2013年2月10日

海外医薬ニュース2013年2月10日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • EHJ誌がKYOTO HEART STUDYのメインの論文を掲載撤回
  • GS-7977のHCV第三相試験は二本目、三本目も成功
  • アイデニクスはIDX184の開発を中止
  • イーライリリーは抗BAFF抗体のリウマチ向けを中止、SLEは続行
  • GSKがEUでMEK1/2阻害剤を単剤・併用で承認申請
  • Ampligenはやはり承認されず
  • 第三のIMiDsが米国で承認
  • FDAがドキシルのGE品を優先審査で承認
  • EUでサノフィのGLP-1作動剤が承認
  • ZaltrapがEUでも承認
  • エランがTysabriの権利をバイオジェンに売却


【今週の話題】


EHJ誌がKYOTO HEART STUDYのメインの論文を掲載撤回

欧州心臓学会のEuropean Heart Journalが、日本で実施されたDiovan(valsartan、和名ディオバン)の心血管アウトカム試験、KYOTO HEART STUDYの治験論文を撤回した。幾つかの予兆があったのでこのような事態を懸念していたのだが、いざ実現してみると、拍子抜けした。

第一の理由は、EHJ誌の発表が簡素であること。一部のデータに重要な問題があったため、としか説明していない。2009年のESCで学会発表され、同時にウェブサイトに論文が先行公開された時には大々的に発表したのに、大きな違いだ。

第二は、発表が簡素であったせいか、医療メディアが殆ど報道していないこと。私は2月3日号を書いた後にForbesのウェブサイトで初めて知ったのだが、今日に至っても少数のメディアしか報じていない。日本は全く見当たらず、2月10日時点で「京都 KYOTO Heart Study」で検索したところ、流石にノバルティスがスポンサーのウェブ広告、ディオバン座談会はヒットしなくなった(削除された?)が、論文撤回のニュースは見当たらず、私が2009年に書いた記事がトップである。

新規に論文を読む人はおらず、過去に読んだ人もやがて忘れるだろうから、撤回を喧伝してもしなくても長い目で見れば変わらないのかもしれないが、医学論文とはこんなに軽いものなのだろうか?

さて、改めてPubMedで調べてみると、KYOTO HEART STUDYの治験論文は7本刊行/ウェブサイトで先行公開されたが、うち3本が掲載撤回、2本は投稿撤回となった。残りの2本はどうなるのだろうか?

もう一つ、ディオバン三部作のうち、降圧作用を超える心血管保護効果を示したもう一本のJIKEI HEART STUDYはどうなのだろうか?

KYOTO HEART STUDYで印象的だったのは、valsartan群と対照群の血圧平均値の推移を示すグラフがほとんど重なっていたことだ。降圧を超える保護効果を検証するためには両群の血圧が同じであることが望ましいのだが、実現するのは難しく、3mm Hgという比較的大きな差が出てしまった試験もあった。JIKEI HEART STUDYでも両群の平均血圧と標準偏差が同じであるのはおかしいという指摘がある。二重盲検ではなくPROVE法であることも同じだ。

リンク:EHJ誌の掲載撤回文

リンク:Forbes誌の関連記事

リンク:KYOTO HEART STUDY(循環器トライアルデータベース)

リンク:JIKEI HEART STUDYに関する投稿(Lancet誌)

【新薬開発】


GS-7977のHCV第三相試験は二本目、三本目も成功

(2013年2月4日発表)

ギリアッド(Nasdaq: GILD)はHCVポリメラーゼ阻害剤GS-7977(sofosbuvir)の慢性C型肝炎第三相試験を行っているが、遺伝子型2型(GT2型)と3型(GT3型)を対象にした二次治療試験に続いて、初めて治療を受ける患者を対象に実施した試験二本も成功したことを公表した。

一本はGT2型と3型を組入れてribavirinと経口剤二剤併用で12週間治療し、PEG化インターフェロン・アルファとribavirinの24週間コースとSVR12(12週持続的ウイルス学的奏効率:治療完了後12週間経ってもウイルスが検出されなかった患者の比率)を比較したもの。どちらも67%で非劣性解析が成功した。有害事象による治験離脱が1%対11%と少なかったことも寄与したのだろう。被験者の72%を占めたGT3型に関しては56%対63%で効果がやや見劣りする(統計学的な有意性は不明)。

もう一本は、欧米日で最も多いGT1型を中心に、4、5、6型の患者を組入れてribavirin、PEG化インターフェロン・アルファと三剤併用で12週間治療したところSVR12が90%となり、過去の同様な試験のSVRが60%であったことと比べて優れていた。89%を占めたGT1型では89%だった。

ギリアッドは、残りの試験の結果を待って年央に承認申請する予定。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

アイデニクスはIDX184の開発を中止

(2013年2月4日発表)

アイデニクス(Nasdaq: IDNX)のHCVポリメラーゼ阻害剤IDX184は、結局、開発中止となった。

これまでの臨床開発は紆余曲折を経た。2010年にIDX320(プロテアーゼ阻害剤)併用試験で重度の肝機能検査値異常が複数の患者で発生しFDAがクリニカル・ホールド(治験中断)を命じた。IDX320が原因だった模様で2011年に解除となったが、2012年に類薬のBMS-986094の第二相で複数の呼吸困難症例が発生したことからIDX320も部分的治験中断(新規組入れ停止)になった。アイデニクスは心臓安全性試験を実施しFDAに提出。特に問題はなかったようだがFDAは解除せず、今回の開発中止に至った。

リンク:アイデニクスのプレスリリース

イーライリリーは抗BAFF抗体のリウマチ向けを中止、SLEは続行

(2013年2月7日発表)

イーライリリーは抗BAFF完全ヒト化抗体LY2127399(tabalumab)をリウマチ性関節炎と全身性エリスマトーデス(SLE)の二用途で第三相入りさせたが、前者は開発中止となった。一本目が薬効不十分で中止となり、他の二本も中間解析を実施、おそらく良くなかったのだろう、中止に至った。SLEの試験は続行している。

BAFFはGSKのBenlysta(belimumab)の標的であるBLySと同じものだ。Benlystaのリウマチ第二相試験も有望であるようには見えなかったので、今回の発表に意外感はない。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

【承認申請】


GSKがEUでMEK1/2阻害剤を単剤・併用で承認申請

(2013年2月7日発表)

グラクソ・スミスクラインはbrafV600変異型悪性黒色腫向けにGSK2118436(dabrafenib、braf阻害剤)とGSK1120212(trametinib、MEK1/2阻害剤)を開発、前者は2012年8月に欧米で承認申請した。米国では同月に後者もモノセラピーで申請したが、EUは今回、モノと両剤併用で承認申請となった。併用は第1/2相試験のデータを裏付けとしたようだ。

braf阻害剤はロシュが2011年に発売したZelboraf(vemurafenib)が第一号で、悪性黒色腫の6割を占めるbrafV600変異型に顕著な効果があるが、耐性変異が生じることもある。MEK1/2阻害剤は単剤では効果がbraf阻害剤より見劣りするが、二剤併用によって効果を高めるだけでなく耐性変異も抑えられる可能性があり、併用第三相試験の結果が待望される。

リンク:GSKのプレスリリース

【承認審査・委員会】


Ampligenはやはり承認されず

(2013年2月4日発表)

Hemispherx Biopharma(NYSE MKR: HEB)はAmpligen(rintatolimod)を慢性疲労症候群の治療薬として承認申請していたが、FDAから審査完了通知を受領した。追加臨床試験と様々な前臨床試験、データ解析を求められたとのことで、同社は、審査後会議を行ったうえで、不服申立手続きを取る考え。

Ampligenは二重連鎖DNA薬で、トール・ライク・レセプター(TLR)3を作動して免疫を刺激する。2007年に承認申請したがFDAに受理されず、08年にやっと受理されたが審査完了となった。2012年に追加データを申請、諮問委員会にかけられたが、14人の委員のうち8人が承認に反対、5人は支持、一人は抗議して退場した。

ボトルネックとなったのは薬効が明確でないこと。薬効確認試験は二本実施され、一本では有意な治療効果が見られたが、一本は不明瞭で同社の解析では有意だがFDAの厳格な解析では有意ではなかった。慢性疲労症候群はウイルス感染との関連が指摘されているが、関係なさそうな症例もある。Ampligenの作用機序を考えれば前者に適している可能性があるが、ウイルス性か否かを事前に判定するのは難しい。結局、奏効率が低下するのを覚悟して闇雲に投与するしかない。

トリートメントINDという制度を利用して10年以上Ampligenによる治療を受けている患者が、先月30日から承認を求めてハンガー・ストライキを行っているとのことだ。このようなケースでいつも思うのだが、有効な薬と信じるならば、そして患者にとって必要な薬と思うのならば、FDAとの交渉に徒に時間を費やすのではなく、もう一度キチンとした試験を行うのが一番の早道ではないだろうか。

リンク:Hemispherxののプレスリリース

【承認】


第三のIMiDsが米国で承認

(2013年2月8日発表)

セルジーン(Nasdaq: CELG)のPomalyst(pomalidomide)がFDAに難治性多発骨髄腫用薬として承認された。同社のThalomid(thalidomide)、Revlimid(lenalidomide、和名レブラミド)に次ぐ第三のIMiDS(免疫調整薬)で、免疫力を強化して腫瘍化した血球細胞を破壊・成長阻害する。RevlimidとVelcade(bortezomib、武田薬品/JNJ)による治療を既に受けた、最後の治療に反応しなかった患者に用いる。催奇性の疑いがあり、妊婦は禁忌。

セルジーンは月10500ドルと、昨年オニクスが発売したプロテアソーム阻害剤Kyprolis(carfilzomib)の月9950ドルより高い価格で発売する模様だが、経口剤なので特に割高感はない。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:セルジーンのプレスリリース

FDAがドキシルのGE品を優先審査で承認

(2013年2月4日発表)

FDAはDoxil(doxorubicin HCl liposome injection、和名ドキシル)のGE品を優先審査で承認した。Doxilは2011年から品不足になっている。受託生産しているBen Venue社の工場で品質管理問題が発生したことが原因だ。緊急措置としてFDAはサン・ファーマ社のGE品の輸入を認めたが、今回、正式に承認した。Caraco社が販売する。

GE品も優先審査の対象になるとは知らなかった。今回のように、FDAの供給不足品リストに載っている薬に適用されるとのことだ。

リンク:FDAのプレスリリース

EUでサノフィのGLP-1作動剤が承認

(2013年月日発表)

サノフィは、デンマークのZealand Pharma社から導入して開発したexendinアナログ、Lyxumia(lixisenatide)がEUで二型糖尿病治療薬として承認されたと発表した。BMSのByetta(exenatide)と同様に、アメリカ毒トカゲの唾液から発見されたexendinの類縁体で、GLP-1受容体を作動して、血糖値上昇時にインスリンの分泌を刺激し、グルカゴンの過剰生産を抑制し、食物が胃から移動するのを遅らせ、食欲を抑制する。米国では昨年12月に申請された。

一日一回、皮注。サノフィは一日一回投与型インスリンのLantus(insulin glargine)というベストセラーを持っているので、Lyxumiaとのプリミックスの開発に期待がかかる。ところが、Fix-Flexコンビ薬(Lantusの用量は調節可、Lyxumiaは固定)の第三相入りが当初予定の2013年から遅れる見込みになった。量産プロセスの開発が順調に進んでいない模様だ。

Fixed-Ratioコンビ薬(Lantusの用量だけを調節することができない)は後期第二相試験が完了、データは今年発表される予定。こちらが先に第三相入りするかもしれない。

リンク:EU承認に関するZealandのプレスリリース

リンク:コンビ薬開発遅延に関するZealandのプレスリリース

ZaltrapがEUでも承認

(2013年2月5日発表)

リジェネロン(Nasdaq: REGN)と開発パートナーであるサノフィは、Zaltrap(ziv-aflibercept)がEUで結腸直腸がんの二次治療薬として承認されたと発表した。ロシュのAvastin(bevacizumab)と類似した薬だが抗体医薬ではなくVEGFの二種類の受容体の可変領域を免疫グロブリンG1の固定領域と細胞融合したもの。

米国では昨年8月に発売されたが、価格が月1.1万ドルであるためMSKCCが採用しないことを決定、結局、値下げを余儀なくされたようだ。ZaltrapはFOLFIRIというirinotecanベースの併用療法と一緒に使うが、AvastinのFOLFIRI併用時の用量が確立していないことが混乱の原因となったようだ。高量との比較ではZaltrapは割高ではないが、低量を使う医療施設では価格が倍になってしまう。

リンク:リジェネロンとサノフィのプレスリリース

【製薬会社の動き】


エランがTysabriの権利をバイオジェンに売却

(2013年2月6日発表)

アイルランドのバイオ企業、エラン(NYSE: ELN)はバイオジェン・アイデックと合弁会社方式で多発性硬化症維持療法用薬Tysabri(natalizumab)を販売してきたが、権利売却を決めた。一時金の32.5億ドルに加えて、売上ロイヤルティを受け取る(初年度は売上高の12%、その後は年商20億ドル以下の部分は18%、超える部分は25%)。Tysabriの2012年の売上高は16億ドル。

リンク:エランのプレスリリース

今週は以上です。

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