2013年5月19日

海外医薬ニュース2013年5月19日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • ASCO:バイエルの放射線核種療法が米国で前立腺癌に承認抗PD-1、抗PD-L1抗体の本格披露と次世代リツキサンの治験成績
  • バイエルの放射線核種療法が米国で前立腺癌に承認


【新薬開発】


ASCO:抗PD-1、抗PD-L1抗体の本格披露とリツキサンの治験成績

(2013年5月15日発表)

5月31日から6月4日に開催されるASCO米国臨床腫瘍学会のマスコミ向け事前ブリーフィングが行われ、エンバーゴ(報道規制)が5月15日付で一部解禁されたことを受けて、様々な抗癌剤の治験結果が報道された。ここでは、免疫副刺激に介入する抗PD-1抗体と抗PD-L1抗体、そして、ロシュ・グループが糖鎖修飾技術を用いて開発した新世代抗体医薬、RG7159(obinutuzumab)を取り上げよう。

リンク:ASCOのプレスブリーフィング用のプレスリリース(pdfファイル)

癌の免疫療法は、大きく分けて四種類ある。インターフェロンやインターロイキンのような、免疫機構に外敵の存在を伝え攻撃させるサイトカイン療法、癌が発現する特異的抗原を患者に投与して細胞傷害性T細胞に覚えこませるワクチン療法、Provenge(sipuleucel-T)のような患者自身から採取した腫瘍抗原や抗原提示細胞を体外で培養・増殖させて体内に戻す細胞療法、そして、免疫に関わる表面分子を作動・ブロックするモノクローナル抗体療法だ。

夫々の分野で活発な研究・臨床開発が進められているが、近年特に注目されているのは、T細胞の免疫副刺激に介入するモノクローナル抗体療法だ。先行したのは免疫強化療法ではなく免疫抑制薬だった。BMSが2006年に米国で発売した抗リウマチ薬、Orencia(abatacept)と、2011年に臓器移植後の拒絶療法防止薬として発売した類薬、Nulojix(belatacept)だ。

T細胞は表面分子のCD4/CD8を通じて他の細胞と情報を授受するが、同時に他の表面分子も結合し、副刺激を授受する。相手の細胞のどの表面分子と結合したかによって、T細胞が活性化したり活性化が抑制されたりする。この免疫副刺激のうち、T細胞のCTLA-4と抗原提示細胞のCD80/CD86の間のシグナル伝達を阻害するのがOrenciaやNulojixで、CD80/CD86に結合することによって抗原提示細胞が免疫刺激的副刺激を送り込むのを妨げ、活性化したT細胞を鎮める。

腫瘍学領域での第一号は同じくBMSのYervoy(ipilimumab)だ。米国で2011年に悪性黒色腫用薬として発売された。CD80/CD86ではなくCTLA-4に結合して腫瘍細胞が送り込む免疫抑制的副刺激をブロックする。Yervoyの開発成功は、免疫副刺激介入療法のプルーフ・オブ・コンセプトという側面もあり、腫瘍細胞のPD-L1とCD8陽性T細胞等のPD-1の間の免疫副刺激をブロックする手法に対する期待が高まった。尚、腫瘍学では免疫副刺激阻害ではなく、チェックポイント阻害と呼ぶようだ。

その期待が裏付けられたのが今回の抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体の治験結果発表だ。免疫強化療法の一般的な特徴は、一部の患者に高い効果を発揮すること、効果が発揮されるのは遅いこと、反応が長期間持続すること、そして、免疫刺激に伴う副作用が発生するがそれ以外の副作用は比較的小さいことである。

PD-1/PD-L1療法も同じだが、ORR(反応率)のデータは比較的よく、効果発揮も比較的早そうだ。また、免疫強化療法の弱点は効く人と効かない人を予測できないため長期間投与したのに無効に終わる患者が多いことだが、抗PD-L1抗体に関してはバイオマーカーを用いて事前にスクリーニングすることができるかもしれない。

開発が進んでいるのは、ここでも、BMSだ。Yervoyと同様に、2009年にメダレックスを24億ドルで買収して入手したBMS-936558/ONO-4538(nivolumab)が、小野薬品から権利を取得してから8年で第三相試験まで進んだ。Yervoy併用も開発されていることが強みで、ASCOでは第一相併用試験の結果が発表される。ステージIIIとIVの悪性黒色腫患者約50人を組入れて、二剤の様々な用量の組み合わせやシーケンシャル投与法を検討したもの。

全群合計でORRは40%に達し、31%の患者は12週時点で腫瘍が80%以上縮小した。免疫強化療法としては大変良い成績だ。群毎のデータは症例数が少ないためどれが良いとも言えないが、novolimabは1mg/kgを二週間に一回投与、Yervoyは承認されている用法である3mg/kgを三週間に一回投与する併用法が至適と判定された模様で、6月に第三相試験が開始される予定。結果判明は2016年から2017年初になりそうだ。

nivolumabはモノセラピー(3mg/kg、二週間に一回投与)でも様々な癌に第三相試験中。最初に結果が判明するのは扁平上皮非小細胞性肺癌のdocetaxel対照試験で2014年後半になりそうだ。2015年には非扁平上皮非小細胞性肺癌のdocetaxel対照試験、Yervoyによる前治療を受けた悪性黒色腫の偽薬対照試験、悪性黒色腫一次治療dacarbazine対照試験の結果が判明するだろう。

抗PD-1抗体はMSDもMK-3475(lambrolizumab)の悪性黒色腫試験を行っている。第二相だが、三群合計 で510人を組入れてORRだけでなくPFS(無増悪生存期間)やOS(全生存期間)も主評価項目とする、活性薬対照の本格的な試験なので、2015年のOSの解析が良好なら第三相試験を待たずに承認申請に向かう可能性もありそうだ。

後期第一相試験の中間解析で、85人中9%が完全反応。Yervoyによる前治療を受けた黒色腫患者27人のORRは41%で、これはnivolumabと同程度(第一相、第二相のORRを他の試験のデータと比べるのは好ましくないが)。FDAからブレークスルー・セラピー指定を受けている。

腫瘍細胞が発現するPD-L1をブロックするのがロシュ/ジェネンテックのRG7446/MPDL3280Aや、BMSのBMS-936559/MDX-1105だ。前者はヒト・モノクローナル抗体で、Fc領域を改変して効果や安全性を最適化したとのこと。4月のAACR米国癌研究学会で第一相試験の結果が発表され、一躍注目されるようになった。

ASCOでは更に多くの症例の解析結果が発表される。転移性固形癌の第一相試験では140人中21%でORRが見られた(反応が一定期間以上持続するか未確認の症例も含む)。PD-L1を高度発現する癌36例では36%、一方、陰性67例では13%だったので、事前にPD-L1検査を行えば無駄打ちを減らせそうだ。学会発表当日は、第一相悪性黒色腫試験のアップデートや、PD-L1ステータスに基づく解析データの発表が注目される。悪性黒色腫の何割位がPD-L1陽性だったのかも市場性を予測する上で重要なパラメーターになる。

プレス・ブリーフィングでは、肺炎のリスクを懸念していたようなコメントがあった。第一相固形癌試験では見られなかったようだが、懸念に根拠があるならば、今後も注視する必要があるだろう。ロシュ/ジェネンテックは年内に悪性黒色腫で第三相試験を開始する予定だ。

さて、MPDL3280AのFc領域がどのように改変されているのか私には知識がないが、最近流行っているのが糖鎖の改変だ。協和発酵キリンのポテリジェントが代表的で、抗CD20抗体の試験論文は中々インプレッシブだった。案の定、ジェネンテックがポテリジェント技術を導入したが、第三相に進んだのはロシュが買収したGlycArt社のGlycoMAb技術を用いた抗CD20ヒト化抗体、RG7159/GA101(obinutuzumab)だった。

この技術はフコースのない糖鎖を抗体に付与することによってマクロファージなどが持つFcガンマ受容体IIIaとの結合力を高め、ADCC活性を向上したもの。ポテリジェントはFUT8フコース転移酵素をノックアウトしたCHOセルラインを用いるが、GlycoMAbはglycosyltransferaseを過剰発現させるので、若干異なる。また、RG7159はCD20のRituxanとは異なったエピトープに結合するので殺細胞力が高い可能性がある。

第三相試験は慢性リンパ性白血病のchlorambucil併用一次治療試験で、chlorambucil単剤とRG7159併用の比較、chlorambucil単剤とRituxan(rituximab、和名リツキサン)併用の比較、そして、RG7159併用とRituxan併用の比較の三種類の分析が行われた。

抄録によると、第一の比較はメジアンPFSが23ヶ月対10.9ヶ月、ハザードレシオ0.14、pは0.0001未満でRG7159併用の勝ち。第二の比較は15.7ヶ月対10.8ヶ月、HR0.32で、当然のことながら標準療法であるRituxan併用の勝ち。第三の新旧直接対決の結果は、学会当日に発表される予定。(活性薬同士の比較は検出力を高めるために症例数を増やす必要があるが、おそらく倫理上の理由で、偽薬対照試験を優先し中間解析でRG7159の効果や安全性を確認してから直接比較のための追加組入れを行った模様。)

ロシュは欧米で承認申請した。非ホジキンリンパ腫でも直接比較試験が進行しており、おそらく、将来は、Rituxanに代わって第一選択薬になるだろう。

リンク:ロシュのプレスリリース(5月15日付)

【承認】


バイエルの放射線核種療法が米国で前立腺癌に承認

(2013年5月15日発表)

FDAは、Xofigo(旧称Alpharadin、radium-223 dichloride)を承認しした。適応になるのは外科的/薬物去勢に反応しなくなった去勢抵抗性前立腺癌で、骨転移による症状を患い、内臓転移が認められない患者。ノルウェーのAlgeta社の開発品で、米国ではバイエルと利益シェア方式で共同販売、米国外ではバイエルが販売する。

Xofigoはアルファ線を放出する放射性核種をカルシウムに似た特性を持つ化合物に結合することによって骨分布を向上したもの。第三相試験では骨関連の増悪や死亡リスクを偽薬と比較したところ、メジアンPFSが13.6ヶ月対8.4ヶ月、ハザードレシオ0.61と有意な改善効果が見られた。それどころか、全生存の解析でもメジアン14.0ヶ月対11.2ヶ月、HR0.695と延命効果が見られた。主な有害事象は悪心嘔吐、下痢、足のむくみ、赤血球や白血球、血小板の減少など。

承認申請は昨年12月で、審査期限は今年8月だったが、3ヶ月早く承認された。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:バイエルのプレスリリース

今週は以上です。

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