例を仮説検証に用いることができるので、開発期間を短縮することができる。

上記のように第一部の観察事項は第三者にとって重大な関心事だが、おそらく、第二部を含めて治験が全部完了するまで公表されないだろう。進行中の試験の途中経過を公表することは治験の客観性、尊厳を損なうからだ。第二部の主評価項目は公表される可能性があるので、その段階で推測することになるだろう。

治験登録によると主評価項目解析のためのデータ収集は2016年9月に終了する見込みなので、順調に進めば同年末までには成否が判明しそうだ。

アステラスは2011年にヴァイカルから世界開発販売権を取得した。ヴァイカルは米国市場で共同販促するオプションを保有している。アステラスは臓器移植後の拒絶反応防止薬、Prograf(tacrolimus)を持っており、ASP0113も臓器移植後のCMV血症予防で第二相試験に進む予定。

リンク:ヴァイカルとアステラスのプレスリリース

サンドがエンブレルのシミラーで第三相試験を開始

(2013年6月24日発表)

ノバルティスのGE薬部門であるサンドは、Enbrel(etanercept、和名エンブレル)のバイオシミラーの第三相試験を開始した。事前に欧米の承認審査機関と相談した由であり、結果が良好なら承認申請に向かうことになる。Enbrelはリウマチ性関節炎など様々な疾患に承認されているが、今回の試験はプラク乾癬が対象。後述のように、EUで初めて承認される見込みになったRemicade(infliximab、和名レミケード)のバイオシミラーは、二つの疾患の薬効確認試験を行っただけである模様だ。サンドも同様な方針なのだろう。

Enbrelを販売するアムジェンは、2011年に、米国でEnbrelに関する8,063,182特許が発行されたと発表した。元々は1990年にロシュが申請(出願)しその後にアムジェンが権利を取得したもので、21年間水面下に潜んでいたことになる。今日の米国の特許法では申請から20年後の2010年に失効するが、この特許は申請時の特許法に則り、発行から17年後の2028年まで有効だ。ノバルティスが米国でシミラーを発売するにはこのサブマリン特許も打ち破る必要がある。

リンク:サンドのプレスリリース

リンク:8,063,182特許(USPTOの特許データベース)

【承認申請】


欧州でプラザキサの適応拡大申請

(2013年6月24日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムはEUで経口直接的トロンビン阻害剤Rendix(dabigatran etexilate mesilate、和名プラザキサ、米名Pradaxa)を急性深静脈血栓の治療と再発予防に用いる適応拡大を申請した。この用途ではバイエルのXa阻害剤Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)に3年遅れとなる。経口抗血栓薬の市場としては心房細動の脳卒中予防に次ぐ、2012年の売上高が11億ユーロに達する大型薬にとっても重要な用途。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPがレミケードのバイオシミラーなどに肯定的意見

(2013年6月28日発表)

EUの薬品承認審査機関であるEMAの医薬品審査委員会、CHMPが、6月の会議でRemicade(infliximab、和名レミケード)のバイオシミラー等の承認に肯定的意見をまとめた。順調なら2~3ヶ月後に承認されることになる。EUでは2006年以降12種類のバイオシミラーが承認されたが、抗体医薬のシミラーが承認されれば欧米で初。

リンク:EMAのプレスリリース

このバイオシミラーは韓国のセルトリオン(KOSDAQ:068270)の開発品で、同社がRemsima名で、米国のホスピーラ(NYSE:HSP)がInflectra名で、承認申請していたもの。両社のプレスリリースによると、リウマチ性関節炎の試験で主評価項目である奏効率がRemicadeと臨床的に同等だった(ACR20が各73.4%と69.7%)。治験登録を見ると、強直性脊椎炎でも第一相生物学的同等性試験が行われたようだ。

他の用途でも同等性試験が行われたかどうかは明らかではないが、CHMPは、Remicadeの全ての適応症についてシミラーであることを認めた。開発する側は開発期間や治験費用を節約できることになる。皮膚や腸の疾患も含まれているが、TNFアルファを標的とする薬なので、患部の違いに配慮する必要はないと判断したのかもしれない。

Remicadeの欧州での売上高は約20億ドル。シミラーはGE薬メーカーにとって高付加価値製品なので安売りはしないだろうし、少なくとも当初は医師に対する情報提供・サポートが必要だろうから、どの程度普及するか注目される。初物なので『After you(お先にどうぞ)』戦略を取る医師も多いだろう。他の医師から使用経験を聞いて問題が無いようなら採用するのだ。

GE薬メーカーの中で欧米の承認審査に耐えうるバイオシミラーを開発できる会社は限られているはずだ。欧米ではなく韓国の企業が抗体医薬の第一号を開発したことは意義が大きい。日本企業もチャレンジしてみたらどうだろうか。

ホスピーラは2009年にセルトリオンからバイオシミラー抗体医薬の欧米等の市場における販売権を取得した。エポエチンやG-CSFのシミラーも販売しており、最も積極的なGE薬メーカーの一つ。

リンク:初めてのバイオシミラー抗体医薬に関するCHMPのリリース

リンク:セルトリオンのプレスリリース

リンク:ホスピーラのプレスリリース

新薬で肯定的評価を受けたのは、まず、サノフィの再発寛解型多発硬化症用薬Lemtrada(alemtuzumab)。抗CD52ヒト化モノクローナル抗体で元々はB細胞慢性リンパ性白血病用薬として発売されたが、売上高は小さい。多発硬化症では少量の使用で済むため、サノフィは既存の製剤の販売を中止、安価に転用できなくした。深刻な副作用が発生することがあるので、需要は限定的だろう。

サノフィにはもう一つ朗報があった。CHMPは3月にAubagio(teriflunomide)の承認を支持した段階では『新薬』であることを認めなかったが、今回、覆したのである。抗リウマチ薬Arava(leflunomide)の代謝物ではあるが、安全性の面で異なる活性成分と判断した。新薬の場合はGE薬が10年間、承認されないので商業的な意義は大きい。尤も、再発寛解型多発硬化症の経口剤の中では効果がやや見劣りするので、大きな売上は見込みにくい。

尚、この報を受けてバイオジェン・アイデックの株価が急騰したが、AubagioとBG-12のケースは若干異なるので、CHMPがBG-12も新薬として認めるかどうかは予断を許さないだろう。

リンク:サノフィのプレスリリース

新薬ではデンドレオン(Nasdaq:DNDN)のProvenge(sipuleucel-T)も非症候性の去勢抵抗性前立腺癌に肯定的意見を獲得した。オフ・ザ・シェルフ型と呼ばれる、患者毎にテイラーメイドする細胞療法で、白血球アフェレーシスで患者から採取した抗原提示細胞を、前立腺癌抗原であるPAPとGM-CSFを細胞融合したものと共に培養し、二週間に一回のペースで三回、患者に点滴静注、癌に対する免疫を強化する。

臨床試験で延命効果が確認され米国では2010年に承認されたが、年商は3億ドル程度に留まっている。十分な量を培養できないことがあることや、前立腺癌は次々と新薬が登場したこと、薬効のエビデンスに不当面な点もあることなどが響いているのだろう。

リンク:デンドレオンのプレスリリース(pdfファイル)

バイエルのStivarga(regorafenib、和名スチバーガ)は末期結腸直腸癌のサルベージ療法として支持された。米国では12年に承認、重度・致死的な肝毒性が枠付警告されている。日本でも今年3月に承認された。同社のNexavar(sorafenib)の類縁体で、VEGF受容体などを阻害する。アムジェンが買収オファーを行ったと一部で報道され注目を浴びている、オニクス(Nasdaq:ONXX)との共同研究の成果であり、オニクスは売上高の10%をロイヤルティとして受け取る。

リンク:バイエルのプレスリリース

グラクソ・スミスクラインのbraf阻害剤、Tafinlar(dabrafenib)もbraf V600変異型の切除不能・転移性黒色腫用薬として支持された。ロシュのZelboraf(vemurafenib)に次ぐセカンド・イン・クラス。

同社はTyverb(lapatinib、和名タイケルブ、米名Tykerb)の用法追加も支持された。Herceptin(trastuzumab)と化学療法による前治療経験を持つher2陽性、ホルモン受容体陰性の転移性乳癌にHereptinと併用する。米国では申請が撤回されたので先行きが危ぶまれたが、CHMPはすんなり認めた。

リンク:GSKのプレスリリース

良く分からないのがアムジェンのVectibix(panitumumab、和名ベクティビックス)のレーベル変更だ。抗EGFR抗体はkras変異型の結腸直腸癌に用いると寿命を縮めてしまう懸念があり、検査で野生型と確認された癌だけに用いるが、今回、野生krasではなく野生rasに記述を変更することが決定された。他のタイプのrasでも変異型には有害、というデータが提出されたのだろう。

新製剤では、Raptor Pharmaceutical(Nasdaq:RPTP)のProcysbi(mercaptamine)が腎性シスチン蓄積症の治療薬として支持された。活性成分自体は昔から存在するが、服用頻度が6時間おきではなく12時間おきであることが長所。シスチン蓄積症は遺伝子疾患で、患者は世界で3000人とのこと。体や骨の成長が遅れ、腎不全のリスクが高まる。三種類の中で最も重いのが腎性シスチン蓄積症で、腎臓に重い障害を与える。

米国で4月に承認されたが、年25万ドルと既存製品の30倍高い価格が付けられた。医療費抑制に熱心な欧州で受け入れられるか注目される。

リンク:Raptorのプレスリリース

アボットのCholibも支持された。fenofibrateとsimvastatinの合剤で、混合異脂血症で心血管リスクが高くsimvastatinでLDL-Cが十分に管理されている患者のTG・HDL-C治療に用いる。

アストラゼネカのNexium(esomeprazole、和名ネキシウム)のOTCスイッチも支持された。20mgを配合し、胸焼けなどの逆流症の短期治療に用いる。

一方、Laboratoires SMBのLabazenit(budesonideとsalmeterolの合剤)は否定的意見を受けた。このステロイドとベータ2作用剤の合剤は喘息症の維持療法薬として承認申請されたが、budesonide対照試験で効果が劣り、別の試験で肺における分布が不十分であることが判明した。吸入用薬は製剤や生産管理が困難でGE品の開発が容易ではないことを示すエピソードだ(この薬の組み合わせ自体はGE薬ではないが)。

また、武田薬品がアフィマックス(Nasdaq:AFFY)からライセンスした赤血球生成刺激剤、Omontys(peginesatide)の承認申請が撤回されたことが正式に公表された。先に発売された米国で深刻な過敏反応例が報告され、2月に全ロット自主回収となったことを考えれば驚きではないが、CHMPはそれ以前から承認に後ろ向きだった模様だ。初回投与時の死亡・循環器系疾患のリスクや、立ち入り調査で臨床試験の信頼性に疑問が生じたことが理由。

同じような話をよく聞くようになったが、大規模な試験のデータが信用できないとなると、何をエビデンスにすればよいのか分からなくなってしまう。当局が監視を強化するか、CROや大学、医療施設が自主規制するか、どちらかが必要だ。不正の処罰も厳格に行うべきで、同僚の名誉に配慮して辞任さえすればそれ以上追及しない、という姿勢では根絶できない。

【承認】


バクスターの遺伝子組換え型IX因子が米国で承認

(2013年6月27日発表)

バクスター(NYSE:BAX)は、FDAがRixubis(遺伝子組換え型血液凝固第IX因子)を承認したと発表した。B型血友病患者の恒常的出血予防、出血時の治療、あるいは周術期に用いる。恒常的出血予防では週二回、投与する。

B型は世界の血友病患者42万人の2割弱を占める。体内では頻繁に出血しているが、第IX因子や第VIII因子が欠乏している人は自然に治らずに合併症が起き、大きな出血事故にも繋がりやすい。治療は高額で、日本でも、医療費補助高額受給者には血友病患者が多くランクインしている。血液凝固因子製剤は高額だが、事故が起きてから治療するよりも常用して予防する方が患者にとっても医療保険にとっても有益だ。

このためバクスター以外にもバイオジェン・アイデックが二週間に一回の投与で済むAlprolixを開発、今年1月に米国で承認申請している。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:バクスターのプレスリリース

EUでメディベーション/アステラスの抗癌剤とアヴァニールの情動管理薬が承認

メディベーション(Nasdaq:MDVN)とアステラス製薬は、Xtandi(enzalutamide)がEUで去勢抵抗性前立腺癌用薬として承認されたと発表した。経口アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤で、docetaxelによる化学療法の後の二次治療薬として用いる。一次治療試験も進行中で、また、やや異なるが類似した作用を持つアンドロゲン受容体拮抗剤はもっと早い段階で広く用いられているので、将来は取り替わる可能性があるだろう。

アステラスは米国でプロフィット・シェアリング方式で共同販売、欧州等では単独販売する。

リンク:メディベーション/アステラスのプレスリリース

Avanir Pharmaceuticals(Nasdaq:AVNR)もNuedexta が偽性情動(PBA)治療薬として承認されたことを明らかにした。PBAは再発寛解型多発硬化症等の神経疾患の患者でしばしば見られ、不随意に笑ったり泣いたりする。NeudextaはNMDA受容体拮抗作用とシグマ-1作動作用を持つdextromethorphanとその代謝を阻害する2D6阻害剤quinidineの合剤で、臨床試験ではPBA発作頻度が偽薬比半減した。

2010年承認の米国では各成分20mgと10mgだが、EUでは30mg/10mgの製剤・用法も承認された。

リンク:アヴァニールのプレスリリース

今週は以上です。

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