2012年10月21日

海外医薬品ニュース週末版 2012年10月21日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • C型肝炎の四剤併用試験でSVR12奏功率が9割以上
  • 抗VEGF受容体2抗体の胃がん第三相試験が成功
  • リアタがbardoxoloneの第三相試験を中止
  • インライタの直接比較試験が今度はフェール
  • リツキサンのバイオシミラーの試験がまた中断
  • ノボがA型血友病用薬を承認申請
  • FDA諮問委員会が三種類の新薬を支持(NPS、Aegerion、ISIS/サノフィ)
  • CHMPが5種類の新薬に肯定的意見(ノボ、アステラス製薬、サビエント、イーライリリー、ヴィーヴァス等)
  • 硝子体黄斑癒着硝子治療薬が承認



【新薬開発】


C型肝炎の四剤併用試験でSVR12奏功率が9割以上

(2012年10月16日)

AASLD(米国肝疾患研究学会、11月9-13日)の抄録が公開され、C型肝炎治療薬を開発している企業が続々とプレスリリースを出した。中でも注目されるのはアボットの後期第二相試験だ。遺伝子型I型の患者448人を14の群に割付けて、四種類の経口剤の最適な組み合わせや投与期間を検討したところ、四剤全てを用いて12週間治療した群のSVR12(治療完了後12週経過した時点でもウイルスが探知不能であった患者の比率)が、初めて治療を受ける患者で99%、一次治療で無反応だった患者(ヌル・レスポンダー)でも93%に達した。

最終解析ではないので今後、奏功率が低下する可能性があるが、それでも凄い数字だ。現時点では忍容性が明らかではないが、少なくとも、副作用が原因で治験離脱した患者は少なかったはず。インターフェロン不応不耐には有力なオプションになりそうだ。ribavirinを除く三剤併用の成績は不明だが、第三相試験でもテストされるようなので、ribavirin不耐患者にも代替的な治療法が浮上するかもしれない。

この四剤は、プロテアーゼ阻害剤ABT-450、NS5A阻害剤ABT-267、ポリメラーゼ阻害剤ABT-333、そしてribavirinだ。このほかに、ABT-450の服用量・頻度を減らすためにCYP阻害剤ritonavirも用いる。C型肝炎ウイルスのゲノムに含まれる、増殖に必要な様々な蛋白を同時に攻撃することで効果を高め、耐性ウイルス出現リスクを抑制する。一次治療なら四剤も服用する必要はないのではないかと思われるが、ヌル・レスポンダーの奏功率の高さは驚かされる。

第三相試験では、現在の標準療法である三剤併用に反応しなかった患者に対する成績が注目される。

アボットの三剤は何れも未承認だが、この分野では、開発品同士の併用法が活発に探索されている。BMSやロシュなどの多剤併用試験の結果も注目される。

リンク:アボットのプレスリリース

抗VEGF受容体2抗体の胃がん第三相試験が成功

(2012年10月15日)

イーライリリーは、IMC-1121B(ramucirumab)の第三相試験の成功を発表した。転移性胃がんの二次治療薬としての効果を支持療法と比較したところ、全生存期間で有意な差が確認された。ramucirumabはpaclitaxel併用二次治療試験も進行中。

同じようなセッティングでありながら対照群の治療方針が片方は積極的な延命治療は行わず、もう片方はpaclitaxelを投与と食い違っていることに奇異を感じる。もしpaclitaxelが有効なら、支持療法に勝っただけでは喜べないだろう。

ramucirumabはリリーが2008年に買収したイムクローンのパイプラインで、VEGF受容体2をブロックする抗体医薬。VEGFをブロックするAvastinの胃がん試験がフェールしたのは医療風土の異なる日本や韓国で多くの患者を組入れたことが敗因と私は想像しているが、ClinicalTrials.govの治験登録を見るとramucirumabの試験は日本の施設は参加しなかった模様。これが成功の理由ではないだろうか。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

リアタがbardoxoloneの第三相試験を中止

(2012年10月18日)

テキサスの新興医薬品開発会社であるリアタ・ファーマシューティカルズは、Nrf2増強剤bardoxoloneの第三相試験を中止した。末期腎疾患を患う糖尿病患者の臨床的転帰を改善する効果を検討したが、深刻な有害事象や死亡リスクが見られたことから、独立データ安全性監視委員会が中止を勧告した。

有害事象の内容は不明だが、後期第二相試験では、40-60%の患者で筋痙攣、20-30%で低マグネシウム血症が発生した。また、体重減少・食欲低下や関節炎、失神もやや増加した。低用量ならリスクは小さく、第三相では低用量だけを採用したのだが、サンプルサイズが大きいのでこれまで表面化しなかったリスクが顕在化したのかもしれない。

第三相試験中止を受けて、日本や中国などの権利を持つ協和発酵キリンも治験を中断した。欧州などの権利はアボットが保有している。

リンク:リアタ社のプレスリリース

インライタの直接比較試験が今度はフェール

(2012年10月17日)

ファイザーのInlyta(axitinib、和名インライタ)は末期腎細胞腫の二次治療試験でPFS(無増悪生存期間)がNexavar(sorafenib、バイエル)を有意に上回り、日米欧で今年、承認されたばかりだ。ファイザーは一次治療でもNexavar直接比較第三相試験を行ったが、こちらはフェールした。

二次治療試験のハザードレシオが0.67であったのに対して、一次治療試験で検証した仮説は0.56であった模様なので、強気すぎたのかもしれない(

プレスリリースによるとPFSが78%改善する前提だったので、ハザードレシオの前提は1÷1.78で0.56となる)。

何れにせよ、一次治療薬として胸を張るためには二次治療薬として用いられることが多いNexavarを負かしても駄目である。同社のSutent(sunitinib、和名スーテント)を負かさなければならない。SutentとInlytaは副作用プロファイルが異なるので、効果が同程度でも意味があるだろう。

リンク:ファイザーのプレスリリース

リツキサンのバイオシミラーの試験がまた中断

(2012年10月19日)

ロシュの抗体医薬Rituxan(rituximab、和名リツキサン)は超大型薬なので複数のGE薬メーカーがバイオシミラーを開発している。特許保護が弱いインドでは既に発売されている模様だが、欧米でも2013年から2016年にかけて特許が失効するからだ。ところが、最近、二社がシミラーの治験を中断した。

テバ・ファーマシューティカルのTL011は欧州などで実施されているリウマチ性関節炎第三相試験が中断された。更に、サムソンのSAIT101もリウマチ性関節炎第三相グローバル試験が中断された。理由は明らかではないが、Generics and Biosimilars Initiativesのニュースによると、EUやFDAが安全性基準を強化したことが影響している模様だ。サムソンの場合は最初からやり直す可能性もあるようだ。

因みに、Rituxanはバイオジェン・アイデックがロシュのジェネンテック部門と共同開発販売しているが、バイオジェン・アイデックはサムソンとバイオシミラーの開発で提携している。

リンク:Generics and Biosimilars Initiativeのニュース報道(テバ)

リンク:WHO治験登録(TL011第三相試験)

リンク:Generics and Biosimilars Initiativesのニュース報道(サムソン)

リンク:WHO治験登録(SAIT101第三相試験)

【承認申請】


ノボがA型血友病用薬を承認申請

(2012年10月16日)

ノボ ノルディスクはNN7008(turoctocog alfa)をA型血友病用薬として欧米で承認申請した。第三世代の遺伝子組換型血液凝固第VIII因子で、第三相予防的投与試験では、3日に一回投与する方法と、週三回投与する用法を採用した。他社も開発しているので差別化が重要になるが、現時点では明らかではない。

リンク:ノボのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会が三種類の新薬を支持

(2012年10月16日、17日、18日)

先週はFDAの胃腸薬諮問委員会と内分泌・代謝学薬諮問委員会が招集され、合計で三種類の画期的新薬を討議、何れも過半の委員が承認を支持した。米国の諮問委員会は参考意見を出すだけで承認の是非を決めるのはFDAだが、ポジティブな結果である。

NPSファーマシューティカルズが短腸症候群の治療薬として承認申請した遺伝子組換型GLP-2、Gattex(teduglutide)は、12人全員が治療の便益がリスクを上回ると判定した。短腸症候群は腸の部分切除を受けた患者が栄養物を吸収できずに点滴栄養に依存せざるを得なくなる。臨床試験では、点滴栄養投与量を減らせる効果が示された。

胃腸閉塞、ポリープの成長、すい臓障害の懸念が見られたため、REMS(適正使用を担保するための様々な施策)が必要になるが、10人の委員が会社側計画は十分と評価した。

承認審査期限は12月30日。REMSの見直し・再提出を要求されない限り、この日までに承認されるだろう。武田薬品が販売するEUでは今年9月に承認された。ピーク年商は2-4億ドルが見込まれている。

リンク:NPSのプレスリリース

内分泌代謝学薬諮問委員会は17日、18日の二日に亘って開催され、初日はAegerion Pharmaceuticals(Nasdaq:AEGR)がホモ接合型家族性高脂血症(HoFH)の治療薬として承認申請したAEGR-733(lomitapide)を検討、15人中13人が便益がリスクを上回ると判定した。審査期限は12月29日。

lomitapideの作用機序は、肝臓や小腸でトリグリセライド(TG)やコレステロール・エステル(CE)をVLDL-C生産箇所に移送するミクロソーム・トリグリセライド転移蛋白(MTP)を阻害する。米国では2007年にファイザーのSlentrol(dirlotapide)が肥満犬治療薬として承認されているが、人間向けのMTP阻害剤は初めて。

血液中のVLDL-CやLDL-C、カイロミクロンが減少するが、使われなかったTGやCEが肝臓内に留まるため、肝臓に脂肪が蓄積されるリスクがある。かって、BMSがBMS-201038として開発したことがあるが、脂肪肝のリスクが確認されたため、AegerionがHoFHという希少疾患の薬として開発することになった。

臨床試験では、スタチンなどを服用している患者のLDL-Cが40%程度減少した。脂肪肝は見られるものの、深刻な合併症には繋がっていない様子だ。市販後に長期追跡調査が行われることになるだろう。

HoFHは、LDL-C受容体などの遺伝子に欠損を持ち、血液中のLDL-Cが組織に取り込まれにくい。血清LDL-C値が数千ミリグラム/dLと著しく高くなり、スタチンを服用しても正常値には下がらない。人間が持つ二組のゲノムのうち片方に欠損があるのがヘテロ接合型、両方がホモ接合型で、後者は患者数が欧州主要5ヶ国と米国の合計で600人程度と少ないが、LDL-C値は著しく高く、若くして心臓疾患を発症するリスクがある。

リンク:Aegerionのプレスリリース

18日はISISファーマシューティカルズがサノフィのジェンザイム部門と共同開発してHoFH治療薬として承認申請したKynamro(mipomersen sodium)を検討、便益がリスクを上回る判定した委員が9人、反対が6人と票が分かれた。lomitapideと比べて効果が小さいことや、肝臓障害の懸念があることが影響した模様だ。審査期限は来年1月29日。三剤の中では、承認されないリスクが一番高そうだ。

mipomersenは肝臓でVLDL-Cが生産される時に必要なApoB-100の発現を阻害するアンチセンス薬で、週一回注射する。臨床試験ではLDL-C値が20%程度低下したが、患者によってムラがあり、2%上昇した人も82%低下した人もいたようだ。高用量ならもっと低下するが、肝障害のリスクが高まる。

因みに、この肝障害懸念を真っ先に掴んで証券市場にリークしたのが、2010年にSECにインサイダー取引の疑いで逮捕されたファンド・マネージャーだ。フロントポイント・パートナーズという当時はモルガン・スタンレー傘下だった会社でヘッジファンドを運用していたが、逮捕の原因となったヒューマン・ジノム・サイエンス社の開発品だけでなく、多くの新薬の重要情報を入手した凄腕だった。違法行為さえしなければボトム・アップ型ヘッジファンドの代表選手になっていただろう。

リンク:ジェンザイムのプレスリリース

CHMPが5種類の新薬に肯定的意見

(2012年10月19日)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、10月の例会で5種類の新薬に肯定的意見を出した。順調なら2-3ヶ月内に承認されることになる。

リンク:CHMPのプレスリリース(夫々の薬に関するプレスリリースのリンクもあり)

肯定的評価を受けたのは、まず、ノボ ノルディスクの管理放出性インスリン、Tresiba(insulin Degludec、和名トレシーバ)。同社のアシル化技術を用いて長期間安定的な作用を実現した。サノフィの超大型薬、Lantusより低血糖の発生リスクが小さい模様だ。また、EUで承認されているインスリンは一回の注射で最大80単位までしか投与できないが、Tresibaは160単位用の規格も用意されているので、EUに20-70万人いると推測されている80単位では足りない患者には便利だ。

Tresibaとミールタイム・インスリンのコンビ薬であるRyzodeg(insulin degludec、insulin aspart)も肯定的評価を受けた。一日1-2回注射する。ノボはTresiba発売の一年後に上市する予定。

リンク:ノボのプレスリリース

リンク:CHMPのプレスリリース

次に、アステラス製薬のBetmiga(mirabegron)。過活動膀胱の治療薬で失禁頻度を削減する。ベータ3受容体作動剤は日米欧の企業が開発に鎬を削ったが、ただ一社、ゴールに到達した。日本で2011年に、米国でも今年6月に、承認された。薬物療法の効果は決して高くないので、併用療法の探求が期待される。同社はまだプレスリリースを出していないようだ。

サビエント・ファーマシューティカルズ(Nasdaq: SVNT)の遺伝子組換型PEG化ブタ尿酸酸化酵素、Krystexxa(pegloticase)も肯定的意見を獲得した。既存薬に不応不耐の重度痛風に用いる。

リンク:サビエントのプレスリリース

治療薬ではないが、イーライリリーのPET造影剤、Amyvid(florbetapir F 18)も肯定的意見を得た。アルツハイマー病の診断に用いる放射性核種で、脳のベータ・アミロイド蓄積状況を検査する時に用いる。米国では今年4月に承認された。大学病院など一部の施設でしか用いられないだろうから承認を取らなくても販売できるだろうが、広く用いられるようになるためには必要な一歩である。アミロイド蓄積と症状の悪化に相関性が見出されれば、新薬の開発にも資するだろう。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

適応拡大では、バイエルのXa阻害剤Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)を肺塞栓の治療や肺塞栓・難治性深静脈血栓の再発予防に用いること、アボットのHumira(adalimumab、和名ヒュミラ)を6-17歳の重度活性期クローン病で伝統的な治療法に不応・不耐な患者に用いること、そして、MSDのIsentress(raltegravir、和名アイセントレス)を2歳以上の青少年HIV患者に用いることが支持された。

リンク:バイエルのプレスリリース

リンク:アボットのプレスリリース

CHMPはGE薬の審査も担当している。10月はノバルティスの慢性骨髄性白血病治療薬、Gleevec(imatinib、和名グリベック)のGE品が初めて肯定的意見を得た。テバの製品だ。日本の特許は2014年に失効する模様だが、欧州は2016年まで有効なので、発売は遅れそうだ。2000年代に承認された多くの薬の中でもずばぬけて優れた薬だが、値段も高いので、GE薬を待望する保険機関や患者が多いだろう。

一方、肯定的意見を獲得できなかったのがヴィーヴァス(Nasdaq: VVUS)の体重管理用コンビ薬、Qsiva(phentermine、topiramate ER)だ。肥満症の短期治療薬として米国などで承認されているphentermineは心拍影響があるため、欧州では承認が取り消された国もある。topiramateは癲癇の治療や偏頭痛予防に承認されているが、中枢神経作用剤なので当然、中枢神経系副作用を持ち、催奇性もありそうだ。

Qsivaは配合量を抑えているが、CHMPはこれらの副作用を懸念した模様。ヴィーヴァスは9月に肯定的意見を受けられそうにないことを発表している。ヴィーヴァスは異議申立を行って、違う国の委員による再審査を請求する考え。

リンク:ヴィーヴァスのプレスリリース

また、ドイツのMerz Pharmaceuticalsがデンマークのルンドベックと開発したmemantineとdonepezilの合剤も支持されなかった。中高度アルツハイマー病で両方の薬を併用している患者向けに承認申請したが、複数の併用試験のうち一部しか成功しなかったことや、memantineを服用している患者に追加投与する効用が明らかでないことなどがボトルネックとなった。

両社は既に併用している患者がスイッチする薬として申請することで裏口承認を取ろうとしたのかもしれないが、CHMPは正面から併用療法の有効性を問い、両社は、十分なエビデンスを提示することができなかった。併用療法を喧伝している学者はこのニュースを直視できないだろう。

【承認】


硝子体黄斑癒着硝子治療薬が承認

(2012年10月18日)

ベルギーのThromboGenics(Euronext Brussels: THR)が開発したJetrea(ocriplasmin)が米国で症候性硝子体黄斑癒着の治療薬として承認された。硝子体に一回、注射する。臨床試験では2-3割の患者で症状が消散した(シャム群は10%前後)。

硝子体黄斑癒着は硝子体のゲルが黄斑と癒着、穴が開くこともある。患者数は50万人と推測されている。Jetreaはヒト・プラスミンの一部を除去して短縮したもの。米国外の権利はノバルティスのアルコン部門が保有している。

リンク:ThromboGenicsのプレスリリース

今週は以上です。

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