2012年11月4日

海外医薬品ニュース週末版 2012年11月4日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • 持効性第VIII因子の臨床試験が成功
  • FDA諮問委員会がGSKの肺炭疽治療薬を支持
  • 第5のバソプレシン受容体拮抗剤は承認されず
  • ファイザーのゴーシェ病治療薬はEUでは2020年まで発売できない
  • EU:西欧初の遺伝子療法が承認
  • EU:Adcetrisが承認
  • EU:Cialisとアバスチンが適応拡大
  • 米国:イグザレルトがDVT・PE治療に適応拡大
  • プラザキサの出血リスクはワーファリン並み



【新薬開発】


持効性第VIII因子の臨床試験が成功

(2012年10月31日発表)

バイオジェン・アイデック(NASDAQ: BIIB)とスエーディッシュ・オーファン・バイオヴィトラム(STO: SOBI)は、遺伝子組換え型長期作用性第VIII因子の第三相試験が成功したと発表した。出血リスクが高いA型血友病患者を組入れた予防試験で、出血エピソードの頻度が9~21分の1に減少した。米国では来年上期に、欧州では開発ガイドラインに従い小児試験を終えてから、承認申請する予定。

このrFVIIIFcは第VIII因子と免疫グロブリンG1の固定領域を細胞融合して体内で分解されにくくしたもの。今回の第三相試験では、週一回投与する用法と、患者に合わせて投与頻度を調整する方法を、出血時に治療する(予防は行わない)方法と比較したところ、各群の出血エピソードが年率3.6回、1.6回、33.6回となり、予防に成功した。

ここまでの文章は9月30日号のrFIXFcに関する記事と酷似している。両社はB型血友病とA型血友病の両方に有効な持効性製品の実用化に目処を立てたことになる。血友病は血液凝固因子の欠損により出血を止めることができない。頻繁に出血エピソードを経験する患者は今回の試験のような予防的投与を受けることになるが、既存の製剤は半減期が短いため、頻回投与が必要になる。両社の製品は、個々の患者に合わせて投与頻度を調整する用法の群でも、第IX因子製剤はメジアンで14日おき、第VIII因子でも3.5日おき投与だったので、患者の負担を軽減することができる。

血友病用薬は市場が大きく、現在はバクスター、バイエル、ファイザーなどが高いシェアを持っているが、ノボ ノルディスクが10月に欧米でturoctocog alfaをA型血友病の出血エピソード予防に承認申請するなど、持効性製剤で新規参入を図る企業の動きが活発化している。

リンク:両社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がGSKの肺炭疽治療薬を支持

(2012年11月2日発表)

GSKは今年8月に36億ドルで買収したヒューマン・ジノム・サイエンス社の肺炭疽治療薬、ABthrax(raxibacumab)が、11月2日に開催されたFDA諮問委員会で支持された。承認審査期限は12月15日。ごく稀な疾患なので、生物兵器対策のような国家備蓄向けが需要の中心になりそうだ。

肺炭疽はBacillus anthracis(炭疽菌)を吸入することによって発症する致死的な感染症で、2001年に米国で炭疽菌の入った郵便物が多数郵送され広く認知されるようになった。ABthraxはBacillus anthracis protective antigenに結合する抗体医薬で、動物試験で大きな効果を発揮したことから、2009年に米国で承認申請、平行して、戦略的国家備蓄プログラム向けの供給を開始した。ところが、FDA諮問委員会は支持せず、審査完了となった(追加試験が必要と判定された)。

ボトルネックとなったのは動物試験のプロトコルだ。肺炭疽は感染例が殆どなく、また、致死性が高いので臨床試験は殆ど不可能だ。動物試験でも倫理的な問題があるため、ABthraxの試験では感染症状が出たら直ぐに投与したのだが、このようなことは現実にはありえない。そこで、炭疽菌暴露の数日後に治療を開始する用法で薬効を再確認、今回の諮問委員会支持に繋がった。

リンク:GSKのプレスリリース

第5のバソプレシン受容体拮抗剤は承認されず

(2012年11月1日発表)

コーナーストーン・セラピュティクス(Nasdaq: CRTX)は、FDAからCRTX 080(lixivaptan)の審査完了通知を受領したと発表した。SIADH(抗利尿ホルモンの不適切な分泌によって発生する症候群)および慢性心不全による低ナトリウム血症の治療薬として承認申請されたが、後者の臨床試験はlixivaptan群の死亡者が偽薬群より多かったために独立データ安全性監視委員会が中止を勧告した経緯がある。9月の諮問委員会は慢性心不全について全員が反対、低ナトリウム血症も反対が上回った。

lixivaptanは米国で2006年に承認されたVaprisol(conivaptan)、大塚製薬の2009年承認のSamsca(tolvaptan)と日本で承認されているフィズリン(mozavaptan)、欧米で申請されたが承認されなかったサノフィのsatavaptanに次ぐ第5のバソプレシン受容体拮抗剤。

カーディオカイン社が2004年にワイス(当時)から導入、2007年にバイオジェン・アイデックと開発販売提携したが、慢性心不全完了後の2010年11月に解消。2011年12月に米国で承認申請し同月にコーナーストーンに身売りという経緯を持つ。

慢性心不全試験で深刻な懸念が浮上したことを考えれば承認申請したこと自体が不思議だが、この用途ではVaprisolやSamscaの試験でも死亡者数に偏りがあったので、クラス・イフェクトなのだろう。低ナトリウム血症は深刻な障害をもたらす可能性があるが、薬でナトリウム値を急速に上げるのもリスクがある。

今になってみると、バイオジェン・アイデックとの提携が解消されたのは慢性心不全試験で安全性懸念が浮上したからだろう。残念なのは、当時、この懸念が公表されなかったことだ。承認されている薬にもインプリケーションがあり、また、もし類薬を開発している会社があるとしたら慢性心不全試験を行って不必要な犠牲者を出す可能性もあるのだから、両社はもっと早く懸念を公表すべきだったのではないだろうか。

リンク:コーナーストーンのプレスリリース

ファイザーのゴーシェ病治療薬はEUでは2020年まで発売できない

(2012年11月1日発表)

ファイザーとイスラエルのバイオ企業であるProtalix BioTherapeutics(TSE: PLX)は、EUがElelyso(taliglucerase alf)を承認しなかったと発表した。CHMPが6月に否定的意見を出しているので意外感はない。薬の効果や安全性の問題ではなく、英国のシャイアが類薬を2010年に発売し10年間の独占権を獲得していることが原因。希少疾患用薬の開発奨励制度が裏目に出た格好だ。

シャイアのVpriv(velaglucerase alfa)はヒト由来の細胞にグルコセレブロシダーゼを分泌させて作るが、ElelysoはProtalixの技術を用いてニンジン由来の細胞に発現させる。ファイザーは2009年に世界開発販売権を取得した。ゴーシェ病の患者は中東や北欧のAshkenazi系ユダヤ人に多いと言われており、両社にとって残念な結果だ。尚、米国では今年5月に承認されている。

リンク:両社のプレスリリース

【承認】


EU:西欧初の遺伝子療法が承認

(2012年11月2日発表)

オランダの未上場企業であるuniQure biopharma B.V.は、EUがGlybera(alipogene tiparvovec)を家族性リポ蛋白リパーゼ欠乏症の治療薬として承認したと発表した。重度あるいは頻繁な膵炎発作を起こす患者に、遺伝子の欠損とLDL蛋白の存在を検査で確認した上で、治療に習熟した医師が施行することが条件。

例外的状況条項に基づく条件付承認なので、追加的な研究や、患者登録を行って長期的な安全性を検討する必要がある。同社は2013年下期に、ロイター報道によると25万ユーロ程度の価格で発売する予定のようだ。

この疾患は100万人に1~2人の超希少疾患で、食物由来の脂肪を輸送するカイロミクロンを分解するのに必要なリポ蛋白リパーゼが欠損している。Glyberaはアデノ随伴ウイルス(AAV)由来のベクターにリポ蛋白リパーゼの遺伝子を組入れたもので、筋注して筋細胞にこの酵素を作らせるもの。治験では多くの患者が副反応を防ぐために免疫抑制剤を同時使用した。3分の1の患者が四肢痛を経験した。

遺伝子療法は遺伝子欠損が原因で発生する命に係わる疾患の治療薬として大きな期待を受けたが、1999年に米国で投与直後の死亡例が発生し、楽観論が後退した。AAVをベクターとして使えば免疫性急性副反応を緩和できると考えられたが、2007年にTargeted Genetics社の治験で死亡例が発生し、FDAが全AAV治験の再検討を行う事態になった。中国で承認されたものがあるようだが、西洋で遺伝子療法が承認されたのは今回が初めて。

Glyberaの承認も紆余曲折があり、CHMPが2011年から12年にかけて3回、否定的意見を出している。覆ったのはCAT(先端医療委員会)が重度・頻回膵炎患者に限って便益がリスクを上回るとの見解をまとめたことが転機となった。臨床試験は27人と小規模なもので効果の持続性や膵炎リスク削減効果が十分に立証されていないが、頻発患者には膵炎発作を減らす効果が見られたとのことだ。

uniQureはアムステルダム大学のアカデミック・メディカル・センターに拠点を持つ企業で、CHMPが否定的意見を出したために清算法人となったAmsterdam Molecular Therapeuticsから研究資産を承継した。正に、粘りと執念の勝利といえるだろう。どの程度の効果があるのか知りたいものだ。

リンク:uniQureのプレスリリース

リンク:ロイター報道

EU:Adcetrisが承認

(2012年10月31日発表)

武田薬品グループのミレニアム・ファーマシューティカルズとシアトル・ジェネティクス(Nasdaq: SGEN)は、薬物搭載型抗CD30抗体Adcetris(brentuximab vedotin)がEUで二つの適応症に承認されたと発表した。一つは再発性難治性のCD30陽性ホジキン型リンパ腫で、前治療で自家幹細胞移植(ASCT)を受けた、または、ASCTや強化化学療法に適さない患者で既に二次治療まで受けた患者。もう一つは、再発性難治性の全身性未分化大細胞リンパ腫。

米国では2011年に承認された。ミレニアムは北米以外の開発販売権を持っている。

リンク:ミレニアムのプレスリリース

リンク:武田薬品の和文プレスリリース

EU:Cialisとアバスチンが適応拡大

(2012年10月30-31日発表)

イーライリリーは、10月30日に、EUがCialis(tadalafil)を良性前立腺肥大の治療薬として承認したと発表した。

10年前にED治療薬として承認されたPDE5阻害剤でED患者は必要時に通常は20mgを服用するが、Cialisは半減期が長いため毎日2.5mgを服用することも可能。良性前立腺肥大では一日5mgを服用する。ED治療薬は多くの国で自由診療(保険還付されない)であることや必要な時だけ服用する用法が一般的であることから価格が高いが、良性前立腺肥大なら保険がカバーするだろうから、患者負担は緩和されるだろう。米国では2011年に適応拡大された。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

翌31日には、ロシュが、Avastin(bevacizumab、和名アバスチン)がEUで卵巣癌二次治療に適応拡大されたと発表した。一次治療で白金薬に反応したプラチナ感受性癌に、carboplatin及びgemcitabineと三剤併用する。一次治療でも承認されている。

リンク:ロシュのプレスリリース

米国:イグザレルトがDVT・PE治療に適応拡大

(2012年11月2日発表)

バイエルが開発し米国ではジョンソン・エンド・ジョンソンが販売しているXa阻害剤、Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)をDVT(心静脈血栓)やPE(肺塞栓)の治療・再発予防に用いることがFDAに承認された。当初の三週間は再発リスクが高いため15mgを一日二回経口投与し、その後は20mg一日一回に減量する。6ヶ月の治療コースを終えた後に継続投与することも可。

Xareltoの最初の適応症である間接置換術後のDVT・PE予防は、そもそものDVT/PE発生リスクが小さく、薬物以外の予防方法も存在し、服用期間が数週間と短いため、市場性が小さい。一方、2011年に承認された心房細動患者の脳卒中リスクを削減する用途は該当患者が多く長期間服用するため最も市場性が大きい。今回のDVT・PE治療は対象患者数が心房細動の5分の1程度、服用期間は3-9ヶ月なので心房細動ほどではないものの、二番目に大きな用途だ。

リンク:バイエルのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

【医薬品の安全性】


プラザキサの出血リスクはワーファリン並み

(2012年11月2日発表)

FDAは直接的トロンビン阻害剤Pradaxa(dabigatran etexilate mesilate、和名プラザキサ)の安全性を再検証した結果を発表した。2010年10月の承認後の疫学研究でも深刻な出血事故のリスクはワーファリンと大差なく、第三相試験と同様な結果だった。

FDAは稀にしか発生しない深刻な有害事象のリスクを評価することを目的に、医療保険組織と契約して治療記録データベースを分析するパイロット・プロジェクトを進めている。今回の分析もこのプロジェクトの成果で、新規にPradaxaまたはワーファリンによる治療を開始した患者の胃腸出血・頭蓋内出血症例を検索したところ、胃腸出血はワーファリンがPradaxaの1.6~2.2倍、頭蓋内出血は2.1~3.0倍となり、Pradaxaのほうがリスクが高いとは言えなかった。

Pradaxaの最大の用途である心房細動患者の脳卒中予防は2010年10月に米国で、2011年1月に日本で、同年8月にはEUでも承認された。日本を中心に致死的な出血事故が多数報告されたことから、FDAやEUのCHMPが再検証を開始したが、欧米共に、ワーファリンと比べて特にリスクが高い訳ではないという結論になった。

何故、日本などで多くの出血事故が報告されたのだろうか?日本でも海外でも、腎機能が一定以下の患者には減量すべきであることを当局が念押ししているので、出血事故症例ではこの配慮が不十分だったのかもしれない。MedPageでも不適切な処方が原因という見方を紹介している。

一方で、ワーファリンの出血リスクに対する認識が違うのかもしれない。日本のワーファリンの用量は海外より少ないので、新薬が海外治験でワーファリンと同じだったとしても、日本のワーファリン服用患者と同じとは限らない。

Pradaxaの場合は第三相試験に日本の施設も300例ほど組入れ、日本流のワーファリン用量と比較した。XareltoはXarelto自体も用量を減らして1000人規模の治験を日本だけで実施した。何れも出血リスクはワーファリン並みだったが、海外の組入れ数より少ないので深刻な出血のような発生確率の低い事象を比較するには不十分だ。

医療はアートなので発生率だけを比較しても意味がない。医療従事者が薬の正しい使い方をどのように学び、どのように使っているのか?深刻な出血事故を起こした患者はどのような患者背景を持ちどのような薬を同時使用していたのか?薬物代謝酵素や輸送蛋白の人種的な違いはどう影響するか?副作用被害に遭った人たちに報いるためにも、原因を網羅的に究明して失敗から学ぶことが重要だ。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:MedPageの関連記事(要登録)

今週は以上です。

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