2013年1月27日

海外医薬ニュース2013年1月27日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • インフルエンザ・ワクチンの効率は62%(米国)
  • ビリアード錠プロドラッグの4種合剤が第三相に
  • 持続性ベータ・インターフェロンの第三相試験が成功
  • GI ASCO:抗VEGFR-2抗体の第三相試験が成功
  • GI ASCO:アブラキサンの膵癌試験が成功
  • イムパックスのドパミン新製剤は承認されず
  • ネシーナが遂にアメリカでも承認
  • FDAがアバスチンの用法追加を承認
  • FDAがエクジェイドの適応拡大を承認
  • FDAがグリベックの適応を拡大(ノバルティス会長が退任発表)
  • FDAが過活動膀胱用貼付薬のOTCスイッチを承認
  • EUでノボ ノルディスクのインスリン二剤が承認
  • EUでノバルティスのB群髄膜炎菌ワクチンが承認
  • FDAがサムスカの肝毒性懸念を警告


【今週の話題】


インフルエンザ・ワクチンの効率は62%(米国)

(2013年1月11日発表)

日本でもインフルエンザが流行し、ワクチンを打ったのに感染したというボヤキや苦情を聞く機会が増えた。例年のことであり、その度に、「ワクチンは感染を防ぐものではなく重い合併症のリスクを削減する」と教科書的な説明をしているのだが、ワクチン効率(ワクチンを打たなかった人と比べてリスクが何パーセント低下するか)は流行型に依存するので、内心では今年は効きが悪いのかもしれないと思ってしまう。

そんな中、CDC(米国の疾病管理予防センター)がMorbidity and Mortality Weekly Reportの中で、今シーズンのワクチン効率に関する早期調査結果を発表した。1155名の小児・成人を対象に実施している調査の2012年12月3日から2013年1月2日までのデータを用いて推定したもの。

結果は、ワクチンを打たなかった人と比べて、インフルエンザ関連の急性呼吸器感染症を発症し医療を受けるリスクが62%低かった(95%信頼区間51~71%)。ウイルス型別リスク削減率は、A型が55%、B型が70%。近年は二種類のB型が流行することが増え、ワクチンには一種類しか入っていないため二種類を配合する方向に向かっているが、今シーズンに関しては一種類でも特に悪くはないことになる。

同時に行われた記者会見の筆記録によると、昨シーズンのワクチン効率は50%台半ばであった模様。過去20年間のレンジは50%台から70%台とのことなので、ワクチンを打てばリスクを2分の1から3分の1に減らせることになる。

一方で、ゼロになるわけではない。過信は禁物、発症したからと言って苦情も禁物で、雨の日もあるさと達観するしかない。

リンク:MMWRの記事

【新薬開発】


ビリアード錠プロドラッグの4種合剤が第三相に

(2013年1月24日発表)

ギリアッド(Nasdaq: GILD)はGS-7340(tenofovir alafenamide)など4種類の抗HIV/AIDS薬を配合した一日一回服用型合剤の第三相試験を開始した。 同社は合剤の開発に積極的で、一日一回服用するだけで多剤併用療法が可能なAtripla、Complera、Stribildの三種類を品揃えしている。今回の合剤はStribildに含まれるtenofovir disoproxil fumarate(以下、TDF)をプロドラッグであるtenofovir alafenamide(以下、TA)に替えたもの。

TDFはヌクレオチド系の逆転写酵素阻害剤で単剤でViread(和名ビリアード)として発売され成功、この種の薬でNo.1になった。同社の合剤のバックボーンになる重要な活性成分だが、米国で2018年に特許が切れるため、後継薬の開発が課題だ。

TAは力価が高く10分の1の量でTDFと同等の抗ウイルス作用を発揮するため、安全性の向上が期待される。今回の合剤とStribildの配合量を比較すると、インテグラーぜ阻害剤elvitegravir(150 mg)、3A4阻害剤cobicistat(150 mg)、逆転写酵素阻害剤emtricitabine(200 mg)は同量。TAは10 mg、TDFは300 mgで、30分の1と更に少なくなっている。おそらくcobicistatによって暴露がブーストされるのだろう。

この二種類の併用を比較した第二相試験では効果が同程度だがTA群の方が腎機能低下や骨塩密度低下の発生率が低かった。第三相試験も第二相と同じ、初めて治療を受ける患者を組入れてStribildと直接比較する。おそらく、効果は同程度で安全性に優れるという結果を期待しているのだろう。



リンク:ギリアッドのプレスリリース

持続性ベータ・インターフェロンの第三相試験が成功

(2013年1月24日発表)

バイオ薬の登場から30年経ち、GE品(バイオシミラー)も見られるようになった。既に発売されたエポエチンやG-CSFの次は、血液凝固因子やインスリン、そしてベータ・インターフェロンと目されている。抗体医薬よりもサイトカイン系の薬の方が歴史が長いため、薬理学的試験や薬物動態試験と薬効確認試験のブリッジングが容易だからだ。サイトカイン系の大型薬を持つ企業は対策が迫られている。

多発性硬化症薬Avonex(遺伝子組換え型インターフェロン・ベータ-1a)を持つバイオジェン・アイデック(Nasdaq: BIIB)の対策が、PEG化インターフェロン・ベータ-1aの開発だ。今回、第三相試験の成功が発表され、年内に欧米で承認申請される見込み。第三相試験では、125 mcgを二週間毎に一回皮注した群は年率再発率が偽薬群より35.6%低く(p<0.001)、四週間毎一回皮注群は同じく27.5%低かった(p<0.02)。

Avonexは30 mcg週一回筋注、偽薬対照試験での年率再発率削減率は18%だったので、新薬の方が少ない注射回数で高い効果を生むことになるが、本当に効果が高いのかは不透明なところだ。今回の四週間毎投与群のp値を見ても、10ポイント程度の違いでは直接比較試験をやっても統計学的に有意な差が出るかどうか分からない。

ベータ・インターフェロンは既に標準療法の一つになっているので、一年間とはいえ偽薬を投与する群を設定するのは倫理的に難しい問題を生む。同社は当初、第三相を直接比較試験にする考えだったが、FDAもEUのCHMPも偽薬対照試験を推奨した模様だ。エビデンスがない以上、新薬の長所は専ら注射頻度の少なさ、ということになるだろう。

リンク:バイオジェン・アイデックのプレスリリース

GI ASCO:抗VEGFR-2抗体の第三相試験が成功

(2013年1月24日発表)

GI ASCO(米国臨床腫瘍学会胃腸系シンポジウム)で、イーライリリーがイムクローン社を買収して入手した抗VEGFR-2完全ヒト化抗体、IMC-1121B(ramucirumab)の第三相試験の結果が発表された。抄録によると、切除不能胃癌の二次治療としてIMC-1121Bを投与する群としない群の全生存期間を比較したところ、ハザードレシオ(HR)が0.776、95%信頼区間0.603-0.998、p=0.0473、メジアン生存期間は各5.2ヶ月と3.8ヶ月となり、有意に優れていた。グレード3以上の有害事象は高血圧が若干増えた程度だった。

治験成功は確かだが、承認審査機関の支持を獲得できるかどうかは微妙だろう。治療効果があまり高くなかったせいか、信頼区間もp値もそれほどよい数値ではなく、いわゆる、ボーダーライン・シグニフィカンスだ。

末期癌のような深刻な疾患を治療する薬は開発をスピードアップするために薬効確認試験を二本行わず一本だけでも承認申請できるが、この場合、p値が著しく低いことが求められる。p値が0.05ということは、偶然の結果である可能性は5%ということを意味する。二本の試験でp=0.05となる確率は0.05の二乗、0.0025なので、第三相試験が一本だけでもp値が0.0025を下回れば有意性は十分に高いことになる。

後述のAbraxaneやAvastinの適応拡大試験は、HR自体はIMC-1121Bと大差ないものの、p値がもっと低い。そもそも、この二剤はこれまでに様々な試験が行われ、薬効や副作用に関するエビデンスが充実している。

深刻な有害事象があまり増えなかったことは好材料だが、学会発表の情報だけでは不十分だ。もしイーライリリーが承認申請したとしても、承認されないリスクが残るだろう。昨年10月に第三相成功が公表された時と比べて、期待感が後退した。

リンク:GI ASCOの抄録

GI ASCO:アブラキサンの膵癌試験が成功

(2013年1月24日発表)

セルジーン(Nasdaq: CELG)はアブラキシス社を買収して入手したAbraxane(アルブミン結合paclitaxel、和名アブラキサン)の膵癌適応拡大試験が成功したと昨年11月に発表したが、具体的な内容がGI ASCOで発表された。延命効果は1ヶ月強と小さいが、膵癌に有効な薬は少なく、一歩前進は一歩前進だ。欧米で2013年上期に適応拡大する予定。

この試験は切除不能膵癌の一次治療としてgemcitabineと併用する効果をgemcitabine単剤と比較したもの。全生存のHRは0.72、p<0.0001、メジアン生存期間は8.5ヶ月対6.7ヶ月となり、1年生存率は35%対22%だった。グレード3以上の治療関連有害事象は好中球減少症、疲労、神経症が増加した。

Abraxaneはナノパーティクル技術を用いてpaclitaxelをアルブミンの中に入れたもの。通常のpaclitaxel製剤と異なり溶剤を使っていないためアレルギー性副作用のリスクが小さく、高量を投与することも可能だ。日本は大鵬薬品が販売。

リンク:セルジーンのプレスリリース

【承認審査・委員会】


イムパックスのドパミン新製剤は承認されず

(2013年1月21日発表)

イムパックス(Nasdaq: IPXL)はパーキンソン病治療薬Rytary(levodopaとcarbidopaの合剤)を米国で承認申請していたが、FDAから審査完了通知を受領した。薬自体の問題というよりは、生産管理基準違反を解決するまで承認お預けを食らったようだ。

この合剤は一日一回服用で足りることが長所。2010年12月にGSKが米国や台湾以外での権利を獲得、2011年12月にペーパーNDA(承認申請に必要な情報の一部を既承認の薬のデータで代用する、新製剤の承認申請にしばしば用いられる方法)と順風満帆だったが、思わぬ落とし穴があった。2011年5月にFDAからHayward工場の生産管理体制に関する警告状を受領、今回、この問題が解決するまでRytaryを承認できないと通告された。

FDAが新薬承認を人質に生産管理体制の是正を求めることはよくある。多くの場合、メーカー側にとって是正は容易ではなく(容易ならさっさと是正しているはずだ)、解決に時間が掛かり承認が大きく遅れることも珍しくない。厄介なことになった。

リンク:イムパックスのプレスリリース

【承認】


ネシーナが遂にアメリカでも承認

(2013年1月25日発表)

武田薬品の二型糖尿病治療薬Nesina (alogliptin、和名ネシーナ) と二種類の合剤が米国で承認された。Nesinaの承認申請は2007年12月で、当時はActos(pioglitazone、和名アクトス)の特許切れ対策の切り札的存在だったが、証文の出し遅れとなったのか、即刻発売ではなく夏に発売する予定だ。

承認が遅れた理由は明らかにされていないが、臨床試験で数値上、心臓疾患の発生率が高かったことが原因と推測される。尤も、心臓疾患の定義や集計対象の治験数によって数値は区々であり、明確なことは分からない。NesinaのようなDPP-4阻害剤は様々な製薬会社が開発・発売したが、武田の開発プログラムの特徴はActos併用試験が多いことだ。Actosは心不全のリスクがあり、Nesina併用群は発生率が若干高まるようなところがあったこともノイズを生んだかもしれない。

承認遅延の背景はActosと同じPPAR作動剤であるAvandia(rosiglitazone)に心筋梗塞リスクが浮上したことだ。リスクのシグナルを見逃したFDAに医学者や議会の非難が高まり、FDAは二型糖尿病薬の心血管疾患リスク評価に関するガイドラインを作り、既に開発後期・承認申請段階にあった薬にも適用した。Nesinaの承認が遅れたのは運が悪かったという側面もあったのである。

今回、FDAはNesinaの承認に関するプレスリリースを出したが、類薬が複数承認されている薬では珍しく、承認が遅れて迷惑した武田薬品に対する配慮なのかもしれない。

FDAは市販後試験として心血管アウトカム試験、肝臓異常や重篤膵炎、重篤過敏反応に関する市販後監視プログラム、小児試験を求めたが、何れも他のDPP-4阻害剤と比べて特別なものではない。

尚、Nesinaと一緒に承認された合剤は、Kazano (metformin配合剤)とOseni(pioglitazone配合剤、和名リオベル)。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:武田薬品のプレスリリース(1/26付、和文、pdfファイル)

FDAがアバスチンの用法追加を承認

(2013年1月23日発表)

ロシュは、FDAがAvastin(bevacizumab、和名アバスチン)の用法追加を承認したと発表した。切除不能結腸直腸癌の一次治療に化学療法併用で用いた後、二次治療として別の化学療法レジメンと併用することが認められた。EUでも2012年12月にこの用法がレーベル収載されている。

承認の裏付けになったML18147試験では、二次治療を受けた患者の全生存期間がメジアン11.2ヶ月とAvastinを使わなかった群の9.8ヶ月を上回り、HRは0.81、p値は0.0057だった。p値は0.0025より高いが、Avastinの再投与に関するエビデンスは他にも存在する。

効果自体はそれほど高くなく、治験結果の解釈も、再投与が有益なのか、それとも一次治療で止めてしまうことが有害なのか、分からないところがある。血管新生阻害剤は研究開発が活発なので、今後、明らかになるだろう。

リンク:ロシュのプレスリリース

FDAがエクジェイドの適応拡大を承認

(2013年1月23日発表)

FDAがノバルティスのExjade(deferasirox、和名エクジェイド)の適応拡大を承認、非輸血依存的地中海貧血症(NTDT)の治療に用いることを認めた。NTDTは先天性疾患だが、Exjadeが既に承認されている輸血依存的地中海貧血症と比べて鉄蓄積が比較的少なく、診断が遅れたり発見されなかったりするケースもあるようだ。Resonance Health(オーストラリアのMRI疾病診断・管理会社)のFerriScanシステムによる肝鉄濃度検査値と、血清フェリチン値が一定以上であった場合に、Exjadeが適用になる。

Exjadeは鉄のキレート剤で臓器に蓄積した鉄を除去する。それまでの製品は毎日長時間、点滴ポンプで投与する必要があったが、Exjadeは溶かして飲むので患者の負担が小さい。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

FDAがグリベックの適応を拡大(ノバルティス会長が退任発表)

(2013年1月25日発表)

FDAはGleevec(imatinib)の適応を拡大し、フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ芽球性白血病の小児の一次治療に用いることを認めた。

一方、Gleevecのもう一つの適応拡大用途である肺動脈高血圧症は審査が難航し、米国に続いてEUでも適応拡大申請を撤回した。Gleevecは2014~16年に特許が切れるので、ノバルティスの真の狙いはTasigna(nilotinib、和名タシグナ)で適応拡大を実現することだろう。Gleevecの適応拡大申請はそのための道路整備、露払いという意味合いもあっただろう。

Gleevec関連でもう一つ大きなニュースは、ノバルティス会長のダニエル・バゼラが退任を発表したことだ。欧米の大手製薬会社のトップには珍しい、株主よりも患者や医療を重視する経営者で、優秀なビジネスマン、リーダーでありながら、自分が自社製品ではなく他社の薬を服用していることを率直に語ることのできる誠実な人である。

Gleevec発売当時、私は売れても年商3億ドルと考えていた。ノバルティスの社内でも採算性を懸念する声があったようだが、患者のためになるならと反対を押し切って開発続行を決めたのがバゼラ氏である。その後、Gleevecの売上高は私の予想の10倍以上に拡大した。医療のブレークスルーを実現すれば、利益は後から付いてくるということを立証したのである。退任発表を受けて株価が上昇したのは残念だ。

リンク:FDAのプレスリリース

FDAが過活動膀胱用貼付薬のOTCスイッチを承認

(2013年1月25日発表)

FDAは「Oxytrol for Women」を18歳以上の女性の過活動膀胱を治療するOTC薬として承認した。活性成分のoxybutyninは抗コリン剤で、処方薬として過活動膀胱の治療に広く用いられている。抗コリン剤がOTC過活動膀胱薬として承認されたのは初。Oxytrolはアクタビス(1月24日にワトソンから社名変更)が開発した貼付け薬で四日間有効。MSD(米国のメルク)が販売する。

リンク:FDAのプレスリリース

EUでノボ ノルディスクのインスリン二剤が承認

(2013年1月21日発表)

ノボ ノルディスクはTresiba(insulin degludec、和名トレシーバ)とRyzodeg(insulin degludecとinsulin aspartの合剤、和名ライゾデグ)がEUで承認されたと発表した。TresibaはサノフィのLantusに対抗すべき管理放出性インスリン。2013年上期からロールアウトされる予定。Ryzodegは同社の超短期作用性インスリンNovoRapidの活性成分を配合したプリミックスで、一日1~2回投与する。Tresibaの一年遅れで発売される予定。

リンク:ノボのプレスリリース

EUでノバルティスのB群髄膜炎菌ワクチンが承認

(2013年1月22日発表)

ノバルティスは、B群髄膜炎菌ワクチンBexseroがEUで承認されたと発表した。2ヶ月以上の人が対象。髄膜炎菌ワクチンはA、C、W-135、Y群をカバーする製品が実用化され、感染者が減少したが、英国やスペイン、豪州などではB群が増加、ワクチンのニーズが高まっている。しかし、B群は株が多いため開発が難しく、今回が初めてである。様々なワクチンの中での優先順位は国によって異なるだろうが、症例の多い国ではワクチン・スケジュールに採用されるのではないだろうか。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDAがサムスカの肝毒性懸念を警告

(2013年1月25日発表)

FDAと大塚製薬は、Samsca(tolvaptan、和名サムスカ)の肝毒性懸念に関する安全性情報を発出した。ADPKD(多発性嚢胞腎)適応拡大試験で薬物関連の可能性があるALT値と総ビリルビン値の異常上昇が3例、発生したため。FDAは、治療中に肝臓障害に関連する症状が発生した場合は適切に肝機能検査を行い、肝障害が疑われた場合は投与を中止、Samscaとの関連性が完全に否定できた場合を除いて、投与を再開しないよう推奨した。

この試験では承認用途である体液貯留・正常型低ナトリウム血症治療の用量の2倍を投与しており、また、肝不全のような重篤な症例の有無は明らかではない。しかし、ALT値と総ビリルビン値の異常上昇が併発すると一割程度の確率で深刻な肝障害を合併すると推測されている。薬物誘導性肝障害リスクは用量相関性を立証するのが困難なので、用量が多少異なっていても楽観できない。

リンク:FDAのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年1月20日

海外医薬ニュース2013年1月20日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • ベーリンガーもインターフェロン抜きで第三相C型慢性肝炎治療試験を開始
  • GSKが週一回投与型GLP-1作用剤を米国で承認申請
  • FDAがベーリンガーのEGFR阻害剤の承認申請を受理
  • CHMPが硝子体黄斑癒着治療薬等の承認を勧告
  • 昆虫細胞培養型インフルエンザ・ワクチンが米国で承認
  • アミロイド・ベータ検査薬が欧州でも承認
  • 赤血球生成刺激剤の心不全治療試験がフェール


【新薬開発】


ベーリンガーもインターフェロン抜きで第三相C型慢性肝炎治療試験を開始

(2013年1月17日発表)

ギリアッド(Nasdaq: GILD)等に続き、ベーリンガー・インゲルハイムもインターフェロン・アルファを使わない経口剤だけの併用でC型慢性肝炎を治療する第三相試験を開始した。

この併用レジメンは、BI 201335(faldaprevir;NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤)とBI 207127(非ヌクレオシド系NS5Bポリメラーゼ阻害剤)、そしてribavirinの三剤を併用する。BI 201335は一日一回服用だが、BI 207127は二回。第三相は1b型ウイルスに感染し初めて治療を受ける患者を対象に二本実施し、どちらも、24週間コースと16週間コースのSVR12(持続的ウイルス学的奏効率:治療完了後12週間経ってもウイルスが検出されなかった患者の比率)を検討する。

特徴的なのは、組入れ対象をインターフェロン不適患者に限定していないこと。そして、その割には、インターフェロンを用いる標準療法群が設定されていないこと。もし成功したとしてもインターフェロン・アルファ、ribavirin、プロテアーゼ阻害剤を併用する標準療法との優劣は分からないままだ。

第三相試験では肝硬変を合併する患者だけの群も設定されている。これも対照群はない。

BI 201335はインターフェロン・アルファ、ribavirinと三剤併用するオーソドックスな第三相試験が進行中で、今年上期に結果が出る見込み。今回の三剤併用レジメンは補完的な意味合いなのかもしれない。

リンク:ベーリンガー・インゲルハイムのプレスリリース

【承認申請】


GSKが週一回投与型GLP-1作用剤を米国で承認申請

(2013年1月14日発表)

グラクソ・スミスクラインはGSK716155(albiglutide)を二型糖尿病の血糖治療薬として米国で承認申請した。EUでも承認申請する見込み。遺伝子組換え型GLP-1とアルブミンを細胞融合したバイオ薬で、承認されれば、BMSのBydureon(exenatide)に次ぐ第二の週一回投与型GLP-1作用剤となる。

GLP-1は小腸のホルモンで、食欲を抑制し、インスリンの分泌を刺激し、グルカゴンの異常分泌を抑制するなどの作用を持つ。天然のGLP-1はDPP-4によって直ぐに分解されてしまうが、遺伝子組換え型はDPP-4結合箇所のアミノ酸を置換することによって持続性を高めている。GSK716155はアルブミンと結合することで半減期を4~6日と更に伸ばしている。

残念なのはノボ ノルディスクの一日一回皮注用GLP-1作用剤、Victoza(liraglutide、和名ビクトーザ)と直接比較した試験で、血糖降下作用が非劣性でなかったことだ。効果が同じなら注射回数が7分の1で済むことが大きなセールスポイントになっただろう。

リンク:GSKのプレスリリース

FDAがベーリンガーのEGFR阻害剤の承認申請を受理

(2013年1月16日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムは、FDAがafatinibの承認申請を受理して優先審査指定したことを明らかにした。afatinibはIressa(gefitinib、和名イレッサ)、Tarceva(erlotinib、和名タルシバ)と同様なEGFRチロシン・キナーゼ阻害剤。

先行二剤は非小細胞性肺癌の二次治療、三次治療薬として承認された後に、本当に適しているのはEGFR活性化変異型だけであることが判明。このタイプなら一次治療で化学療法併用よりも高い効果を発揮するが、他のタイプにはあまり効かないことが分かった。afatinibも同じで、EGFR活性化変異型非小細胞性肺癌の第三相一次治療試験で無増悪生存期間(PFS)がメジアン11.1ヶ月と白金薬・タクサン系抗癌剤併用群の6.9ヶ月を上回った。

Tarcevaは同じ適応でEUでは2011年に承認、米国でも2012年11月に承認申請されafatinibと同様に優先審査指定された。おそらくafatinibより先に適応拡大が承認されるだろう。先行二剤は3~5年後にGE化するだろうから、afatinibの競争環境は厳しい。

今回の発表で奇妙なのは、審査期限が2013年第3四半期とされていることだ。優先審査は申請から審査期限まで6ヶ月、申請から受理までは通常1ヶ月なので、1月受理ならば申請は昨年12月、審査期限は6月であるはずだ。何か特別な事情があるのだろう。

リンク:ベーリンガー・インゲルハイムのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPが硝子体黄斑癒着治療薬等の承認を勧告

(2013年1月18日発表)

EUの医薬品科学的評価委員会であるCHMPが、1月の会合で、硝子体黄斑癒着治療薬と慢性骨髄性白血病治療薬の承認及びノバルティスの抗体医薬の適応拡大承認を勧告した。一方、idebenone(コエンザイムQ10、和名アバン)は今回の適応症でも支持を得られなかった。

リンク:CHMPのプレスリリース

肯定的評価を受けたのは、まず、スロンボジェニクス(Euronextブラッセル: THR)の症候性硝子体黄斑癒着治療薬、Jetrea(ocriplasmin)。硝子体黄斑癒着は硝子体ゲルが黄斑と癒着し視力が低下する。癒着が進むと穴が開く(黄斑円孔)こともある。Jetreaは遺伝子組換え型ヒト・プラスミンで、癒着箇所の蛋白マトリクスを溶解する。臨床試験では一回の硝子体注射で消散成功率が26.5%と、偽薬群の10.1%を上回った。

米国では昨年10月に承認。米国外の権利はノバルティスのアルコン部門が持っている。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

リンク:CHMPのプレスリリース

次に、ファイザーのbosutinibの条件付き承認が勧告された。ノバルティスのGleevec(imatinib、和名グリベック)と同じbcr-abl阻害剤で、用途もフィラデルフィア染色体陽性の慢性骨髄性白血病で同じだが、適応は既存のbcr-abl阻害剤に不応・不耐で他のbcr-abl阻害剤二剤に不適な患者に限られる。

条件付き承認は米国の加速承認、日本の迅速審査による承認と同様だが、市販後に改めて薬効確認試験を行う義務がある。米国の加速承認にも同様な義務はあるが、果たさなかった場合のペナルティが明確でないため、「加速承認の食い逃げ」が問題になっている。

フィラデルフィア染色体は殆どの慢性骨髄性白血病と一部の急性リンパ性白血病で観察される遺伝子変異で、第9染色体の一部と第22染色体の一部が転座(入替)した結果、bcrとablの夫々の遺伝子の一部が結合して高活性abl遺伝子が形成される。病理に大きく関与している模様であり、Gleevecのようなabl阻害剤によく反応する。

リンク:ファイザーのプレスリリース

ノバルティスの抗IL-1ベータ抗体、Ilaris(canakinumab、和名イラリス)の適応拡大も支持された。現在の適応症はクリオピリン関連周期性症候群という患者数が欧米で3000人、日本で30人程度の超希少疾患だが、新用途は重度難治性痛風性関節炎なので、市場がかなり大きくなる。FDAは安全性に懸念が残ることから承認しなかった。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

一方、サンセラ・ファーマスーティカルズ(SIX: SANN)がレーバー遺伝性視神経萎縮症(LHON;ミトコンドリア疾患の一つ)の治療薬として承認申請したRaxone(idebenone)は、否定的評価を受けた。サンセラは再審査を請求する予定。5年前にもフリードライヒ失調症治療薬としての

承認申請が否定的評価を受けている。

この合成コエンザイムQ10は1986年に日本で脳梗塞治療薬アバンとして承認されたが、薬効再審査の対象となり、1998年に承認取消となった。コエンザイムQ10はミトコンドリアの機能低下を補うと言われており、今回のLHONを含め様々なミトコンドリア疾患の治療試験が行われたが、成果はいま一つだった。LHONの試験では視力が偽薬群より3文字分、上回っただけで、CHMPは臨床的に意味のある治療効果ではないと断じた。

(視力改善効果を計測する試験ではETDRSという特殊な視力検査表が用いられる。加齢性黄斑変性治療薬Lucentis(ranibizumab)の試験では偽薬比で17文字優れていた。一方、同じ加齢性黄斑変性治療薬であるVisudyne(verteporfin)は6文字だった。)

サンセラは、治療効果が比較的大きかった発症1年以内の患者に限定して承認を得ようとしたが、85人の試験のサブポピュレーション分析に過ぎず信頼性が低いと判定された。

リンク:サンセラのプレスリリース

【承認】


昆虫細胞培養型インフルエンザ・ワクチンが米国で承認

(2013年1月16日発表)

インフルエンザ・ワクチンはウイルス株を鶏卵で培養して作るが、時間がかかり、また、鳥由来の新型ウイルスが流行した場合ヒトより先に鳥で大流行して十分な量の鶏卵が調達できなくなる可能性もある。危機対策として注目されるのが細胞培養型ワクチンだ。欧州では2007年にイヌのMDCK細胞で培養したノバルティスのOptafluが承認されたが、米国でも、昆虫細胞培養型インフルエンザ・ワクチン、Flublokが承認された。今回の承認は18~49歳だけが対象だが、50歳以上も年内に承認される見込み。

コネチカット州の新興企業、プロテイン・サイエンス社の開発品で、日本ではUMNファーマがアステラス製薬と共同開発している。バキュロウイルスという昆虫に感染するウイルスの遺伝子にインフルエンザ・ウイルス抗原(ヘマグルチニン)を導入し、ベクターとして昆虫細胞に送り込むもので、鶏卵法と比べて短期間に大量の生産が可能とのことだ。

危機管理の点では重要なワクチンだが、売れるかどうかは別問題だ。インフルエンザ・ワクチンで最も重要なのは安価であることであり、もし割高な価格で発売された場合は、アストラゼネカの点鼻スプレー型インフルエンザ・ワクチン、FluMistの二の舞になろう。

Flublokの試験はWHOやFDAの予測が外れた07/08年シーズンに実施されたため、感染例の96%がワクチン抗原不適合だった。勿論、不適合でも株によっては有効で、Flublokの試験は感染リスクを45%削減した。効果が小さいと感じる人もいるだろうが、インフルエンザ・ワクチンの臨床試験は古いものが多く、どの程度の効果があるのかは分からない。そもそも、07/08年シーズンのように流行株の予測が外れた時は、雨の日もあるさと諦めるしかない。

短期間で生産できるワクチンが主流になれば、南半球で流行する株を見てから北半球用のワクチンを生産することも可能になるので、的中率を上げる上で一歩前進する。もう一つの方法は四価ワクチンの実用化だ。現在の三価ワクチンはA型から二種類、B型から一種類選んで配合するが、近年は二種類のB型が流行することが多いため、B型も二種類配合したワクチンが欧米で開発されている。

リンク:プロテイン・サイエンスのプレスリリース(pdfファイル)

アミロイド・ベータ検査薬が欧州でも承認

(2013年1月15日発表)

イーライリリーはAmyvid(florbetapir F 18)がEUで承認されたと発表した。アミロイド・ベータの蓄積状況を調べるPET検査用の放射性造影剤で、アルツハイマー病の診断に用いる。蓄積がなければ他の病気が疑われるが、何れにせよ、この検査だけに頼らず総合的な診断が必要とのこと。米国では昨年4月、承認された。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

【大規模試験】


赤血球生成刺激剤の心不全治療試験がフェール

(2013年1月16日発表)

アムジェンは、長期作用性赤血球生成刺激剤Aranesp(darbepoetin alfa、和名ネスプ)のRED-HF試験がフェールしたと発表した。症候性心不全でヘモグロビン値が9~12g/dLの患者を組入れて、ヘモグロビン値を13g/dL以上に矯正する群と偽薬群の臨床的転帰を比較したが、心不全の悪化や死亡を防ぐ効果は全く無かった(ハザードレシオ1.01、95%信頼区間0.90、1.13)。

末期腎臓疾患透析期の治療では、脳梗塞等のリスクが高まるため11g/dLを超えたら減量・中止する必要がある。RED-HF試験は赤血球生成刺激剤のリスクが明確になる前に開始されたためか矯正目標が高く設定されており、フェールしたことを悲しむのではなく有害でなかったことを喜ぶべきだろう。

リンク:アムジェンのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年1月13日

海外医薬ニュース2013年1月13日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • Cangrelorの再挑戦が成功
  • 抗葉酸受容体抗体の第三相試験はフェール
  • サノフィが味の素から導入した血管崩壊剤の開発を中止
  • MSDが米国で筋弛緩回復薬を再承認申請
  • GSKがCOPD用コンビ薬をEUでも承認申請
  • 第二のSGLT2阻害剤もFDA諮問委員会の意見が分かれた
  • バイエルの低用量レボノルゲストレル放出子宮内避妊システムが米国で承認
  • ベタニスがEUでも承認
  • Zytigaの早期使用がEUでも承認
  • MSDがTredaptiveの販売を暫定的に中止
  • 女性はマイスリーの用量を減らすようFDAが推奨
  • 日本のCirculation誌がKYOTO HEART STUDY関連の論文二本を撤回


【新薬開発】


Cangrelorの再挑戦が成功

(2013年1月8日発表)

メディスン・カンパニー(Nasdaq: MDCO)は、cangrelorのCHAMPION PHOENIX第三相試験が成功したと発表した。年内に欧米で承認申請する予定。2009年に二本の第三相試験が無益性で中止されたことを考えれば、治験名の通り不死鳥のように復活した。

cangrelorはアストラゼネカからライセンスした点滴用ADP受容体拮抗剤。アストラゼネカの経口ADP受容体拮抗剤Brilinta(ticagrelor)は急性冠症候群試験で心筋梗塞予防効果がPlavix(clopidogrel)を上回った。今回、PCIを受ける患者の48時間心筋梗塞予防効果でcangrelorがPlavixを上回ったのも、驚天動地とは言えない。

だがそれにしても、先行して実施された二試験との違いは何か、興味が湧く。この二本でも、代理マーカーに基づく心筋梗塞を除けば効果が上回った模様であり、今回の試験では症候性虚血性イベントに重点を置いて評価したのだが、このような事後的解析に基づく再挑戦が成功することは珍しい。学会・論文発表が待望される。

リンク:メディスン・カンパニーのプレスリリース

抗葉酸受容体抗体の第三相試験はフェール

(2013年1月10日発表)

エーザイの子会社であるMorphotek社は、MORAb-003(farletuzumab)の第三相プラチナ感受性卵巣癌試験がフェールしたと発表した。タクサン系抗癌剤とcarboplatinの併用療法に更にMORAb-003を追加しても無増悪生存期間を有意に延ばすことはできなかった。サブポピュレーション分析で一部のタイプに効果の兆しがあった模様だが、このような分析はあまりアテにならない。

リンク:Morphotekのプレスリリース

リンク:エーザイのプレスリリース(和文)

サノフィが味の素から導入した血管崩壊剤の開発を中止

(2013年1月8日発表)

サノフィはJPモーガンのヘルスケア・コンファレンスで開発パイプラインのアップデートを行い、2001年に味の素から全世界での開発販売権を取得した血管崩壊剤、AVE8062(ombrabulin)の開発を中止したことを公表した。肉腫の二次治療薬としてcisplatin併用で第三相試験を実施したがフェールした。

リンク:サノフィのプレスリリース(pdfファイル)

【承認申請】


MSDが米国で筋弛緩回復薬を再承認申請

(2013年1月7日発表)

MSD(米国メルク)はsugammadexをFDAに再承認申請し受理されたと発表した。2013年上期中に審査結果が出る見込み。追加試験によって過敏反応リスクがどの程度明確になったのか、注目される。

Bridion(sugammadex、和名ブリディオン)はrocuroniumなどの筋弛緩剤に結合して不活性化する、中和剤。オルガノンの開発品で、同社を買収したシェリング・プラウをMSDが買収した。2008年に欧州で発売されたが、2010年発売の日本のほうが広く用いられているようだ。

米国でも2007年に承認申請されたが、承認されなかった。FDAは過剰感作リスクを懸念した模様だ。日本でもアナフィラキシー症例が報告されているようなので、MSDが実施した健常者アレルギー感受性試験の結果が明らかになれば、高リスク患者の特定に寄与するかもしれない。

リンク:MSDのプレスリリース

GSKがCOPD用コンビ薬をEUでも承認申請

(2013年1月8日発表)

グラクソ・スミスクラインとテラバンス(Nasdaq: THRX)は喘息症やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)領域で様々な新薬を共同開発している。長期作用性ムスカリン阻害剤GSK573719A(umeclidinium)は長期作用性ベータ2作用剤GW642444(vilanterol)との合剤の開発が先行、昨年12月に米国で承認申請されたが、この度、EUでも承認申請されたことが発表された。EUではANOROという商標名を予定している。

長期作用性ムスカリン阻害剤はベーリンガー・インゲルハイム/ファイザーのSpiriva(tiotropium)が大成功している。複数の新薬が登場し始めているが効果は大差ないように感じられるので、ベーリンガーの開発品も含めて、重症患者向けのコンビ薬が主戦場になりそうだ。

リンク:GSKのプレスリリース

【承認審査・委員会】


第二のSGLT2阻害剤もFDA諮問委員会の意見が分かれた

(2013年1月10日発表)

FDAは内分泌代謝学薬諮問委員会を招集して、ジョンソン・エンド・ジョンソンが田辺三菱製薬と共同開発し米国で承認申請したInvokana(canagliflozin)について、意見を求めた。便益がリスクを上回るか(承認に値するか)という質問には10人がYES、5人がNOと回答し、思った以上に意見が分かれた。尤も、NOと答えた委員の多くは中度腎機能低下患者に対する効能に疑問を呈した模様なので、EUと同様にこの患者層を適応外として承認される可能性は残っていそうだ。

悩ましいのは心血管安全性に関わるデータが万全ではないことで、諮問委員会の意見も、市販後に確認すれば良いと考える委員が7人、否が8人と真っ二つに分かれた。通常の第二相、第三相試験では心血管疾患のリスクが偽薬より低い傾向が見られたのだが、心血管疾患高リスク患者を組入れたアウトカム試験、CANVASの当初30日間の集計で、発生率が0.45%対0.07%と偽薬群を大きく上回った。

症例数が少ないため有意ではなく、そもそも、偽薬群でたった1例しか発生しなかったことのほうを異常と考えるべきなのだろうが、リスクを検出する上で最も優れたデザインの試験で懸念が浮上したことは看過できない。この試験の本来の解析結果がまとまる2015年まで承認を見送るべきなのか、判断が難しい。

Invokanaは腎細管のSGLT2を阻害して、腎臓で濾されたグルコースが血液中に戻るのを妨げる。尿排泄を促進することで血糖値を引き下げる斬新なメカニズムを持ち、体重も若干減少する。副作用は、尿道のグルコースが培地となり尿道感染、性器感染の発生率が高まること。

今回の諮問委員会では、類薬を開発している製薬会社にとって重要な情報が明らかになった。SGLT2阻害剤は癌原性試験でリスクを示すものが多いということだ。最初に承認申請され昨年欧州で承認されたBMS/アストラゼネカのForxiga(dapagliflozin)の試験では腎細管の非定型的肥大が見られただけだったが、これまでに試験成績がFDAに提出された他の4剤の全てで、腎細管、甲状腺、精巣ライディヒ細胞などの新生物のリスクが高まった。一酸化炭素の吸収不良が影響しているようだ。

臨床試験では逆に、Forxigaに懸念が発生しInvokanaでは問題なかった。FDAは、SGLT2阻害剤の癌原性リスクは臨床試験のデータや安全域(動物試験でリスクが増加した用量と医療に用いる量の比率)を見て判断すべきと考えている模様。つまり、新薬の癌原性試験がグレイだったとしても慌てる必要はなく、シロであったとしても油断はできない。

FDAの審査結果は13年3月の見込み。米国で最初に承認されるSGLT2阻害剤はForxigaか、それともInvokanaか、注目される。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

【承認】


バイエルの低用量レボノルゲストレル放出子宮内避妊システムが米国で承認

(2013年1月10日発表)

バイエルは子宮内避妊システム(IUS)ミレーナを販売しているが、新たに、低用量levonorgestrelを放出するSkylaを開発、昨年12月の欧州に続いて、米国でも承認を取得した。小型のT型ディバイスで、最長3年間に亘る避妊が可能。

リンク:バイエルのプレスリリース

ベタニスがEUでも承認

(2013年1月11日発表)

アステラス製薬はベータ3受容体作動剤Betmiga(mirabegron、和名ベタニス)がEUで過活動膀胱治療薬として承認されたと発表した。日本では2011年に、米国でも2012年に承認されている。過活動膀胱の治療における薬物療法の位置付けは決して高くないので、ムスカリン・ブロッカーなどとの併用療法の探索が期待される。

リンク:アステラスのプレスリリース(和文)

Zytigaの早期使用がEUでも承認

(2013年1月11日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、テストステロン合成阻害剤Zytiga(abiraterone acetate)を従来より早い段階の患者に用いることがEUで承認されたと発表した。2011年の初承認は去勢抵抗性前立腺癌で化学療法による治療を既に受けた患者が対象だったが、今回、化学療法を受ける前の未だ症状が軽い患者も適応となった。米国でも昨年12月に適応拡大されている。

臨床試験では、prednisoneだけを投与した群のメジアン生存期間が30ヶ月であったのに対して、Zytiga併用群は35ヶ月だった。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

【医薬品の安全性】


MSDがTredaptiveの販売を暫定的に中止

(2013年1月11日発表)

MSD(米国メルク)はナイアシンとナイアシン誘導性紅潮を抑制するlaropiprantのコンビ薬を開発、米国では承認されなかったが、EUなど多くの国でTredaptive名で販売している。しかし、心血管疾患予防効果を検討したHPS-2 THRIVE試験がフェールしたことで事態が一変、昨年12月に新患には使わないようドクターレターを出した。更に、今回、販売を暫定的に中止することを決めた。前後して、EUの医薬品監視リスク評価委員会(PRAC)もEUにおける販売、供給、承認を停止するよう勧告した。

2012年12月23日号で書いたように、HPS-2 THRIVE試験がフェールしたのはナイアシンの効果が期待外れだった可能性も、laropiprantが足を引っ張った可能性も、薬物相互作用が犯人の可能性もある。Tredaptiveだけがリコールとなると、ナイアシンではなくlaropiprantが犯人のように見えるが、どちらが犯人でもTredaptiveという薬に価値がないことに変わりはない。

医薬品承認審査機関の考え方は必ずしも同じではなく、FDAだけが承認しない薬もあればFDAだけが承認した薬もある。私見ではFDAとEUの判断が分かれたケースでは後にFDAが正しかったことが判明することが多いように感じられるが、今回もこのパターンだった。

リンク:MSDのプレスリリース

女性はマイスリーの用量を減らすようFDAが推奨

(2013年1月10日発表)

FDAは睡眠薬Ambien(zolpidem、和名マイスリー)を女性に用いる時は用量を減らすよう勧告した。Ambienは一回5mgまたは10mg、徐放製剤の場合は6.25mgまたは12.5mgを服用するが、高齢者と同様に、女性も低量だけを用いるほうがよい。翌日に眠気が残るリスクが高まるからだ。

今回の用量制限のきっかけは、男性と比べて女性は薬の排泄が遅いことが判明したため。Ambienで性差の話が出たのは初めてで、米国のレーベルにも日本のインタビューフォームにも記されていない。フランスで発売されてから26年、米国発売からでも20年経っているのに、なぜ今まで分からなかったのだろう?

リンク:FDAのプレスリリース

【倫理問題】


日本のCirculation誌がKYOTO HEART STUDY関連の論文二本を撤回

(2012年12月27日発表)

日本循環器学会のCirculation Journalが、KYOTO HEART STUDY関連の論文二本を撤回した。データ解析に数々の深刻な誤りが見つかったため、とのことだが、査読誌としての権威を維持するためにはミスの内容や発覚の経緯をもっと詳しく公表すべきだろう。

KYOTO HEART STUDYはノバルティスのDiovan(valsartan)の心血管アウトカム試験で、Diovanの心血管保護作用が同程度の降圧作用を持つARB・ACE阻害剤以外の降圧剤よりも優れていることを立証した、ランドマーク的な試験である。ARBが発売された当初は多彩な臓器保護作用を持つことが期待されたが、アウトカム試験の結果は失望的で、Diovanも海外で行われた同様な試験では、「降圧が同程度ならどのメカニズムの薬も心血管リスク削減効果は同程度」という結果だった。

ところが、KYOTO HEART STUDYとJIKEI HEART STUDYはARB支持派の医学者が期待した通りの結果になった。日本人は特殊なのかもしれないが、プロブレス(candesartan)の日本の試験は海外の試験と同様に、どの薬も同じであることを示している。奇妙である。

KYOTO HEART STUDYのデータで印象的なのは、Diovanを追加投与した群の平均血圧の推移と、ARB・ACE阻害剤以外を追加した群の血圧推移が殆ど一致していることだ。治験のプロトコル通りであり降圧が同程度でなければDiovanの多彩な作用を検討することができないのだが、通常は、中々こうはならない。

今回撤回された論文の第一著者は一本が京都第一赤十字病院、もう一本は京都第二赤十字病院の、循環器内科医長だ。KYOTO HEART STUDYの中心的な研究者である京都府立医科大学の松原弘明教授も名を連ねている。AHA(米国心臓協会)は昨年、AHAの医学誌に刊行された同教授の論文に関して、懸念表明を出した。データや画像に不適切なものがあった疑いがあるようだ。

重要性は今回撤回された二本の論文のほうが大きい。日常医療に直接関わる内容だけに、もし間違いであった場合は多くの患者が影響を受けるからだ。それだけに、真相究明と結果の公表を期待したい。

リンク:Circulation Journalの撤回公告(京都第二赤十字病院循環器内科医長 木村 晋三らの論文)

リンク:Circulation Journalの撤回公告(Jun Shiraishi白石淳京都第一赤十字病院循環器内科医長らの論文)

リンク:KYOTO HEART STUDYの治験論文(European Heart Journal)

今週は以上です。

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2013年1月6日

海外医薬ニュース2013年1月6日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • ネクサバールも難治性分化甲状腺癌に有効
  • 筋萎縮性側索硬化症の第三相試験がフェール
  • バイオジェン・アイデックが持効性IX因子をB型血友病治療薬として承認申請
  • 多剤耐性肺結核の画期的治療薬が米国で承認
  • HIV/AIDS患者の非感染性下痢症の治療薬が米国で承認
  • 短腸症候群治療薬Gattexの価格は年29.5万ドル
  • 米国糖尿病学会が二型糖尿病高血圧症の血圧管理目標を緩和


【臨床試験】


ネクサバールも難治性分化甲状腺癌に有効

(2013年1月3日発表)

バイエルとオニクス(Nasdaq: ONXX)は、腎臓癌や肝癌に承認されているNexavar(sorafenib)の甲状腺癌試験の成功を発表した。末期/転移性分化型甲状腺癌で放射性ヨウ素による治療が奏功しなかった患者を組入れてPFS(無増悪生存期間)を偽薬と比較したもので、有意に優れていた。適応拡大申請に向かう予定。

甲状腺癌は世界で年16万人が診断され、2.5万人が死亡する。乳頭癌や濾胞性など、進行があまり早くない分化型が多く、放射性ヨウ素や切除が有効だが、奏効しなかった場合の治療オプションは少ない。VEGF受容体やRETを阻害する薬が有効で、米国では2011年にアストラゼネカのCaprelsa(vandetanib)が、2012年11月にはイグゼリキシス(Nasdaq: EXEL)のCometriq(cabozantinib)が、末期・転移性切除不能甲状腺髄様癌(甲状腺癌の1割弱を占める)に承認された。

今回は対象となる癌種が多いため市場性が大きいが、他の癌とは異なり増悪したからといって直ぐにどうこうということはない。延命効果があるとしても、今回の治験のデータがまとまるのは何年も後になるだろう。それだけに、患者のQOLがどの程度改善したのかが重要なポイントになりそうだ。Caprelsaも諮問委員会でこれらの点が議論になった。

甲状腺癌ではエーザイもE7080(lenvatinib)で放射性ヨウ素難治性分化甲状腺癌の第三相試験を実施中で、今年辺り成否が判明するのではないか。

リンク:バイエル/オニクスのプレスリリース

筋萎縮性側索硬化症の第三相試験がフェール

(2013年1月3日発表)

バイオジェン・アイデックはマサチューセッツ州のKnopp Biosciences社からライセンスしたKNS-760704(dexpramipexole・・・ パーキンソン病治療薬ビ・シフロールの光学異性体)で筋萎縮性側索硬化症(ALS)の第三相試験を実施していたが、フェールした。機能低下を遅らせる効果は見られず、副次的評価項目やサブポピュレーション分析でも効果の兆しはなかった。

第二相試験では用量依存性の兆しが見られ第三相試験の用量では生存率が偽薬比3倍高かったのだが、一群20~30人、12週間の試験なのでインプリケーションは曖昧だった。第三相では943人を偽薬と試験薬に無作為割付して1年間投与したのでエビデンスレベルが高い。バイオジェンは開発中止を決めた。

リンク:バイオジェン・アイデックのプレスリリース

【承認申請・審査】


バイオジェン・アイデックが持効性IX因子をB型血友病治療薬として承認申請

(2013年1月4日発表)

バイオジェン・アイデックは遺伝子組換え型第IX因子・抗体固定領域融合蛋白(rFIXFc)を米国でB型血友病の治療薬として承認申請したことを明らかにした。出血時の治療だけなら作用が長続きする必要はないが、頻繁に出血する患者に予防目的で使う場合は投与頻度が既存薬の2~4分の1で足りる。予防用途が拡大すると医療費が更に嵩むことになるが、血友病は元々、高額医療の代表なので問題にはならないだろう。

ファルマシアからスピンアウトした会社の開発品で、この会社はSwedish Orphan Biovitrum(OMX: SOBI)に買収された。バイオジェン・アイデックは共同開発権を保有している会社を買収して入手した。

リンク:バイオジェン・アイデックのプレスリリース

【承認】


多剤耐性肺結核の画期的治療薬が米国で承認

(2012年12月31日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンが米国で承認申請していた多剤耐性肺結核の治療薬、Sirturo(bedaquiline)が予定通り12月28日に承認されていたことが大晦日の同社とFDAのプレスリリースによって判明した。今年第2四半期に上市される予定。

Sirturoは結核菌のATP合成を阻害する新作用機序を持つ、40年ぶりの画期的新薬だ。第二相偽薬対照アドオン試験では、24週間の治療後の陰転率が78%と、標準療法と偽薬を投与した群の58%を有意に上回った。尚、この薬は当初は一日一回、第三週以降は週三回、24週間に亘って経口投与するが、標準療法はその後も続行するので全体の治療期間は1.5~2年かかる。第三相試験で全9ヶ月間の短縮コースをテストする予定。

この第二相試験では死亡率が11.4%と偽薬群の2.5%を大きく上回った。肺結核によるものが多く、それ以外の症例では共通点が見当たらなかったようだが、何れにせよ、もし死亡リスクがあるなら深刻だ。米国の消費者団体であるPublic CitizenがFDAに承認しないよう請願したのも肯ける。一方、FDAの諮問委員会は18人中11人が安全性を認めた。FDAは、適応を他に適当な治療法がない患者に限定するとともに、レーベルの中で死亡率に偏りがあったこととQT延長リスクがあることを枠付警告することで対処した。

多剤耐性肺結核は、多剤併用療法のコアとなるべき二剤(isonazidとrifampin)に感受しない。年間発症数は世界で50万人前後だが米国は100人程度である模様。Sirturoも主として米国以外の地域で使われることになるだろう。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

HIV/AIDS患者の非感染性下痢症の治療薬が米国で承認

(2012年12月31日)

サリックス・ファーマシューティカルズ(Nasdaq: SLXP)は、FDAがFulyzaq(crofelemer)をHIV/AIDS患者の下痢(感染症によるものを除く)の治療薬として12月31日に承認したと発表した。クロトン・レクレリ(南米原産の植物)の赤い樹液から抽出された成分で、FDAが植物由来の医薬品を承認したのは2006年のVeregenに次ぐ二剤目。市場は小さそうだ。

作用機序はCFTRや活性化塩素イオンチャネルの部分アンタゴニズムとのこと。2008年にNapo Pharmaceuticalsから日米欧主要国での権利を取得したが、Napo社はサリックスの開発努力に不満を持っている模様で、2011年に提携解消を申し入れ、両社で係争中。

リンク:FDAのプレスリリース(2012/12/31付)

リンク:サリックスのプレスリリース(2013/1/2付)

【製薬会社の動き】


短腸症候群治療薬Gattexの価格は年29.5万ドル

NPSファーマシューティカルズ(Nasdaq: NPSP)が米国で今四半期中に発売予定の短腸症候群治療薬Gattex(teduglutide)は、価格が年29.5万ドルと一般に予想されていたよりもはるかに高いことが判明したようだ。複数のメディアが報じている。米国の対象患者は約1000人とのことなので、年商3億ドルとかなり大きくなる。武田薬品が販売する欧州などでも普及するようならば、5億ドル級に達するのではないだろうか。

製薬会社が希少疾患用薬の開発に熱心に取り組むようになったのは、類似薬の承認を一定期間見送るという希少疾患用薬排他権制度の導入と、患者数が少なければ薬が高くても医療費全体に与える影響は小さく現実に多くの国で年間数千万円、数億円の薬が医療保険でカバーされているからだ。新薬が高価なのはやむを得ない面もあり、医療費を節約するなら高血圧症などの治療で似たようなGE薬があるのにわざわざ高価な新薬を使うようなことを止めるほうがよっぽど効果があるが、それにしても、効果と費用が釣り合わないように感じられる。

【医療の話題】


米国糖尿病学会が二型糖尿病高血圧症の血圧管理目標を緩和

(2012年12月20日)

ADA(米国糖尿病学会)が糖尿病治療ガイドラインのアップデートを行い、Diabetes Care誌の2013年1月号で公開した。目立つのは、二型糖尿病患者の高血圧の治療目標を従来の130/80 mmHg未満から140/80 mmHg未満に緩和したことだ。ACCORDなど複数の試験で、血圧を積極的に下げても得るものは小さく、副作用が増えるだけという結果が出ているので、やむを得ないところだろう。

単純高血圧症でもLower is Betterではない、下げすぎると心血管疾患リスクがむしろ上昇するJカーブ効果がアウトカム試験で見られると主張する学者がいる。

ADAは130 mmHg未満に下げるなとは言っていない。むしろ、余命の長い患者や脳梗塞を警戒すべき患者には、無理のない範囲で積極的な降圧を認めている。尤も、エビデンスが引用されていないので、根拠があいまいだ。

二型糖尿病は必要に応じて血圧、コレステロールなど様々な治療が必要になる。多面的治療は多剤併用が必要なので、副作用も増えがちだ。単純な目標を立てて突進するのではなく、患者の年齢や忍容性を考慮してさじ加減することが必要、ということなのだろう。

リンク:Diabetes Care誌糖尿病治療ガイドライン(目次)

今週は以上です。

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